(令和3年3月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税等について、請求人が所得税法上の居住者に該当し、外国子会社合算税制を適用するなどして所得税等の各決定処分及び各再更正処分並びに無申告加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、非居住者であること等を理由に、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

別紙のとおりである。なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の職業等
     請求人は、平成11年6月14日にG1社の、同月15日にG2社の、平成22年6月8日にG3社の、平成28年11月○日に同日設立されたG4社の代表取締役にそれぞれ就任し、平成25年から平成29年(以下「本件各年」という。)において(ただし、G4社については設立以降)、これらの各法人の代表取締役を務めていた。上記4法人は、いずれもa市b町○−○に本店所在地を置く内国法人である(以下、上記4法人を併せて「本件各内国法人」という。)。
     また、請求人は、本件各年において、中華人民共和国香港特別行政区(以下「香港」という。)において設立されたG5社及びG6社(以下、G5社と併せて「香港2法人」という。)並びに中華人民共和国(以下「中国」という。)広東省において設立されたG7社の役員を務めており、これらの外国法人及びベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」という。)において設立されたG8社(以下、香港2法人及びG7社と併せて「本件各外国法人」という。)の株式の99.99パーセントを直接又は間接保有していた。
  • ロ 請求人の国内滞在先の状況
     請求人は、本件各年において、日本国内に滞在中は、主に、a市b町○−○、○所在の家屋番号○○○○の建物(住居表示は○−○。以下「本件国内滞在先」という。)に滞在していた。本件国内滞在先は、平成24年8月5日に新築された○階建ての建物で、同月24日、種類を事務所、居宅及び車庫とし、所有者をG1社とする旨の所有権保存登記がされた。
     なお、本件国内滞在先が所在する土地(b町○−○及び同○の土地)は、平成20年2月28日、売買を原因としてG1社に所有者移転登記がされ、平成25年9月30日、売買を原因として同社から請求人に所有権移転登記がされた。
  • ハ 請求人の国外滞在先の状況
     G5社は、香港に所在するH○○○○号室(以下「本件香港滞在先」という。)を、少なくとも平成25年5月15日から平成30年5月14日までの間、1年ごとの契約で賃借し、宿泊者として請求人、請求人の弟であるE2及び香港2法人の取締役であるE3の3名を登録していた。
  • ニ 本件各外国法人の平成25年3月31日における株式の状況
    • (イ) 請求人は、G5社の株式を9,999株、E2は、残りの1株を保有していた。
    • (ロ) G5社は、G6社及びG7社の全株式を保有していた。
    • (ハ) G6社は、G8社の全株式を保有していた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、自身が所得税法第2条第1項第5号に規定する非居住者に該当すると判断して、本件各年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、いずれもその法定申告期限内に確定申告書を提出しなかった。
  • ロ J国税局所属の調査担当職員は、平成29年11月6日、通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項に規定する事前通知を行った上、同月21日、請求人に対する実地の調査を開始した(以下、同日に開始した請求人に対する後記ハの各決定処分に係る一連の調査を「本件調査」といい、本件調査に従事するJ国税局及び原処分庁所属の調査担当職員を「本件調査担当職員」という。)。
     なお、本件調査担当職員は、同日、G1社に対する法人税の税務調査も開始した。
  • ハ 原処分庁は、本件調査に基づき、請求人が所得税法第2条第1項第3号に規定する居住者に該当するとして、請求人に対し、平成31年3月1日付で、別表1の「決定処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分をした。
     なお、原処分庁は、平成25年分の所得税等の決定処分においては、G6社が請求人に係る特定外国子会社等に該当し、措置法第40条の4第1項に規定する適用対象金額を有するとして、同項により計算した金額につき、請求人の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入した。
  • ニ 請求人は、令和元年5月24日、上記ハの各処分に不服があるとして、別表1の「再調査請求」欄のとおり、再調査の請求をした。
  • ホ 再調査審理庁は、令和元年8月21日付で、別表1の「再調査決定」欄のとおり、棄却の再調査決定をした。
  • ヘ 請求人は、令和元年9月17日、再調査決定を経た後の上記ハの各処分の全部に不服があるとして、審査請求をした。
  • ト 原処分庁は、請求人に対し、令和2年2月28日付で、別表1の「再更正処分等」欄のとおり、平成26年分から平成29年分までの所得税等の各再更正処分(以下「本件各再更正処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下、平成31年3月1日付でされた上記ハの各賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     なお、原処分庁は、本件各再更正処分においても、G6社が請求人に係る特定外国子会社等に該当し、措置法第40条の4第1項に規定する適用対象金額を有するとして、同項により計算した金額につき、請求人の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入した。
  • チ 請求人は、令和2年8月13日、上記トの各処分の全部に不服があるとして審査請求をし、また、同年9月18日、上記審査請求に係る新型コロナウイルス感染症の影響による不服申立期間の期限延長申請をした。
     当審判所は、上記審査請求に係る不服申立ての期限について、請求人の場合、新型コロナウイルス感染症の影響を理由とするやむを得ない理由により法定の期限までに審査請求をすることができなかったものと認め、通則法第11条《災害等による期限の延長》に基づき令和2年8月13日まで延長の上、上記審査請求を適法な審査請求として受理した。
     そこで、上記審査請求と上記ヘの審査請求について併合審理する。

2 争点

(1) 本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか(争点1)。

(2) 請求人は、所得税法第2条第1項第3号に規定する居住者に該当するか(争点2)。

(3) 請求人の本件各年分の所得税等の額の計算上、本件適用除外規定が適用されるか(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか)について

請求人 原処分庁
本件調査には、以下のとおり、原処分を取り消すべき違法がある。 本件調査には、以下のとおり、原処分を取り消すべき違法はない。
イ 本件調査の態様について イ 本件調査の態様について
(イ) 本件調査担当職員は、平成29年11月22日及び平成30年3月27日の2回、又は、同年2月21日、請求人の承諾もなく強権的にG1社の事務所内を調査し、同事務所の女性従業員の私物まで検査した。このように、本件調査担当職員は、任意調査の範囲を逸脱した違法な調査を行った。 (イ) 本件調査担当職員が本件調査においてG1社の事務所内の確認調査を行ったのは平成30年3月27日のみであるところ(なお、同年2月21日にG1社を納税義務者とする上記事務所の調査は行われた。)、本件調査担当職員は、香港2法人の申告書等関係書類の保存状況を確認する必要があると判断し、請求人の承諾及び立会いの下で、上記事務所内の社長室の書類棚の確認調査を行っており、請求人が拒否した書類の借用を差し控えたことにも照らせば、確認調査時の態様が社会通念上相当な限度を超えていたとはいえない。
 なお、本件調査担当職員が女性従業員の私物を検査した事実はない。
(ロ) 本件調査担当職員は、平成30年1月から4月頃、請求人の取引先であるG9社のE4氏(以下「本件取引先」という。)に対し、「脱税者に協力して、脱税ほう助をするのか。」などと発言し、請求人の信用を失墜させた。 (ロ) 本件調査担当職員が、請求人の取引先に対する調査を実施した際に、請求人の主張するような発言をした事実はない。
ロ 調査結果の内容の説明について
 本件調査担当職員は、本件調査の終了時に、請求人に対し、本件調査の結果の内容の説明をしなかった。
ロ 調査結果の内容の説明について
 本件調査担当職員は、平成31年2月25日、請求人に対し、本件各年分の決定をすべきと認めた額及びその理由を含む本件調査の結果の内容について説明を行った。
ハ 再調査の請求について
 再調査の請求の際、税理士に事情聴取が行われたのみで、請求人との面談は行われず、再調査の結果についても、請求人に対して説明がされなかった。
ハ 再調査の請求について
 再調査の請求に関する事項は審査請求の対象とはならない。

(2) 争点2(請求人は、所得税法第2条第1項第3号に規定する居住者に該当するか)について

原処分庁 請求人
以下の事情からすれば、請求人の生活の本拠は本件国内滞在先にあったと認められるから、所得税法第2条第1項第3号に規定する「居住者」に該当する。 以下のとおり、請求人は、所得税法施行令第15条第1項に規定する「国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有している」ことは明らかであるから、国内に住所を有しない者と推定され、他方で、滞在日数や住居の状況などに、この推定を覆すに足りるものはないから、請求人は、所得税法第2条第1項第3号に規定する「居住者」に該当しない。
イ 滞在日数 イ 滞在日数
(イ) 本件各年中における請求人の日本の滞在日数は、香港を含む国外の滞在日数を大きく上回っていた。 (イ) 物理的な滞在日数は、居住者判定の一つの考慮要素にすぎず、重要視すべきではない。
 また、本件各年において請求人が日本に一時帰国することが多くなったのは、本件各外国法人の取引先の親会社が日本に所在しており、その交渉のため日本に出張する機会が多くなったことや、香港で反政府デモ(いわゆる○○運動)が発生し本件香港滞在先の前がデモの集会場となっていたため、治安上の問題から仕事以外の用事では香港を離れるようにしていたことが原因である。
(ロ) 平成18年から平成23年までの間における請求人の日本の滞在日数は、本件各年とは異なり、年間の半分にも満たないことから、生活状況や就業状況に全く変わりがないとはいえない。 (ロ) 請求人は、平成23年の税務調査において非居住者であると認定されたところ、当該認定時と比較して、請求人の就業状況、生活状況及び資産状況には全く変わりがないにもかかわらず、原処分庁が居住者と認定したことは不合理である。
ロ 生活場所及び同所での生活状況等
 請求人は、本件各年において、自身が代表取締役を務めるG1社から本件国内滞在先を賃借し、本件国内滞在先の玄関の表札に自身の氏名を掲げており、また、G10社発行の住宅地図には、平成25年6月版以降少なくとも平成30年6月版まで、本件国内滞在先の場所に「〇〇〇〇」との記載がある。
 そして、本件国内滞在先の水道及び電気は、その使用量に加え、使用料金が請求人名義の預金口座から引き落とされていたことからすると、請求人が実際に使用していたといえる。
 さらに、請求人は、クレジットカード会社や生命保険会社等に対し、本件国内滞在先を住所として届け出ていた。
ロ 生活場所及び同所での生活状況等
 請求人は、約20年前から香港に居住しており、平成18年からは本件香港滞在先に居住し、同所で、生計を一にする大韓民国(以下「韓国」という。)の国籍を有するパートナーと生活している。
 他方、本件国内滞在先は、G1社の役職員が共同使用している社宅であり、請求人も、短期滞在用のホテルとして使用していたにすぎず、請求人の住居ではないし、請求人には、日本において生計を一にするパートナー等は存在しない。
ハ 香港の永住権等
 請求人は、平成8年9月に香港の永住権を取得したところ、香港の法令上、一度取得した永住権は連続して36か月以上香港を離れない限り失効しないにすぎないし、また、香港の法令上、香港の法人から取締役の報酬を受け取った場合、香港の居住者であるか否かにかかわらず、香港税務当局へ税務申告する義務があるにすぎないから、これらの事情は、請求人が日本の居住者であるという判断に影響を与えるものではない。
ハ 香港の永住権等
 請求人は、香港で永住権を有しており、また、20年以上にわたって個人の税務申告書を香港の税務当局に継続して提出している。
ニ 職業及び業務の状況
 請求人は、本件各内国法人の代表取締役に就任しており、日本において、職業を有している。
 他方、請求人は、香港でも職業を有しているが、それは本件各外国法人の役員という地位であるため、必ずしも本件各外国法人の所在地等の特定の場所に常時滞在しなければ自らの職務を遂行できないという立場にはなく、請求人自身も、本件調査において、日本国内において本件各外国法人の役員としての職務を行っている旨申述していたことからすると、請求人が、所得税法施行令第15条第1項に規定する「国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること」に該当するという請求人の主張には理由がない。
ニ 職業及び業務の状況
 請求人は、香港、中国及びベトナムに所在する大規模な本件各外国法人の責任者として、これらの国で会社経営全般に従事しているから、所得税法施行令第15条第1項に規定する「国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること」に該当し、よって、非居住者と推定される。
 また、請求人が日本滞在中に行っていた業務は、本件各外国法人の交渉業務であって、G1社の業務ではなかった。すなわち、平成19年以降、G1社の経営は、もう一人の代表取締役であるE2だけで行っており、請求人の関与は極めて限定的であって、現に、請求人の同社からの役員報酬は月額20万円にすぎなかった。
ホ 資産の所在
 請求人は、香港において、G5社の株式や未払配当金、預金等少なくとも9億円以上の資産を有しており、日本における資産額を大きく上回っている。

(3) 争点3(請求人の所得税等の額の計算上、本件適用除外規定が適用されるか。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、請求人には、本件適用除外規定は適用されない。 以下のとおり、請求人には、本件適用除外規定が適用される。
イ G6社は、G8社の株式等の保有を主たる事業としているところ、本件適用除外規定の適用対象となる措置法第40条の4第3項及び措置法施行令第25条の22第4項に定める統括業務を行う統括会社の要件である「2以上の被統括会社に対して統括業務を行っていること」(同項第1号)に該当しない。
 また、請求人は、措置法施行令第25条の22第4項に規定する「一の居住者」に関する解釈について、同項と何ら関係ない法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》第1項の規定を根拠としているが、同主張は法令の規定に基づかないものである。
イ G6社は、請求人及び請求人と特殊な関係にある個人であるE2が株主となっているから、「一の者により発行済株式等の全部を直接又は間接に保有している」という要件を満たす上、G8社の経営一般の支援や、G7社の技術指導及び経営全般の実務指導をしているから、統括会社に該当する。そして、G6社は、所在地国において独立企業としての実体を備え、かつ、その業態に応じ、その地において事業活動を行うことに十分な経済的合理性があると認められる海外子会社であるので、海外子会社等に係る課税の適用除外となる。
ロ 請求人は、措置法第40条の4第7項に規定する同条第3項の適用がある旨を記載した書面等を添付した確定申告書を提出していない。 ロ 請求人は、自らを居住者に該当しないと認識していたのであるから、源泉徴収によって所得税を納付するものと考えて確定申告書を提出しなかったことは当然であり、本件適用除外規定の適用要件として確定申告書の提出を要求することは、納税者にとって実務上不可能を強いることとなり不当である。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか)について

  • イ 法令解釈
     通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に違反したことが課税処分の取消事由となる旨を定めた法令上の規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来負うべき納税の義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単に瑕疵があるというだけで課税処分の取消事由となるものではなく、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて権限濫用にわたるなどの重大な違法があり、何らの調査なしに課税処分を行ったに等しいとの評価を受ける場合に限り、その違法が処分の取消事由となり得るものと解するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人に対する平成29年11月21日及び同月22日の臨場調査
       本件調査担当職員は、平成29年11月6日、請求人の税務代理権限を有するK税理士に対して通則法第74条の9第1項に規定する事前通知を行い、同税理士の承諾を得た上で、同月21日及び同月22日、G1社のL事務所に臨場し、同税理士の立会いの下、請求人と面接し、請求人の住居、職業、収入及び資産の状況等のほか香港2法人における業務内容等について聴取するとともに、香港2法人に係る申告書や総勘定元帳等の資料を提出するよう依頼した。
    • (ロ) G1社に対する平成30年2月21日の臨場調査
       本件調査担当職員は、G1社の税務代理権限も有するK税理士に対し、あらかじめ日程を調整し、同人の承諾を得た上で、平成30年2月21日、G1社のL事務所に臨場し、同税理士の立会いの下、G1社の取締役であるE2と面接し、同人の承諾を得た上で、G1社のL事務所の社長室や同人が使用しているパソコン内の確認、事務室内のキャビネットに保管されていた経理関係書類の確認等の調査を行った。
    • (ハ) 請求人に対する平成30年3月27日の臨場調査
       本件調査担当職員は、請求人本人とあらかじめ日程を調整し、請求人の承諾を得た上で、平成30年3月27日、G1社のL事務所に臨場し、請求人の税務代理権限を有するM税理士の立会いの下、請求人と面接し、請求人の住居、職業等について確認するため聴取を行った上、質問応答記録書を作成した。請求人は、当該質問応答記録書に異議をとどめることなく署名押印した。
       また、本件調査担当職員は、G1社のL事務所の社長室や、請求人のパソコン内を確認する調査を行うことについて、請求人の承諾を得た上、請求人の立会いの下、これらの調査を実施した。本件調査担当職員は、社長室の調査の際、G5社及びG6社の決算書を発見し、当該決算書を通則法第74条の7《提出物件の留置き》の規定に基づいて、留置きをしたい旨請求人に伝えたところ、請求人が当該決算書の留置きは拒否するが写真撮影であれば許可する旨の意向を示したため、本件調査担当職員は、当該決算書をデジタルカメラで撮影した。
    • (ニ) 請求人に対する平成31年2月25日の本件調査の結果の内容の説明
       本件調査担当職員は、平成31年2月25日、請求人からの電話を受け、通則法第74条の11第2項に規定する調査結果の内容の説明を実施するための日程調整を依頼したが、請求人の日程が確保できなかったため、請求人に対し、当該電話において調査結果の内容の説明を実施することについて同意を得た上、調査結果の説明書の記載に基づき、当該電話において、所得税等及び附帯税の税額等本件調査の結果の内容を説明し、期限後申告を勧奨した。
  • ハ 検討
    • (イ) 承諾のない調査等について
       請求人は、本件調査担当職員が、平成29年11月22日及び平成30年3月27日の2回、又は、同年2月21日、請求人の承諾もなく強権的にG1社の事務所内を調査し、同事務所の女性従業員の私物まで検査し、任意調査の範囲を逸脱した違法な調査を行った旨主張する。
       しかしながら、請求人の上記主張のうち本件調査が承諾もなく強権的に行われたものである旨の主張は、請求人において、いつ行われた、どのような内容の調査が、承諾のない強権的な調査であったと主張するのかも明らかではなく、具体性を欠く上、当該主張を裏付ける証拠の提出もない。
       また、請求人の上記主張のうち女性従業員の私物を検査した旨の主張についても、請求人において、どのような私物について、いかなる態様で調査が行われたと主張するのかも明らかではなく、具体性を欠く上、当該主張を裏付ける証拠の提出もない。
       かえって、本件調査においては、上記ロの(イ)及び(ハ)のとおり、1税務代理権限を有する税理士又は請求人本人に対する事前の連絡がとられ、その承諾を得た上で、G1社の事務所において臨場調査が実施され、いずれの調査日においても、税務代理権限を有する税理士が立ち会っており、調査手続の適法性を担保する環境が整えられていたといえること、2当該臨場調査においては、本件調査担当職員が請求人から請求人の住居や職業等のほか香港2法人の業務内容等多岐にわたる項目について聴取し、請求人が異議をとどめることなく署名及び押印した質問応答記録書が作成されるなど、請求人の任意の対応がなければ継続できないような調査内容であったこと、3本件調査担当職員は、社長室や請求人のパソコン内を確認する調査の実施に際しても、請求人の承諾を得た上で当該調査を行っており、また、決算書の留置きについて拒否された場合には写真撮影で対応するなど、請求人の承諾の範囲内で調査を実施していたことなどに照らすと、本件調査における臨場調査は、請求人の協力を得た上でその範囲内で行われたと認められるのであって、その他本件において、本件調査担当職員が、請求人の承諾なく、強権的に調査を行い、女性従業員の私物を検査したことを認めるに足りる証拠はない。
       なお、請求人が強権的な調査及び女性従業員の私物検査が行われたと主張する日のうち、平成30年2月21日については、上記ロの(ロ)のとおり、G1社の事務所における臨場調査が行われたと認められるものの、これはG1社に係る法人税の調査として、本件調査とは別に行われたものであって、同日には、請求人個人に対する調査(本件調査)は行われていないと認められるし、また、本件全証拠によっても、同日のG1社に対する調査においても、強権的な調査や女性従業員の私物検査が行われたとは認められない。
       したがって、本件調査において、本件調査担当職員が、請求人の承諾なく、強権的にG1社の事務所内を調査し、女性従業員の私物まで検査したとは認められず、任意調査の範囲を逸脱した違法な調査を行ったとは認められないから、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 本件取引先に対する調査について
       請求人は、本件調査担当職員が、本件取引先に対し、「脱税者に協力して、脱税ほう助をするのか。」などと発言した旨主張し、これに沿う内容の本件取引先が作成した報告書を提出する。
       しかしながら、上記報告書では、本件調査担当職員が上記の発言などをした旨記載されてはいるものの、当該発言が本件調査担当職員と本件取引先との間のいかなるやり取りの中でされたのか、いかなる趣旨の発言であったのかなどその発言に至る経緯、発言の際の当事者の応答や反応等の具体的な状況が明らかにされていないこと、当該報告書が当該発言があったとされる時期から2年程度経過してから作成されたものであることを併せ考慮すると、当該報告書をもって、本件調査担当職員が、本件取引先に対して当該発言その他社会通念上相当の限度を超えるような態様又は内容の発言をしたと直ちに認めることはできない。また、その他本件において社会通念上相当の限度を超えるような態様又は内容の発言があったことを認めるに足りる証拠はない。
       したがって、本件調査担当職員が、本件取引先に対し、社会通念上相当の限度を超えるような態様又は内容の発言をしたとは認められず、請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 調査結果の内容の説明について
       請求人は、本件調査終了時に、本件調査担当職員は請求人に対して本件調査の結果の内容の説明をしなかった旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(ニ)のとおり、本件調査担当職員は、平成31年2月25日、請求人に対し、本件調査の終了に際し、通則法第74条の11第2項に規定する調査結果の内容の説明を、請求人の同意を得て電話で実施したものと認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ニ) 再調査の請求について
       請求人は、再調査の請求の際、税理士に事情聴取が行われたのみで、請求人との面談は行われず、再調査の結果についても、請求人に対して説明がされなかった旨主張する。
       しかしながら、再調査の請求における違法は、原処分の適法性に影響を及ぼすものではなく、審査請求の対象とはならない。
       したがって、請求人の主張は採用することができない。
    • (ホ) 小括
       以上のとおり、本件調査の手続に係る違法性を基礎付けるものとして請求人が主張する事実は、いずれもあったものとは認められず、その他、本件全証拠によっても、原処分の基礎となる証拠資料の収集手続に、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて権限濫用にわたるなどの重大な違法があったとは認められない。
       したがって、本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法はない。

(2) 争点2(請求人は、所得税法第2条第1項第3号に規定する居住者に該当するか)について

  • イ 法令解釈
     所得税法第2条第1項第3号において、国内に住所を有する個人は居住者とされているところ、ここにいう「住所」とは、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である(最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決・集民236号71頁参照)。
     そして、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かは、1滞在日数、2生活場所及び同所での生活状況、3職業並びに業務の内容及び従事状況、4生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、5資産の所在、6生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案して判断するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人の国内滞在日数
       請求人は、平成18年に159日、平成19年に165日、平成20年に157日、平成21年に179日、平成22年に192日、平成23年に175日、平成24年に207日、平成25年に224日、平成26年に217日、平成27年に240日、平成28年に290日、平成29年に279日、それぞれ日本国内に滞在していた。
       また、請求人は、本件国内滞在先が新築された平成24年8月5日以降、国内滞在中には、主に本件国内滞在先に滞在していた。
    • (ロ) 請求人の本件国内滞在先の使用状況
      • A 賃貸借の状況
         請求人は、少なくとも平成25年11月以降、平成30年7月までの間、所有者であるG1社から本件国内滞在先を賃借し、その賃料を自ら負担していた。
      • B 水道の使用状況
         本件国内滞在先の水道使用量は、平成25年1月10日から平成26年1月8日の間は108平方メートル、同月9日から平成27年1月8日の間は93平方メートル、同月9日から平成28年1月8日の間は96平方メートル、同月9日から平成29年1月9日の間は126平方メートル、同月10日から平成30年1月9日の間は113平方メートルであり、請求人は、遅くとも平成26年1月以降、本件国内滞在先の水道料金を請求人名義の口座から毎月支払っていた。
      • C 電気の使用状況
         本件国内滞在先の電気使用量は、平成25年1月8日から平成26年1月7日の間は17,451kWh、同月8日から平成27年1月6日の間は18,082kWh、同月7日から平成28年1月5日の間は14,788kWh、同月6日から平成29年1月5日の間は17,323kWh、同月6日から平成30年1月5日の間は22,442kWhであり、請求人は、遅くとも平成26年1月以降、本件国内滞在先の電気料金を請求人名義の口座から毎月支払っていた。
    • (ハ) 香港の永住権等
       請求人は、本件各年において、「香港永久性居民身份證」を有して香港に永住する許可を受けており、香港当局に対し、税務申告書を提出していた。
    • (ニ) 請求人の職業並びに業務の内容及び従事状況
      • A 請求人の職業
         請求人は、上記1の(3)のイのとおり、本件各内国法人及び本件各外国法人の代表取締役又は役員であった。
      • B 請求人の業務の内容及び従事状況
        • (A) 請求人の香港滞在中における業務の内容及び従事状況
           請求人が香港滞在中に行う業務は、主にG5社における、G7社及びG8社についての経営管理に関するものであり、具体的には、両社の設備投資等の重要事項の決定や、生産状況に関する現地責任者との会議、現地幹部との協議及び同幹部への管理指導、顧客との契約、顧客の接待、支払のための小切手へのサインなどであった。
        • (B) 請求人の日本滞在中における業務の内容及び従事状況
           本件各外国法人の主な取引先は、国内法人の子会社であったことから、請求人は、日本滞在時においては、主に、G7社及びG8社の取引先である海外法人の親会社である国内法人の海外事業の担当者と会って、打合せなどを行っていた。
           また、平成27年から平成29年にかけて、G7社やG8社の取引先である海外法人において、取引に関する決定権を有する者が日本国内にいることが多くなり、中国やベトナムの現地法人の担当者同士では交渉をすることができないため、請求人が、日本国内で、取引先の親会社の決定権を有する者と会って交渉することが多くなった。
    • (ホ) 資産の所在
      • A 国内財産について
         請求人は、平成27年12月31日及び平成28年12月31日において、国内に、それぞれ別表2の1及び2に記載の各財産を有していた。
      • B 国外財産について
         請求人は、平成27年12月31日、平成28年12月31日及び平成29年12月31日において、国外に、それぞれ別表3に記載の各財産を有していた。
    • (ヘ) 生活に関わる各種届出書の状況
      • A 住民票上の住所等
         請求人は、日本国籍を有し、平成15年6月1日から、f市g町○−○を住民票上の住所として届出をしており、以後、少なくとも令和元年12月25日までは、同住所を異動させていない。
      • B クレジットカード契約
         請求人は、少なくとも平成25年10月25日において、請求人名義のNカードの利用明細書の送付先を、本件国内滞在先に指定していた。
         また、請求人は、平成26年2月7日、G11社に対してショッピングローン契約を申し込む際、その契約書に、請求人の住所として本件国内滞在先を記載した。
      • C 生命保険契約
         請求人は、平成26年9月16日、G12社に対して個人年金保険契約を申し込む際、その申込書に、請求人の現住所として本件国内滞在先を記載した。
      • D 健康保険
         請求人は、本件各年において、G1社を通じて日本の健康保険組合に加入し、日本の健康保険の被保険者の資格を有していた。
  • ハ 検討
    • (イ) 滞在日数について
       請求人は、本件各年において、それぞれ上記ロの(イ)のとおり国内に滞在しており、年間の国内滞在日数の割合は、それぞれ、平成25年は61%、平成26年は59%、平成27年は65%、平成28年は79%、平成29年は76%であり、おおむね6割又は6割を超えており、その国内の滞在日数は、香港を含む国外の滞在日数の約1.4倍から約3.8倍に及んでいるなど、国外での滞在日数を大きく上回っている。
    • (ロ) 生活場所及び同所での生活状況について
       請求人は、上記(イ)のとおり、本件各年において、年間の6割程度を超える日数を国内に滞在しており、上記ロの(イ)のとおり、国内滞在中は、主に本件国内滞在先に滞在していた。そして、請求人は、上記ロの(ロ)のとおり、その所有する土地上にある本件国内滞在先を、その所有者であるG1社から自ら賃借しており、また、本件国内滞在先では、相当量の水道及び電気が使用され、当該水道及び電気の使用料金を請求人自ら負担していたと認められる。
       そうすると、請求人は、本件各年において、年間の6割程度を超える日数を、自ら所有する土地上に存し、かつ、自ら賃借する本件国内滞在先で、水道及び電気等のライフラインを使用して生活していたと認められるのであり、このことは、本件国内滞在先が請求人の生活の本拠たる実体を有していたことを、強く基礎付けるものであるといえる。
       他方、本件香港滞在先は、上記1の(3)のハのとおり、G5社が賃借していたもので、請求人のほか、香港2法人の株主や取締役2名も宿泊者として登録されていたことからすると、本件香港滞在先は、香港での業務を行う都合上請求人以外の者も利用する場所であったと推認されるのであり、上記の本件国内滞在先における生活状況に比べて、請求人の全生活との関係は希薄であるといえる。
    • (ハ) 職業並びに業務の内容及び従事状況
       請求人は、上記ロの(ニ)のAのとおり、国内外の多数の企業の代表取締役又は役員を兼務しているのであり、職業のみでは、請求人の生活の本拠を決定付けることはできない。そして、請求人の業務の内容及び従事状況についてみると、請求人は、上記ロの(ニ)のBのとおり、本件各年において、日本と香港とを行き来しながら、主に、本件各外国法人の役員としての業務を行っていたところ、当該業務は、日本国内で行われることが多くなっていたものと認められる。このことは、上記ロの(イ)のとおり、本件各年における請求人の国内滞在日数が、年間のおおむね6割を超えていて、香港を含む国外の滞在日数を相当程度上回っていたこととも整合する。このような事情からすると、請求人は、国内において、より多くの日数を費やして業務を遂行していたものと認められ、このような請求人の業務の状況も、本件国内滞在先が請求人の生活の本拠たる実体を有していたことを基礎付けるものといえる。
    • (ニ) 生計を一にする配偶者その他の親族の居住地
       本件全証拠によっても、請求人には生計を一にする親族がいるとは認められない。したがって、請求人の親族等の状況は、請求人の生活の本拠を判断する上で重視すべき事情ではない。
       なお、請求人は、本件香港滞在先において、生計を一にする韓国籍のパートナーと生活している旨主張するが、本件全証拠によっても、請求人の主張するパートナーが請求人と婚姻関係又はこれに準ずる関係にあるものとは認められないし、当該パートナーと請求人が生計を一にしていると認めるに足りる証拠もない。
    • (ホ) 資産の所在
       請求人は、本件各年において、上記1の(3)のロ及び上記ロの(ホ)のAのとおり、国内に、本件国内滞在先の所在する土地等の不動産を所有しており、上記(ロ)のとおり、国内滞在中には、本件国内滞在先を生活に使用していたものと認められる。このように、請求人は、生活に使用していた不動産を国内に所有していたものと認められる一方で、本件全証拠によっても、請求人が、本件各年において、香港において本件香港滞在先を含む不動産を所有していた事実は認められない。そうすると、このような資産の状況も、請求人の生活の本拠たる実体が本件国内滞在先であることを基礎付けるものといえる。
       なお、請求人は、本件各年において、国内に、上記不動産のほかに、複数の金融機関に多額の預貯金を有するとともに、自らが主宰する複数の株式会社の株式を保有しており(原処分関係資料及び当審判所の調査の結果)、これらの金融資産の価額の合計額は、上記ロの(ホ)のAのとおり、平成27年及び平成28年の年末時点では、3億円から4億円程度であったと認められる一方、上記1の(3)のニの(イ)のとおり、請求人は、香港に所在するG5社の株式を9,999株を有しており、その価額は、上記ロの(ホ)のBのとおり、平成27年から平成29年までの各年末の時点では、少なくとも14億円以上であったと認められ、そうすると、請求人は、本件各年において、国内よりも香港において、額としては多くの金融資産を有していたといえる。しかしながら、株式や預貯金等の金融資産は、その所在場所がどこであるかにより使用や管理が不能となる性質のものではないから、本件各年の生活の本拠を判断する上で、その多寡を必ずしも重要な事情と評価することはできない。
    • (ヘ) 生活に関わる各種届出状況等
       上記ロの(ヘ)のAのとおり、本件各年における請求人の住民票上の住所は国内であり、また、同B及びCのとおり、クレジットカード会社へ届け出た書類の送付先やローン契約及び年金保険契約の際に請求人自身が申告した住所は、いずれも本件国内滞在先である一方、本件全証拠によっても、国内外において、本件香港滞在先を住所地としてされたクレジットカードや保険等の請求人の生活に係る契約や届出は見当たらない。
       また、請求人は、上記ロの(ヘ)のDのとおり、日本国内の健康保険組合に加入し日本の健康保険の被保険者たる資格を有しており、日本国内で生活を送る上で有用な公的資格を有していたものと認められる。
       そうすると、このような各種届出状況からは、本件香港滞在先が本件国内滞在先よりも請求人の全生活との関係でより密接であったということはできず、むしろ、請求人の生活の本拠たる実体が本件国内滞在先であることを基礎付ける事情といえる。
    • (ト) 小括
       以上の諸事情を総合考慮すると、請求人が、本件各年中、香港の永住権を有しながら、本件香港滞在先に一定の期間滞在していたことを考慮しても、客観的に請求人の本件各年中の生活の本拠たる実体を具備していたのは、本件香港滞在先ではなく、本件国内滞在先であったと認めるのが相当である。
       したがって、本件国内滞在先が請求人の住所であると認められ、請求人は、国内に住所を有する個人であるから、所得税法第2条第1項第3号に規定する居住者に該当する。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 滞在日数について
       請求人は、平成23年の税務調査において非居住者であると認定された当時と状況に全く変わりがないにもかかわらず、原処分庁が居住者と認定したことは不合理である旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、請求人の平成18年から平成23年までの国内滞在日数は、いずれも本件各年の国内滞在日数を下回る上、国内滞在日数が国外滞在日数よりも多いのは平成22年のみであることからすれば、本件各年と状況が異ならないとはいえないから、請求人の上記主張には理由がない。
       なお、請求人は、本件各年においては、国内に所在する取引先の親会社との交渉のため日本に出張する機会が多くなったことや香港で反政府デモが発生し治安上の問題から香港を離れるようにしていたことから請求人が日本に一時帰国することが多くなった旨主張するが、「住所」については、上記イのとおり、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かについての客観的諸事情を総合的に勘案して判断すべきものであり、請求人の上記主張は、本件各年において、請求人の国内滞在日数が多くなっていたことの理由や原因を述べるものにすぎず、上記ハの判断を左右するものではない。
    • (ロ) 生活場所及び同所での生活状況について
       請求人は、本件国内滞在先は、G1社の役職員が共同使用している社宅であって、請求人も短期滞在用のホテルとして使用していたにすぎないから、請求人の住居ではない旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件国内滞在先に係る賃貸借契約の賃借人は請求人個人であり、賃料も請求人が自ら負担していたのであり、このことは、本件国内滞在先がG1社の役職員が共同使用する社宅であるという請求人の主張と整合しないし、さらに、請求人以外のG1社の役職員が同社の業務の関係でそれぞれ使用していたことを裏付ける証拠もなく、また、請求人が、本件各外国法人から、業務の遂行に必要であるとして、本件国内滞在先への滞在に係る宿泊費等を受領していたことを裏付ける証拠もないのであって、その他、請求人が本件国内滞在先に一時的に滞在していたにすぎないことをうかがわせる証拠もないことからすれば、請求人の上記主張は、採用することができない。
    • (ハ) 香港の永住権等について
       請求人は、香港で永住権を有しており、また、20年以上にわたって個人の税務申告書を香港の税務当局に継続して提出していることを理由に、居住者に該当しない旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(ロ)のとおり、請求人の本件国内滞在先での滞在頻度や同所の状況等からすると、本件国内滞在先が客観的に生活の本拠たる実体を有していたことが強く基礎付けられる一方で、香港で永住権を有していることや税務申告していることと本件国内滞在先が生活の本拠であることは必ずしも矛盾するものではないから、これらの事情は上記ハの認定を覆すに足りない。
       したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
    • (ニ) 職業並びに業務の内容及び従事状況について
      • A 請求人は、自らが本件各外国法人の経営全般に従事し、これによって現に高額の所得も得ていたことから、所得税施行令第15条第1項に規定する「国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有していること」に該当するので、非居住者と推定される旨主張する。
         しかしながら、一般に、会社の役員は、雇用契約で定められた勤務時間及び勤務場所等に拘束される一般の従業員とは異なり、必ずしも法人の所在地等の特定の場所に常時駐在していなければ自らの業務を遂行できないというものではなく、現に、上記ハの(ハ)のとおり、請求人は、本件各年のおおむね6割を超える日数を日本国内に滞在して本件各外国法人に係る業務を行っていたことが認められるのであるから、「国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有している」者に該当するとはいえない。
         したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
      • B また、請求人は、その国内滞在中に行っていた業務は本件各外国法人の交渉業務であって、G1社の業務ではなく、同社への関与は極めて限定的であった旨主張する。
         しかしながら、生活の本拠がどの国にあるかの判断においては、どの国で実際に業務を行っていたかが重要であって、どの国の企業の業務かによって直ちに決定されるものではない。そして、上記Aのとおり、請求人は、本件各年のおおむね6割を超える日数を国内に滞在して業務を行っていたのであるから、国内に所在するG1社の業務への請求人の関与が限定的であったことや、請求人による国内における業務が本件各外国法人の交渉業務であったということをもって、請求人の生活の本拠が国外にあったということはできない。
         したがって、請求人の上記主張も、上記ハの認定を左右するものではない。
    • (ホ) 資産の所在について
       請求人は、香港にG5社の株式や預金等少なくとも9億円以上の資産を有しており、日本における資産額を大きく上回っている旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(ホ)のとおり、株式や預金等の金融資産の多寡は、生活の本拠を判断する上で、必ずしも重要な事情と評価することはできず、請求人が香港に日本における資産額を大きく上回る金融資産等を有していたことは、その生活の本拠が本件香港滞在先にあったことを積極的に基礎付けるものとはいえない。
       したがって、請求人の上記主張も、上記ハの認定を左右するものではない。

(3) 争点3(請求人の所得税等の額の計算上、本件適用除外規定が適用されるか)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) G6社は、平成17年10月に香港で設立された法人であり、同社の本店は、設立以降、香港内に所在している。
    • (ロ) G6社の平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度(以下「平成25年3月期」といい、以降の事業年度も同様に表記する。)の収入金額は、配当収入が○○○○米ドル、銀行の預金利息が○○○○米ドル、必要経費の金額は○○○○米ドルで、所得金額は○○○○米ドルであり、平成26年3月期における収入金額は、配当収入が○○○○米ドル、銀行の預金利息が○○○○米ドル、必要経費の金額は○○○○米ドルで、所得金額は○○○○米ドルであり、平成27年3月期における収入金額は、配当収入が○○○○米ドル、銀行の預金利息が○○○○米ドル、必要経費の金額は○○○○米ドルで、所得金額は○○○○米ドルであり、平成28年3月期における収入金額は、配当収入が○○○○米ドル、預金利息が○○○○米ドル、為替差益が○○○○米ドル、必要経費の金額は○○○○米ドルで、所得金額は○○○○米ドルであり、平成29年3月期における収入金額は、配当収入が○○○○米ドル、預金利息が○○○○米ドル、必要経費の金額は○○○○米ドルで、所得金額は○○○○米ドルであった。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件適用除外規定の適用について
      • A G6社の「統括会社」該当性
        • (A) 請求人は、G6社は、G8社の経営一般の支援や、G7社の技術指導及び経営全般の実務指導をしているから、「統括会社」(措置法施行令第25条の22第4項)に該当するとして本件適用除外規定が適用される旨主張する。
           しかしながら、本件適用除外規定が適用される「統括会社」(措置法施行令第25条の22第4項)に該当するためには、特定外国子会社等で当該特定外国子会社等に係る「二以上の被統括会社…に対して統括業務を行っている」ことが要件となり(同項第1号)、この「被統括会社」に該当するためには、当該法人に対して統括業務を行う特定外国子会社等によって一定割合以上の数又は金額の株式及び一定割合の議決権を保有されていなければならない(同条第2項)。そして、上記1の(3)のニのとおり、G8社については、その全株式をG6社が保有しているものの、G7社については、その全株式をG5社が保有しており、G6社が保有しているものではないから、G7社は、そもそもG6社の「被統括会社」には該当せず、その他、G6社が他の被統括会社に対して統括業務を行っていることを認めるに足りる証拠はない。
           そうすると、G6社は、「二以上の被統括会社…に対して統括業務を行っている」(措置法施行令第25条の22第4項第1号)とは認められないから、「統括会社」に該当しない。
        • (B) また、請求人は、法人税法施行令第4条第1項を指摘して、G6社は、請求人及び請求人と特殊な関係にある個人であるE2が株主となっているから、「一の者により発行済株式等の全部を直接又は間接に保有している」という「統括会社」の要件を満たす旨主張する。
           しかしながら、「統括会社」に該当するには、上記(A)で指摘した要件のほか、「一の居住者」によってその発行済株式等の全部を直接又は間接に保有されている特定外国子会社等であることも必要であるところ(措置法施行令第25の22第4項)、G6社は、上記1の(3)のニの(イ)及び(ロ)のとおり、その発行済株式を請求人及び実弟であるE2の2名によってG5社を通じて間接保有されているのであって、「一の居住者」によって株式を保有されているとはいえないから、この点においても「統括会社」に該当しない。
           請求人の上記主張は、措置法施行令第25条の22第4項に規定する「一の居住者」に関する解釈について、同項とは関係のない同族会社の範囲を規定した法人税法施行令第4条第1項の規定を根拠とする独自のものであり、採用することができない。
        • (C) 以上のとおり、G6社は「統括会社」に該当しないから、請求人の所得税等の額の計算上、本件適用除外規定を適用することはできない。
           なお、請求人は、G6社が、G8社の経営一般の支援や、G7社の技術指導及び経営全般の実務指導をしている旨主張するが、上記イの(ロ)のとおり、G6社の収入は、平成25年3月期から平成29年3月期までの各事業年度のいずれにおいても、配当収入及び銀行の預金利息のみであって、技術指導や経営指導等の対価に係る収入などはなく、その他、G6社が、G8社及びG7社の技術指導及び経営全般の実務指導をしていると認めるに足りる証拠はない(請求人自身、本件調査において、本件調査担当職員に対し、G6社の業務について、G8社の持株会社の役割しかない旨申述しているところである。)。
      • B 適用除外記載書面について
         請求人は、自らを居住者に該当しないと認識していたのであるから、確定申告書を提出しなかったことは当然であり、本件適用除外規定の適用要件として確定申告書の提出を要求することは不可能を強いるものであり不当である旨主張する。
         しかしながら、上記Aのとおり、本件適用除外規定については、G6社が「二以上の被統括会社に対して…統括業務を行っていること」及び「一の居住者によってその発行済株式等の全部を直接又は間接に保有されている」という要件を充足せず、「統括会社」(措置法第40条の4第3項及び措置法施行令第25条の22第4項)に該当しないため、適用除外記載書面の提出の有無にかかわらず、請求人の所得税等の額の計算上、そもそも本件適用除外規定は適用されない。
    • (ロ) 小括
       したがって、請求人の所得税等の額の計算上、本件適用除外規定は適用されない。

(4) 原処分の適法性について

  • イ 本件各決定処分及び本件各再更正処分の適法性について
     上記(2)のとおり、請求人は居住者に該当し、また、上記(3)のとおり、請求人の所得税等の額の計算上、本件適用除外規定は適用されない。これに基づいて、本件各年分の請求人の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、平成25年分については、別表1の「決定処分等」欄の「総所得金額」欄及び「所得税等の納付すべき税額」欄の各金額と同額となり、平成26年分から平成29年分までについては、いずれも同表の「再更正処分等」欄の「総所得金額」欄及び「所得税等の納付すべき税額」欄の各金額と同額となる。
     また、本件各決定処分及び本件各再更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件各決定処分及び本件各再更正処分は、いずれも適法である。
  • ロ 本件各賦課決定処分の適法性について
     上記イのとおり、本件各決定処分及び本件各再更正処分はいずれも適法であり、本件各決定処分及び本件各再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各決定処分及び本件各再更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法第66条《無申告加算税》(平成25年分から平成27年分については平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第1項に規定する正当な理由があるとは認められない。
     また、請求人は、別表1のとおり、平成27年分及び平成28年分の総所得金額が2,000万円を超えており、別表2の1及び2のとおり、平成27年12月31日及び平成28年12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産を有していたと認められる(上記(2)のロの(ホ)のA)から、平成27年分及び平成28年分につき、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(令和2年法律第8号による改正前のもの。以下「国送法」という。)第6条の2《財産債務調書の提出》第1項本文に規定する財産債務調書の提出義務があったにもかかわらず、これらをいずれも法定提出期限内に提出しなかったと認められる(当審判所の調査の結果)。
     さらに、請求人は、別表3のとおり、平成27年12月31日、平成28年12月31日及び平成29年12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有していたと認められる(上記(2)のロの(ホ)のB)から、平成27年分から平成29年分までにつき、国送法第5条《国外財産調書の提出》第1項本文に規定する国外財産調書の提出義務があったにもかかわらず、これらをいずれも法定提出期限内に提出しなかったと認められる(当審判所の調査の結果)。
     以上を前提に、本件各決定処分に係る無申告加算税の各金額につき、通則法第66条第1項及び同条第2項並びに国送法第6条の3《財産債務に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》第2項(平成27年分及び平成28年分)の規定に基づいて計算すると、いずれも別表1の各「決定処分等」欄の各「無申告加算税の額」欄の各金額と同額となり、本件各再更正処分に係る無申告加算税の各金額を、通則法第66条第1項、同条第2項及び同条第4項(平成28年分及び平成29年分)並びに国送法第6条《国外財産に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》第2項(平成27年分から平成29年分)の規定に基づいて計算すると、いずれも別表1の各「再更正処分等」欄の各「無申告加算税の額」欄の各金額と同額となる。
     したがって、本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(5) 結論

よって、審査請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとする。

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