(令和4年10月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税については法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項に規定する取消事由があるとして青色申告の承認の取消処分をし、また、更正処分をし、消費税等については消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たるとして更正処分等をしたのに対し、請求人が原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令は、別紙2のとおりである。
 なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文及び別表においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成27年6月○日に日用雑貨等の販売及び輸出を目的として設立された法人であり、設立当初からE(以下「本件代表者」という。)のみが代表取締役を務めていた。
  • ロ 請求人は、平成27年8月7日、原処分庁に対し、法人税の青色申告の承認申請を行い、平成27年6月○日から平成28年3月31日までの事業年度以後の各事業年度の法人税について、青色申告の承認があったものとみなされた。
  • ハ 請求人は、平成27年8月7日、原処分庁に対し、適用開始課税期間を同年6月〇日から平成28年3月31日までの課税期間とする「消費税課税事業者選択届出書」及び適用開始日を平成27年6月○日とする「消費税課税期間特例選択届出書」を提出し、課税事業者となること及び課税期間を3月ごとの期間に短縮することを選択した。
     以下、平成28年4月1日から平成28年6月30日までの課税期間(以下「平成28年6月課税期間」といい、他の課税期間についても同様に表記する。)、平成28年9月課税期間、平成28年12月課税期間、平成29年3月課税期間、平成29年6月課税期間、平成29年9月課税期間、平成29年12月課税期間及び平成30年3月課税期間を併せて「本件各課税期間」という。
  • ニ 請求人は、本件各課税期間において、外国人留学生等がドラッグストア等で購入した乳児・幼児用の紙おむつのパック詰め商品(以下「紙おむつパック」という。)を、商品仕入れとして当該外国人留学生等から買い取り(以下、この買取りを「本件仕入取引」という。)、輸出業者等に販売していた。
  • ホ 請求人は、本件仕入取引に係る仕入金額について、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度(以下「平成29年3月期」といい、他の事業年度も同様に表記する。)及び平成30年3月期(以下、平成29年3月期と併せて「本件各事業年度」という。)の総勘定元帳(以下「本件総勘定元帳」という。)の商品仕入高勘定に記載し、本件仕入取引に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を本件各課税期間の仕入税額控除の対象としていた。
  • ヘ 請求人は、本件仕入取引に係る帳簿書類として本件総勘定元帳及び判取帳(以下「本件判取帳」という。)を保存していた。
  • ト 請求人は、平成29年3月課税期間ないし平成29年12月課税期間において、本件代表者が代表取締役を務めるD社に紙おむつパックを販売した。
  • チ D社は、平成31年4月、原処分庁による税務調査を受け、令和3年7月5日付で、請求人からの課税仕入れの金額が過大であるとして、消費税等の更正処分及び加算税の賦課決定処分を受けた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度の法人税について、青色の確定申告書に別表1−1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ロ 請求人は、本件各課税期間の消費税等について、確定申告書に別表1−2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ハ 原処分庁は、請求人に対し、法人税法第127条第1項第1号及び同項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するとして、令和3年7月5日付で、平成29年3月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色申告取消処分」という。)をするとともに、別表1−1の「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)をした。
  • ニ 原処分庁は、請求人に対し、消費税法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たり、仕入税額控除は認められないとして、令和3年7月5日付で別表1−2の「更正処分等」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、上記ハ及びニの各処分に不服があるとして、令和3年10月6日に審査請求をした。

2 本件法人税各更正処分の取消しを求めることの適法性について

 国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定しており、処分が納税者にとって不利益なものでなければ当該処分の取消しを求める審査請求の利益がないこととなるところ、法人税の更正処分が不利益な処分に当たるか否かは、当該更正処分により法人税の納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきである。
 これを本件についてみると、本件各法人税更正処分は、別表1−1のとおり、納付すべき税額を増加させる更正処分でないことが明らかであり、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえないから、本件法人税各更正処分の取消しを求めることは、請求の利益を欠く不適法なものである。

3 争点

(1) 請求人の帳簿書類について、法人税法第127条第1項に規定する青色申告の承認の取消事由があるか否か(争点1)。

(2) 本件仕入取引について、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たるか否か(争点2)。

(3) 本件各課税期間において、課税売上額が過大であるか否か(争点3)。

4 争点についての主張

(1) 争点1(請求人の帳簿書類について、法人税法第127条第1項に規定する青色申告の承認の取消事由があるか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人の平成29年3月期の帳簿書類の備付け、記録又は保存は、次のとおり、法人税法第127条第1項に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する。 請求人の平成29年3月期の帳簿書類の備付け、記録又は保存は、次のとおり、法人税法第127条第1項に規定する青色申告の承認の取消事由に該当しない。
イ 平成29年3月期の本件総勘定元帳の商品仕入高勘定には、本件仕入取引について、財務省令に定める記載事項が記載されていないなど、請求人の保存する帳簿書類は、法人税法第126条《青色申告法人の帳簿書類》第1項に規定する財務省令で定めるところに従って、備付け、記録又は保存が行われていなかったものと認められるから、同法第127条第1項第1号の青色申告の承認の取消事由に該当する。 イ 請求人は、平成29年3月期の本件総勘定元帳の商品仕入高勘定の「仕入先」が確認できる書類として本件判取帳を保存しており、また、品名、数量及び単価が記載されたドラッグストア等が発行したレシート(以下「本件レシート」という。)を仕入先から受領して保存していた。
 請求人が保存する本件総勘定元帳、本件判取帳及び本件レシートは相互に補完しあって財務省令に定める記載事項を充足しているから、請求人の帳簿書類は、法人税法第126条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って備付け、記録又は保存が行われていたことになり、同法第127条第1項第1号の青色申告の承認の取消事由に該当しない。
ロ 本件判取帳に記載された個人名の仕入れ116件のうち102件については、記載された住所又は氏名から仕入先を特定することができない。
 また、仕入先を特定できた14件のうち12件については、それらの者の申述内容からすると、本件判取帳に記載されたとおり取引を行っていた事実が認められず、本件判取帳が真実の取引を記載したものとはいえない。
 したがって、請求人が保存する帳簿書類は、その記載又は記録した事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるものと認められるから、法人税法第127条第1項第3号の青色申告の承認の取消事由に該当する。
ロ 請求人の仕入先には外国人留学生が多数含まれており、原処分庁が仕入先の所在を確認した時点には、帰国や転居した者がいたため、特定できなかっただけであり、請求人は、商品を実際に販売しているから、商品を仕入れた事実は存在する。
 なお、請求人の仕入先及び原処分庁が請求人の仕入先として特定できた9件の内の一部の者は、本件判取帳に記載した金額で請求人と取引していると請求人に申し出ている。
 したがって、請求人が保存する帳簿書類は、その記載又は記録した事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるものには該当せず、法人税法第127条第1項第3号の青色申告の承認の取消事由にも該当しない。

(2) 争点2(本件仕入取引について、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たるか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人の本件仕入取引に係る帳簿書類の記載及び保存状態は、次のとおり、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たる。 請求人の本件仕入取引に係る帳簿書類の記載及び保存状態は、次のとおり、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たらない。
イ 本件総勘定元帳には、本件仕入取引について、消費税法第30条第8項に規定する課税仕入れに係る資産又は役務の内容の記載がない。 イ 本件総勘定元帳には、課税仕入れに係る資産又は役務の内容の記載がないが、本件レシートには当該内容が記載されており、本件レシートを保存していたのであるから、消費税法第30条第8項に規定する課税仕入れに係る資産又は役務の内容の記載があることになる。
ロ 本件判取帳には、消費税法第30条第9項第2号に規定する課税仕入れに係る資産又は役務の内容の記載がない。
 なお、請求人が本件判取帳の明細であるとして提出した本件レシートは、本件判取帳の金額と一致しておらず、相互の関連性が不明であり本件判取帳の明細とは認められない。
ロ 本件判取帳には、課税仕入れに係る資産又は役務の内容の記載がないが、本件レシートには当該内容が記載されており、本件レシートを保存していたのであるから、消費税法第30条第9項第2号に規定する課税仕入れに係る資産又は役務の内容の記載があることになる。
 なお、本件レシートの一部については、令和2年7月の大雨によって、請求人の倉庫が雨漏りし、紛失した。

(3) 争点3(本件各課税期間において、課税売上額が過大であるか否か。)について

請求人 原処分庁
請求人とD社との取引は、私法上同一の取引であり、請求人のD社への課税売上額とD社の請求人からの課税仕入れの額とは一致しているのであるから、原処分庁は、D社の請求人からの課税仕入れの額を過大であると認定するならば、請求人の課税売上額も過大であるとして同額を減額すべきである。 D社の更正処分において原処分庁が認定した課税仕入れの額は、間接的な資料を用いて所得金額を認定する推計課税の方式により算出したものであり、請求人とD社との取引に係る実額の課税仕入れの額とは性質が異なる。
 また、当該推計に当たり算出の基礎とした単価は、D社と請求人以外の者との間の取引に係るものであるから、D社の課税仕入れの額と請求人の課税売上額とは当然に一致するものとはいえない。
 よって、D社の課税仕入れの額を過大であると認定したとしても、請求人の課税売上額が過大であるとは認められない。

5 当審判所の判断

(1) 争点1(請求人の帳簿書類について、法人税法第127条第1項に規定する青色申告の承認の取消事由があるか否か。)について

  • イ 法令解釈等
     青色申告制度は、誠実かつ信頼性のある記帳をすることを約束した納税義務者が、これに基づき所得金額を正しく算出して申告納税することを期待し、かかる納税義務者に特典を付与するものであり、青色申告の承認の取消しは、青色申告の承認を受けた納税義務者について、特典等の付与を継続することが青色申告制度の趣旨・目的に反することとなる一定の事情がある場合には、その承認を取り消すことができるものとすることによって、青色申告制度の適正な運用を図ろうとするものであると解される。
     この青色申告の承認の取消しは、形式上法人税法第127条第1項各号に該当する事実があれば必ず行われるというものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々の場合の事情に応じ、処分庁が合理的裁量によって決すべきである(最高裁判所第一小法廷昭和49年4月25日判決)が、その裁量権の行使は、上記青色申告制度の趣旨及び青色申告の承認の取消しの意義に照らし、当該納税義務者に係る具体的な同項各号該当事由の内容、程度、さらにはその者の納税申告に係る信頼性の破壊の程度を総合的に考慮して、それが真に青色申告による納税申告を維持させるにふさわしくない内容、程度に達しているものといえるかどうかという観点からこれを判断すべきものである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 平成29年3月期の本件総勘定元帳に記載された本件仕入取引1,030件総額997,716,947円(税抜き)のうち現金仕入れである929件総額821,286,975円(税抜き)の取引については、日付及び金額のみが記載されており、仕入先の氏名又は名称、品名その他給付内容、数量及び単価の記載がない。また、銀行振込みによる仕入れ101件総額176,429,972円の取引については、日付、金額及び氏名又は名称が記載されているが、品名、その他給付内容、数量及び単価の記載がない。
    • (ロ) 平成29年3月期の本件仕入取引に係る本件判取帳には、現金の領収日、金額及び受領者の氏名又は名称の記載があるが、品名、その他給付内容、数量及び単価の記載がない。
    • (ハ) 本件仕入取引に係る記録及び本件レシートの保管状況等は、以下のとおりであった。
      • A 外国人留学生等からの仕入れについては、本件代表者が、現金支払の際に本件レシートを基に紙おむつパックの種類ごとの個数と手数料の金額及び手数料を含む仕入金額の総額をメモに記載していた。
         なお、当該メモは現金支払後に本件代表者が破棄していた。
      • B 受領した本件レシートは、受領の都度、本件代表者が段ボール箱に入れて保存し、本件判取帳に記載した取引ごとに整理することはなく、本件判取帳の明細として照合できる状況にはなかった。
      • C 請求人の仕入先である外国人留学生等が本件判取帳に記載する際に、同一日の一つの取引を何件かに分割して記載したことがあり、そうした取引については、本件判取帳に記載された取引が本件レシートのうちどのレシートに係る仕入代金かを確認することはできない。
    • (ニ) 原処分庁の調査(以下「本件調査」という。)においては、平成29年3月期の本件仕入取引に係る本件判取帳に記載された仕入先116件のうち102件の個人の所在が確認できなかった。
       なお、個人の所在が特定できなかった102件のうち、48件については実在しない住所地が記載され、26件については地名や番地の記載がなく、住所地自体が特定できなかった。
    • (ホ) 本件調査において本件判取帳の記載者を特定できた取引は14件で、そのうち6件の氏名は仮名又は借名であり、一人が3種類の仮名又は借名を記載していたものもあった。これら6件の仕入先は、振込みにより仕入代金を受領しており、仕入代金を現金で受領したことはなかった。
    • (ヘ) 上記(ホ)の6件の他に、34件の取引先が仮名又は借名で本件判取帳に記載していた。
    • (ト) 上記(ホ)及び(ヘ)の他、本件代表者の配偶者であるHが、本件代表者から依頼されて、仕入先である外国人留学生等への支払額に相当する金額を、自己が受領したとして本件判取帳に自己の住所氏名を記載したものが2件あった。
    • (チ) 上記(ト)のHの名で記載された取引については、仕入先である外国人留学生等への支払を証する帳簿書類は無い。
  • ハ 検討
     請求人は、上記1の(3)のヘのとおり、平成29年3月期における本件仕入取引に係る帳簿書類として本件総勘定元帳及び本件判取帳を保存しているところ、上記ロの(イ)のとおり、本件仕入取引のうち大部分を占める現金仕入れについては、本件総勘定元帳に日付と金額しか記載がない。そして、本件判取帳に仕入先として記載された116件のうち6割超の74件については本件判取帳に記載された住所が実在しないか、又は住所地を特定することができず、28件については記載された住所地において仕入先である個人の所在が確認できない。
     また、原処分庁の調査により記載者が特定できた14件のうち6件は、本件判取帳に記載された氏名が仮名又は借名であり、中には一人の者が複数の仮名又は借名を使用しているものもあった。さらに、上記ロの(ト)及び(チ)のとおり、仕入先ではない本件代表者の配偶者が、仕入先として自己の氏名等を記載していたことなどからすれば、本件判取帳に記載された仕入先が、全て真実の仕入先であるとは認められない。
     そして、上記ロの(ハ)のとおり、請求人は、商品の種類、数量及び手数料を含む仕入金額の総額を記載したメモを破棄し、本件判取帳の明細であるとする本件レシートも本件仕入取引の内容と逐一照合することができるよう整理、保存していないから、本件仕入取引において、請求人が誰から何をいくらでどれだけの数量仕入れたのか全く不明であり、請求人が本件総勘定元帳に記載した本件仕入取引に係る取引金額の全体について、その真実性を疑わざるを得ない。このような請求人の帳簿書類の備付け、記録又は保存の状況からすれば、請求人の帳簿書類は、法人税法第127条第1項第3号後段に規定する「その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」に該当し、その内容及び程度は、青色申告制度の趣旨及び青色申告の承認の取消しの意義に照らし、真に青色申告による納税申告を維持させるにふさわしくない内容及び程度に達しているといえる。そうすると、請求人の帳簿書類の備付け、記録又は保存が法人税法第126条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていなかったか否か、そして同法第127条第1項第1号に該当するか否かにかかわらず、請求人の帳簿書類について、同項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由がある。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、本件仕入取引に係る仕入先が本件判取帳に記載した住所、氏名は真実であり、また、請求人が実際に商品を販売していることから本件仕入取引が存在することは明らかであるから、請求人が保存する帳簿書類は、その記載又は記録した事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるものには該当しない旨主張する。
     しかしながら、請求人が保存する帳簿書類には、その記載又は記録した事項の全体についてその真実性を疑うに足りる理由があることは、上記ハのとおりであるから、実際に仕入れた商品を販売しているから本件仕入取引の事実は存在するとの請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件仕入取引について、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たるか否か。)について

  • イ 法令解釈等
     消費税法第30条第7項が、課税仕入れに係る同条第8項第1号所定の事項が記載されている帳簿(以下「法定帳簿」という。)及び同条第9項第1号所定の事項が記載されている請求書等(以下「法定請求書等」という。)の保存がある場合に限り、仕入税額控除を認めることとしたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く公平に資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、法定帳簿及び法定請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判断されたためであると考えられる。
     そして、平成6年改正前の消費税法が、帳簿又は請求書等の保存を要求することにより、事業者の自己記帳に基づく帳簿の保存だけでも仕入税額控除を認めていたのに対し、制度の信頼性や正確性等の観点から、請求書、納品書その他取引の事実を証する書類のいずれかを保存することをその要件に加えることが適当である旨の税制調査会の答申を受けてなされた平成6年改正後の消費税法が、上記の確実な資料として、事業者の自己記帳に基づく法定帳簿及び取引の相手方が作成した法定請求書等の双方の保存を要求することとしたことは明らかである。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件総勘定元帳について
       請求人が保存する本件総勘定元帳には、上記(1)のロの(イ)のとおり、本件仕入取引のうち現金仕入れの取引について、消費税法第30条第8項第1号所定の記載事項である1課税仕入れの相手方の氏名又は名称(同号イ)、2課税仕入れに係る資産又は役務の内容(同号ロ)が記載されておらず、銀行振込みによる仕入取引について、課税仕入れに係る資産又は役務の内容(同号ロ)が記載されていないから、本件総勘定元帳は法定帳簿に該当しない。
    • (ロ) 本件判取帳について
       本件判取帳には、取引の相手方の氏名、現金の受領日及び受領金額が記載されているが、消費税法第30条第9項第2号所定の記載事項である課税仕入れに係る資産又は役務の内容(同号ハ)の記載がないから、本件判取帳は、法定請求書等に該当しない。
       なお、上記(1)のロの(ハ)のBのとおり、本件レシートは本件判取帳の明細を示すものではないから、本件判取帳と本件レシートを併せて法定請求書等に該当するということもできない。
    • (ハ) まとめ
       上記1の(3)のヘのとおり、本件仕入取引に係る帳簿書類として請求人が保存しているのは、本件総勘定元帳及び本件判取帳であるところ、上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件総勘定元帳は法定帳簿に該当せず、本件判取帳も法定請求書等に該当しないから、請求人の本件仕入取引に係る帳簿書類の記載及び保存状態は、消費税法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たる。
       そして、当審判所の調査によっても、請求人に災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを認めるに足る証拠はないから、本件仕入取引に係る消費税等の額について消費税法第30条第1項の規定は適用されず、仕入税額控除をすることはできない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、本件総勘定元帳は、消費税法第30条第8項第1号所定の記載事項が不足しているものの、この不足している事項は、本件判取帳及び本件レシートにより補足でき、これらの書類を合わせると、同号所定の記載事項の全てが記載されていたことになるから、同条第7項の帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たらない旨主張する。
     しかしながら、上記イのとおり、消費税法第30条第7項は法定帳簿と法定請求書等の双方の保存を要求しているところ、上記ロの(イ)のとおり、本件総勘定元帳は、法定帳簿に該当しない。そうすると、仮に、本件判取帳及び本件レシートにより本件仕入取引に係る同号所定の記載事項が確認できるとしても、同条第7項に規定する帳簿及び請求書等の保存があったと認めることはできない。なお、本件判取帳が法定請求書等に該当しないことは上記ロの(ロ)のとおりである。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件各課税期間において、課税売上額が過大であるか否か。)について

  • イ 検討
     請求人からD社への課税売上額のうち、当審判所の調査により認定した過大計上額は、D社が仕入代金として請求人の預金口座に振り込んだ後、当該預金口座から出金されてD社の預金口座に入金されたと認められる金額であり、D社において課税仕入れの額を過大に計上していたと認められる金額である。
     請求人とD社との間の売買取引が私法上同一の取引であることは明らかであり、D社における課税仕入れの額と請求人における課税売上額は一致しているから、D社において課税仕入れを過大に計上した額が、請求人における課税売上額の過大計上額と認められる。そして、その金額は、下表の「課税期間」欄に記載した平成29年3月課税期間、平成29年6月課税期間、平成29年9月課税期間及び平成29年12月課税期間について、それぞれ「過大計上額(税抜き)」欄に記載した金額であり、合計959,642,266円である。
     よって、当該各課税期間に係る課税売上額から当該各金額を減額することが相当である。
  • 課 税 期 間 過大計上額(税抜き)
    平成28年6月課税期間 0円
    平成28年9月課税期間 0円
    平成28年12月課税期間 0円
    平成29年3月課税期間 126,943,492円
    平成29年6月課税期間 270,736,578円
    平成29年9月課税期間 420,453,706円
    平成29年12月課税期間 141,508,490円
    合  計 959,642,266円
  • ロ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、D社の更正処分における課税仕入れの額は、間接的な資料を用いて所得金額を認定する推計課税の方式により算出したものであり、請求人とD社との取引に係る実額で認定された課税仕入れの額とは性質が異なる旨主張する。
     しかしながら、当審判所は、上記イのとおり、請求人の預金口座から支出されてD社の預金口座に入金されたと認められる金額を課税売上額の過大計上額であると認定したものであり、原処分庁がD社の課税仕入れの額をどのように算出したかは、上記の判断に影響しない。

(4) 本件青色申告取消処分の適法性について

上記(1)のハのとおり、請求人の平成29年3月期の帳簿書類については、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由があると認められる。
 そして、本件青色申告取消処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件青色申告取消処分は適法である。

(5) 本件消費税等各更正処分の適法性について

  • イ 平成28年6月課税期間、平成28年9月課税期間及び平成28年12月課税期間
     上記(3)のイのとおり、平成28年6月課税期間、平成28年9月課税期間及び平成28年12月課税期間(以下「本件3課税期間」という。)については、請求人の課税売上額を減額すべき金額はなく、また、上記(2)のロのとおり、本件仕入取引に係る消費税等の額について仕入税額控除を適用することができない。これに基づき、消費税等の納付すべき税額を計算すると、原処分と同額になる。
     そして、本件3課税期間の消費税等の各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件3課税期間の消費税等の各更正処分は適法である。
  • ロ 平成29年3月課税期間
     上記(3)のイのとおり、請求人の平成29年3月課税期間の課税売上額は過大に計上されたものであるから、課税売上額を再計算すると〇〇〇〇円となる。
     また、上記(2)のロのとおり、本件仕入取引に係る消費税等の額は仕入税額控除を適用することができない。これに基づき、消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、原処分を下回ることとなる。
     そして、当該課税期間の消費税等の更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、当該課税期間の消費税等の更正処分は、その一部を別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ハ 平成29年6月課税期間
     請求人は、平成29年6月課税期間の消費税等の確定申告において課税売上額を〇〇〇〇円としているが、本件総勘定元帳に計上された課税売上額は〇〇〇〇円であり、当該金額が正当な課税売上額と認められる。そして、上記(3)のイのとおり、請求人の当該課税期間の課税売上額は過大に計上されたものであるから、課税売上額を再計算すると〇〇〇〇円となる。
     また、上記(2)のロのとおり、本件仕入取引に係る消費税等の額は仕入税額控除を適用することができない。これに基づき、消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、原処分を下回ることとなる。
     そして、当該課税期間の消費税等の更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、当該課税期間の消費税等の更正処分は、その一部を別紙4の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ニ 平成29年9月課税期間
     請求人は、平成29年9月課税期間の消費税等の確定申告において課税売上額を〇〇〇〇円としているが、本件総勘定元帳に計上された課税売上額は〇〇〇〇円であり、当該金額が正当な課税売上額と認められる。そして、上記(3)のイのとおり、請求人の当該課税期間の課税売上額は過大に計上されたものであるから、課税売上額を再計算すると〇〇〇〇円となる。
     また、上記(2)のロのとおり、本件仕入取引に係る消費税等の額は仕入税額控除を適用することができない。これに基づき、消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、原処分を下回ることとなる。
     そして、当該課税期間の消費税等の更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、当該課税期間の消費税等の更正処分は、その一部を別紙5の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ホ 平成29年12月課税期間
     請求人は、平成29年12月課税期間の消費税等の確定申告において課税売上額を〇〇〇〇円としているが、本件総勘定元帳に計上された課税売上額は〇〇〇〇円であり、当該金額が正当な課税売上額と認められる。そして、上記(3)のイのとおり、請求人の当該課税期間の課税売上額は過大に計上されたものであるから、課税売上額を再計算すると〇〇〇〇円となる。
     また、上記(2)のロのとおり、本件仕入取引に係る消費税等の額は仕入税額控除を適用することができない。これに基づき、消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、原処分を下回ることとなる。
     そして、当該課税期間の消費税等の更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、当該課税期間の消費税等の更正処分は、その一部を別紙6の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ヘ 平成30年3月課税期間
     請求人は、平成30年3月課税期間の消費税等の確定申告において課税売上額を〇〇〇〇円として計上しているが、本件総勘定元帳に計上された課税売上額は〇〇〇〇円であり、当該金額が正当な課税売上額と認められる。そして、上記(3)のイのとおり、請求人の課税売上額を減額すべき金額はなく、また、上記(2)のロのとおり、本件仕入取引に係る消費税等の額について仕入税額控除を適用することができない。これに基づき、消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、確定申告の額を下回ることとなるから、当該課税期間の消費税等の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。 

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 平成28年6月課税期間、平成28年9月課税期間及び平成28年12月課税期間
     上記(5)のイのとおり、本件3課税期間の消費税等の各更正処分は適法であり、当該各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》(平成28年法律第15号による改正前のもの)第4項第1号(同改正前の第4項)に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、本件3課税期間の過少申告加算税の額は、いずれも原処分と同額であると認められる。
     したがって、本件3課税期間の各賦課決定処分は適法である。
  • ロ 平成29年3月課税期間ないし平成29年12月課税期間
     平成29年3月課税期間ないし平成29年12月課税期間の消費税等の各更正処分は、上記(5)のロないしホのとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるから、当該各課税期間の各賦課決定処分の基礎となる税額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
     また、これらの税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、国税通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
     したがって、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいて計算された請求人の過少申告加算税の額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも原処分を下回るから、当該課税期間の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙3ないし別紙6の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ハ 平成30年3月課税期間
     上記(5)のヘのとおり、平成30年3月課税期間の消費税等の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これを前提とする当該課税期間の賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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