(令和6年3月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、外国子会社合算税制の基準所得金額の計算上、外国関係会社が子会社から受ける配当等の額があるとして、当該金額を控除して法人税等の連結確定申告等をしたところ、原処分庁が、当該控除した金額は、当該外国関係会社が子会社から受ける配当等の額に該当しないなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令は、別紙1のとおりである。
 なお、別紙1で定義した略語については、以下、本文においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
     請求人は、〇〇〇〇等を営む内国法人であり、請求人の令和2年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度(以下「本件連結事業年度」という。)において、法人税法第2条第12号の6の7に規定する連結親法人であった。
  • ロ K社について
     K社(以下「本件米国法人」という。)は、○○○○等を営み、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)に本店を有する外国法人であり、平成〇年〇月〇日に請求人がその発行済株式の全部を取得し、本件連結事業年度において、請求人がその発行済株式の全部を保有していた。
     なお、本件米国法人は、令和〇年〇月○日付で、L社に商号変更した。
  • ハ M社について
     M社(以下「本件h法人1」という。)は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国領h島(以下「h島」という。)に本店を有する外国法人であり、平成31年1月1日から令和元年12月31日までの事業年度(以下「本件適用対象事業年度」という。)の末日の時点において、本件米国法人がその発行済株式の全部を保有していた。
  • ニ N社について
     N社(以下「本件h法人2」といい、本件h法人2が発行した株式を「本件株式」という。)は、h島に本店を有する外国法人である。
  • ホ P財団について
     P財団(以下「本件オランダ財団」という。)は、オランダ王国(以下「オランダ」という。)に本店を有する外国法人であり、本件米国法人とは資本関係がない。
     本件米国法人の正当な権限を有する代理人は、平成23年6月9日、オランダのi市の公証人の代理人の面前で、本件オランダ財団は「Deed of formation of a Dutch foundation」と題する書面(本件オランダ財団の設立証書。以下「本件設立証書」という。)に定められた条項により統治されなければならない旨宣言するとともに、同日に本件設立証書を作成し効力発生とした。
     本件設立証書の第2条は、要旨次のとおり定めている。
    • (イ) 本件オランダ財団の目的は、1本件株式を保有して管理するために、depositary receipts(以下「本件DR」という。)を対価として本件株式の所有権を取得すること、2本件株式に係る議決権及びその他の権利(以下「議決権等」という。)を行使すること、3本件株式について支払われる配当金及びその他の分配金(以下「配当金等」という。)を受け取り、そのまま本件DRの保有者に対して引き渡すこと及び4適用される管理条項を遵守した上でこれらの目的を達成するためのあらゆる行動をすることである(第2条1)。
    • (ロ) 本件オランダ財団は、本件h法人2及び本件DRの保有者の利益を可能な限り確保するように、本件株式に付与された権利を行使するものとする(第2条2)。
    • (ハ) 本件オランダ財団は、本件h法人2と連携した本件DRのみを発行するものとする(第2条3)。
    • (ニ) 本件オランダ財団の目的に、保有及び管理されている本件株式を処分すること又は担保に供することは含まれず、また、本件オランダ財団は、これらの行為をしてはならない(第2条4)。
  • ヘ ISSUANCE OF DEPOSITARY RECEIPTS AGREEMENTについて
     本件米国法人は、本件オランダ財団との間で、平成23年6月10日を効力発生日として、「ISSUANCE OF DEPOSITARY RECEIPTS AGREEMENT」と題する書面を作成した(以下、当該書面に係る契約を「本件発行契約」という。)。
     本件発行契約は、オランダの法律に準拠して定められ、その前文において、本件設立証書及び後記チの「DEED OF ADOPTION OF TERMS AND CONDITIONS OF ADMINISTRATION」と題する書面(以下「本件管理条項受諾証書」という。)をCorporate Documents(以下「本件会社文書」という。)と定義した上で、要旨次のとおり定めており、本件米国法人は、本件株式の全部を保有していたが、本件発行契約の定めによって、本件株式の全部を本件オランダ財団に対して譲渡し、引換えに本件オランダ財団から本件DRの発行を受けた。
    • (イ) 本件米国法人は、本件株式の全部を保有する(前文A)。
    • (ロ) 本件米国法人は、本件株式の全部を本件オランダ財団に拠出することを希望し、本件オランダ財団は、本件発行契約及び本件会社文書に定めるところに従って、かかる拠出と引換えに、本件DRを本件米国法人に対して発行することを希望する(前文B)。
    • (ハ) 効力発生日において、h島の法律に従い、本件米国法人は本件オランダ財団に本件株式の全部を拠出し移転する(第1条1.1)。
    • (ニ) 本件米国法人から本件株式を取得することと引換えに、本件オランダ財団は、本件株式に相当する本件DRを本件米国法人に対して発行する(第2条2.1)。
    • (ホ) 本件米国法人は、本件会社文書に留意し、本件会社文書を無条件に遵守することを宣誓する(第2条2.2)。
  • ト TRANSFER OF DEPOSITARY RECEIPTS AGREEMENTについて
     本件米国法人、本件h法人1及び本件オランダ財団は、平成23年6月10日を効力発生日として、「TRANSFER OF DEPOSITARY RECEIPTS AGREEMENT」と題する書面を作成した(以下、当該書面に係る契約を「本件移転契約」という。)。
     本件移転契約は、オランダの法律に準拠して定められ、その前文において、本件発行契約と同様に本件会社文書について定めた上で、要旨次のとおり定めており、本件米国法人は、本件移転契約の定めによって、本件DRを本件h法人1に対して移転し、引換えに本件h法人1から普通株式及び優先株式の発行を受けた。
    • (イ) 本件移転契約及び本件会社文書に定めるところに従って、本件米国法人は、本件DRを本件h法人1に移転することを希望し、本件h法人1は、かかる移転と引換えに、普通株式及び優先株式を本件米国法人に対して発行することを希望する(前文B)。
    • (ロ) 本件米国法人は本件h法人1に本件DRを移転し、本件h法人1は、本件DRの取得に同意し、本件DRの完全かつ抵当権設定なしの所有者となる(第1条2.1)。
    • (ハ) 本件h法人1は、本件会社文書に留意し、本件会社文書を無条件に遵守することを宣誓する(第1条2.2)。
  • チ 本件管理条項受諾証書について
     本件オランダ財団、本件h法人1及び本件米国法人のそれぞれの正当な権限を有する代理人は、平成23年6月10日、オランダのi市の公証人の代理人の面前で、本件オランダ財団の正当な権限を有する代理人として、要旨次に掲げる内容を含む管理条項(以下「本件管理条項」という。)を採択することを宣言し、本件米国法人及び本件h法人1が両者に適用される本件管理条項の全ての定めを受諾する旨宣言するとともに、同日に本件管理条項受諾証書を作成し効力発生とした。
     なお、本件管理条項は、オランダの法律に準拠して定められ、本件オランダ財団が本件米国法人に本件DRを発行した直後に、本件移転契約によって本件米国法人は本件h法人1に本件DRを拠出することから、本件h法人1を本件DRの保有者として定義している。
    • (イ) 本件オランダ財団は、管理目的で本件株式の所有権を取得することの対価として、本件株式の全ての経済的利益を表章する本件DRを発行する(第1条1)。
    • (ロ) 本件DRについては、いかなる証券も発行されない(第1条4)。
    • (ハ) 本件オランダ財団は、本件株式に係る全ての配当金等を受領するものとする(第4条1)。
    • (ニ) 本件オランダ財団は、上記(ハ)の配当金等を受領した後直ちに当該配当金等を支払可能な状態にし、本件DRの保有者の指定する口座へ支払うとともに、当該配当金等を受領したことを本件DRの保有者に対して通知するものとする(第4条2)。
    • (ホ) 本件株式に係る議決権等は、法令、本件設立証書及び本件管理条項を遵守した上で、理事会のみを通じて、本件オランダ財団の裁量により行使される(第6条)。
  • リ 本件オランダ財団から本件h法人1に対する支払について
    • (イ) 本件h法人2の100%子会社であるQ社(以下「本件Q法人」という。)は、平成31年1月22日、株主である本件h法人2に対して86,000,000米国ドルの配当を支払うことを決議した。
    • (ロ) 本件h法人2は、平成31年1月22日、株主である本件オランダ財団に対して86,000,000米国ドルの配当(以下「本件配当」という。)を支払うことを決議した。
    • (ハ) 本件Q法人は、上記(イ)及び(ロ)の配当決議日と同日である平成31年1月22日、本件h法人1に対して86,000,000米国ドルを支払った。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件連結事業年度の法人税について、連結確定申告書に別表1−1の「連結確定申告」欄のとおり記載して、提出期限(法人税法第81条の24《連結確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により2月間延長されたもの)までに申告した。
     なお、請求人は、本件連結事業年度の連結確定申告に当たり、本件h法人1は、本件適用対象事業年度において外国子会社合算税制における請求人の特定外国関係会社に該当するとした上で、本件h法人1の基準所得金額の計算上、本件配当に相当する額は措置法施行令第39条の115第1項第4号に規定する子会社から受ける配当等の額に該当するとして控除し、その結果、本件h法人1については、連結所得の金額に加算すべき個別課税対象金額はないものとして申告している。
     また、請求人は、請求人の令和2年1月1日から同年12月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税について、別表1−2の「確定申告」欄のとおり記載して、提出期限(地方法人税法(令和2年法律第8号による改正前のもの)第19条第5項の規定により2月間延長されたもの)までに申告した。
  • ロ S税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、要旨本件適用対象事業年度において、本件h法人1は本件株式を保有しておらず、本件配当に相当する額は、措置法施行令第39条の115第1項第4号に規定する子会社から受ける配当等の額に該当しないため、本件h法人1の基準所得金額の計算において控除することができないなどとして、令和4年7月29日付で、別表1−1及び別表1−2の各「更正処分等」欄のとおり、本件連結事業年度の法人税及び本件課税事業年度の地方法人税の各更正処分(以下、本件連結事業年度の法人税の更正処分を「本件更正処分」といい、本件課税事業年度の地方法人税の更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     なお、請求人は、本件連結事業年度の連結確定申告に当たり、本件Q法人の100%子会社であるT社、U社及びV社(以下、当該3社を併せて「本件外国法人3社」という。)は、本件連結事業年度に対応する各事業年度において、外国子会社合算税制における請求人の外国関係会社に該当するとした上で、これらの法人に係る個別課税対象金額及び個別部分課税対象金額(措置法第68条の90第6項に規定する個別部分課税対象金額をいう。以下同じ。)を算出し、本件連結事業年度の連結所得の金額の計算上益金の額に算入していたところ、原処分庁は、本件更正処分において、これらの法人はいずれも請求人の外国関係会社に該当しないとして、当該益金の額に算入していた金額を本件連結事業年度の連結所得の金額から減算している。
  • ハ 請求人は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、令和4年8月10日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和5年2月22日付で棄却の再調査決定をし、同月28日、請求人に対し、再調査決定書の謄本を送達した。
  • ニ 請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、令和5年3月24日に審査請求をした。

2 争点

 本件配当に相当する額は、本件h法人1の本件適用対象事業年度における基準所得金額の計算上、措置法施行令第39条の115第1項第4号に規定する子会社から受ける配当等の額として控除できるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次の(1)及び(2)の理由から、本件配当に相当する額は、措置法施行令第39条の115第1項第4号に規定する子会社から受ける配当等の額に該当しないことから、本件h法人1の本件適用対象事業年度における基準所得金額の計算上控除することはできない。 次の(1)及び(2)の理由から、本件配当に相当する額は、措置法施行令第39条の115第1項第4号に規定する子会社から受ける配当等の額に該当することから、本件h法人1の本件適用対象事業年度における基準所得金額の計算上控除することができる。
(1) 次の理由から、本件発行契約により成立した法律関係は、法人税法第12条第1項に規定する「信託」には該当しない。 (1) 次の理由から、本件発行契約により成立した法律関係は、法人税法第12条第1項に規定する「信託」に該当し、かつ、受益者等課税信託に該当する。
イ 本件会社文書に記載された内容は、二者以上の法的人格による2個以上の相対立する意思表示の合致(合意)が行われているものではないことから「契約」に該当せず、本件発行契約により成立した法律関係の信託該当性については、本件発行契約の内容により判断するのが相当であるところ、本件発行契約においては、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分その他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨が定められていないことから、信託法上の信託を設定するための要件を満たしているとは認められない。 イ 本件発行契約においては、本件米国法人及び本件オランダ財団の両当事者が、本件会社文書の定めるところに従い、本件米国法人が本件株式を本件オランダ財団に対して拠出し、本件オランダ財団がかかる拠出と引換えに本件米国法人に対して本件DRを発行する旨を合意しており、本件会社文書が「契約」に該当するか否かにかかわらず、その内容は、かかる合意に基づき本件発行契約に取り込まれている。
ロ 仮に、本件会社文書が本件発行契約の合意内容に含まれるとしても、本件設立証書における本件株式の所有権を取得する旨の記載は、本件オランダ財団の設立目的としての記載のみで、信託目的の記載が信託事務の指針となる程度に具体的にされているとはいえず、その他、本件会社文書において、委託者による意思の内容として、信託目的の設定及び受託者としての信託財産管理等の義務が定められていると解すべき記載はない。
 さらに、本件発行契約及び本件移転契約は、取引の当事者、取引の対象を異にする別個の取引であり、両契約には、いずれも請求人が主張する信託の本質的要素を満たし得る定めがあるとは認められない。
ロ 法人税法第12条第1項本文に規定する信託については、信託法上の信託と同義に解すべきであり、信託法上の信託の本質的要素は、1信託財産の受託者への帰属、2信託目的の設定、3受託者の信託財産管理等の義務の設定であるところ、本件発行契約により成立した法律関係は、次のとおり、上記信託の本質的要素を充足し、法人税法第12条第1項に規定する信託に該当する。
  • (イ) 本件米国法人は、本件発行契約に基づき、本件株式の所有権の取得を設立目的とする本件オランダ財団へ本件株式を移転することで、信託財産たる本件株式を受託者である本件オランダ財団に帰属させている(上記1)。
  • (ロ) 本件設立証書には、本件オランダ財団の目的として、本件株式を保有し管理することを目的として本件株式の所有権を取得すること、本件株式に係る議決権その他の権利を行使すること、本件株式に係る配当等を受領した後これを本件DRの保有者に支払うこと及び適用される管理条件を遵守しつつ、これらの目的を達成するために役立つ一切の行為を行うことが記載されている(上記2)。
  • (ハ) 本件オランダ財団は、本件会社文書に基づき、本件株式に係る権利について、本件h法人2及び本件DRの保有者の利益を可能な限り確保するように行使する義務等を負うこととされている(上記3)。
  ハ さらに、本件発行契約により成立した法律関係は、集団投資信託、退職年金信託、特定公益信託及び法人課税信託のいずれにも該当しないことから、受益者等課税信託に該当する。
(2) 次の理由から、外国子会社合算税制における基準所得金額の計算において、法人税法第12条第1項の規定は適用されない。
  • イ 措置法第68条の90の規定の適用に当たり、内国法人との間に資本関係がなくても、一定のものについては外国関係会社とする旨の規定がある一方、法人税法第12条の規定が措置法第68条の90に適用される旨の明文規定はない。
  • ロ 法人税法第12条第1項は所得の帰属(課税物件の帰属)に関する規定と解されるのに対し、措置法施行令第39条の115第1項各号の規定は、特定外国関係会社の基準所得金額の計算に関する規定であり、同項各号が適用される場面は、法人税法第12条第1項本文及び同条第2項の適用される場面(課税物件の帰属を判定する場面)ではない。
(2) 措置法は、法人税法の特例を設けることについて規定する法律であり(措置法第1条)、一般法と特別法の関係に照らし、特別法たる措置法に矛盾する規定が定められていない限りは、一般法たる法人税法の規定が適用され、外国子会社合算税制の適用において、法人税法第12条第1項の規定は当然に適用される。
 このことは、措置法の所得税に関する特例規定である措置法第5条の2《振替国債等の利子の課税の特例》が、所得税法上の法人税法第12条と同旨の規定である所得税法第13条《信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属》の適用を前提としていることや、同条と措置法の適用関係について判示した大阪高裁平成30年8月24日判決からも明らかである。
 原処分庁の主張は、法人税法及び措置法に関して過去に行われた改正の立法者意思に反するばかりでなく、外国子会社合算税制の形骸化をもたらすものであり、同制度の趣旨に反する不合理なものである。

4 当審判所の判断

(1) 本件発行契約により成立した法律関係が、法人税法第12条第1項に規定する「信託」に該当し、かつ、受益者等課税信託に該当するか否かについて

  • イ 検討
    • (イ) 法人税法第12条第1項に規定する信託の意義
       別紙1の1の(4)のとおり、法人税法第12条第1項本文は、信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する旨規定し、同項ただし書は、集団投資信託、退職年金等信託、特定公益信託等又は法人課税信託の信託財産に属する資産及び負債並びに当該信託財産に帰せられる収益及び費用については、この限りでない旨規定しているが、同法には信託そのものについて定義した規定はない。他方で、信託法第2条第1項は、別紙1の3の(1)のとおり、信託を定義している。
       このように、租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合には、別意に解すべきことが租税法の明文又はその趣旨から明らかな場合は別として、それを私法上におけるものと同じ意義に解するのが法的安定性の確保に資することからすれば、法人税法第12条第1項に規定する信託は、信託法に規定されている信託と同じ意義に解するのが相当である。
    • (ロ) 信託法上の信託の意義
       別紙1の3の(1)のとおり、信託法第2条第1項は、信託とは、同法第3条各号に掲げるいずれかの方法により、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう旨規定し、同(8)のとおり、同条柱書は、信託は、同条各号に掲げる方法のいずれかによってする旨規定した上で、同条第1号は、特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約である信託契約を締結する方法を掲げている。
       そうすると、ある法律関係が信託法上の信託とされるためには、1一定の財産が存在し、当該財産が受託者となるべき特定の者に帰属すること、2その特定の者が達成すべき目的(専らその特定の者の利益を図る目的を除く。)が定められていること及び3その特定の者が、上記2で定められた目的に従って、当該財産につき、管理又は処分及びその他の当該目的の達成に必要な行為をする義務を負うことが定められていることが必要と解され、このような法律関係が、信託法第3条各号に掲げる方法によって生じたものと認められる場合には、信託法上、信託をすることになると解される。
       したがって、外国の私法により決定された法律関係が我が国の信託法上の信託の概念に該当するか否かについては、当該法律関係が上記1ないし3と同等であるか否かによるべきであり、併せて、当該法律関係が信託法第3条各号に掲げる方法によって生じたか否かによるべきである。
    • (ハ) 本件発行契約等における合意内容
       ところで、本件オランダ財団はオランダで設立され(上記1の(3)のホ)、本件発行契約、本件移転契約及び本件管理条項は、いずれもオランダの法律を準拠法として定められている(同ヘないしチ)。そして、本件オランダ財団の本件設立証書は本件米国法人が作成し(上記1の(3)のホ)、本件管理条項は本件オランダ財団、本件h法人1及び本件米国法人により合意されているところ(同チ)、本件米国法人と本件オランダ財団との間で締結された本件発行契約において、本件米国法人は、本件会社文書に留意し、本件会社文書を無条件に遵守することを宣誓する旨が定められており(同ヘ(ホ))、また、本件米国法人、本件h法人1及び本件オランダ財団との間で締結された本件移転契約において、本件h法人1は、本件会社文書に留意し、本件会社文書を無条件に遵守することを宣誓する旨が定められている(同ト(ハ))。
       このことからすれば、本件発行契約及び本件移転契約は、本件設立証書及び本件管理条項の存在が前提となって成立しており、本件発行契約、本件移転契約、本件設立証書及び本件管理条項(以下「本件発行契約等」という。)に定められた内容については、その定められた限りにおいて、本件米国法人、本件h法人1及び本件オランダ財団の間において合意がされたものと認められる。
       したがって、以下においては、本件発行契約等における合意内容に基づき、本件発行契約等により成立した法律関係が上記(ロ)の1ないし3と同等であるか否か、また、当該法律関係が信託法第3条各号に掲げる方法によって生じたか否かについて検討する。
    • (ニ) 我が国の信託法上及び法人税法上の信託の該当性
      • A まず、上記(ロ)の1の「一定の財産が存在し、当該財産が受託者となるべき特定の者に帰属すること」についてみると、本件発行契約においては、本件米国法人は本件オランダ財団に本件株式の全部を拠出し移転し、その引換えとして、本件オランダ財団は本件株式に相当する本件DRを発行する旨が定められており(上記1の(3)のヘの(ロ)ないし(ニ))、同(ホ)のとおり本件米国法人が留意し無条件に遵守するとされている本件設立証書及び本件管理条項にも同様の定めがある(同ホの(イ)及び同チの(イ))。これに加えて、効力発生日において、本件米国法人は、本件発行契約の定めによって、本件株式の全部を本件オランダ財団に対して譲渡し、引換えに本件オランダ財団から本件DRの発行を受けたことからすれば(上記1の(3)のヘ)、一定の財産(本件株式)が存在し、当該財産が受託者となるべき特定の者(本件オランダ財団)に帰属したと認められる。
      • B 次に、上記(ロ)の2の「その特定の者が達成すべき目的(専らその特定の者の利益を図る目的を除く。)が定められていること」についてみると、本件設立証書は、本件オランダ財団の目的として、1本件株式を保有して管理するために本件株式の所有権を取得すること、2本件株式に係る議決権等を行使すること、3本件株式について支払われる配当金等を受け取り、そのまま本件DRの保有者に対して引き渡すことに加え、4適用される管理条項を遵守した上で、その他これらの目的を達成するためのあらゆる行動をすることを掲げる(上記1の(3)のホの(イ))とともに、本件オランダ財団の目的には本件株式を処分すること又は担保に供することは含まない旨定めている(同(ニ))。また、本件設立証書第2条2が、本件オランダ財団は、本件h法人2及び本件DRの保有者の利益を可能な限り確保するように、本件株式に付与された権利を行使するものとする旨定めていること(上記1の(3)のホの(ロ))からすれば、専ら本件オランダ財団の利益を図る目的を定めているとは認められない。
         このような本件設立証書が、本件発行契約又は本件移転契約において、本件米国法人又は本件h法人1が留意し無条件に遵守するとされている(上記1の(3)のヘの(ホ)及び同トの(ハ))ことからすれば、その特定の者(本件オランダ財団)が達成すべき目的(専らその特定の者の利益を図る目的を除く。)は、本件発行契約等により成立した法律関係において定められていると認められる。
      • C さらに、上記(ロ)の3の「その特定の者が、上記2で定められた目的に従って、当該財産につき、管理又は処分及びその他の当該目的の達成に必要な行為をする義務を負うことが定められていること」については、本件設立証書及び本件管理条項によれば、本件オランダ財団は、本件設立証書で定められた目的に従って、本件株式につき、その議決権等を、本件h法人2及び本件DRの保有者の利益を可能な限り確保するように、理事会のみを通じて、本件オランダ財団の裁量により行使する義務(上記1の(3)のホの(ロ)及び同チの(ホ))や、全ての配当金等を受領し、その後直ちに当該配当金等を本件DRの保有者の指定する口座へ支払うとともに、当該配当金等を受領したことを本件DRの保有者に対して通知する義務(同ホの(イ)並びに同チの(ハ)及び(ニ))、そして、適用される管理条項を遵守した上で、その他これらの目的を達成するためのあらゆる行動をする義務(同ホの(イ))を負うとともに、その保有及び管理している本件株式を処分すること又は担保に供することはしてはならないものとされている(同(ニ))。
         したがって、その特定の者(本件オランダ財団)が、本件設立証書で定められた目的に従って、当該財産(本件株式)につき、管理又は処分及びその他の当該目的の達成に必要な行為をする義務を負うことは、本件発行契約等により成立した法律関係において定められていると認められる。
      • D また、上記(ロ)のとおり、信託法第3条柱書及び同条第1号は、信託の方法として、特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(信託契約)を締結する方法を規定するところ、別紙1の3の(9)のとおり、同法第4条第1項は、同法第3条第1号に掲げる方法によってされる信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる旨規定し、信託契約は、この両者の信託の申込みの意思と信託の引受けの意思の合致により効力が生ずることとされている。
         この点、上記Aのとおり、本件発行契約は、本件米国法人が、本件オランダ財団との間で、本件オランダ財団に対し本件株式の全部を拠出し移転する旨定めており、また、上記B及びCのとおり、本件設立証書及び本件管理条項は、本件オランダ財団が本件設立証書で定められた目的に従って本件株式の管理及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨定めていると認められ、また、このような本件発行契約等に定められた内容について、その定められた限りにおいて、委託者となるべき本件米国法人と受託者となるべき本件オランダ財団との間において合意がされた(意思の合致があった)ものと認められることは、上記(ハ)のとおりであるため、本件発行契約等における合意のうち我が国の信託法第3条第1号に規定する内容に当てはまる部分については、同号に規定する契約、すなわち我が国の信託法上の信託契約に相当するものと認められる。
      • E 上記AないしCのとおり、本件発行契約等における合意内容に基づけば、本件発行契約等により成立した法律関係は、上記(ロ)の1ないし3と同等であると認められ、また、上記Dのとおり、当該法律関係は、我が国の信託法上の信託契約に相当する契約を締結する方法によって生じたものと認められることから、当該法律関係は、我が国の信託法上の信託の概念に相当するものと認められ、法人税法第12条第1項に規定する信託に該当するものというべきである(以下、本件発行契約等により成立した法律関係を「本件信託」という。)。
    • (ホ) 我が国の信託法上及び法人税法上の信託財産及び受益者の該当性
       法人税法第12条第1項に規定する「信託財産」及び「受益者」についても、信託法に規定されている概念と同じ意義に解するのが相当であるので、以下において同様に検討する。
      • A 別紙1の3の(3)ないし(5)のとおり、信託法第2条第4項は、委託者とは、同法第3条各号に掲げる方法により信託をする者をいう旨を、同法第2条第5項は、受託者とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう旨規定し、同条第3項は、信託財産とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう旨規定している。
         上記(ニ)のD及びEのとおり、本件発行契約等により成立した法律関係は、我が国の信託法上の信託契約に相当する契約を締結する方法によって生じたものと認められ、同Cのとおり、本件オランダ財団は、本件設立証書及び本件管理条項に従い、本件株式の管理及びその他の当該目的の達成に必要な行為をする義務を負うこととされており、また、同Aのとおり、このような本件株式は、本件米国法人がその全部を拠出し移転することにより本件オランダ財団に帰属したと認められる。
         そうすると、本件信託において、本件米国法人及び本件オランダ財団は、それぞれ我が国の信託法上の委託者及び受託者の概念に相当するものと認められ、本件株式は、我が国の信託法上の信託財産の概念に相当するものと認められる。
      • B また、別紙1の3の(6)及び(7)のとおり、信託法第2条第6項は、受益者とは、受益権を有する者をいう旨規定した上で、同条第7項は、受益権とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権及びこれを確保するために信託法の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう旨規定している。
         上記1の(3)のチの(イ)のとおり、本件DRは、本件株式に係る経済的利益の全てを表章するものであると定められており、本件DRの保有者は、本件オランダ財団から本件株式について支払われる配当金等の引渡しを受ける権利等を有していることから、本件信託において、本件DRは、我が国の信託法上の受益権の概念に相当するものであり、本件DRの保有者は我が国の信託法上の受益者の概念に相当するものと認められる。
      • C 上記A及びBからすれば、本件株式及び本件DRの保有者は、法人税法第12条第1項に規定する信託財産及び受益者に該当するものというべきであり、また、上記1の(3)のトのとおり、本件米国法人は、本件移転契約の定めによって、本件DRを本件h法人1に対して移転したことから、この移転後は、本件h法人1が、本件DRの保有者となり、本件信託における受益者に該当するものと認められる。
    • (ヘ) ただし書信託の該当性
       別紙1の1の(4)のとおり、法人税法第12条第1項は、同項本文を適用する信託の範囲から、集団投資信託、退職年金等信託、特定公益信託等又は法人課税信託といった、ただし書信託を除いている。そこで、次に、本件信託がただし書信託に該当するかについて検討する。  
      • A 集団投資信託の該当性
        • (A) 合同運用信託
           別紙1の1の(2)のイのとおり、法人税法第2条第29号イは、集団投資信託として合同運用信託を掲げ、同(1)のとおり、同条第26号は、合同運用信託とは、信託会社が引き受けた金銭信託で、共同しない多数の委託者の信託財産を合同して運用するもので一定のものをいう旨規定しているところ、上記(ホ)のAのとおり、本件信託において、本件オランダ財団及び本件株式は我が国の信託法上の受託者及び信託財産の概念に相当すると認められるため、信託会社が引き受けた金銭信託には該当せず、また、本件米国法人は我が国の信託法上の委託者の概念に相当すると認められるため、共同しない多数の委託者の信託財産を合同して運用するものにも該当しないことから、本件信託は、合同運用信託には該当しない。
        • (B) 一定の投資信託及び外国投資信託
          • a 別紙1の1の(2)のロのとおり、法人税法第2条第29号ロは、集団投資信託として、投資信託法第2条第3項に規定する投資信託(同条第4項に規定する証券投資信託及びその受託者等による受益権の募集が公募により行われ、かつ、主として国内において行われるものとして政令で定める一定のものに限る。)及び同条第24項に規定する外国投資信託を掲げている。
          • b この点、投資信託法第2条第3項は、投資信託とは、委託者指図型投資信託及び委託者非指図型投資信託をいう旨規定し(別紙1の4の(3))、同条第1項及び第2項は、委託者指図型投資信託及び委託者非指図型投資信託とは、いずれも投資信託法に基づき設定される信託と規定している(同(1)及び(2))ところ、本件信託は、投資信託法に基づき設定されたものではないことから、投資信託法第2条第3項に規定する投資信託には該当しない。
          • c また、投資信託法第2条第24項は、外国投資信託とは、外国において外国の法令に基づいて設定された信託で、投資信託に類するものをいう旨規定しているところ(別紙1の4の(5))、上記bのとおり、同条第3項は、投資信託とは、委託者指図型投資信託及び委託者非指図型投資信託をいう旨規定し(同(3))、同条第1項は、委託者指図型投資信託とは、その受益権を分割して複数の者に取得させることを目的とする信託と(同(1))、同条第2項は、委託者非指図型投資信託とは、受託者が複数の委託者との間に締結する信託契約により受け入れた金銭を、合同して、委託者の指図に基づかず主として有価証券等の特定資産に対する投資として運用することを目的とする信託と規定している(同(2))。
             上記(ニ)のBによれば、本件信託は、複数の者に取得させることを目的とするものとは認められないこと、及び上記(ホ)のAによれば、本件信託は、受託者が複数の委託者との間に締結することを目的とするものとは認められないことから、本件信託は、投資信託に類するものとは認められず、外国投資信託にも該当しない。
          • d 上記aないしcのとおり、本件信託は、法人税法第2条第29号ロに掲げる信託のいずれにも該当しない。
        • (C) 特定受益証券発行信託
           別紙1の1の(2)のハのとおり、法人税法第2条第29号ハは、集団投資信託として、信託法第185条第3項に規定する受益証券発行信託のうち、信託事務の実施につき一定の要件に該当するものであることについて税務署長の承認を受けた法人が引き受けたものであること等一定の要件を満たす信託を掲げているところ、上記(ホ)のAのとおり、本件信託の受託者は、オランダに本店を有する本件オランダ財団であり、本件信託は、同号ハが規定するその納税地の所轄税務署長の承認を受けた法人が引き受けたものではないことから、本件信託は、特定受益証券発行信託には該当しない。
        • (D) 小括
           上記(A)ないし(C)のとおり、本件信託は、法人税法第2条第29号イないしハに掲げる信託のいずれにも該当しないことから、集団投資信託には該当しない。
      • B 退職年金等信託の該当性
         別紙1の1の(5)のとおり、法人税法第12条第4項第1号は、退職年金等信託とは、同法第84条第1項に規定する確定給付年金資産管理運用契約等又はこれらに類する退職年金に関する契約で一定のものに係る信託をいう旨規定しているところ、上記(ニ)のBによれば、本件信託は、退職年金に関する契約に係る信託とは認められないことから、退職年金等信託には該当しない。
      • C 特定公益信託等の該当性
         別紙1の1の(6)のとおり、法人税法第12条第4項第2号は、特定公益信託等とは、同法第37条第6項に規定する特定公益信託及び社債、株式等の振替に関する法律第2条第11項に規定する加入者保護信託をいう旨規定しているところ、特定公益信託は、一定の要件を満たすものであることについて証明がされたことを要件としており、また、同6のとおり、加入者保護信託は、社債、株式等の振替に関する法律の定めるところにより設定された信託とされている。本件信託は、これらの信託のいずれにも該当しないことから、特定公益信託等には該当しない。
      • D 法人課税信託の該当性
         別紙1の1の(3)のとおり、法人税法第2条第29号の2柱書は、法人課税信託とは、同号イないしホに掲げる信託であって、集団投資信託並びに退職年金等信託及び特定公益信託等のいずれにも該当しないものをいう旨規定していることから、以下、法人課税信託の該当性について検討する。
        • (A) 受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託
           別紙1の1の(3)のイのとおり、法人税法第2条第29号の2イは、法人課税信託として、受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託を掲げているところ、上記1の(3)のチの(ロ)のとおり、本件管理条項においては、本件オランダ財団は本件DRについていかなる証券も発行しないと定められていることから、本件信託は、受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託には該当せず、同号イに掲げる信託には該当しない。
        • (B) 法人税法第12条第1項に規定する受益者が存しない信託
           別紙1の1の(3)のロのとおり、法人税法第2条第29号の2ロは、法人課税信託として、同法第12条第1項に規定する受益者が存しない信託を掲げているところ、上記(ホ)のB及びCのとおり、本件DRの保有者は、同項に規定する受益者に該当するものというべきであり、本件信託には受益者が存在することから、本件信託は、同項に規定する受益者が存しない信託には該当せず、同法第2条第29号の2ロに掲げる信託には該当しない。
        • (C) 法人が委託者となる信託で一定のもの
          • a 別紙1の1の(3)のハのとおり、法人税法第2条第29号の2ハは、法人課税信託として、法人が委託者となる信託で、次に掲げる要件のいずれかに該当するものを掲げている。
            • (a) 当該法人の事業の全部又は重要な一部を信託するもののうち一定のもの
            • (b) 信託の効力発生時等において当該法人又は当該法人の特殊関係者が受託者であり、かつ、当該効力発生時等以後のその存続期間が20年を超えるもののうち一定のもの
            • (c) その信託の効力が生じた時において、当該法人又は当該法人の特殊関係者をその受託者と、当該法人の特殊関係者をその受益者とし、かつ、その時において当該特殊関係者に対する収益の分配の割合の変更が可能であるもののうち一定のもの
          • b この点、上記(ホ)のAのとおり、本件信託は、本件株式を信託財産とするものであり、事業を信託するものではないから、上記aの(a)の要件には該当しない。
             また、上記(ホ)のAのとおり、本件信託において、本件オランダ財団は我が国の信託法上の受託者の概念に相当するものと認められるところ、上記1の(3)のホのとおり、本件オランダ財団は、本件米国法人とは資本関係がなく、本件米国法人の特殊関係者には該当しない(別紙1の1の(7))ことから、本件信託は、上記aの(b)及び(c)の各要件にも該当しない。
          • c 上記a及びbのとおり、本件信託は、法人税法第2条第29号の2ハに掲げる要件のいずれにも該当しないことから、同号ハに掲げる信託には該当しない。
        • (D) 投資信託法第2条第3項に規定する投資信託
           本件信託は、上記Aの(B)のbのとおり、投資信託法第2条第3項に規定する投資信託には該当しないことから、集団投資信託として掲げる投資信託同様、法人税法第2条第29号の2ニに掲げる信託にも該当しない。
        • (E) 資産の流動化に関する法律第2条第13項に規定する特定目的信託
           別紙1の7のとおり、資産の流動化に関する法律第2条第13項は、特定目的信託とは、資産の流動化に関する法律の定めるところにより設定された信託である旨規定しているところ、本件信託は、資産の流動化に関する法律に基づき設定されたものではないことから、特定目的信託には該当せず、法人税法第2条第29号の2ホに掲げる信託には該当しない。
        • (F) 小括
           上記(A)ないし(E)のとおり、本件信託は、法人税法第2条第29号の2のイないしホに掲げる信託のいずれにも該当しないことから、法人課税信託には該当しない。
    • (ト) 総括
       上記(イ)ないし(ヘ)のとおり、本件発行契約等により成立した法律関係は、法人税法第12条第1項に規定する「信託」に該当し、かつ、ただし書信託に該当しないため、受益者等課税信託に該当すると認められる。
  • ロ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、1本件会社文書に記載された内容は「契約」に該当せず、本件発行契約により成立した法律関係の信託該当性については、本件発行契約の内容により判断するのが相当であるところ、本件発行契約においては、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分その他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨が定められていないことから、信託法上の信託を設定するための要件を満たしているとは認められない旨、2仮に、本件会社文書が本件発行契約の合意内容に含まれるとしても、本件設立証書における本件株式の所有権を取得する旨の記載は、信託目的の記載が信託事務の指針となる程度に具体的にされているとはいえず、その他、本件会社文書において、委託者による意思の内容として、信託目的の設定及び受託者としての信託財産管理等の義務が定められていると解すべき記載はないことから、本件発行契約及びこれと別個の取引である本件移転契約には、いずれも請求人が主張する信託の本質的要素を満たし得る定めがあるとは認められない旨主張する。
     しかしながら、上記イの(ハ)のとおり、本件発行契約等に定められた内容については、その定められた限りにおいて、本件米国法人、本件h法人1及び本件オランダ財団の間において合意がされたものと認められ、これによれば、同(ニ)のDのとおり、このような本件発行契約等における合意のうち我が国の信託法第3条第1号に規定する内容に当てはまる部分については、我が国の信託法上の信託契約に相当するものと認められ、同Eのとおり、本件発行契約等により成立した法律関係は、法人税法第12条第1項に規定する信託に該当するものと認められる。
     したがって、原処分庁の主張にはいずれも理由がない。

(2) 外国子会社合算税制の適用における法人税法第12条第1項の規定の適用について

  • イ 法令解釈
     法人税法第12条第1項本文は、信託の受益者は、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、法人税法の規定を適用する旨規定している。
     一方、措置法は、第1条において、この法律は、法人税に係る納税義務、課税標準又は税額の計算等につき、法人税法の特例を設けることについて規定するものとする旨規定しており、措置法が規定する法人税法の特例に係る法律関係においては、特別法たる措置法が法人税法に優先して適用されるものの、措置法において法人税法の特例の規定がない法律関係に関しては、一般法たる法人税法の規定が適用されることとなる。
     そこで、法人税に係る納税義務、課税標準又は税額の計算に関する措置法の規定をみると、法人税法第12条第1項本文に規定する信託の信託財産に属する資産及び負債の帰属について特段の規定は定められていない。このことからすれば、法人税に係る納税義務、課税標準又は税額の計算に関する措置法の規定を適用する場合には、法人税法第12条第1項本文の規定の適用により、同項本文に規定する信託の受益者が当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされることは明らかであり、このことは、外国子会社合算税制における基準所得金額を計算する場合においても同様であると解される。
  • ロ 当てはめ
     上記(1)のイの(ト)のとおり、本件発行契約等により成立した法律関係は、受益者等課税信託に該当すると認められ、同(ホ)のCのとおり、本件h法人1は、本件移転契約の効力発生日以降、本件信託の受益者に該当することとなり、法人税法第12条第1項の規定により、本件h法人1は、本件適用対象事業年度において本件信託の信託財産に属する資産である本件株式の全部を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益である本件株式に係る配当は、受益者である本件h法人1の収益とみなして法人税法の規定を適用することとなる。
     このような法律関係は、上記イのとおり、外国子会社合算税制における基準所得金額を計算する場合においても適用されることから、法人税法第12条第1項本文の規定により、受益者である本件h法人1の収益とみなされた本件配当に相当する金額は、措置法施行令第39条の115第1項第4号に規定する子会社から受ける配当等の額に該当し、本件h法人1の本件適用対象事業年度における個別課税対象金額の計算の基礎となる基準所得金額の計算上、控除されることとなる。
  • ハ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、法人税法第12条の規定が措置法第68条の90に適用される旨の明文規定はなく、また、法人税法第12条第1項は所得の帰属に関する規定と解されるのに対し、措置法施行令第39条の115第1項各号の規定は、特定外国関係会社の基準所得金額の計算に関する規定であり、法人税法第12条第1項の適用される場面ではないことから、外国子会社合算税制における基準所得金額の計算において同項の規定は適用されない旨主張する。
     しかしながら、法人税法第12条第1項の規定が措置法第68条の90に適用されるのは上記イのとおりであり、また、措置法施行令第39条の115第1項各号が適用される場面が課税物件の帰属を判定する場面ではないことは、外国子会社合算税制の適用上、法人税法第12条の規定の適用があるとの結論を左右するものではない。
     したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分の適法性について

上記(2)のとおり、本件h法人1は、法人税法第12条第1項本文の規定により、本件信託の信託財産に属する資産である本件株式を有するものとみなされ、かつ、本件株式から生ずる本件配当は、本件h法人1の収益とみなされることから、本件h法人1の本件適用対象事業年度における個別課税対象金額の計算の基礎となる基準所得金額の計算上、本件配当に相当する金額は、措置法施行令第39条の115第1項第4号に規定する子会社から受ける配当等の額に該当するものとみなされ、控除されることとなる。
 また、本件h法人1が本件株式を有するものとみなされたことにより、本件外国法人3社は、本件連結事業年度に対応する各事業年度において請求人の外国関係会社に該当することとなるから、本件外国法人3社に係る個別課税対象金額及び個別部分課税対象金額は、本件連結事業年度の連結所得の金額の計算上益金の額に算入すべきである。
 これらを前提に、当審判所において、請求人の本件連結事業年度の法人税の連結所得の金額及び納付すべき税額並びに本件課税事業年度の地方法人税の課税標準法人税額及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ別表2−1及び別表2−2の「審判所認定額」欄のとおり、いずれも本件各更正処分の額を下回る。
 したがって、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件各更正処分はその一部を取り消すべきであり、これに伴い法人税及び地方法人税に係る各過少申告加算税の基礎となる税額は、それぞれ〇〇〇〇円及び〇〇〇〇円となるところ、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 これを前提として、本件連結事業年度の法人税及び本件課税事業年度の地方法人税の各過少申告加算税の額を計算すると〇〇〇〇円及び〇〇〇〇円となり、いずれも本件各賦課決定処分の額を下回る。
 したがって、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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