ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 令和7年4月分から6月分 >>(令和7年4月22日裁決)
(令和7年4月22日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、○○○○から○○した金員について、原処分庁が、当該金員は雑所得として課税の対象となり、また、請求人には、当該金員が自らの所得ではないかのように隠蔽又は仮装した事実が認められるとして、所得税等の決定処分及び重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該金員は、当該○○○○に対し○○○として○○する旨の合意が成立しているため雑所得に係る総収入金額に算入すべきでないから、課税の対象となる所得は生じておらず、また、請求人には隠蔽又は仮装の事実はないなどとして原処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
関係法令等は別紙のとおりである。
なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
なお、以下では、所得税と復興特別所得税を併せて「所得税等」という。
請求人は、平成29年2月27日から令和5年9月6日までの間において、以下の方法により、○○○○から金員を○○し、○○により得た金員を○○○○に費消していた。
なお、架空の請求書には、その大半に請求人が作成した本件架空法人を表する印鑑が本件架空法人の社名に併せて押印されており、社印の近くに「○」名義の印鑑が押印されているものもあった(以下、請求人が作成した架空の請求書及び架空の納品書を併せて「本件架空請求書等」という。)。
以下、上記(イ)から(ニ)までの請求人が行った○○及び○○に係る一連の行為を併せて「本件○○等行為」という。
請求人は、平成29年分から令和4年分まで(以下「本件各年分」という。)の所得税等の各確定申告書を、いずれも提出していなかった。
L税務署長所属の調査担当職員(以下、請求人に対して税務調査を行ったL税務署長所属の調査担当職員及び原処分庁所属の調査担当職員を総称して「本件調査担当職員」という。)は、令和5年9月12日、請求人に対する税務調査(以下「本件調査」という。)を開始した。
原処分庁は、令和5年11月17日付で、請求人が、本件各年分において、本件勤務先法人からの給与所得及び本件○○金から生じた雑所得を得ていたほか、令和4年分については○○○○に係る一時所得も得ており、所得税等の各確定申告書を提出する必要があったにもかかわらず、所得税等の各確定申告書を提出していないとして、本件調査の結果に基づいて、請求人に対し、別表2の「決定処分等」欄のとおり、令和3年分の所得税等の決定処分及び重加算税の賦課決定処分並びに令和4年分の所得税等の決定処分、無申告加算税の賦課決定処分及び重加算税の賦課決定処分をするとともに、令和3年分及び令和4年分と同様に本件調査の結果に基づいて、同日付で平成29年分、平成30年分、令和元年分及び令和2年分の所得税等の各決定処分及び重加算税の各賦課決定処分をした。
請求人と本件法人は、令和5年12月22日、○○を原因として、請求人が○○○○に対する本件○○金(○○○○円)の○○○(以下、本件○○金に対する○○○を「本件○○○」という。)の○○について合意し、「合意書」と題する書面を作成した(以下、当該合意を「本件合意」という。)。
原処分庁は、これに対し、令和6年3月28日付で、本件各更正の請求に係る請求内容を全部認容する所得税等の各更正処分及び平成29年分から令和2年分までの所得税等の重加算税の各変更決定処分を行った。
請求人は、令和6年5月14日、上記ヘの(ハ)の再調査決定を経た後の本件各決定処分及び本件各賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。
原処分庁は、これに対し、令和6年10月8日付で、上記の更正の請求に係る請求内容を全部認容する令和3年分の所得税等の更正処分及び重加算税の変更決定処分を行うとともに、令和4年分の所得税等について、寄附金控除を認容した所得税等の更正処分及び重加算税の変更決定処分を行った。
原処分庁は、これに対し、令和6年10月30日付で、上記の更正の請求に係る請求内容を全部認容する所得税等の更正処分及び令和3年分の所得税等の重加算税の変更決定処分を行った。
原処分庁は、これに対し、令和7年1月16日付で、上記更正の請求に係る請求内容を全部認容する所得税等の更正処分及び令和3年分の所得税等の重加算税の変更決定処分を行った。
原処分庁は、これに対し、令和7年3月28日付で、上記の更正の請求に係る請求内容を全部認容する所得税等の更正処分及び令和3年分の所得税等の重加算税の変更決定処分を行った。
2 争点
(1) 本件各○○金は、所得税法第36条第1項に規定する総収入金額に算入すべき金額となるか否か(争点1)。
(2) 本件○○等行為は、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当するか否か(争点2)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(本件各○○金は、所得税法第36条第1項に規定する総収入金額に算入すべき金額となるか否か。)について
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
| 以下のとおり、本件各○○金は、所得税法第36条第1項に規定する総収入金額に算入すべき金額となる。 | 以下のとおり、本件各○○金は、所得税法第36条第1項に規定する総収入金額に算入すべき金額とならない。 |
| イ 所得税は、納税者に経済的利益が発生して担税力が増加したという事実に着目して課せられるものである。ある経済的利益が課税所得に該当するか否かは、専ら経済的に見て利得者が現実にそれを支配管理し、自己のためにそれを享受しているか否かによって判断されるべきものであり、たとえ、経済的利益の発生原因となった行為が違法・無効であるため、これに対応する○○○が発生したとしても、その履行によって経済的利益が失われない限りは課税対象となる所得を構成することになる。
これを本件についてみると、請求人は、本件○○金を○○に費消することで利得を得ていたと認められ、本件○○○のうち、本件各○○金に係る分の○○を行っていないことから、本件各○○金を現実に支配管理し、享受しているといえ、いまだ経済的利益は失われていない。 したがって、本件各○○金は、課税対象となる所得を構成するから、所得税法第36条第1項に規定する総収入金額に算入すべき金額となる。 そして、所得税法第152条及び所得税法施行令第274条は、「無効な行為により生じた経済的成果が、その行為の無効であることに基因して失われた」場合について規定しており、○○○○によって経済的利益が失われたときに更正の請求の対象となることを明らかにしていることから、その行為が無効であっても、○○○○によって経済的成果が失われることがない限り、課税対象となる所得を構成する。 請求人が、本件法人に対して、本件○○○の一部を○○したことは、原処分後の事情であり、原処分当時において、本件各○○金が請求人の課税対象となる所得を構成することに変わりはないから、原処分は適法である。 |
イ ○○行為によって、一時的に得た経済的利益は、その時点では課税対象となるから、本件各○○金は、○○行為を行った時点では課税対象となる。
しかし、本件各○○金は、本件合意により、本件○○○として本件法人に返還されることが確定したため、請求人の課税される所得から除外されるべきものであり、つまり、所得税法第36条第1項に規定する総収入金額に算入すべき金額ではないから、請求人には本件各○○金に係る課税対象となる所得は生じていない。 それにもかかわらず、原処分庁は、請求人の○○による収益の増減について、収益の増加は発生主義で認識する一方で、本件合意により確定した本件○○○については、所得税法が基本とする発生主義や権利確定主義を適用せず、現実に○○した額だけを収益の減少として認識すべきとしているようであるが、これは所得税法第36条の規定に著しく反する。 したがって、本件各○○金は課税対象となる所得を構成しないから、所得税法第36条第1項に規定する総収入金額に算入すべき金額とならない。 そして、請求人は、原処分後において、本件法人に対し、本件○○○について分割で支払を行っているところ、原処分庁は、本件○○○の全部又は一部の○○について、総収入金額の減額に係る更正処分の根拠法令として所得税法第152条及び所得税法施行令第274条を挙げているが、同法において規定する無効及び取消しとは、法律行為に関するものであり、○○行為のような事実行為に適用できる規定ではない。そのため、請求人が本件○○○の○○を行ったとしても請求人から更正の請求をすることは、本来認められるものではなく、通則法第24条《更正》による職権更正を待たざるを得ないという状況となるはずである。 したがって、このような通則法及び所得税法が想定しない事態を招く原処分は違法である。 |
| ロ 本件法人の課税対象は、○○金を取得した請求人に対する○○○○○であり、他方、請求人の課税対象は、○○行為により○○した経済的利益であり、双方とも請求人の○○行為という同一の原因から生じているが、その性質も帰属者も異なるため、二重課税の問題は生じない。
また、何を二重課税とし、排除すべきかは立法政策に委ねられており、請求人が主張するような二重課税を直接禁止する明文規定がない限り、直ちに違法となるものではない。 さらに、本件法人が請求人に対する○○○○○を○○していない段階において、請求人の主張するような事情は、原処分の適法性に影響を及ぼさない。 |
ロ 本件法人は、○○による○○を○○○○しても、請求人に対する○○○○○が○○○○されることにより、実質的には本件各○○金を○○○○○することができず、本件各○○金に相当する金額が法人税の課税標準に含まれている。その上、請求人にも本件各○○金に対する所得税の課税を行うと、同一の経済的事象に二重に課税することとなる。
また、本件法人が請求人に対する○○○○○を○○すると、請求人に○○○○が発生し、○○○○が一時所得として請求人に課税される可能性がある。 これらの二重課税が行われる可能性があることから、原処分は違法又は不当である。 |
(2) 争点2(本件○○等行為は、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当するか否か。)について
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
| 以下のとおり、本件○○等行為は、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する。 | 以下のとおり、本件○○等行為は、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当しない。 |
| イ 請求人は、本件法人の○○として○○○○を○○で行っていた立場を利用し、○○○○から、直接、本件請求人口座へ金員を○○しているものの、本件法人の会計ソフトに製造消耗品費を本件架空法人に支払ったかのような虚偽の仕訳を入力するだけでなく、当該仕訳を基に、これに見合った本件架空法人を発行元として記載した本件架空請求書等を作成し、本件架空請求書等に自ら作成した本件架空法人名の社印を押印するとともに、「○」名義の印鑑を社印の横に押印して担当者が実在するかのように見せかけるなど巧妙な偽計工作を故意に行うことで本件法人の会計帳簿上において、本件○○金に相当する金額が、本件架空法人に対する製造消耗品費の支払として正規に支出されたかのような外形を作出した。
したがって、本件○○等行為により、○○した金員に係る所得の帰属先の把握を困難ならしめ、当該○○金があたかも請求人の所得ではないかのような外形が作出されたと認められるから、本件○○等行為は、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する。 |
イ 請求人は、本件各○○金を全て○○○○から、直接、本件請求人口座に○○していることから、請求人の当該行為は、隠蔽行為でもなく、仮装行為でもない。
また、請求人は、会計ソフトを操作して、本件法人の会計ソフトに架空の取引に基づく仕訳を入力し、本件法人の帳簿に架空の取引を記載しているが、これは○○を行うための行為であって、○○した金員に係る請求人への課税を免れるために行った隠蔽又は仮装の行為ではない。 したがって、本件○○等行為は、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当しない。 |
| ロ さらに、請求人が○○によって○○した金員について申告する意思を有していたとは考え難い上、実際に、請求人は、○○によって、平成29年から令和4年までの6年間にわたって合計○○○○円を超える所得を得ながら、申告を一切していないことから、請求人には、当初から申告する意思がなかったことは明らかである。
そして、本件○○金は、○○○○から、直接、本件請求人口座に○○されているものの、請求人は、○○をした後に、本件法人の会計ソフトに内容虚偽の仕訳を入力し、当該仕訳に対応した本件架空請求書等を作成するなどといった行為に及び、内容虚偽の確定申告書を本件法人に提出させたことにより、本件各○○金が請求人の所得ではないかのような外形を作出させている。これは、請求人に本件各○○金を申告しない意図があったことを外部からもうかがい得る特段の行動といえる。 したがって、本件○○等行為は、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する。 |
ロ 請求人は、本件○○金が請求人の所得になるという認識を有しておらず、言い換えれば、○○した金員は本件法人に○○しなければならないので、申告しないことを意図していたわけではない。
原処分庁が主張する「請求人が本件法人の会計ソフトに内容虚偽の仕訳を入力し、当該仕訳に対応した本件架空請求書等を作成するといった行為」については、請求人が○○をするための行為であり、○○した金員に係る請求人への課税を免れるために行った隠蔽又は仮装の行為ではない。 また、請求人は、本件法人の確定申告書を提出する当事者ではない。 そして、請求人が○○した金員は、本件請求人口座へ○○していることから、○○した金員に係る所得の帰属先の把握を困難ならしめている事実はない。 したがって、本件○○等行為は、申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動とは認められないから、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当しない。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点1(本件各○○金は、所得税法第36条第1項に規定する総収入金額に算入すべき金額となるか否か。)について
所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額について、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とすると規定しており、ここにいう「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」について、所得税基本通達36−1は、その収入の基因となった行為が適法であるか否かを問わない旨定めているところ、所得税法上の課税物件である所得とは、その発生原因が法的に許容されたものであるかどうかを問わず、税法その他法令によって非課税とされていないもので、経済的、実質上の見地から把握して収支計算上利得を構成するものであれば足りると解される。
したがって、法令に禁止された行為に基づく利得であっても、現実にその利得を支配管理し、自己のためにそれを享受している以上、その利得を現実に享受した年分において課税の対象としての所得を構成することとなるから、所得税法第36条第1項に規定する「収入すべき金額」に当たると解され、以上の取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
上記1の(3)のロのとおり、請求人は、平成29年2月27日から令和5年9月6日までの間において、○○○○から本件請求人口座に○○することによって金員を○○し、本件請求人口座に入金された本件○○金を○○○○に費消していたことが認められる。そうすると、請求人は、○○によって現実に本件○○金に係る利得を支配管理し、自己のためにそれを享受したといえるから、本件○○金に係る利得は、それを享受した年分において課税の対象としての所得を構成することとなり、所得税法第36条第1項の収入すべき金額となる。
そして、請求人は、上記1の(3)のヘ及びチのとおり、本件○○○の一部を○○しているものの、本件各○○金に係る部分の金員については○○が履行されていないため、請求人が現実に本件各○○金に係る利得を支配管理し、自己のためにそれを享受している状態に変わりはないと認められることから、本件各○○金は、いまだ課税の対象として所得を構成し、令和3年分及び令和4年分の所得税法第36条第1項に規定する収入すべき金額となる。
なお、本件各○○金に係る利得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないことから、所得税法第35条《雑所得》第1項に規定する雑所得に該当し、請求人の令和3年分及び令和4年分の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべき金額となる。
しかしながら、本件各○○金に係る利得が、請求人の令和3年分及び令和4年分の雑所得の総収入金額に算入されることは上記ロのとおりであり、仮に利得の原因となった事柄につき、○○○が発生した場合であっても、現実に当該○○○を履行しない限り、請求人は、本件各○○金に係る利得を支配管理し、自己のためにそれを享受しているといえる。したがって、本件各○○金は、課税の対象としての所得を構成すると認められ、総収入金額に算入すべき金額となるから、請求人の主張は採用することができない。
また、上記1の(3)のニ及びホのとおり、本件合意の成立は、原処分後にされているところ、原処分の適法性は、処分後に生じた事情に左右されることはないから、この点においても、本件合意の成立を理由として、本件各○○金は、請求人の総収入金額から除外されるべきであるとする請求人の主張は採用することができない。
しかしながら、本件各○○金については、そもそも請求人が○○○○○○であるにもかかわらず、○○によって現にその利得を得ていることに対し課税されるものであるところ、請求人が○○によって得た利得(経済的成果)は、所得税法施行令第274条所定の「無効な行為により生じた経済的成果」にほかならないものである。そして、請求人は、本件法人に対して本件○○金に相当する金額の○○○を負うところ、請求人が、○○○を履行することにより請求人の雑所得の計算の基礎となった事実である○○により生じた経済的成果が失われた場合は、当該事実によって雑所得の金額に異動を生じることとなり、所得税法第152条及び所得税法施行令第274条の規定により更正の請求ができるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
請求人は、
しかしながら、
(2) 争点2(本件○○等行為は、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当するか否か。)について
通則法第68条第2項に規定する重加算税は、同法第66条第1項に規定する無申告加算税に代えて課されるものであるところ、この重加算税の制度は、納税者が法定申告期限までに納税申告書を提出しないことについて隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
したがって、重加算税を課するためには、納税者が法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったことそのものが隠蔽又は仮装に当たるというだけでは足りず、これとは別に、隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせて法定申告期限までに納税申告書が提出されなかったことを要するものである。
そして、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から課税標準等又は税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
請求人は、本件調査担当職員及び再調査審理庁所属の調査担当職員に対し、要旨、以下のとおり申述した。
なお、当該申述に係る各質問応答記録書の問答末尾には、「回答者に対し読み上げ、かつ閲読させたところ、回答者は誤りのないことを確認し、本文末尾及び各頁に署名した」との記載があり、本文末尾及び各頁に設けられた「確認欄」にそれぞれ請求人の署名がある。
上記(イ)及び上記(ロ)の請求人の各申述は、日時の異なる令和5年9月12日及び同月20日の本件調査担当職員からの質問調査において、○○に至る動機、本件○○等行為の内容及び申告しなかった理由等について述べたものであるところ、本件○○等行為を述べる部分は上記1の(3)のロ及び上記ロの(ロ)の客観的事実と整合していること、○○に至る動機及び申告をしなかったこと等を述べる部分については、具体的に理由を示して述べており、特に本件○○金が請求人の所得となることについて、請求人自身の○○を踏まえた申述をしていることが認められ、各申述内容には矛盾がなく理由も自然かつ合理的であることから、当該各申述は信用できるものと認められる。
請求人は、令和6年2月20日の再調査審理庁所属の調査担当職員からの質問調査において、突然の税務調査にパニック状態に陥っており真意ではない回答をした旨(上記(ハ)のA及びB)、真意でないことを言える雰囲気ではなかった旨(上記(ハ)のC)及び真意でないことが分かったのは、代理人からの指摘を受けて気が付いた旨(上記(ハ)のD)を述べ、申告をしなかった理由等(上記(イ)のC及び上記(ロ)のA)を述べた部分についての申述を翻している。
この点について、請求人は、令和6年2月20日の質問調査において、申告をしなかった理由等に係る部分を翻す申述とともに、申告をしなかった理由等を述べた申述(上記(イ)のC及び上記(ロ)のA)以外の申述は、自身の記憶に基づいて自発的に回答した内容で間違いない旨(上記(ハ)のE)をも述べている。そして、上記のとおり、申告をしなかった理由等以外の申述は、具体的かつ矛盾もなく、客観的事実と整合していることからすれば、これらの申述はパニック状態に陥って述べたものとは考え難い。そうすると、申告をしなかった理由等を述べる時だけ、パニック状態に陥ったというのは不自然であるし、パニック状態に陥ったと認められるような客観的な事情も見当たらない。仮に、本件調査が開始された令和5年9月12日にパニック状態に陥って、真意ではない申述をしたとしても、約一週間後の同月20日の質問調査においても、申告をしなかった理由等を述べる点についてだけパニック状態に陥り真意の回答をしなかったというのは不自然である。また、上記のとおり、請求人は、令和5年9月12日及び同月20日の質問調査において作成された各質問応答記録書の内容について、請求人は、誤りがないことを確認し、問答末尾に署名するとともに、各頁の「確認欄」にそれぞれ署名しているところ、請求人は真意ではないことを言える雰囲気ではなかった(上記(ハ)のC)旨申述するが、これらの署名が強制されたものであるなどの事情も認められない。加えて、請求人の申述からすれば、請求人は令和5年9月12日及び同月20日の質問調査において真意ではないことを認識していたにもかかわらず、上記(ハ)のDのとおり、真意でないことを知ったのは、代理人からの指摘を受けたときである旨申述しており、当該請求人の申述は矛盾する。そうすると、令和6年2月20日の上記(イ)のC及び上記(ロ)のAの申告をしなかった理由等についての申述を翻した、上記(ハ)のAから同Dまでの各申述については、信用することができない。
本件は、請求人が本件○○等行為を行った事実についての争いはないところ、本件各○○金を申告しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実の有無に争いがあることから、以下検討する。
請求人は、上記ハの(イ)のC及び上記(ロ)のAのとおり、本件○○金について申告が必要だと認識していた旨、申告をすると○○の事実が○○○○に○○すると思った旨、税金を納めたくなかった旨それぞれ申述しており、上記ハの(ニ)のとおり、当該各申述は信用することができる。そして、一般的にみて、請求人が○○という○○○○によって得た所得を申告する意思を有していたとは考え難い上、実際に、請求人は、本件各年分(6年間)で合計○○○○円を超える所得を得ながら、所得税等の確定申告を一切していなかったことからすれば(上記1の(3)のハ)、請求人には、当初から本件○○金を申告する意図はなかったと認めるのが相当である。
しかしながら、本件○○等行為は、そのいずれかが欠けることによって、請求人が○○○○から金員を○○した事実が容易に○○することとなるところ、請求人は、本件請求人口座を利用して金員を○○し、○○した後において、本件架空仕訳の入力及び本件架空請求書等の作成を行うことにより、金員を○○した事実が○○しないように事後措置を講じていることからすれば、本件○○等行為の各行為は、本件法人による決算確定及び確定申告に結び付き得る一連の行為として把握することが相当である。
請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件各○○金を全て○○○○から、本件請求人口座に○○していること、また、本件法人の会計ソフトに本件架空仕訳を入力したことは、○○が○○しないようにするための行為であって、本件○○金に対する課税を免れるために行った行為ではないこと及び本件○○金は本件法人に○○しなければならないので、申告をしないことを意図していたわけではないから、請求人によるこれらの行為は、通則法第68条第2項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」には該当しない旨主張する。
しかしながら、請求人は、本件○○金が請求人の所得であること及び所得を得れば所得税等の確定申告が必要であることを認識しながら、これを申告しないという意図の下、本件○○等行為を行っていたのであり、この一連の行為が、当初から所得を法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、法定申告期限までに申告をしなかった場合に該当することは、上記ニのとおりである。また、本件合意は、原処分後になされていることから、当該理由が申告をしないことの意図がなかったことの理由にはならない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(3) 本件各決定処分(令和3年分については上記1の(3)のチの(ホ)の更正処分によりその一部が取り消された後のもの、令和4年分については上記1の(3)のチの(イ)の更正処分によりその一部が取り消された後のもの)の適法性について
上記(1)のとおり、本件各○○金は、請求人の令和3年分及び令和4年分の各雑所得に係る総収入金額に算入すべきであり、これを前提として請求人の当該各年分の総所得金額を計算すると、いずれも本件各決定処分の金額と同額となる。そして、本件各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められないから、本件各決定処分はいずれも適法である。
(4) 本件各賦課決定処分(令和3年分については上記1の(3)のチの(ホ)の変更決定処分によりその一部が取り消された後のもの、令和4年分については、上記1の(3)のチの(イ)の変更決定処分によりその一部が取り消された後のもの)の適法性について
上記(3)のとおり本件各決定処分は適法であり、上記(2)のとおり、請求人には通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為が認められる。そして、令和3年分及び令和4年分の所得税等に係る各重加算税の額については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において重加算税の額を計算すると、本件各賦課決定処分の額といずれも同額となるから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(5) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 ○○○○から本件請求人口座への○○状況(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(省略)