(令和3年6月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地の所有権移転登記を受けるに当たり納付した登録免許税の額が過大であったとして、原処分庁に対し、所轄税務署長に対する還付通知をすべき旨の請求をしたところ、原処分庁が、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等の要旨は、別紙のとおりである(なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。)。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ d市e町○−○に所在する土地(地積1,346u。以下「本件土地」という。)は、令和元年12月23日付で、d市e町○−○に所在する土地(以下「本件分筆前土地」という。)から分筆された2筆の土地のうちの1筆であり、令和2年1月10日付で、地目を田から雑種地に変更する旨の登記がされたものであるところ、令和元年12月31日現在において固定資産課税台帳に登録された価格はなく、令和2年1月1日現在において固定資産課税台帳に登録された価格は○○○○円であった(以下、当該価格を「令和2年度台帳価格」という。)。
     本件土地は、固定資産評価基準に定める普通住宅地区に所在し、奥行きが約70mと南北に細長い台形に近い不整形地であり、その北西側には、F市道f線(以下「本件市道」という。なお、固定資産の評価に適用される本件市道に付設された平成31年度及び令和2年度の路線価は、1u当たり○○○○円であった。)が存し、本件土地は本件市道よりも約50p低くなっているところ、これらの位置関係等の概略を図示すると、別図のとおりであった。
     また、本件土地の上には、令和元年12月31日までに設置工事を完了した太陽光発電施設があり、それ以降、太陽光発電施設用地として利用されていた。
  • ロ 本件土地の所有者であったFは、令和2年1月24日、G社との間で、代金全額の支払を条件として、当該所有者から当該会社の指定する者に対して本件土地の所有権を直接移転する旨合意した。そしてG社は、同日に、所有権の移転先として請求人を指定するとともに、本件土地を代金2,000,000円で買い受ける旨合意したところ、請求人がその代金全額を支払ったことから、請求人は本件土地の所有権を取得した。
  • ハ H司法書士(以下「本件司法書士」という。)は、令和2年1月24日、F及び請求人からの委任を受けて、B地方法務局D支局に対し、本件土地について、同日売買を原因とする請求人に対する所有権移転登記を申請した(以下、当該申請を「本件登記申請」という。)。
  • ニ 本件司法書士は、本件登記申請に当たり、上記イのとおり、令和元年12月31日現在(施行令附則第3項に規定する基準日)において、本件土地には固定資産課税台帳に登録された価格がなかったことから、J市長(以下「本件市長」という。)が発行した平成31年度の本件分筆前土地に係る地方税法第422条の3の規定に基づく通知書(以下「本件地方税法通知書」という。)に記載された近傍宅地(地積427.3u)の価格○○○○円(以下「本件近傍宅地価格」という。)を基にして計算した1u当たりの価額○○○○円に、本件土地の地積を乗じて、課税標準たる本件土地の価額を○○○○円(1,000円未満切捨て)、登録免許税の額を○○○○円(100円未満切捨て)とした上、それに相当する金額の印紙を登録免許税納付用紙に貼り付けて提出し、これを納付した。
  • ホ B地方法務局D支局登記官Kは、これを受けて、課税標準たる本件土地の価額を○○○○円(1,000円未満切捨て)と認定した上(以下、当該認定額を「本件登記官認定額」という。)、本件土地について、本件登記申請どおりの登記をした(以下、当該登記を「本件登記」という。)。
     なお、原処分庁は、令和2年4月1日付の人事異動により、B地方法務局D支局登記官KからB地方法務局D支局登記官Eとなった。
  • ヘ 請求人は、令和2年度台帳価格が、本件登記の時における本件土地の正当な価額であり、これを基礎に計算した登録免許税額○○○○円(100円未満切捨て)と、上記ニにおける登録免許税額○○○○円との差額である○○○○円は過誤納であるとして、令和2年8月26日、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定に基づき、原処分庁に対し、所轄税務署長に対する還付通知をすべき旨の請求をした。
  • ト 原処分庁は、上記ヘの還付通知をすべき旨の請求に対し、令和2年9月11日付で、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
  • チ 請求人は、本件通知処分を不服として、令和2年10月21日に審査請求をした。

2 争点

本件登記官認定額が課税標準たる本件土地の価額として過大であるか否か。

3 争点についての主張

請求人 原処分庁
本件土地における1その地目が雑種地であること、2間口が狭く、奥行きが長い不整形地であること、3がけ地を有し、道路面よりも低いため、宅地として利用するためには、多額の造成費が見込まれること、4実際の取得価額が2,000,000円であり、令和2年度台帳価格も○○○○円とされていたことなどの事情を考慮すれば、本件登記官認定額○○○○円は、本件土地の時価と著しく乖離しており、施行令附則第3項の規定に基づき、本件土地に類似した不動産の固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として計算したものとはいえない。
 これに対し、令和2年度台帳価格は、本件土地の実態に即して評価されたものであり、施行令附則第3項の規定に基づき、本件土地に類似する土地の固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として計算しても、課税標準たる本件土地の価額は、令和2年度台帳価格と同額になるはずである。
 また、本件土地は、上記1(3)イの地目変更後に実地調査が行われていない状況にあったところ、当該事情は、施行令附則第4項に規定する特別の事情に該当するから、課税標準たる本件土地の価額は、当該事情を考慮して認定すべきであり、この点でも、当該事情が反映された令和2年度台帳価格を基にして認定すべきといえる。
 したがって、課税標準たる本件土地の価額は、上記1(3)ヘのとおり、令和2年度台帳価格を基にして認定すべきであり、それを上回る本件登記官認定額は過大であると認められる。
課税標準たる本件土地の価額は、施行令附則第3項の規定に基づき、令和元年12月31日現在における本件土地に類似する不動産の固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として認定すべきであるところ、本件登記官認定額は、それに沿って、本件地方税法通知書に記載された本件近傍宅地価格を基にして計算した1u当たりの価額に、本件土地の地積を乗じるなどして認定したものであるから、課税標準たる本件土地の価額として適法に認定されたものといえる。
 したがって、本件登記官認定額は、課税標準たる本件土地の価額として過大とはいえない。
 これに対し、請求人は、本件土地の地目、形状等の事情からすれば、本件登記官認定額が本件土地の時価と著しく乖離しており、課税標準たる本件土地の価額として過大である旨などを主張するが、上記で述べたように、課税標準たる本件土地の価額は、令和元年12月31日現在における本件土地に類似する不動産の固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として認定すべきものであるし、本件登記官認定額の計算において基礎とした本件近傍宅地価格は、請求人の主張する事情をよく把握している本件市長が発行した本件地方税法通知書の記載に基づくものであり、それを基礎とする本件登記官認定額の認定は適法であったといえる。
 なお、登録免許税の税額は、登記の時に確定するものであるから、その後の事情により評価額が変更したとしても、それをもって、登録免許税法第31条第2項の規定に基づく還付通知の請求をすることはできない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 登録免許税法第10条第1項は、不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額について、当該登記の時における不動産の価額による旨規定しているところ、当該登記の時における不動産の価額とは、当該登記の時における不動産の客観的交換価値、すなわち時価であると解される。
  • ロ また、登録免許税法附則第7条は、登録免許税法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額について、当分の間、固定資産課税台帳に登録された当該不動産の価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定している。これは、登記の時に特別の手続を要せずに納付すべき税額が確定する登録免許税においては、登記官が課税標準たる不動産の価額をその都度判断することは容易でなく、評価方法の選択等によっては評価が異なるおそれもあることから、課税の公平、納税者の便宜等を考慮し、固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として課税標準たる不動産の価額を計算することにしたものであると解される。
  • ハ そして、登録免許税法附則第7条の規定による委任を受けた施行令附則第3項は、固定資産課税台帳に登録された価格のある不動産については、当該不動産の固定資産課税台帳に登録された価格に100分の100を乗じて計算した金額に相当する価額とし、固定資産課税台帳に登録された価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産で固定資産課税台帳に登録された価格のあるものは、その類似する不動産の固定資産税課税台帳に登録された価格に100分の100を乗じて計算した金額に相当する価額とする旨規定している。このように固定資産課税台帳に登録された価格のない不動産について、当該不動産に類似する不動産の固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として計算することにした趣旨は、固定資産課税台帳に登録された価格のない不動産についても、固定資産課税台帳に登録された価格に依拠して計算することにより、固定資産課税台帳に登録された価格がある場合とそれがない場合における価額の均衡を図ることにあると解される。このような趣旨に照らすと、施行令附則第3項に規定する当該不動産に類似する不動産とは、当該不動産と価額の均衡が図られる近傍類似の不動産を意味するものというべきであり、その類似性の有無は、価額に影響を及ぼすことになる不動産の形状、地積、間口、奥行き、利用状況、接道状況、土地利用に係る行政上の規制等の内容等を比較して判断すべきであると解される。
  • ニ 一方で、固定資産課税台帳に登録された価格のない不動産について、施行令附則第3項に規定する当該不動産に類似する不動産が存在しない場合には、登録免許税法附則第7条及び施行令附則第3項に規定する方法によって直ちに課税標準たる不動産の価額を決定することはできないことになる。
     しかしながら、登録免許税法附則第7条及び施行令附則第3項に規定する方法によって課税標準たる不動産の価額を計算するときには、固定資産課税台帳に登録された価格を基礎とするところ、この固定資産課税台帳に登録された不動産の価格は、固定資産評価基準に定める評価方法に従って決定された価格が登録されたものであり(地方税法第380条第1項及び第403条第1項等の規定参照)、それとの均衡等を考慮すると、固定資産課税台帳に登録された価格のない不動産について、施行令附則第3項に規定する当該不動産に類似する不動産が存在しない場合にも、固定資産評価基準に定める評価方法に従って決定した価額が適正な時価を表さないといえるような特段の事情がない限り、固定資産評価基準に定める評価方法に従って決定するのが相当であり、それによって決定した価額をもって、課税標準たる当該不動産の価額と推認することができるものと解される。

(2) 検討

  • イ 上記1(3)ハのとおり、本件登記申請は、令和2年1月24日にされているから、施行令附則第3項に規定する基準日は、令和元年12月31日現在になるところ、上記1(3)イのとおり、本件土地については、同日現在において固定資産課税台帳に登録された価格がなかったことが認められる。
  • ロ そして、施行令附則第3項に規定する当該不動産に類似する不動産で固定資産課税台帳に登録された価格があるものが存在するのであれば、その価格を基礎として計算することができることになるが、当審判所に提出された証拠資料等によれば、本件土地の近傍には、本件登記申請の日において、本件土地と形状、地積、間口、奥行き、利用状況及び接道状況、土地利用に係る行政上の規制等が類似する土地は存在しなかったことが認められるから、施行令附則第3項に規定する当該不動産に類似する不動産は存在しないといえる。
  • ハ また、本件登記官認定額は、本件地方税法通知書に記載された本件近傍宅地価格を基にして計算した1u当たりの価額に、本件土地の地積を乗じるなどして認定したものであるが、当審判所に提出された証拠資料等によれば、本件地方税法通知書に記載された本件近傍宅地価格は、当該宅地が接する道路に付設された平成31年度の路線価(1u当たり○○○○円)を基にして、単に近傍宅地の地積を乗じて計算したものであり、上記1(3)イの本件土地の形状等も考慮されていなかったことが認められるから、施行令附則第3項に規定する当該不動産に類似する不動産の固定資産課税台帳に登録された価格とはいえない。
  • ニ そのため、上記(1)ニの法令解釈に照らし、本件土地について、固定資産評価基準に定める評価方法に従って決定した価額を検討すべきことになる。
     そして、当審判所に提出された証拠資料等によれば、固定資産評価基準に従って定められたF市土地評価事務取扱要領には、「画地計算法」に用いる補正率等が定められるとともに、太陽光発電施設用地の評価は地目を雑種地と認定し、類似する雑種地の売買実例価格の収集が困難であることから、近傍地比準方式により、比準する土地の地目が宅地である場合には、宅地価格から宅地として利用するために必要な造成費相当分を控除した価額を目途として評価する旨などが定められているところ、上記1(3)イのとおり、太陽光発電施設用地として利用されていた本件土地の形状等に照らし、当該要領に定められた当該補正率等に当てはめて計算した本件土地の価額は○○○○円であると認められる(なお、当該価額は、令和2年度台帳価格と同額となる。)。
     その他に、当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、上記(1)ニの特段の事情があるとうかがわせる事情は存在しないから、課税標準たる本件土地の価額は、○○○○円(1,000円未満切捨て)とするのが相当であり、これを上回る本件登記官認定額は、課税標準たる本件土地の価額として過大であると認められる。
  • ホ これに対し、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄のとおり、本件登記官認定額は、本件市長が発行した本件地方税法通知書に記載された本件近傍宅地価格を基にして計算した1u当たりの価額に、本件土地の地積を乗じるなどして認定したものであるから、課税標準たる本件土地の価額として過大とはいえない旨、登録免許税の税額は、登記の時に確定するものであるから、その後の事情により評価額が変更したとしても、それをもって、登録免許税法第31条第2項の規定に基づく還付通知の請求をすることはできない旨を主張する。
     しかしながら、本件近傍宅地価格をもって、施行令附則第3項に規定する当該不動産に類似する不動産が存在するとはいえないことは、上記ロ及びハのとおりであるし、本件登記官認定額は、本件近傍宅地価格を基にして計算した1u当たりの価額に本件土地の地積を乗じたにすぎず、本件土地の形状等に応じた補正等も行っていないから、本件登記官認定額について、本件土地の適正な時価を合理的に算定したものであると認めることもできない。また、当審判所の上記判断は、登録免許税の税額の確定後の事情を考慮したものではないから、この点に関する原処分庁の主張は前提を欠いている。
     したがって、原処分庁の主張はいずれも理由がない。

(3) 本件通知処分の適法性

以上のとおり、課税標準たる本件土地の価額は、○○○○円(1,000円未満切捨て)とするのが相当であり、これを上回る本件登記官認定額は、課税標準たる本件土地の価額として過大であると認められる。そして、これに基づき、当審判所において本件登記に係る登録免許税の額を計算すると、上記1(3)ヘの請求における金額と同額である○○○○円(100円未満切捨て)となり、これと請求人が既に納付した上記1(3)ニの登録免許税の額との差額である○○○○円については、登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法令の規定に従っていなかったことによる過誤納と認められる。
 したがって、上記1(3)ヘの請求は理由があって認められるべきものであるから、本件通知処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

(4) 結論

よって、審査請求には理由があるから、本件通知処分の全部を取り消すこととする。

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