(令和4年12月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、太陽光発電への取組に係る損失の金額を事業所得の金額の計算上生じたものとして所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該損失の金額は雑所得の金額の計算上生じたものであるなどとして更正処分等をしたのに対し、請求人が原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令の要旨は、別紙2のとおりである。なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成28年1月1日から令和元年12月31日までの間、不動産の賃貸及びボウリング場の経営等を目的とするF社の取締役並びに不動産の管理等を目的とするG社の代表取締役をそれぞれ務めており、これらの2社を合わせた給与収入は、平成28年分が○○○○円、平成29年分が○○○○円、平成30年分が○○○○円及び令和元年分が○○○○円であった。
  • ロ H社は、太陽光発電システム並びに省エネルギー装置及び機器の販売、設置、施工、管理及び保守等を目的として平成25年に設立された法人であり、請求人とH社は、以下の(イ)ないし(ハ)に掲げる内容が記載された各契約書を取り交わした。
    • (イ) 平成27年5月31日付の「太陽光パネルパッケージ販売契約書−d案件に関するご契約−」及び同年8月5日付の「売電権利付土地売買契約書」と題する各契約書
       請求人は、H社から、e市f町○−○ないし○−○に所在する各土地(以下「本件e市土地」という。)、本件e市土地上に設置予定の太陽光発電設備(以下「e市設備」という。)及びe市設備に係る発電事業者としての地位等を代金176,000,000円(消費税及び地方消費税を含む。以下同じ。)で購入する。
    • (ロ) 平成27年12月24日付の「太陽光発電所売買契約書」と題する契約書
       請求人は、H社から、g市h町○−○及び○に所在する各土地(以下「本件g市土地」という。)、本件g市土地上に設置された太陽光発電設備(以下「g市設備」という。)及びg市設備に係る発電事業者としての地位を代金97,200,000円で購入する。
    • (ハ) 作成日付不詳の「太陽光発電所譲渡契約書−ij案件−」と題する契約書
       請求人は、H社から、所在地が「k県m市n町(原文ママ)」、地番が「p○−○」、設備所在地が「i県j市p○−○(原文ママ)」である土地(以下「本件j市土地」といい、本件e市土地及び本件g市土地と併せて「本件各土地」という。)に設置された太陽光発電設備(以下「j市設備」という。)及びj市設備に係る発電事業者としての地位を80,000,000円で購入する(以下、上記(イ)及び(ロ)の各契約書と併せて「本件各契約書」といい、本件各契約書に係る各契約を「本件各契約」という。)。
  • ハ 請求人は、e市設備に係るf太陽光発電所増設工事として46,600,000円(見積書No.○○○○)、54,000,000円(見積書No.○○○○)及びg市設備に係るh太陽光発電所増設工事として29,160,000円(見積書No.○○○○)、23,296,000円(見積書No.○○○○)と記載された平成29年11月21日付の各見積書をH社から受け取った(以下、e市設備、g市設備、e市設備に係るf太陽光発電所増設工事による設備、g市設備に係るh太陽光発電所増設工事による設備及びj市設備を併せて「本件各太陽光発電設備」といい、本件各太陽光発電設備に係る発電事業者としての地位等及び本件各土地と併せて「本件各太陽光発電設備等」という。)。
  • ニ 請求人は、平成27年6月30日、J銀行○○支店から「設備資金」として、年利〇%、返済期間5年で88,000,000円の融資を受けた。
  • ホ 請求人は、H社に対し、平成27年5月29日から平成30年1月22日までの間に22回に分けて、合計423,098,160円を支払った。
  • ヘ 本件各太陽光発電設備等の状況は以下のとおりである。
    • (イ) 令和元年末日時点で本件e市土地及び本件g市土地に係る請求人名義への各所有権移転登記手続はいずれもされていない。
    • (ロ) i県j市には、上記ロの(ハ)の地番の土地は存在しない。
    • (ハ) 令和2年12月7日時点で、e市設備は存在せず、g市設備については本件g市土地に太陽光発電設備は存在するが、平成29年11月21日付の見積書に記載されたh太陽光発電所増設工事は行われていない。
    • (ニ) 資源エネルギー庁のホームページで公表されている令和2年8月31日時点での本件各太陽光発電設備の認定情報は次のとおりである。
      • A e市設備の発電事業者はK社で、新規認定日は平成〇年〇月〇日であり、e市設備は運転開始前(発電を開始している設備がない)の状況である。
      • B g市設備の発電事業者はL社で、新規認定日は平成〇年〇月〇日である。
      • C j市設備は認定されていない。
    • (ホ) g市設備に係る電力需給契約の契約者はL社で、系統連系(電力会社が維持運用する電力系統に太陽光発電設備を電気的に接続し、電力の供給が可能な状態とすることをいう。以下同じ。)日は平成〇年〇月〇日であり、同日以後、同契約に関する地位の移転はない。
  • ト a市の発電所について
    • (イ) 請求人は、自宅の屋根に太陽光発電設備(以下、請求人の自宅の屋根に設置されている太陽光発電設備を「a市設備」という。)を設置しており、a市設備に係る「ecoソーラー申込書」と題する書面には、要旨、1(申込日として)平成29年9月27日、2(販売店として)M社N担当、3(金額として)7,626,560円との記載がある。
    • (ロ) 請求人は、平成29年12月27日、P社に対し、上記(イ)の代金7,626,560円を支払った。
    • (ハ) a市設備に係る電力需給契約の契約者は請求人、系統連系日は平成〇年〇月〇日であり、同日以後、同契約に関する地位の移転はない。
    • (ニ) 請求人が平成30年分及び令和元年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の各確定申告においてa市設備に係る売電(電力を電力会社に供給することをいう。以下同じ。)収入として計上した金額は別表1の「売電収入」欄の各金額であり、a市設備に係る減価償却費として計上した金額は同表の「減価償却費」欄の各金額である。
  • チ H社の破産について
    • (イ) G社は、Q地方裁判所に対し、平成〇年〇月〇日付で、H社について破産手続を開始する旨の決定を求める破産手続開始決定申立書を提出した。
    • (ロ) Q地方裁判所は、平成〇年〇月〇日付で、H社が支払不能の状態にあることを認め、H社について破産手続を開始する旨の決定をした。
  • リ 〇〇及び〇〇について
    • (イ) 請求人は、令和〇年〇月〇日付で、〇〇に対し、〇〇した。
    • (ロ) 〇〇は、令和〇年〇月〇日、〇〇した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成28年分、平成29年分、平成30年分及び令和元年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税等について、青色の各確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
     なお、請求人は、上記各確定申告に際し、請求人の太陽光発電に係る設備の設置、発電及び電力の売電等の一連の取組(以下「本件取組」という。)に係る所得を事業所得として申告し、本件取組に係る費用の額を事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
  • ロ 請求人は、原処分庁に対し、国送法第6条の2第1項の規定に基づき、平成28年12月31日分財産債務調書、平成29年12月31日分財産債務調書及び平成30年12月31日分財産債務調書をそれぞれの提出期限(各年の翌年の3月15日)までに提出したが、令和元年12月31日分財産債務調書はその提出期限までに提出しなかった。
  • ハ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の実地の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、本件各年分の請求人の所得税等について、令和3年3月26日付で、別表2の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
  • ニ 請求人は、上記ハの各処分を不服として、令和3年6月25日に再調査の請求をした。
  • ホ 再調査審理庁は、令和3年12月1日付で、平成30年分の所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分については、別表2の「再調査決定」欄のとおりその一部を取り消す再調査決定をし、その他の処分については、棄却の再調査決定をした(以下、本件各年分の所得税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(平成30年分についてはいずれも再調査決定によりその一部が取り消された後のもの)をそれぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)。
     なお、再調査決定における雑所得の金額は、別表1のとおりである。
  • ヘ 請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、令和3年12月29日に審査請求をした。
     なお、請求人は、本審査請求において、次の各金額が、請求人の本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきである旨主張している。
    • (イ) 本件各太陽光発電設備の設置のための借入金利息(別表1の「利子割引料」欄の各金額)
    • (ロ) a市設備に係る減価償却費(別表1の「減価償却費」欄の各金額)
    • (ハ) H社の債務不履行に起因して生じたとされる未収入金に対する平成30年分の貸倒引当金繰入額66,001,167円(所得税法第52条《貸倒引当金》第1項の規定に基づくもの)

2 争点

 本件取組は、所得税法第27条第1項に規定する「事業」に該当するか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次のイ及びロのことからすると、本件取組は、所得税法第27条第1項に規定する「事業」に該当しない。 次のイないしチの各要素に照らし判断すると、本件取組は、所得税法第27条第1項に規定する「事業」に該当する。
イ 本件各太陽光発電設備について
 本件調査が行われた時点において、本件各太陽光発電設備は存在しないか、他の者により管理・運営されていた。
 また、請求人は、本件各太陽光発電設備から何ら収入を得ていなかった。
 そもそも本件各土地はいずれも本件各契約書の作成時点で請求人が取得することは困難あるいは不可能な状況にあった。
 そして、本件各契約については、H社の代表取締役であるRが請求人から金員を詐取することを企図して締結したものであったと推認される。
 したがって、本件取組のうち本件各太陽光発電設備の設置又は取得等については、事業とは認められない。
イ 営利性、有償性及び反復継続性
 請求人が客観的シミュレーション(具体的には、金融機関から資金を調達し、本件各太陽光発電設備等及びa市設備を取得し、20年間で売電収入を759,000,000円、純利益を454,000,000円得ようとしたシミュレーション)に基づき計画し実行してきた本件取組は、その規模からみても事業に該当する経済的行為であり、有償性、営利性を有している。そして、本件取組なくして本件各太陽光発電設備等及びa市設備に係る事業は緒に就かないのであるから、本件取組は、その事業の一環をなし、かつその事業の遂行上必要欠くべからざるものである。
ロ a市設備について
 a市設備は自宅の屋根に取り付けるという小規模かつ簡素なものであった。
 また、請求人は、a市設備を維持管理するために雇人も有していなかった。
 そして、a市設備から生じた売電収入は、平成30年に約○○○○円、令和元年(平成31年)に約○○○○円であり、いずれの年分においても、a市設備に係る減価償却費の額を下回る額にすぎない。
 一方で、請求人が、自らが役員を務めるF社及びG社から支払を受けた給与の額は、平成30年中において合計○○○○円、令和元年(平成31年)中において合計○○○○円に上る。
 したがって、a市設備に係る太陽光発電が開始した平成30年2月以後も、本件取組が事業としての社会的客観性を備えたとは認められない。
ロ 危険の負担
 本件各太陽光発電設備等及びa市設備は、自然災害によって損壊する危険、システムの故障のリスクがあり、請求人はその危険を負う。
  ハ 企画遂行性
 請求人は、H社との間で本件各太陽光発電設備等の規格・規模の検討と選定を行い、追加・増設工事についても協議、決定を行っている。
  ニ 人的設備の程度
 請求人は、本件取組について、事務管理・メンテナンス等をH社に委託し、その対価を支払うこととしていたから、実質的に従業員を有していたといえる。
  ホ 精神的及び肉体的労力の程度
 上記ニの事情からすれば、実質的に請求人自らが事務管理・メンテナンス等を行っていたともいえる。
  ヘ 職業、経歴、社会的地位及び生活状況
 請求人が会社役員の地位に就いていても、本件取組の事業性は否定されない。
  ト 相当程度の期間安定した収益を得られる可能性
 本件取組においては、将来的にシミュレーションに基づく安定的な収益を得ることが十分に期待できた。
  チ なお、a市設備は、請求人が事業として計画し実行してきた本件取組の一環をなすものであるから、これを分離・区分して本件取組から生じた所得が事業所得に当たるかどうかを判定することは合理性に欠ける。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

所得税法第27条第1項に規定する「事業」とは、所得税法施行令第63条第1号ないし第11号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行う事業(同条第12号)をいい、具体的には、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうところ、一定の経済的行為がこれに該当するか否かは、当該経済的行為の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の計算と危険による企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的活動をすることにより相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事情を総合的に検討し、社会通念に照らして判断すべきものと解される。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、請求人による太陽光発電設備の取得状況に関し、以下の事実が認められる。

  • イ e市設備については、上記1の(3)のヘの(イ)、(ハ)及び(ニ)のAのとおり、その所在地である本件e市土地は存在するものの、請求人が所有権を有する旨の登記はされておらず、本件e市土地上に太陽光発電設備は存在せず、運転開始前の状態でe市設備の発電事業者として請求人以外の者が登録されていた。以上からすれば、請求人は、太陽光発電に係る業務を営むことのできるe市設備を取得していない。
  • ロ g市設備については、上記1の(3)のヘの(イ)、(ハ)、(ニ)のB及び(ホ)のとおり、本件g市土地上に太陽光発電設備は存在するが、請求人以外の者がg市設備の発電事業者として登録され、系統連系をしている。以上からすれば、請求人は、太陽光発電に係る業務を営むことのできるg市設備を取得していない。
  • ハ j市設備については、上記1の(3)のヘの(ロ)のとおり、その所在地であるとされている本件j市土地の地番が存在せず、j市設備も存在しないと認められる。以上からすれば、請求人は、太陽光発電に係る業務を営むことのできるj市設備を取得していない。
  • ニ a市設備については、上記1の(3)のトのとおり、請求人は自宅の屋根にa市設備を設置した上で、平成〇年に系統連系し、以降、a市設備による売電収入を得ていた。

(3) 検討

  • イ 所得税法第27条第1項に規定する「事業」とは、上記(1)のとおり、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうところ、上記(2)のイないしハのとおり、請求人が本件各契約により取得して太陽光発電に係る業務を営むこととされていた本件各太陽光発電設備については、客観的にはいずれも請求人に取得されておらず、本件各太陽光発電設備において請求人による太陽光発電に係る業務は営まれていなかった。
     他方で、上記(2)のニのとおり、請求人は、a市設備については、平成30年以降、a市設備において太陽光発電に係る業務を営んで売電収入を得ていた。
  • ロ そうすると、平成28年分及び平成29年分における本件取組は、客観的には何らの業務も営まれていなかったものであるから、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務とはいえず、所得税法第27条第1項に規定する「事業」に該当しない。
     他方で、平成30年分及び令和元年分における本件取組は、客観的にみると、本件各太陽光発電設備においては請求人により何らの業務も行われていなかったが、a市設備においては太陽光発電に係る業務(以下「本件業務」という。)が行われていた。
  • ハ そこで、本件業務が上記「事業」に該当するか否かを検討するに、上記1の(3)のトのとおり、請求人は、代金7,626,560円を支払ってa市設備を取得し、平成30年2月以降、a市設備の稼働により継続的に売電収入を得ていたから、本件業務には、一応の有償性、継続性、反復性及び自己の計算と危険による企画遂行性があるといえる。
     しかしながら、a市設備の稼働による売電収入は、別表1のとおり、平成30年分及び令和元年分のいずれにおいても、年間○○○○円足らずであり、この金額は、a市設備の減価償却費(平成30年分は833,273円、令和元年分は734,947円)にも満たない額であり、利益が生じていないから、営利性は乏しい。また、a市設備に関し、請求人が特段の精神的及び肉体的労力を費やしていた事実を認めるに足りる証拠はない。そして、上記1の(3)のトの(イ)のとおり、a市設備は、自宅の屋根に設置された小規模な太陽光発電設備であることから、物的設備としては乏しく、人的設備というべきものの存在も認められない。
     加えて、請求人が本件各年分においてF社及びG社の役員を務め、年間約○○○○円の給与収入を得ていたことからすれば、請求人の本業はF社及びG社の役員であり、当該給与収入により生活の資を得ていたと認められる。さらに、上記のとおり、a市設備の売電収入により利益は生じておらず、小規模で減価償却費相当額にも満たない売電収入しか得られないa市設備によって利益が生じる見込みがあるとも言い難いことからすれば、請求人が本件業務によって相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するとも言い難い。
     以上の点を総合的に検討し、社会通念に照らして判断すると、本件業務は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務ということができないから、所得税法第27条第1項に規定する「事業」に該当しない。
  • ニ したがって、本件取組は、平成28年分ないし令和元年分のいずれにおいても、所得税法第27条第1項に規定する「事業」に該当しない。

(4) 請求人の主張について

請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、本件取組は、20年間のシミュレーションに基づき利益を見込んだ上で、資金調達を行い、本件各太陽光発電設備等及びa市設備を取得するなど、太陽光発電事業の一環を成すものであり、a市設備と他の設備を分離・区分せずに、同欄に掲げた諸般の要素に照らし判断すると、本件取組は「事業」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のとおり、所得税法第27条第1項に規定する「事業」とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうのであり、上記(3)のイのとおり、本件各太陽光発電設備においては、客観的にみて、請求人による太陽光発電に係る業務は何ら営まれていなかったのであるから、いかに請求人が主観的には利益を見込んでいたからといって、本件各太陽光発電設備等が「太陽光発電事業の一環を成すもの」であるとして、これを本件取組の事業該当性を認めるための積極的要素として考慮することはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件各更正処分の適法性について

  • イ 上記(3)のとおり、本件取組は、本件各年分のいずれにおいても所得税法第27条第1項に規定する「事業」に該当せず、本件取組に係る所得は、同項に規定する事業所得に当たらない。さらに、a市設備による売電収入(別表11欄参照)に係る所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないから、雑所得に該当する。
  • ロ 所得税法第37条第1項は、別紙2の2の(2)のとおり規定しており、同項に規定する「所得を生ずべき業務」とは、不動産所得、事業所得又は雑所得を得るために行われる具体的な活動を意味すると解される。
     請求人は、上記(3)のロ及びハのとおり、平成30年分及び令和元年分において、a市設備において太陽光発電に係る業務を営んでいるから、a市設備に係る減価償却費(別表14欄参照)は「所得を生ずべき業務」について生じた費用に該当し、請求人の雑所得の金額の計算上必要経費に算入される。他方で、請求人の主張する平成30年分の貸倒引当金繰入額66,001,167円並びに利子割引料(別表15欄参照)及びその他の経費(同6欄参照)については、いずれも、本件各太陽光発電設備に関して支出されたものであるところ、上記(3)のイのとおり、本件各太陽光発電設備においては請求人により太陽光発電に係る何らの業務も営まれていなかったのであるから、「所得を生ずべき業務」がなく、必要経費に算入されないこととなる。
  • ハ 以上の点を踏まえ、請求人の本件各年分の総所得金額を算定すると、別表3の「総所得金額」欄の各金額のとおりとなる。そして、請求人の本件各年分の還付金の額に相当する税額を算定すると、別表3の「所得税等の還付金の額に相当する税額」欄の各金額のとおりとなり、いずれも本件各更正処分の金額と同額か又は下回る。
     また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 上記(5)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
  • ロ ところで、国送法第6条の3第1項の規定による過少申告加算税の軽減措置及び同条第2項の規定による過少申告加算税の加重措置は、いずれも財産(同法第6条の2第2項の規定により財産債務調書への記載を要しないとされる国外財産を除く。)又は債務に関して生ずる所得で政令で定めるもの(国送法施行令第12条の3第1項第1号ないし第5号、同項第6号及び国送法施行規則第16条各号)に対する所得税等に関し更正があり、過少申告加算税が課される場合などに適用されるものであるところ、本件各更正処分のうち、上記の財産又は債務に関して生ずる所得で同項で定めるものに対する所得税に関し更正があったといえるのは、請求人の平成30年分及び令和元年分の不動産所得の金額の計算における青色申告特別控除額に係る更正がされた部分であり、それ以外の部分については、請求人の本件各年分の所得税等に係る各過少申告加算税の額の算定において、上記各措置は適用されない。請求人の令和元年分の過少申告加算税に関する上記加重措置について詳述すると、請求人の令和元年分の更正処分においては、1a市設備による売電収入に係る所得は、上記(5)のイのとおり、事業所得ではなく雑所得であるとして所得税法第69条《損益通算》第1項の規定に基づき他の各種所得の金額から控除できないとされ、2請求人の不動産所得に関して、建物の貸付けが事業として行われていないとして、青色申告特別控除額を650,000円から100,000円とする旨の更正をされたものである。そして、上記1については、a市設備のような業務用の資産を用いて得られた所得は、国送法施行令第12条の3第1項第1号ないし第5号、同項第6号及び国送法施行規則第16条各号に規定されたいずれの所得にも当てはまらないことからすれば、請求人の令和元年分の過少申告加算税のうち上記1に相当する部分については、上記加重措置の適用はない。他方で、上記2については、不動産の貸付けによる所得(国送法施行令第12条の3第1項第3号)に対する所得税に関し更正があり、更正の基因となった当該不動産を記載すべき財産債務調書の提出がなかったから、請求人の令和元年分の過少申告加算税のうち上記2に相当する部分については、上記加重措置の適用がある。
     以上に基づき請求人の本件各年分の所得税等に係る各過少申告加算税の額を算定すると、別表3の「過少申告加算税の額」欄の各金額のとおりとなり、平成28年分ないし平成30年分の過少申告加算税の額は原処分の額を上回り、令和元年分の過少申告加算税の額は○○○○円となり、原処分の額に満たない。
     したがって、平成28年分ないし平成30年分の過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法であるが、令和元年分の過少申告加算税の賦課決定処分はその一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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