(令和6年10月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、国外に居住する親族に係る扶養控除の適用を求めて所得税等の更正の請求をしたところ、原処分庁が、請求人と生計を一にすることを明らかにする書類の添付等がない親族に係る扶養控除の適用は認められないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語については、以下、本文においても使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 請求人は、平成29年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、いずれも請求人の兄であり、フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)に居住するE(昭和○年○月○日生)及びF(昭和○年○月○日生)の2名(以下「本件兄ら」という。)に係る扶養控除を適用し、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して令和4年7月28日に申告した。
 なお、請求人は、当該確定申告書に、1請求人の親族ら(本件兄ら及び下記ロの請求人の母、叔母及び姉を含む。)の氏名、生年月日、住所及び請求人との親族関係等を記載した書面、2請求人の母の出生証明書の写し並びに請求人及び本件兄らの洗礼証明書の写し並びに3平成29年分において請求人が本件兄らを受取人として送金を行った旨の送金履歴が記載された書面の写し(以下、「本件送金明細」といい、本件送金明細に記載された送金を「本件送金」という。)を添付していた。
ロ 請求人は、令和5年2月27日、平成29年分の所得税等について、本件兄らに加え、それぞれ請求人の母、叔母及び姉であり、いずれもフィリピンに居住するG(昭和○年○月○日生)、H(昭和○年○月○日生)及びJ(昭和○年○月○日生)の3名(以下、「本件各親族」といい、本件兄らと併せて「本件各国外居住親族」という。)に係る扶養控除の適用が認められるべきであるとして、別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした(以下、この更正の請求を「本件更正請求」といい、本件更正請求に係る更正の請求書を「本件更正請求書」という。)。
 なお、請求人は、本件更正請求書に、1「上訴状」と題する書面、2本件各国外居住親族の氏名、生年月日、住所及び請求人との親族関係等を記載した「ファミリのリスト」と題する書面、3請求人及び本件各国外居住親族の出生証明書の写し又は洗礼証明書の写し並びに4本件送金明細を添付していた。
ハ 請求人は、令和5年9月25日、フィリピンへの出国に伴いBを請求人の所得税及び消費税の納税管理人と定めた「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を原処分庁に提出した。
ニ 原処分庁は、本件更正請求に対し、令和5年10月31日付で、本件更正請求書には本件各親族に係る送金関係書類の添付がないことから、本件各親族に係る扶養控除の適用は認められないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件通知処分に不服があるとして、令和6年1月26日に審査請求をした。

2 争点

 本件更正請求は、通則法第23条第1項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当するか否か。具体的には、請求人の平成29年分の所得税等の計算上、本件各親族に係る扶養控除の適用があるか否か。

3 争点についての主張

請求人 原処分庁
請求人は、本件各親族が高齢や病気により物理的に銀行に行くことができないこと、また、本件各国外居住親族の一人一人に送金するよりも本件各親族と同じ場所に住む本件兄らだけに送金することで銀行送金手数料を節約することができることから、本件兄らにまとめて本件送金をしていたにすぎず、本件送金が、本件各国外居住親族全員の生活費及び医療費に充てることを目的とするものであることは、本件送金の金額及び頻度から明らかである。
 したがって、請求人の平成29年分の所得税等の計算上、本件各親族に係る扶養控除の適用が認められるべきであるから、本件更正請求は、通則法第23条第1項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当する。
本件送金明細は、本件兄らに係る送金関係書類に該当するが、本件各親族に係る送金関係書類には該当しないのであるから、平成29年分において、本件各親族が請求人と生計を一にすることが送金関係書類によって明らかにされたとはいえず、ほかに本件各親族が請求人と生計を一にすることを明らかにする書類の存在を認めるに足る証拠も見当たらないことから、本件各親族は、請求人と生計を一にしていたとは認められない。
 したがって、請求人の平成29年分の所得税等の計算上、本件各親族に係る扶養控除の適用はないから、本件更正請求は、通則法第23条第1項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。

4 当審判所の判断

(1) 検討

イ 所得税法第120条第3項柱書及び同項第2号並びに所得税法施行令第262条第3項本文は、確定申告書に非居住者である親族に係る扶養控除に関する事項の記載をする居住者は、当該親族に係る親族関係書類及び送金関係書類を当該親族の各人別に当該申告書に添付等しなければならない旨規定している。そして、所得税法施行規則第47条の2第6項柱書は、送金関係書類は、1金融機関の書類又はその写しで、当該金融機関が行う為替取引によって当該居住者から国外居住扶養親族に支払をしたことを明らかにするもの、あるいは2クレジットカード等購入あっせん業者の書類又はその写しで同項第2号に規定する内容のもののいずれかであって、確定申告書を提出する居住者がその年において国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払を必要の都度、各人に行ったことを明らかにするものとする旨規定している。
 上記法令の趣旨は、国内に居住している扶養親族については市町村等と国税当局との連携により扶養控除の要件を満たしているかの確認を税務署において行うことができる一方で、国外に居住している扶養親族については事実確認や実態把握が容易であるとはいえない状況にあることを踏まえ、国外に居住している親族に係る扶養控除の適用を受ける際には、確定申告書等に法令で定められた親族関係書類及び送金関係書類の添付等を義務付けるものである。
 そして、所得税基本通達120−8は、国外居住扶養親族に係る扶養控除の適用を受けようとする居住者が一の国外居住扶養親族に対して他の国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払を行った場合における当該支払に係る送金関係書類については、他の国外居住扶養親族に係る送金関係書類に該当しないことを明らかにしたものであり、当審判所においても、かかる取扱いは上記の法令の趣旨に照らして相当であると認められる。
ロ これを本件についてみると、本件送金明細は、上記1の(3)のイのとおり、本件兄らを本件送金の受取人とするものであるから、所得税法施行規則第47条の2第6項に規定する、請求人が本件各親族の生活費又は教育費に充てるための支払を必要の都度、本件各親族の各人に行ったことを明らかにしたものとはいえず、本件各親族に係る送金関係書類であるとは認められない。
 そして、請求人が本件更正請求の際に提出したその他の書類も本件各親族に係る送金関係書類に該当しないことは明らかであるから、請求人は、添付等をすべき本件各親族に係る送金関係書類を本件更正請求書に添付等していないことになる。
 加えて、当審判所の調査によっても、ほかに請求人が本件各親族と生計を一にすることを明らかにする送金関係書類の存在を認めるに足る証拠も見当たらない。
ハ 以上のことから、請求人の平成29年分の所得税等の計算上、本件各親族に係る扶養控除の適用はない。
 したがって、本件更正請求は、通則法第23条第1項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。

(2) 請求人の主張について

 請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、本件各親族が高齢等の事情により物理的に銀行に行くことができないこと、また、本件各国外居住親族の一人一人に送金することによる銀行送金手数料を節約することができることから、本件兄らにまとめて本件送金をしていたにすぎず、本件送金が、本件各国外居住親族全員の生活費及び医療費に充てることを目的とするものであることは明らかであるから、本件各親族に係る扶養控除の適用が認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイのとおり、一の国外居住扶養親族に対して他の国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払を行った場合における当該支払に係る送金関係書類については、他の国外居住扶養親族に係る送金関係書類に該当せず、その例外を認める法令等の規定もないから、請求人が主張するような事情があったとしても、本件送金明細が本件各親族に係る送金関係書類に該当するものではなく、また、その添付等を免れるものではない。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。

(3) 本件通知処分の適法性について

上記(1)のハのとおり、本件更正請求は、通則法第23条第1項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。
 また、本件通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件通知処分は適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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