(令和5年12月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、令和元年分ないし令和3年分の所得税等について、国外財産等に関して生じる所得の申告漏れ等があったとして修正申告書の提出をしたところ、原処分庁が、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律に規定する国外財産又は財産債務に係る過少申告加算税の特例による加重措置を適用して過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語については、以下、本文及び別表においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
     請求人は、令和元年12月31日、令和2年12月31日及び令和3年12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有するとともに、その価額の合計額が3億円以上の財産を有しており、また、確定申告書に記載すべき各年分の総所得金額が2,000万円を超えていたため、国送法第5条第1項及び同法第6条の2第1項の規定により、令和元年12月31日分、令和2年12月31日分及び令和3年12月31日分の各国外財産調書及び各財産債務調書を税務署長に提出しなければならない者であった。
  • ロ 請求人が所有していた国外にある不動産について
    • (イ) 請求人は、アメリカ合衆国g州e市f町○−○に所在する建物(以下「本件物件」という。)を所有し、令和元年8月から、これを賃貸の用に供していた。
    • (ロ) 請求人は、令和3年6月17日、本件物件を譲渡した。
  • ハ 請求人が保有する株式について
    • (イ) 請求人は、平成30年2月26日、国内に本店所在地を置くF社(平成○年○月にG社に商号変更した後、令和○年○月にH社へ商号変更した。以下、商号変更の前後を通じて「G社」という。)との間で、同社が発行する株式の引受けを内容とする契約を締結し、当該株式を取得した。
    • (ロ) G社は、令和○年○月○日にJ証券取引所に上場した。
       なお、請求人は、令和2年8月19日、請求人が保有するG社の株式を、K社において開設した請求人名義の口座(以下「本件口座」という。)に入庫した。
    • (ハ) 請求人は、令和2年中において、本件口座で保管していたG社の株式の一部を譲渡した(以下、請求人が同年中に譲渡したG社の株式を「本件令和2年譲渡株式」という。)。
    • (ニ) 請求人は、令和3年中において、本件口座で保管していたG社の株式の一部を譲渡した(以下、請求人が同年中に譲渡したG社の株式を「本件令和3年譲渡株式」という。)。
  • ニ 請求人が保有する公社債投資信託等について
     請求人は、令和3年中において、本件口座で保管していた公社債投資信託及び国外公社債投資信託(以下、これらを併せて「本件公社債投資信託等」という。)の収益の分配並びに投資法人の投資口(以下「本件投資口」という。)の配当等の支払をそれぞれ受けた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、令和元年分、令和2年分及び令和3年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、各確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ロ 請求人は、令和元年12月31日分、令和2年12月31日分及び令和3年12月31日分の各国外財産調書及び各財産債務調書(以下、「令和元年分国外財産調書」、「令和元年分財産債務調書」などといい、これらを併せて「本件各調書」という。)をいずれも原処分庁に提出した。
     なお、本件各調書のうち、令和元年分国外財産調書、令和元年分財産債務調書、令和2年分国外財産調書及び令和2年分財産債務調書はいずれも提出期限までに提出され、それらの各記載内容は、要旨、別表2ないし別表5のとおりである。
  • ハ 請求人は、令和2年8月28日、令和元年分の所得税等について、給与所得の金額に誤りがあるとして、別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をしたところ、原処分庁は、同年10月30日付で、同表の「更正処分」欄の記載のとおり、その請求の全部を認める旨の更正処分をした。
  • ニ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員による調査を受け、令和4年3月5日、令和2年分の所得税等について、本件令和2年譲渡株式に係る譲渡所得の計算誤りがあったとして、別表1の「修正申告1」欄のとおり記載した修正申告書を提出した(以下、当該修正申告書に係る修正申告を「令和2年分第1修正申告」という。)。
  • ホ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員による調査を受け、令和4年8月22日、本件各年分の所得税等について、次の(イ)ないし(ハ)の申告漏れ等があったとして、別表1の「修正申告2」欄のとおり記載した各修正申告書を提出した(以下、これらの修正申告書に係る各修正申告を順に「令和元年分修正申告」、「令和2年分第2修正申告」及び「令和3年分修正申告」といい、令和2年分第1修正申告と併せて「本件各修正申告」という。)。
    • (イ) 令和元年分
       本件物件に係る不動産所得の減価償却費の過大計上
    • (ロ) 令和2年分
       本件物件に係る不動産所得の減価償却費の過大計上
    • (ハ) 令和3年分
      • A 本件令和3年譲渡株式に係る譲渡所得の計算誤り
      • B 本件公社債投資信託等の収益の分配に係る利子所得の申告漏れ
      • C 本件投資口の配当等に係る配当所得の申告漏れ
  • ヘ 原処分庁は、令和4年9月28日付で、令和2年分第1修正申告により納付すべき税額を基礎として、別表1の「賦課決定処分1」欄のとおり、令和2年分の所得税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「令和2年分第1賦課決定処分」という。)をした。
     原処分庁は、令和2年分第1賦課決定処分に当たり、令和2年分第1修正申告の基因となった財産である本件令和2年譲渡株式について、令和元年分財産債務調書に記載すべき事項に誤りがあることを理由に、財産債務加重措置を適用した。
  • ト 原処分庁は、令和4年10月25日付で、令和元年分修正申告、令和2年分第2修正申告及び令和3年分修正申告により納付すべき税額をそれぞれ基礎として、別表1の「賦課決定処分2」欄のとおり、本件各年分の所得税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、順に「令和元年分賦課決定処分」、「令和2年分第2賦課決定処分」及び「令和3年分賦課決定処分」といい、令和2年分第1賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     原処分庁は、令和元年分賦課決定処分及び令和2年分第2賦課決定処分に当たり、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となった国外財産である本件物件について、令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書に記載すべき事項に誤りがあることを理由に、国外財産加重措置を適用した。
     また、原処分庁は、令和3年分賦課決定処分に当たり、令和3年分修正申告の基因となった財産である本件公社債投資信託等及び本件投資口については、令和3年分財産債務調書に記載すべき事項が記載されていることを理由に、財産債務軽減措置を適用し、一方、令和3年分修正申告の基因となった財産である本件令和3年譲渡株式については、令和2年分財産債務調書に記載すべき事項に誤りがあることを理由に、財産債務加重措置を適用した。
  • チ 請求人は、令和4年12月26日、本件各賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。
     なお、請求人は、本審査請求において、本件各賦課決定処分のうち、本件各加重措置が適用されたことの適法性のみを争っている。

2 争点

 本件各年分の所得税等に係る過少申告加算税について、本件各加重措置が適用されるか否か。具体的には、本件各修正申告の基因となる国外財産又は財産に関する本件各調書の各記載内容は、国送法が規定する国外財産調書又は財産債務調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分である」と認められるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
(1) 国外財産調書制度は、国外財産に係る課税の適正化の観点から、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める制度であり、その申告の適正性を確保するために国外財産軽減加重措置が設けられている。
 このような制度趣旨を踏まえ、国外財産調書には、「国外財産の種類、数量、価額及び所在その他必要な事項」を記載することが規定され(国送法施行規則第12条第1項)、また、国外財産加重措置が、修正申告等の基因となる国外財産についての記載がないときだけでなく、重要なものの記載内容が不十分な場合にも適用されることからすれば、国外財産調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」とは、同項に規定する記載事項について誤りがあり、又は記載の一部が記載漏れとなることによって、国外財産調書の内容から申告漏れ等の基因となる国外財産の特定が困難である場合をいうと解される。
(1) 国外財産調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」とは、国送法通達で、記載事項について誤りがあり、又は記載事項の一部が欠けていることにより、所得の基因となる財産の特定が困難である場合をいうとされており、原処分庁が主張するように、提出された国外財産調書の内容から申告漏れ等の基因となる国外財産の特定が困難である場合をいうとは定められていない。
(2) 財産債務調書制度は、保有財産の適正公平な課税を確保するために、自己の保有する財産等に関する情報について納税者本人から提出を求める制度であり、その適正な記載及び提出を確保するために、財産債務軽減加重措置が設けられている。
 このような制度趣旨を踏まえ、財産債務調書には、「財産の種類、数量、価額及び所在並びに債務の金額その他必要な事項」を記載すること等が規定され(国送法施行規則第15条第1項)、また、財産債務加重措置が、修正申告等の基因となる財産についての記載がないときだけでなく、重要なものの記載内容が不十分な場合にも適用されることからすれば、財産債務調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」とは、同項に規定する記載事項について誤りがあり、又は記載の一部が記載漏れとなることによって、財産債務調書の内容から申告漏れ等の基因となる財産等の特定が困難である場合をいうと解される。
(2) 財産債務調書についても、上記(1)と同様に、記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」とは、その記載事項について誤りがあり、又は記載事項の一部が欠けていることにより、所得の基因となる財産債務の特定が困難である場合をいう。
(3) 令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となった本件物件について、令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書には、用途欄を「事業用」とすべきところ「一般用」とした誤りや数量欄の誤りがあり、また、本件物件の所在を示す記載も欠けている。
 このように、令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書は、国送法施行規則第12条第1項に規定する記載事項について誤りがあり、又は記載の一部が記載漏れとなり、修正申告等の基因となる国外財産の特定が困難であるといえるから、記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分である」と認められる。
 よって、本件物件に関する減価償却費の過大計上に係る部分の過少申告加算税について、国外財産加重措置が適用される。
(3) 令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書の記載内容に不備があった点には反論するものではないが、請求人は、本件物件に係る不動産所得について毎年確定申告をしているから、その所得の基因となる財産である本件物件は既に特定済みのものであり、本件物件に関する国外財産調書の記載内容の不備によって特定済みの財産の特定が困難になることはない。そのため、国送法第6条第3項の「重要なものの記載が不十分である」との要件を満たさない。
 したがって、国外財産加重措置は適用されない。
(4) 令和2年分第1修正申告及び令和3年分修正申告の基因となった財産である本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式について、令和元年分財産債務調書及び令和2年分財産債務調書には、財産債務の区分欄に「有価証券」と記載すべきところ「匿名組合契約の出資の持分」とした誤りがあり、種類欄及び数量欄にも誤りがある。
 このように、令和元年分財産債務調書及び令和2年分財産債務調書は、国送法施行規則第15条第1項に規定する記載事項について誤りがあり、又は記載の一部が記載漏れとなり、修正申告等の基因となる財産の特定が困難であるといえるから、記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分である」と認められる。
 よって、本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式に関する計算誤りに係る部分の過少申告加算税について、財産債務加重措置が適用される。
(4) 本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式に係る譲渡所得について、請求人は、計算誤りはあったものの確定申告をしており、また、財産債務調書にも、請求人がこれらの株式を組合出資持分として「F社」又は「G社」に保有している旨の記載がある。
 また、税務調査の初日に、請求人に対して、原処分庁所属の調査担当職員から、本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式に係る譲渡所得の計算方法とともに、上記「F社」又は「G社」に関する財産債務調書の記載についての確認・質問があったことからすれば、当該職員は、これらの株式譲渡について十分認識していたものといえる。
 これらのことを踏まえると、本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式は、既に特定済みの財産であり、これらの株式に関する財産債務調書の記載に不備があり、又は記載事項の一部が欠けていたとしても、当該記載内容をもって、国送法第6条の3第2項の「重要なものの記載が不十分である」との要件を満たさない。
 したがって、財産債務加重措置は適用されない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 国外財産調書の提出制度は、国外財産に係る課税の適正化の観点から、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める制度であり、国外財産調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして、国外財産軽減加重措置が設けられている。
     このような国外財産調書の提出制度の趣旨から、国送法において、国外財産調書に「国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項」を記載することが規定されていることに照らすと、国送法第6条第3項に規定する「重要なものの記載が不十分である」と認められる場合とは、国送法施行規則第12条第1項が規定する記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部に記載漏れがあることにより、修正申告等の基因となる国外財産の特定が困難である場合をいうものと解され、これと同趣旨の国送法通達6−3の取扱いは当審判所においても相当と認められる。
     そして、上記のとおり国外財産軽減加重措置が国外財産調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして設けられていることに鑑みると、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、国外財産軽減加重措置の適用の可否の判断は、国外財産調書自体の記載内容から行うべきである。
  • ロ 財産債務調書の提出制度は、所得税等の申告の適正性を確保するため、納税者の保有する財産及び債務に関する情報につき納税者本人から提出を求める制度であり、財産債務調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして、財産債務軽減加重措置が設けられている。
     このような財産債務調書の提出制度の趣旨から、国送法において、財産債務調書に「財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項」を記載することが規定されていることに照らすと、国送法第6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分である」と認められる場合とは、国送法施行規則第15条第1項が規定する記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部に記載漏れがあることにより、修正申告等の基因となる財産又は債務の特定が困難である場合をいうものと解され、これと同趣旨の国送法通達6の3−3の取扱いは当審判所においても相当と認められる。
     そして、上記のとおり財産債務軽減加重措置が財産債務調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして設けられていることに鑑みると、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、財産債務軽減加重措置の適用の可否の判断は、財産債務調書自体の記載内容から行うべきである。

(2) 当てはめ

  • イ 本件各加重措置の適用の判断の基となる本件各調書について
     本件各加重措置の適用の判断の基となる国外財産調書又は財産債務調書は、その修正申告等に係る年分の国外財産調書又は財産債務調書であり、当該年分のその年の中途において修正申告等の基因となる国外財産又は財産若しくは債務を有しないこととなった場合には、当該年分の前年分の国外財産調書又は財産債務調書である(国送法第6条第4項及び同法第6条の3第2項)。本件各賦課決定処分における本件各加重措置の適用の判断の基となる国外財産調書又は財産債務調書は、以下のとおりとなる。
    • (イ) 令和元年分賦課決定処分及び令和2年分第2賦課決定処分
       上記1の(4)のホのとおり、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告は、いずれも本件物件に係る不動産所得の減価償却費の過大計上を理由とするものであるから、本件物件が、その修正申告の基因となる国外財産であると認められる。
       そして、請求人は、上記1の(3)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、令和元年及び令和2年を通じて、本件物件を所有していたのであるから、本件物件に関する減価償却費の過大計上に係る部分の過少申告加算税についての国外財産加重措置の適用の判断の基となる国外財産調書は、令和元年分修正申告については当該年分である令和元年分国外財産調書であり、令和2年分第2修正申告については当該年分である令和2年分国外財産調書である。
    • (ロ) 令和2年分第1賦課決定処分
       上記1の(4)のニのとおり、令和2年分第1修正申告は、本件令和2年譲渡株式に係る譲渡所得の計算誤りがあったことを理由とするものであるから、本件令和2年譲渡株式が、その修正申告の基因となる財産であると認められる。
       そして、請求人は、上記1の(3)のハの(ハ)のとおり、本件令和2年譲渡株式を、令和2年の中途において譲渡をし、有しないこととなったのであるから、本件令和2年譲渡株式に関する計算誤りに係る部分の過少申告加算税についての財産債務加重措置の適用の判断の基となる財産債務調書は、当該修正申告に係る年分の前年分の財産債務調書である令和元年分財産債務調書となる。
    • (ハ) 令和3年分賦課決定処分
       上記1の(4)のホのとおり、令和3年分修正申告は、本件令和3年譲渡株式に係る譲渡所得の計算誤り等があったことを理由とするものであるから、本件令和3年譲渡株式が、その修正申告の基因となる財産であると認められる。
       そして、請求人は、上記1の(3)のハの(ニ)のとおり、本件令和3年譲渡株式を、令和3年の中途において譲渡をし、有しないこととなったのであるから、本件令和3年譲渡株式に関する計算誤りに係る部分の過少申告加算税についての財産債務加重措置の適用の判断の基となる財産債務調書は、当該修正申告に係る年分の前年分の財産債務調書である令和2年分財産債務調書となる。
  • ロ 令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告に係る過少申告加算税についての国外財産加重措置の適用について
     上記イの(イ)のとおり、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となる財産は、本件物件である。
     そして、建物については、国外財産調書に、その建物の用途別(一般用及び事業用の別)及び所在別の戸数、床面積及び価額を記載しなければならない(国送法施行規則第12条第1項及び同規則別表第一)。
     請求人が提出した令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書の各記載内容は、要旨別表2及び別表4のとおりであるところ、このうち、請求人が本件物件について記載したとする各順号3欄は、その種類欄に「Personal Use-BUILDIN」として自己が使用する建物である旨が記載され、用途欄には「一般用」と記載されている。上記1の(3)のロの(イ)のとおり、本件物件は不動産所得を生ずべき業務の用に供されていたから、種類欄及び用途欄には、いずれも記載の誤りがあると認められる。また、その所在欄には居住用建物である旨の「Residence Property」との記載があるのみで、その所在地の記載はなく、さらに、戸数及び床面積の記載もない。
     以上のように、令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書は、本件物件の種類欄や用途欄の記載に誤りがあるだけでなく、所在地や戸数、床面積についても記載に誤りがあり、又は記載がないから、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となった本件物件を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。
     したがって、本件物件に関する令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書の各記載内容は、いずれも国送法第6条第3項に規定する国外財産調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分である」と認められるから、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告に係る過少申告加算税のうち、本件物件に関する減価償却費の過大計上に係る部分の過少申告加算税について国外財産加重措置が適用される。
  • ハ 令和2年分第1修正申告及び令和3年分修正申告に係る過少申告加算税についての財産債務加重措置の適用について
     上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、令和2年分第1修正申告の基因となる財産は本件令和2年譲渡株式であり、令和3年分修正申告の基因となる財産は本件令和3年譲渡株式である。
     そして、有価証券については、財産債務調書に、その種類別(株式、公社債、投資信託等の別及び銘柄の別)、用途別及び所在別の数量及び価額並びに取得価額を記載しなければならない(国送法施行規則第15条第1項及び同規則別表第三)。
     請求人が提出した令和元年分財産債務調書及び令和2年分財産債務調書の各記載内容は、要旨別表3及び別表5のとおりであるところ、このうち、請求人が本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式を含むG社の株式について記載したとする各順号3欄は、財産債務の区分欄に「匿名組合契約の出資の持分」と記載されているほか、その種類欄は、「株式」及び「G社」と記載すべきところを組合出資持分と解される「SECURITIES PARTNERSHIP INVESTM」と記載されており、記載の誤りがあると認められる。また、数量欄は「0」と誤って記載されており、取得価額の記載もない。
     以上のように、令和元年分財産債務調書及び令和2年分財産債務調書には、本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式を含むG社の株式について、「株式」であるとの種類の記載やその数量の記載もないのであるから、令和2年分第1修正申告及び令和3年分修正申告の基因となった本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。
     したがって、本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式に関する令和元年分財産債務調書及び令和2年分財産債務調書の各記載内容は、いずれも国送法第6条の3第2項に規定する財産債務調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分である」と認められるから、令和2年分第1修正申告及び令和3年分修正申告に係る過少申告加算税のうち、本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式に関する計算誤りに係る部分の過少申告加算税について財産債務加重措置が適用される。

(3) 請求人の主張について

請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、国外財産調書及び財産債務調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」(国送法第6条第3項及び同法第6条の3第2項)に当たるか否かは、国外財産調書又は財産債務調書の内容から財産の特定が困難か否かで判断するべきものではなく、かつ、本件物件については請求人が毎年確定申告していることや、本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式についても確定申告をしていたほか、原処分庁所属の調査担当職員からこれらの株式について確認等があったことに鑑みると、これらの財産は既に特定済みであるから、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」には当たらない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のとおり、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、国外財産軽減加重措置又は財産債務軽減加重措置の適用の可否の判断は、国外財産調書又は財産債務調書自体の記載内容から行うべきであり、これらの記載内容に基づくと、本件において「重要なものの記載が不十分である」と認められることは上記(2)のロ及びハのとおりであるから、請求人の主張は理由がない。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 令和元年分賦課決定処分及び令和2年分第2賦課決定処分について
     上記(2)のロのとおり、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となった財産である本件物件に関する減価償却費の過大計上に係る部分の過少申告加算税について国外財産加重措置が適用されることになるところ、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実がこれらの修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、いずれも通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
     そして、当審判所においても、令和元年分修正申告に係る過少申告加算税の額及び令和2年分第2修正申告に係る過少申告加算税の額は、令和元年分賦課決定処分及び令和2年分第2賦課決定処分における過少申告加算税の額といずれも同額であると認められる。
     また、令和元年分賦課決定処分及び令和2年分第2賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、令和元年分賦課決定処分及び令和2年分第2賦課決定処分はいずれも適法である。
  • ロ 令和2年分第1賦課決定処分及び令和3年分賦課決定処分について
     上記(2)のハのとおり、令和2年分第1修正申告の基因となった財産である本件令和2年譲渡株式及び令和3年分修正申告の基因となった財産である本件令和3年譲渡株式に関する計算誤りに係る部分の過少申告加算税について財産債務加重措置が適用されることになるところ、令和2年分第1修正申告及び令和3年分修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実がこれらの修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、いずれも通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
     そして、当審判所において、令和2年分第1修正申告に係る過少申告加算税の額は、令和2年分第1賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められ、令和3年分修正申告に係る過少申告加算税の額は、国送法分の加算税の基礎となる税額について、課税される所得金額及び配当控除の額に関して正当に計算すると○○○○円となり、令和3年分賦課決定処分における過少申告加算税の額を上回ると認められる。
     また、令和2年分第1賦課決定処分及び令和3年分賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、令和2年分第1賦課決定処分及び令和3年分賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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