(令和3年12月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続財産である土地は土壌汚染地であるとして、当該土地の評価について、浄化・改善費用に相当する金額を控除して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、土壌汚染対策法に規定する汚染の除去等の措置を講ずることが必要な区域に指定等がされていないため、浄化・改善費用の負担が確実に発生するとはいえないとして更正処分等を行ったことに対し、請求人が、当該更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等の要旨は、別紙に記載のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語等については、以下においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 相続について
    • (イ) L(以下「本件被相続人」という。)は、平成28年1月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長男である請求人及び長女であるMの2名である。
    • (ロ) 請求人及びMは、平成23年12月16日付の遺言公正証書に基づき、本件被相続人が所有していた別表1の順号1ないし3の土地(以下、順に「本件1土地」ないし「本件3土地」という。)を請求人が、同表の順号4の土地(以下「本件4土地」といい、本件1土地ないし本件4土地を併せて「本件各土地」という。)をMが、それぞれ本件相続により取得した。
  • ロ 本件各土地について
    • (イ) 共通事項
      • A 本件各土地は、いずれも、土壌汚染対策法第3条第1項本文に規定する使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地ではない。
      • B 本件各土地の面積は、いずれも、土壌汚染対策法第4条第1項本文の規定による土地の形質の変更に当たり都道府県知事に対する届出を要する規模(3,000u)に満たない。
      • C 本件各土地について、いずれも、土壌の特定有害物質による汚染の状況につき、土壌汚染対策法第5条第1項の規定による調査及びその結果についての報告が都道府県知事から命令された事実はない。
      • D 本件各土地は、いずれも、土壌汚染対策法第6条第1項に規定する要措置区域に存しない。
      • E 本件各土地は、いずれも、土壌汚染対策法第11条第1項に規定する形質変更時要届出区域に存しない。
      • F 本件被相続人又は請求人は、本件各土地に係る土地区画整理事業が施行された際に、土壌汚染が懸念される土砂によって埋め立てられたと想定されたことなどから、本件各土地の土壌汚染の状況等を把握する目的で、指定調査機関であるN社に対して調査を依頼した。その結果、本件各土地の全てから土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質が検出された(詳細につき、後記(ロ)のE、同(ハ)のE及び同(ニ)のE参照)。
      • G 本件被相続人又は請求人は、本件各土地について、土壌汚染対策法第14条第1項の規定による都道府県知事に対する要措置区域又は形質変更時要届出区域の指定の申請を行っていない。
    • (ロ) 本件1土地及び本件2土地について
      • A 本件1土地及び本件2土地は、いずれも、都市計画法(平成29年法律第26号による改正前のもの。以下同じ。)第8条《地域地区》第1項第1号に規定する用途地域(以下「用途地域」という。)が商業地域に存しており、建築基準法(平成29年法律第26号による改正前のもの。以下同じ。)第52条《容積率》第1項に規定する容積率(以下「容積率」という。)は600%、同法第53条《建蔽率》第1項に規定する建蔽率(以下「建蔽率」という。)は80%である。
      • B 本件1土地及び本件2土地の存する地域は、いずれも、都市計画法第8条第1項第5号に規定する防火地域(以下「防火地域」という。)に指定され、また、同項第3号に規定する高度地区(以下「高度地区」という。)の第○種(最高○m)に指定されている。
      • C 本件1土地及び本件2土地は、いずれも、その北東側で幅員14mの道路に面している。
      • D 本件1土地及び本件2土地は、いずれも、本件相続開始日において、一体として、その大部分が「P駐車場」と称する立体駐車場の敷地として利用され、それ以外の部分は、平置きのオートバイの駐輪場として利用されていた。
         なお、当該立体駐車場の構築物は、本件相続開始日以前から請求人が所有しており、請求人から本件被相続人に対して地代は支払われていなかった。
      • E N社は、令和2年10月16日から同月20日までの期間、本件1土地及び本件2土地の土壌汚染の状況について、最高深度5mのボーリング調査をした結果、深度0.5mから5mにわたって土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質の地中含有を確認した。
      • F 令和3年4月6日付のQ社作成の請求人を名宛人とする本件1土地及び本件2土地に係る見積書には、土壌汚染対策工事の見積額として、406,560,000円(消費税等抜き)が記載されていた。
    • (ハ) 本件3土地について
      • A 本件3土地は、用途地域が商業地域に存しており、その容積率は800%、建蔽率は80%である。
      • B 本件3土地の存する地域は、防火地域に指定され、また、高度地区の第○種(最高○m)に指定されている。
      • C 本件3土地は、いわゆる角地であり、その北西側で幅員30mの幹線道路(d線)に、その南西側で幅員16mの道路に、それぞれ面している。
      • D 本件3土地は、本件相続開始日において、「○○○○e町○丁目第5駐車場」と称する平置きの駐車場として利用されていた。
      • E N社は、平成21年7月22日から同年11月15日までの期間、本件3土地の土壌汚染の状況について、最高深度5mのボーリング調査をした結果、深度0.5mから土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質の地中含有を確認した。
      • F 平成28年3月14日付の指定調査機関であるR社(なお、取扱いは○○支店。)作成の「S社J」を名宛人とする本件3土地に係る見積書には、土壌汚染対策工事の見積額として、67,500,000円(消費税等抜き)が記載されていた。
    • (ニ) 本件4土地について
      • A 本件4土地は、用途地域が商業地域に存しており、容積率は600%、建蔽率は80%である。
      • B 本件4土地の存する地域は、防火地域に指定され、また、高度地区の第○種(最高○m)に指定されている。
      • C 本件4土地は、その北東側で幅員14mの道路に面している。
      • D 本件4土地は、本件1土地及び本件2土地に隣接する土地であり、本件相続開始日において、「○○○○e町○丁目第2駐車場」と称する平置きの駐車場として利用されていた。
      • E N社は、平成21年7月22日から同年11月15日までの期間、本件4土地の土壌汚染の状況について、最高深度5mのボーリング調査をした結果、深度1.5mから4mにわたって土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質の地中含有を確認した。
      • F 平成28年3月14日付のR社作成の「S社J」を名宛人とする本件4土地に係る見積書には、土壌汚染対策工事の見積額として、166,000,000円(消費税等抜き)が記載されていた(以下、この見積額、上記(ロ)のFの見積額及び上記(ハ)のFの見積額を併せて「本件各見積額」という。)。
  • ハ 国税庁の発出した情報
     国税庁は、平成16年7月5日、「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」(資産評価企画官情報第3号、資産課税課情報第13号。以下「本件情報」という。)を発出し、本件情報の「1土壌汚染地の評価」の2の(1)において、相続税等の財産評価において、土壌汚染地の評価額については、土壌汚染がないものとした場合の評価額から、土壌汚染の浄化・改善費用に相当する金額(以下「浄化・改善費用相当額」という。)等を控除して評価する旨及び控除する浄化・改善費用相当額は見積額の80%相当額とする旨、同(2)のハにおいて、土壌汚染地について行われる措置は、法令に基づく措置命令、浄化・改善費用とその措置により生ずる使用収益制限に伴う土地の減価とのバランスを考慮し、その上でその土地について最有効使用ができる最も合理的な措置を専門家の意見をも踏まえて決めることになる旨の考え方を示していた。

(4) 審査請求に至る経緯等

  • イ 請求人は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表2の「期限内申告」欄のとおり記載した申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出して、期限内申告をした。
     なお、請求人は、本件申告書において、本件1土地及び本件2土地を839,311,200円、本件3土地を185,786,880円、本件4土地を169,971,278円と評価し(いずれも土壌汚染がないものとした価額)、請求人及びMの取得財産の価額の合計額の算出において、「土壌汚染控除」として、請求人からは383,616,000円を、Mからは114,739,200円を、それぞれ控除した。
  • ロ 原処分庁は、令和2年5月29日付で、請求人に対し、別表2の「更正処分等」欄のとおり、本件相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、令和2年8月27日、本件更正処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして、再調査の請求をした。
  • ニ 再調査審理庁は、上記ハの再調査の請求に対し、令和2年11月24日付で棄却の再調査決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月25日に送達した。
  • ホ 請求人は、令和2年12月25日、再調査決定を経た後の本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、審査請求をした。

2 争点

本件各土地の価額はいくらか(具体的には、本件各土地の評価に当たり、土壌汚染がないものとした場合の評価額から、浄化・改善費用相当額を控除することができるか否か。)。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件各土地の評価に当たり、土壌汚染がないものとした場合の評価額から、浄化・改善費用相当額を控除すべきではない。 以下のとおり、本件各土地の評価に当たり、土壌汚染がないものとした場合の評価額から、浄化・改善費用相当額を控除するべきである。
  • (1) 本件各土地の評価については、本件情報に基づいて評価すべきである。本件情報は、土壌汚染地について、その所有者等に有害物質の除去等の措置を講ずる義務が生じている場合に、その除去等の費用が発生することや、相続開始前に土壌汚染に係る浄化費用が支出されている場合に、相続財産につき浄化・改善費用相当額の減少があることとの平仄を図る必要があることから、土壌汚染地の評価に当たり、当該浄化・改善費用相当額の控除を認めたものと解される。
     そうすると、浄化・改善費用相当額の控除が認められるためには、法令又は契約等により、汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じ、その除去等の費用が発生することが確実であることにより、土壌汚染が評価対象地の価格形成に影響を及ぼしている必要がある。具体的には、本件においては、法令上、汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じているかについては、本件各土地が、土壌汚染対策法第6条第1項に規定する要措置区域に存するか否かで判断することとなる。
  • (1) 財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する必要があると解されるところ(評価通達1の(3))、本件情報は、土壌汚染が土地の価格に影響を及ぼす事情であることから、その評価につき、土壌汚染がないものとした場合の評価額から浄化・改善費用相当額を控除して評価する旨定めたものであると解される。
     また、「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」のUの1の(2)「土壌汚染の有無及びその状態について」には、「土壌汚染が存する場合には、汚染の除去等の措置に要する費用の発生や土地利用上の制約により、価格形成に重大な影響を与えることがある。」と定められているところ、公益社団法人T会監修の解説書には、「土壌汚染の有無及びその状態については、土壌汚染に関する代表的な対応として土壌汚染対策法に規定された有害物質や調査義務の範囲を述べたものであり、土壌汚染対策法以外の法令等により規定されている有害物質や調査義務等について、更にそれ以外にも明らかに存在が判明している土壌汚染について、価格形成に重大な影響があると認められる場合は、当該土壌汚染の影響を当然考慮すべきである。」とあることからすると、これは、土壌汚染地であることが、土地の価格に影響を及ぼすべき事情であることを前提としたものであると認められる。
     さらに、「公共用地の取得における土壌汚染への対応に係る取扱指針」には、不動産鑑定評価基準の改正により「土壌汚染の有無及びその状態」が不動産の価格形成要因として新たに例示されたことを受けて、汚染の除去費用等を減価要因として織り込む等により評価を行うことが必要である旨定められているところ、これも、土壌汚染があることが土地の価格に影響を及ぼすべき事情であることを前提としたものであると認められる。
     加えて、相続税法第32条《更正の請求の特則》第1項第5号及び相続税法施行令第8条《更正の請求の対象となる事由》第1項第1号は、土壌汚染が存していることが明らかとなったことによって土地の物納の許可が取り消された場合には、土壌汚染が存していることが明らかとなったことによる当該土地の時価の減額を反映させた更正の請求をすることを認めていることから、土地に土壌汚染が存することが明らかとなったことによって当該土地の時価が減額されることになるということは、相続税法が予定したものであるということになる。
     以上によれば、浄化・改善費用相当額を控除することが認められるために、法令又は契約等により、汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じ、その除去等の費用が発生することが確実であることは必要とされない。
  • (2) 本件各土地は、いずれも要措置区域に存しておらず、土壌汚染対策法上の汚染の除去等の措置を講ずる義務は生じていない。
     また、本件各土地について、契約等により汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じている事実も認められない。
     さらに、本件各土地について、土壌汚染対策法第14条第1項に規定する指定の申請も行っていない。
     したがって、本件各土地に汚染の除去等の費用が発生することが確実であることにより価格形成に影響を及ぼすような土壌汚染は認められない。
  • (2) 土壌汚染対策法は、その指定を受けるための申請を申請者の任意にかからしめており、土地に土壌汚染が存在することが判明した場合であっても、土壌汚染対策法上の指定を受けないという選択肢があることを予定しており、土壌汚染が存在すれば必ず土壌汚染対策法上の要措置区域に存するという関係にあるわけではない。
  • (3) なお、本件各土地は、相続開始日現在の使用状況が最有効使用の状態であり、その使用を継続するに当たって、汚染の除去等の措置を講ずる必要はないから、本件各見積額は、不要な土壌汚染対策工事を前提とした過大な金額である。
  • (3) なお、本件各土地が、f駅の近隣に位置する利便性の高い土地であることなどからすると、高層ビル用地としての使用が本件各土地の最有効使用であると認められるところ、高層ビル用地として取引される場合には、掘削除去を行うことが一般的であるから、本件各見積額は、土壌汚染の掘削除去を前提としたものであり、適正な金額である。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
 しかし、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法を採った場合には、その評価方式等により異なる評価額が生じることや、課税庁の事務負担が重くなり、大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがある。
 この点、相続税法は、一定の例外を除いて財産の評価の方法について直接定めていないが、これは、上記のような納税者間の公平の確保、納税者及び課税庁双方の便宜、経費の節減等の観点から、評価に関する通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予定し、これによって財産の評価がされることを当然の前提とする趣旨であると解するのが相当である。
 相続税法の上記趣旨からすれば、相続財産の評価に当たっては、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる特別の事情がない限り、評価通達に定められた評価方法によって画一的に評価することが相当である。

(2) 認定事実

原処分関係資料、請求人提出資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件各土地の状況について
    • (イ) 本件1土地及び本件2土地について、本件相続開始日後に新たに土壌汚染が発生した事実は認められない。
    • (ロ) 本件3土地及び本件4土地について、本件相続開始日までに、汚染(特定有害物質)の除去等の措置が行われた事実は認められない。
  • ロ 本件相続開始日における本件各土地の周辺の利用状況
    • (イ) 本件1土地、本件2土地及び本件4土地について
       本件1土地、本件2土地及び本件4土地の周辺は、主に商業施設や中高層のオフィスビルが建ち並ぶ地域となっている。
    • (ロ) 本件3土地について
       本件3土地の周辺は、主に商業施設や中高層のホテル・オフィスビルが建ち並ぶ地域となっている。
  • ハ 本件各見積額について
    • (イ) 本件各見積額を算定したQ社及びR社は、いずれも土壌汚染対策工事の分野に精通した業者であり、請求人と人的又は資本的関係はない。
       なお、土壌汚染対策工事について、Q社は平成29年6月から令和2年5月末までの期間において○件、R社○○支店は平成28年4月から令和3年3月末までの期間において○件の各工事実績を有している。
    • (ロ) 本件各見積額は、いずれも、指定調査機関であるN社による土壌汚染の調査結果を踏まえて、汚染土壌を掘削除去する方法を前提として算出された金額である。

(3) 検討

  • イ 本件各土地の評価方法について
     相続財産の評価に当たっては、評価通達に定められた評価方法によって画一的に評価することが相当であることは、上記(1)のとおりであるところ、評価通達1の(3)は、相続財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する旨定めている。そして、本件各土地の評価に当たり、土壌汚染がないものとした場合の評価額から、浄化・改善費用相当額を控除することができるか否かについては、評価通達に特に定めはないものの、本件情報のとおり、課税実務においては、浄化・改善費用相当額(工事見積額の80%相当額)を控除して評価する取扱い(以下「本件取扱い」という。)が認められているところ、この課税実務における本件取扱いは、評価通達1の(3)の定めに照らし、合理的なものであると認められる。
     そこで、以下本件取扱いに基づいて本件各土地を評価する。
  • ロ 本件各土地の評価に当たり、浄化・改善費用相当額を考慮すべきか否かについて
     本件1土地及び本件2土地については、上記1の(3)のロの(ロ)のEのとおり、本件相続開始日後の令和2年10月に実施されたN社による調査により、いずれの土地からも土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質が検出されている。そして、上記(2)のイの(イ)のとおり、本件1土地及び本件2土地について、本件相続開始日後に新たにこれらの特定有害物質が発生した事実は認められないことから、これらの特定有害物質は、本件相続開始日において地中に含有されていたものと認められる。
     また、本件3土地及び本件4土地については、上記1の(3)のロの(ハ)のE及び同(ニ)のEのとおり、本件相続開始日前の平成21年7月から11月にかけて実施されたN社による調査により、いずれの土地からも土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質が検出されている。そして、上記(2)のイの(ロ)のとおり、本件3土地及び本件4土地について、本件相続開始日までに、これらの特定有害物質の除去等の措置が行われた事実は認められないことから、これらの特定有害物質は、本件相続開始日において地中に含有されていたものと認められる。
     以上から、本件各土地には、本件相続開始日において、いずれも土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質が地中に含有されていたことが認められ、土壌汚染のある土地と認めるのが相当であることから、本件各土地の評価に当たり、浄化・改善費用相当額を考慮すべきである。
  • ハ 本件取扱いにより控除すべき浄化・改善費用相当額について
     汚染の除去等の措置としては、汚染土壌を掘り出す掘削除去措置のほか、汚染の封じ込め措置等も存するところ、どのような措置を採ることが相当であるかについては、当該措置後の使用収益の制限に伴う土地の減価や汚染の状況の程度などの諸事情を総合勘案して、その措置後に当該土地について最有効使用ができる最も合理的な措置によるべきである。
     この点、本件各土地の本件相続開始日における利用状況は、上記1の(3)のロの(ロ)のD、同(ハ)のD及び同(ニ)のDのとおり、立体駐車場又は平置きの駐車場や駐輪場であるが、本件各土地周辺は、上記(2)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、主に商業施設や中高層のオフィスビル等が建ち並ぶ地域となっており、本件各土地は、上記1の(3)のロの(ロ)のA及びB、同(ハ)のA及びB並びに同(ニ)のA及びBのとおり、容積率が600%又は800%で、いずれも高度地区の第○種(最高○m)として指定されていることから、本件各土地の最有効使用は、中高層の建築物の敷地であると認められる。そして、本件各土地の土壌汚染の状況は、上記1の(3)のロの(ロ)のE、同(ハ)のE及び同(ニ)のEのとおり、本件1土地及び本件2土地については深度0.5mから5mにわたり、本件3土地については深度0.5mに、本件4土地については深度1.5mから4mにわたり、いずれも土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質の地中含有が認められる状況であることからすると、掘削除去が本件各土地について最有効使用ができる最も合理的な措置であると認められる。
     そして、本件各見積額は、上記(2)のハの(イ)及び(ロ)のとおり、土壌汚染対策工事の実績を有し、その分野に精通しているQ社及びR社により見積もられたもので、汚染の掘削除去を前提としたものであるところ、当審判所の調査の結果によっても、その前提となる浄化・改善方法の選定及び各見積額の算定過程のいずれについても特段不合理なところは見当たらない。
     そうすると、本件各見積額は、本件各土地について最有効使用ができる最も合理的な措置における浄化・改善費用の金額として、いずれも相当であると認められる。
     したがって、本件取扱いにより控除すべき浄化・改善費用相当額は、本件各見積額(本件1土地及び本件2土地に係る見積額については、本件相続開始日に時点修正した金額)の80%相当額によるのが相当である。
  • ニ 小括
     以上から、本件各土地の価額は、土壌汚染がないものとした場合の本件各土地の評価額から、本件各見積額(本件1土地及び本件2土地に係る見積額については、本件相続開始日に時点修正した金額)の80%相当額をそれぞれ控除して評価するのが相当であり、具体的には、別表3に記載の各金額のとおりとなる。

(4) 原処分庁の主張について

原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、土地の評価に当たり、浄化・改善費用相当額の控除が認められるためには、法令又は契約等により、汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じ、その除去等の費用が発生することが確実であることにより、土壌汚染が評価対象地の価格形成に影響を及ぼしている必要があり、このうち、法令上、汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じているかについては、本件各土地が、要措置区域に存するか否かで判断することとなる旨主張する。
 この点、本件各土地は、上記(3)のロのとおり、本件相続開始日に、いずれも土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質を地中に含有していたと認められるところ、確かに、上記1の(3)のロの(イ)のDのとおり、要措置区域に存しておらず、また、同Gのとおり、要措置区域の指定の申請は行われていない。しかしながら、上記(1)で述べたように、相続財産の価額は、当該財産の客観的な交換価値であると解されることから、土壌汚染が土地の価格形成に影響を及ぼす場合を、法令により汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じ、その除去等の費用が発生することが確実である場合に限定する理由はない。
 また、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(3)のとおり、本件各土地は、相続開始日現在の使用状況が最有効使用の状態であり、その使用を継続するに当たって汚染の除去等の措置を講ずる必要はないから、本件各見積額は不要な土壌汚染対策工事を前提とした過大な金額である旨主張するが、本件各見積額が本件各土地について最有効使用ができる最も合理的な措置における浄化・改善費用の金額としていずれも相当であると認められることは、上記(3)のハで判断したとおりである。
 以上から、原処分庁の主張を採用することはできない。

(5) 本件更正処分の適法性について

上記(3)のニのとおり、本件各土地の価額は別表3のとおりであり、また、請求人の本件相続による取得財産の価額を計算すると別表4のとおりである。そして、これらを前提に、当審判所において、請求人の本件相続税に係る課税価格及び納付すべき税額を計算すると別表5のとおりである。
 そうすると、別表5の請求人の課税価格及び納付すべき税額は、別表2の請求人の期限内申告における課税価格及び納付すべき税額を下回るから、本件更正処分は、その全部を取り消すべきである。

(6) 本件賦課決定処分の適法性について

本件更正処分は、上記(5)のとおり、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。

(7) 結論

以上のとおり、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

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