(令和3年8月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人らが、相続により取得した土地が広大地に該当するなどとして、相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該土地は広大地に該当しないとして、その他の部分のみを認容する更正処分をしたことから、審査請求人らが、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等の要旨は、別紙2のとおりである(なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文、別表及び別図においても使用する。)。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ K(以下「本件被相続人」という。)は、平成26年11月○日に死亡し、本件被相続人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
     本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長女である審査請求人L(以下「請求人長女」という。)、二女である審査請求人M(以下「請求人二女」という。)及び長男である審査請求人H(以下「請求人長男」という。)の3名(以下、これらの者を併せて「請求人ら」という。)である。
  • ロ 平成27年8月2日、請求人らの間で本件相続に係る遺産分割協議が成立し、本件被相続人の遺産のうち、1a市d町○−○に所在する土地については請求人二女が相続し、2別表1の土地(以下「本件土地」という。)及びその上に存する木造瓦葺2階建の共同住宅(以下「本件共同住宅」という。)については請求人長男が相続した。
  • ハ 本件相続の開始時における本件土地及びその周辺の状況等は、以下のとおりであった。
    • (イ) 本件土地は、地積993.37平方メートルの長方形の宅地であり、本件相続の開始時において、賃貸用の本件共同住宅の敷地及びその賃借人用の駐車場として一体利用されていた。
    • (ロ) 本件土地は、評価通達14−2に定める路線価地域の普通住宅地区に所在するところ、その東側で接する幅員4mの市道e線に付された路線価は、1平方メートル当たり43,000円であった。また、本件土地の南側には、都市計画道路である市道f線(以下「本件南側市道」という。)が存し、本件土地の東側には、市道g線及び市道h線(以下、これらを併せて「本件東側市道」という。)並びに主要地方道である県道i線(以下「本件県道」という。)が存し、本件土地の北東側には、本件県道から分岐した市道j線(以下「本件北東側市道」という。)が存し、本件土地の北側及び西側には、一級河川であるN川(以下「本件河川」という。)が存するところ、これらの位置関係等を図示すると、別図1のとおりであった。
       なお、別図1において「本件県道」と表示した路線沿いは、評価通達14−2に定める普通商業・併用住宅地区に区分されており、また、同図のそのほかの路線は、普通住宅地区に区分されていた。
    • (ハ) 本件土地は、都市計画法第7条《区域区分》第1項に規定する区域区分が市街化区域、同法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する用途地域(以下「用途地域」という。)が第一種住居地域、建築基準法第53条《建ぺい率》第1項に規定する建蔽率(以下「建蔽率」という。)が60%、同法第52条第1項に規定する容積率(以下「指定容積率」という。)が200%とそれぞれ定められた地域に存していた。また、本件土地の周辺における用途地域の指定状況等の概略を図示すると、別図2のとおりであった。
    • (ニ) a市では、市街化区域内において1,000平方メートル以上の規模の開発行為を行う場合には開発許可が必要であり(以下、各自治体が定める開発許可を要する面積基準を「開発許可面積基準」という。)、また、市街化区域内の分譲等における1区画の面積は、原則として、120平方メートル以上とされていた。
    • (ホ) 本件土地の周辺には、別図3のとおり、都市計画道路の予定地(以下「本件都市計画道路予定地」という。)が存するところ、本件土地は、地積993.37平方メートルのうち676.25平方メートルがその区域内となっていた。
    • (ヘ) 本件土地の周辺には、地価公示の標準地は存しないものの、別図1のとおり、基準地番号を「○○−○」とする都道府県地価調査の基準地(以下「本件基準地」という。)が存するところ、この本件基準地について、平成26年7月1日現在を基準日として公示された事項の要旨は、次のとおりであった。
      • A 所在及び地番 a市k町○−○
      • B 地積 231平方メートル
      • C 利用現況 住宅
      • D 用途地域 第一種中高層住居専用地域
      • E 建蔽率 60%
      • F 指定容積率 200%
      • G 区域区分 市街化区域

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、それぞれの申告書に別表2の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。この申告における本件土地の評価額は、別表1の「申告」欄のとおりであり、広大地に該当することを前提とせずに評価したものであった。
  • ロ 請求人らは、原処分庁所属の職員による調査を受け、平成28年12月26日、それぞれ別表2の「修正申告」欄のとおり記載した本件相続税の修正申告書を提出した。この修正申告における本件土地の評価額は、上記イの申告における評価額と同じであった。
  • ハ これに対し、原処分庁は、平成29年1月10日付で、別表2の「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
  • ニ その後、請求人らは、令和元年7月19日、1上記(3)ロの1の土地は2区画の宅地として利用されており、評価単位ごとに分けて評価すべきであること、2当該土地及び本件土地はいずれも本件都市計画道路予定地の区域内となる部分を有する宅地に該当し、評価通達24−7《都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価》に定める評価方法に従って評価すべきであること、及び、3本件土地は広大地に該当し、評価通達24−4に定める評価方法に従って評価すべきであることを理由として、別表2の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の各更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をした。この本件各更正の請求における本件土地の評価額は、別表1の「更正の請求」欄のとおりであった。
  • ホ これに対し、原処分庁は、上記ニの1及び2の理由については、いずれも相当と認められるが、上記ニの3の理由については、本件土地の地積がa市の定める開発許可面積基準に満たないことなどから、本件土地は広大地に該当しないとして、令和元年10月18日付で、別表2の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各変更決定処分をした。この本件各更正処分における本件土地の評価額は、別表1の「更正処分」欄のとおりであった。
  • ヘ 請求人らは、本件各更正処分の全部に不服があるとして、令和2年1月14日に審査請求をするとともに、請求人長男を総代として選任し、その旨を当審判所に届け出た。

2 争点

本件土地が広大地に該当するか否か。

3 争点についての主張

請求人ら 原処分庁
(1) 大規模工場用地に該当しないこと、その地域の標準的な宅地の使用及び更地としての最有効利用が戸建住宅の敷地としての利用であること並びに評価通達24−4に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」及び「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」にそれぞれ該当することをいずれも満たす場合には、客観的交換価値が大きく低下するから、開発許可面積基準を満たすか否かにかかわらず、広大地に該当するとすべきである。また、開発許可面積基準を満たさない場合であっても、建築基準法第43条に規定する接道義務を果たすために道路を開設する負担をせざるを得ないこともあり、これを踏まえて、平成17年6月17日付資産評価企画官情報第1号「広大地の判定に当たり留意すべき事項(情報)」も、その注書において、ミニ開発分譲が多い地域に存する土地については、開発許可面積基準に満たない場合であっても、広大地に該当することに留意する旨定めていることも考慮すれば、原処分庁の主張するように開発許可面積基準を満たすか否かを評価通達24−4に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当するか否かの判断基準とすることは相当でない。
 そして、本件では、本件土地の周辺における開発事例をみても、開発許可面積基準を満たさないものの比較的広大な土地を小規模に細分化した事例が複数あり、ミニ開発分譲が多い地域に存する土地といえる上、標準的な宅地の地積は、おおむね150平方メートルから180平方メートルまでとすべきであるから、本件土地は、評価通達24−4に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当する。
 なお、ミニ開発分譲とは、分譲後の各土地の地積が標準的な宅地の地積よりも小さくなる場合の開発分譲のことを意味するものではないから、それを前提とする原処分庁の主張は理由がない。
(1) 本件土地の周辺の自然的状況などの土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすものなどを総合勘案すると、本件土地に係る評価通達24−4に定める「その地域」は、本件南側市道、本件県道及び本件河川に囲まれた地域のうち、用途地域が第一種住居地域及び第一種中高層住居専用地域である原処分庁主張地域とするのが相当である。
 また、評価通達24−4に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当するか否かは、原則として、開発許可面積基準を満たすか否かにより判断すべきものであるところ(なお、ここでいう原則に対する例外は、開発許可面積基準を満たす場合であっても、その地域の標準的な宅地の地積と同規模であるときには、これに該当しないことを意味する。)、本件土地の地積は993.37平方メートルであって、a市の開発許可面積基準を満たさないから、これに該当しない。
 なお、原処分庁主張地域における開発事例及び本件基準地の地積によれば、標準的な宅地の地積は、おおむね170平方メートルから230平方メートルまでであるところ、請求人らの開発事例の平均地積は、これと同程度であるから、本件土地は、ミニ開発分譲が多い地域に存する土地とは認められない。
(2) 原処分庁は、本件土地について、別図4−1の開発想定図(以下「原処分庁主張開発想定図」という。)のとおり、路地状開発をすることができる旨主張するが、それによる分譲後の各土地の地積は、上記(1)の標準的な宅地の地積に比して過大であるだけでなく、原処分庁の主張する標準的な宅地の地積に比しても過大である。また、原処分庁が主張する別図5の実線で囲まれた地域(以下「原処分庁主張地域」という。)をみても、ほとんどが道路を開設したものであり、路地状開発が一般的ともいえず、別図4−2の開発想定図(以下「請求人主張開発想定図」という。)のとおり、道路を開設した戸建住宅の分譲をするのが経済的に最も合理性があるといえるから、評価通達24−4に定める「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当する。 (2) 仮に戸建住宅の分譲をするとしても、原処分庁主張地域においては、路地状開発による戸建住宅の分譲が一般的に行われているところ、本件土地は、原処分庁主張開発想定図のとおり、路地状開発をすることで、都市計画法等の規定に反することなく、各区画の地積をおおむね上記(1)の標準的な宅地の地積と同程度とすることができる上、路地状部分を有する2区画については、建蔽率及び容積率の計算上も有利になるから、路地状開発を行うことが合理的といえ、評価通達24−4に定める「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当しない。
(3) なお、原処分庁は、本件土地が現に本件共同住宅の敷地として有効利用されている旨主張するが、広大地に該当するか否かの判断に当たっては、更地としての最有効利用を問題にすべきであり、本件土地が本件共同住宅の敷地として利用されていたとしても、そのことが当該判断を左右することはないし、本件土地及び本件共同住宅の取得価額、維持関連費等を含めて耐用年数中の収支を計算すると、将来的な大規模修繕の負担等を考慮するまでもなく、本件土地の価値は回収できておらず、本件土地が現に有効利用されているということもできない。また、本件土地の周辺をみても、標準的な宅地の使用は戸建住宅の敷地としての利用であって、共同住宅の敷地としての利用が一般的とはいえないし、本件土地の大半が本件都市計画道路予定地の区域内にあるとしても、その実行時期は未定で、実行される蓋然性も乏しい上、原処分庁の主張によると、評価通達24−4の定めと評価通達24−7の定めが重畳適用できることと矛盾するから相当でない。 (3) 本件相続の開始時において、本件土地は本件共同住宅の敷地として利用され、本件共同住宅に係る賃料収入が相当程度あったこと、原処分庁主張地域において共同住宅が50棟以上も存し、共同住宅の敷地としての利用も一般的であるといえること、共同住宅の敷地として利用されていた土地について戸建住宅の分譲をした事例が存しないこと、本件土地の大半が本件都市計画道路予定地の区域内にあり、将来的に戸建住宅の敷地として利用できなくなることなどを考慮すれば、本件土地は、現に本件共同住宅の敷地として有効利用されているものといえるから、広大地に該当しない。
(4) 以上に加え、大規模工場用地に該当しないことなどを考慮すれば、本件土地は広大地に該当する。 (4) 以上によれば、本件土地は広大地に該当しない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 相続税法第22条に規定する「時価」とは、相続等による財産の取得の時における当該財産の客観的交換価値をいうものと解されるところ、この客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではなく、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則として、これに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。このような取扱いは、評価通達の定める評価方法が相続等により取得した財産の適正な時価を算定する方法として合理性を有するものと認められる限り、租税負担の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点からみて合理的であり、これを形式的に全ての納税者に適用して財産の評価を行うことは、通常、税負担の実質的公平を実現し、租税平等主義にかなうものといえるから、評価対象の財産に適用される評価通達に定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり、かつ、当該財産の相続税の課税価格がその評価方法に従って決定された場合には、評価通達に定める評価方法によるべきではない特別な事情がない限り、評価通達に従って決定された評価額をもって「時価」であると事実上推認することができるものというべきである。
  • ロ 評価通達24−4は、1その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地であること、2開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものであること、3大規模工場用地に該当するものでないこと及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものでないことをいずれも満たす場合に、その評価対象の土地を広大地とした上で、評価通達24−4の(1)又は(2)の定めに応じた減額の補正を行う旨を定めている。
     この趣旨は、評価対象の土地がその地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地であって、当該宅地を当該地域において経済的に最も合理的な用途に供するため、道路、公園等の公共公益的施設用地の負担が必要な開発行為を行わなければならない場合には、当該開発行為により公共公益的施設用地として相当の潰れ地が生じてしまい、評価通達15から同通達20−5までに定める評価方法による減額の補正を行っただけでは十分でないときがあることから、このような土地の評価に当たっては、潰れ地が生じることを評価対象の土地の価額に影響を及ぼす客観的事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うとしたものと考えられ、当審判所においても、評価通達24−4に定める評価方法は適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものと認められる。

(2) 検討

  • イ 本件では、本件土地に適用され得る評価通達に定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであること並びに本件各更正の請求及び本件各更正処分における本件土地の評価額がそれぞれ当該評価方法に従って決定されたものであることについては、本件土地が広大地に該当するとして評価通達24−4に定める評価方法に従って評価すべきか否かという点を除き、請求人ら及び原処分庁は争わず、当審判所においてもこれを不相当とする理由は認められない。そのため、上記(1)の法令解釈に照らすと、本件土地が広大地に該当し、評価通達24−4に定める評価方法に従って評価すべきである場合には、それを前提にして評価した本件各更正の請求における本件土地の評価額が相続税法第22条に規定する「時価」であると事実上推認され、反対に、本件土地が広大地に該当せず、評価通達24−4に定める評価方法に従って評価すべきではない場合には、それを前提にして評価した本件各更正処分における本件土地の評価額が相続税法第22条に規定する「時価」であると事実上推認されることになる。
     そこで、以下において、本件土地が広大地に該当するか否かを検討する。
  • ロ まず、本件土地が広大地に該当するか否かを判断する前提として、本件における評価通達24−4に定める「その地域」がどこかについて検討する。
    • (イ) 評価通達24−4に定める「その地域」とは、1河川、山等の自然的状況、2土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断することになる道路、鉄道、公園等の状況、3行政区域、4都市計画法による土地利用の規制等の公法上の規制など、土地の利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすものなどを総合勘案し、土地の利用状況、環境等がおおむね同一と認められる住宅、商業等の特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解される。
    • (ロ) 本件では、本件土地に係る評価通達24−4に定める「その地域」の南側の境界が本件南側市道であることについては、請求人らも争わず、当審判所においてもこれを不相当とする理由は認められない。
    • (ハ) そこで、本件土地の東側、北側及び西側についてみると、上記1(3)ハ(ロ)のとおり、本件土地の東側には、主要地方道である本件県道が存し、本件土地の北側及び西側には、一級河川である本件河川が存しており、これらによって、土地の利用状況の連続性や地域の一体性が分断されているものといえる。また、本件土地の北東側には、本件県道から分岐した本件北東側市道が存するところ、当審判所に提出された証拠資料等によれば、この本件北東側市道は二車線道路であり、道路の両脇にコンクリートの擁壁が設置されていることが認められるから、これによっても、土地の利用状況の連続性や地域の一体性が分断されているものといえる。
       そして、本件土地の周辺における用途地域の指定状況等は、上記1(3)ハ(ハ)のとおりであり、本件南側市道、本件県道、本件北東側市道及び本件河川で囲まれた地域は、そのほとんどが建蔽率及び指定容積率を同一とする第一種住居地域又は第一種中高層住居専用地域に定められているが、原処分庁主張地域よりも西側については、これらと建蔽率及び指定容積率がいずれも異なる第一種低層住居専用地域に定められていることが認められる。
       加えて、当審判所に提出された証拠資料等によれば、本件南側市道、本件県道、本件北東側市道及び本件河川で囲まれた地域の宅地の大半は、共同住宅の敷地としての利用もあるものの、主に戸建住宅の敷地として利用されていたこと、当該地域のうち、本件東側市道よりも東側については、比較的規模が大きい事務所や店舗等の敷地としても利用されていたこと、また、当該地域は本件県道沿いの土地に限り、評価通達14−2に定める普通商業・併用住宅地区に区分されていたことが認められる。そのため、本件東側市道を境界として土地の利用状況の連続性や地域の一体性が分断されているものといえる。
    • (二) したがって、本件土地に係る評価通達24−4に定める「その地域」は、別図5の破線で囲まれた地域(以下「審判所認定地域」という。)とするのが相当である。
  • ハ 上記ロを前提に、本件土地が評価通達24−4に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当するか否かについて検討する。
    • (イ) 上記(1)ロの趣旨に照らすと、評価通達24−4に定める「標準的な宅地の地積」とは、評価対象となる宅地の付近で状況の類似する地価公示の標準地及び都道府県地価調査の基準地の地積並びにその地域における標準的な宅地の使用に基づく平均的な地積を勘案して求めた地積を指すものと解される。
    • (ロ) 当審判所に提出された証拠資料等によれば、審判所認定地域には、共同住宅は約50棟であるのに対し、戸建住宅は400戸以上もあると認められるから、審判所認定地域における標準的な宅地の使用は、戸建住宅の敷地としての利用であるといえる。
       そして、上記1(3)ハ(ヘ)のとおり、審判所認定地域に存する本件基準地の地積が231平方メートルであること、上記1(3)ハ(ニ)のとおり、a市では、市街化区域内の分譲等における1区画の面積は、原則として、120平方メートル以上とされていたことに加え、当審判所に提出された証拠資料等によれば、審判所認定地域において、平成18年から本件相続の開始時までに建築確認の申請がされて分譲された戸建住宅29戸の敷地の平均地積は182.63平方メートルであり、当該戸建住宅29戸のうち、150平方メートル未満のものが5戸、150平方メートル以上200平方メートル未満のものが18戸、200平方メートル以上250平方メートル未満が2戸、250平方メートル以上が4戸であったと認められることなどを考慮すれば、審判所認定地域における標準的な宅地の地積は、おおむね150平方メートルから230平方メートルまでとするのが相当である。
    • (ハ) したがって、上記1(3)ハ(イ)のとおり、本件土地の地積は993.37平方メートルであるから、本件土地は、評価通達24−4に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当すると認められる。
  • ニ 次に、本件土地が評価通達24−4に定める「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当するか否かについて検討する。
    • (イ) 評価通達24−4に定める「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」とは、標準的な宅地の使用が戸建住宅の敷地としての利用である場合は、「その地域」における「標準的な宅地の地積」に基づき、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合にその開発区域内に道路等を開設する必要があるものと解される。
       そして、当該宅地について路地状開発を行うことが合理的と認められる場合には、道路等を開設する必要がないことになるから、評価通達24−4に定める「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」には該当しないものと解されるところ、ここでいう当該宅地について路地状開発を行うことが合理的と認められる場合に該当するか否かは、1路地状開発によって評価対象の土地の存する地域における標準的な宅地の地積に分割できること、2路地状開発が都市計画法、建築基準法等の関係法令の規定に反しないこと、3路地状開発が建蔽率及び容積率の計算上有利であること、4評価対象の土地の存する地域において路地状開発により戸建住宅の分譲が一般的に行われていることなどを総合勘案して判断すべきである。
    • (ロ) 本件では、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、原処分庁主張開発想定図のとおり路地状開発をして4区画の戸建住宅に分譲するのが合理的である旨主張するので、この点について検討する。
       原処分庁主張開発想定図によれば、その分譲後の各土地の地積は244.02平方メートル又は252.66平方メートルであるが、上記ハ(ロ)のとおり、審判所認定地域における標準的な宅地の地積はおおむね150平方メートルから230平方メートルまでであるから、原処分庁の主張する路地状開発によって審判所認定地域における標準的な宅地の地積に分割できるとは認められない。また、原処分庁主張開発想定図による戸建住宅の分譲では、幅員4mの路地状部分の長さが約29mもあり、駐車場等の敷地として利用するとしても広くなりすぎる上、路地状部分を有しない区画も、道路に対して奥行きが長大で間口と奥行との均衡がとれておらず、宅地としての利用効率が低下する。そのうえ、上記1(3)ハ(ロ)のとおり、本件土地は幅員4mの道路に面する土地であることから、基準容積率は160%とされ、原処分庁主張開発想定図による分譲宅地の地積に当該容積率を乗じた建築可能な建築物の延べ床面積の合計は、1,589.38平方メートルとなる。一方、請求人主張開発想定図によれば分譲宅地が面する開発道路の幅員は6mであり、基準容積率は240%となるも、指定容積率が200%であるため、請求人主張開発想定図における建築可能な建築物の延べ床面積の合計は、1,617.44平方メートルとなる。
       このように、原処分庁が主張する路地状開発は、請求人らの主張する開発方法に比べ指定容積率又は基準容積率の計算上有利であるとはいえない。そのため、原処分庁主張開発想定図による路地状開発を行うことが合理的とは認められない上、本件土地の形状等に鑑みれば、請求人主張開発想定図のとおり、幅員6mの道路を開設して5区画の戸建住宅に分譲することが経済的に最も合理的であるとするのが相当である。
    • (ハ) したがって、上記(ロ)のとおり、本件土地は、評価通達24−4に定める「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当する。
  • ホ なお、本件土地が大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものでないことについては、原処分庁も争っておらず、当審判所においてもこれを不相当とする理由は認められない。
  • ヘ 以上によれば、本件土地は、上記(1)ロの要件をいずれも満たすから、広大地に該当する。

(3) 原処分庁の主張について

  • イ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、本件土地に係る評価通達24−4に定める「その地域」は原処分庁主張地域とするのが相当である旨主張する。
     しかしながら、本件北東側市道の状況、本件東側市道よりも東側の土地の利用状況等を総合勘案すれば、本件土地に係る評価通達24−4に定める「その地域」は審判所認定地域とするのが相当であることは、上記(2)ロのとおりであるから、この点に関する原処分庁の主張は理由がない。
  • ロ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、評価通達24−4に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当するか否かは、原則として、開発許可面積基準を満たすか否かにより判断すべきものであるところ、本件土地の地積は993.37平方メートルであって、a市の開発許可面積基準を満たさないから、これに該当することはない旨主張する。
     しかしながら、評価通達24−4の定めをみても、開発許可を前提とした文言は見当たらず、開発許可面積基準を満たすか否かを指標とすることに合理性があるとしても、それは、飽くまでも指標にすぎないものと解され、原処分庁の主張するように開発許可面積基準を満たすか否かにより一律に広大地に該当するか否かを判定することはできないものと解される。また、開発許可面積基準を満たさない場合であっても、その地域における標準的な宅地の地積の規模が小さいときには、建築基準法第43条に規定する接道義務を果たすために道路を開設する負担をせざるを得ないこともあり、課税実務上、そのような場合には、広大地に該当するものとして取り扱われている。そのため、開発許可面積基準を満たさないからといって、直ちに広大地に該当しないとすることはできないし、a市の開発許可面積基準(1,000平方メートル)を僅かに下回るにすぎない本件土地が評価通達24−4に定める「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」に該当すると認められることは、上記(2)ハのとおりであるから、この点に関する原処分庁の主張は理由がない。
  • ハ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、仮に戸建住宅の分譲をするとしても、本件土地については、原処分庁主張開発想定図のとおり、路地状開発をすることが合理的であるから、評価通達24−4に定める「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当しない旨主張する。
     しかしながら、原処分庁主張開発想定図による路地状開発を行うことが合理的とは認められないことは、上記(2)ニのとおりであるから、この点に関する原処分庁の主張は理由がない。
  • ニ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(3)のとおり、本件土地は現に本件共同住宅の敷地として有効利用されているものといえるから、広大地には該当しない旨主張する。
     この点、一般に、広大地に該当しない条件の例示として、現に宅地として有効利用されている建築物等の敷地が挙げられているところ、原処分庁の主張は、これを踏まえたものであると解されるが、課税実務上、当該条件を満たすか否かについては、評価対象の土地がその地域の標準的な宅地の使用といえるか否かで判断を行うものとされている。本件では、上記(2)ハ(ロ)のとおり、審判所認定地域の標準的な宅地の使用は、戸建住宅の敷地としての利用であり、本件共同住宅の敷地として利用されていた本件土地について、審判所認定地域の標準的な宅地の使用ということはできないから、現に宅地として有効利用されているとは認められないし、原処分庁の主張する点をもって、当審判所の当該判断が左右されることはない。そのため、この点に関する原処分庁の主張は理由がない。

(4) 本件各更正処分の適法性について

以上のとおり、本件土地は広大地に該当し、評価通達24−4に定める評価方法に従って評価すべきであるから、それを前提に評価した本件各更正の請求における本件土地の評価額をもって、相続税法第22条に規定する「時価」であると事実上推認されることになる。そして、以上に基づき、当審判所において請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件各更正処分における金額を下回り、本件各更正の請求における金額と同額になる。
 したがって、本件各更正の請求は理由があって認められるべきものであるから、本件各更正処分は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきである。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、本件各更正処分はいずれもその全部を取り消すこととする。

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