(令和4年7月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、法人税の所得金額の計算上損金の額に算入した取締役に対する役員給与の額について、原処分庁が、当該給与の額には不相当に高額な部分の金額があり、当該金額は損金の額に算入されないなどとして法人税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が当該給与の額に不相当に高額な部分の金額はないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令は、以下に掲げたものを除き、別紙3のとおりである。なお、別紙3で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

  • イ 法人税法第34条第2項は、内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
  • ロ 法人税法施行令第70条《過大な役員給与の額》(令和3年政令第39号による改正前のもの。以下同じ。)柱書は、法人税法第34条第2項に規定する政令で定める金額は、法人税法施行令第70条各号に掲げる金額とする旨規定し、同条第1号において、次に掲げる金額のうちいずれか多い金額とする旨規定している。
    • (イ) 内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与の額が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(同号イ)(以下、この規定に基づく判定基準を「実質基準」という。)。
    • (ロ) 定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議により、役員に対する給与として支給することができる金銭の額の限度額等を定めている内国法人が、各事業年度においてその役員(当該限度額等が定められた給与の支給の対象となるものに限る。)に対して支給した給与の額の合計額が当該事業年度に係る当該限度額等を超える場合におけるその超える部分の金額(同号ロ)(以下、この規定に基づく判定基準を「形式基準」といい、役員に対する給与として支給することができる金銭の額の限度額として定められた金額を「形式基準限度額」という。)。
       また、同条第1号ロのかっこ書において、使用人兼務役員に対して支給する給与のうち使用人としての職務に対するものを含めないで限度額等を定めている内国法人については、その使用人としての職務に対する給与として支給した金額のうち他の使用人に対する給与の支給の状況等に照らし、当該職務に対する給与として相当であると認められる金額を除いて限度額等を超過するか否かを判定すべき旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、以下では、請求人の法人税の事業年度及び地方法人税の課税事業年度につき、各個別の終了年月をもって表記する(例えば、平成27年12月1日から平成28年11月30日までの期間は、法人税について「平成28年11月期」といい、地方法人税について「平成28年11月課税事業年度」という。)。また、原処分に係る法人税の各事業年度を併せて「本件各事業年度」といい、原処分に係る地方法人税の各課税事業年度を併せて「本件各課税事業年度」という。

  • イ 請求人は、平成12年1月○日に設立された、〇〇業を営む特例有限会社であり、その発行済株式の8割を株主等3人が保有する同族会社である。
  • ロ 本件各事業年度における請求人の法人税法第2条第15号に規定する役員は、代表取締役のE(以下「E代表」という。)、取締役のG(以下「本件取締役」という。)及び監査役のHの3名であった。
  • ハ 本件取締役は、請求人の設立当初から〇〇長(使用人)として従事し、平成18年4月〇日の取締役就任後も、〇〇長としての職務を継続しており、「役員で労働者扱いの者」として労働保険に加入している。
  • ニ 本件各事業年度を通じて、本件取締役の株式の所有状況は次のとおりであり、本件取締役は、法人税法第34条第6項に規定する使用人としての職務を有する役員(以下「法人税法上の使用人兼務役員」という。)には該当しない。
    • (イ) 請求人の株主グループの第1順位であるE代表の株式所有割合は100分の30であり、また、株主グループの第2順位である本件取締役の株式所有割合は100分の29であることから、本件取締役は、第1順位及び第2順位の株主グループに係る株式所有割合の合計が100分の50を超えるときにおける当該株主グループに属している。
    • (ロ) 上記(イ)のとおり、本件取締役の株式所有割合は100分の29であることから、本件取締役の属する株主グループの株式所有割合が100分の10を超え、本件取締役の株式所有割合が100分の5を超えている。
  • ホ 請求人の定款第15条(報酬及び退職慰労金)には「取締役の報酬及び退職慰労金は、社員総会の決議をもって定める。」との定めがある。
  • ヘ 請求人の設立前に開催された平成12年1月〇日の第1回定時社員総会において、取締役の受けるべき報酬の額を年額50,000,000円以内とし、各取締役の割当額は代表取締役に一任することが決議された。
  • ト 請求人は、平成27年1月28日に、取締役2名の出席の下に、取締役による会議を開催し、取締役各個の受けるべき報酬金額決定の件につき、代表取締役に一任する旨の決議を行った。
  • チ 請求人の平成27年1月28日付の「取締役の報酬金額に関する決定書」と題する書面(以下「本件決定書」という。)には、要旨次のとおりの記載がされ、E代表の記名と代表取締役印の押印がされている。
    • (イ) 平成27年1月28日開催の取締役による会議において、取締役各個の受けるべき報酬金額については、これを代表取締役に一任すると全員一致をもって決議されたことにより、その報酬金額を決定し、平成27年2月1日以降支給される報酬金額より適用する。
    • (ロ) 決定した報酬金額は、E代表は月額XXXXXX円、本件取締役は月額〇〇〇〇円である。
  • リ 請求人においては、本件決定書の作成と同時期に、要旨次の内容の「2015年2月1日以降支給」と題する書面(以下「本件支給明細書」という。)が作成された。
  • 氏  名 役員報酬 基本給 各種手当 通勤費 支給合計
    E代表 XXXXXX円 −円 −円 −円 XXXXXX円
    本件取締役 〇〇〇〇円 XXXXXX円 XXXXXX円 XXXXXX円 □□□□円
    合  計 XXXXXX円 XXXXXX円 XXXXXX円 XXXXXX円 XXXXXX円
  • ヌ 請求人は、本件各事業年度において、本件取締役に対し月額□□□□円の給与(以下「本件役員給与」という。)を支給し、総勘定元帳の「役員報酬」勘定に〇〇〇〇円、「賃金」勘定にXXXXXX円、「旅費交通費」及び「仮払消費税」勘定に合わせてXXXXXX円(その内訳は、令和元年9月までは旅費交通費XXXXXX円、仮払消費税等XXXXXX円、令和元年10月以降は旅費交通費XXXXXX円、仮払消費税等XXXXXX円)を毎月計上し、仮払消費税等を除く各金額を本件各事業年度の法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入した(以下、本件役員給与のうち請求人が「役員報酬」勘定に計上した〇〇〇〇円を除く金額の合計額を「本件賃金等計上額」という。)。
     なお、請求人は、令和元年11月期の本件取締役に対する給与として、上記計上額XXXXXX円(□□□□円の12か月分)の他に、令和元年11月30日付で、令和元年12月13日に支給される給与の一部について、未払費用として「賃金」勘定にXXXXXX円、「旅費交通費」勘定及び「仮払消費税」勘定に合わせてXXXXXX円をそれぞれ計上し、仮払消費税等を除く金額を損金の額に算入した(以下、この未払費用に計上した額を「本件未払給与」という。)。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度の法人税について別表1の「確定申告」欄のとおり、本件各課税事業年度の地方法人税について別表2の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出した。
  • ロ 請求人は、令和3年1月23日、令和元年11月期の法人税について別表1の「修正申告」欄のとおり、令和元年11月課税事業年度の地方法人税について別表2の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を提出した。
  • ハ その後、請求人は、令和3年1月29日、雑収入の過大計上の減額を求め、令和元年11月期の法人税について別表1の「更正の請求」欄のとおり、令和元年11月課税事業年度の地方法人税について別表2の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
  • ニ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、令和3年8月30日付で、雑収入の過大計上分を減算するとともに、本件取締役は法人税法上の使用人兼務役員には該当せず、本件役員給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されないなどとして、別表1及び別表2の「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)及び本件各課税事業年度の地方法人税の各更正処分(以下「本件地方法人税各更正処分」という。)並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     また、原処分庁は、同日付で、上記ハの各更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下、令和元年11月期の法人税に係る通知処分を「本件通知処分(法人税)」と、令和元年11月課税事業年度の地方法人税に係る通知処分を「本件通知処分(地方法人税)」といい、これらを併せて「本件各通知処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、本件法人税各更正処分及び本件地方法人税各更正処分並びに本件各賦課決定処分に不服があるとして、令和3年10月14日に審査請求をした。
     なお、本件各通知処分についても併せ審理する。

2 争点

 本件役員給与の額に不相当に高額な部分の金額はあるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件役員給与の額には、次のとおり形式基準による不相当に高額な部分の金額がある。
 なお、実質基準による不相当に高額な部分の金額は認められない。
本件役員給与の額には、次のとおり不相当に高額な部分の金額はない。
(1) 次のイ及びロによれば、社員総会の決議により定めている本件取締役に係る形式基準限度額は、月額〇〇〇〇円である。 (1) 次のイ及びロによれば、請求人は本件取締役に対する給与を月額□□□□円と決定したのであって、同人に係る形式基準限度額を月額〇〇〇〇円と決定した事実はない。
イ 第1回定時社員総会において、取締役が受けるべき報酬の割当額の決定を一任された代表取締役が作成した本件決定書には月額〇〇〇〇円と記載されている。 イ 請求人は、本件取締役の報酬の額を月額□□□□円と決定し、本件決定書に報酬金額の月額を〇〇〇〇円と記載し、総額□□□□円の内訳については本件支給明細書を別途作成し、これを本件決定書とともに議事録綴りに編てつしていた。
ロ 本件決定書には本件支給明細書において役員給与を決定する旨の記載はなく、また、本件支給明細書には代表取締役の氏名は記載されておらず、また代表取締役印も押印されていない。 ロ 法人税法上の使用人兼務役員に該当しないとしても、民法上、会社法上及び労働保険上は使用人兼務役員であるから、委任契約に基づく役員報酬を本件決定書に記載し、雇用契約に基づく給与は本件決定書には記載せずに別途本件支給明細書に総額及びその内訳を記載した。
(2) 本件取締役は法人税法上の使用人兼務役員に該当せず、法人税法施行令第70条第1号ロのかっこ書の適用はない。したがって、同人に対して支給した給与の額の合計額は全て役員給与となるから、上記(1)の形式基準限度額〇〇〇〇円を超える月額△△△△円は不相当に高額な役員給与に当たる。
 なお、請求人が令和元年11月期に計上した本件未払給与についても、形式基準限度額を超過しているので、不相当に高額な部分の金額と認められる。
(2) 本件取締役が法人税法上の使用人兼務役員に該当しないとしても、役員報酬と使用人給与を区分して決定していれば、法人税法施行令第70条第1号ロのかっこ書の適用があると解釈すべきである。したがって、仮に形式基準限度額が月額〇〇〇〇円とされる場合であっても、形式基準限度額と比較すべき給与の額は、本件賃金等計上額△△△△円が含まれない役員報酬〇〇〇〇円のみであるから不相当に高額な役員給与の額はない。
 なお、本件未払給与については、現金主義から発生主義に改めたことにより計上したものであり、形式基準限度額と比較すべき支給した給与の額には含まれない。

4 当審判所の判断

(1) はじめに

本件においては、本件取締役が法人税法上の使用人兼務役員に該当しないことについて争いはないところ、形式基準により本件役員給与の額に不相当に高額な部分の金額はあるか否かを判定するに際し、本件取締役に係る形式基準限度額が月額〇〇〇〇円と定められた事実があるか否かに争いがあるので、以下検討する。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係書類並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 上記1の(3)のヘのとおり、請求人の第1回定時社員総会において、取締役の受けるべき役員報酬の額を年額50,000,000円以内、各取締役の割当額については代表取締役に一任する旨決議した後、当該決議事項の改定はされていない。
  • ロ 本件取締役に対する平成18年4月以降の毎月の給与の支給状況は次の表のとおりであった。
  • 支給年月 平成18年4月 平成18年5月から
    平成27年1月まで
    平成27年2月以降
    賃金台帳明細 役員報酬 〇〇〇〇円 〇〇〇〇円 〇〇〇〇円
    基本給等 XXXXXX円 XXXXXX円 △△△△円
    支給額計 XXXXXX円 XXXXXX円 □□□□円

(3) 本件役員給与等に関するE代表の答述

  • イ E代表は、本件役員給与等について、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
    • (イ) 本件役員給与の決定について
       平成27年1月28日の取締役会において各取締役の受けるべき報酬金額の決定が代表取締役に一任されたことから、私は代表取締役として、平成27年2月1日以降支給される本件役員給与の額について、役員報酬分を月額〇〇〇〇円、使用人分を月額△△△△円とし、合計月額□□□□円を本件取締役に支給することを決定した。
    • (ロ) 本件役員給与の根拠について
       請求人においては、従来から使用人が取締役に就任する場合、給与は取締役分を月額〇〇〇〇円とし、使用人分は、取締役に就任する前の年収を12か月で等分した金額を基準にしており、本件取締役の給与についても、その後の昇給等を経て使用人分は現在の月額△△△△円となっている。本件取締役は、生産管理全般の責任者という使用人としての業務は継続しており、これに取締役の職務が加わったものなので、月額□□□□円は妥当な金額と考えている。
    • (ハ) 本件決定書及び本件支給明細書の作成について
       取締役報酬は委任契約に基づくもので、会社法に規定された手続が必要であることから、本件役員給与のうち取締役分であると認識していた月額〇〇〇〇円については、本件決定書を作成したが、本件賃金等計上額△△△△円については雇用契約に基づくものであり、本件決定書に記載するのは誤りであると判断して作成しなかった。
       また、請求人においては、従来から使用人兼務役員については、労働保険に加入しており、労働保険料の算定に当たり、取締役分と使用人分とに区分して申請する必要があったことから、本件支給明細書を作成した。
  • ロ 上記イのE代表の答述内容は、本件決定書及び本件支給明細書の内容とも整合しており、信用性がある。

(4) 検討

  • イ 形式基準について
    • (イ) 上記1の(3)のへ及び上記(2)のイによれば、請求人は、第1回定時社員総会において取締役の役員報酬の額を年額50,000,000円以内と決定し、各取締役の受けるべき役員報酬の額の決定については、業務執行機関である代表取締役に委任していたことが認められる。
       そして、本件各事業年度においては、上記1の(3)のト及びチのとおり、社員総会ないし取締役会から各取締役の受けるべき役員報酬の額の決定を委任されたE代表が、平成27年2月以降の支給額として、代表取締役に対しては月額XXXXXX円を支給することとし、本件取締役については、上記(2)のロ並びに(3)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、取締役分は従来どおり月額〇〇〇〇円、使用人分は月額XXXXXX円から月額△△△△円に増額することが職務内容に照らして適正であると考え、本件取締役に対する給与の支給額を□□□□円と決定したものと認められる。
    • (ロ) また、上記(3)のイの(ハ)によれば、E代表は、本件役員給与の支給額に係る決定内容を明らかにするため、本件決定書及び本件支給明細書を作成し、その際、本件取締役について、法人税法上の使用人兼務役員に該当しないとしても、使用人としての職務は継続して行っており、労働保険等の取扱上は使用人兼務役員に該当することから、本件決定書に本件取締役の使用人分を記載することは適当でないと判断し、これらの決定内容を本件決定書と本件支給明細書とに分けて記載したことが認められる。こうした書面の作成経緯によれば、E代表が本件取締役に対する給与のうち取締役部分を月額〇〇〇〇円であると認識していたとしても、それは、本件取締役に対する給与の額の積算根拠にすぎないというべきであり、この他に本件取締役に係る形式基準限度額を〇〇〇〇円と決定した事実を認めるに足る証拠はない。
    • (ハ) そして、本件各事業年度における本件役員給与の支給額(年額)は、XXXXXX円となり、これをE代表に対する給与の支給額(年額)XXXXXX円と合計してもXXXXXX円であり、請求人の第1回定時社員総会で定められた役員報酬の額の年額50,000,000円以内であると認められる。
       よって、本件役員給与に形式基準を超える金額があるとは認められない。
  • ロ 不相当に高額な部分の存否について
     本件役員給与の額に、実質基準による不相当に高額な部分の金額がないことについて当事者間に争いはないところ、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件取締役の職務の内容等に照らして本件役員給与の額が不相当に高額であるとは認められない。
     以上によれば、本件役員給与の額に、法人税法第34条第2項に規定する不相当に高額な部分の金額は認められない。

(5) 原処分庁の主張について

原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄のとおり、社員総会の決議により定められた本件取締役に係る形式基準限度額は取締役が受けるべき報酬の割当額の決定を一任された代表取締役が作成した本件決定書に記載された月額〇〇〇〇円である旨主張する。
 しかしながら、上記(4)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、E代表は、社員総会ないし取締役会から各取締役に支給すべき役員報酬の額の決定を委任され、本件取締役に対する給与として月額□□□□円を支給することを決定したことが認められ、本件決定書に記載された月額〇〇〇〇円はその積算根拠にすぎないというべきであり、本件決定書の記載をもって本件取締役に係る形式基準限度額が月額〇〇〇〇円と定められたと認めることはできないから、原処分庁の主張には理由がない。
 なお、原処分庁は、本件未払給与についても、形式基準限度額を超過しているので、不相当に高額な部分の金額と認められる旨主張するが、上記1の(3)のヌのとおり、本件未払給与の支給時期は令和元年12月13日であり、上記(4)のイの(ハ)のとおり、令和元年11月期の形式基準の判定対象には含まれないから、この点に関する原処分庁の主張は理由がない(本件未払給与が令和元年11月期の損金の額に算入されないことについては、後記(6)のロのとおりである。)。

(6) 本件法人税各更正処分及び本件通知処分(法人税)の適法性について

  • イ 上記(4)のロのとおり、請求人が本件各事業年度において支給した役員給与の額について、法人税法第34条第2項に定める不相当に高額な部分の金額は認められない。
  • ロ また、令和元年11月期の本件未払給与については、令和元年12月13日に支給時期が到来する役員給与の額の一部であって、令和元年11月期における法人税法第34条第1項第1号の「当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」に該当しないことから同号による損金算入の対象とはならず、かつ、同項第2号又は第3号に掲げる給与にも当たらない。そうすると、本件未払給与は、令和元年11月期の損金の額に算入することはできない。
  • ハ 上記イ及びロに基づき、当審判所において、請求人の本件各事業年度の法人税の各所得金額、各納付すべき税額を計算すると、平成28年11月期、平成29年11月期、平成30年11月期及び令和2年11月期は、いずれも別表1の「確定申告」欄の各金額と同額となるので、これらの各事業年度に係る法人税の各更正処分は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきである。
  • ニ 同様に、請求人の令和元年11月期の法人税の所得金額、納付すべき税額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄のとおりとなることから、当該事業年度の法人税の更正処分及び本件通知処分(法人税)について、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
     なお、これらの処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(7) 本件地方法人税各更正処分及び本件通知処分(地方法人税)の適法性について

  • イ 上記(6)に基づき、本件各課税事業年度の地方法人税に係る各課税標準法人税額及び各納付すべき税額を計算すると、平成28年11月課税事業年度、平成29年11月課税事業年度、平成30年11月課税事業年度及び令和2年11月課税事業年度は、いずれも別表2の「確定申告」欄の各金額と同額となるので、これらの各課税事業年度に係る地方法人税の各更正処分は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきである。
  • ロ 同様に、請求人の令和元年11月課税事業年度の地方法人税に係る課税標準法人税額及び納付すべき税額を計算すると、別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなることから、当該課税事業年度の地方法人税の更正処分及び本件通知処分(地方法人税)について、その一部を別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
     なお、これらの処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(8) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 上記(6)のハ及び(7)のイのとおり、平成28年11月期、平成29年11月期、平成30年11月期及び令和2年11月期の各事業年度の法人税の各更正処分並びに平成28年11月課税事業年度、平成29年11月課税事業年度、平成30年11月課税事業年度及び令和2年11月課税事業年度の各課税事業年度の地方法人税の各更正処分はいずれも違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これらの各更正処分に係る各賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。
  • ロ 上記(6)のニのとおり、令和元年11月期の法人税の更正処分及び本件通知処分(法人税)は、いずれもその一部を取り消すべきであるから、令和元年11月期の法人税の過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は零円となり、当該賦課決定処分については、その全部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(9) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部又は一部を取り消すこととする。

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