(令和6年11月1日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、外国子会社合算税制上、請求人の外国関係会社である米国LLCは特定外国関係会社に該当しないとして、その課税対象金額を請求人の所得の金額の計算上益金の額に算入することなく法人税等の申告をしたところ、原処分庁が、当該米国LLCの有する外国法人の株式等の保有割合は25%以上とは認められないことなどから、当該米国LLCは特定外国関係会社に該当するなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
関係法令は、別紙のとおりである。
なお、別紙で定義した略語については、以下、本文においても使用する。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人について
請求人は、○○を営む内国法人である。
ロ E2社について
E2社は、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)に本店を有する外国法人であり、令和元年12月末日及び令和2年12月末日において、その発行済株式の100%を請求人が保有している。
ハ E3社について
E3社は、米国に本店を有する外国法人である。令和元年12月末日及び令和2年12月末日において、E2社はE3社へ資本を拠出しており、E2社によるE3社に対する拠出資本の金額がE3社の拠出資本の総額に占める割合は、100%であった。
ニ E4社について
E4社は、米国に本店を有する外国法人である。令和元年12月末日及び令和2年12月末日において、E3社はE4社へ資本を拠出しており、E3社によるE4社に対する拠出資本の金額がE4社の拠出資本の総額に占める割合は、100%であった。
ホ E5社について
E5社は、米国に本店を有する外国法人である。令和元年12月末日及び令和2年12月末日において、E4社はE5社へ資本を拠出しており、E4社によるE5社に対する拠出資本の金額がE5社の拠出資本の総額に占める割合は、99%であった。
ヘ E6社について
(イ) E6社(以下「本件社員LLC

」という。)は、米国に本店を有する外国法人である。本件社員LLC

の平成31年1月1日から令和元年12月31日まで及び令和2年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「本件社員LLC

令和元年12月事業年度」及び「本件社員LLC

令和2年12月事業年度」といい、併せて「本件社員LLC

各事業年度」という。)の末日において、E5社は本件社員LLC

へ資本を拠出しており、E5社による本件社員LLC

に対する拠出資本の金額が本件社員LLC

の拠出資本の総額に占める割合は、100%であった。
(ロ) 本件社員LLC

は、平成28年9月23日、E7社との間で、米国に本店を有し、米国H州の「Limited Liability Company Act」(以下「LLC法」という。)に基づき設立されたE8社(以下「本件LLC

」という。)における相互の関係及び運用等に関する契約である「LIMITED LIABILITY COMPANY AGREEMENT」(以下「本件LLC

契約」という。)を締結した。
なお、本件LLC

契約に係る契約書(以下「本件LLC

契約書」という。)には、要旨次のとおり定められているが、株式に関する定めや、拠出資本及び持分に係る口数に関する定めはない。
A 本件LLC

の構成員である本件社員LLC

及びE7社は、別表1−1の「当初拠出資本」欄の各金額を拠出し、その拠出割合は、同表の「拠出割合」欄の各割合である。
B 持分とは、本件LLC

契約に定められた本件LLC

の資本に対する構成員の持分、損益に対する構成員の持分、処分に係る損益とその他税項目に対する構成員の持分、分配に対する構成員の持分、構成員の資本勘定及び構成員のその他の権利義務をいう。
C 構成員は、マネージング・メンバーとインベスター・メンバーに分かれており、マネージング・メンバーである本件社員LLC

は、本件LLC

契約に別段の定めがない限り、本件LLC

の日々の運営に係るあらゆる決定を行う。一方、インベスター・メンバーであるE7社は、本件LLC

に係る基本的事項等に係る決定を行う。
また、本件LLC

に係る合併等といった重要事項については、双方のメンバーが決定権を有している。
(ハ) 本件社員LLC

が本件LLC

から受ける利益剰余金を原資とする分配金は、本件社員LLC

令和元年12月事業年度は○○○○米国ドルであり、本件社員LLC

令和2年12月事業年度は○○○○米国ドルであった。
(ニ) 上記(ハ)の各分配金の支払義務確定日以前6月において、本件社員LLC

による本件LLC

に対する拠出資本の金額が本件LLC

の拠出資本の総額に占める割合は、別表1−1の「拠出割合」欄の本件社員LLC

の割合と同一であった。
ト E9社について
E9社は、米国に本店を有する外国法人である。令和元年12月末日及び令和2年12月末日において、E3社はE9社へ資本を拠出しており、E3社によるE9社に対する拠出資本の金額がE9社の拠出資本の総額に占める割合は、100%であった。
チ E10社について
E10社は、米国に本店を有する外国法人である。令和元年12月末日及び令和2年12月末日において、E9社はE10社へ資本を拠出しており、E9社によるE10社に対する拠出資本の金額がE10社の拠出資本の総額に占める割合は、99%であった。
リ E11社について
(イ) E11社(以下「本件社員LLC

」という。)は、米国に本店を有する外国法人である。本件社員LLC

の平成31年1月1日から令和元年12月31日までの事業年度(以下「本件社員LLC

令和元年12月事業年度」という。)の末日において、E10社は本件社員LLC

へ資本を拠出しており、E10社による本件社員LLC

に対する拠出資本の金額が本件社員LLC

の拠出資本の総額に占める割合は、100%であった。
(ロ) 本件社員LLC

は、平成29年7月25日、E12社との間で、米国に本店を有し、LLC法に基づき設立されたE13社(以下「本件LLC

」という。)における相互の関係及び運用等に関する契約である「LIMITED LIABILITY COMPANY AGREEMENT」(以下「本件LLC

契約」という。)を締結した。
なお、本件LLC

契約に係る契約書(以下「本件LLC

契約書」という。)には、要旨次のとおり定められているが、株式に関する定めや、拠出資本及び持分に係る口数に関する定めはない。
A 本件LLC

の構成員である本件社員LLC

及びE12社は、別表1−2の「当初拠出資本」欄の各金額を拠出し、その拠出割合は、同表の「拠出割合」欄の各割合である。
B 持分とは、本件LLC

契約に定められた本件LLC

の資本に対する構成員の持分、損益に対する構成員の持分、処分に係る損益とその他税項目に対する構成員の持分、分配に対する構成員の持分、構成員の資本勘定及び構成員のその他の権利義務をいう。
C 構成員は、マネージング・メンバーとインベスター・メンバーに分かれており、マネージング・メンバーである本件社員LLC

は、本件LLC

契約に別段の定めがない限り、本件LLC

の日々の運営に係るあらゆる決定を行う。一方、インベスター・メンバーであるE12社は、本件LLC

に係る基本的事項等に係る決定を行う。
また、本件LLC

に係る合併等といった重要事項については、双方のメンバーが決定権を有している。
(ハ) 本件社員LLC

が本件社員LLC

令和元年12月事業年度に本件LLC

から受ける利益剰余金を原資とする分配金は、○○○○米国ドルであった。
(ニ) 上記(ハ)の分配金の支払義務確定日以前6月において、本件社員LLC

による本件LLC

に対する拠出資本の金額が本件LLC

の拠出資本の総額に占める割合は、別表1−2の「拠出割合」欄の本件社員LLC

の割合と同一であった。
ヌ E14社について
(イ) E14社(以下「本件社員LLC

」という。)は、米国に本店を有する外国法人である。本件社員LLC

の平成31年1月1日から令和元年12月31日まで及び令和2年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「本件社員LLC

令和元年12月事業年度」及び「本件社員LLC

令和2年12月事業年度」といい、併せて「本件社員LLC

各事業年度」という。)の末日において、E3社は本件社員LLC

へ資本を拠出しており、E3社による本件社員LLC

に対する拠出資本の金額が本件社員LLC

の拠出資本の総額に占める割合は、100%であった。
(ロ) 本件社員LLC

は、平成27年10月1日、E15社、E16社及びE17社(以下、併せて「E17社ら」という。)との間で、米国に本店を有し、LLC法に基づき設立されたE18社(以下「本件LLC

」という。)における相互の関係及び運用等に関する契約である「LIMITED LIABILITY COMPANY OPERATING AGREEMENT」(以下「本件LLC

契約」という。)を締結した。
なお、本件LLC

契約に係る契約書(以下「本件LLC

契約書」という。)には、要旨次のとおり定められているが、株式に関する定めや、拠出資本及び持分に係る口数に関する定めはない。
A 本件LLC

の構成員である本件社員LLC

及びE17社らは、別表1−3の「当初拠出資本」欄の各金額を拠出し、その拠出割合は、同表の「拠出割合」欄の各割合である。
B 持分とは、本件LLC

に対する構成員の権利及び本件LLC

の(又は本件LLC

から受ける)資本、損益、利得、分配、その他のあらゆる経済的利益に係る構成員の権利をいう。
C 各構成員は、スポンサーとインベスター・メンバーに分かれており、スポンサーである本件社員LLC

は、本件LLC

の営業者として、本件LLC

契約に別段の定めがない限り、本件LLC

の業務を運営し、業務及び資産に係る決定権限を有する。一方、合併等といった重要な決定に関しては、原則として、経営委員会が決定権限を有し、スポンサーである本件社員LLC

は、経営委員会の代表者1人を選出する権利を有し、インベスター・メンバーであるE17社らは、経営委員会の代表者2人を選出する権利を有する。
(ハ) 本件社員LLC

が本件LLC

から受ける利益剰余金を原資とする分配金は、本件社員LLC

令和元年12月事業年度は○○○○米国ドルであり、本件社員LLC

令和2年12月事業年度は○○○○米国ドルであった。
(ニ) 上記(ハ)の各分配金の支払義務確定日以前6月において、本件社員LLC

による本件LLC

に対する拠出資本の金額が本件LLC

の拠出資本の総額に占める割合は、別表1−3の「拠出割合」欄の本件社員LLC

の割合と同一であった。
ル E19社について
(イ) E19社(以下「本件社員LLC

」といい、本件社員LLC

、本件社員LLC

及び本件社員LLC

と併せて「本件各社員LLC」という。)は、米国に本店を有する外国法人である。本件社員LLC

の令和2年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件社員LLC

令和2年12月事業年度」といい、本件社員LLC

各事業年度、本件社員LLC

令和元年12月事業年度及び本件社員LLC

各事業年度と併せて「本件各社員LLC各事業年度」という。)の末日において、E10社は本件社員LLC

へ資本を拠出しており、E10社による本件社員LLC

に対する拠出資本の金額が本件社員LLC

の拠出資本の総額に占める割合は、100%であった。
(ロ) 本件社員LLC

は、平成29年6月30日、E20社との間で、米国に本店を有し、LLC法に基づき設立されたE21社(以下「本件LLC

」といい、本件LLC

、本件LLC

及び本件LLC

と併せて「本件各LLC」という。)における相互の関係及び運用等に関する契約である「LIMITED LIABILITY COMPANY AGREEMENT」(以下「本件LLC

契約」という。)を締結した。
なお、本件LLC

契約に係る契約書(以下「本件LLC

契約書」といい、本件LLC

契約書、本件LLC

契約書及び本件LLC

契約書と併せて「本件各LLC契約書」という。)には、要旨次のとおり定められているが、株式に関する定めや、拠出資本及び持分に係る口数に関する定めはない。
A 本件LLC

の構成員である本件社員LLC

及びE20社は、別表1−4の「オリジナル拠出資本」欄の各金額を拠出し、その拠出割合は、同表の「拠出割合」欄の各割合である。
B 持分とは、本件LLC

に対する構成員の所有権を意味し、本件LLC

契約に定める持分の保有者に与えられる一切の権利及び利益並びに本件LLC

契約書の条項等を遵守する義務を含む。
C 構成員は、プライオリティ・メンバーとサブオーディネイティッド・メンバーに分かれており、プライオリティ・メンバーであるE20社は、本件LLC

契約に明示されていることを除き、本件LLC

の業務に関する全ての運営権を有する。一方、合併等といった重要事項に関しては、サブオーディネイティッド・メンバーである本件社員LLC

の書面による承認なしに、プライオリティ・メンバーであるE20社が決定等を行うことはできない。
(ハ) 本件社員LLC

が本件社員LLC

令和2年12月事業年度に本件LLC

から受ける利益剰余金を原資とする分配金は、○○○○米国ドル(以下、上記ヘの(ハ)、リの(ハ)及びヌの(ハ)の各分配金と併せて「本件各分配金」という。)であった。
(ニ) 上記(ハ)の分配金の支払義務確定日以前6月において、本件社員LLC

による本件LLC

に対する拠出資本の金額が本件LLC

の拠出資本の総額に占める割合は、別表1−4の「拠出割合」欄の本件社員LLC

の割合と同一であった。
ヲ 本件各社員LLC各事業年度の末日において、措置法第66条の6第2項第1号イ(1)に規定する居住者等株主等の本件各社員LLCに係る間接保有株式等保有割合は、いずれも50%超であった。
ワ 本件各社員LLC各事業年度の末日において、請求人の本件各社員LLCに係る措置法第66条の6第1項第1号イに掲げる割合は、いずれも10%以上であった。
カ 本件各社員LLCの事務所の所在地は、いずれもE3社の本店所在地内であり、同所在地及びその他の場所に本件各社員LLCが業務を行うためのスペースや机等の備品はない。
ヨ 本件各社員LLCには役員及び従業員は在籍しておらず、本件各社員LLCにおける業務はE3社が行っている。
タ 本件各社員LLCの主たる事業は、いずれも本件各LLCに対する資本の拠出である。
レ 本件各社員LLCの本件各社員LLC各事業年度における収入金額は、いずれも本件各LLCからの剰余金の配当のみであり、また、本件各社員LLCの本件各社員LLC各事業年度の末日における資産は、いずれも本件各LLCに対する拠出資本のみであった。
ソ 本件各LLCは、本件各社員LLC各事業年度の末日において、本件各社員LLCの措置法第66条の6第2項第2号イ(4)に規定する特定子会社に該当しないことから、本件各社員LLCは、同日において、同号イ(4)に掲げる外国関係会社に該当しない。
ツ 本件各社員LLCは、本件各社員LLC各事業年度の末日において、措置法第66条の6第2項第2号イ(5)に掲げる外国関係会社に該当しない。
ネ 本件各社員LLCの本件各社員LLC各事業年度における措置法第66条の6第5項柱書及び同項第1号に規定する租税負担割合は、いずれも21%であった。
(4) 審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成31年4月1日から令和2年3月31日まで及び令和3年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「令和2年3月事業年度」及び「令和3年12月事業年度」といい、併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、それぞれ青色の確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までに申告した。
なお、請求人は、本件各事業年度において、外国子会社合算税制上、本件各社員LLCによる本件各LLCに対する株式等保有割合(以下「本件各保有割合」という。)は各々25%以上であるから、本件各社員LLCは、いずれも措置法第66条の6第2項第2号に規定する特定外国関係会社には該当しないとして、本件各分配金に係る課税対象金額を請求人の所得の金額の計算上益金の額に算入することなく申告した。
また、請求人は、平成31年4月1日から令和2年3月31日まで及び令和3年1月1日から同年12月31日までの各課税事業年度(以下、順次「令和2年3月課税事業年度」及び「令和3年12月課税事業年度」といい、併せて「本件各課税事業年度」という。)の地方法人税について、それぞれ青色の確定申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(地方法人税法第19条《確定申告》第4項(令和2年法律第8号による改正前の同条第5項)の規定により1月間延長されたもの)までに申告した。
ロ J税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件各社員LLCは請求人の特定外国関係会社に該当し、本件各分配金は剰余金の配当として本件各事業年度の基準所得金額に算入されるなどとして、令和5年8月29日付で、別表2及び別表3の各「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、令和5年11月16日、原処分を不服として、審査請求をした。
2 争点
本件各社員LLCは、請求人の特定外国関係会社に該当するか否か。具体的には、本件各保有割合の判定において、「出資の数」又は「議決権のある出資の数」を用いて判定することができるか否か。
3 争点についての主張
原処分庁 |
請求人 |
次の理由により、本件各保有割合の判定において、「出資の数」又は「議決権のある出資の数」を用いて判定することはできず、「出資の金額」を用いて判定することとなる。
そうすると、本件各保有割合はいずれも25%未満であることから、本件各LLCは「外国子会社」に該当せず、本件各社員LLCは、請求人の特定外国関係会社に該当する。
|
次の理由により、本件各保有割合の判定において、「出資の数」又は「議決権のある出資の数」を用いて判定することができる。
そうすると、本件各保有割合はいずれも25%以上であることから、本件各LLCは「外国子会社」に該当し、本件各社員LLCは、請求人の特定外国関係会社に該当しない。
|
(1) 株式等保有割合に係る基準は、多種多様な制度からなる外国法人に対する内国法人の支配力を、画一的に判断するために「株式」又は「出資」に関連付けて判断する簡明な基準であると解される。
また、株式等保有割合の「出資」については、措置法及び措置法施行令に定義を定めた規定がないため、会社法の概念に基づいて解釈すべきであり、「出資」は、社員が会社に対してなすところの「給付」を意味する。
そして、株式等保有割合は、上記のとおり、内国法人の支配力を判定するためのものであるから、「出資の数」も支配力を示し得る数と解すべきところ、「出資の数」の「出資」は、均一の割合的単位に細分化した場合に用いられる概念としての出資口を意味すると解され、そのような数が存在しない場合は、「出資の数」で判定することはできない。
本件各LLC契約書には、均一の割合的単位を示すような出資の口数に関する記載はなく、「出資の数」は存在しないと認められる。
以上のことからすると、本件各保有割合は、「出資の数」で判定することはできない。
|
(1) 株式等保有割合にいう「出資の数」は、株式会社における出資者すなわち株主の地位である株式の個数を意味する「株式の数」と並列的に規定されていること、また、「株式」と「持分」は「出資」という前提行為によって取得される権利義務の総体・地位であることからすれば、株式会社以外の法人における出資者の地位である「持分の個数」を意味する。
次に、LLC法の定めからすれば、契約にLLCの出資者の地位である「持分」を分割した出資口の数に関する定めがなく、かつ、当該「持分」の譲渡がない場合には、当該「持分の個数」はそれを保有する「社員の人数」と同じになるところ、「持分」は、均一の割合的単位に細分化されていなくても、持分単一主義によりその数を観念でき、また、法人の意思決定に関する権限によって支配力を表章するものであるから、その支配力の程度は、「持分の個数」たる「社員の人数」によって判定できる。
以上のことからすると、本件各保有割合は「出資の数」つまり「持分の個数」たる「社員の人数」で判定することができる。
|
(2) 本件各LLC契約書によれば、各構成員は、業務執行に関する管理権限や特定項目についての権利を有しているが、当該各権利は各構成員の立場に基づいて付与されたものであり、出資に関連付けて付与されておらず、議決権のある出資の数又は金額は明文化されていないことから、「議決権のある出資の数又は金額」を観念することができないため、本件各保有割合を「議決権のある出資の数又は金額」で判定することはできない。
|
(2) 本件各LLCは合同会社に類する法人形態であるところ、会社法の規定に、合同会社に係る「議決権」という概念がないにもかかわらず、株式等保有割合が「議決権のある出資の数又は金額」を定めている以上、契約等に議決権が明記されていなくても、「議決権のある出資」の存在が認められると考えるのが合理的かつ自然である。
また、「議決権のある出資の数」が法律的な企業支配力を表章するものであることを前提とすると、過半数などの一定の条件によることなく組織の運営・経営に影響力を及ぼすことができる承認・同意に関する権限の方が、より端的に法律的な企業支配力を表章しているといえる。
そして、本件各LLCの構成員は重要事項について、より端的に法律的な企業支配力を表章する権限を有するとされていることから、本件各LLCの「出資」はそれぞれ「議決権のある出資」であり、本件各社員LLCは「議決権のある出資」を保有しているといえる。
以上のことからすると、本件各保有割合は「議決権のある出資の数」で判定することができる。
|
4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
イ 外国子会社合算税制の対象となる特定外国関係会社について、措置法第66条の6第2項第2号イは、同(1)ないし(5)のいずれにも該当しない外国関係会社は特定外国関係会社に該当する旨規定した上で、同(3)は外国子会社の株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社を掲げているところ、同(3)の委任を受けた措置法施行令第39条の14の3第5項は、外国子会社について、外国法人の発行済株式等のうちの「株式の数」、「株式の金額」、「出資の数」、「出資の金額」、「議決権のある株式の数」、「議決権のある株式の金額」、「議決権のある出資の数」又は「議決権のある出資の金額」のうちに外国関係会社が保有しているこれらの「数」又は「金額」の占める割合である株式等保有割合のいずれかが25%以上であり、かつ、その状態が当該外国関係会社が当該外国法人から受ける剰余金の配当等の額の支払義務が確定する日以前6月以上継続している場合の当該外国法人をいう旨規定している。
そして、外国子会社合算税制の趣旨は、内国法人が、法人の所得に対する租税の負担が著しく低い国等に設立した子会社を利用して経済活動を行うなどして、我が国の租税の負担を回避するような事態を防止することにあり、課税要件の明確性や課税執行面における安定性の確保が重視されているところ、措置法施行令第39条の14の3第5項に規定する株式等保有割合は、外国法人は多種多様な制度から成ることから、外国関係会社の外国法人に対する支配関係を判定するための要件として、外国関係会社が外国法人に対して実質的な支配力を有しているか否かに関わらない簡明な判定基準を定めたものと解される。
ロ この点、株式等保有割合において、「出資」は「株式」と並列的に用いられているところ、「株式」とは、株式会社における社員、すなわち株主としての地位を均等の割合的単位に細分化されたものであることからすれば、株式等保有割合を算定する場合の「出資の数」においても、外国法人に出資を均等の割合的単位に細分化する口数の定めがある場合において、基準として用いることができると解され、このように解することは、外国関係会社による外国法人に対する支配関係を判定するための簡明な判定基準として株式等保有割合を定めたこととも整合する。
ハ また、「議決権のある株式」又は「議決権のある出資」に係る株式等保有割合は、社員総会その他の意思決定機関の決議に参加する権利たる議決権のある株式又は出資の数又は金額による保有割合に係る要件を定めたものと解され、株式等保有割合の規定の構造からすると、措置法施行令第39条の14の3第5項は、議決権のないものも含む全ての株式又は出資の数又は金額による保有割合に係る要件と、議決権のある株式又は出資の数又は金額による保有割合に係る要件を定めたものと解するのが相当である。
(2) 検討
イ LLC法について
LLC法は、その規定において、LLCの構成員による「Contribution(拠出)」は、現金、資産、提供される役務、約束手形、又は現金や資産を拠出したり役務を提供したりするその他の義務であって、構成員としての資格でLLCに拠出されるものをいう旨(18-101条(3))を、「Limited liability company interest(LLCの持分)」とは、LLCの利益と損失に対する構成員の取り分及びLLCの資産の分配を受ける構成員の権利をいう旨(18-101条(10))を、それぞれ定義している。
また、LLC法は、構成員による「voting(議決)」は、頭数、数、経済的持分、階級、グループ又はその他の基準によることができる旨規定している(18-302条(b))。
さらに、LLC法には、拠出の形態や拠出に係る構成員の責任についての規定(18-501条、18-502条)や、持分の譲渡に関する規定(18-702条)はあるものの、持分を口数として均等の割合的単位によって細分化すべきことや、口数に応じて拠出がなされるべきことを定めた規定はない。
ロ 本件各保有割合の判定について
(イ) 「出資の数」について
上記(1)のロのとおり、株式等保有割合の「出資の数」は、外国法人に出資を均等の割合的単位に細分化する口数の定めがある場合において、基準として用いることができると解されるところ、上記イのとおり、LLC法には、拠出や持分に関する規定はあるものの、持分を口数として均等の割合的単位によって細分化すべきことや、口数に応じて拠出がなされるべきことを定めた規定はない。
また、上記1の(3)のへの(ロ)、同リの(ロ)、同ヌの(ロ)及び同ルの(ロ)のとおり、本件各LLC契約書には、本件各LLCの拠出資本及び持分に係る口数に関する定めはなく、LLC法とは異なることとする特段の定めは置いていない。
これらのことからすれば、本件各LLCにおいて、株式等保有割合にいう「出資の数」を観念することはできない。したがって、本件各LLCにおいて、「出資の数」を基準に用いて本件各保有割合を判定することはできない。
(ロ) 「出資の金額」について
上記1の(3)のへの(ロ)のA、同リの(ロ)のA、同ヌの(ロ)のA及び同ルの(ロ)のAのとおり、本件各LLC契約書には、本件各社員LLCが本件各LLCに対して拠出する各金額が定められており、当該各金額は、本件各社員LLCが本件各LLCに対して拠出した「出資の金額」であると認められる。
また、上記1の(3)のへの(ニ)、同リの(ニ)、同ヌの(ニ)及び同ルの(ニ)のとおり、本件各分配金の支払義務確定日以前6月において、本件各社員LLCによる本件各LLCに対する出資の金額が本件各LLCの出資の総額に占める割合は、別表1−1ないし別表1−4の「拠出割合」欄の本件各社員LLCの割合と同一であり、いずれも25%未満であると認められる。
(ハ) 「議決権のある出資の数」及び「議決権のある出資の金額」について
上記(1)のハのとおり、「議決権のある株式」又は「議決権のある出資」に係る株式等保有割合は、社員総会その他の意思決定機関の決議に参加する権利たる議決権のある株式又は出資の数又は金額による保有割合に係る要件を定めたものと解される。
そして、上記イのとおり、LLC法は、構成員による議決は、頭数、数、経済的持分、階級、グループ又はその他の基準によることができる旨規定しており、構成員による議決については、各LLCに係る契約等によって任意に設定できると解されるところ、上記1の(3)のへの(ロ)のC、同リの(ロ)のC、同ヌの(ロ)のC及び同ルの(ロ)のCのとおり、本件各LLC契約書によれば、本件各LLCでは構成員に応じて基本的事項に係る決定権や重要事項に関する決定権が定められているものの、これは飽くまで構成員が有する権利について定めたものであり、社員総会その他の意思決定機関の決議に参加する権利たる議決権に係る定めとはいえず、本件各LLC契約書のほかの条項においても出資に基づく議決権に係る定めがあるとは認められない。
これらのことからすれば、本件各LLCに対する出資は「議決権のある出資」に該当するとは認められず、本件各LLCにおいて、株式等保有割合にいう「議決権のある出資」を観念することはできない。したがって、本件各LLCにおいて、「議決権のある出資の数」及び「議決権のある出資の金額」を基準に用いて本件各保有割合を判定することはできない。
(ニ) 「株式の数」、「株式の金額」、「議決権のある株式の数」及び「議決権のある株式の金額」について
上記1の(3)のへの(ロ)、同リの(ロ)、同ヌの(ロ)及び同ルの(ロ)のとおり、本件各LLC契約書によれば、本件各LLCには株式に関する定めがないため、本件各LLCは株式を発行する法人とは認められないことから、本件各LLCにおいて、「株式の数」、「株式の金額」、「議決権のある株式の数」及び「議決権のある株式の金額」を観念することができず、これらを基準に用いて本件各保有割合を判定することはできない。
(ホ) 小括
以上によれば、本件各保有割合は、「出資の数」又は「議決権のある出資の数」を用いて判定することはできず、「出資の金額」で判定することになる。
ハ 本件各LLCは本件各社員LLCの外国子会社に該当するか否か
上記ロの(ホ)のとおり、本件各保有割合は「出資の金額」で判定することになるところ、同(ロ)のとおり、本件各社員LLCによる本件各LLCに対する「出資の金額」が本件各LLCの出資の総額に占める割合は、いずれも25%未満であると認められるため、本件各保有割合はいずれも25%以上とは認められない。
したがって、本件各LLCは本件各社員LLCの外国子会社には該当しない。
ニ 本件各社員LLCは、請求人の特定外国関係会社に該当するか否か
上記1の(3)のヲのとおり、本件各社員LLC各事業年度の末日において、措置法第66条の6第2項第1号イ(1)に規定する居住者等株主等の本件各社員LLCに係る間接保有株式等保有割合は、いずれも50%超であることから、本件各社員LLCは、請求人の外国関係会社に該当すると認められるとともに、同ワのとおり、請求人の本件各社員LLCに係る同条第1項第1号イに掲げる割合は、いずれも10%以上であることから、請求人は、外国子会社合算税制の適用対象となる内国法人と認められる。
また、本件各社員LLCは、次のとおり、本件各社員LLC各事業年度の末日において、措置法第66条の6第2項第2号イに規定する各要件のいずれにも該当しないことから、本件各社員LLCは、請求人の特定外国関係会社に該当すると認められる。
(イ) 上記1の(3)のカのとおり、本件各社員LLCは、その業務を行うためのスペースや机等の備品を有していないことから、措置法第66条の6第2項第2号イ(1)に規定する主たる事業を行うに必要と認められる固定施設を有している外国関係会社に該当しないと認められる。
(ロ) 上記1の(3)のヨのとおり、本件各社員LLCの業務はE3社が行っていることから、措置法第66条の6第2項第2号イ(2)に規定する本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っている外国関係会社に該当しないと認められる。
(ハ) 上記1の(3)のタのとおり、本件各社員LLCは、それぞれ本件各LLCに対する資本の拠出を主たる事業としており、同レのとおり、その資産は本件各LLCに対する拠出資本のみで、その収入は当該出資に係る剰余金の配当のみと認められるが、上記ハのとおり、本件各LLCは、本件各社員LLCの外国子会社には該当しないため、本件各社員LLCは、措置法第66条の6第2項第2号イ(3)に規定する外国子会社の株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社に該当しないと認められる。
(ニ) 上記1の(3)のソのとおり、本件各LLCは、本件各社員LLCの特定子会社に該当しないと認められるため、本件各社員LLCは、措置法第66条の6第2項第2号イ(4)に規定する特定子会社の株式等の保有を主たる事業とする等の一定の外国関係会社に該当しないと認められる。
(ホ) 上記1の(3)のツのとおり、本件各社員LLCは、措置法第66条の6第2項第2号イ(5)に規定する一定の外国関係会社に該当しない。
(3) 請求人の主張について
請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、株式等保有割合にいう「出資の数」は、株式会社以外の法人における出資者の地位である「持分の個数」を意味し、契約に「持分」を分割した出資口の数に関する別段の定めがなく、かつ、当該「持分」の譲渡がない場合は、当該「持分の個数」はそれを保有する「社員の人数」と同じになるところ、「持分」は、均一の割合的単位に細分化されていなくても、その数を観念できるとともに、法人の意思決定に関する権限によって支配力を表章するものであるから、その支配力の程度は「社員の人数」すなわち「持分の個数」によって判定可能であり、そうすると、本件各保有割合はいずれも25%以上であることから、本件各LLCは外国子会社に該当し、本件各社員LLCは、請求人の特定外国関係会社に該当しない旨主張する。
しかしながら、株式等保有割合にいう「出資の数」については、外国法人に出資を均等の割合的単位に細分化する口数の定めがある場合において、基準として用いることができると解されることは、上記(1)のロのとおりであり、請求人が主張するところの「持分の個数」たる「社員の人数」については、これを「数」として捉えることはできるものの、「出資の数」として株式等保有割合を算定する際の基準として用いることはできないから、請求人の上記主張は採用することができない。
また、上記3の「請求人」欄の請求人のその他の主張は、「出資の数」は「持分の個数」たる「社員の人数」を意味するという請求人の主張を前提とするものであるため、採用することはできない。
したがって、請求人の主張には、いずれも理由がない。
(4) 本件各更正処分の適法性について
上記(2)のニのとおり、本件各社員LLC各事業年度の末日において、本件各社員LLCは請求人の特定外国関係会社に該当し、かつ、上記1の(3)のネのとおり、本件各社員LLCの本件各社員LLC各事業年度における租税負担割合は、いずれも21%であったことから、措置法第66条の6第5項柱書及び同項第1号の規定により、請求人は、本件各事業年度において、本件各社員LLCの本件各社員LLC各事業年度に係る適用対象金額について、外国子会社合算税制の適用を受けることとなる。
これに基づき、当審判所において本件各事業年度の法人税の所得の金額及び納付すべき税額並びに本件各課税事業年度の地方法人税の課税標準法人税額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件各更正処分の額と同額になると認められる。
また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。
(5) 本件各賦課決定処分の適法性について
上記(4)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
そして、当審判所において、請求人の本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税に係る過少申告加算税の額を計算すると、本件各賦課決定処分の額と同額となる。
したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(6) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1−1 本件LLC
の構成員、当初拠出資本及び拠出割合(省略)
別表1−2 本件LLC
の構成員、当初拠出資本及び拠出割合(省略)
別表1−3 本件LLC
の構成員、当初拠出資本及び拠出割合(省略)
別表1−4 本件LLC
の構成員、オリジナル拠出資本及び拠出割合(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(法人税)(省略)
別表3 審査請求に至る経緯(地方法人税)(省略)
別紙 関係法令
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