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(令和6年3月25日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により取得した取引相場のない株式の価額を財産評価基本通達の定める評価方法により評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該株式の価額を財産評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められるとして、国税庁長官の指示を受けて評価した価額に基づいて更正処分等をしたのに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
関係法令等は、別紙1のとおりである。
なお、別紙1で定義した略語については、以下、本文においても使用する。
(3) 基礎事実
- イ 請求人について
請求人は、〇〇〇〇が経営する○○○○の○○であり、○○○○の不動産管理等を行うJ社(以下「本件会社」という。)の同族株主でもある。 - ロ 相続について
- (イ) 請求人の祖母であり本件会社の代表取締役であるK(以下「本件被相続人」という。)は、平成29年4月18日、○○のため○○○○に入院した。
- (ロ) 本件被相続人は、平成29年5月12日、入院先の○○○○において、平成29年第○○号遺言公正証書による遺言をした。
なお、上記の遺言公正証書には、本件被相続人は、相続開始時に所有する不動産、預貯金及び株式等の金融資産並びに貸付金及び売掛債権等の債権を含む一切の財産全部を、○○○○の○○である請求人に相続させる旨記載されている。 - (ハ) 入院中の本件被相続人は、平成29年7月○日に死亡し、本件被相続人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
- (ニ) 請求人は、本件相続により本件被相続人の所有する財産の全部を取得した。
なお、本件相続に係る財産及び債務には、請求人が取得した本件会社の株式1,084株(以下「本件株式」という。)並びに請求人が承継した本件会社に対する債務(借入金及び未払金)の合計額3,032,050,534円(以下「本件債務」という。)が含まれていた。
- ハ 本件会社について
- (イ) 本件会社は、主に不動産賃貸業を営むとともに、○○○○の運営に関連する事業(いわゆる○○○○)を行う同族会社である。
なお、本件会社の株式については、平成28年12月31日以降、本件相続が開始する直前までの間、筆頭株主の本件被相続人が1,084株、本件被相続人の子であるMが44株、いずれも同人の子(本件被相続人の孫)である請求人、N、P及びQが各々33株を保有し、以上6名による筆頭株主グループで1,260株、議決権割合100%を有していた。 - (ロ) 本件会社は、臨時株主総会決議に基づき、平成29年5月1日、株主である上記(イ)の6名に対し、剰余金の配当として普通株式1株当たり1,000円の配当金相当額を振込送金の方法によって支払った(以下、当該決議に基づく配当金の支払を「本件配当金支払」という。)。
なお、上記の臨時株主総会決議に係る臨時株主総会議事録について、その要旨は別紙2のとおりであり、「議長・議事録作成者」として本件被相続人の記名押印と、「出席取締役」としてMの記名押印があり、その上部には平成29年3月8日と記載されている。 - (ハ) 本件会社は、臨時株主総会決議に基づき、平成29年5月22日、異動年月日を同年3月1日、異動後の事業年度を同年1月1日から同年5月31日まで、すなわち、決算期を12月31日から5月31日に変更したことにより、翌事業年度を同年6月1日から平成30年5月31日までとする旨記載した異動届出書を原処分庁に提出した(以下、当該決議に基づく事業年度の変更を「本件事業年度変更」といい、本件配当金支払と併せて「本件各行為」という。)。
なお、上記の臨時株主総会決議に係る臨時株主総会議事録について、その要旨は別紙3のとおりであり、「議長・議事録作成者」として本件被相続人の記名押印と、「出席取締役」としてMの記名押印があり、その上部には平成29年3月1日と記載されている。
- (イ) 本件会社は、主に不動産賃貸業を営むとともに、○○○○の運営に関連する事業(いわゆる○○○○)を行う同族会社である。
- ニ 国税庁長官の指示を受けて原処分庁が評価した本件株式の価額について
原処分庁は、本件株式を評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められるとして、本件株式の価額を評価通達6の定めにより国税庁長官の指示を受けて評価した。具体的には、原処分庁は、R国税局とS社が締結した令和4年11月7日付の契約書に基づき同社が作成した同年12月23日付の○○○○(以下「本件報告書」という。)を基礎資料として、本件株式の価額を4,063,807,600円(1株当たり3,748,900円)と評価した(以下、原処分庁の評価した本件株式の価額を「原処分庁評価額」という。)。
なお、本件報告書の概要は、別紙4のとおりである。
おって、別紙4で定義した略語については、以下、本文においても使用する。
(4) 審査請求に至る経緯
- イ 請求人は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に別表の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した(以下、当該申告を「本件申告」という。)。
なお、請求人は、本件申告において、本件会社が評価通達178に定める評価上の区分が中会社に当たるとして、評価通達179の(2)の定めに基づき、本件株式の価額を2,131,300,096円(1株当たり1,966,144円)と評価した。
おって、本件申告により提出された相続税の申告書には、分割が確定した取得財産の価額として、土地の計○○○○円、家屋の計○○○○円、有価証券の計○○○○円(うち本件株式2,131,300,096円)、現金及び預貯金の計○○○○円、その他の財産の計○○○○円、合計○○○○円と記載されている。 - ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件株式の価額を原処分庁評価額とし、令和5年5月11日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
- ハ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、令和5年7月3日に審査請求をした。
2 争点
本件更正処分について、本件株式の価額を国税庁長官の指示を受けて評価した価額によるものとすることが、租税法上の一般原則としての平等原則に違反しないか否か、また、原処分庁評価額に合理性があるか否か。
3 争点についての主張
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
(1) 本件各行為は請求人の租税負担の軽減を意図して行われたものであること T銀行が顧客管理システムとして導入している○○○○(以下「〇〇〇〇」という。)に記録された交渉履歴などによれば、 ![]() ![]() ![]() したがって、本件各行為は、請求人の租税負担の軽減を意図して行われたものである。 |
(1) 本件各行為は請求人の租税負担の軽減を意図して行われたものではないこと 本件配当金支払については、別紙2のとおり、会社内部の剰余金の在り方について検討した結果、株主への利益還元を重視し、当期より継続的かつ安定的な配当を行うため、平成29年3月8日の臨時株主総会で決議されたものである。また、本件事業年度変更については、別紙3のとおり、○○○○各社及び個人の決算事務手続の時期が重なることを回避し、経営全般にわたって効率的な事務運営を行うため、同月1日の臨時株主総会で決議されたものである。 したがって、本件各行為は、本件被相続人の容態が悪化する前の平成29年3月中にその実施が決定していたのであるから、請求人の租税負担の軽減を意図して行われたものではない。 なお、○○○○の交渉履歴についてみると、例えば、平成29年5月12日の記録内容は、本件社員税理士が、本件各行為が行われた後に、請求人からその事実を聞き、本件各行為が行われた経緯を本件行員に電話で伝えたものであり、税務知識や状況を把握していない本件行員がかかる経緯を正確に理解することはできないのであるから、同月12日から22日までの間に本件事業年度変更が行われたという原処分庁の主張は事実誤認であり、実際に本件事業年度変更が行われたのは、臨時株主総会で決議した同年3月1日である。 |
(2) 本件各行為が行われたことにより請求人の本件相続税の負担が著しく軽減されたこと 本件各行為が行われたことにより、本件申告における本件株式の価額は約2,131,300,000円及び本件相続税の総額は約○○○○円となったが、本件各行為が行われなければ、評価通達189−2の定めにより評価した本件株式の価額は約3,419,660,000円及び本件相続税の総額は約○○○○円になるから、本件各行為が行われたことによって本件相続税の総額は約○○○○円減少し、請求人の本件相続税の負担が著しく軽減されたといえる。 |
(2) 請求人の本件相続税の負担が軽減されたのは飽くまで本件各行為の結果にすぎないこと 上記(1)のとおり、本件各行為は、請求人の租税負担の軽減を意図して行われたものではないから、事実上、請求人の本件相続税の負担が軽減されたのは飽くまで本件各行為の結果にすぎないというべきである。 |
(3) 原処分庁評価額には合理性があること | (3) 原処分庁評価額には合理性がないこと |
イ 本件会社の株式価値算定業務において時価純資産法を採用したことには合理性があること 本件会社は、非上場の同族経営企業であり、将来の事業計画を作成していないため、DCF法の採用が困難であることに加え、過去4期連続で営業損失を計上しており、超過収益力を有していないことから、本件会社の株式価値算定業務において、企業価値評価ガイドラインに準拠し、時価純資産法を採用したことには合理性がある。 |
イ 本件会社の株式価値算定業務において実務上の簡便法を採用したことには合理性に欠けること 本件報告書において、財産価額評定ガイドラインにおける時価の定義は、企業会計上の時価及び企業会計上の時価ではないが代替的に又は特定的にある価額が含まれており、当該価額については、企業会計上の時価の考え方に大きく反しない範囲で実務上の簡便法を示したものであると考えられる旨記載されていることからすれば、本件会社の株式価値算定業務において実務上の簡便法を採用したと解され、その算定結果は実態を捉えているとはいえないから、合理性に欠ける。 |
ロ 本件報告書の長期貸付金について帳簿価額を採用したことには合理性があること 請求人は、本件相続の開始以降、本件会社からの地代及び家賃収入から本件債務を着実に返済しており、かつ、返済意思があることを確認した旨記載した○○○○を原処分庁に提出していることに加え、請求人には多額の給与収入があり、本件債務が貸倒れとなる可能性は極めて低いことからすれば、その全額が回収可能であるから、本件報告書の長期貸付金について、貸倒見積高を零円とし、帳簿価額を採用したことには合理性がある。 |
ロ 本件報告書の長期貸付金について帳簿価額を採用したことには合理性に欠けること 本件報告書の長期貸付金について、請求人(本件社員税理士)が概算で算出した回収可能価額は約2,395,625,000円となり、帳簿価額である約2,706,469,000円と大きく乖離しているところ、金融商品会計基準によれば、貸付金は債権金額から貸倒見積高を控除した金額とすべきであるから、本件相続の開始時点における時価を算出する上で回収可能性を考慮せず、帳簿価額を採用したことには合理性に欠ける。 |
(4) まとめ 上記(1)及び(2)の事情の下においては、本件株式の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが、本件各行為のような行為をせず、又はすることができない他の納税者と請求人との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであり、合理的な理由があるから、本件株式の価額を国税庁長官の指示を受けて評価した価額によるものとすることは、租税法上の一般原則としての平等原則に違反するとはいえない。また、上記(3)のとおり、原処分庁評価額には合理性があるから、これに基づいてした本件更正処分は適法なものである。 |
(4) まとめ 上記(1)及び(2)によれば、本件株式の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情はないから、本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、租税法上の一般原則としての平等原則に違反するといえる。また、上記(3)のとおり、原処分庁評価額には合理性がないから、これに基づいてされた本件更正処分は違法なものである。 |
4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
相続税法第22条は、同法第3章において特別の定めのあるものを除くほか、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨定めているところ、ここにいう時価とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
ところで、相続税法(平成31年法律第6号による改正前のもの。)は、地上権及び永小作権の評価(第23条)、定期金に関する権利の評価(第24条、第25条)及び立木の評価(第26条)を除き、財産の評価方法について定めを置いていないところ、課税実務においては、評価通達において財産の価額の評価に関する一般的な基準を定めて、画一的な評価方法によって相続等により取得した財産の価額を評価することとされている。このような方法が採られているのは、相続税等の課税対象である財産には多種多様なものがあり、その客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないため、相続等により取得した財産の価額を上記のような画一的な評価方法によることなく個別事案ごとに評価することにすると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった金額が時価として導かれる結果が生ずることを避け難く、また、課税庁の事務負担が過重なものとなり、課税事務の効率的な処理が困難となるおそれもあることから、相続等により取得した財産の価額をあらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価することとするのが相当であるとの理由に基づくものと解される。このような課税実務は、評価通達の定める評価方法が相続等により取得した財産の取得の時における適正な時価を算定する方法として合理的なものであると認められる限り、納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税といった租税法律関係の確定に際して求められる種々の要請を満たし、国民の納税義務の適正な履行の確保(国税通則法第1条、相続税法第1条)に資するものとして、相続税法第22条の規定の許容するところであると解される。
そして、評価対象の財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有する場合においては、評価通達の定める評価方法が形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いられることによって、基本的には、実質的な租税負担の公平を実現することができるものと解されるのであって、相続税法第22条の規定も租税法上の一般原則としての平等原則を当然の前提としていることに照らせば、特定の納税者あるいは特定の財産についてのみ、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によってその価額を評価することは、原則として許されないものというべきである。すなわち、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。
もっとも、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。
(2) 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
- イ 評価通達の定める方法により評価した本件株式の価額等について
本件株式の価額を評価通達179の(2)の定める方法により評価すると、本件株式の価額は2,131,300,096円となり、その結果、本件相続税に係る課税価格の合計額は○○○○円及び本件相続税の総額は○○○○円になる。
なお、仮に、本件各行為が行われなければ、本件会社は比準要素数1の会社となり、評価通達189−2の定める方法により評価した本件株式の価額は3,419,668,784円及び本件相続税に係る課税価格の合計額は○○○○円となり、本件相続税の総額は○○○○円になる。 - ロ ○○○○の交渉履歴について
T銀行の行員は、○○銀行の業務の遂行上、顧客との面談ないし電話応答の内容について、その要旨を○○○○の交渉履歴に記録することとされていた。請求人が○○を務める○○〇〇(○○○○)及び本件会社は○○銀行の顧客であり、本件相続が開始する平成29年当時の○○銀行の○○支店及び○○支店において、○○支店の支店長であったY(以下「本件支店長」という。)、○○支店の副支店長であったZ(以下「本件副支店長」という。)及び本件行員は、請求人その他関係人との面談等の内容の要旨を○○○○の交渉履歴に記録していた。
なお、本件行員は、M&A、事業承継、海外展開支援等、様々な業務に取り組む組織として○○銀行○○支店に創設された○○○○に平成27年4月創設当初から数年間所属しており、本件相続が開始する平成29年当時も○○支店に勤務していた。 - ハ 本件会社と本件税理士法人との間の委嘱契約等について
- (イ) 本件会社は、本件税理士法人との間で、不動産譲渡シミュレーション、不動産譲渡の実行手続支援及び株式評価額の算定に係る業務を委嘱する旨その他委嘱契約の条項を記載した平成29年4月3日付の委嘱契約書を取り交わした。
- (ロ) 本件税理士法人は、上記(イ)の委嘱契約書に係る契約成立の前後において、「○○○○」と題する書面を作成した。
なお、上記の書面の要旨は別紙5のとおりであり、その表紙には、宛名として「K様」と記載されているが、日付は記載されていない。 - (ハ) その後、本件税理士法人は、上記(ロ)の書面とは別に、「○○○○」と題する書面を作成した。
なお、上記の書面の要旨は別紙6のとおりであり、その表紙には、宛名として「K様」、日付は「平成29年5月17日」と記載されている。
- ニ 本件相続に係る相続対策について
上記ロのとおり、○○○○の交渉履歴は、T銀行の行員が顧客との面談等の内容を聴取したとおりに事務的に記録したものと認められる。そして、○○○○の交渉履歴によれば、本件相続に係る相続対策に関し、次の諸事情を認めることができる。このことは、下記(ロ)のA及びB並びに同(ヘ)のA及びBの内容が、本件税理士法人が作成した各「○○○○」(上記ハの(ロ)及び(ハ))に示された内容、すなわち、株式評価額を低くする対策として本件会社の損益状況及び配当状況を整備する必要があること、平成28年12月期の決算書を基礎とした本件会社の株式評価額が約33.9億円であること、本件会社所有の不動産の譲渡を検討していること、という点においておおむね符合することからも裏付けられる。
- (イ) 請求人は、平成29年3月1日、本件副支店長と打合せを行った際に、本件副支店長から、本件会社の代表者に相続の開始があった場合の影響について指摘を受け、本件税理士法人をスポットで紹介する旨の申出を受けた。
- (ロ) 本件支店長及び本件行員は、平成29年3月29日、本件相続に係る相続対策につき、本件税理士法人との連携を視野に入れて、要旨、次のとおりとするスキームの構築に向けて準備を開始した。
- A 手順として、
本件被相続人の遺言書を作成、
本件被相続人及び本件会社所有の各不動産を売却して納税資金を確保、
本件株式を本件相続の開始があった日の翌日から本件相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡といった流れで実施する。
- B 上記Aの
及び
については次年度(平成30年)内で実施し、同
については翌年度(平成31年)中に着手する。
- A 手順として、
- (ハ) 本件社員税理士は、平成29年3月29日、請求人に対し、本件相続に係る相続対策などのスキームを検討していく旨表明した。
- (ニ) 本件社員税理士は、本件被相続人の容態が悪化していることから、本件相続に係る相続対策スキームについて至急取組を開始するため、平成29年4月26日に請求人を往訪した。
- (ホ) M及び請求人は、平成29年5月2日、本件税理士法人の○○事務所において、本件被相続人の遺言書に係る文案を作成した。
- (ヘ) 本件社員税理士と本件行員は、平成29年5月12日、本件相続に係る相続対策のための打合せを行った。
なお、上記の打合せの内容は、要旨、次のとおりである。- A 本件被相続人の所有する財産は全て請求人が相続するものとして、所要の手続及び対策を検討する。
- B 本件会社の株式評価額は、現状33.9億円と高額である。本件会社は、比準要素数1の会社に該当し、評価通達189−2の定めによりいわゆる純資産価額方式によって評価せざるを得ないことが要因である。現状では、本件会社の決算(平成28年12月31日)を跨いでしまっており、当該決算前に配当を実施していれば、株式評価額は相当値下げできた。対策としては、5月に僅かな配当金を出し、決算時期を平成29年5月31日に変更することにより、本件会社は評価通達178に定める「中会社」に該当することとなり、本件株式の価額の計算上、評価通達179の定めによりいわゆる類似業種比準方式を併用することが可能となるが、○○である本件税理士法人の顧問においては、株価引下げを目的とした決算期変更とみなされ否認される可能性が高いとの見解であった。ただし、上記の対策により株式評価額は現状から10億円程度値下がりすることは明らかであり、チャレンジする方向で調整している。
- (ト) 請求人は、平成29年5月17日、本件社員税理士、本件支店長及び本件副支店長と面談し、本件社員税理士が提案した相続対策スキームに係るメリットやリスクについて十分理解した上で、実施可能な事柄につき、請求人、本件税理士法人及びT銀行の三者が一体となって取り組んでいること、及びその方向性を共有化していくことを確認し、これを承諾した。
- (チ) 本件支店長は、平成29年5月19日、○○○○の○○と面談し、本件会社の事業年度終了の要否についての質問に対して、配当実施による株式評価額の基準を変更する可能性を残しておくためのものである旨回答し、その趣旨につき当該○○の理解を得た。
- ホ 本件各行為に係る各々の臨時株主総会の決議等について
- (イ) 上記1の(3)のハの(イ)によれば、本件被相続人、M及び請求人の3名で本件会社の議決権の約92%を有していたところ、この3名が、本件会社の臨時株主総会に出席し、剰余金配当の議案につき賛成の議決権を行使した結果、当該議案は、満場一致で可決された。
なお、上記の臨時株主総会の議事録については、本件社員税理士がその写しの交付を受けた後、議事を終了した時刻の誤記が判明したため、本件会社において再作成されている。 - (ロ) 本件被相続人、M及び請求人の3名は、本件会社の臨時株主総会に出席し、定款(事業年度)変更の議案につき賛成の議決権を行使した結果、当該議案は、満場一致で可決された。
なお、本件会社の事業年度の変更については、過去に本件会社の関与税理士が○○○○の○○に提案したことはあるが、本件事業年度変更については、当該関与税理士に事前の相談はなく、当該関与税理士が事後に当該○○から議事録の写しの交付を受けて初めて知ったものである。
- (イ) 上記1の(3)のハの(イ)によれば、本件被相続人、M及び請求人の3名で本件会社の議決権の約92%を有していたところ、この3名が、本件会社の臨時株主総会に出席し、剰余金配当の議案につき賛成の議決権を行使した結果、当該議案は、満場一致で可決された。
- ヘ 本件債務の返済状況について
請求人及び本件会社は、令和4年7月頃、「○○○○」と題する書面を原処分庁に提出した。
なお、上記の書面には、要旨、次のとおり記載されている。- (イ) 本件相続の開始時点において請求人が有していた本件債務3,032,050,534円については、令和4年5月31日現在、1,977,159,427円の残高があることを請求人及び本件会社の双方が確認した。
- (ロ) 請求人は、上記(イ)の残高について返済意思があることを確認した。
(3) 検討
- イ 本件株式の価額を国税庁長官の指示を受けて評価した価額によるものとすることが、租税法上の一般原則としての平等原則に違反しないか否かについて
- (イ) 請求人の租税負担の軽減の程度について
上記(2)のイのとおり、本件各行為が行われなければ、評価通達189−2の定める方法により評価した本件株式の価額は3,419,668,784円及び本件相続税に係る課税価格の合計額は○○○○円となり、本件相続税の総額は○○○○円であったにもかかわらず、本件各行為が行われたことにより、本件株式の価額を評価通達179の(2)の定める方法により評価すると、本件株式の価額は2,131,300,096円にとどまり、その結果、本件相続税に係る課税価格の合計額は○○○○円及び本件相続税の総額は○○○○円となる。
そうすると、本件各行為が行われたことによって請求人の納付すべき税額は○○○○円減少し、本件各行為が行われなかった場合に比べて約50%もの税額が減少することになることから、請求人の本件相続税の負担は著しく軽減されたといえる。 - (ロ) 請求人の租税負担の軽減の意図について
- A 本件被相続人は、平成29年4月18日に入院した後(上記1の(3)のロの(イ))、同月26日までに容態が悪化し(上記(2)のニの(ニ))、同年5月12日には入院先の○○○○において本件被相続人の所有する財産全部を請求人に相続させる旨の遺言公正証書による遺言をしたところ(上記1の(3)のロの(ロ))、請求人は、本件被相続人の容態が悪化したことを受けて同年4月26日に本件社員税理士の往訪を受け(上記(2)のニの(ニ))、同年5月2日に本件被相続人の遺言書に係る文案を作成していたのであるから(上記(2)のニの(ホ))、近い将来発生することが予想される本件被相続人からの相続により本件株式を含む本件相続に係る財産の全部を取得することを了知していたと認められる。
- B 本件相続に係る相続対策に関する諸事情については、上記(2)のニの(イ)ないし(チ)のとおりであるところ、本件社員税理士は、本件被相続人の容態が悪化していることから、本件相続に係る相続対策スキームについて至急取組を開始するため、平成29年4月26日に請求人を往訪し(上記(2)のニの(ニ))、同年5月12日には本件行員と本件相続に係る相続対策について打合せを行っている(同(ヘ))。一方、請求人は、同年5月17日、本件社員税理士が提案した相続対策スキームに係るメリットやリスクについて十分理解した上で、実施可能な事柄につき、請求人、本件税理士法人及びT銀行の三者が一体となって取り組んでいること、及びその方向性を共有化していくことを確認し、これを承諾したところ(同(ト))、同月12日の本件社員税理士と本件行員との打合せの内容が、本件被相続人の所有する財産の全部を請求人が相続することを前提とした対策及びその手続に関するものであり(同(ヘ)のA)、当該対策の大要が、本件会社が平成29年5月に配当を実施し、かつ、決算時期を同月31日に変更することによって、本件会社の株式評価額を現状の約33.9億円から10億円程度値下げすることにチャレンジするというものであったことからすれば(同(ヘ)のB)、請求人は、本件各行為が行われることにより、本件相続税の負担を減じさせることができること(メリット)を十分理解し、かつ、税務当局に否認されるおそれがあること(リスク)を承知の上、あえてこれにチャレンジすることを承諾したと認められる。
- C このことに加え、上記(2)のホによれば、本件被相続人、M及び請求人は、この3名で本件会社の議決権の約92%を有して本件会社を支配し、臨時株主総会を開催して剰余金配当の議案及び定款(事業年度)変更の議案を満場一致で可決させたと認められることを併せ考慮すると、請求人は、本件各行為が近い将来発生することが予想される本件被相続人からの相続において請求人の相続税の負担を減じさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、本件各行為に係る各々の臨時株主総会を開催し、本件被相続人及びMと意思を相通じて賛成の議決権を行使したと合理的に推認でき、これを覆すに足りる証拠は見当たらない。
- D 以上によれば、本件各行為は、平成29年4月26日までに本件被相続人の容態が悪化したことを受け、その後に本件社員税理士が提案した相続対策スキームに沿って臨時株主総会決議など所要の手続を経て行われたものであると認められるから、別紙2及び別紙3の各臨時株主総会議事録に記載の理由があったとしても、請求人の租税負担の軽減をも意図して行われたものといえる。
- (ハ) 小括
上記(イ)のとおり、本件各行為が行われたことにより、請求人の本件相続税の負担は著しく軽減されたといえ、上記(ロ)のDのとおり、本件各行為は、請求人の租税負担の軽減をも意図して行われたものといえる事情の下においては、本件株式の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが、本件各行為のような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と請求人との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであり、合理的な理由があると認められるから、本件株式の価額を国税庁長官の指示を受けて評価した価額によるものとすることが、租税法上の一般原則としての平等原則に違反するということはできない。 - (ニ) 請求人の主張について
- A 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、本件各行為は、本件被相続人の容態が悪化する前の平成29年3月中にその実施が決定していたのであるから、請求人の租税負担の軽減を意図して行われたものではない旨主張し、これに沿う証拠として、本件各行為に係る各々の臨時株主総会議事録の写し(ただし、本件配当金支払に係る臨時株主総会議事録については、上記(2)のホの(イ)の再作成される前の議事を終了した時刻に誤記があるもの。)を当審判所に提出している。
しかしながら、上記(ロ)のDのとおり、本件各行為は、平成29年4月26日までに本件被相続人の容態が悪化したことを受けて、その後に行われた各々の臨時株主総会での決議に基づいて行われたものと認められる。
また、上記の証拠の作成経緯についてみると、請求人は、原処分庁の調査において、上記各々の臨時株主総会議事録の作成者は不明であり、そのデータも残っていない旨申述したが、当審判所に対しては、上記各々の臨時株主総会議事録は請求人自身が作成した旨答述し、供述内容を変遷させている。その理由として、請求人は、○○○○を○○○○と誤って表記したことを本件被相続人から指摘された記憶がある旨主張するものの、上記の議事を終了した時刻の誤記や議事録の再作成については何ら言及しない点に疑問が残る。さらに、上記の証拠の内容等についてみると、別紙2のとおり、期末配当の効力発生日を期中の平成29年3月9日とした一方で、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、当該期末配当に係る配当金相当額を同年5月1日に支払ったことや、上記(2)のホの(ロ)のとおり、本件会社の事業年度の変更については、過去に本件会社の関与税理士から提案があったにもかかわらず、本件事業年度変更については、当該関与税理士に事前の相談がなかったことなど不自然な点を指摘することができる。これらの諸点を考慮すると、上記の証拠及び請求人の供述は信用性に疑いを差し挟む余地があるから、本件各行為に係る各々の臨時株主総会が上記各々の臨時株主総会議事録に記載の日時に開催されたとは認めるに足りない。
そして、本件各行為が請求人の租税負担の軽減をも意図して行われたものであることは、上記(ロ)のDのとおりである。 - B また、請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、○○○○の交渉履歴にある平成29年5月12日の記録内容について、本件各行為が行われた後に本件社員税理士が請求人からその事実を聞き、本件各行為が行われた経緯を本件行員に伝えたものであり、税務知識や状況を把握していない本件行員が本件社員税理士から電話で伝えられた本件各行為に至る経緯を正確に理解することはできないのであるから、本件事業年度変更が行われた時期に関する原処分庁の主張は事実誤認であり、本件事業年度変更は臨時株主総会で決議した同年3月1日に行われたものである旨主張する。
確かに、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、本件配当金支払は平成29年5月1日に行われているが、上記Aのとおり、本件各行為に係る各々の臨時株主総会議事録は信用性に疑いを差し挟む余地があるから、当該臨時株主総会議事録に記載の日時に各々の臨時株主総会が開催されたとは認めるに足りないことに加え、上記(ロ)のBのとおり、同月12日に本件社員税理士と本件行員との間で○○○○の交渉履歴にある打合せが行われ、その後の同月17日に、請求人は、本件各行為が行われることにより本件相続税の負担を減じさせることができることを十分理解した上で本件各行為にチャレンジすることを承諾したと認められることからすると、本件事業年度変更は、同月12日より後に行われたと認められる。
また、上記(2)のロのとおり、本件行員は、T銀行の○○○○に平成27年4月から数年間所属しており、M&A、事業承継、海外展開支援等、様々な業務に取り組んでいたことからすれば、税務知識も相当程度有していると推認できるし、同ニのとおり、○○○○の交渉履歴は、○○銀行の行員が顧客との面談等の内容を聴取したとおりに事務的に記録したものと認められるから、その記録の内容が本件各行為に至る経緯を正確に表していないとはいえない。 - C したがって、上記A及びBの請求人の主張にはいずれも理由がない。
- A 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、本件各行為は、本件被相続人の容態が悪化する前の平成29年3月中にその実施が決定していたのであるから、請求人の租税負担の軽減を意図して行われたものではない旨主張し、これに沿う証拠として、本件各行為に係る各々の臨時株主総会議事録の写し(ただし、本件配当金支払に係る臨時株主総会議事録については、上記(2)のホの(イ)の再作成される前の議事を終了した時刻に誤記があるもの。)を当審判所に提出している。
- (イ) 請求人の租税負担の軽減の程度について
- ロ 原処分庁評価額に合理性があるか否かについて
- (イ) 本件報告書の概要は、別紙4のとおりであるところ、
DCF法を採用しない理由は、将来の事業計画を作成していないことや過去4期連続で営業損失を計上していることなど、本件会社の実情を踏まえたものとなっており、
類似会社比準法を採用しない理由は、類似の上場企業を選定したとしても、本件会社の利益指標が赤字であることから適切な価値算定を行うことは困難であるなどといったものであって、上場企業に比準する前提となるべき本件会社の実情を踏まえたものであり、これらを踏まえて、会社財務情報に基づき、株式価値を算定することが可能である時価純資産法を採用したというものであって、その算定手法の選定は合理的なものである。
また、採用した時価純資産法の適用に当たっては帳簿価額又は相続税評価額が用いられているところ、相続税評価額は、一般に、特別の事情が認められない限り、相続税法第22条にいう時価を上回らないものと推認されることからすれば、本件報告書に基づく原処分庁評価額は、少なくとも時価を上回るものではないと推認でき、これを覆すに足りる証拠は見当たらない。そして、本件報告書における個別の資産及び負債の時価の検討において、下記(ロ)で述べる長期貸付金も含め不合理と認めるべき点は見当たらない。
以上によれば、原処分庁評価額には合理性があるといえる。 - (ロ) この点について、請求人は、上記3の「請求人」欄の(3)のイ及びロのとおり、本件会社の株式価値算定業務において実務上の簡便法を採用したことや本件会社の長期貸付金について帳簿価額を採用したことには合理性に欠ける旨主張する。
しかしながら、本件報告書において、簡便法というのは、財産価額評定ガイドラインにおいて示された方法についていうものであって、本件報告書における評価方法そのものをいうものではなく、また、その示された方法を参考にしたこと自体が合理性を欠く理由となるものではない。
また、長期貸付金については、上記1の(4)のイのとおり、請求人は、土地、家屋、有価証券、現金及び預貯金並びにその他の財産の合計○○○○円を本件相続により取得し、本件会社からの地代及び家賃収入のほか、○○としての給与収入も見込まれていたのであるから、本件相続の開始時点において本件債務の全部又は一部が回収不能となる可能性は極めて低かったといえる。
なお、上記(2)のヘのとおり、請求人は、本件相続の開始以降、本件債務を着実に返済しており、かつ、返済意思があることを確認した旨記載した「○○○○」を原処分庁に提出していることも踏まえれば、本件報告書において、債務者が本件被相続人及び本件会社に関連する○○〇〇であることから貸倒見積高を零円とした点が不合理であるとまではいえない。
そうすると、請求人の回収可能性に関する主張は、原処分庁評価額が少なくとも時価を上回るものではないとした上記(イ)の推認を覆すものではない。
したがって、上記の請求人の主張には理由がない。
- (イ) 本件報告書の概要は、別紙4のとおりであるところ、
(4) 本件更正処分の適法性について
上記(3)のイの(ハ)のとおり、本件株式の価額を国税庁長官の指示を受けて評価した価額によるものとすることが租税法上の一般原則としての平等原則に違反するということはできず、また、同ロの(イ)のとおり、原処分庁評価額には合理性があるといえる。そして、これを前提に本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、いずれも別表の「更正処分等」欄の金額と同額であると認められる。
なお、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件更正処分は適法である。
(5) 本件賦課決定処分の適法性について
上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。
(6) 結論
よって、審査請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとする。
別表 審査請求に至る経緯(省略)
別紙2 本件配当金支払に係る臨時株主総会議事録の要旨(省略)
別紙3 本件事業年度変更に係る臨時株主総会議事録の要旨(省略)
別紙4 本件報告書の概要(省略)
別紙5 「○○○○」(日付無し)の要旨(省略)
別紙6 「○○○○」(平成29年5月17日付)の要旨(省略)