(令和4年11月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、農業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、請求人の弟名義の農産物取引に係る収益は請求人に帰属するなどとして、青色申告の承認の取消処分、所得税等及び消費税等の更正処分等並びに源泉所得税等の納税告知処分等をしたのに対し、請求人が、当該収益は請求人に帰属しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙7のとおりである。
 なお、別紙7で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、野菜の生産及び販売を事業として営む個人事業者である。
       なお、請求人は、平成15年6月○日に設立されたJ社(以下「本件法人」という。)の代表取締役を務めている。
    • (ロ) 請求人は、平成24年12月28日、個人事業の開業届出書、所得税の青色申告承認申請書及び青色事業専従者給与に関する届出書を原処分庁に提出し、平成25年分以後の所得税について青色申告の承認を受け、請求人の配偶者であるK(以下「本件配偶者」という。)を青色事業専従者とした。
    • (ハ) 請求人は、平成24年12月28日、所得税法第216条《源泉徴収に係る所得税の納期の特例》の規定による源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を原処分庁に提出し、同申請は承認された。
  • ロ 請求人の事業について
    • (イ) 請求人は、平成24年12月28日に、本件法人との間で、平成25年1月1日以降農業用設備を賃借する旨契約し、平成26年分から令和元年分までの各年分(以下、これらの各年分を併せて「本件各年分」という。)において、本件法人に当該賃借に係るリース料を支払っていた。
    • (ロ) 請求人は、請求人及び本件法人の名義で農産物を出荷しており、その販売代金は、L農業協同組合(以下「本件農協」という。)○○支店の請求人名義の普通貯金口座(以下「本件請求人農協口座」という。)に振り込まれていた。
       なお、本件法人名義での農産物の出荷に係る収益が請求人に帰属することについて、当事者間に争いはない。
    • (ハ) 本件配偶者は、請求人の事業に係る経理に従事し、現金の管理や現金出納帳の作成のほか、小作料の支払を管理するため、小作帳(以下「本件小作帳」という。)を作成していた。
    • (ニ) 請求人は、請求人の事業に係る従業員として外国人技能実習生を雇用していた。
  • ハ 請求人の弟名義の取引等について
    • (イ) 請求人の弟であるM(以下「本件弟」という。)は、平成24年5月の贈与及び平成25年2月の売買により農地をそれぞれ取得し、令和元年12月31日までの期間を通じて所有していた。
    • (ロ) 本件弟名義でN社(以下「本件出荷先法人」という。)又は本件農協へ出荷された農産物(以下、これらを併せて「本件農産物」といい、本件農産物の生産及び出荷に係る事業を「本件事業」という。)の各販売代金は、本件農協○○支店の本件弟名義の普通貯金口座(以下「本件弟農協口座」という。)に振り込まれていた。
    • (ハ) P信用金庫○○支店の本件弟名義の普通預金口座(以下「本件弟信金口座」という。)には、平成26年1月から平成31年1月までの期間、毎月○○○○円の金員(以下「本件各金員」という。)が振り込まれていた。
    • (ニ) 本件弟名義で、上記ロ(ニ)とは別の外国人技能実習生が雇用されていた。
    • (ホ) 本件弟に係る本件各年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)についての各確定申告書は、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出されており、当該各確定申告書には農業所得用の青色申告決算書がそれぞれ添付されていた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各年分の所得税等について、それぞれ確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。当該各申告において、請求人は本件事業から生ずる収益を請求人の事業所得の金額に算入していなかった。
     なお、原処分庁は、請求人から平成28年3月28日に提出された平成27年分の所得税等の更正の請求書に基づき、更正をすべき理由があるとして、平成28年6月17日付で別表1の「更正処分」欄のとおり更正処分をした。
  • ロ 請求人は、平成26年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成26年課税期間」といい、他の課税期間についても同様に表記する。また、平成26年課税期間から平成28年課税期間までを併せて「本件3課税期間」という。)から平成30年課税期間までの課税期間(以下、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、それぞれ確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ハ 原処分庁及びQ国税局長所属の調査担当職員(以下、両者を併せて「本件調査担当職員」という。)は、請求人に対し、令和2年12月1日に本件各年分の所得税等、本件各年分の源泉徴収に係る所得税等(以下「源泉所得税等」という。)及び本件各課税期間の消費税等の実地の調査(以下「本件調査」という。)を開始した。
  • ニ 請求人は、本件調査が継続中の令和3年3月17日に、平成28年分、平成29年分及び令和元年分の所得税等並びに平成28年課税期間及び平成29年課税期間の消費税等について、別表1及び別表2の各「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書を提出した。
  • ホ 原処分庁は、本件調査に基づき、請求人に対し、令和3年4月13日付で、1平成26年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色承認取消処分」という。)、2本件各年分の所得税等について、別表1の「更正処分等」欄のとおり各更正処分(以下「本件所得税等各当初更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、3本件各課税期間の消費税等について、別表2の「更正処分等」欄のとおり各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」という。)、4平成26年1月から令和元年6月までの源泉所得税等について、別表3のとおり各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件源泉所得税等各賦課決定処分」という。)をした。
  • ヘ 請求人は、上記ホの各処分に不服があるとして、令和3年6月14日に審査請求をした。
  • ト 原処分庁は、請求人が本件法人から受けていた経済的利益に係る給与所得の金額に誤りがあるなどとして、令和3年10月27日付で、別表1の「再更正処分等」欄のとおり、1本件各年分の所得税等の各再更正処分、2平成29年分及び平成30年分の所得税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分、3平成27年分及び平成28年分の所得税等に係る過少申告加算税及び重加算税を減額する各変更決定処分をした(以下、令和3年10月27日付で行われた上記1から3までの各処分を総称して「本件各再更正処分等」といい、当該各処分に係る調査を「本件再更正調査」という。)。
  • チ 請求人は、上記トの各処分に不服があるとして、令和4年1月17日に審査請求をした。
  • リ 当審判所は、通則法第104条《併合審理等》第1項の規定を適用して、上記ヘ及びチの各審査請求を併合審理する。

2 争点

(1) 本件各再更正処分等は、違法な本件再更正調査に基づくものであり取り消すべきか否か(争点1)。

(2) 本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は、請求人に帰属するか否か(争点2)。

(3) 本件各金員は、請求人から本件弟に対して支給された給与等に該当するか否か(争点3)。

(4) 請求人に、通則法第68条第1項及び同条第3項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か(争点4)。

(5) 請求人に、通則法第70条第5項第1号及び同法第73条第3項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か(争点5)。

(6) 請求人に、所得税法第150条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実があったか否か(争点6)。

(7) 本件3課税期間において、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引について、仕入税額控除が適用されるか否か(争点7)。

(8) 平成29年分及び平成30年分の所得税等の各再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実がその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるか否か(争点8)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各再更正処分等は、違法な本件再更正調査に基づくものであり取り消すべきか否か。)について

原処分庁 請求人
原処分庁は、本件各再更正処分等をするに当たり、原処分庁内部における調査を行ったが、請求人に対する通則法第74条の11第6項の規定にいう質問検査等は行っていない。そして、通則法第26条に規定する調査には課税庁内部における調査も含まれると解されるところ、質問検査等は更正処分の要件ではないため、本件各再更正処分等は適法である。 原処分庁は、本件調査の結果説明を行った時点において、本件各再更正処分等の理由となった給与所得の金額の情報を有していたところ、その後に新たな情報はないため、通則法第74条の11第6項の規定により質問検査等(再調査)をすることはできないはずであるが、本件所得税等各当初更正処分における計算間違いや加算漏れ等を補正するために調査を行った。
 このように法令に違反し、職権を濫用して行われた本件再更正調査に基づいて行われた本件各再更正処分等は取り消すべきである。

(2) 争点2(本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は、請求人に帰属するか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 本件事業は、以下の(イ)から(ト)までに掲げた事項を総合勘案すれば、本件弟が行っていたものとは認められず、請求人が行っていたものと認められることから、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は、全て請求人に帰属する。 イ 請求人と本件弟は、互いに農地を出資し共同事業によって効率化を図り、本件事業を含む農業経営を行ってきた。農業経営に当たっては、相互に意思の疎通を図り、意思決定には互いが関与し、営業活動、管理部門などそれぞれの役割を分担し、農地の持分割合を基本に収入の約2割を本件弟に分配することで合意している。本件農産物の販売代金は、当該合意に基づき本件弟の分としたものである。
 よって、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は、本件弟に帰属する。
 また、以下のとおり、原処分庁が総合勘案したとする事項は、事実認定又は判断に誤りがある。
(イ) 本件農産物の生産
 請求人及び本件弟の申述からすると、本件弟は本件事業において、請求人の指示を受けて従業員として従事していたものと認めるのが相当である。
 また、請求人は、どの畑の農産物をどこに出荷するかは特に決まっていない旨申述していることからすれば、請求人名義で出荷している農産物と本件農産物とを区分して生産していたとは認められない。
 したがって、請求人は本件農産物も生産していたものと認められる。
(イ) 本件農産物の生産
 本件弟は、農作業に関して請求人より詳しく、請求人が本件弟に指示を出すことはない。
 また、農業委員会が発行した耕作証明書が示すように、本件弟は十分な畑を所有しており、それらを出資して請求人との共同事業を行っている。そして、本件弟は、請求人とその都度協議の上生産の責任者として現場に立ち、ほとんど全ての農産物を生産しているのであって、請求人が本件農産物も生産していたとの認定は全て思い込みである。
(ロ) 本件農産物の出荷
 請求人は、本件出荷先法人との取引について自らが出荷量を決めて、連絡や出荷の手配を行っている旨申述し、本件弟は本件出荷先法人との取引について詳細は分からない旨申述していること及び本件出荷先法人の担当職員が農産物の出荷量を決める契約は請求人と行っている旨申述していることからすれば、本件弟は本件農産物の出荷に係る意思決定に関与していたとは認められず、本件農産物の出荷は、請求人が主体となって行っていたものと認められる。
(ロ) 本件農産物の出荷
 本件弟と本件出荷先法人は、合意の上で、取引を正当に行っていた。
 本件農産物の出荷量は本件出荷先法人との契約に基づいてあらかじめ決められており、本件弟は、相場を見て自分の判断で出荷量を調整の上決定し、出荷の手配も外国人技能実習生を使って行っている。
 なお、本件出荷先法人の担当職員の申述は、本件調査担当職員が作ったストーリーに沿った質問に対する回答であり、信用性がない。
(ハ) 本件弟農協口座
 本件農産物の販売代金は本件弟農協口座に入金されているところ、1本件弟は当該口座の通帳を管理しているのは請求人である旨、2請求人は当該通帳を自らが所有しており入出金は本件配偶者に依頼している旨、3本件配偶者は自らが当該口座から現金を引き出している旨それぞれ申述しており、このことは本件農協の信用窓口担当職員の申述や、当該口座の払戻請求書に本人確認として本件配偶者の名前が記載されている事実と合致していることからすれば、当該口座は請求人が管理していたものと認められる。
(ハ) 本件弟農協口座
 請求人と本件弟は、農業経営に当たり、生産を本件弟、販売を請求人、管理を本件配偶者と分担していた。本件弟は、農産物生産のために畑仕事に専念していたため銀行等に行く暇がないことから本件配偶者に当該口座の入出金の手続を任せていただけのことである。
 本件弟農協口座は、本件弟が代表者を務めていた法人の普通預金を解約した資金を原資として開設したものであり、間違いなく本件弟の貯金である。
(ニ) 本件事業の必要経費の負担 (ニ) 本件事業の必要経費の負担
A 本件弟は、本件事業の経理やお金の管理はしておらず、支払は請求人が行っている旨申述していることから、本件弟が本件事業に係る経費の負担を行っていたとは認められない。
 また、農産物の種等の仕入先の担当者は、取引の際の状況について、請求人から連絡があり、注文品を請求人の自宅近くの倉庫へ届け、納品書及び請求書を請求人に送付等し、代金が振り込まれている旨申述していることに加え、請求人が農業用設備のリースの契約をしていたことからみても、請求人が負担した種苗費等及び農業用設備のリース料は請求人等の名義で出荷されている農産物だけでなく本件農産物の生産にも充てられたものとみるのが相当である。
A 必要経費については、請求人が本件弟の分もまとめて支払っていたが、そもそも請求人と本件弟は共同事業を行っているのであって、労力の過不足を金銭、物品で精算したものや農業用機械を貸した代わりにその分を手間で返すこともあった。また、請求人が支払う種苗代や購買代の負担金を本件弟から年末に出してもらっていた。
B 本件配偶者は、請求人及び本件弟の各名義で契約した外国人技能実習生の給与をまとめて管理し、本件請求人農協口座及び本件弟農協口座から現金を引き出して支払っている旨申述しており、上記(ハ)のとおり、本件弟農協口座の通帳は請求人が管理していることからすれば、請求人は本件弟名義で雇用している外国人技能実習生に給与を支払っていたものと認められる。 B 外国人技能実習生は、本件弟が自分の畑の農作業をさせるために雇っていたものである。
C 上記(イ)のとおり、本件弟は請求人の従業員として従事しており、当該従事の対価について、請求人は毎月○○○○円の給与を支払っている旨申述し、本件弟も請求人から給与をもらっている旨申述している。そして、本件弟農協口座を原資として本件弟信金口座に本件各金員が振り込まれていることから、請求人は、本件弟に対して給与を支払っていたものと認められる。 C 請求人は、本件弟に給与を支払ったことは一度もなく、給与明細の作成や、給与計算もしていない。
D したがって、本件事業の必要経費の負担は、請求人が行っていたものと認められる。 D したがって、本件事業の必要経費の負担を請求人が行っていたという事実はない。
(ホ) 本件事業の経理及び申告
 請求人は、1本件農産物の収入は自らの収入になるところ、外国人技能実習生の雇用を増やすために自らの収入を分散させて本件弟の確定申告書を作成したが、本件弟には当該申告書の控えを渡していない旨、2本件弟の確定申告に係る納税の手続は本件配偶者に依頼していた旨申述している。また、本件弟は、本件事業の経理や支払等は請求人が行っており、自らが保存している書類や帳簿はなく、自らの確定申告について確認していない旨申述している。このことからすれば、本件事業の経理及び申告について本件弟が関与していたとは認められず、請求人が、本件農産物に係る収入が自身の収入になることを認識していながら、外国人技能実習生をより多く雇うための外形を作り出すために、本件事業の経理及び申告を行っていたものと認められる。
(ホ) 本件事業の経理及び申告
 本件弟は、事務処理や経理面などに疎いため、請求人が本件弟の確定申告書を作成していただけである。
 また、原処分庁は、請求人が外国人技能実習生をより多く雇うための外形を作り出すために自らの収入を分散させた旨主張するが、外国人技能実習生は本件弟が自分の畑の農作業をさせるために雇っていたものである。
(ヘ) 本件事業から生ずる収益の費消
 本件農産物の販売代金が振り込まれる本件弟農協口座を請求人が管理していることは上記(ハ)のとおりであるところ、令和元年10月23日に本件配偶者が本件農協の窓口で行った手続の内容からすると、同日に本件弟農協口座から出金された現金4,000万円は、請求人がT社製の車両(以下「本件車両」という。)を購入する資金に充てられていると認められることなどから、本件事業から生ずる収益を費消していたのは請求人であったとみるのが相当である。
 なお、請求人は、上記の主張に係る証拠について、本件調査が終了した後に新たに行われた違法な調査により収集されたものである旨主張するが、課税処分に対する行政上の不服申立ての追行等に関する必要な調査も質問検査権を行使できる調査の範囲に含まれると解されるので、原処分庁の対応に違法性はない。
(ヘ) 本件事業から生ずる収益の費消
 本件弟農協口座は、名義のとおり本件弟自身の所有物であり、請求人が費消しているという事実はない。
 本件弟農協口座から現金4,000万円が引き出されているのは、請求人が本件弟から当該現金を借用したものであるが、令和3年1月に返済している。
 なお、当該現金を請求人が本件車両を購入する資金に充てたという原処分庁の主張に係る証拠は、本件調査が終了した後に新たに行われた違法な調査により収集されたもので、採用するべきではない。
(ト) 関係者の認識
 請求人の各取引先の各申述は、請求人と本件弟がそれぞれ農業を経営していると考えている旨のものもあるが、大半は、本件弟は請求人の従業員である又は本件弟が請求人の農業を手伝っている若しくは請求人と本件弟は農業を一緒にやっているという旨のものであることからすると、請求人の関係者の多くは、本件事業は請求人が主体となって本件弟と一緒に行っていたと認識していたものと認められる。
(ト) 関係者の認識
 農業という特殊な事業形態は、真の経営者が誰であるか第三者では分かり得ない。請求人は本件弟と共同で農業経営をしており、それぞれの分担があって成り立っているため、第三者である請求人の各取引先は直接会っている者を経営者と思い込むのは当たり前のことである。そうすると、請求人の各取引先の各申述は、本件事業の経営者を特定する根拠として不十分である。
ロ 請求人及び本件弟は、原処分庁が処分の根拠とした各申述の内容が記載された各質問応答記録書に署名しており、両者の申述内容の趣旨はおおむね一致することからも、それぞれの申述は信用性があるものと認められる。 ロ 原処分庁が処分の根拠とした請求人及び本件弟の各申述は、新型コロナウイルス感染拡大の時期に強行された本件調査において作成された調書に記載されたものであり、請求人及び本件弟は本件調査担当職員が一方的に作成した書類に署名させられた記憶があるだけで、言った覚えがない内容である上、事実と全く異なっていることから信用性がない。
 また、請求人の申述につき質問応答記録書とは別に作成された調査報告書には、法定請求書等を捨ててしまった旨の申述が記載されているが、請求人が提出した証拠が示すように法定請求書等の保存はあり、事実と明確に異なっている。このように、調査報告書はでたらめな内容で勝手に作成されたものであり信用性がない。
 そして、本件調査担当職員は、本件調査で把握した事実関係や請求人の各取引先に係る各調査等の内容について、請求人に反論する機会を与えなかった。上記1(4)ホの各処分は、このようにずさんな調査に基づき行われたものである。

(3) 争点3(本件各金員は、請求人から本件弟に対して支給された給与等に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(2)「原処分庁」欄のイ(ロ)、(ニ)及び(ホ)のとおり、本件弟は、1本件農産物の出荷に係る意思決定への関与、2本件事業の必要経費の負担、3本件事業の経理及び申告をしていたとは認められない。そうすると、本件弟は、本件事業において、自己の危険と計算により労務を提供しているとはいえず、請求人の指示に従って本件事業に従事し請求人に対して労務を提供していると認めるのが相当である。
 また、本件弟に給与を支払っている旨の請求人の申述及び請求人から給与をもらっている旨の本件弟の申述並びに請求人が管理していた本件弟農協口座の貯金を原資として本件弟信金口座に本件各金員が振り込まれていることからすれば、請求人と本件弟との間において、請求人が本件弟による労務の提供に対して給与を支払うという合意があったものと認めるのが相当である。
 これらのことから、本件各金員は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、請求人の指示に従って提供した労務の対価として、請求人が本件弟に支給しているとみるのが相当であり、請求人から本件弟に対して支給された給与等に該当する。
本件各金員の振込みは、本件弟が本件弟農協口座と本件弟信金口座との間で資金を移動しているだけであり、請求人と本件弟との間には雇用契約等はなく、本件弟は請求人から指揮命令や時間的拘束を受けておらず、社会保険等の被保険者にもなっていない。
 よって、本件各金員は、請求人から本件弟に対して支給された給与等に該当しない。

(4) 争点4(請求人に、通則法第68条第1項及び同条第3項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 所得税等及び消費税等について
 本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価が請求人に帰属するのは上記(2)「原処分庁」欄のとおりであり、請求人はそのことを認識していたと認められるところ、請求人が本件農産物に係る販売代金の振込口座に本件弟農協口座を利用し、同販売代金について請求人の従業員として従事している本件弟が本件事業を営んでいるかのように本件弟の確定申告書等を作成して原処分庁へ提出し、本件農産物の収益等が本件弟に帰属するかのように装っていたことは、事実の仮装に該当する。そして、請求人に帰属する本件農産物に係る販売代金を本件各年分の各総勘定元帳に記載しなかったことは、事実の隠蔽に該当する。
 したがって、請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったといえる。
 また、仮に上記の各行為が架空名義の利用等の積極的な行為とまで認められないとしても、請求人の上記の各行為及び本件弟の確定申告書等を作成する際には所得が少なくなるように調整していたことからすると、請求人は当初から所得等を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものと認められるから、重加算税の賦課要件は充足している。
イ 所得税等及び消費税等について
 上記(2)「請求人」欄のとおり、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は本件弟に帰属し、本件弟は自らの所得を申告していたものであり、請求人の総勘定元帳に載るはずがない。
 したがって、原処分庁が隠蔽仮装行為と認定した事実は存在しない。
ロ 源泉所得税等について
 上記(3)「原処分庁」欄のとおり、請求人は、本件弟に対し本件各金員を給与として支払っているにもかかわらず、本件各金員を本件各年分の各総勘定元帳に記載せず、かつ、請求人の従業員である本件弟が、本件事業を営んでいるかのように本件弟の確定申告書等を作成して原処分庁へ提出した。
 したがって、請求人に通則法第68条第3項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったといえる。
ロ 源泉所得税等について
 上記(3)「請求人」欄のとおり、本件各金員は請求人から本件弟へ支給された給与等に該当しない。
 したがって、原処分庁が隠蔽仮装行為と認定した事実は存在しない。

(5) 争点5(請求人に、通則法第70条第5項第1号及び同法第73条第3項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 上記(4)「原処分庁」欄のとおり、請求人の一連の行為は、通則法第68条第1項及び同条第3項に規定する隠蔽仮装行為と認められることから、同法第70条第5項第1号及び同法第73条第3項に規定する「偽りその他不正の行為」にも該当する。 イ 上記(2)「請求人」欄のとおり、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は本件弟に帰属し、上記(3)「請求人」欄のとおり、本件各金員は、請求人から本件弟へ支給された給与等に該当しないので、原処分庁が「偽りその他不正の行為」であると認定した事実は存在しない。
ロ なお、請求人の本件各再更正処分等に関する主張についていえば、通則法第70条第5項の適用範囲は、偽りその他不正の行為によって免れた税額に相当する部分のみに限られるものではない。
 そのため、上記イの「偽りその他不正の行為」が認められる平成26年分及び平成27年分の所得税等の再更正処分には、通則法第70条第5項第1号が適用される。
ロ また、本件各再更正処分等については、原処分庁のミスが原因で行われた処分であり、請求人には「偽りその他不正の行為」は存在しない。
 よって、平成26年分及び平成27年分の所得税等の再更正処分には、通則法第70条第5項第1号は適用されない。

(6) 争点6(請求人に、所得税法第150条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
本件事業から生ずる収益が請求人に帰属するのは、上記(2)「原処分庁」欄のとおりであり、請求人はそのことを認識していたと認められるところ、請求人は本件農産物に係る販売代金を各総勘定元帳に記載しないことにより当該販売代金を請求人の収入金額に計上していない。
 この行為は、所得税法第150条第1項第3号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある」場合に該当する。
本件事業から生ずる収益が請求人に帰属しないのは、上記(2)「請求人」欄のとおりであり、請求人の各総勘定元帳に記載がないのは当然である。
 したがって、請求人に青色申告の承認の取消事由に該当する事実はない。

(7) 争点7(本件3課税期間において、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引について、仕入税額控除が適用されるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 本件調査担当職員が本件調査において請求人の帳簿書類の保存状況を調査したところ、本件3課税期間の各総勘定元帳(以下「本件3課税期間各総勘定元帳」という。)及び平成29年課税期間から令和元年課税期間までの法定帳簿等の提示を受け、これらを留め置いた(以下、本件調査担当職員が留め置いた本件3課税期間各総勘定元帳を含めた各書類を「本件留置帳簿等」という。)。
 また、請求人が、平成28年分以前の必要経費の領収書は捨てた旨申述したことなどを踏まえ、本件調査担当職員は、請求人の関与税理士(以下「本件税理士」という。)に対して、本件3課税期間の必要経費に係る領収書は保存されていない旨及び保存がないことは消費税の税額計算に影響を及ぼすことである旨を伝えた上で、令和3年2月22日まで再三にわたり請求人が保存している本件留置帳簿等以外の法定請求書等の有無を確認して本件調査担当職員に提示するよう求めたが、請求人は、本件3課税期間に係る法定請求書等を提示しなかった。
 上記事実から、請求人は、税務職員による調査に当たって、適時に本件3課税期間に係る法定請求書等を提示することが可能なように態勢を整えて保存しておらず、本件3課税期間に係る法定請求書等を保存しない場合に該当すると認められる。
 なお、当該保存がなかったことについて、請求人に災害その他やむを得ない事情があったとは認められない。
 したがって、本件3課税期間においては、本件3課税期間各総勘定元帳に記載された取引のうち課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満の取引についてのみ仕入税額控除が適用される。
イ 請求人は、本件3課税期間の法定帳簿及び法定請求書等は保存しており、提示しているから、課税誤りは明白である。
 本件調査担当職員が本件調査の初日に現物確認調査を実施した際に、請求人は、帳簿の保管場所を案内し、本件3課税期間の法定請求書等も当該保管場所に保存していた。請求人は、本件調査担当職員に対し、請求書等を分かりやすく整理して提示しようとしたところ、本件調査担当職員はこれを拒否して現物確認調査を行った。原処分庁は、現物確認調査で帳簿書類及び請求書等を把握しているのであるから、請求人は、法定帳簿及び法定請求書等を確実に提示したことになる。
 したがって、本件3課税期間においては、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引についても仕入税額控除が適用されるべきである。
 なお、請求人は、上記の現物確認調査を除き、本件調査担当職員から本件3課税期間に係る法定請求書等について、保存の確認や、提示の要請をされたことはない。このことは、本件調査の記録において「消費税の課税仕入れについて、今回は認める」との発言記録があることや、本件調査担当職員が本件税理士に提示した本件3課税期間の消費税等の修正申告書(案)及び納付税額一覧表で、当該期間の仕入税額控除を認めていることからも明らかである。
 また、請求人は、平成28年分以前の必要経費の領収書を捨てたとの申述はしておらず、本件税理士も、調査初日の状況を踏まえ、本件調査担当職員に提示していない領収書等はないと申述しただけである。
ロ 本件における消費税法基本通達11−6−7の定めの適用につき、平成27年課税期間において仕入税額控除を適用するためには、保存期間が6年目となる令和3年4月1日からは法定帳簿又は法定請求書等のいずれかの保存でよいこととなるが、令和3年3月31日までの間は法定帳簿及び法定請求書等のいずれも保存しなければならないこととなる。請求人は、平成27年課税期間の法定請求書等について、令和3年2月22日までに行われた再三の提示要請に対して提示しなかったことから、令和3年3月31日まで当該法定請求書等を保存していたとは認められず、法定帳簿等の保存要件を充足していない。
 したがって、平成27年課税期間において、支払対価の額の合計額が3万円以上の取引に係る仕入税額控除は適用できない。
ロ 仮に、本件3課税期間の法定請求書等の保存がなかったとしても、平成26年課税期間及び平成27年課税期間については、法定帳簿を保存し、本件調査担当職員に法定帳簿を提示しているから、消費税法基本通達11−6−7の定めにより仕入税額控除は認められるべきである。

(8) 争点8(平成29年分及び平成30年分の所得税等の各再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実がその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるか否か。)について

請求人 原処分庁
平成29年分及び平成30年分の所得税等の各再更正処分は、原処分庁が犯した計算間違いや加算漏れ等のミスが原因で行われた処分であるから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある。 平成29年分及び平成30年分の所得税等の各再更正処分は、請求人が本件法人から受けていた経済的利益に係る給与所得の金額を是正したものであるが、先行の各更正処分において原処分庁が当該是正をしていない事実をもって当該経済的利益が課税の対象から免除されるものではない。そして、請求人が当該経済的利益を所得税等の各確定申告に含めて申告していなかったことについて、原処分庁が誤った指導を行ったという事実があったとは認められず、本件調査においても当該経済的利益を申告しなくてもよいとする明示の行動等もしていないから、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に該当するとはいえず、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

4 当審判所の判断

(1) 審査請求の適法性について

請求人は、1令和3年10月27日付でされた平成27年分及び平成28年分の所得税等の各再更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各変更決定処分の取消しを求めているが、当該各処分は、いずれも納付すべき税額を減額するものであり、請求人の権利利益を侵害するものではないから、請求人にはその取消しを求める不服申立ての利益はない。よって、これらの処分に対する審査請求は不適法である。
 また、2令和3年4月13日付でされた平成27年分及び平成28年分の所得税等の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分のうち、上記1の各処分により減額された部分については、その効力が消滅しているから、上記2の各処分に対する審査請求のうち、当該部分の取消しを求める部分は不服申立ての利益を欠き不適法である。
 そこで、以下においては、これらを除いた各処分に係る審査請求について、審理する。

(2) 争点1(本件各再更正処分等は、違法な本件再更正調査に基づくものであり取り消すべきか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第26条は、税務署長は、申告納税方式を採用している国税について同法第24条、第25条又は第26条の規定による更正又は決定があった場合に、その「調査」により当該更正又は決定に係る課税標準等又は税額等を更正する旨を規定しており、同条にいう「調査」は、課税庁の更正又は決定によって確定された課税標準等又は税額等を更に変更するために行われるものであるから、同条の「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠資料の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解され、質問検査等を行うことがない、いわゆる机上調査のような課税庁内部における調査も、上記「調査」に含まれるものと解される。
     また、通則法第74条の11第6項の規定は、納税者の負担の軽減を図りつつ、適正公平な課税の確保を図る観点から、一旦ある納税者に対して調査が行われ、その後、更正決定等をした後等においては、税務職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認める場合に再び質問検査等を行うことができることとしたものであり、質問、検査又は提示若しくは提出の要求(質問検査等)を伴わない調査(質問検査権の行使を伴わない調査)については、同項の規定は適用されないと解するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     当審判所の調査及び審理の結果によれば、原処分庁所属の調査担当職員が行った本件再更正調査の内容は以下のとおりであり、いずれも質問検査権の行使はなかったと認められる。
    • (イ) 請求人の所得税等に関する内部資料を検討し、給与所得の金額に誤りがあることを把握した。
    • (ロ) 上記(イ)に加え、本件所得税等各当初更正処分の内容を再確認したところ、計算誤りがあることを把握した。
    • (ハ) 上記(イ)及び(ロ)に基づき、本件各年分の所得税等について、課税標準等及び税額等の再検討を行った。
  • ハ 検討及び請求人の主張について
     請求人は、上記3(1)の「請求人」欄のとおり、原処分庁は、新たに得られた情報がないにもかかわらず、通則法第74条の11第6項に規定する質問検査等(再調査)を行っており、そのような違法な本件再更正調査に基づいて行われた本件各再更正処分等は取り消されるべきである旨主張する。
     しかしながら、原処分庁が本件各再更正処分等に当たり行った本件再更正調査は、上記ロのとおり課税庁内部の資料を確認して課税標準等及び税額等を再検討したものであり、質問、検査又は提示若しくは提出の要求(質問検査等)のいずれも行っていないことから、上記イのとおり通則法第74条の11第6項の規定は適用されない。
     また、上記ロのとおり、本件各再更正処分等は、原処分庁所属の調査担当職員による本件各年分の所得税額の計算等の結果を踏まえてされたものである。そして、上記イのとおり、課税庁内部において収集した資料等を基礎として正当な課税標準等及び税額等を計算することも、通則法第26条に規定する「調査」に当たるから、本件各再更正処分等が同条に規定する「調査」を欠くものとは認められない。
     したがって、本件各再更正処分等は、通則法第26条に規定する「調査」に基づいて適法に行われたものであり、取り消すべき違法はないから、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点2(本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は、請求人に帰属するか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 所得税法第12条は、いわゆる実質所得者課税の原則を規定しているところ、その趣旨は、担税力に応じた公平な税負担を実現するため、収益の法律上の形式的帰属者(名義人)と法律上の実質的帰属者が相違する場合、後者を収益の帰属者とするというものと解される。
       そして、事業(農業)から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その事業を経営していると認められる者(事業主)が誰であるかにより判定すべきであり、その事業を経営していると認められる者(事業主)が誰であるかという点は、実質所得者課税の原則を規定した所得税法第12条の趣旨に鑑み、農産物の生産及び出荷、口座の管理、必要経費の負担、事業の経理及び申告、関係者の認識等を総合勘案してその事業の経営方針の決定につき支配的影響力を有すると認められる者が当該事業の事業主に該当すると判定すべきである。
    • (ロ) また、消費税法第13条第1項も、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、同法を適用する旨規定しており、所得税法と同様の実質課税の原則を規定したものと解されるから、その事業に係る資産の譲渡等の対価を享受する者が誰であるかという点は、上記(イ)と同様に判定すべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件弟の申告関係書類について  
      • A 原処分庁は、平成25年1月28日に、開業の日が同年1月〇日と記載された本件弟の個人事業の開業届出書及び平成25年分以後の各年分の所得税についての青色申告承認申請書を収受した。
      • B 原処分庁は、平成31年3月4日に、同年1月〇日に法人を設立したことにより廃業した旨の記載がある本件弟の個人事業の廃業届出書を収受した。
    • (ロ) 本件弟農協口座の出金等の状況等について  
      • A 本件各年分において、別表4のとおり本件弟農協口座から現金の引出しがあり、また、別表5のとおり本件弟農協口座から本件弟信金口座への振込みがあった。
      • B 平成26年1月から同年12月までの期間に本件弟農協口座から毎月100万円を、また、平成27年1月から平成31年1月までの期間に本件弟農協口座から毎月150万円を現金で引き出したのは、いずれも本件配偶者であった。
      • C 本件配偶者は、本件請求人農協口座及び本件弟農協口座から現金を引き出し、外国人技能実習生の賃金を現金で支払っていた。なお、本件各年分において毎月、外国人技能実習生の賃金台帳の作成をしていたのも本件配偶者であった。
      • D 本件各金員の本件弟信金口座への振込みは、平成26年1月から同年12月までは定時自動送金依頼書に基づき本件弟農協口座からの口座振替(別表5)により行われていた。また、平成27年1月から平成31年1月までは上記Bの現金の引出しと同日に本件配偶者が作成した振込依頼書により現金で本件弟信金口座に振り込まれていた。
      • E 本件各年分において、上記BからDまで以外の本件弟農協口座に係る本件農協の窓口での入出金や振込み等の取引に係る手続についても、本件配偶者が常に行っていた。
      • F 本件調査担当職員は、令和2年12月1日、本件弟の所得税等及び消費税等の調査のため本件弟の自宅に臨場し、本件弟に対し帳簿等の保存状況の確認を行ったところ、本件弟信金口座の通帳は提示されたが、本件弟農協口座の通帳は、本件弟の自宅に保管されておらず提示されなかった。
    • (ハ) 本件小作帳の記載について
       本件小作帳には、本件弟の氏名又は名前及び金額(50,000円。ただし、平成26年分及び令和元年分については、金額の記載はない。)が記載されている年分があった。
    • (ニ) 農業用設備について
       本件弟は、請求人が上記1(3)ロ(イ)の契約に基づいて本件法人から賃借した農業用設備(以下「本件農業用設備」という。)を使用していた。
       なお、請求人と本件法人が、本件農業用設備の賃貸借に当たり作成した平成24年12月28日付及び平成30年5月28日付の各契約書には、請求人は本件農業用設備を第三者に転貸することや取り扱わせることをしない旨及び本件農業用設備の使用は請求人の管理監督の下で請求人の責任において行うものとする旨の記載があった。
    • (ホ) 本件出荷先法人の担当者の各申述について
       本件出荷先法人の担当者は、令和2年12月3日、本件調査担当職員に対し、要旨以下の内容の申述を行った。  
      • A 請求人から本件出荷先法人への○○の出荷量を決める契約方法は私が担当者となった10年くらい前から変わっておらず、年に2回私が請求人の自宅に行き、その年の出荷量を決める契約を口頭で行う。契約後は、請求人から出荷準備が整った都度電話をもらい、私が出荷物とその出荷量が書かれた「送り状」を請求人の自宅にFAXで送った上で請求人の自宅まで○○を取りに行く。○○を集荷した後、私が仕切書を作成し請求人の自宅に郵送した後、請求人から指定された口座へ振込みにより代金を支払う。
      • B 請求人と本件出荷先法人が取引する際の名義は、10年くらい前は請求人が代表をしていた本件法人名義だったが、請求人が個人として営業するようになった平成25年から本件弟名義に変わっている。
      • C 本件弟と契約や出荷のやり取りを行うことはなかった。本件弟とは一度も会ったことがなく、電話で話したこともない。
  • ハ 請求人及び本件弟の各申述の信用性について
     請求人は、上記3(2)の「請求人」欄ロのとおり、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価の帰属に関し、原処分庁が処分の根拠とした請求人及び本件弟の各申述は、当人らが言った覚えがない内容であり、事実と全く異なっているなどと、各申述の存在自体を否定するとともにその信用性を争う趣旨と解される主張をしているため、以下、各申述の存否及び信用性の有無について検討する。
    • (イ) 請求人の各申述要旨
       本件調査担当職員が作成した質問応答記録書又は調査報告書には、請求人が令和2年12月1日又は同月10日、本件調査担当職員に対し、要旨以下の内容の申述を行った旨がそれぞれ記載されている。  
      • A 請求人の事業と本件弟との関係について  
        • (A) 元々農業は私が母から引き継ぎ、その後本件法人として私が経営していたものである。本件弟は、途中から入ってきて外国人技能実習生の指導役として私のいうとおりに畑で作業をしているだけで、私から給料として月に○○○○円をもらっていると思っているはずである。
        • (B) 本件弟が申告した本件農協及び本件出荷先法人に出荷している野菜による収入は、私の収入になる。本件弟は元々私の仕事を手伝っており、本件弟を個人事業主にして外国人技能実習生を増やそうと思ったのがきっかけで私の収入金額を分散させた。
        • (C) (なぜ、収入を分散させる際に本件弟に事業を譲らなかったのかという質問に対して)本件弟に毎月○○○○円の給料を支払っている状況で事業を譲ると、損をすると考えたからである。
        • (D) (本件法人が経営していた農業を請求人と本件弟の名義に変えたのはいつかという質問に対して)名義を変える前の年、平成24年の年末に税務署へ開業と青色申告の届出をしたので平成25年分からである。
        • (E) 外国人技能実習生の受入手続を、私と本件弟の2人の名義で申請することは私が1人で決めたことで、申請の手続上、私と本件弟がそれぞれ申告している必要があったので書類上はそのようにした。
      • B 本件農産物の出荷について  
        • (A) 私は本件農協のほかいくつかの市場に出荷しているが、そのうち本件弟の名前で出荷の登録をしていた本件出荷先法人への出荷分を本件弟の収入としている。本件弟はそれほど広い畑を持っていないし、出荷先ごとに畑を分けているわけではないので、どの畑の作物をどこに出荷するかは特に決まっていない。
        • (B) 私の名前で出荷登録している本件農協や市場への出荷のほか、本件弟の名前で出荷登録している本件出荷先法人との取引についても出荷量を決めるのは私で、日々の連絡や出荷の手配は私が電話で行っている。
      • C 請求人及び本件弟の経理・申告等について  
        • (A) 私は毎年年明けに「○○○○」という会計ソフトを使って自分の売上げを入力している。売上げについては、本件請求人農協口座に入金されているもの以外はない。経費については、本件配偶者が現金出納帳に領収書などから転記している。このように計算した売上げと経費で確定申告書を作成し、提出している。
        • (B) 私の確定申告書の基となった帳簿書類として、「○○○○」に入力した総勘定元帳をパソコンのデータで保存していた。
           現金出納帳と経費の領収書については、平成28年分以前は、書類がかさばるので、毎年、過去3年分を保存するようにして4年前の分についてはその年の確定申告が終わったら捨ててしまっていた。
        • (C) 本件弟の確定申告書は私が作成している。経費については、外国人技能実習生に支払った給料と外国人技能実習生の管理費用以外は、全て架空の経費で、実際に支払ったものはない。
        • (D) 私が本件弟の確定申告額を計算していた。売上げについては、本件弟農協口座に振り込まれた金額を計算して、私が金額を決めており、年間3,000万円程度になるように売上げを調整していた。
        • (E) 本件弟農協口座の通帳も私が常に持っていて、入金や出金が必要なときは本件配偶者に頼んでしてもらっている。
        • (F) 本件弟には、税金のことはやっておくから大丈夫と言ってあるだけで、一度も確定申告書の写しを渡したことがないし、税金の納付も毎回私が本件配偶者に頼んでしてもらっていたので、本件弟は農業でどのくらいの利益があったかについても、申告していた内容についても知らない。
    • (ロ) 本件弟の各申述要旨
       本件調査担当職員が作成した質問応答記録書には、本件弟が令和2年12月1日、本件調査担当職員に対し、要旨以下の内容の申述を行った旨が記載されている。  
      • A 請求人の事業と本件弟との関係について  
        • (A) 私は○歳であり、兄である請求人の下で従業員として働いている。○歳から請求人の農業を手伝うようになり、今まで同じように働いてきた。
           私は畑で○○を育てるのが仕事で、経理などのお金の管理はしていない。
           普通のサラリーマンと同じで給与をもらって生活している。
        • (B) 給与は請求人から本件弟信金口座に振り込まれる。
           以前は月○○○○円だったが、今は月○○○○円が振り込まれる。
           金額は請求人が決め、私は金額について何か言ったりはしない。
      • B 本件農産物の出荷について  
        • (A) 実家の農業を手伝っていた頃に、将来に向けて母が私名義の出荷用の番号を登録したので、その登録番号を使って本件出荷先法人に出荷している。
           本件農協の登録番号なので、おそらく私名義の本件農協の口座に入金されていると思うが、請求人が私の通帳を管理しているので詳細は分からない。
        • (B) 私名義で取引しているのは外国人技能実習生を雇うためであり、請求人が書類等を揃えてその手続をしてくれている。
      • C 本件弟の経理及び申告等について  
        • (A) お金に関することは全て請求人に任せており、細かい経理や支払・管理も請求人が行っている。書類を受け取ることもないし、保存している書類や帳簿ももちろんない。
        • (B) 確定申告関係は請求人と義理の兄に任せており、申告されている内容について説明できない。
           確定申告が済んだことは聞いていたが、それは私の会社員としての月○○○○円の給与についての申告が済んだものと思っていた。
           確定申告書の控えをもらうことがなかったので、今までどんな申告がされていたのか確認していなかった。
    • (ハ) 本件調査時の状況について  
      • A 本件調査担当職員は、令和2年12月1日及び同月10日、請求人に対し、通則法第74条の2の規定に基づく質問を行った。これに対し、請求人は、令和2年12月1日は、質問応答の要旨を記録した本件調査担当職員作成の質問応答記録書の内容について追記を申し出た上で問答末尾に署名するとともに、各ページの右下にそれぞれ署名し、また、同月10日は、質問応答の要旨を記録した本件調査担当職員作成の質問応答記録書の内容について訂正を申し出ることなく、問答末尾に署名するとともに、各ページの右下にそれぞれ署名した。
      • B 本件調査担当職員は、令和2年12月1日、本件弟に対し、通則法第74条の2の規定に基づく質問を行ったところ、本件弟は、質問応答の要旨を記録した本件調査担当職員作成の質問応答記録書の内容について訂正を申し出ることなく、問答末尾に署名するとともに、各ページの右下にそれぞれ署名した。
    • (ニ) 申述の信用性等の検討  
      • A 上記(ハ)Aのとおり、請求人は、各質問応答記録書の内容について、令和2年12月1日は追記を申し出て記載内容を一部補完し、同月10日は訂正を申し出ることなく、問答末尾に署名するとともに、各ページの右下にそれぞれ署名している。また、上記(ハ)Bのとおり、本件弟は、質問応答記録書の内容について、訂正を申し出ることなく、問答末尾に署名するとともに、各ページの右下にそれぞれ署名している。さらに、これらの署名が強制されたものであるなどの事情も認められない。これらのことからすれば、請求人及び本件弟は、本件調査において各質問応答記録書に記載された各申述をしたものと認められる。そして、請求人の申述が記載されている各調査報告書についても、本件調査担当職員が故意に虚偽の報告書を作成したというような事情は認められない。
      • B そして、上記(イ)の請求人の各申述は、請求人の事業と本件弟との関係、本件農産物の出荷並びに経理及び申告の状況に関して、いずれも詳細かつ具体的で不自然な点がない上、上記(ロ)の本件弟の各申述と主要な点において整合しており、相互に信用性を補完し合っている。加えて、請求人が平成24年12月28日に個人事業の開業届出書及び所得税の青色申告承認申請書を原処分庁に提出したこと(上記1(3)イ(ロ))、原処分庁に提出された本件弟の個人事業の開業届出書において開業日が平成25年1月〇日と記載されていたこと(上記ロ(イ)A)及び本件弟農協口座に係る窓口での入出金は本件配偶者が常に行っていたこと(上記ロ(ロ)E)などの客観的事実とも整合している。そして、本件農産物の出荷に関しては、上記ロ(ホ)の本件出荷先法人の担当者の各申述とも整合しており、相互に信用性を補完し合っている。
         また、本件弟には、請求人の事業や経理・申告等に関し請求人にとって不利益な虚偽の事実をあえて述べる動機は見当たらないところ、上記(ロ)の本件弟の各申述は具体的かつ詳細であり、さらに、請求人の各申述とも整合するほか、本件弟信金口座に本件各金員が毎月振り込まれていたこと(上記1(3)ハ(ハ))や、本件弟農協口座について本件農協の窓口での取引に係る手続を本件配偶者が常に行っており、本件調査担当職員が臨場した際、本件弟農協口座の通帳が本件弟の自宅に保管されていなかったこと(上記ロ(ロ)BからFまで)などの客観的事実とも整合している。
      • C 一方、請求人は上記(イ)及び(ロ)の各申述について、上記3(2)の「請求人」欄ロのとおり、請求人及び本件弟は本件調査担当職員が一方的に作成した書類に署名させられた旨主張するところ、各質問応答記録書については、上記Aのとおり、請求人及び本件弟は内容を確認した上で署名しており、本件調査担当職員が一方的に作成した書類であるとはいえない。
      • D また、請求人は、上記3(2)の「請求人」欄ロのとおり、調査報告書に記載された法定請求書等を捨ててしまった旨の請求人の申述(上記(イ)C(B))は、請求人が法定請求書等の保存をしていた事実と明確に異なっているから、原処分庁が作成した調査報告書には信用性がなく、でたらめな内容で勝手に作成されたものである旨主張し、法定請求書等の保存をしていた証拠として平成26年分から平成28年分までの請求書及び領収書のうちの一部を当審判所に提出した。
         しかしながら、上記(イ)C(B)の請求人の申述は、現金出納帳と経費の領収書について確定申告が終わったら廃棄していた旨は述べられているものの、請求書を廃棄したとは述べられていない。また、領収書を廃棄した具体的な時期や範囲については触れられておらず、平成26年分から平成28年分までの領収書について、申述した時点で全てを廃棄していたことが明確に述べられているとは認められない。
         したがって、当該申述は、平成26年分から平成28年分の請求書及び領収書のうちの一部が当審判所に提出されたことと矛盾するものではなく、事実と明確に異なっているとはいえない。
         そして、各調査報告書に記載された請求人の各申述は、本件弟の各申述や客観的事実と整合するものであることは上記Bのとおりであり、各調査報告書がでたらめな内容で勝手に作成されたものであるとはいえない。
      • E 以上の検討からすれば、請求人がその信用性を争う上記(イ)及び(ロ)の各申述は、いずれも請求人及び本件弟によって実際にされたものであることを否定する事情は認められず、客観的事実と整合し、詳細かつ具体的で不自然な点がなく、相互に補完し合っていることなどに照らすと、いずれも信用することができるから、各申述の信用性に関する請求人の主張は採用することはできない。
  • ニ 検討
    • (イ) 本件農産物の生産及び出荷  
      • A 請求人の上記ハ(イ)A及びBの各申述、本件弟の上記ハ(ロ)A及びBの各申述並びに上記ロ(ニ)の本件農業用設備の契約の内容及び使用の状況から、本件弟は、請求人の指示の下で請求人が本件法人から賃借した本件農業用設備を使用し、農作業及び外国人技能実習生の指導を行っていたことが認められる。
         また、上記ロ(ハ)の本件小作帳の記載や、請求人の上記ハ(イ)Bの各申述から、請求人は本件弟が所有する畑についても、請求人の事業に係る農産物を生産するために使用していたことが認められる。
      • B 上記ロ(ホ)の本件出荷先法人の担当者の各申述について、請求人は、上記3(2)の「請求人」欄イ(ロ)のとおり、本件調査担当職員が作ったストーリーに沿った質問に対する回答であり、信用性がない旨主張するが、当該各申述は、第三者による具体的な内容の申述であって、上記ハ(ニ)Bのとおり請求人の各申述と相互に信用性を補完し合っており、信用性の高いものと認められる。そして、当該各申述及び請求人の上記ハ(イ)B(B)の申述によると、本件出荷先法人との取引に係る連絡や出荷の手配は請求人が行っており、本件出荷先法人への出荷量は請求人が決定していたと認められる。
         また、請求人の上記ハ(イ)A(B)の申述によると、本件弟名義で本件農協に出荷した農産物による収入についても本件出荷先法人に出荷したものと同様に請求人の収入であると認識していると認められるから、本件農協に対する農産物の出荷も本件出荷先法人に対する出荷と同様の状況であったと認められる。
      • C これらのことからすると、本件農産物は、請求人又は本件法人の名義で出荷された農産物と同様に、請求人が本件弟の労働力及び請求人が営む事業で利用する畑を使用することにより生産されたものであり、その出荷も全て請求人の意思決定により行われたものと認められる。
    • (ロ) 本件弟農協口座の管理
       上記1(3)ハ(ロ)のとおり、本件弟農協口座は本件農産物の販売代金の入金先であるところ、上記ロ(ホ)A及びBの本件出荷先法人の担当者の各申述によれば、本件農産物の販売代金の入金先として本件弟農協口座を指定したのは請求人であること、上記ロ(ロ)BからEまでの各事実及び請求人の上記ハ(イ)C(E)の申述によれば、本件弟農協口座の窓口での入出金や振込みの手続は全て請求人の指示の下で本件配偶者が行っていることがそれぞれ認められる。また、上記ロ(ロ)Fのとおり、本件弟の実地の調査において本件調査担当職員が本件弟に帳簿等の保存状況の確認を行った際に本件弟農協口座の通帳が本件弟の自宅に保管されていなかったことや、請求人の上記ハ(イ)C(E)の申述及び本件弟の上記ハ(ロ)B(A)の申述からすると、請求人が本件弟農協口座の通帳を保管していると認められる。その他、別表4の現金の引出し状況においても、本件弟が私的に現金を引き出していたような形跡も見当たらないことからすると、本件弟が本件弟農協口座にある金員を自由に使える状態にあったとはいえない。
       したがって、これらの事情を勘案すれば、本件弟農協口座の管理は請求人が行っていたと認められる。
    • (ハ) 本件事業の必要経費の負担
       請求人の上記ハ(イ)C(C)の申述及び本件弟の上記ハ(ロ)Cの各申述によれば、本件弟は本件事業における経理などの金銭の管理や確定申告を請求人に任せており、本件弟の確定申告における経費のうち外国人技能実習生の給料と管理費用以外は全て架空で実際に支払ったものはなかったと認められる。また、別表4のとおり、本件各年分のうち、上記ロ(イ)Bで本件弟が個人事業を廃業したとの届出がされた令和元年分を除いては、毎年12月に本件弟農協口座から上記ロ(ロ)Bのほかにも現金の引出しがあり、「コメント」欄には「支払い代」、「小作代」、「購買代金」又は取引先の名称などの記載があるものの、本件弟が負担すべき費用を具体的に算定したことを示す証拠はなく、本件弟農協口座から引き出された現金が実際に請求人との間で本件事業の必要経費の精算に使われたことを示す証拠もない。
       したがって、本件弟が本件事業の必要経費を明確に区分して負担していたとは認められない。
    • (ニ) 本件事業の経理及び申告
       上記(ロ)のとおり、本件弟農協口座の窓口での入出金や振込みの手続は請求人の指示の下で本件配偶者が行っており、上記ロ(ロ)Cのとおり、外国人技能実習生の賃金台帳の作成や賃金の支払事務についても本件配偶者が行っていることからすると、本件事業の経理は、本件配偶者を通して請求人が行っていると認められる。
       そして、上記(ロ)のとおり、本件農産物の販売代金が入金される本件弟農協口座は請求人が管理していることに加え、請求人の上記ハ(イ)C(C)及び(D)並びに本件弟の上記ハ(ロ)Cの各申述からすれば、本件弟の確定申告書及び青色申告決算書の作成は、本件弟農協口座への入金額を基に請求人が行っていると認められる。
    • (ホ) 関係者の認識
       上記ロ(ホ)の各申述によれば、本件農産物の出荷先である本件出荷先法人の担当者は、本件農産物についての取引は請求人との取引であると認識していたことが認められる。
    • (ヘ) 小括
       上記(イ)から(ホ)までの事実を総合的に勘案すると、請求人は、請求人が営むとする農業のみならず、本件事業も含めて一体的に運営し、本件事業における経営方針の決定等について支配的影響力を有する者であると認められるから、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は、請求人に帰属すると認めるのが相当である。
  • ホ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄イのとおり、請求人と本件弟は互いに農地を出資し共同事業によって農業経営を行ってきた旨や、経営に当たっての意思決定には互いが関与し、農地の持分割合を基本に収入の約2割を本件弟に分配することで合意している旨主張し、合意の証拠として平成21年1月1日という日付が書かれた書面を当審判所に提出した。
       当該書面には、請求人及び本件弟の住所氏名が記載され印鑑が押されており、収入の約2割を本件弟とする旨及び仕事ができなくなったら老後の資金を用意しておく旨が記載されている。
       しかしながら、仮に、当該合意が平成21年当時からあったというのであれば、このような重要な合意の存在を、本件調査の段階で請求人及び本件弟がこれに沿う申述を一切することなく、審査請求の段階で初めて明らかにすること自体が極めて不自然であるということに加え、当審判所の調査によっても、本件各年分において請求人と本件弟との間で当該合意に基づく収益の分配が実際に行われていたことを認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。
       また、上記ニ(ハ)及び(ヘ)のとおり、本件弟が本件事業の必要経費を明確に区分して負担していたとは認められず、本件事業における経営方針の決定等についても、請求人が支配的影響力を有していたと認められる。
       これらのことからすると、当該書面の存在をもって、請求人と本件弟が共同事業を行っているとは認められず、当該書面は、本件の判断に影響を与えるものではないから、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄イ(イ)のとおり、本件弟は、農作業に関して請求人より詳しく、請求人が本件弟に指示を出すことはない旨及び農業委員会が発行した耕作証明書が示すように、本件弟は畑を所有して事業を行っている旨主張する。
       しかしながら、本件弟が農作業に関して請求人より詳しいかどうかは、請求人が本件事業に係る支配的影響力を有するとの判断を左右するものではない。
       また、事業から生ずる収益の帰属は、上記イ(イ)のとおり、法律上の形式的帰属者(名義人)ではなく、その事業を経営していると認められる者が誰であるかにより判定することとなるところ、上記ニ(ヘ)のとおり本件事業を経営していると認められる者は請求人であるから、請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄イ(ロ)のとおり、本件農産物は本件弟が出荷の手配を行っており、出荷量を自分の判断で決めていると主張するが、当該主張は上記ロ(ホ)の本件出荷先法人の担当者の各申述と相違するものである。そして、本件農産物の出荷量は請求人が決定していたと認められることは上記ニ(イ)Bのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
    • (ニ) 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄イ(ハ)のとおり、本件弟農協口座は本件弟が代表者を務めていた法人の普通預金を解約した資金を原資として開設したものであり、本件弟の貯金である旨主張するが、上記ニで検討するに当たり総合勘案したのは本件農産物の販売代金が入金された本件弟農協口座の管理についてであり、当該口座を開設した原資が何であるかは当該口座を請求人が管理していた旨の判断を左右するものではないから、請求人の主張には理由がない。
    • (ホ) 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄イ(ニ)のとおり、請求人は本件弟との間で労力の過不足を金銭、物品で精算したことや農業用機械を貸した代わりに手間で返したこともあった旨及び請求人が支払う種苗代や購買代の負担金を本件弟から年末に出してもらっていた旨主張する。
       しかしながら、請求人が主張するところの労力の過不足及び種苗代や購買代の精算が行われていたことを裏付ける客観的な証拠は見当たらないから、請求人が主張する事実を認めることはできない。したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ヘ) 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄イ(ニ)及び(ホ)のとおり、請求人が本件事業の必要経費を負担していた事実はないという主張及び外国人技能実習生をより多く雇用するための外形を作り出したという原処分庁の主張への反論として、外国人技能実習生は本件弟が自分の畑の農作業をさせるために雇っているものであると主張する。
       しかしながら、本件弟の名義で外国人技能実習生が雇用されていたのは上記1(3)ハ(ニ)のとおりではあるが、請求人の上記ハ(イ)A(E)の申述からすれば、本件弟の名前で外国人技能実習生を受け入れることを決めたのは請求人であると認められ、さらに、上記ニ(イ)Aのとおり外国人技能実習生は本件弟の指導を受けて請求人の農作業を行っているのであるから、請求人の主張には理由がない。
    • (ト) 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄イ(ヘ)のとおり、本件弟農協口座から引き出された現金4,000万円を請求人が本件車両を購入する資金に充てたという原処分庁の主張に係る証拠は、本件調査が終了した後に行われた違法な調査により収集されたもので、採用するべきではない旨主張する。
       しかしながら、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は、請求人に帰属すると認めるのが相当であるという判断は、上記ニ(イ)から(ホ)までの事実を総合勘案したものであり、当該証拠によるものではない。よって、請求人の主張は当該判断を左右するものではないから、請求人の主張には理由がない。
    • (チ) 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄イ(ト)のとおり、取引先は本件事業の経営者が誰であるかを知ることはできないから取引先の申述は根拠として不十分である旨主張するが、上記ニで行った判断は、取引先の申述のみならず、本件事業の経営に関する事実を総合的に勘案して行ったものであるから、請求人の主張には理由がない。
    • (リ) 請求人は、上記3(2)の「請求人」欄ロのとおり、本件調査担当職員は本件調査で把握した事実関係や各取引先に係る調査の内容について請求人に反論する機会を与えず、上記1(4)ホの各処分はずさんな調査に基づき行われたものである旨主張する。
       しかしながら、課税処分を行うに当たり課税庁が行った調査について納税者に反論する機会を与えなければならない旨の法令の規定はなく、本件調査担当職員が本件調査で把握した事実関係等について、仮に、請求人に反論の機会を与えなかったとしても、それをもって本件調査がずさんであるということもできない。また、上記ハ及びニのとおり、信用性が認められる申述その他証拠資料等に基づき、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価が請求人に帰属する旨判断したものであるから、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点3(本件各金員は、請求人から本件弟に対して支給された給与等に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈
     所得税法第28条第1項は、給与所得とは、給与等(俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与)に係る所得をいう旨規定しているところ、ここでいう給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものと解される。
  • ロ 検討
     上記(3)ニ(ヘ)のとおり、請求人は、請求人が営むとする農業のみならず、本件事業も含めて一体的に運営し、本件事業における経営方針の決定等について支配的影響力を有する者であることからすれば、本件弟は、農業経営の方針の決定につき支配的影響力を有しておらず、請求人の指揮命令の下にあったと認められるところ、上記(3)ニ(イ)Aのとおり、本件弟は、請求人の指示の下で、農作業及び外国人技能実習生の指導に継続して従事していたと認められる。
     また、上記(3)ロ(ロ)Dのとおり、本件各金員は本件事業に係る販売代金の入金先である本件弟農協口座からの口座振替又は本件弟農協口座から引き出した現金により本件弟信金口座へ振り込まれていたところ、上記(3)のとおり、本件事業から生ずる収益は請求人に帰属することから、本件弟は、本件事業から生ずる収益を原資として請求人から本件各金員の支払を受けていたと認められる。
     そして、当審判所の調査の結果によれば、本件各金員が支払われていた平成26年1月から平成31年1月までの期間のうち、毎年7月から10月までは本件弟農協口座への本件事業に係る販売金額の入金がなかったと認められ、このような入金額の変動があったにもかかわらず、本件各金員の本件弟信金口座への振込みは、毎月定額であった。
     上記に加え、上記(3)ハ(イ)A(C)の請求人の申述及び上記(3)ハ(ロ)A(B)の本件弟の申述も考慮すれば、本件各金員は、請求人の事業において、本件弟が雇用契約又はこれに類する原因に基づき請求人の指揮命令の下で農作業及び外国人技能実習生の指導に従事した労務の対価として、請求人から本件弟に支払われたものとみるのが相当である。
     したがって、本件各金員は、請求人から本件弟に対して支給された給与等に該当すると認められる。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3(3)の「請求人」欄のとおり、本件各金員の振込みは、本件弟が本件弟農協口座から本件弟信金口座に資金を移動しているだけであり、請求人と本件弟との間には雇用契約等はなく、本件弟は請求人から指揮命令や時間的拘束を受けておらず、社会保険等の被保険者にもなっていない旨主張する。
     しかしながら、上記(3)ニ(ロ)のとおり、本件弟農協口座は請求人が管理していたものであるから、上記1(3)ハ(ハ)の本件各金員の振込みが単なる資金移動であるとは認められない。また、本件弟が雇用契約又はこれに類する原因に基づき請求人の指揮命令の下にあったことは上記ロのとおりであり、社会保険等の被保険者になっていないことは上記判断を左右するものではないから、請求人の主張には理由がない。

(5) 争点4(請求人に、通則法第68条第1項及び同条第3項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項及び同条第3項に規定する事実の「隠蔽」とは、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、これを隠蔽しあるいは故意に脱漏することをいい、また、事実の「仮装」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解される。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料によれば、本件各年分の請求人の各総勘定元帳には、本件事業に係る収益に関する記載はなく、また、本件各金員の支払に関する記載もなかったと認められる。
  • ハ 検討
    • (イ) 所得税等及び消費税等について
       上記(3)のとおり、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は請求人に帰属するところ、請求人は本件農産物を本件弟名義で出荷し、その販売代金を請求人が管理している本件弟農協口座に入金させたと認められる。そして、請求人はその状況を利用し、当該収益を本件弟の収益であるとして本件弟の確定申告書及び青色申告決算書を作成するなどして、あたかも、本件事業に係る収益が本件弟に帰属するかのように装うとともに、上記ロのとおり、当該収益につき請求人の総勘定元帳に一切記載せず、本件事業から生ずる収益及び対価の享受に係る事実を隠蔽し、又は仮装したところに基づき、請求人の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等の確定申告書並びに青色申告決算書を作成し、提出したものと認められる。
       そうすると、このような請求人の一連の行為が通則法第68条第1項に規定する事実の隠蔽又は仮装に該当することは明らかであるから、請求人に、同項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。
    • (ロ) 源泉所得税等について
       上記(4)のとおり、請求人は本件各金員を本件弟に対する給与等として支給していたところ、請求人は、請求人の指揮命令の下で農作業及び外国人技能実習生の指導に従事した本件弟に対し、労務の対価として本件各金員を支払っていたにもかかわらず、上記ロのとおり、本件各年分の請求人の各総勘定元帳には本件各金員の支払に関する記載はなかった。このことからすると、請求人は本件弟に対して給与等を支給した事実について本件各年分の各総勘定元帳に一切記載しないことで、あたかも、本件事業に係る収益が本件弟に帰属し、請求人が給与等の支払者でないかのように装い、これに基づいて源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったものと認められる。
       そうすると、このような請求人の一連の行為が通則法第68条第3項に規定する事実の隠蔽又は仮装に該当することは明らかであるから、請求人に、同項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。
    • (ハ) 以上のとおり、請求人には、通則法第68条第1項及び同条第3項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、上記3(4)の「請求人」欄のとおり、本件事業から生ずる収益及び資産の譲渡等の対価は本件弟に帰属し、本件各金員は請求人から本件弟に対して支給された給与等に該当しないのであるから、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はない旨主張する。
     しかしながら、請求人に通則法第68条第1項及び同条第3項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったことは、上記ハのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(6) 争点5(請求人に、通則法第70条第5項第1号及び同法第73条第3項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第70条第5項は、「偽りその他不正の行為」によって国税の税額の全部又は一部を免れた納税者がある場合に、これに対して適正な課税を行うことができるよう、それ以外の場合よりも長期の除斥期間を規定したものであるから、ここにいう「偽りその他不正の行為」とは、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行うことをいうものと解するのが相当である。
     また、通則法第73条第3項にいう「偽りその他不正の行為」も、これと同趣旨のものであると認められる。
  • ロ 検討
     本件では、上記(5)ハの請求人の行為について、通則法第68条第1項及び同条第3項の規定の要件(隠蔽又は仮装)を充足していたものと認められるところ、同行為は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他の工作を伴う不正な行為であるということができるから、請求人に、同法第70条第5項第1号及び同法第73条第3項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったと認められる。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3(4)の「請求人」欄と同様の理由から、請求人に通則法第70条第5項第1号及び同法第73条第3項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する行為がない旨主張するが、請求人の行為が「偽りその他不正の行為」に該当することは、上記ロのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
     また、請求人は、上記3(5)の「請求人」欄ロのとおり、本件各再更正処分等は原処分庁のミスが原因で行われた処分であり、請求人には「偽りその他不正の行為」は存在しないから、平成26年分及び平成27年分の所得税等の再更正処分には通則法第70条第5項第1号は適用されない旨も主張する。
     しかしながら、通則法第70条第5項は、上記イのとおり、「偽りその他不正の行為」によって国税の税額の全部又は一部を免れた納税者がある場合、これに対して適正な課税を行うことができるように、同条第1項各号に掲げる更正又は賦課決定の除斥期間を同項の規定にかかわらず7年とすることを規定したものであって、その適用範囲は「偽りその他不正の行為」によって免れた税額に相当する部分に限られるものではない。そして、平成26年分及び平成27年分において「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったことは上記ロのとおりであり、請求人の平成26年分及び平成27年分の所得税等には通則法第70条第5項第1号の規定が適用される。したがって、請求人の主張には理由がない。

(7) 争点6(請求人に、所得税法第150条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 検討
     所得税法第150条第1項は、同法第143条の青色申告の承認を受けた居住者につき同法第150条第1項各号のいずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に掲げる年まで遡って、その承認を取り消すことができる旨規定し、同項第3号として、その年における事業所得を生ずべき業務に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があることを掲げている。
     これを本件についてみると、上記(5)ハ(イ)のとおり、請求人は、本件事業から生ずる収益は請求人に帰属するものであるにもかかわらず、当該収益につき請求人の本件各年分の総勘定元帳に一切記載せず、本件事業から生ずる収益の享受に係る事実を隠蔽し、又は仮装したものと認められるところ、このことは、所得税法第150条第1項第3号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し」たことに該当するから、請求人には、同号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実があったと認められる。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、上記3(6)の「請求人」欄のとおり、本件事業から生ずる収益は請求人に帰属しないのであるから、請求人の各総勘定元帳に記載がないのは当然であるとして、所得税法第150条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由はない旨主張する。
     しかしながら、請求人に、所得税法第150条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由があることは上記イのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(8) 争点7(本件3課税期間において、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引について、仕入税額控除が適用されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 消費税等に係る申告が適正になされることを確保するため、消費税法第58条《帳簿の備付け等》は事業者に課税仕入れ等に関する帳簿の保存を義務付け、通則法第74条の2は税務職員にこれらの帳簿書類を検査することを認めている。このように課税仕入れ等に係る帳簿及び請求書等が税務職員による検査の対象となることを前提として、消費税法第30条第7項は、事業者が課税仕入れ等の税額に係る法定帳簿及び法定請求書等の保存をしている場合において、税務職員がこれらの法定帳簿及び法定請求書等を検査することができるときに限り、仕入税額控除を適用できることを明らかにしたものであると解される。
       このことからすれば、事業者が仕入税額控除の適用を受けるには、消費税法施行令第50条第1項が規定するとおり、消費税法第30条第7項に規定する法定帳簿及び法定請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法第74条の2の規定に基づく税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要し、事業者がこれを行っていなかった場合には、消費税法第30条第7項の規定により、事業者が災害その他やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、仕入税額控除は適用されないというべきである。
    • (ロ) また、仕入税額控除の適用を受けるための法定帳簿及び法定請求書等の保存期間について、消費税法施行令第50条第1項本文は、7年間の保存が必要である旨規定し、同項ただし書及び消費税法施行規則第15条の3は、法定帳簿又は法定請求書等のいずれかを7年間保存する場合には、法定帳簿又は法定請求書等のもう一方は5年を超えて保存することは要しない旨規定している。
       そして、消費税法基本通達11−6−7は、法定帳簿及び法定請求書等の保存期間のうち6年目及び7年目について、上記の規定により法定帳簿又は法定請求書等のいずれかを保存すればよい旨留意的に定めており、当審判所においても当該取扱いは相当であると認められる。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件調査担当職員は、令和2年12月1日、請求人から平成29年分から令和元年分までの各総勘定元帳、現金出納帳、請求書、領収書及び青色申告基礎資料、並びに本件小作帳及び本件農協の販売代金精算書の提示を受け、これを留め置いた。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、令和2年12月10日、請求人から本件3課税期間各総勘定元帳の提示を受け、これを留め置いた。なお、当該各総勘定元帳には法定請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由についての記載はなかった。
    • (ハ) 本件調査担当職員は、令和3年1月13日、本件税理士の事務所に臨場し、本件税理士に対し、請求人には平成26年分から平成28年分までの必要経費に係る領収書の保存がない旨を伝え、本件調査担当職員が上記(イ)及び(ロ)で預かった本件留置帳簿等以外で保存している帳簿書類等がないか請求人に確認して提示するよう依頼した。
       その後、本件調査担当職員は本件税理士に対し、令和3年2月10日及び同月22日にも同様の依頼をした。
    • (ニ) 本件税理士は、令和3年3月3日、本件調査担当職員が本件税理士の事務所に臨場した際、請求人には本件留置帳簿等以外の資料の保存はない旨回答した。
    • (ホ) 原処分庁は、令和3年4月13日付で行った本件3課税期間の消費税等の各更正処分において、法定帳簿の保存があったことは認めるが、法定請求書等の保存がなかったとして、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引について仕入税額控除を認めなかった。
  • ハ 検討
    • (イ) 本件3課税期間については、上記ロ(ホ)のとおり、法定帳簿の保存があることを前提として消費税等の各更正処分が行われており、当該処分時において法定帳簿の保存があったと認めるのが相当であるから、仕入税額控除の適用を受けるためには、消費税法施行令第50条第1項ただし書、消費税法施行規則第15条の3、租税特別措置法第86条の4第1項及び租税特別措置法施行令第46条の2第2項の各規定(別紙7の5(4)及び(5))のとおり、法定請求書等について、その受領した日の属する課税期間に係る消費税等の確定申告書の法定申告期限の翌日から5年間保存すれば足りることとなる。
       したがって、請求人が本件3課税期間について法定請求書等の保存が必要な期間は、平成26年課税期間については令和2年3月31日まで、平成27年課税期間については令和3年3月31日まで、及び平成28年課税期間については令和4年3月31日までとなる。
       また、上記イ(イ)のとおり消費税法第30条第7項が法定帳簿及び法定請求書等の保存を仕入税額控除の要件としているのは、課税仕入れ等に係る帳簿及び請求書等が税務職員による検査の対象となることを前提としていることからすると、仕入税額控除の適用を受けるためには、法定帳簿及び法定請求書等の保存を要する期間内に、税務職員から提示の要請が行われた場合には、それらを適時に提示することが必要となる。
    • (ロ) 以上を前提に、本件3課税期間についてみると、平成26年課税期間は、本件調査が開始された令和2年12月1日において、法定請求書等の保存を要しないこととなっており、同月10日に総勘定元帳が提示されているのであるから、保存要件を充足しているものと認められる。
       一方、平成27年課税期間及び平成28年課税期間においては、上記ロ(ロ)から(ニ)までのとおり、本件調査担当職員は、令和2年12月10日に本件3課税期間各総勘定元帳の提示を受け、これを留め置いた後、令和3年1月13日、同年2月10日及び同月22日に、本件留置帳簿等以外で保存している帳簿書類等の提示を求めているが、これに対して本件税理士は、法定請求書等の保存を要する期間内である令和3年3月3日に、請求人には本件留置帳簿等以外の資料の保存はない旨回答し、本件留置帳簿等以外の帳簿書類等の提示をしなかったことが認められる。そうすると、平成27年課税期間及び平成28年課税期間については、法定請求書等の保存を要する期間において、税務職員からの提示の要請に対して適時に提示せず、法定請求書等の保存要件を充足していないものと認められ、法定請求書等を保存することができなかったことについて災害その他やむを得ない事情があったとも認められない。そして、請求人は、上記(イ)のとおり法定帳簿を保存していたと認められるが、上記ロ(ロ)及び当審判所に提出された証拠資料等によっても、法定帳簿に法定請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由についての記載があったとは認められないから、消費税法第30条第7項及び消費税法施行令第49条第1項の規定により、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上である取引について仕入税額控除は認められない。
    • (ハ) よって、請求人の平成26年課税期間の消費税等については、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引についても仕入税額控除が適用されるが、平成27年課税期間及び平成28年課税期間の消費税等については、課税仕入れに係る支払対価の合計額が3万円以上である取引について、仕入税額控除は適用されない。
  • ニ 請求人の主張等について
    • (イ) 請求人は、上記3(7)の「請求人」欄イのとおり、本件3課税期間の法定請求書等は、本件調査の初日に請求人が本件調査担当職員を帳簿の保管場所に案内した際に保存があり、請求人は本件調査担当職員に対し提示しようとしたのだから、請求人は法定請求書等を確実に提示したことになる旨、及び請求人が本件調査担当職員から法定請求書等の保存の確認や提示の要請をされた事実はないことは、本件調査中の本件調査担当職員の発言の記録や本件調査担当職員が提示した本件3課税期間の修正申告書案等において仕入税額控除が適用されていたことなどからも明らかである旨主張する。
       しかしながら、法定請求書等を実際に保存している場合において、税務職員が法定請求書等を検査することができるときに限り、仕入税額控除の適用が認められることは上記イ(イ)のとおりであるところ、請求人が本件調査担当職員に対して法定請求書等を適時に提示しなかったことは上記ハ(ロ)のとおりである。また、本件調査中の本件調査担当職員の発言や本件調査担当職員が提示した修正申告案は、法令に規定する調査結果を説明するためのものではないから、そこで仕入税額控除の適用を認めていたとしても、本件調査担当職員が法定請求書等の提示を受けていたことにはならないし、本件税理士に対して法定請求書等の保存について確認していなかったことにもならない。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) なお、請求人は、上記(3)ハ(ニ)Dのとおり、法定請求書等の保存をしていた証拠として平成27年分及び平成28年分の請求書及び領収書のうちの一部を当審判所に提出した。
       しかしながら、当該請求書及び領収書が本件調査時に提示されていないことは上記ハ(ロ)のとおりであるから、これらに係る取引についても仕入税額控除の対象とはならない。
  • ホ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3(7)の「原処分庁」欄のとおり、本件3課税期間の法定請求書等の保存はない旨主張し、平成27年課税期間については、その提示がなかった時期について主張するが、平成26年課税期間の処分の適法性に関し、具体的に主張していない。
     この点、平成26年課税期間の消費税等については、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引についても仕入税額控除が適用されることは上記ハ(ハ)のとおりである。

(9) 争点8(平成29年分及び平成30年分の所得税等の各再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実がその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第65条に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
  • ロ 検討及び請求人の主張について
     請求人は、上記3(8)の「請求人」欄のとおり、平成29年分及び平成30年分の所得税等の各再更正処分は、原処分庁の犯したミスが原因で行われた処分であるから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると主張する。
     しかしながら、上記1(4)トのとおり、上記各再更正処分は、請求人が本件法人から受けていた経済的利益に係る給与所得の金額等を是正するものであるところ、原処分庁が更正処分をする際に当該是正をしていなかったからといって、請求人が適正な申告をする義務を免れるものではない。そして、申告の誤りが判明した時点で是正を行うことは何ら違法又は不当なものではないから、請求人の過少申告について、真に請求人の責めに帰することができない客観的な事情があり、請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるとは認められない。したがって、請求人の主張には理由がなく、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

(10) 原処分の適法性について

  • イ 本件青色承認取消処分について
     上記(7)のとおり、本件青色承認取消処分は、争点についてこれを取り消すべき理由はなく、また、本件青色承認取消処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件青色承認取消処分は適法である。
  • ロ 本件各年分の所得税等に係る各更正処分等について
    • (イ) 平成26年分及び平成27年分について
       上記(2)及び(3)のとおり、平成26年分の所得税等の更正処分及び再更正処分並びに平成27年分の更正処分(令和3年10月27日付でされた再更正処分によりその一部が取り消された後のもの。以下同じ。)には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
       また、上記(6)のとおり、請求人には、通則法第70条第5項第1号に規定する偽りその他不正の行為があったと認められ、請求人は当該行為によりその一部の所得税等の税額を免れたのであるから、所得税等に係る更正はその法定申告期限から7年を経過する日まですることができる。
       これらを前提に、請求人の平成26年分及び平成27年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ別表6の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも平成26年分の更正処分及び再更正処分並びに平成27年分の更正処分の金額と同額又はこれを上回る。
       そして、平成26年分の更正処分及び再更正処分並びに平成27年分の更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、平成26年分の更正処分及び再更正処分並びに平成27年分の更正処分は適法である。
    • (ロ) 平成28年分から令和元年分までについて
       上記(2)及び(3)のとおり、平成28年分の更正処分(令和3年10月27日付でされた再更正処分によりその一部が取り消された後のもの。以下同じ。)並びに平成29年分から令和元年分までの各更正処分及び各再更正処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
       ところで、当審判所の調査によれば、原処分庁は請求人の平成28年分から令和元年分までの各総勘定元帳の雑収入勘定に記載されていた別表7の各収入について、請求人の事業所得の金額の計算上総収入金額に含めて各処分を行っているが、当該各収入は本件農協の貯金利息であり、所得税法第23条《利子所得》に規定する利子所得に当たる。そして、当該利子所得には租税特別措置法第3条《利子所得の分離課税等》の規定が適用され、所得税法第22条《課税標準》第2項に規定する総所得金額に含まれないから、別表7の各収入の金額を総収入金額から除外することが相当である。
       これらを前提に当審判所で認定した平成28年分から令和元年分までの事業所得及び総所得金額の金額は、それぞれ別表6の各「審判所認定額」欄のとおりとなる。
       そして、上記に基づき請求人の平成28年分から令和元年分までの所得税等の納付すべき税額を計算すると、それぞれ別表6の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成28年分の更正処分及び平成29年分から令和元年分までの各再更正処分の金額を下回り、平成29年分から令和元年分までの各更正処分の金額を上回る。
       なお、平成28年分の更正処分並びに平成29年分から令和元年分までの各更正処分及び各再更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、平成28年分の更正処分及び平成29年分から令和元年分までの各再更正処分は、いずれもその一部を別紙1から別紙4までの「取消額等計算書」のとおり取り消すべきであり、平成29年分から令和元年分までの各更正処分は適法である。
  • ハ 本件消費税等各更正処分について
    • (イ) 平成26年課税期間について
       上記(3)のとおり、本件事業から生ずる資産の譲渡等の対価は請求人に帰属する。
       なお、上記(6)のとおり、請求人には、通則法第70条第5項第1号に規定する偽りその他不正の行為があったと認められ、請求人は当該行為によりその一部の消費税等の税額を免れたのであるから、消費税等に係る更正はその法定申告期限から7年を経過する日まですることができる。
       一方、上記(8)のとおり、平成26年課税期間については、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引についても仕入税額控除が適用される。
       また、平成26年課税期間の消費税等の更正処分に係る課税標準額に計算誤りが認められるので、補正が必要である。
       これらに基づき、平成26年課税期間における請求人の消費税の課税標準額及び納付すべき税額を計算すると、別表8の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成26年課税期間の更正処分の金額を下回る。
       そして、平成26年課税期間の更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、平成26年課税期間の更正処分は、その一部を別紙5の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
    • (ロ) 平成27年課税期間から平成30年課税期間までについて
       上記(3)及び(8)のとおり、平成27年課税期間から平成30年課税期間までの消費税等の各更正処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
       なお、上記(6)のとおり、請求人には、通則法第70条第5項第1号に規定する偽りその他不正の行為があったと認められ、請求人は当該行為によりその一部の消費税等の税額を免れたのであるから、平成27年課税期間の消費税等に係る更正はその法定申告期限から7年を経過する日まですることができる。
       これらに基づき、請求人の平成27年課税期間から平成30年課税期間までの消費税等の課税標準額及び納付すべき税額を計算すると、別表8の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも各更正処分の額と同額であると認められる。
       そして、平成27年課税期間から平成30年課税期間までの各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、平成27年課税期間から平成30年課税期間までの各更正処分は適法である。
  • ニ 本件各納税告知処分について
     上記(4)のとおり、本件各納税告知処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
     なお、上記(6)のとおり、請求人には、通則法第73条第3項に規定する偽りその他不正の行為があったと認められ、請求人は当該行為によりその一部の源泉所得税等の税額を免れたのであるから、平成26年1月から同年6月まで、同年7月から同年12月まで、平成27年1月から同年6月まで及び同年7月から同年12月までの各期間の源泉所得税等に係る納税告知処分はその法定納期限から7年を経過する日まですることができる。
     また、本件各納税告知処分に係る源泉所得税等の金額の算定に誤りが認められるので、補正が必要である。
     これらに基づき、請求人の納付すべき源泉所得税等の額を計算すると、別表9の「本税」欄の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも「原処分の額」欄の各金額を下回る。
     そして、本件各納税告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件各納税告知処分は、いずれもその一部を別紙6の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ホ 本件各年分の所得税等に係る各賦課決定処分の適法性について
    • (イ) 平成26年分について
       上記ロ(イ)のとおり、平成26年分の所得税等の更正処分は適法であり、また、上記(6)のとおり、請求人には通則法第70条第5項第1号に規定する偽りその他不正の行為があったと認められ、請求人は当該行為によりその一部の所得税等の税額を免れたのであるから、所得税等に係る加算税の賦課決定は、その納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる。
       なお、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       また、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに同法第68条第1項の規定に基づきなされた平成26年分の所得税等に係る各賦課決定処分は適法である。
    • (ロ) 平成27年分について
       上記ロ(イ)のとおり、平成27年分の所得税等の更正処分は適法であり、また、上記(6)のとおり、請求人には通則法第70条第5項第1号に規定する偽りその他不正の行為があったと認められ、請求人は当該行為によりその一部の所得税等の税額を免れたのであるから、所得税等に係る加算税の賦課決定は、その納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる。
       なお、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       また、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに同法第68条第1項の規定に基づきなされた平成27年分の所得税等に係る各賦課決定処分(令和3年10月27日付でされた変更決定によりその一部が取り消された後のもの。)は適法である。
    • (ハ) 平成28年分について
       上記ロ(ロ)のとおり、平成28年分の所得税等の更正処分は、その一部を取り消すべきであるが、加算税の基礎となるべき税額について変動はない。
       なお、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       また、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに同法第68条第1項の規定に基づきなされた平成28年分の所得税等に係る各賦課決定処分(令和3年10月27日付でされた変更決定によりその一部が取り消された後のもの。)は適法である。
    • (ニ) 平成29年分について
       上記ロ(ロ)のとおり、平成29年分の所得税等の更正処分は適法であり、再更正処分は、その一部を取り消すべきであるが、加算税の基礎となるべき税額について変動はない。
       なお、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       また、過少申告加算税については、上記(9)のとおり争点についてこれを取り消すべき理由はなく、その他、当該更正処分及び再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに同法第68条第1項の規定に基づきなされた平成29年分の所得税等に係る各賦課決定処分は適法である。
    • (ホ) 平成30年分について
       上記ロ(ロ)のとおり、平成30年分の所得税等の更正処分は適法であり、再更正処分は、その一部を取り消すべきであるが、加算税の基礎となるべき税額について変動はない。
       なお、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       また、過少申告加算税については、上記(9)のとおり争点についてこれを取り消すべき理由はなく、その他、当該更正処分及び再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同法第68条第1項の規定に基づきなされた平成30年分の所得税等の重加算税の賦課決定処分は適法であるが、過少申告加算税については、同法第65条第2項が適用される金額はなく、同条第1項の規定に基づく過少申告加算税の額は、別表6の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円が正当であるから、当該過少申告加算税に係る賦課決定処分の一部については別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
    • (ヘ) 令和元年分について
       上記ロ(ロ)のとおり、令和元年分の所得税等の更正処分は適法であり、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       そして、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに同法第68条第1項の規定に基づきなされた令和元年分の所得税等に係る各賦課決定処分は適法である。
  • ヘ 本件消費税等各賦課決定処分の適法性について
    • (イ) 平成26年課税期間について
       上記ハ(イ)のとおり、平成26年課税期間の消費税等の更正処分については、その一部を取り消すべきである。
       なお、上記(6)のとおり、請求人には通則法第70条第5項第1号に規定する偽りその他不正の行為があったと認められ、請求人は当該行為によりその一部の消費税等の税額を免れたのであるから、消費税等に係る加算税の賦課決定は、その納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる。
       また、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       そして、平成26年課税期間の消費税等の更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
       これらに基づき、平成26年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税及び重加算税の額を計算すると、別表8の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも「原処分の額」欄の各金額を下回る。
       したがって、平成26年課税期間の消費税等に係る各賦課決定処分は、その一部を別紙5の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
    • (ロ) 平成27年課税期間について
       上記ハ(ロ)のとおり、平成27年課税期間の消費税等の更正処分は適法であり、また、上記(6)のとおり、請求人には通則法第70条第5項第1号に規定する偽りその他不正の行為があったと認められ、請求人は当該行為によりその一部の消費税等の税額を免れたのであるから、消費税等に係る加算税の賦課決定は、その納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる。
       なお、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       また、平成27年課税期間の消費税等の更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに同法第68条第1項の規定に基づきなされた平成27年課税期間の消費税等に係る賦課決定処分は適法である。
    • (ハ) 平成28年課税期間について
       上記ハ(ロ)のとおり、平成28年課税期間の消費税等の更正処分は適法であり、また、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       そして、平成28年課税期間の消費税等の更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに同法第68条第1項の規定に基づきなされた平成28年課税期間の消費税等に係る賦課決定処分は適法である。
    • (ニ) 平成29年課税期間及び平成30年課税期間について
       上記ハ(ロ)のとおり、平成29年課税期間及び平成30年課税期間の消費税等の各更正処分はいずれも適法であり、また、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。
       したがって、通則法第68条第1項の規定に基づきなされた平成29年課税期間及び平成30年課税期間の消費税等に係る各賦課決定処分は、いずれも適法である。
  • ト 本件源泉所得税等各賦課決定処分の適法性について
     上記ニのとおり、本件各納税告知処分については、いずれもその一部を取り消すべきである。
     なお、上記(6)のとおり、請求人には通則法第70条第5項第1号及び同法第73条第3項に規定する偽りその他不正の行為があったと認められ、請求人は当該行為によりその一部の源泉所得税等の税額を免れたのであるから、同法第70条第5項第1号の規定により、源泉所得税等に係る加算税の賦課決定は、その納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる。
     また、上記(5)のとおり、請求人には、通則法第68条第3項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があると認められることから、重加算税の賦課要件を満たしている。そして、当該源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
     これらに基づき、本件源泉所得税等各賦課決定処分に係る重加算税の額を計算すると別表9の「重加算税」欄の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成31年1月分から令和元年6月分までの期間の重加算税の金額は、「原処分の額」欄の金額と同額となるから、当該期間についてなされた賦課決定処分は適法であるが、その他の各期間の重加算税の金額は、「原処分の額」欄の各金額を下回るから、当該各期間の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙6の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(11) 結論

よって、審査請求のうち、主文第1項及び第2項記載の各処分の取消しを求める部分は不適法であるからこれらを却下し、第3項から第7項までに記載の各処分の取消しを求める部分は理由があるから、その一部を取り消すこととし、その他の部分はいずれも理由がないからこれらを棄却することとする。

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