(令和6年2月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、令和3年分の所得税等について、上場株式等に係る譲渡所得等の申告漏れがあったとして修正申告書を提出したところ、原処分庁が、当該修正申告に係る過少申告加算税について、財産債務に係る過少申告加算税の特例による加重措置を適用した賦課決定処分等をしたのに対し、請求人が、当該過少申告加算税については、同特例による軽減措置を適用すべきであるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等の要旨は別紙のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語については、以下、本文及び別表においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人が有していた財産について
    • (イ) 請求人は、令和2年12月30日現在、D証券に開設された一般口座に、E社の株式36,000株(以下「本件E株式」という。)を保有していた。
       なお、D証券が発行した「○○○○」と題する書面(以下「本件残高報告書」という。)には、請求人が令和2年12月30日現在においてD証券の口座に保有する国内株式等の残高について、要旨、別表1−1のとおり記載されている。
       そして、請求人は、令和3年8月20日、本件E株式を全て譲渡した。
    • (ロ) 請求人は、令和2年12月31日現在、F証券に開設された一般口座に、「○% EURO MEDIUM TERM NOTE G社」(額面1,160,000アメリカ合衆国ドル)(以下「本件G債券」という。)を保有していた。
       なお、F証券が発行した「○○○○」と題する書面(以下「本件月次報告書」という。)には、請求人が令和2年12月31日現在においてF証券の一般口座に保有する債券等の残高について、要旨、別表1−2のとおり記載されている。
       そして、請求人は、令和3年9月13日、本件G債券を全て譲渡した。
    • (ハ) 請求人は、令和2年12月31日現在、H氏に対する貸付金100,000,000円(以下「本件貸付金」という。)を有していた。
       その後、請求人は、令和3年6月28日、本件貸付金の全額の返済を受け、貸付金利息〇〇〇〇円を受領した。
  • ロ 財産債務調書の提出状況について
    • (イ) 請求人は、令和2年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額(国送法施行令第12条の2第5項柱書並びに同項第1号及び第6号の規定による加算後の金額)が20,000,000円を超えており、かつ、令和2年12月31日においてその価額の合計額が300,000,000円以上の財産を有していたため、国送法第6条の2第1項の規定により、令和2年12月31日分の財産債務調書を税務署長に提出しなければならない者であった。
    • (ロ) 請求人は、令和2年12月31日分の財産債務調書について、要旨、別表2のとおり記載して、通則法第11条《災害等による期限の延長》及び国税通則法施行令第3条《災害等による期限の延長》第2項の規定並びに令和3年2月15日付国税庁告示第3号の定めにより延長された期限内である同年4月12日に、原処分庁へ提出した(以下、当該提出に係る財産債務調書を「本件財産債務調書」という。)。
       なお、請求人は、本件財産債務調書を提出した後、その記載内容を変更していない。
       また、本件財産債務調書には、本件残高報告書及び本件月次報告書の添付はなかった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、令和3年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、別表3の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を、通則法第11条及び国税通則法施行令第3条第3項の規定に基づき延長された期限内である令和4年4月12日に、提出して申告した。
  • ロ 原処分庁所属の調査担当職員は、令和4年9月15日、請求人の令和3年分の所得税等に係る実地の調査を行うため、請求人の税務代理人に対し、調査通知を行った。
  • ハ 請求人は、令和4年9月20日、令和3年分の所得税等について、上場株式等に係る譲渡所得等〇〇〇〇円(その内訳は、本件E株式の譲渡に係る譲渡所得等が〇〇〇〇円、本件G債券の譲渡に係る譲渡所得等が〇〇〇〇円)の申告が漏れていたとして、別表3の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を提出した(以下、当該修正申告書を「本件修正申告書」といい、本件修正申告書に係る申告を「本件修正申告」という。)。
  • ニ 原処分庁は、令和4年12月26日付で、別表3の「賦課決定処分」欄のとおり、令和3年分の所得税等の過少申告加算税(以下、請求人の当該年分の所得税等の過少申告加算税のことを「本件過少申告加算税」という。)の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
     本件賦課決定処分において、本件過少申告加算税の額は、本件修正申告書の提出が調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものではなく、調査通知前にされたものでもないとして、本件修正申告に基づき納付すべき税額に、通則法第65条第1項の規定により100分の5の割合を乗じて計算した金額に相当する額とされ、また、本件財産債務調書には、本件修正申告の基因となった本件E株式及び本件G債券の記載がなかったとして、加重措置を適用した金額とされた。
     なお、別紙の2のとおり、国送法第6条の3に規定された加重措置及び軽減措置の適用の判断の基となる財産債務調書は、修正申告等に係る年分の財産債務調書(当該年分のその年の中途において当該修正申告等の基因となる財産債務を有しないこととなった場合における当該財産債務にあっては、当該年分の前年分の財産債務調書)であるところ(国送法第6条の3第1項及び第2項において準用された国送法第6条第2項及び第4項)、上記ハのとおり、本件修正申告は、本件E株式及び本件G債券の譲渡に係る上場株式等の譲渡所得等に申告漏れがあったことを修正するものであり、上記(3)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は令和3年中に本件E株式及び本件G債券を全て譲渡したことから、加重措置又は軽減措置の適用の判断の基となる財産債務調書は、本件修正申告に係る年分の前年分である令和2年12月31日分の財産債務調書(本件財産債務調書)となる。
  • ホ 原処分庁は、令和5年2月27日付で、別表3の「更正処分等」欄のとおり、令和3年分の所得税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の変更決定処分(以下「本件変更決定処分」という。)をした。
     なお、本件更正処分は、請求人の給与所得〇〇〇〇円及び雑所得〇〇〇〇円(本件貸付金の利息)の申告漏れを更正するものであるところ、本件変更決定処分において、本件過少申告加算税の額は、本件財産債務調書に本件E株式、本件G債券及び上記雑所得〇〇〇〇円の申告漏れの基因となる本件貸付金の記載がなかったとして、加重措置を適用した金額とされた。
  • ヘ 請求人は、令和5年3月22日、本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。
     また、請求人は、令和5年5月26日、本件変更決定処分に不服があるとして審査請求をした。
     そこで、本件賦課決定処分及び本件変更決定処分に対する各審査請求について併合審理をする。
  • ト 原処分庁は、令和5年6月28日付で、別表3の「再変更決定処分」欄のとおり、加重措置により加算すべき金額に誤りがあったとして、令和3年分の所得税等の過少申告加算税の変更決定処分(以下「本件再変更決定処分」という。)をした。

2 本件再変更決定処分により取り消された部分の取消しを求める審査請求について

 請求人は、原処分の全部の取消しを求めているが、別表3の「賦課決定処分」欄、「更正処分等」欄及び「再変更決定処分」欄のとおり、本件過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分において〇〇〇〇円とされ、本件変更決定処分において〇〇〇〇円と増額されたが、本件再変更決定処分において〇〇〇〇円と減額されたことからすれば、本件再変更決定処分により取り消された、本件変更決定処分及び本件賦課決定処分のうち過少申告加算税の額〇〇〇〇円を超える部分の取消しを求める審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである。

3 争点

 本件過少申告加算税の計算において、加重措置又は軽減措置が適用されるか否か。

4 争点についての主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件過少申告加算税の計算においては加重措置が適用され、軽減措置は適用されない。 以下のとおり、本件過少申告加算税の計算において加重措置は適用されず、軽減措置が適用される。
(1) 本件財産債務調書には、請求人の保有する本件E株式及び本件G債券について、「種類、数量、価額及び所在並びに債務の金額その他必要な事項」の記載を要し、種類には株式、公社債、投資信託等の別のほか銘柄の別の記載を要するが、本件E株式及び本件G債券に該当する銘柄が記載されていない。
 本件E株式は、国送法通達6の2−4の「租税特別措置法第37条の11の3に規定する特定口座に保管の委託がされているもの」に該当しないから、当該通達を適用して、銘柄別に区分することなく記載することは認められない。
 そうすると、本件E株式及び本件G債券について、本件財産債務調書の記載内容は、国送法施行規則第15条第1項に規定する記載事項について誤りがあり、又は記載の一部が記載漏れとなっていることから、国送法第6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に該当する。
 なお、国送法第6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に該当するか否かは、提出された財産債務調書の記載内容から判断されるものであり、本件財産債務調書には、本件E株式及び本件G債券に該当する銘柄が記載されていないことからすると、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に該当するから、本件残高報告書及び本件月次報告書により容易に特定できるかどうかにかかわらず、加重措置が適用されることとなる。 
(1) 国送法第6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」とは、財産債務調書に財産又は債務の記載があっても、記載がない場合と同視できる程度に記載が不十分で、修正申告等の基因となる財産又は債務について、その特定が全くできない場合をいうものと解される。
 本件において、本件E株式及び本件G債券について、本件財産債務調書に「銘柄」の別に記載されていないことが、直ちに「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に該当するわけではない。
 本件財産債務調書に国内株式等及び債券等として一括して記載されている価額と、D証券及びF証券が請求人に交付した本件残高報告書の国内株式等の残高及び本件月次報告書の債券等の残高は一致するのであるから、本件E株式及び本件G債券は、いずれも本件残高報告書及び本件月次報告書によって容易に特定することができ、本件E株式及び本件G債券のいずれについても、記載がなかった場合と同視できる程度に記載が不十分で、本件修正申告の基因となった財産、すなわち、本件E株式及び本件G債券の特定ができない場合に該当しないことは明らかである。
 また、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に該当するか否かの判断は、調査に基づき行われるものであるから、調査の際に、銘柄ごとの区分が確認でき、銘柄ごとの残高が一致することが容易に確認できれば、国送法通達6の3−3にいう「財産債務調書に記載すべき事項について誤りがあり、又は記載事項の一部が欠けていることにより、所得の基因となる財産債務の特定が困難である場合」には該当しない。
 したがって、本件について、少なくとも、加重措置が適用されるべき理由は存在しない。
(2) 本件財産債務調書には、請求人の保有する本件E株式及び本件G債券について、「種類、数量、価額及び所在並びに債務の金額その他必要な事項」の記載を要し、種類には株式、公社債、投資信託等の別のほか銘柄の別の記載を要するが、本件E株式及び本件G債券に該当する銘柄が記載されていない。
 したがって、本件財産債務調書には、本件修正申告の基因となった財産について、財産債務調書に記載すべき事項が記載されていないから、軽減措置の適用はない。
(2) 本件財産債務調書には、本件E株式及び本件G債券については、「銘柄」の別に区分されてはいないが、いずれも国送法施行規則別表第三に定める種類別、用途別及び所在別に記載され、さらに、種類については、「株式、公社債、投資信託、特定受益証券発行信託、貸付信託等」の別に記載されており、また、財産の価額についても国内株式等及び債券等として一括して記載されている。
 本件E株式及び本件G債券は、いずれも「銘柄」の別に区分されていないだけであり、いずれも本件財産債務調書に記載されているのであるから、本件修正申告の基因となった本件E株式及び本件G債券の譲渡所得等に係る所得税等に対する加算税については、軽減措置が適用されるべきである。

5 当審判所の判断

(1) 法令解釈等

財産債務調書の提出制度は、所得税等の申告の適正性を確保するため、納税者の保有する財産及び債務に関する情報につき納税者本人から提出を求める制度であり、財産債務調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして、加算税の軽減措置及び加重措置が設けられている。
 このような財産債務調書の提出制度の趣旨から、国送法第6条の2第1項において、財産債務調書には「財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項」を記載することが規定され、さらに、国送法施行規則第15条第1項及び別表第三において、有価証券については、種類別、用途別及び所在別の数量及び価額並びに取得価額(種類別は、株式、公社債等の別のほか、銘柄の別)を記載することが規定されていることに照らすと、国送法第6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」とは、国送法施行規則第15条第1項に規定する「財産の種類、数量、価額及び所在並びに債務の金額その他必要な事項」といった記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部が記載漏れとなり、修正申告等の基因となる財産又は債務の特定が困難である場合をいうものと解され、これと同趣旨の国送法通達6の3−3の取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
 そして、上述のとおり、加算税の軽減措置及び加重措置が財産債務調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして設けられていることに鑑みると、加算税の軽減措置及び加重措置の適用の可否の判断は、財産債務調書の記載内容自体から行うべきである。

(2) 検討

  • イ 上記1の(4)のハのとおり、本件修正申告の基因となる財産は本件E株式及び本件G債券であるところ、本件財産債務調書には、別表2のとおり、1「財産債務の区分」欄に「有価証券(上場株式)」、「種類」欄に「国内株式等」、「用途」欄に「一般用」、「所在」欄に「D証券」、「財産の価額又は債務の金額」欄に「88,058,000円」と記載され、また、2「財産債務の区分」欄に「株式以外の有価証券」、「種類」欄に「債権等」、「用途」欄に「一般用」、「所在」欄に「J銀行」、「財産の価額又は債務の金額」欄に「820,300,231円」と記載されているものの、本件E株式及び本件G債券の各銘柄及び各数量の記載がなく、本件財産債務調書における上記1及び2の記載から、請求人の保有する本件E株式及び本件G債券を特定することは困難であると認められる。
  • ロ したがって、本件財産債務調書の記載内容は、本件E株式及び本件G債券について、国送法第6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に該当するというべきであるから、本件過少申告加算税の計算において、加重措置が適用される。
  • ハ また、別紙の2の(6)のとおり、軽減措置は、国送法第6条の3第1項の規定により、国送法第6条の2第1項の規定による記載があるときに適用されるところ、本件財産債務調書には、本件E株式及び本件G債券の各銘柄及び各数量の記載がないから、同項の規定による「財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項」の記載はなく、本件過少申告加算税の計算において、軽減措置は適用されない。

(3) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、上記4の「請求人」欄の(1)のとおり、本件財産債務調書に国内株式等及び債券等として一括して記載されている価額と、本件残高報告書の国内株式等の残高及び本件月次報告書の債券等の残高はそれぞれ一致するのであるから、本件E株式及び本件G債券は、本件残高報告書及び本件月次報告書によって容易に特定することができ、また、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に該当するか否かの判断は、調査に基づき行われるものであるから、調査の際に、銘柄ごとの区分が確認でき、銘柄ごとの残高が一致することが容易に確認できれば、少なくとも、加重措置が適用されるべき理由はない旨主張する。
     しかしながら、上記(1)のとおり、加重措置の適用の可否の判断は、提出された財産債務調書の記載内容自体から行うべきであって、財産債務調書以外の書類の記載や調査の際に容易に確認できる事項を加味して判断すべきものではない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。
  • ロ 請求人は、上記4の「請求人」欄の(2)のとおり、本件財産債務調書には、本件E株式及び本件G債券について、「銘柄」の別に区分されてはいないが、国送法施行規則別表第三に定める記載事項別に、一括して記載されていることからすると、本件E株式及び本件G債券は、本件財産債務調書に記載されているのであるから、軽減措置が適用されるべきである旨主張する。
     しかしながら、軽減措置を適用するには、国送法第6条の3第1項の規定により、国送法第6条の2第1項の「規定による記載があるとき」に該当しなければならないところ、上記(2)のハのとおり、本件財産債務調書には、同項の規定による記載はないから、軽減措置は適用されない。
     よって、請求人の主張には、理由がない。

(4) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(2)のロ及びハのとおり、本件過少申告加算税の計算においては、本件E株式及び本件G債券の譲渡に係る上場株式等の譲渡所得等に関して加重措置が適用され、軽減措置は適用されない。
 また、上記1の(4)のホのとおり、本件過少申告加算税の計算において、本件貸付金の利息に係る雑所得に関して加重措置が適用され、軽減措置は適用されないことについては、請求人は争わず、当審判所によっても相当と認められる。
 そして、本件修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 これに基づき、本件過少申告加算税の額を計算すると、本件再変更決定処分の額と同額となる。
 なお、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分のうち過少申告加算税の額〇〇〇〇円を超えない部分(本件再変更決定処分によりその一部が取り消された後のもの)は適法である。

6 結論

 以上のとおり、本件変更決定処分及び本件賦課決定処分のうち過少申告加算税の額〇〇〇〇円を超える部分の取消しを求める審査請求は不適法なものであるから却下することとし、その他の部分に対する審査請求は理由がないから棄却することとする。

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