(令和3年6月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、林業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)から帳簿書類等の提示がなかったとして、1事業所得の金額を推計の方法により算定し、所得税等の更正処分等を行うとともに、2課税仕入れに係る消費税額の控除を適用することなく消費税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、1調査手続に違法又は不当がある、2事業所得の金額を推計する必要性及び合理性がない、3原処分庁が税務職員の守秘義務が担保されないとして帳簿等の検査を拒否したのであるから課税仕入れに係る消費税額の控除の適用がされるべきであるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令は、別紙2のとおりである。
 なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文においても使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、林業を営む個人事業主であった。
     なお、請求人は、令和元年9月1日付で、平成30年8月23日に個人事業を廃業した旨の届出書を原処分庁に提出した。
  • ロ 請求人は、平成28年分、平成29年分及び平成30年分(以下、これらの年分を併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、それぞれの確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出し、確定申告した。
     なお、請求人は、本件各年分の所得税について、所得税法第143条《青色申告》に規定する青色申告の承認を受けておらず、また、本件各年分の確定申告書に、いずれも事業所得に係る収支内訳書を添付していなかった。
  • ハ 請求人は、平成28年1月1日から平成28年12月31日までの課税期間(以下、「平成28年課税期間」といい、他の課税期間についても同様に表記する。)、平成29年課税期間及び平成30年課税期間(以下、「平成28年課税期間」、「平成29年課税期間」及び「平成30年課税期間」を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、それぞれの確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁へ提出し、確定申告した。
  • ニ 原処分庁は、請求人の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等に係る調査(以下「本件調査」という。)を行い、令和2年4月27日付で、所得税等については別表1の「更正処分等」欄のとおり各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を、消費税等については別表2の「更正処分等」欄のとおり各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれ行った。
  • ホ 請求人は、令和2年7月24日、原処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

(1) 本件調査に係る手続には原処分の取消事由となる違法又は不当があるか否か(争点1)。

(2) 推計の必要性及び合理性が認められるか否か(争点2)。

(3) 仕入税額控除が認められるか否か(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件調査に係る手続には原処分の取消事由となる違法又は不当があるか否か。)について

原処分庁 請求人
次のとおり、本件調査に係る調査手続には、原処分の取消事由となる違法及び不当はない。 次のとおり、本件調査に係る調査手続には、原処分の取消事由となる違法又は不当がある。
イ 原処分庁は、通則法第74条の10に規定する、事前通知を要しない場合の要件に該当するとして、事前通知なく本件調査を行ったものであるから、本件調査における調査手続に違法はない。 イ 本件調査担当職員は、調査初日である令和元年8月9日、通則法第74条の9の規定及び昭和51年4月1日付国税庁税務運営方針(以下「税務運営方針」という。)に基づく調査の日時及び場所の事前通知をせず、請求人宅を訪れた。
 本件調査担当職員に事前通知がなかったことについて、理由を尋ねたが、何ら理由を示さなかった。
 原処分庁は、請求人を「事前通知を要しない」対象者とするのであれば、客観的事実や合理的判断を具体的に示すべきである。
ロ 税務職員の質問検査権の行使に当たっては、調査対象者に対して調査の理由及び必要性を明らかにすることは要件とされておらず、どの程度明らかにするかは、税務職員の合理的裁量に委ねられていると解されることから、原処分庁の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、本件調査の必要性についての説明責任を有しているとはいえない。 ロ 本件調査担当職員は、請求人に対する調査理由について、「守秘義務があるので言えない。」との一点張りで明らかにせず、これは、第72回国会での請願採択に反する行為である。
 また、質問検査権の行使は、客観的に必要がある場合に認められるところ、本件調査担当職員は、本件調査に係る客観的必要性について説明責任があるにもかかわらず説明を行っていない。
ハ 本件調査担当職員は、本件調査において、請求人に対し、再三再四にわたり、第三者の立会いがない状況での帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、請求人は、第三者の立会いなしに帳簿書類等の提示はできない旨を申し立て、これに応じず、本件調査担当職員が質問検査を行えない状況にあったことから、請求人の各取引先に対する調査(以下「本件各取引先調査」という。)の必要があったと認められる。 ハ 原処分の更正通知書においては、処分の理由として、「あなたの事業所得(消費税)の金額の計算に必要な帳簿書類の提示を求めたところ、第三者の立会いを認めないと帳簿書類の提示はできない旨申し立て、帳簿書類を提示されませんでした。」との記載があるが、請求人は、一度も帳簿書類等を提示することなく検査・調査を拒んだことはなく、全ての調査対応日において確定申告に使用した帳簿・証ひょう類を用意して本件調査担当職員に示していたことから、本件各取引先調査の必要はなかった。
 また、本件調査担当職員は、「立会人がいると調査ができない。」として本件各取引先調査を行っているが、税務調査は納税者の協力を得て行われる任意調査であることから、税務職員は請求人が立会いを依頼した者を排除できない。
 したがって、本件調査担当職員が行った本件各取引先調査は、「反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められた場合に限って行う。」とした税務運営方針に真っ向から反するものである。

(2) 争点2(推計の必要性及び合理性が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 推計の必要性
 次のとおり、本件調査担当職員は、請求人の所得金額等を実額で算定するために必要な帳簿書類等の質問検査を行えない状況にあったことから、原処分を行うのに推計の必要性があったと認められる。
イ 推計の必要性
 次のとおり、本件調査担当職員は、請求人の所得金額等を実額で算定するために必要な帳簿書類等を質問検査することが可能であったことから、原処分を行うのに推計の必要性があったとは認められない。
(イ) 本件調査担当職員は、本件調査における請求人宅への臨場時及び請求人との電話において、請求人に対し、再三再四にわたり、第三者の立会いがない状況での帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、請求人は、第三者の立会いなしに帳簿書類等の提示はできない旨を申し立て、これに応じず、本件調査担当職員が質問検査を行えない状況にあったことから、原処分庁は、請求人の事業に係る本件各年分の所得金額を実額により計算することができなかった。 (イ) 請求人は、取引に係る帳簿の記載及び原始記録の保存を行っており、原処分庁が適法に質問検査権を行使すれば実額課税できたにもかかわらず、あえて推計によったもので、推計課税の前提要件を欠いたものとして違法である。
(ロ) 税務職員は、質問検査権を行使する場合、通則法第127条及び国家公務員法第100条《秘密を守る義務》に規定する守秘義務を負い、税理士以外の法律上守秘義務を負わない第三者の立会いを認めるか否かについては、原則として、税務職員の裁量に委ねられているものと解される。
 本件調査において、本件調査担当職員が税理士資格を有しない第三者の立会いを認めなかったのは、法律上守秘義務を負わない第三者が請求人及び取引先等の営業に関する事項等の秘密を知り得る状態において調査を行うことが、守秘義務に違反するおそれがあり、かつ、本件調査担当職員が帳簿書類等の内容や保管状況等について必要かつ十分な質問検査を行うためであったことから、質問検査権の行使は合理的な裁量の範囲内であったと認められる。
(ロ) 請求人は、本件調査の適切な執行の確認、及び不当な調査が行われた場合に請求人が適切な主張を行えるよう、立会いを依頼したのであるから、本件調査担当職員が本件調査の過程で知り得た請求人の個人情報については、請求人が立会いを求めている限り、守秘義務の問題にならない。
 どうしても秘密保持上不都合ならば、その場面に限って立会人を遠ざけるなどの調整を行えば十分であるにもかかわらず、本件調査担当職員が自身において存在を認めている帳簿及び証ひょう類の検査を、第三者がいるため見ることができないとして、自ら拒否したのである。
 さらに、税務調査は納税者の協力を得て行われる任意調査であることから、税務職員は請求人が立会いを依頼した者を排除できない。
 以上のことから、本件調査担当職員が「守秘義務があるため調査できない。」として、何度も帳簿書類等の検査をしなかったことについて正当性はない。
ロ 推計の合理性
 原処分庁が採用した推計方法は、次のとおり合理性があるといえる。
ロ 推計の合理性
 原処分庁が行った推計方法は、次のとおり合理性があるとはいえない。
(イ) 原処分庁が採用した推計方法においては、本件各取引先調査によって把握した本件各年分の事業所得に係る総収入金額を基礎として、請求人の同業者に係る総収入金額に対する青色申告特別控除前の所得金額の割合の平均を乗じて、請求人の本件各年分の事業所得の金額を算定しており、当該推計方法は、真実の所得金額に近似する蓋然性が高いものといえる。 (イ) 原処分庁の算出基準においては、青色申告者の確定申告が適切に計算されたものであって、かつ、請求人の確定申告と比較し得る理由の根拠については示されていない。
 つまり、原処分庁が請求人の所得金額の推計に用いた造林の業態が、請求人には全く不明であり、原処分庁が所得率の高い同業者だけを選んで推計の基礎に用いた可能性も否定できない。
(ロ) 請求人の同業者の抽出に当たっては、1林業を営む者、2青色申告者、3異業種ではなく年間を通じて事業を営んでいる者、4事業所得に係る総収入金額が請求人の0.5倍以上2倍以下である者、及び5J税務署及び隣接する○税務署の管内で林業を営む者の全てに該当する者を請求人の同業者として機械的に抽出した。
 当該抽出基準及び抽出過程は、請求人との類似性を判別する要件として合理性を有し、当該抽出件数(平成28年分4名、平成29年分5名、平成30年分5名)についても、各同業者の個別性を平均化するに足りるものということができる。
(ロ) 原処分庁が算出した同業者の本件各年分の所得率の平均は、年分によってかなりの開差があり(平成28年分14.73%、平成29年分10.27%、平成30年分16.09%)、当該数値の合理性を損なうものであるといえる。 

(3) 争点3(仕入税額控除が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(1)のハのとおり、本件調査担当職員は、本件調査において、請求人に対し、質問検査を行えない状況であったと認められ、仮に、請求人が本件調査時において所定の帳簿及び請求書等を保存していたとしても、通則法第74条の2第1項の規定に基づく税務職員による帳簿及び請求書等の検査に当たって、適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかったといえる。
 これは、消費税法第30条第7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当することから、請求人の本件各課税期間における消費税の納付すべき税額の計算に当たり、仕入税額控除を適用することはできない。
請求人は、本件調査を通して、本件調査担当職員に対し、帳簿及び請求書等を提示していたにもかかわらず、本件調査担当職員は、「立会人がいるため、税務職員の守秘義務が担保されない。」として自ら検査及び調査を拒否しているが、立会いについては、請求人が立会いを求めている限り守秘義務の問題とならず、検査及び調査が可能であったことから、本件は消費税法第30条第7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当せず、仕入税額控除を適用することができる。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件調査に係る手続には原処分の取消事由となる違法又は不当があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられることからすれば、調査手続の瑕疵は、原則として課税処分の効力に影響を及ぼすものではないと解すべきである。
     もっとも、通則法は、第24条《更正》の規定による更正処分及び第25条《決定》の規定による決定処分について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるところ、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
     また、通則法第74条の2第1項は、税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、同項各号に規定する者に対し質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査等の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査等の必要性があり、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解される。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 原処分庁は、本件調査を、通則法第74条の10に規定する事前通知を要しない調査として実施した。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、令和元年8月9日、通則法第74条の9第1項に規定する事前通知を行うことなく、請求人の自宅へ臨場したところ、請求人が不在であったため、請求人の妻に対し、請求人が自宅へ戻ってくることができるかを確認するよう依頼した。
       そして、本件調査担当職員は、請求人へ電話連絡した請求人の妻から、直接請求人と話をしてほしい旨の申出を受け、請求人の妻から手渡された電話にて、請求人に対し、1実地の調査を行う旨伝えた上で、2調査の相手方である請求人の住所及び氏名、3本件調査担当職員の所属官署及び氏名、4調査対象期間及び税目は本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等である旨、5調査の目的は申告書の記載内容の確認である旨、6申告の基となる帳簿書類及びその基となる原始記録を提示してもらいたい旨、及び7調査の途中で非違が疑われることとなった場合には、上記4以外の期間又は税目についても質問検査の対象とする旨をそれぞれ伝え、請求人宅において本件調査に協力するよう要請したところ、請求人から自宅へ戻り次第連絡する旨の回答を受けた。
       本件調査担当職員が請求人からの連絡を待っていたところ、請求人が代表取締役を務めるK社の執行役員と名乗る者から電話連絡を受け、事前通知がないことについて抗議を受けたが、請求人と直接話す旨伝え、電話を終了した。
       その後、本件調査担当職員が請求人へ電話連絡したところ、仕事が忙しく自宅へ戻ることができない旨の申出があったため、本件調査担当職員は、令和元年8月23日午後1時に再度請求人宅へ臨場することを請求人と約し帰署した。
    • (ハ) 本件調査担当職員は、令和元年8月22日、請求人から調査日時の変更の申出があったことを受け、請求人宅への臨場日時を同年9月18日午後1時に変更した。
    • (ニ) 本件調査担当職員は、令和元年9月18日、請求人宅へ臨場したところ、請求人は、第三者4名を立会人として同席させていた。
       本件調査担当職員は、立会人各人の税理士資格の有無を確認したところ、立会人各人から、いずれの者も税理士資格を有していないとの回答を受けた(以下、本件調査における税理士資格を有しない各立会人を「本件各立会人」という。)ことから、請求人に対し、税務職員には守秘義務があるため本件各立会人の同席の下では調査を行うことができない旨を説明し、本件各立会人を話の聞こえない場所へ移動させて帳簿書類等を提示するよう協力を求めたところ、請求人の協力は得られなかった。
       その後も、本件調査担当職員は、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう請求人に繰り返し協力を求めたが、請求人がこれに応じなかったため、本件各立会人が同席している状況では調査を進めることができないと判断し、請求人に対し調査への協力が得られないため帰署する旨を伝え、請求人宅を辞去した。
    • (ホ) 本件調査担当職員は、令和元年9月19日、調査日程を調整するため、請求人へ電話連絡し、次回の調査日時を同年10月23日午後1時と約した。
    • (ヘ) 本件調査担当職員は、令和元年10月23日、請求人宅へ臨場したところ、請求人は帳簿書類等と称する書類を用意していたものの、上記(ニ)の臨場時と同様に、本件各立会人を3名同席させていた。
       本件調査担当職員は、請求人に対し、税務職員には守秘義務があるため本件各立会人の同席の下では調査を行うことができない旨を説明し、本件各立会人を話の聞こえない場所へ移動させ、帳簿書類等を提示するよう協力を求めたが、請求人の協力は得られなかった。
       その後も、本件調査担当職員は、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう請求人に繰り返し協力を求めたが、請求人はこれに応じなかったため、本件各立会人が同席している状況では調査を進めることができないと判断し、請求人に対し調査への協力が得られないため帰署する旨を伝え、請求人宅を辞去した。
    • (ト) 本件調査担当職員は、令和元年10月28日及び同月31日、次回の調査日程を調整するため、請求人へ電話連絡したところ、請求人から、日程を確認して折り返し連絡する旨の申出があった。
       この際、本件調査担当職員は、請求人に対し、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等が提示されなければ、消費税の仕入税額控除の適用を認めることはできない旨を説明したが、請求人からは、今後の調査においても本件各立会人の立会いの下で調査を行ってほしい旨の申出があった。
    • (チ) 本件調査担当職員は、令和元年11月11日、次回の調査日程を調整するため、請求人へ電話連絡したところ、請求人から仕事が多忙であるとの申出があったため、後日、日程を調整することとした。
       この際、本件調査担当職員は、請求人に対し、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう、再度協力を求めたが、請求人は、本件各立会人の立会いがない限り帳簿書類等の提示はできない旨の申出があった。
    • (リ) 本件調査担当職員は、上記(ロ)ないし(チ)のとおり、本件調査における帳簿書類等に基づく質問検査を行えない状況が続いていたことを受け、令和元年11月12日以降、請求人の取引先であるL森林組合及びM森林組合等への本件各取引先調査を実施した。
    • (ヌ) 本件調査担当職員は、令和元年12月2日、請求人との電話連絡において、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう繰り返し協力を要請し、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等が提示されなければ、消費税の仕入税額控除の適用を認めることはできない旨を説明したが、請求人からは、今後においても本件各立会人の立会いの下で調査を行ってほしい旨の申出があった。
    • (ル) 本件調査担当職員は、令和元年12月5日、調査日程を調整するため、請求人へ電話連絡し、次回の調査日時を令和2年1月9日午後1時と約した。
    • (ヲ) 本件調査担当職員は、令和2年1月9日、請求人宅へ臨場したところ、請求人は帳簿書類等と称する書類を用意していたものの、上記(ニ)及び(ヘ)の臨場時と同様に、本件各立会人を2名同席させていた。
       本件調査担当職員は、請求人に対し、税務職員には守秘義務があるため本件各立会人の同席の下では調査を行うことができない旨を説明し、 本件各立会人を話の聞こえない場所へ移動させ、帳簿書類等を提示するよう協力を求めたが、請求人の協力は得られなかった。
       また、本件調査担当職員は、請求人に対し、上記の協力が得られなければ、消費税の仕入税額控除の適用を認めることはできない旨を説明したところ、請求人から、今後においても本件各立会人の立会いの下で調査を行ってほしい旨の申出があった。
       その後も、本件調査担当職員は、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう請求人に繰り返し協力を求めたが、請求人がこれに応じなかったため、本件各立会人が同席している状況では調査を進めることができないと判断し、請求人に対し調査への協力が得られないため帰署する旨を伝え、請求人宅を辞去した。
    • (ワ) 本件調査担当職員は、令和2年1月15日、調査日程を調査するため、請求人へ電話連絡し、次回の調査日時を同年2月4日午後1時とした。
       この際も、本件調査担当職員は、請求人に対し、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示し、調査に協力するよう求めたが、請求人は、自らの意思で立会いを依頼しており、本件各立会人の立会いなしに調査を受けるつもりはない旨の申出があった。
    • (カ) 本件調査担当職員は、令和2年2月4日、請求人宅へ臨場したところ、請求人は帳簿書類等と称する書類を用意していたものの、上記(ニ)、(ヘ)及び(ヲ)の臨場時と同様に、本件各立会人を2名同席させていた。
       本件調査担当職員は、請求人に対し、税務職員には守秘義務があるため本件各立会人の同席の下では調査を行うことができない旨を説明し、本件各立会人を話の聞こえない場所へ移動させ、帳簿書類等を提示するよう協力を求めたが、請求人の協力は得られなかった。
       また、本件調査担当職員は、請求人に対し、上記の協力が得られなければ、消費税の仕入税額控除の適用を認めることはできない旨を説明したところ、請求人から、今後においても本件各立会人の立会いの下で調査を行ってほしい旨の申出があった。
       その後も、本件調査担当職員は、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう請求人に繰り返し協力を求めたが、請求人がこれに応じなかったため、本件各立会人が同席している状況では調査を進めることができないと判断し、請求人に対し調査への協力が得られないため帰署する旨を伝え、請求人宅を辞去した。
    • (ヨ) 本件調査担当職員は、令和2年4月16日、請求人へ電話連絡し、通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項の規定に基づき本件調査に係る調査結果の説明を行った上で、同条第3項の規定に基づき修正申告を勧奨したところ、同月22日、請求人から、修正申告に応じる意思はない旨の申出があった。
  • ハ 検討
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件調査は違法又は不当な調査であり、このような違法又は不当な手続の上でされた原処分は取り消されるべきである旨主張するので、以下検討する。
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイ及びロのとおり、1本件調査担当職員は、通則法第74条の9の規定及び税務運営方針に基づく事前通知をせず請求人宅を訪れたが、請求人を事前通知を要しない対象者として取り扱うのであれば、その客観的事実や合理的判断を具体的に示すべきである旨及び2本件調査担当職員は、請求人の本件調査に係る調査理由を明らかにせず、これは、第72回国会での請願採択に反する行為であり、また、本件調査に係る客観的必要性を説明すべきであるにもかかわらずこれを行っていない旨主張する。
       しかしながら、原処分庁は、上記ロの(イ)のとおり、通則法第74条の10の規定に基づく事前通知を要しない調査として本件調査を実施しているのであるから、原処分庁が事前通知をしないで本件調査をしたことに違法な点は認められない。また、事前通知をしない理由を明らかにすることは法令上規定されていないのであるから、原処分庁が、請求人に対して事前通知をしなかったことに関する客観的事実や合理的判断を具体的に示さなかったからといって違法又は不当となるものではない。
       そして、税務運営方針については、国税庁が円滑かつ実効的な税務調査等の心構えや一般的指針を内部的に定めたものにすぎず、これに定められた内容を根拠として具体的な調査が直ちに違法又は不当となるものではない。
       さらに、調査担当職員が通則法第74条の2の規定に基づく質問検査に際し、具体的な調査理由及び調査に係る客観的必要性を明らかにしなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、また、国会で採択された請願は、税務執行に当たって法的な拘束力を有するものではないことから、原処分庁が具体的な調査理由及び本件調査に係る客観的必要性を説明しなかったからといって違法又は不当となるものではない。
       したがって、この点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のハのとおり、@原処分の更正通知書において「第三者の立会いを認めないと帳簿書類の提示はできない旨申し立て、帳簿書類を提示されませんでした。」との記載があるが、請求人は全ての調査対応日において帳簿書類等を用意して本件調査担当職員に示したこと、及びA税務調査は納税者の協力を得て行われる任意調査であり、税務職員は請求人が選定した立会人を排除できないことから、本件調査担当職員が行った本件各取引先調査は、「反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められた場合に限って行う。」とする税務運営方針に反するものである旨主張する。
       しかしながら、税理士資格を有しない第三者の税務調査への同席については、もとよりこれを認めなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、本件において、本件調査担当職員は国家公務員法第100条第1項に規定する守秘義務に加え、通則法第127条に規定する守秘義務をも負うことから、本件調査担当職員が質問検査等を行うに際し、請求人及び取引先等の営業に関する事項の秘密を守るためなどの配慮から、法律上守秘義務を負わない本件各立会人の本件調査への同席を認めず、本件各立会人を退席させた上で質問検査等を行おうとしたことには合理的な理由があるというべきである。
       その上で、税務調査における帳簿書類等の提示については、調査担当職員がその内容を精査して税額の計算の基礎となる金額が確認できる状態にされなければ、実額計算が可能となるような適切な帳簿書類等の提示があったとはいえないところ、上記ロのとおり、本件調査担当職員は、国家公務員法及び通則法に規定する守秘義務の観点から、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう繰り返し求めたにもかかわらず、請求人は、一貫してその求めに応じなかったのであるから、請求人は、本件調査において帳簿書類等を提示したということはできない。
       また、質問検査等の範囲等については、上記イのとおり、質問検査等の必要性があり、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解される。
       本件においては、上記ロの(ニ)、(ヘ)、(ヲ)及び(カ)のとおり、請求人は、請求人宅を調査場所とする実地の調査(令和元年9月18日、同年10月23日、令和2年1月9日及び同年2月4日)に際し、いずれの日も本件各立会人を同席させていたため、本件調査担当職員は、国家公務員法及び通則法に規定する守秘義務の観点から、本件各立会人の同席を認めず、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう請求人に繰り返し協力を求め、また、上記ロの(ト)、(チ)及び(ヌ)のとおり、請求人との電話でのやり取り(令和元年10月28日、同月31日、同年11月11日及び同年12月2日)においても、請求人に対し、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう繰り返し求めたにもかかわらず、請求人は、一貫してその求めに応じなかったことが認められる。このような状況においては、本件調査担当職員が、適正な課税を実現するために必要な資料を的確に収集することはできないから、本件各取引先調査を行う必要性があったと認められる。
       以上のことから、本件各取引先調査は、本件調査担当職員の質問検査権の行使として適法なものであり、質問検査の必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度を超えて不当と評価すべき行為があったことを示す事実は認められない。
       なお、税務運営方針については、上記(イ)で述べたとおり、税務運営方針に定められた内容を根拠として具体的な調査が直ちに違法又は不当となるものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 以上のとおり、本件調査に係る手続には原処分を取り消すべき違法又は不当があったとは認められないから、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(2) 争点2(推計の必要性及び合理性が認められるか否か。)について

  • イ 推計の必要性の有無
    • (イ) 法令解釈
       所得税法第156条の規定による推計課税は、十分な直接の証拠資料がないため、所得金額を実額で捕捉できない場合に、蓋然的近似値を一応真実の所得金額と認定して課税する制度である。他方、課税は飽くまで実額によることが原則である以上、推計課税は、1納税義務者が帳簿書類等を備え付けておらず収支の内容を明らかにすることができないとき、2帳簿書類等の備付けがあってもその内容に信ぴょう性が認められないとき、3納税義務者が税務調査に際し帳簿書類等の提出を拒むときなど、実額によって所得金額を捕捉することが不可能又は著しく困難であり、推計によらざるを得ない場合に限って許されるものと解されている。
    • (ロ) 検討
       上記(1)のロのとおり、本件調査担当職員は、請求人宅への臨場時及び請求人との電話でのやり取りにおいて、請求人に対し、本件各立会人が同席しない状況で所得計算の基礎となる帳簿書類等を提示するよう繰り返し求めたにもかかわらず、請求人は、本件各立会人の立会いに固執し、一貫して本件調査担当職員の上記要請に応じなかったことが認められる。この事実に照らせば、原処分庁としては、帳簿書類等を基礎とする実額によって請求人の所得金額を把握し、課税することは不可能又は著しく困難であったから、本件には推計の必要性があったと認めるのが相当である。
    • (ハ) 請求人の主張について
       請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイのとおり、1請求人は取引に係る帳簿の記載及び原始記録の保存を行っており、原処分庁が適法に質問検査権を行使すれば実額課税できたにもかかわらず、あえて推計により原処分を行ったこと、及び2請求人の個人情報については、請求人が立会いを求めている限り守秘義務の問題にならず、また、本件調査担当職員は、本件各立会人を遠ざけるなどの調整を行うことなく帳簿書類等の検査を自ら拒否したのであり、本件調査担当職員が守秘義務を理由に帳簿書類等の検査を行わなかったことに正当性はないことから、推計の必要性があったとは認められない旨主張する。
       しかしながら、本件調査における帳簿書類等の提示については、上記(1)のハの(ロ)のとおりであり、1請求人が主張する帳簿の記載及び原始記録の保存が仮にあったとしても、本件調査担当職員がその内容を精査して税額の計算の基礎となる金額が確認できる状態にされなければ、請求人から実額計算が可能となるような適切な帳簿書類等の提示があったといえず、実額課税ができなかったこと、2本件調査担当職員は、守秘義務の観点から請求人及び取引先等の営業に関する事項の秘密を守る必要があり、本件各立会人を退席させるよう再三にわたり求めたが、請求人はこれに応じなかったため、請求人が用意していた帳簿書類等と称する書類を確認することなく辞去したことは合理的な判断であったといえることから、請求人が主張するような「検査を自ら拒否した。」といった評価に当たらない。
       したがって、推計の必要性があったと認められるから、請求人の主張には理由がない。
  • ロ 推計の合理性の有無
    • (イ) 認定事実
       原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
      • A 原処分庁は、別表3−1の「原処分庁主張額」欄の「合計」欄のとおり、本件各取引先調査により、請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額を把握した。
      • B 原処分庁は、請求人と業種及び業態に類似性があり、事業規模が同規模程度であると判断した同業者(以下「本件類似同業者」という。)の抽出基準として、本件各年分において、1林業を営んでいる個人事業者であること、2J税務署及び隣接する○税務署の管内に事業所を有すること、3青色申告書により所得税等の確定申告書を提出していること、4林業以外の事業を兼業していないこと、5事業所得に係る総収入金額が請求人の総収入金額の0.5倍以上2倍以下の範囲にあること、6元請先等から伐採、伐採後の整地及び植栽に係る労務作業を請け負っている者であること、7開業又は廃業の事実がなく、一年を通じて事業を営んでいることの全ての条件に該当する者を機械的に、平成28年分は4名、平成29年分及び平成30年分は各5名をそれぞれ抽出した。
         なお、原処分時点において、上記抽出基準に基づき抽出された者の中に、申告内容について不服申立中又は係争中の者は含まれていない。
      • C 原処分庁は、上記Bで抽出した本件類似同業者の総収入金額に対する所得金額(青色申告者に対してのみ認められる青色事業専従者給与等の特典を除いた所得金額をいい、以下「特前所得金額」という。)の割合を算出してその平均値(以下「平均所得率」という。)を求め、これを上記Aの総収入金額に乗じ、更に平成28年分及び平成29年分については事業専従者控除額を差し引くことにより、請求人の本件各年分の事業所得の金額を算定した。
    • (ロ) 検討
       請求人は、当審判所の調査・審理手続において、実額計算に係る主張をしないことから、当審判所においても、原処分庁の採用した推計方法の当否を原処分関係資料等により検討するとともに、推計の方法により請求人の本件各年分の事業所得の金額を算定する。
      • A 推計方法の合理性について
         原処分庁は、上記(イ)のCのとおり、請求人の本件各年分の事業所得の金額を算定している。
         一般に、業種、業態及び事業規模に類似性のある同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の総収入金額に対し同程度の所得を得るのが通例であり、また、同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は、同業者の比率から平均値を算出する過程において捨象されることからすれば、原処分庁が採用した上記(イ)の推計方法は、抽出された同業者に類似性が認められ、かつ、その基礎数値等が正確なものである限り、合理性を有すると認めるのが相当である。
      • B 本件各年分の事業所得に係る総収入金額の正確性について
         原処分庁は、上記(イ)のAのとおり、本件各取引先調査により請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額を把握しているところ、当審判所の調査及び審理の結果においても、請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額は、それぞれ別表3−1の「審判所認定額」欄のとおりとなり、原処分庁が把握した額といずれも同額となるから、原処分庁が把握した請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額は、推計の基礎となる事実として正確に把握されていると認められる。
      • C 本件類似同業者の抽出基準及び抽出方法の合理性について
         原処分庁は、本件類似同業者を抽出するに当たり、業種及び業態の類似性、個人又は法人の別、事業所の所在地の近接性、資料の正確性並びに事業規模の類似性等に係る基準を設けて、上記(イ)のBのとおり、これらの条件に全て該当する者を抽出したのであるから、原処分庁が採用した抽出基準は、請求人との類似性を判別する要件として合理性を有するものであり、また、その抽出過程に原処分庁の恣意が介在したとの事実は認められないことから適切である。そして、平均所得率の算出に使用した資料は、いずれも帳簿書類等が整っている青色申告者の決算書であり、かつ、申告内容について不服申立中又は係争中ではない者のものであるから、その信頼性ないし正確性は高いものであり、さらに、本件類似同業者の件数も、各同業者の個別性を平均化するに足るものということができるため、本件類似同業者と請求人との間には類似性があり、原処分庁の本件類似同業者の抽出基準及び抽出方法は、一応の合理性を有するものであると認められる。
      • D 事業所得の金額の計算について
         上記AないしCを基に請求人の本件各年分の事業所得の金額を計算すると、次のとおりとなる。
        • (A) 本件各年分の事業所得に係る総収入金額
           請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額は、上記Bのとおり、別表3−1の「審判所認定額」欄の「合計」欄のとおりとなる。
        • (B) 本件各年分の平均所得率
           原処分庁は、請求人の本件各年分における平均所得率について、別表3−2の「原処分庁主張率」欄の「平均所得率」欄のとおり、それぞれ平成28年分が14.73%、平成29年分が10.27%及び平成30年分が16.09%となる旨主張する。
           しかしながら、平成29年分の平均所得率の計算過程において、本件類似同業者のうち1名に損失の金額が生じていたにもかかわらず、その者の所得率を0.00%で計算しているところ、当審判所の調査したところによると、その者の平成29年分の所得率を0.00%とすべき特殊な事情は認められないことから、当該所得率は損失の金額で算出した△19.17%で計算すべきである。
           そこで、当審判所において再計算した結果、本件各年分の平均所得率は、それぞれ別表3−2の「審判所認定率」欄の「平均所得率」欄のとおり、平成28年分が14.73%、平成29年分が6.43%及び平成30年分が16.09%となる。
        • (C) 本件各年分の事業所得の金額
           請求人の本件各年分の事業所得の金額は、上記(A)の本件各年分の事業所得に係る総収入金額に上記(B)の平均所得率を乗じ、平成28年分及び平成29年分については事業専従者控除額860,000円を控除して計算すると、それぞれ別表3−3の「審判所認定額」欄の「所得金額(事業所得)」欄のとおり、平成28年分が〇〇〇〇円、平成29年分が〇〇〇〇円及び平成30年分が〇〇〇〇円となる。
    • (ハ) 請求人の主張について
       請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のロのとおり、1青色申告の承認を受けた者の確定申告が適切になされており、これをもって請求人の確定申告と比較しうる根拠が示されていないこと、2原処分庁が請求人の所得金額の推計に用いた業態が、請求人には全く不明であり、原処分庁が所得率の高い同業者だけを選んで推計の基礎に用いた可能性も否定できないこと、及び3本件各年分の平均所得率は、年分によってかなりの開差があることから、推計の合理性があるとはいえない旨主張する。
       しかしながら、上記(ロ)のCのとおり、原処分庁が採用した本件類似同業者の抽出基準及び抽出方法は合理性を有するものであり、その抽出過程に原処分庁の恣意が介在したとの事実は認められない。また、同業者の平均値により推計する場合には、請求人と業種、業態及び事業規模等が類似する相当数の同業者を年分ごとに抽出し、その平均値を算出することによって、推計の合理性が高められるのであるから、本件各年分の平均所得率が年分ごとに開差があるからといって、そのことをもって原処分庁の推計方法に合理性がないというのは相当ではない。
       したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。

(3) 争点3(仕入税額控除が認められるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     事業者が消費税法第30条第1項に規定する仕入税額控除の適用を受けるには、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項に規定するとおり、消費税法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等(帳簿については同条第8項第1号、請求書等については同条第9項第1号)を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法第74条の2第1項の規定に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要するのであって、事業者がこれを行っていなかった場合には、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当し、事業者が災害その他やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条第1項の規定は適用されないものと解される(最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決・民集58巻9号2458頁参照)。
  • ロ 検討
     本件調査担当職員は、上記(1)のロのとおり、請求人に対し、請求人宅への臨場時又は電話連絡時において、帳簿書類等の提示がない場合には消費税の仕入税額控除の適用を受けることはできない旨を繰り返し説明した上で、本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう求めていたにもかかわらず、請求人はこれに応じなかったと認められる。
     これらの各事実によれば、請求人は、通則法第74条の2第1項の規定に基づく調査担当職員の検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて帳簿書類等を保存していたとはいえない。また、消費税法第30条第7項ただし書に該当するような事情も認められない。
     したがって、請求人の本件各課税期間の消費税について、仕入税額控除は適用されない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のとおり、本件調査を通して本件調査担当職員に対し、帳簿書類等を提示していたにもかかわらず、本件調査担当職員が自ら検査及び調査を拒否しているが、請求人が立会人の立会いを求めている限り守秘義務の問題とならず、検査及び調査が可能であったことから、本件は消費税法第30条第7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当せず、仕入税額控除を適用することができる旨主張する。
     しかしながら、上記(1)のロのとおり、本件調査の経過等によれば、請求人は、本件調査担当職員から本件各立会人が同席しない状況で帳簿書類等を提示するよう繰り返し求められたにもかかわらず、一貫してその求めに応じなかったことからすると、請求人は、本件調査において帳簿書類等を提示したということはできないのであるから、通則法第74条の2第1項の規定に基づく調査担当職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて帳簿書類等を保存していたとはいえない。
     また、上記(1)のハの(ロ)のとおり、本件調査担当職員が、本件各立会人を退席させるよう求めたところ、請求人がこれに応じなかったため、請求人が用意していた帳簿書類等と称する書類を確認することなく辞去したことは合理的な判断であったといえるから、請求人が主張するような「自ら検査及び調査を拒否」したといった評価には当たらず、上記ロの判断を左右するものともいえない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件各年分の所得税等に係る各更正処分の適法性について

  • イ 平成28年分及び平成30年分の所得税等に係る各更正処分
     当審判所で認定した請求人の平成28年分及び平成30年分の事業所得の金額は、別表3−3の「審判所認定額」欄の「所得金額(事業所得)」欄のとおりとなり、当該各年分における総所得金額は、別表3−3の「審判所認定額」欄の「総所得金額」欄のとおりとなる。そして、当該総所得金額に基づき請求人の平成28年分及び平成30年分の納付すべき各税額を算出すると、それぞれ別表3−3の「審判所認定額」欄の「納付すべき税額」欄のとおりとなり、平成28年分及び平成30年分の所得税等に係る各更正処分における所得税等の額と同額となる。
     なお、請求人は、平成28年分及び平成30年分の所得税等に係る各更正処分のその他の部分については争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は見当たらない。
     したがって、平成28年分及び平成30年分の所得税等に係る各更正処分はいずれも適法である。
  • ロ 平成29年分の所得税等に係る更正処分
     当審判所で認定した請求人の平成29年分の事業所得の金額は、別表3−3の「審判所認定額」欄の「所得金額(事業所得)」欄のとおりとなり、総所得金額もこれと同額となる。そして、当該総所得金額に基づき請求人の平成29年分の納付すべき税額を算出すると、別表3−3の「審判所認定額」欄の「納付すべき税額」欄のとおり〇〇〇〇円となるところ、これらの総所得金額及び納付すべき税額は、平成29年分の所得税等に係る更正処分における総所得金額及び納付すべき税額をいずれも下回ることとなる。
     なお、請求人は、平成29年分の所得税等に係る更正処分のその他の部分については争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は見当たらない。
     したがって、平成29年分の所得税等に係る更正処分は、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 本件各年分の所得税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分の適法性について

  • イ 平成28年分及び平成30年分の所得税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分
     上記(4)のイのとおり、平成28年分及び平成30年分の所得税等に係る各更正処分はいずれも適法であり、当該各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該各更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
     そして、当審判所においても、請求人の平成28年分及び平成30年分の所得税等に係る過少申告加算税の額は、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいてされた平成28年分及び平成30年分の所得税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分の額と同額であると認められる。
     したがって、平成28年分及び平成30年分の所得税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
  • ロ 平成29年分の所得税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分
     上記(4)のロのとおり、平成29年分の所得税等に係る更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の基礎となる税額は〇〇〇〇円となるところ、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
     そして、これに基づき平成29年分の所得税等に係る過少申告加算税の額を計算すると〇〇〇〇円となり、平成29年分の所得税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分の額を下回るから、当該賦課決定処分は、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 本件各課税期間の消費税等に係る各更正処分の適法性について

請求人の本件各課税期間に係る基準期間における課税売上高は、いずれも1,000万円を超えていることから、請求人は、本件各課税期間において、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定の適用を受けない。
 そして、本件各課税期間の課税標準額は、別表2の本件各課税期間の「課税標準額」欄と同額となるところ、これに基づき本件各課税期間の消費税等の額を計算すると、いずれも本件各課税期間の消費税等に係る各更正処分の額と同額となる。
 なお、請求人は、本件各課税期間の消費税等に係る各更正処分のその他の部分については争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各課税期間の消費税等に係る各更正処分はいずれも適法である。

(7) 本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分の適法性について

上記(6)のとおり、本件各課税期間の消費税等に係る各更正処分はいずれも適法であり、当該各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該各更正処分前の税額の基礎とされなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 そして、当審判所においても、請求人の本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額は、通則法第65条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分の額といずれも同額であると認められる。
 したがって、本件各課税期間における消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

5 結論

よって、審査請求は理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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