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(令和5年12月15日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税等相当額の還付を受けるための確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人が行ったとする取引の一部は請求人が行ったものとは認められないから、当該取引に係る仕入金額は、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額とは認められないなどとして消費税等の更正処分をしたことに対し、請求人が、当該更正処分には理由の提示に不備があるなどとして、当該更正処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
- イ 行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項本文は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
- ロ 消費税法第30条(令和元年9月30日以前に行う課税仕入れについては平成27年法律第9号によって改正された平成24年法律第68号による改正前のもの、令和元年10月1日以後令和5年9月30日以前に行う課税仕入れについては平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)《仕入れに係る消費税額の控除》第1項柱書及び同項第1号は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している(以下、同項の規定により課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額を「控除対象仕入税額」といい、この控除を「仕入税額控除」という。)。
- ハ 消費税法第30条第7項本文は、同条第1項の規定は、事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における控除対象仕入税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れの税額については、適用しない旨規定している。
- ニ 消費税法第30条第9項柱書及び同項第1号は、同条第7項に規定する請求書等とは、事業者に対し課税資産の譲渡等(消費税法等の規定により消費税が免除されるものを除く。)を行う他の事業者が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項が記載されているものをいう旨規定している。
- (イ) 書類の作成者の氏名又は名称(同号イ)
- (ロ) 課税資産の譲渡等を行った年月日(同号ロ)
- (ハ) 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(同号ハ)
- (ニ) 課税資産の譲渡等の対価の額(同号ニ)
- (ホ) 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称(同号ホ)
- ホ 消費税法施行令第49条(平成30年政令第135号による改正前のもの。以下同じ。)《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等》第1項柱書及び同項第1号は、消費税法第30条第7項に規定する政令で定める場合として、同条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合をいう旨規定している。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
- イ 請求人は、平成25年12月○日に衣料品、アクセサリー、幼児・子供用品等の販売及び輸出入等を目的として設立された法人である。
- ロ 請求人は、平成28年12月1日から平成29年11月30日まで、平成29年12月1日から平成30年11月30日まで、平成30年12月1日から令和元年11月30日まで及び令和元年12月1日から令和2年11月30日までの各課税期間(以下、順次「平成29年11月課税期間」、「平成30年11月課税期間」、「令和元年11月課税期間」及び「令和2年11月課税期間」といい、これらの各課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに提出した。
なお、請求人は、当該各確定申告書を提出する際、中華人民共和国に在住する者(以下「中国人顧客」という。)から商品の注文を受けて、インターネット上のショッピングサイトなどで商品を販売する日本国内の複数の事業者(以下「本件各国内販売事業者」という。)から商品を仕入れたとして、当該仕入れの対価を課税仕入れに係る支払対価の額に含めていた。 - ハ 請求人が商品を仕入れたとする取引は、その決済方法により、
商品と引換えに宅配業者に現金で代金を支払う方法による取引(以下「本件各宅配取引」という。)、
商品と引換えにE社に現金で代金を支払う方法による取引(以下「本件各E取引」という。)、
請求人名義又は請求人の代表者名義のクレジットカードを使用して代金を支払う方法による取引(以下「本件各クレジットカード取引」という。)、及び
Fギフトカード(F社及びその関連会社が提供するショッピングサイトで使用できるギフトカード(商品券))を使用して代金を支払う方法による取引(以下「本件各ギフトカード取引」といい、本件各クレジットカード取引と併せて「本件各カード取引」という。)がある。
- ニ 請求人は、本件各宅配取引及び本件各E取引については、請求人が商品と引換えに代金を支払った時に、本件各クレジットカード取引については、請求人がクレジットカード会社に各月の請求金額を支払った時に、本件各ギフトカード取引については、請求人がFギフトカードを購入した時に、当該支払額から消費税等を除いた額を請求人の総勘定元帳の仕入高勘定又は輸出売上対応仕入高勘定にそれぞれ計上し、上記ロの各申告に当たり、当該支払額を課税仕入れに係る支払対価の額として、当該課税仕入れに係る消費税額を算出していた。
- ホ 原処分庁は、令和4年7月4日付で、請求人に対し、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査に基づき、本件各宅配取引については、請求人は本件各国内販売事業者との売買契約に係る当事者ではなく、請求人による仕入れの事実が認められないから、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額とは認められないとして、本件各E取引については、消費税法第30条第7項に規定する請求書等を保存しない場合に該当するから、仕入税額控除の適用は認められないとして、本件各カード取引については、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当するから、仕入税額控除の適用は認められないとして、また、仕入れの二重計上分や知人の立替金の支払は、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額とは認められないとして、別表1の「更正処分等」欄のとおり本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
- ヘ 本件各更正処分に係る各更正通知書(以下「本件各更正通知書」という。)に記載された更正の理由は、要旨別紙のとおりである。
なお、本件各更正通知書に添付された別表1ないし別表4(以下「本件各別表」という。)のうち別表1及び別表2には、日付、税込金額、消費税額、税抜金額及び仕入先の記載によって特定された取引が羅列され、末尾に税込金額、消費税額及び税抜金額の各合計額が記載されていた。また、本件各別表のうち別表3及び別表4には、日付、計上金額、消費税額、税抜金額及び仕入先の記載によって特定された取引が羅列され、末尾に計上金額、消費税額及び税抜金額の各合計額が記載されていた。 - ト 本件各別表から算出される控除対象仕入税額の減少額及び本件各更正通知書に記載された控除対象仕入税額の減少額は別表2のとおりであり、一致しない(以下、これらが一致しないことを「本件不一致」という。)。
- チ 請求人は、令和4年8月18日、本件各更正処分を不服として再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和4年12月8日付で棄却の再調査決定をした。
- リ 請求人は、令和5年1月7日、再調査決定を経た後の本件各更正処分に不服があるとして、審査請求をした。
なお、本件各賦課決定処分についても併せ審理する。
2 争点
(1) 本件各更正処分の理由の提示に不備があるか否か(争点1)。
(2) 本件各宅配取引により支払った金額は、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額(消費税法第30条第1項)に該当するか否か(争点2)。
(3) 本件各カード取引に係る消費税額は、本件各課税期間の消費税額等の計算上、仕入税額控除の適用が認められるか否か(争点3)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(本件各更正処分の理由の提示に不備があるか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
本件各更正通知書には、一旦、本件各別表に記載の金額に係る消費税の全額について、仕入税額控除の対象とならない旨記載した上で、そこから原処分庁が仕入税額控除の対象と認めた部分を差し引いた金額を、控除対象仕入税額の減少額として記載しているところ、本件各別表に記載の金額に係る消費税額から上記控除対象仕入税額の減少額を減算すれば、請求人において原処分庁が仕入税額控除の対象と認めた部分を把握し得る。 よって、本件各更正通知書には不利益処分の根幹部分をなす事実関係が明示されているのであって、本件各更正通知書に仕入税額控除の対象と認めた部分の金額が具体的に記載されていないとしても、行政手続法第14条第1項の趣旨に反するものではないから、本件各更正処分の理由の提示に不備はない。 |
本件各更正通知書には、請求人が本件調査担当職員の要請に応じて提示した請求書等に係る課税仕入れについて、仕入税額控除が認められているのか否かの記載が一切ない。そのため、どの取引に係る仕入税額控除が否認され、どの取引に係る仕入税額控除が認められたのかが分からず、認められるべき個別の取引に係る仕入税額控除の主張に支障を来しており、納付すべき税額も算出できない。 したがって、本件各更正処分における理由の提示は、行政手続法第14条第1項の趣旨に反し、不備がある。 |
(2) 争点2(本件各宅配取引により支払った金額は、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額(消費税法第30条第1項)に該当するか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
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本件各宅配取引では、中国人顧客がインターネットを通じて商品等の注文を行い、これを本件各国内販売事業者が承諾することにより両者間で売買契約が成立している。 また、本件各宅配取引における商品の注文に当たり、購入する商品の種類や個数を決定しているのは中国人顧客であり、本件各宅配取引において、請求人が自社の倉庫において商品を受領し、代引決済により商品代金を支払っているのは、中国人顧客に代わって行ったにすぎない。 以上によれば、請求人は、本件各宅配取引における売買契約の当事者ではなく、他の者から資産を譲り受けている者とは認められないことから、本件各宅配取引により支払った金額は、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない。 |
本件各宅配取引は、原則、請求人が商品を発注し、請求人が当該倉庫において商品代金と引換えに商品の引渡しを受けているものであり、商品の所有権は、引渡しを受けた時点で、本件各国内販売事業者から請求人に移転する。また、請求人と中国人顧客との間で、請求人が代金を支払った商品は、全て請求人が購入した商品とみなされて請求人の所有となる旨定めているから、本件各宅配取引における当事者は、請求人である。請求人は、中国人顧客との取引において、受注販売という低リスクで在庫を持たないビジネスモデルを採用しているにすぎない。 以上のとおり、請求人は本件各宅配取引における当事者であるから、本件各宅配取引により支払った金額は、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当する。 |
(3) 争点3(本件各カード取引に係る消費税額は、本件各課税期間の消費税額等の計算上、仕入税額控除の適用が認められるか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
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イ 本件調査担当職員は、請求人に対し、再三にわたり、本件各課税期間分の消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等の提示を求めたが、請求人は同条第9項に規定する要件を具備した請求書等を提示しなかったものであって、同条第7項に規定する請求書等の保存がないから、本件各カード取引に係る消費税額について、仕入税額控除の適用は認められない。 | イ 請求人は、調査中の令和4年6月7日に、本件調査担当職員に本件各クレジットカード取引に係る請求書等を提出したが、本件調査担当職員は、何の回答もしなかったため、請求人は、その他の書類を提示する機会を与えられなかった。また、請求人は、調査結果の説明時の令和4年6月29日に、本件調査担当職員が着席していた机上に本件各ギフトカード取引に係る請求書等を置いていたが、本件調査担当職員は当該書面を見ることなく、請求書等について話す間もなく帰ったため、請求人は、請求書等を提示する機会を与えられなかったものであるから、請求人が、消費税法第30条第7項に規定する請求書等を保存していなかったとはいえない。 |
ロ 消費税法施行令第49条第1項第1号の適用に関し、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満であるか否かは1回の取引金額をもって判断すべきものであるところ、請求人は、本件各クレジットカード取引について、クレジットカード明細に記載された各月の請求金額を総勘定元帳に計上しており、また、クレジットカード払いに係る請求書等を整理していなかったことから、本件各クレジットカード取引の1回の取引金額が不明であった。そこで、本件調査担当職員は、消費税法施行令第49条第1項第1号該当性の判定に当たり、請求人が総勘定元帳に計上した金額が3万円未満のものについて同条第1項第1号に該当するとして仕入税額控除の適用を認めたものであって、原処分庁における同条第1項第1号該当性の判定に違法はない。 | ロ 1回の取引金額が3万円未満の取引については、消費税法第30条第7項に規定する請求書等の保存を要しないにもかかわらず、原処分庁は、本件各クレジットカード取引に係る請求書等の保存について、消費税法施行令第49条第1項第1号該当性を1回の取引金額ではなく、クレジットカード会社の各月の請求金額で判断しており、同条第1項第1号該当性の判定に違法がある。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点1(本件各更正処分の理由の提示に不備があるか否か。)について
- イ 法令解釈
- (イ) 行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。
そうすると、更正の理由の提示において、原処分庁の判断過程を逐一検証し得る程度の記載があり、上記の原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という趣旨目的を充足する程度に具体的に更正の根拠を明示していれば、法の要求する更正の理由の提示として欠けるところはないと解するのが相当である。 - (ロ) また、更正の理由の提示は、誤りがあるとされる項目が数個ある場合には、項目ごとに理由を示して行う必要があることはいうまでもないが、更正の理由の提示の違法は、処分の手続に関するものではあるけれども、更正の理由は、項目ごとに別個であり、その一部の項目の理由の不備が当然に処分全体を違法ならしめると解すべき必然的な理由はない。
そうすると、数個の項目のうちの一部の項目について理由の提示に不備があったとしても、それがいまだに更正全体の理由の提示を不備ならしめる程度に至らないときは、処分全体を違法ならしめるものではなく、処分のうち当該項目に関する部分を違法とするにすぎないものと解するのが相当である。
- (イ) 行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。
- ロ 認定事実
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件不一致は、原処分庁が、調査中に請求人から提示があった請求書等の一部について消費税法第30条第9項に規定する要件を具備したものとして、本件各別表中の一部の取引を課税仕入れと扱い、仕入税額控除の対象と認めた金額(以下「本件差額」という。)があるために生じたものであるところ、本件各更正通知書には、本件差額の存在やその金額が記載されていない(以下、これらを称して「本件差額に係る記載がないこと」という。)と認められる。 - ハ 検討
以上を前提に、上記イの法令解釈に照らして本件各更正通知書において提示された本件各更正処分の理由につき不備があるか否かについて検討する。
- (イ) 上記1の(3)のヘのとおり、本件各更正通知書に記載された本件各更正処分の理由の要旨は別紙のとおりであるところ、本件各更正通知書には、本件各別表に記載された金額について、消費税法第30条第1項の控除の対象とならない理由が具体的に記載されており、この記載部分については、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という趣旨目的を充足する程度に具体的に更正の根拠が明示されていると認められる。
- (ロ) しかしながら、本件各更正通知書には、上記ロのとおり、本件差額に係る記載がないことから、本件各別表を含む本件各更正通知書の記載だけでは、請求人において本件差額の存在さえ知ることができない。
このような本件各更正通知書の記載からは、本件不一致が生じる理由について、本件各別表の中に課税仕入れとして認められたものがある、
本件各別表以外の事項で、課税仕入れと認められたものがあるという可能性があるが、上記
、
のどちらであるかは、本件各更正通知書の記載から判別できない。結局、本件各更正通知書の記載から、請求人において本件各別表に記載のどの部分が課税仕入れとして認められなかったのか判別することはできず、不服の有無を判断することもできない。
以上によれば、本件各更正通知書の記載自体から、本件各更正処分における原処分庁の判断過程を逐一検証することはできず、本件各更正通知書について、不服申立ての便宜という趣旨目的を充足する程度に具体的な更正の根拠を明示するものとは評価できない。また、検証に堪える程度の判断過程の記載がないということは、本件各更正処分を行った後に、原処分庁が仕入税額控除の適用を認めなかった取引につき差し替えることも可能であることからすれば、本件各更正処分時点における原処分庁の判断の恣意抑制という趣旨目的が潜脱されるおそれもある。
したがって、本件各更正処分は、その理由の提示に不備があると認められる。 - (ハ) そして、本件差額に係る記載がないことにより、本件各更正通知書の記載からは、本件各別表のいずれについても、その中に原処分庁が課税仕入れとして認めたものがある可能性があることからすると、本件各更正処分の理由の提示は、その一部についての不備にとどまるとはいえず、全体についての不備に至っているといわざるをえない。
- (ニ) 以上によれば、本件各更正通知書は、本件各更正処分の全体について、原処分庁の判断過程を逐一検証し得る程度の更正の理由の記載があるとは認められず、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という趣旨目的を充足する程度に具体的に更正の根拠を明示したものと評価することはできないから、本件各更正処分は、その理由の提示に不備があり、違法である。
- ニ 原処分庁の主張について
- (イ) 原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のとおり、本件各別表に記載の金額に係る消費税額から本件各更正通知書記載の控除対象仕入税額の減少額を減算すれば、請求人において原処分庁が仕入税額控除の対象と認めた部分を把握し得るため、不利益処分の根幹部分をなす事実関係は明示されている旨主張する。
- (ロ) しかしながら、上記ハの(ロ)ないし(ニ)に記載したとおり、本件各更正処分の理由は、本件差額に係る記載がないことについて、その提示に不備があり、その程度は本件各更正処分全体の理由の提示を不備ならしめるものに至っていると認められる。
また、実態としてみても、上記ロのとおり、本件差額が、全部を否認項目としたかのように記載された本件各別表中の取引の一部につき、実際は課税仕入れと扱い、仕入税額控除の対象と認めた金額であることからすれば、本件差額に係る記載がないことは、否認項目と関連しない項目の記載漏れや単なる誤記には該当しない。
以上によれば、本件差額に係る記載がないことは、不利益処分の根幹部分をなす事実関係に関連する不備である。
したがって、原処分庁の主張は理由がない。
- ホ 本件各更正処分の適法性について
上記ハのとおり、当審判所の調査及び審理の結果、本件各更正処分の理由の提示には不備があるから、本件各更正処分はいずれも違法であり、争点2及び3について判断するまでもなく、本件各更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。 - ヘ 本件各賦課決定処分について
上記ホのとおり、本件各更正処分は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分についても、いずれもその全部を取り消すべきである。
(2) 結論
よって、審査請求には理由があるから、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の全部を取り消すこととする。
別表1 審査請求に至る経緯(省略)
別表2 本件各別表から算出される控除対象仕入税額の減少額等(省略)