(令和3年6月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人A(以下「請求人A」という。)及び同D(以下「請求人D」といい、請求人Aと併せて「請求人ら」という。)が、未分割遺産を法定相続分の割合に従って取得したものとしてその課税価格を計算して相続税の申告をした後、当該未分割遺産の分割が行われたことから、各更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該各更正の請求は期限を徒過したものであるとして、更正をすべき理由がない旨の各通知処分をしたのに対し、請求人らが、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令は、別紙2記載のとおりである。
 なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文においても使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ E(以下「本件被相続人」という。)は、平成29年11月○日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件被相続人の共同相続人は、長女である請求人Aと、長男である請求人Dの二人である。
  • ロ 本件被相続人は、その所有する別表1の「分筆前」欄に記載の各土地上に存する建物に、請求人Aと共に居住していた。
  • ハ 請求人らは、平成30年9月25日、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表2の「申告」欄のとおり記載した申告書を原処分庁へ提出し、本件相続税の期限内申告(以下「本件申告」という。)をした。本件申告では、遺産について、申告期限までに分割されていたF農業協同組合の年金共済の権利を除き未分割であったため、本件特例を適用することなく、その未分割のものについて相続税法第55条の規定により課税価格が計算されており、また、上記の申告書には「申告期限後3年以内の分割見込書」(以下「分割見込書」という。)が添付されていた。
  • ニ 別表1の各土地は、平成30年12月21日、同表の「分筆後」欄のとおり分筆され、請求人らは、同月26日付で、本件相続に係る同表の順号1及び2の各土地を請求人Dが、上記ロの建物及びその敷地の用に供されていた同表の順号3ないし6の各土地(以下「本件長女取得宅地」という。)を請求人Aが、それぞれ取得することを内容とする遺産分割(以下「本件遺産分割」という。)の協議書を作成した。また、本件長女取得宅地は、いずれも、本件相続を原因として、平成30年12月27日受付の申請により、本件被相続人から請求人Aへの所有権移転登記が経由された。
  • ホ 請求人らは、令和元年6月17日、上記ハのF農業協同組合の年金共済の権利及び別表1の各土地以外の遺産の分割協議をした。
  • ヘ 請求人らは、令和元年6月18日、本件相続の遺産分割がまとまったとして、別表2の「更正の請求1」欄のとおり本件相続税の各更正の請求をした。当該各更正の請求では、本件遺産分割及び上記ホの遺産の分割協議に基づいて請求人らの取得財産の価額を計算し、その計算において、本件長女取得宅地に本件特例を適用することを求めていた。
  • ト 請求人らは、上記への各更正の請求について、原処分庁の担当者から、本件特例の適用は認められないが、その他の更正の請求部分については、請求のとおりに更正処分をする予定であるので、事務処理上の都合により、一旦取り下げてほしいとの説明を受けて、令和元年10月4日、いずれも取り下げるとともに、本件相続税の課税価格を本件長女取得宅地に本件特例を適用しないところで計算した別表2の「更正の請求2」欄のとおりの各更正の請求をした。
  • チ 原処分庁は、令和元年10月29日付で、上記トの各更正の請求について、いずれもその全部を認容し、別表2の「更正処分」欄のとおり各更正処分をした。
  • リ 請求人らは、令和元年12月23日、本件長女取得宅地の価額の計算において本件特例を適用することを求めて、別表2の「本件各更正請求」欄のとおり各更正の請求(以下「本件各更正請求」という。)をした。
  • ヌ 原処分庁は、令和2年3月31日付で、請求人らに対し、本件各更正請求は、相続税法第32条第1項に規定する期間を徒過したものであるとして、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。
  • ル 請求人らは、令和2年6月29日、本件各通知処分を不服として、それぞれ審査請求をするとともに、同年7月9日、請求人Aを総代として選任し、その旨当審判所に届け出た。

2 争点

(1) 本件各更正請求は、相続税法第32条第1項所定の期限内にされたものか否か(争点1)。

(2) 本件各更正請求は、通則法第23条第1項所定の要件に該当するか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各更正請求は、相続税法第32条第1項所定の期限内にされたものか否か。)について

請求人ら 原処分庁
措置法第69条の4第4項ただし書にある「特例対象宅地等が申告期限から3年以内に分割された」というのは、「全ての相続財産が申告期限から3年以内に分割された」と解釈して、相続税法第32条第1項の更正の請求を認めるべきである。
 本件相続では、請求人らの間で遺産分割協議が長引く状況にあり、土地の分割協議は飽くまでその過程の一部であって、本件特例の選択いかんによって代償財産の価額が異なるなど、最終的に全ての遺産分割が確定するまでの期間が必要とされた。
 本件遺産分割の協議書の日付は、書類を作成した日にすぎず、未だ遺産分割の中途であって、相続税法第32条第1項に規定する当該各号に規定する事由が生じたことを知った日であるとの認識が全く無いものであり、最終的に遺産分割協議を行った令和元年6月17日がその事由が生じたことを知った日に該当し、その翌日にした各更正の請求には、原処分庁の事務的な処理の都合で依頼され取下げはしたものの、その認識が表れている。
 これら一連の手続も踏まえ、本件各更正請求は、相続税法第32条第1項所定の期限内にされたものと取り扱われるべきである。
相続税法第32条第1項に規定する当該各号に規定するその事由が生じたことを知った日とは、措置法第69条の4第4項ただし書の事由が、分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内に分割された場合であることからすれば、特例対象宅地等が分割されたことを知った日となる。
 請求人らは、平成30年12月26日、自らを当事者として本件遺産分割をしたのであるから、同日が、本件長女取得宅地が分割されたことを知った日であると認められる。
 そして、請求人らは、措置法第69条の4第4項ただし書の規定に該当したとする各更正の請求を、平成30年12月26日の翌日から4月以内の平成31年4月26日までにする必要があったところ、同日までにしなかった。
 したがって、本件各更正請求は、相続税法第32条第1項所定の期限後にされたものであり、また、令和元年6月17日の翌日にした更正の請求も当該期限後であるから、請求人らの主張によっても、当該期限内にされたものと取り扱われるべきとする理由はない。

(2) 争点2(本件各更正請求は、通則法第23条第1項所定の要件に該当するか否か。)について

請求人ら 原処分庁
措置法第69条の4第4項ただし書では、分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内に分割された場合は、その分割された当該特例対象宅地等については、本件特例の適用は可能である旨が明確に規定されている。
 請求人らは、本件申告に際し、分割見込書を提出しており、本件遺産分割により未分割遺産の3年以内の分割という、大前提が守られている。
 したがって、本件遺産分割により本件特例が適用された計算によるべきところ、本件申告は、これと異なる計算をしているため、当該計算は、通則法第23条第1項第1号が規定する課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことに該当するものであり、同項所定の要件に該当する。
本件特例は、相続により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、分割された特例対象宅地等で当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部で本件特例の適用を受けるものとして政令で定めるところにより、当該特例対象宅地等を取得した個人が選択し、相続税の申告書に本件特例の適用を受けようとする旨を記載し、所定の書類を添付した場合に適用になるものである。
 したがって、本件申告において本件特例が適用されていないとしても、それは、通則法第23条第1項第1号が規定する課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことに該当するものではなく、本件各更正請求は、同項所定の要件に該当しない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各更正請求は、相続税法第32条第1項所定の期限内にされたものか否か。)について

本件長女取得宅地の遺産分割は、上記1の(3)のニのとおり、平成30年12月26日付で、請求人らによって本件遺産分割の協議書が作成され、その翌日には本件相続を原因とする所有権移転登記も申請されている一方、他の日にされたと認めるべき事実がないから、その作成日付のとおり平成30年12月26日に本件遺産分割がされ、同日、請求人らが知ったものと認められる。
 そして、本件各更正請求は、本件長女取得宅地の価額の計算における本件特例の適用について、本件申告の時点では未分割であったが、本件遺産分割により「申告期限から3年以内に分割された場合」に該当したことによりされたものであるから、未分割遺産が分割された一定の場合についての相続税法第32条第1項第1号及び第8号に規定する課税価格及び相続税額が異なることとなったことを知った日についても、本件遺産分割の日であるというべきである。
 したがって、本件特例の適用についてされる相続税法第32条第1項に規定する更正の請求は、本件遺産分割の日の翌日から4月以内にしたものに限られることとなり、請求人らは、これをしなかったものであるから、その後にされた本件各更正請求が相続税法第32条第1項所定の期限内にされたものに該当することはない。

(2) 争点2(本件各更正請求は、通則法第23条第1項所定の要件に該当するか否か。)について

  • イ 本件申告は、上記1の(3)のハのとおり、措置法第69条の4第4項本文の規定に従い、分割されていなかった本件長女取得宅地の価額の計算に本件特例を適用しなかったものであり、通則法第23条第1項第1号に規定する課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったものでも当該計算に誤りがあったものでもない。
  • ロ 本件特例は、措置法第69条の4第4項本文において、相続税の申告書の提出期限までに共同相続人又は包括受遺者によって分割が行われていない遺産については適用しないとしつつ、同項ただし書において、その分割されていない遺産が相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割された場合には、その分割された遺産についてはこの限りでない旨規定しており、遺産分割が行われたときは、その時点において同条第1項を適用することとしたものであって、申告期限時に遡って適用することを規定したものと解することはできない。
     また、本件特例においては、相続税法第19条の2第3項に「国税通則法第23条第3項に規定する更正請求書に、第1項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の計算に関する明細の記載をした書類その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。」とされているような通則法第23条第1項の規定が適用できることを明確に示す規定がない。
     このように、申告期限までに未分割であった遺産への本件特例の適用は、措置法第69条の4第4項ただし書に該当した時点、すなわち、遺産分割の時点の事実関係及び法律関係を前提にすべきものである。
  • ハ そして、本件各更正請求は、本件遺産分割の時点の事実関係及び法律関係を前提に本件特例を適用できるとするものであって、申告期限を基準として通則法第23条第1項第1号所定の事由に該当するものとはならない。
  • ニ したがって、本件各更正請求は、通則法第23条第1項所定の要件に該当しない。

(3) 請求人らの主張について

  • イ 請求人らは、上記3の(1)の「請求人ら」欄のとおり、本件特例を適用するための更正の請求の事由を全ての遺産が分割されたことと解釈して、本件各更正請求が相続税法第32条第1項所定の期限内にされたものと取り扱われるべきなどと主張する。
     しかしながら、上記(1)のとおり、本件長女取得宅地は、本件遺産分割によって遺産分割されたものと認めるほかなく、他の遺産について分割を終えるまで未分割であったことにはならないし、令和元年6月17日の遺産分割協議の日の翌日にした上記1の(3)のヘの更正の請求にあっても、本件遺産分割の日の翌日から4月を経過していたのであるから、一連の手続からも請求人らが主張するように取り扱うべき理由がない。
  • ロ 請求人らは、上記3の(2)の「請求人ら」欄のとおり、本件申告に際し分割見込書を提出し、本件遺産分割をしたことにより、本件特例が適用された計算によるべきところ、これと異なる計算をしている本件申告には誤りがあるため、本件各更正請求は、通則法第23条第1項所定の要件に該当する旨主張する。
     しかしながら、請求人らの主張は、本件遺産分割の時点の事実関係及び法律関係に基づくものであって、申告期限を基準として通則法第23条第1項第1号所定の事由に該当するものとはならないことは、上記(2)のハのとおりである。
  • ハ 以上のとおり、請求人らの主張には、いずれも理由がない。

(4) 本件各通知処分の適法性について

本件各更正請求は、上記(1)のとおり、相続税法第32条第1項所定の期限内にされたものに該当せず、また、上記(2)のとおり、通則法第23条第1項所定の要件に該当しない。
 そして、本件各通知処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所においてもこれを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各通知処分はいずれも適法である。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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