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(令和7年3月3日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税等の修正申告により新たに納付すべきこととなった消費税等の額を、当該修正申告に係る課税期間と同一年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入して所得税等の修正申告書を提出したところ、原処分庁が、その年において債務の確定しないものは必要経費に算入すべき金額から除かれており、当該年分の必要経費には算入されないとして、所得税等の各更正処分をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
関係法令等は、別紙のとおりである。
なお、別紙で定義された略語については、以下、本文及び別表においても使用する。
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
なお、以下では、所得税及び復興特別所得税を併せて「所得税等」という。また、消費税等の課税期間はその暦年をもって表記する(例えば、令和2年1月1日から同年12月31日までの課税期間を「令和2年課税期間」という。)。
また、請求人は、別表2の「確定申告」欄のとおり記載した令和2年課税期間及び令和3年課税期間(以下「本件各課税期間」という。)の消費税等の各確定申告書並びに令和4年課税期間の消費税等の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
なお、令和2年分の所得税等及び令和2年課税期間の消費税等の法定申告期限は、通則法第11条《災害等による期限の延長》及び国税通則法施行令第3条《災害等による期限の延長》第2項の各規定に基づく令和3年2月15日付国税庁告示第3号により、いずれも同年4月15日とされていた。
なお、本件各課税期間及び令和4年課税期間の消費税等に係る各修正申告書の提出により、新たに納付すべき各消費税等の額は、別表2の各課税期間の「修正申告により新たに納付すべき消費税等の額」欄のとおりであり、本件各年分及び令和4年分の所得税等の各修正申告書には、当該新たに納付すべき各消費税等の額が、それぞれ対応する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されていた(以下、当該新たに納付すべき各消費税等の額のうち本件各年分に係るものを併せて「本件各消費税額」といい、令和4年分に係るものを「令和4年消費税額」という。)。
なお、令和4年分の所得税等については、更正処分をしていない。
2 争点
本件各消費税額は、本件各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できるか否か。
3 争点についての主張
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
次の理由により、本件各消費税額は、本件各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できない。 | 次の理由により、本件各消費税額は、本件各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できる。 |
(1) 所得税法第37条第1項の規定により、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき費用に係る債務の確定時期については、その債務が確定した日を含む年分であると解される。また、所基通37−6は、その年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する国税及び地方税は、その年12月31日までに申告等により納付すべきことが具体的に確定したものとする旨定めている。これらのことからすれば、その年12月31日を超えて提出された申告書により納付すべき税額が確定した国税及び地方税は、当該申告書を提出した日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費として算入されると解するのが相当である。 | (1) 事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき費用に係る債務の確定時期については、修正申告書を提出した時点で判断すべきであるが、下記イ及びロのとおり、債務の確定がなくても事業所得の金額の計算上、必要経費に算入される場合がある。 |
イ 本件個別通達の7ただし書において、未払金に計上した消費税等の額について、未払金に計上した年の事業所得の金額の計算上、必要経費への算入を認めているのは、「申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税等の額」についてであるところ、本件各消費税額は、申告期限後の消費税等の修正申告書の提出により納付すべきこととなったものであり、請求人は、本件各年分の所得税等の確定申告において、本件各消費税額を未払金に計上していない。 したがって、本件各消費税額については、本件各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。 |
イ 本件個別通達の7ただし書において、債務の確定していない消費税等の額について、事業所得の金額の計算上、必要経費への算入を認めている。 |
ロ いわゆる帳端については、例えば、仕入れであれば、請求書の締切日が月末ではない場合、当該締切日以降、年末までの納品済の商品に係る仕入金額をいうものであり、これを当年分の仕入れに計上する経理処理は、年末時点において、既に債務が確定しているからこそ、その代金が未払であったとしても当年分の事業所得の金額の計算上、必要経費として算入が認められるものである。 | ロ 帳端については、債務の確定はないが、その年分の事業所得の金額の計算上、必要経費への算入を認めている。 |
(2) 本件各消費税額は、事業所得を生ずべき業務について生じた費用であるから、必要経費に算入される時期は、所得税法第37条第1項の規定により、その債務が確定した日を含む年分(令和5年分)である。 | (2) 本件各消費税額は、その年中の総収入金額を得るために直接に要した費用であるから、所得税法第37条第1項の規定により、本件各年分の事業所得の金額の計算上、その年分の必要経費に算入すべきである。 |
(3) 本件個別通達の7本文にいう納税申告書とは、通則法第2条第1項第6号の規定のとおり、申告納税方式による国税に関し国税に関する法律の規定により、課税標準や納付すべき税額などを記載した申告書をいうのであるから、納税申告書には修正申告書も含まれると解するのが相当である。 | (3) 本件個別通達の7本文は、消費税等の必要経費算入の時期について、「更正又は決定に係る税額については当該更正又は決定があった日の属する年の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入する。」と定めているところ、修正申告を行った場合については記載がない。 |
(4) 本件各消費税額が、本件各課税期間の消費税等の各修正申告書を提出した日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費になることについては、上記(1)で述べたとおりであり、その結果、当該修正申告書を提出したことが、それを提出した日の属する年分の事業所得の金額に影響を及ぼすとしても、それは当然に法が予定したものといえるのであって、何ら問題はない。 | (4) 本件各消費税額を、消費税等の修正申告書を提出した日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入した場合、当該年分の事業所得の金額に影響を及ぼすこととなる。 したがって、本件各消費税額は本件各課税期間と同一年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべきである。 |
(5) 令和4年分の所得税等については、令和4年消費税額を令和4年分の所得税等の修正申告書に記載された所得金額から除外しても、新たに納付すべき所得税等の額が生じないことから、原処分庁は更正処分を行わなかったにすぎず、令和4年消費税額を令和4年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することを認めたわけではない。 | (5) 原処分庁が、令和4年分の所得税等について更正処分を行っていないことは、すなわち、令和4年消費税額を、令和4年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できることを自認していることになるため、本件各消費税額についても、本件各年分の必要経費に算入すべきである。 |
4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
なお、税込経理方式による経理処理を行う個人事業者の納付すべき消費税等は、所得税法第37条第1項に規定する「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当すると解されるところ、当該消費税等の債務が確定するのは納税申告書の提出時点であるから、本件個別通達の7の定めは、債務確定主義を採用する同項の規定に合致するものである。
(2) 当てはめ
上記(1)のとおり、所得税法第37条第1項の規定は、所得税に係る必要経費の算入時期について、債務が確定していることを要求しており、修正申告書を含む納税申告書に記載された消費税等の税額は、当該申告により具体的に確定し、当該納税申告書が提出された日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することとなると解されるところ、上記1の(3)のニのとおり、請求人は、令和5年12月19日に本件各課税期間に係る消費税等の各修正申告書を提出したのであるから、これによって本件各消費税額について納付すべきことが具体的に確定したといえる。
そうすると、請求人の事業所得の金額の計算上、本件各消費税額を必要経費に算入すべき時期は、請求人が本件各課税期間に係る消費税等の各修正申告書を提出した日の属する令和5年分となる。
したがって、本件各消費税額は、本件各課税期間と同一年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。
(3) 請求人の主張について
しかしながら、本件各年分の事業所得の金額の計算上、本件各消費税額が必要経費に算入されないことについては、上記(2)で説示したとおりである。
また、本件個別通達の7ただし書の定めは、申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税等の額を未払金に計上した場合に認められるところ、上記1の(3)のニのとおり、本件各消費税額は、本件各課税期間に係る消費税等の各修正申告書を法定申告期限後の令和5年12月19日に提出したことにより納付すべきこととなったものであるから、本件個別通達の7ただし書の定めには該当しない。
さらに、帳端は、その年12月31日までに具体的に債務が確定している、すなわち、別紙の3に掲げる3つの要件を全て満たしているからこそ、その代金が未払であったとしても、その年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるものである。
したがって、請求人の主張には理由がない。
しかしながら、別紙の2のとおり、売上原価のように特定の収入との対応関係を明らかにできるもの(総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額)については、それが生み出した収入の帰属する年分の必要経費とすべきであるが、本件各消費税額は、上記(1)のハのとおり、特定の収入との対応関係を明らかにできないもの(その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用)に該当するため、その債務が具体的に確定した令和5年分の必要経費とされるべきである。
したがって、請求人の主張には理由がない。
しかしながら、納税申告書に修正申告書も含まれることは、上記(1)のニのとおりであり、また、本件各消費税額は、令和5年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべきであることについては、上記(2)で説示したとおりである。
したがって、請求人の主張には理由がない。
しかしながら、上記(1)のロのとおり、その年分の必要経費に算入する国税及び地方税は、その年12月31日までに申告等により納付すべきことが具体的に確定したものであるから、同日を過ぎて提出された修正申告書により納付すべき税額が確定した国税及び地方税は、その修正申告書を提出した日の属する年分の必要経費に算入すべきであり、その結果、当該年分の所得金額に影響を及ぼすことになったとしても、上記(1)のイのとおり、所得税法第37条第1項の規定は、債務の確定を要求していることが明らかであるから、請求人の主張には理由がない。
しかしながら、原処分庁が、令和4年分の所得税等について更正処分を行わなかったのは、別表1の「令和4年分」欄のとおり、令和4年消費税額を令和4年分の事業所得の金額の計算上、必要経費から除外したとしても、総所得金額は所得控除額を下回り、新たに納付すべき所得税等の額が発生しないことによるものと認められるから、同年分の更正処分を行っていないことは、上記(2)の判断を左右するものではない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(4) 原処分の適法性について
以上のとおり、本件各消費税額は、本件各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できないことから、それを前提に請求人の本件各年分の所得税等の納付すべき税額を計算すると、いずれも別表1の「更正処分」欄の金額と同額となる。
また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、原処分はいずれも適法である。
(5) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 所得税等の申告等の状況(省略)
別表2 消費税等の申告の状況(省略)