(令和2年4月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)がその所有する土地について賃料及び賃料相当損害金等の収入があったにもかかわらず確定申告をしなかったとして、所得税等及び消費税等の決定処分並びに無申告加算税の賦課決定処分を行うとともに、帳簿書類の不備を理由に所得税の青色申告の承認の取消処分を行ったところ、請求人が、原処分庁が決定した各年分の不動産所得に係る総収入金額及び課税資産の譲渡等の対価の額に誤りがあるなどとして、原処分の全部又は一部(請求人の主張する税額を超える部分)の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は別紙9のとおりである。なお、別紙9で定義した略語については、以下、本文及び別表においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 以下では、所得税及び復興特別所得税を「所得税等」といい、消費税及び地方消費税を「消費税等」という。また、所得税等に係る平成25年分から平成29年分までの各年分を併せて「本件各年分」といい、消費税等の各課税期間につきその暦年をもって表記し(例えば、平成25年1月1日から同年12月31日までの課税期間を「平成25年課税期間」という。)、平成25年課税期間から平成29年課税期間までの各課税期間を併せて「本件各課税期間」という。

  • イ 請求人
     請求人は、別表1記載の各土地(以下、別表1の順号1の土地を「本件土地1」、同表の順号2の土地を「本件土地2」といい、これらを併せて「本件各土地」という。)に係る不動産貸付業を営む個人事業者である。
     請求人は、本件土地1を昭和52年に相続を原因として、本件土地2を平成元年に売買を原因として、それぞれ取得した。
  • ロ F社
     F社は、平成○年○月○日、不動産の有効利用に関する賃貸等及びこれらに附帯する一切の事業を目的として設立された法人である。
     請求人は、F社の設立時から代表取締役を務めており、その発行済の全株式を所有している。
  • ハ 請求人は、平成23年3月14日、原処分庁に対し、平成22年7月1日から不動産所得を生ずべき業務を開始したとして、平成23年分以後の所得税の申告は青色申告書によりたいとする所得税の青色申告承認申請書を提出し、同年分以降の所得税について、青色申告の承認を受けた。
     また、請求人は、平成23年5月19日、原処分庁に対し、平成22年7月1日から土地の有効活用を内容とする事業を開業したとする個人事業の開業届出書を提出した。
  • ニ 本件各土地に係る訴訟の経過等
    • (イ) 請求人は、請求人の父であるG及び同人が代表取締役を務めるH社(以下、同人及び同社を併せて「Gら」という。)が、平成17年12月1日から平成22年4月30日までの間、請求人に無断で本件各土地を駐車場として貸し付け、賃料収入を得ていたとして、Gらに対し、賃料収入に相当する損害賠償金又は不当利得金等の支払を求め、J地方裁判所に訴訟を提起した(J地方裁判所平成○年(○)第○号〇〇〇事件)。
    • (ロ) Gらは、請求人の提起した上記(イ)の訴訟において、本件各土地の貸付けには請求人の承諾又は追認があったとして不法行為及び不当利得の成立を争うなどして、請求棄却の判決を求めたものの、J地方裁判所は、平成○年○月○日、GがH社の代表者として請求人に無断で本件各土地を貸し付けたと認定し、このことは不法行為に該当するとして、Gらに対し、本件各土地に係る平成17年12月1日から平成22年4月30日までの間の賃料相当損害金○○○○円(以下「本件損害金」という。)及び弁護士費用7,000,000円並びにこれらに対する別紙10遅延損害金目録記載の金額につき同記載の日から各支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金(うち、本件損害金に係る遅延損害金を、以下「本件遅延金」という。なお、本件遅延金は、別紙10遅延損害金目録のNo.1からNo.52、及びNo.53のうち7,000,000円を控除した○○○○円に対する遅延損害金である。)の連帯支払を命じる判決(以下「本件判決」という。)を言い渡した。
    • (ハ) Gらは、上記(ロ)の判決を不服として控訴した(K高等裁判所平成○年(○)第○号〇〇〇事件)が、平成○年○月○日、K高等裁判所は、Gらの控訴を棄却する判決を言い渡し、同判決は、同年○月○日に確定した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間に係る消費税等の各確定申告書を法定申告期限までに提出しなかった。
  • ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成30年8月28日、国税通則法(以下「通則法」という。)第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項に規定する事前通知をすることなく、請求人に対する実地の調査を開始した(以下、これにより開始された請求人に対する一連の調査を「本件調査」という。)。
  • ハ 請求人は、平成31年2月20日、L税務署において、調査担当職員から通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項に基づく本件調査に係る調査結果の説明を受け、また、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間に係る消費税等の各期限後申告の勧奨を受けたが、当該勧奨には応じず、期限後申告書をいずれも提出しなかった。
  • ニ 原処分庁は、平成31年3月6日付で、平成25年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)を行うとともに、同日付で、別表2のとおり、本件各年分の所得税等の各決定処分(以下「本件所得税各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下、本件所得税各決定処分と併せて「本件所得税各決定処分等」という。)をした。
     また、原処分庁は、平成31年3月6日付で、請求人が、本件調査において、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当するなどとして、別表3のとおり、仕入税額控除を適用せず、本件各課税期間の消費税等の各決定処分(以下「本件消費税各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下、本件消費税各決定処分と併せて「本件消費税各決定処分等」という。)をした。
  • ホ 請求人は、令和元年5月30日、本件青色取消処分の取消し、並びに本件所得税各決定処分等及び本件消費税各決定処分等の全部又は一部(請求人の主張する税額を超える部分)の取消しを求めて、審査請求をした。

2 争点

(1) 請求人に、所得税法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由があるか否か(争点1)。

(2) 本件各年分の不動産所得の金額はいくらか(争点2)。

(3) 本件各課税期間に係る消費税等の税額はいくらか(争点3)。

(4) 本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か(争点4)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(青色申告の承認の取消事由の有無)について

原処分庁 請求人
  調査担当職員は、本件調査において、請求人に対し、再三再四、調査協力及び帳簿書類の提示を要請するとともに、帳簿書類の提示がなかった場合における所得税の青色申告の承認の取消しに係る不利益についても説明した。しかるに、請求人は、帳簿書類を見せるつもりはないなどとして、帳簿書類を一切提示せず、調査担当職員の上記要請に応じなかった。
 このことからすると、請求人は、税務職員の検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて本件各年分の帳簿書類を保存していなかったものといえ、請求人には、所得税法第150条第1項第1号に規定する場合に該当する事実があるといえる。
  原処分庁の主張は争う。
 請求人が調査担当職員から要請を受けたという事実はなく、調査担当職員が、一方的に持論を展開しただけである。

(2) 争点2(本件各年分の不動産所得の金額)について

原処分庁 請求人
  本件各年分の不動産所得の金額は、別表4−1の各「本件所得税各決定処分の額」欄のとおりであり、その収入金額の具体的内容は以下のとおりである。

イ 本件損害金及び本件遅延金について

  • (イ) 所得税基本通達36−5《不動産所得の総収入金額の収入すべき時期》の(2)は、賃貸借契約の存否の係争等に係る判決により不動産の所有者が受けることとなった既往の期間に対応する賃貸料相当額は、その判決のあった日を収入すべき日とする旨定めているところ、本件損害金及び本件判決に係る控訴棄却判決の言渡し日(平成○年○月○日)までの本件遅延金(○○○○円)は、上記控訴棄却判決により、請求人がGらから支払を受けることとなったものであるから、平成25年分の不動産所得の収入金額となる。
  • (ロ) 本件判決に係る控訴棄却判決の言渡し日の翌日から本件損害金の完済まで(なお、平成28年9月26日に残額全額が弁済供託されている。)の本件遅延金は、本件各年分の12月31日(平成28年分は9月26日)時点における本件損害金の未払金に対して年5分の割合で計算した金額(平成25年分は○○○○円、平成26年分は○○○○円、平成27年分は○○○○円、平成28年分は○○○○円)が本件各年分(平成29年分を除く。)の各不動産所得の収入金額となる。
  本件各年分の不動産所得の金額は、別表4−1の各「請求人主張額」欄のとおりであり、これに反する原処分庁の主張は全て争う。なお、個別の反論は以下のとおりである。

イ 本件損害金及び本件遅延金について
 本件各土地に関する訴訟は、平成17年に起こった事件についてのものであり、既に10年以上も経過しているものであるから、請求人が時効を主張するまでもなく、本件損害金及び本件遅延金について課税することはできない。また、判決に基づく金銭の授受については非課税となるから、この点からも、本件損害金及び本件遅延金について課税することはできないというべきである。

ロ 賃料収入について

  • (イ) 平成25年1月1日から平成26年8月31日までの期間
     請求人は、平成22年6月10日付で、M社との間で、本件各土地を月額○○○○円で賃貸する旨の賃貸借契約を締結し、当該契約に基づき、平成25年には○○○○円の、平成26年には○○○○円の各賃料収入を得ており、これらは当該各年分の不動産所得の収入金額となる。
  • (ロ) 平成26年9月1日から平成29年12月31日までの期間
     請求人は、平成22年6月15日付で、F社との間で、賃貸期間を同年7月1日から平成24年6月30日まで、月額賃料を○○○○円で、本件各土地を賃貸する旨の賃貸借契約を締結した。
     そして、F社は、平成26年7月10日付で、N社との間で、本件各土地を転貸する旨の賃貸借契約を締結し、当該契約に基づき、同年9月11日から平成29年12月31日までの期間も、同社から賃料収入を得ていた。
     そうすると、請求人とF社は、上記のF社との賃貸借契約を更新していたものと推認することができる。
     よって、請求人は、平成26年9月1日以後、F社から月額○○○○円の賃料収入を得ており、平成26年には○○○○円の、平成27年から平成29年までは各○○○○円の各賃料収入を得ていたと認められ、これらは当該各年分の不動産所得の収入金額となる。

ロ 賃料収入について
 請求人は、原処分庁に対し、本件各土地に係る賃貸借契約の内容を開示していないのであるから、原処分庁が決定した不動産所得の金額には根拠がなく、誤りである。

(3) 争点3(本件各課税期間に係る消費税等の税額)について

原処分庁 請求人
  別表4−1の「本件所得税各決定処分の額」の各1欄のとおりの不動産所得に係る総収入金額に基づき算定した本件各課税期間における課税売上高は、別表4−2の「本件消費税各決定処分の額」の各1欄のとおりである。
 なお、本件損害金については、その実質が、駐車場の用に供することを目的とする本件各土地の貸付けに係る賃料であることから、課税資産の譲渡等の対価に該当するものである。
 また、請求人は、消費税法第30条第7項に規定する要件を満たしていないから、本件各課税期間の控除対象仕入税額は零円である。
 したがって、本件各課税期間に係る消費税等の税額は、別表4−2の「本件消費税各決定処分の額」の各8欄のとおりとなる。
  本件各課税期間に係る消費税等の税額等は、別表4−2の各「請求人主張額」欄のとおりであり(なお、平成27年から平成29年までの各課税期間については、請求人は、免税事業者に該当する。)、これに反する原処分庁の主張は全て争う。

(4) 争点4(本件調査の手続の違法の有無)について

請求人 原処分庁
  調査担当職員は、課税するために、請求人の言動の全てを一方的に解釈し、事実と異なる自分勝手な主張や判断をした上、調査結果の説明のとおり決定処分を行う旨宣言した。このように、本件調査は、高圧的に、最初から結論ありきでされたものであり、事実無根の全く根拠のない申告を強要するものであって、その調査手続には違法がある。   調査担当職員は、事前通知をせずに請求人の自宅を訪問し、請求人に対して税務調査を行う旨通知するとともに、速やかに調査の目的等通則法第74条の9第1項所定の通知事項を通知して、本件調査を開始し、通則法第74条の2《当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権》第1項に基づいて、請求人に対して質問検査権を行使したものであって、本件調査は適法に行われたものである。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(青色申告の承認の取消事由の有無)について

  • イ 法令解釈
     所得税法第148条第1項は、青色申告の承認を受けた者に対し、財務省令に定めるところにより、帳簿書類を備え付けて、その取引を記録すべきことに加え、税務職員が必要と判断したときに帳簿書類を検査してその内容の真実性を確認することができるような態勢の下に、帳簿書類を保存しなければならないこととしているというべきであり、青色申告者が、税務職員の通則法第74条の2の規定に基づく検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかった場合は、所得税法第148条第1項の規定に違反し、同法第150条第1項第1号所定の青色申告の承認の取消事由に該当するものと解するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 調査担当職員は、平成30年8月28日、通則法第74条の10《事前通知を要しない場合》の規定に基づき、事前通知をせずに、請求人の自宅を訪問して請求人と面談し、税務調査を行う旨通知するとともに、請求人の所得税等及び消費税等の申告内容の調査であること等通則法第74条の9第1項所定の通知事項を通知した上、税務調査の受忍義務について説明を行い、調査協力及び本件各年分の申告の基礎となるべき帳簿書類の提示を要請したが、請求人は、金がないから申告する必要はない、帳簿書類を見せる必要はない、推計課税をしてもらって構わないなどとの申述を繰り返すのみで、調査担当職員の上記要請に応じなかった。
    • (ロ) 調査担当職員は、平成30年8月31日及び同年10月25日、請求人の自宅を訪問して請求人と面談し、再度、調査協力及び帳簿書類の提示を要請したが、請求人は、上記(イ)と同様の申述を繰り返したほか、目が悪く小さい文字や数字が見えないから記帳はできていない、領収書は整理できておらず、どこにあるかも分からない、今から帳簿を作成するなどと申述し、調査担当職員の上記要請に応じなかった。
    • (ハ) 調査担当職員は、平成30年11月20日、同年12月14日、同月20日及び平成31年1月17日、請求人の自宅を訪問したが、請求人が不在であったことから、いずれの日においても、帳簿書類の提示を要請する旨及び設定した期日までに調査担当職員への連絡を求める旨等を記載した連絡せんを自宅の玄関口にある郵便受けに投かんしたが、請求人からの連絡はなかった。
    • (ニ) 調査担当職員は、平成31年2月15日、請求人の自宅を訪問したが、請求人が不在であったことから、同月20日の午後3時にL税務署への来署を求める旨記載した連絡せんを自宅の玄関口にある郵便受けに投かんした。
    • (ホ) 調査担当職員は、平成31年2月20日、L税務署に来署した請求人に対し、請求人の事業内容、F社との契約関係、Gらから本件損害金及び本件遅延金を受領するに至った経緯等について回答を求めたところ、請求人は、正確に回答するための資料等を持ち合わせていない、当該資料を確認した上でないと回答できない、当日と翌日しか休暇がなく、翌日は予定があり対応できないなどと申述した。そこで、調査担当職員は、請求人に対し、説明文書を使用して、本件調査の結果説明を行い、同月28日を期限として期限後申告を勧奨したが、結局、請求人は、期限後申告書を提出しなかった。
  • ハ 検討
     上記1の(3)のハのとおり、請求人は、不動産所得について青色申告の承認を受けていたが、上記ロのとおり、調査担当職員の再三再四の要請にもかかわらず、一切帳簿書類を提示しなかったのであるから、税務職員の検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて帳簿書類を保存していなかったものというほかなく、平成25年において、所得税法第150条第1項第1号所定の青色申告の承認の取消事由が認められる。

(2) 争点2(本件各年分の不動産所得の金額)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 所得税法第36条第1項は、各種所得の金額の基礎となる収入金額について「その年において収入すべき金額」と規定しているところ、「収入すべき金額」と定め、「収入した金額」としていないことから考えると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、上記権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される(最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁参照)。
       そして、収入の原因となる権利が確定する時期は、それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである(最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判決・民集32巻1号43頁参照)。
    • (ロ) 所得税法第37条第1項の規定に照らせば、不動産所得の必要経費に該当するためには、その費用が、客観的にみて、不動産所得を生ずべき業務との関連性を有するだけでなく、業務の遂行上必要であることを要し、更にその必要性の判断においては、単に当該業務を行うものの主観的判断によるのではなく、社会通念に従って客観的に行われるべきである。
       また、所得税法第45条第1項第1号及び所得税法施行令第96条《家事関連費》第1号の規定に照らせば、家事費については、不動産所得の金額の計算上必要経費には該当せず、家事関連費についても、不動産所得の金額の計算上必要経費に該当するためには、当該費用が業務と何らかの関連があるというだけでは足りず、その主たる部分が不動産所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないというべきである。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人とM社(なお、平成23年5月の事業承継により、P社がM社の契約上の地位を承継した。以下、事業承継の前後を問わず、借主を「P社」とのみ表記する。)は、平成22年6月10日、要旨、次のとおりの内容で、請求人がP社に対して本件各土地を賃貸する旨の賃貸借契約(以下「本件P社賃貸借契約」という。)を締結し、P社は、本件P社賃貸借契約に基づき、同年7月1日以降、本件各土地を時間貸し駐車場等の運営のために使用した。
      • A 契約期間  平成22年7月1日から平成24年6月30日までの2年間
      • B 賃料  月額金○○○○円(消費税等を含む。)
      • C 賃料支払期日及び支払方法
         毎月末日限り翌月分を請求人名義の指定口座に振り込む方法により支払う。
    • (ロ) 請求人は、平成23年5月19日、原処分庁に対し、上記1の(3)のハの個人事業の開業届出書とともに、平成22年6月15日付の請求人とF社間の本件土地1に係る賃貸借契約書(以下「本件契約書」という。)を提出した。
       本件契約書には、請求人が、F社に対し、要旨、次のとおりの内容で、本件土地1を賃貸する旨が記載されていた。
      • A 契約の存続期間  平成22年7月1日から平成24年6月30日まで
         ただし、残存期間満了の際は、3か月程度の猶予をもって双方協議の上、この期間を延長することができる。
      • B 賃料  月額○○○○円
    • (ハ) 本件P社賃貸借契約は、平成24年7月1日、同契約の条項に基づき、同一内容で更新された。
    • (ニ) 本件P社賃貸借契約は、請求人による平成26年5月29日付の解約通知書の送付により、同年8月31日をもって終了した。
    • (ホ) 請求人は、本件P社賃貸借契約に基づき、平成22年6月30日から平成26年7月31日までの間、P社から、平成22年7月分から平成26年8月分までの賃料として、毎月○○○○円を、請求人名義の口座への振込みにより受領した。
    • (へ) P社は、本件P社賃貸借契約の契約期間内において、本件各土地の既設アスファルト路面の一部舗装工事とフェンスの設置工事を行い、請求人は、P社からフェンス設置工事代金の請求を受け、450,000円を支払った。
    • (ト) F社とN社(平成28年4月の商号変更前はQ社。以下、この商号変更の前後を通じて「N社」という。)は、平成26年7月10日、要旨、次のとおりの内容で、請求人がN社に対して本件各土地を賃貸する旨の賃貸借契約(以下「本件N社賃貸借契約」という。)を締結し、N社は、本件N社賃貸借契約に基づき、同年9月11日以降、本件各土地を時間貸し駐車場等の運営のために使用した。
      • A 契約期間  平成26年9月11日から平成29年9月10日までの3年間
      • B 賃料  月額金○○○○円(消費税等別)
      • C 賃料支払期日及び支払方法
         毎月末日限り翌月分をF社名義の指定口座に振り込む方法により支払う。
    • (チ) F社とN社は、平成27年9月30日、本件N社賃貸借契約について、賃料を同年10月1日から月額○○○○円(消費税等別)に変更する旨合意した(以下「本件変更合意1」という。)。
    • (リ) F社とN社は、平成29年4月12日、本件N社賃貸借契約について、賃料を同年5月1日から月額○○○○円(消費税等別)に、契約期間を同日から平成31年4月30日までに、それぞれ変更する旨合意した(以下「本件変更合意2」という。)。
    • (ヌ) F社は、本件N社賃貸借契約に基づき、平成26年8月29日から平成29年11月30日までの間、N社からの賃料(本件変更合意1及び本件変更合意2締結後は各変更後の賃料)を、F社名義の口座への振込みにより受領した。
    • (ル) 本件N社賃貸借契約は、平成29年12月31日、合意解約により終了した。
    • (ヲ) 本件各土地に係る固定資産税及び都市計画税の合計金額は、平成25年分から平成28年分までは○○○○円、平成29年分は○○○○円であった。
  • ハ 検討
    • (イ) 本件損害金について
       上記のイの(イ)のとおり、所得税法は権利確定主義を採用しており、収入の原因となる権利が確定する時期はそれぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである。
       そして、本件損害金は、上記1の(3)のニのとおり、Gが請求人に無断で本件各土地を貸し付けたという不法行為に基づく、平成17年12月1日から平成22年4月30日までの間の賃料収入に相当する損害賠償金であるところ、当該権利の性質及び内容、Gらの応訴態度、並びに本件判決に係る訴訟における審理の内容(当審判所の調査及び審理の結果によれば、Gらが本件各土地を賃貸するについて請求人の黙示の承諾又は追認があったかが争点とされ、請求人とGにおける親子間の信頼関係の有無やそれが失われた経緯等が審理されたことが認められる。)等からすると、本件損害金は、Gらに本件損害金の支払を命じる本件判決が確定するまでは、その権利の有無を正確に判断することは困難であり、請求人に本件損害金に関し確定申告及び納税を強いることは相当でなく、課税庁が独自の立場でその認定をすることも相当ではないと考えられる。したがって、本件損害金は、平成○年○月○日の本件判決の確定をもって収入の原因となる権利が確定したと解するのが相当である。
       そうすると、本件損害金○○○○円は、本件判決が確定した平成25年分の不動産所得の総収入金額に計上すべき金額となる。
    • (ロ) 本件遅延金について
       本件遅延金は、その元本が弁済されるまで日々発生し、発生と同時に弁済期日が到来するところ、本件遅延金のうち、本件判決確定の日(平成○年○月○日)までの遅延損害金については、本件損害金と同様に、本件判決の確定をもって収入の原因となる権利が確定したというべきであるから、同日をもって収入すべき時期とし、本件判決確定の日の翌日(同月○日)以降の遅延損害金については、日々発生すると同時に確定するというべきであるから、当該遅延損害金の発生の日をもって収入すべき時期とするのが相当である。
       そうすると、本件遅延金のうち、本件判決確定の日(平成○年○月○日)までの遅延損害金については、本件判決が確定した平成25年分の不動産所得の総収入金額に計上すべきであり、本件判決確定の日の翌日から各元本(本件損害金)の弁済の効果が発生した日までの当該各元本(一部弁済等があったものについては残元本)に対する遅延損害金については、日々発生する遅延損害金の当該発生した日の属する各年分の不動産所得の総収入金額に計上すべきである。
       以上を前提に、当審判所において、その調査及び審理の結果を踏まえ、本件各年分の不動産所得の総収入金額に計上すべき本件遅延金の金額を算定すると、別表5−1の「不動産所得に係る収入金額」欄の「内訳」欄の「本件遅延金」欄の各年分の各「審判所認定額」欄の金額となる。
    • (ハ) 本件各土地に係る賃料収入について
      • A 本件P社賃貸借契約に係る賃料収入
         上記ロの(イ)及び(ハ)から(ホ)までのとおり、請求人は、本件P社賃貸借契約に基づき、平成22年6月30日から平成26年7月31日までの間、P社から、本件各土地に係る賃料として毎月○○○○円(消費税等含む。)を受領していたことが認められる。
         そうすると、平成25年分及び平成26年分の不動産所得の総収入金額として計上すべきP社からの賃料収入の金額は、別表5−1の「不動産所得に係る収入金額」欄の「内訳」欄の「P社」欄の各年分の各「審判所認定額」欄の金額となる。
      • B 平成26年9月から平成29年12月までの期間の本件各土地に係る賃料収入
         原処分庁は、平成26年9月から平成29年12月までの期間の収入について、上記3の(2)の「原処分庁」欄のロの(ロ)のとおり、請求人とF社との間には、賃貸期間を平成22年7月1日から平成24年6月30日まで、月額賃料を○○○○円とする賃貸借契約が存在し、F社は、平成26年9月11日から平成29年12月31日までの期間、N社に対して本件各土地を転貸し、同社から賃料収入を得ていたことからすると、請求人とF社は、上記賃貸借契約を更新していたものと推認することができ、したがって、請求人は、当該期間において、毎月○○○○円の収入を得ていたと主張する。
         確かに、上記ロの(ロ)及び1の(3)のハのとおり、請求人は、請求人とF社との賃貸借契約の存在を示す本件契約書を原処分庁に提出し、これとともに個人事業の開業届出書を原処分庁に提出して以後、事業を廃業したことを示す証拠はないこと、上記ロの(ト)から(ル)のとおり、F社も、平成26年9月11日から平成29年12月31日までの間、本件N社賃貸借契約を締結し、現に賃料収入を得ていること、請求人自身、平成26年分から平成29年分の賃料収入について、別表4−1の「請求人主張額」欄のとおり主張し、賃料として同額を記載した各年分の確定申告書用紙及び収支内訳書用紙等を証拠として提出するなど、当該各年分において、F社から本件各土地に係る賃料収入を得ていたことを認めていることからすると、少なくとも平成26年9月から平成29年12月までの間、請求人とF社との賃貸借契約が存在していたものと認められる。
         しかしながら、請求人とF社との賃貸借契約の内容につき、上記ロの(ロ)のとおり、本件契約書に記載の契約期間は平成22年7月1日から平成24年6月30日までであり、それ以後の期間において賃貸借契約の内容を示す契約書等の客観的証拠はない。また、上記ロの(チ)から(ヌ)のとおり、本件変更合意1及び同合意2により、平成27年10月1日以降、F社が本件各土地の賃料として得る金額は毎月○○○○円を下回ったところ、収支がマイナスとなるにもかかわらず、F社の代表取締役である請求人が、あえてF社に損失を与えてまで、本件契約書に記載の賃料を維持していたと考えるのは、経済取引として相当不自然である。そうすると、平成26年9月から平成29年12月までの期間の上記の請求人とF社との賃貸借契約が、賃料も含めて本件契約書に記載の条件と同一内容で更新されたものであったと認めることはできない。
         そして、請求人は、請求人とF社との賃貸借契約の平成26年分から平成29年分の賃料収入について、上記のとおり、主張及び証拠の提出をしていることからすると、平成26年9月から平成29年12月までの本件各土地に係る賃料収入として、少なくとも上記別表4−1の「請求人主張額」欄の賃料収入があったと認めるのが相当であり、他方で、これを上回る賃料収入があったことを認めるに足りる証拠はない。
         以上からすると、平成26年分から平成29年分の各年分において不動産所得の総収入金額に計上すべきF社からの賃料収入の金額は、別表5−1の「不動産所得に係る収入金額」欄の「内訳」欄の「F社」欄の各「審判所認定額」欄の金額となる。
    • (ニ) 本件各年分の不動産所得に係る必要経費について
      • A 減価償却費について
         上記イの(ロ)のとおり、不動産所得の必要経費に該当するためには、その費用が業務の遂行上必要であり、その必要性の判断は客観的に行われなければならないところ、本件各土地に存する減価償却資産は、上記ロの(ヘ)のとおり、請求人が設置費用を負担したフェンス以外には業務の遂行上必要な減価償却資産の存在は認められない。
         そうすると、本件各年分の不動産所得に係る必要経費に算入される減価償却費の金額は、本件各土地に設置したフェンスを耐用年数15年、償却期間12か月として算出した30,150円となる。
      • B 租税公課について
         本件各土地に係る固定資産税及び都市計画税は、本件各年分の不動産所得に係る必要経費に算入されるべき租税公課であり、その金額は、上記ロの(ヲ)のとおり、平成25年分から平成28年分までは○○○○円、平成29年分は○○○○円である。
    • (ホ) 小括
       以上を前提に、本件各年分の不動産所得の金額を計算すると、別表5−1の「不動産所得の金額」欄の各年分の各「審判所認定額」欄の金額となる。
  • ニ 請求人の主張
     以上に対し、請求人は、本件各土地に関する訴訟は、平成17年に起こった事件についてのものであり、既に10年以上も経過しているものであるから、請求人が時効を主張するまでもなく課税することはできない旨、判決に基づく金銭の授受については非課税となるから本件損害金及び本件遅延金について課税することはできない旨主張する。
     しかしながら、所得税法は、上記イの(イ)のとおり、権利確定主義を採用しており、上記ハの(イ)のとおり、本件損害金については、本件判決の確定をもって、収入の原因となる権利が確定したと解するのが相当であり、平成25年分において課税されるべきものであるから、時の経過を理由に課税されないとする請求人の主張は採用することができない。また、判決に基づく金銭の授受が非課税になると解釈する法令上の根拠はなく、請求人の主張は独自の見解を述べるものにすぎず、採用することができない。
     また、請求人は、車両の減価償却費を必要経費に算入すべきである旨主張する。
     しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、車両の減価償却費が必要経費に該当するというためには、当該費用が業務と何らかの関連があるというだけでは足りず、少なくとも、その主たる部分が不動産所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないというべきであるところ、請求人が使用している車両の具体的な使用の方法や頻度等を明らかにする証拠はないから、請求人主張の車両の減価償却費を必要経費に算入することはできない。

(3) 争点3(本件各課税期間に係る消費税等の税額)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 消費税法基本通達5−2−5は、損害賠償金について、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する旨定めているところ、資産の譲渡等の対価に該当するかどうかは、消費に対して税負担を求める消費税の性格に照らして、その名称のいかんにかかわらず、消費を観念することができるか否かをその実質によって判定すべきものであるから、同通達の定めは当審判所においても相当と認められる。
    • (ロ) 消費税法第30条第7項によれば、事業者が帳簿及び請求書等を保存していない場合には仕入税額控除が適用されないことになるが、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、公平に資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、帳簿及び請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判断されたためであると考えられる。
       以上によれば、事業者が、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項に規定するとおり、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法第74条の2第1項に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、消費税法第30条第7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等…を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条第1項の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については、適用されないものというべきである(最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決・民集58巻9号2458頁参照)。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、平成12年頃、Gが代表取締役を務めるR社に対し、R社が本件各土地を賃貸に供することを承諾した。R社は、平成12年12月28日、第三者との間で、使用目的を貸駐車場とする賃貸借契約を締結し、本件各土地及びG所有土地を当該第三者に転貸した。
    • (ロ) Gは、上記(イ)のとおり締結したR社と第三者との賃貸借契約における賃貸人を、請求人に無断で、R社からH社へ変更した。
    • (ハ) 本件各土地は、平成22年4月30日、H社と第三者との賃貸借契約の終了により、既設のアスファルト設備を撤去することなく請求人に返還された。
    • (ニ) 上記(ハ)のアスファルト設備及び上記(2)のロの(ヌ)のフェンスは、本件N社賃貸借契約の終了時(平成29年12月31日)まで撤去されることはなかった。
  • ハ 検討
    • (イ) 本件損害金の課税資産の譲渡等の対価該当性について
       損害賠償金が資産の譲渡等の対価に該当するか否かについては、上記イの(イ)のとおり、その実質によって判定すべきものであるところ、確かに、本件損害金は、上記1の(3)のニの(ロ)のとおり、GがH社の代表者として請求人に無断で本件各土地を第三者に貸し付けたという不法行為により、請求人の本件各土地の占有が侵害されたとして、Gらから請求人に支払われるべき賃料相当損害金であるから、その実質は、本件各土地を占有したことに対する対価、すなわち、資産の貸付けの対価というべきものである。
       しかしながら、他方で、上記ロの(イ)のとおり、請求人は、R社に対して本件各土地を賃貸に供することを承諾していたにすぎず、請求人が駐車場設備を自ら設置したことを認めるに足りる証拠はないことから、本件損害金が、Gらが第三者に駐車場として貸し付けていた対価の額を基礎として計算されていたとしても、本件損害金の実質は、駐車場施設の利用に伴って土地が使用されたことの対価と評価することはできない。
       そうすると、本件損害金は、その実質からみて資産の譲渡等の対価に該当するとしても、課税資産の譲渡等の対価には該当しないというべきである。
       これに反する原処分庁の主張は採用することができない。
    • (ロ) 本件各課税期間における本件各土地の貸付けの課税資産の譲渡等該当性について
       消費税法施行令第8条によると、土地の貸付けであっても、それが駐車場という施設の利用に伴って土地が使用されるものであれば、消費税の課税対象となる。
       そして、上記(2)のロの(ヘ)、上記ロの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件P社賃貸借契約の締結時から、本件各土地にはアスファルト敷が存在し、当該契約の期間中に請求人の負担においてフェンスが設置され、本件N社賃貸借契約が終了するまでこれらの設備は撤去されていなかったことから、本件各課税期間において、本件各土地は、駐車場としての用途に応じる地面の整備、フェンスの設置がされた状態で、P社又はF社に貸し付けられていたものと認められる。
       そうすると、本件各課税期間における本件各土地の貸付けは、駐車場という施設の利用に伴って土地が使用されるものであり、課税資産の譲渡等に該当する。
    • (ハ) 仕入税額控除について
       上記イの(ロ)のとおり、事業者が、税務職員による検査に当たって適時に帳簿等を提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合には、仕入税額控除が適用されないところ、上記(1)のロのとおり、請求人は、調査担当職員から帳簿等を提示するよう再三再四要請されたにもかかわらず、帳簿等を見せる必要はない、今から帳簿等を作成するなどと申述して、帳簿等を提示しなかったのであるから、税務職員の検査に当たって適時に帳簿等を提示することが可能なように態勢を整えて帳簿等を保存していなかったものと認められる。また、請求人が帳簿等を保存しなかったことについて、やむを得ない事情は認められない。
       したがって、仕入税額控除は適用できない。
    • (ニ) 小括
       以上を前提に、本件各課税期間に係る消費税等の課税標準額及び税額を計算すると、別表5−2の各課税期間の「審判所認定額」欄の金額となる。
  • ニ 請求人の主張について
     以上に対し、請求人は、本件各課税期間に係る消費税等の税額等は、別表4−2の各「請求人主張額」欄のとおりであり、これに反する原処分庁の主張は全て争う旨主張する。
     しかしながら、請求人は、その主張する金額の具体的根拠を明らかにしない上、当該金額に係る証拠も提出せず、当審判所の調査の結果によっても、上記ハの(ニ)の認定を左右するに足りる証拠はない。
     したがって、請求人の主張は採用することができない。

(4) 争点4(本件調査の手続の違法の有無)について

  • イ 法令解釈
     通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはなるものではなく、課税処分の基礎となる証拠収集手続に、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなど重大な違法があり、何らの調査なしに課税処分を行ったに等しいとの評価を受ける場合に限り、その違法が処分の取消事由となり得るものと解するのが相当である。
  • ロ 検討
     請求人は、調査担当職員は、課税するために、請求人の言動の全てを一方的に解釈し、事実と異なる自分勝手な主張や判断をした上、調査結果の説明のとおり決定処分を行う旨宣言したのであって、このように、本件調査は、高圧的に、最初から結論ありきでされたものであり、全く根拠のない申告を強要するものであって、その調査手続には違法がある旨主張する。
     しかしながら、請求人は、調査手続の違法の根拠となる事実を具体的に指摘しないし、本件調査の経過は、上記(1)のロのとおりであって、請求人が主張するような一方的かつ高圧的なものであったとも認められず、調査担当職員が期限後申告を強要した事実も認められない。その他、当審判所の調査によっても、本件調査において、上記イのような証拠収集手続に重大な違法があったとは認められないから、請求人の主張は理由がない。

(5) 原処分の適法性について

  • イ 本件青色取消処分について
     上記(1)のハのとおり、平成25年分において、所得税法第150条第1項第1号所定の青色申告の承認の取消事由が認められ、また、本件青色取消処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件青色取消処分は適法である。
  • ロ 本件所得税各決定処分について
    • (イ) 平成25年分について
       上記(2)のハのとおり、平成25年分の不動産所得の金額は、別表5−1の「不動産所得の金額」欄の各「審判所認定額」欄の金額となり、総所得金額もこれと同額になる。そして、当該総所得金額に基づき平成25年分の所得税等の納付すべき税額を計算すると、○○○○円となり(なお、本件損害金及び本件遅延金のうち本件判決の確定日までの遅延損害金は、その計算の基礎とされた期間が3年以上であることから臨時所得に該当するが、請求人は確定申告書等を提出していないことから、所得税法第90条《変動所得及び臨時所得の平均課税》第1項の規定の適用はない。)、原処分における額(○○○○円)を上回る。
       そして、平成25年分の所得税等の決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、平成25年分の所得税等の決定処分は適法である。
    • (ロ) 平成26年分から平成29年分までについて
       上記(2)のハのとおり、平成26年分から平成29年分までの不動産所得の金額は、別表5−1の各「不動産所得の金額」欄の各年分の各「審判所認定額」欄の金額となり、総所得金額もこれと同額になる。そして、当該総所得金額に基づき平成26年分から平成29年分までの所得税等の納付すべき税額を計算すると、それぞれ別紙1から別紙4までの各「4 課税標準等及び税額等の計算」の「差引納付すべき税額又は減少(△印)する税額」欄の「裁決後の額」欄の額となり、いずれの金額も原処分における額を下回る。
       そして、平成26年分から平成29年分までの所得税等の各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これらを不相当とする理由は認められない。
       したがって、平成26年分から平成29年分までの所得税等の各決定処分は、いずれもその一部を別紙1から別紙4までのとおり取り消すべきである。
  • ハ 本件所得税各決定処分に係る無申告加算税の各賦課決定処分について
    • (イ) 平成25年分について
       上記ロの(イ)のとおり、平成25年分の所得税等の決定処分は適法であり、また、通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項及び同条第2項に基づきなされた同年分の所得税等の決定処分に係る無申告加算税の賦課決定処分は適法である。
    • (ロ) 平成26年分から平成29年分までについて
       上記ロの(ロ)のとおり、平成26年分から平成29年分までの所得税等の各決定処分の一部がそれぞれ取り消されることに伴い、無申告加算税の基礎となる税額は、別紙1から別紙4までの各「付表」の「加算税の基礎となる税額」欄の「裁決後の額」欄の額となる。そして、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
       したがって、請求人の平成26年分から平成28年分までの所得税等の各決定処分に係る無申告加算税の額は、別紙1から別紙3までの各「付表」の「加算税の額」欄の「裁決後の額」欄の額となるところ、当該金額はいずれも原処分における無申告加算税の額を下回るから、平成26年分から平成28年分までの所得税等の各決定処分に係る無申告加算税の各賦課決定処分はいずれもその一部を別紙1から別紙3までのとおり取り消すべきである。
       また、平成29年分の所得税等の決定処分に係る無申告加算税の額は、通則法第66条第1項の規定により計算すると○○○○円となるところ、同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、無申告加算税の額が5,000円未満であるときにはその全額を切り捨てることとなり、別紙4の「付表」の「加算税の額」欄の「裁決後の額」欄のとおり○○○○円となるので、平成29年分の所得税等の決定処分に係る無申告加算税の賦課決定処分は、別紙4のとおりその全部を取り消すのが相当である。
       なお、平成27年分及び平成28年分の所得税等の各決定処分に係る無申告加算税の賦課決定処分において適用された内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「国送法」という。)第6条の3《財産債務に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》第2項の規定は、当該各年分の請求人の総所得金額の合計額が2,000万円を超えないことから適用されない。
  • ニ 本件消費税各決定処分について
     上記(3)のハのとおり、本件各課税期間の課税標準額及び税額等は、別表5−2の各課税期間の「審判所認定額」欄の額となり、いずれも原処分における額を下回る。また、平成29年課税期間は、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定により免税事業者となる。
     そして、平成25年課税期間から平成28年課税期間までの消費税等の各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これらを不相当とする理由は認められない。
     したがって、平成25年課税期間から平成28年課税期間までの消費税等の各決定処分は、いずれもその一部を別紙5から別紙8までのとおり取り消すべきであり、平成29年課税期間の消費税等の決定処分は、違法であるから、その全部を取り消すべきである。
  • ホ 本件消費税各決定処分に係る無申告加算税の各賦課決定処分について
     上記ニに基づき算出した平成25年課税期間から平成28年課税期間までの消費税等の各決定処分に係る無申告加算税の金額は、それぞれ別紙5から別紙8までの各「加算税の額の計算」の「加算税の額」欄の「無申告加算税の額」欄の「裁決後の額」欄の額となり、いずれも原処分における額を下回る。
     したがって、平成25年課税期間から平成28年課税期間までの消費税等の各決定処分に係る無申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙5から別紙8までのとおり取り消すべきである。また、平成29年課税期間の消費税等の決定処分に係る無申告加算税の賦課決定処分は、当該決定処分が違法であるから、その全部を取り消すべきである。

(6) 結論

よって、本件審査請求のうち、本件青色取消処分並びに平成25年分の所得税等の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分に係る審査請求はいずれも理由がないから棄却し、その他の審査請求はいずれも理由があるから、原処分の全部又は一部を取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る