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(令和7年9月10日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が保有する取引相場のない同族法人の株式を親族が経営する会社に譲渡する際に、その譲渡価額を訴訟上の和解で成立した価額とし、当該譲渡に係る所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該株式の時価は評価通達の定める原則的な評価方式により算出すべきであり、当該譲渡価額は時価の2分の1に満たないことから、時価で譲渡があったとみなして更正処分等をしたのに対し、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
関係法令等は、別紙のとおりである。
なお、別紙で定義した略語については、以下、本文においても使用する。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
F社の代表取締役は、平成元年9月30日から平成27年12月17日まで請求人の弟であるGが就任していたが、平成27年12月17日付で辞任し、同日付で同人の子(請求人の甥)であるHが就任した。
なお、請求人は、昭和49年11月21日から平成8年9月28日まで及び平成26年12月2日から平成28年12月13日までの間においてF社の取締役を務めていた。
なお、F社は非公開会社であり、創業者である父の親族以外に株式の譲渡が行われた事実はなかった。
上記訴訟については、平成30年12月10日に、請求人らがそれぞれ保有するF社の株式の一部(請求人が20,700株、Jが11,500株)をGが合計○○○○円(1株当たり約○○○○円)で買い受けることなどを内容とする訴訟上の和解が成立し、請求人らは、それぞれ株式の一部をGに譲渡した。
なお、当該譲渡後におけるF社の発行済株式(100,000株)の保有の内訳は、請求人が18,300株、Jが7,500株、Gが73,468株及びその他の親族が732株となった。
(4) 審査請求に至る経緯
なお、請求人は、令和6年12月25日に、当審判所に対し、本審査請求が令和6年11月18日にされたJの審査請求と相互に密接に関係するとして、審査請求を併合して審理することを求める旨の書面を提出したため、当審判所は、国税通則法第104条《併合審理等》第1項に基づき、これらの審査請求について併合審理する。
2 争点
本件株式譲渡は、所得税法第59条第1項第2号に規定する「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当するか否か。
3 争点についての主張
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
| イ 所得税法第59条第1項柱書の「その時における価額」とは、当該譲渡の時における客観的交換価値、すなわち、それぞれの資産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものと解される。 そして、取引相場のない株式については、市場価格が存在しないこと等の理由から、客観的交換価値を算定するに当たっては、所基通59−6に基づき評価することが合理性を有すると解されており、当該通達の評価方法で算定された価額は、その評価方法によってはその客観的交換価値を適正に算定することができない特別の事情がない限り、上記客観的交換価値を超えるものではないと推認される。 なお、本件において、請求人らは、本件和解に従ってK社に本件株式を譲渡しており、所基通59−6に基づき評価することができない特別の事情が存すると判断することはできない。 したがって、合理性を有する所基通及び評価通達に基づき、本件株式の「その時における価額」を評価すると、1株当たり○○○○円となり、本件株式譲渡価額はその2分の1に満たない1株当たり○○○○円であることから、「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当する。 |
イ 所得税法第59条第1項柱書の「その時における価額」の評価に当たっては、「譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきもの」と判断されており(最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決)、原処分庁の主張のように「その時における価額」を、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものと解すことは誤りである。 また、取引相場のない株式の評価に当たって、所基通59−6に従ったというだけでは適法な評価がなされたということはできず、評価通達によることができるのは、評価通達の定める評価方法が支配力の程度に応じた評価方法として妥当性を有する場合に限られるのであり、この妥当性を有する場合とは、単独又は合算して、過半数の議決権を保有することにより会社を支配している株主らの株式を評価する場合である。 しかしながら、本件株式譲渡において、請求人らは、F社の支配株主と厳しく対立し、F社を支配していたということはできず、請求人らの譲渡した本件株式につき、上記通達の定める方法によって評価することは妥当でない。 一方で、本件株式譲渡価額は、請求人らがF社及びその支配株主と厳しく対立した本件訴訟の手続の中で、類似業種比準価額、上記1の(3)のロの(イ)の訴訟での和解における譲渡価額、譲受人側株主らが支払うことのできる金額の限度などを踏まえ、可能な限り交渉を尽くし、担当裁判官の強い勧めもあった結果、合意された価額である。 したがって、具体的な交渉を経た上で種々の経済性を考慮して決定された本件株式譲渡価額は、「譲渡人の会社への支配力の程度」が具現化されたものであり、所得税法第59条第1項の「その時における価額」であることから、「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当しない。 |
| ロ 本件株式譲渡が行われた令和3年9月29日の直前におけるF社の株主はH、請求人ら及びHの配偶者であるNであり、請求人にとって、各株主は民法第725条《親族の範囲》に定める「親族」であることから、評価通達188の(1)及び法人税法施行令第4条第1項第1号に定める「同族関係者」に該当する。 そして、本件株式譲渡前の請求人ら及びその同族関係者が有する議決権数は100%であり、F社の総議決権数の50%を超えることになるから、請求人は、「同族株主」に該当する。 さらに、請求人らは姉妹であり、本件株式譲渡の直前において、請求人らは、F社の議決権総数の25%以上に当たる合計25,800株を保有していることから、評価通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当する。 したがって、本件株式の評価において、所基通59−6の(2)により、評価通達178の定める「小会社」に該当するものとして評価額が算出されることになり、上記イのとおり本件株式譲渡価額は、「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当する。 |
ロ 所基通59−6の(2)が、株式を譲渡した個人が中心的な同族株主に該当するときは、当該株式の発行会社は常に評価通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によることと定めている趣旨は、「中心的な同族株主」の保有する株式の価値はその会社財産に対する持分としての価値と切り離して考えられないことや個人の株式の取引実態等に鑑みたものであると解される。 しかしながら、本件では、請求人らは、過半数の議決権を保有した支配株主と対立し、事業経営から殊更に排除され、会社への支配力が制限される状態になっていたことから、そのような趣旨が妥当するような具体的な事実関係は存在しない。 そうすると、本件株式譲渡における「その時における価額」を評価通達に従って評価するとしても、本件株式譲渡の時において、所基通59−6の(2)が前提とする事情は本件における具体的な事実関係からは認められないことから、同通達の「常に評価通達178に定める『小会社』に該当する」という条件は適用されず、F社は「大会社」に該当する。 そして、これを前提に、本件株式譲渡における本件株式の評価額を算出すると1株当たり4,830円となるところ、本件株式譲渡価額は「その時における価額」の2分の1を下回らない価額であることから、「著しく低い価額の対価として政令で定める額の譲渡」に該当しない。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点(本件株式譲渡は、所得税法第59条第1項第2号に規定する「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当するか否か。)について
譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和43年10月31日第一小法廷判決・裁判集民事92号797頁、最高裁昭和47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁参照)。
すなわち、譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎず、その時点において当該資産の所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなるところ、所得税法第59条第1項は、同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止するため、「その時における価額」に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととしたものと解される。
所得税法第59条第1項第2号は、法人に対し著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす旨規定しているところ、この「その時における価額」とは、当該譲渡の時における客観的交換価値、すなわち、それぞれの資産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものと解される。
また、所得税法第59条第1項第2号に規定する政令で定める額として、所得税法施行令第169条は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額とする旨規定しているところ、この「価額」の意義も上記と同様に解するのが相当である。
このような取扱いがされている趣旨は、上記評価方法の対象となる取引相場のない株式の客観的交換価値を的確に把握することが容易ではないことに鑑みて、その客観的交換価値の算定方法を評価通達の例によるものに原則として統一し、課税庁における個別的な判断が区々になることを避け、課税事務の迅速な処理を期するとともに、納税者間の公平、納税者の便宜等を図ることにあると解される。
そして、このような上記通達の趣旨に鑑みれば、取引相場のない株式について、所基通59−6が定める条件の下に適用される評価通達に定められた評価方法が、取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡所得の収入金額の計算において当該株式のその譲渡の時における客観的交換価値を算定する方法として一般的な合理性を有するものであれば、その評価方法によってはその客観的交換価値を適正に算定することができない特別の事情の存しない限り、その評価方法によって算定された価額は、当該譲渡に係る取引相場のない株式についての所得税法第59条第1項にいう「その時における価額」として適正なものであると認めるのが相当である。
そして、純資産価額方式は、株主が保有する株式を通じて会社財産を支配しているといえる場合においてその会社財産に対する持分としての価値を評価するのに適した方法であるということができ、また、類似業種比準方式は、現実に取引が行われている上場会社の株価に比準した株式の評価額が得られるという点において合理的な方法であるということができる。
よって、これらの評価通達の定める取引相場のない株式の評価方法は、いずれも合理的かつ実態に即した評価を行うための株式の価額の評価方式として、一般的な合理性を有するものと解するのが相当である。
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
これを検討すると、F社の株式は、上記ロの(イ)のとおり、取引相場のない株式であり、また、上記1の(3)のロの(イ)の売買実例はあるものの、これは、本件株式譲渡の時から2年以上前に訴訟上の和解という個別の事情の下、同族関係者間で行われた取引であることから、所基通23〜35共−9の(4)(別紙の2の(2))のイに定める適正と認められる価額による最近の売買実例のある株式には該当しない。そして、F社の株式は、同ロ及びハに定める公開途上にある株式や、類似する他の法人の株式の価額があるものに該当する事情も見当たらない。
したがって、本件株式の所得税法第59条第1項に規定する「その時における価額」は、所基通23〜35共−9の(4)のニの定めに従い、本件株式譲渡がされた日に最も近い日におけるF社の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額によることが相当であり、原則として、所基通59−6の(1)から(4)(別紙の2の(1)のイないしニ)までによることを条件に、評価通達178から189−7までの例により算定した価額が「その時における価額」と認めることができる。
そして、請求人は、本件株式譲渡の直前において、上記ロの(ロ)のとおり、F社における「中心的な同族株主」に該当することから、本件株式の「その時における価額」を算定する場合には、所基通59−6の(2)の定めにより、F社が評価通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によることとなる。
しかしながら、取引相場のない株式の発行会社の場合、会社によって株主間の経営権をめぐる対立状況、派閥の構成、個人的な思惑等は千差万別であるところ、ありとあらゆる事情を的確に把握して評価に反映させ、実質的に会社を支配している「同族株主」あるいは支配力を制限されていない「中心的な同族株主」に該当するかどうかを判断するということになれば、「同族株主」とするか否かの基準が極めて曖昧になるだけでなく、評価を行う者によって異なった評価がされるおそれがあり、その評価に決定権者の恣意が介入し、課税の公平を欠くおそれすらあるといえるのであって、これらの点を考慮すれば、評価通達が「同族株主」あるいは「中心的な同族株主」の範囲を形式的に支配従属関係が及ぶとされる一定の範囲のものとし、画一的に同族関係者の範囲を定めることとしているのは、課税の公平の観点からむしろ合理的であるというべきである。
したがって、請求人の主張する事情をもって、評価通達の定めに従った評価方法によっては本件株式の時価を適正に算定することのできない特別の事情と認めることはできない。
そうすると、本件株式譲渡における本件株式の1株当たりの譲渡価額は○○○○円であったのであるから、上述した本件株式の1株当たりの「その時における価額(○○○○円)」に比し、2分の1に満たない金額により本件株式譲渡がされたこととなる。
したがって、本件株式譲渡は、所得税法第59条第1項第2号に規定する「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当する。
しかしながら、所得税法第59条第1項の「その時における価額」とは、上記イの(イ)のBのとおり、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものと解されるところ、本件株式の譲渡価額は、上記1の(3)のハのとおり、訴訟上の和解という通常の取引とは異なる個別の事情の下、同族関係者間で成立した価額であって、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額とはいえないから、請求人の主張を採用することはできない。
しかしながら、請求人らは、上記ロの(ロ)のとおり、評価通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」であり、評価通達に従って評価するのであれば、所基通59−6の(2)のとおり、「中心的な同族株主」に該当するときは、株式の発行会社は常に評価通達178に定める「小会社」に該当するものと定められているのであるから、請求人らの主張には理由がない。
(2) 本件更正処分の適法性について
上記(1)のハのとおり、本件株式譲渡は、所得税法第59条第1項第2号に規定する「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当する。
これを前提に、当審判所において請求人の本件株式に係る譲渡所得の金額及び納付すべき税額を算定すると、別表1の「更正処分等」欄の金額とそれぞれ同額となる。
そして、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件更正処分は適法である。
(3) 本件賦課決定処分の適法性について
上記(2)のとおり、本件更正処分は適法であり、本件賦課決定処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第5項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
これを前提に、当審判所において、令和3年分の所得税等に係る過少申告加算税の額を計算すると、別表1の「更正処分等」欄の金額と同額となる。
したがって、本件賦課決定処分は適法である。
(4) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 審査請求に至る経緯(省略)
別表1の付表 株式等に係る譲渡所得の金額の計算(省略)
別表2 本件株式譲渡の直前における本件株式の保有状況等(省略)