(令和8年1月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、納税者E社(以下「本件滞納会社」という。)の滞納国税を徴収するため、審査請求人(以下「請求人」という。)が発行した株式の差押処分を行ったのに対し、請求人が、本件滞納会社は当該株式を所有していないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定している。
ロ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項柱書及び同項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ハ 徴収法第73条《電話加入権等の差押えの手続及び効力発生時期》第1項は、無体財産権等のうち電話加入権、合名会社の社員の持分その他第三債務者等がある財産の差押えは、第三債務者等に対する差押通知書の送達により行う旨、同条第2項は、同条第1項の差押えの効力は、その差押通知書が第三債務者等に送達された時に生ずる旨、それぞれ規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ F税務署長は、本件滞納会社が納付すべき別表記載の国税(以下「本件滞納国税」という。)について、通則法第37条《督促》第1項の規定に基づき、令和4年7月26日付で、本件滞納会社に対し、それぞれ督促状によりその納付を督促した。
ロ 原処分庁は、令和4年8月26日、本件滞納国税について、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、F税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ハ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、令和7年1月15日付で、徴収法第47条第1項柱書及び同項第1号の規定に基づき、徴収法第73条第1項に規定する手続により、請求人が発行した普通株式1,290株(以下「本件株式」という。)を差し押さえ(以下、この差押えを「本件差押処分」という。)、本件差押処分に係る差押通知書は、同月20日に第三債務者等である請求人に送達された。
 なお、本件株式に係る株主名簿上の株主はG社となっているが、原処分庁は、本件株式が本件滞納会社に帰属するものと認定した上で、本件差押処分を行っている。
ニ 請求人は、令和7年4月16日、本件差押処分を不服として審査請求をした。

2 争点

(1) 請求人は、本件差押処分に「不服がある者」として、本件差押処分の取消しを求めることができるか否か(争点1)。

(2) 本件滞納会社が本件株式を所有していないことは、本件差押処分の違法事由となるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(請求人は、本件差押処分に「不服がある者」として、本件差押処分の取消しを求めることができるか否か。)について

原処分庁 請求人
通則法第75条の規定によって不服申立てができるのは、その処分が不服申立てをする者の権利又は法律上の利益を侵害する場合に限られると解されているところ、仮に本件滞納会社が本件株式を所有していたとしても、請求人の不利益になることはない。
 したがって、請求人は、本件差押処分によって自己の権利又は法律上の利益が侵害されていないのであるから、本審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである。
通則法第75条第1項に規定する「不服がある者」の範囲については、処分の直接の相手方のみならず、例えば、差押えに係る財産について抵当権を有する者のように第三者もこれに当たる場合がある。
 そして、本件株式は、会社法第2条《定義》第17号に規定する譲渡制限株式であるところ、その立法趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主となることを防止することにあると解されている。
 また、本件株式は、請求人の発行済株式の全て(議決権割合100%)であり、請求人に対する唯一かつ完全な経営支配権そのものを意味するものであるため、本件株式が誰に帰属するかについては、請求人の経営に重大かつ決定的な影響を及ぼすといわざるを得ない。
 そうすると、本件滞納会社が本件株式を所有しているか否かは、請求人にとって重大な利害関係を有するものであり、請求人は、本件滞納会社が本件株式を所有していることを前提とする本件差押処分により、直接自己の権利(法律上の譲渡承認の権利等)及び法的利益(会社にとって好ましくない者による株主権の行使や経営支配を排除する等の法的利益)が侵害されている者に該当することは明らかである。
 したがって、本審査請求は、請求の利益を欠くものではなく、適法である。

(2) 争点2(本件滞納会社が本件株式を所有していないことは、本件差押処分の違法事由となるか否か。)について

原処分庁 請求人
仮に本件株式の全部又は一部が本件滞納会社に帰属しないときは、その部分につき執行が功を奏しないことになるだけであるから、そのような株式につき差押処分が行われても、これによって不利益を受けるのは真正な帰属者であって、株式発行会社である請求人は法律上の不利益を被ることはない。 徴収法第47条第1項柱書によれば、差押えの対象は、滞納者の所有する財産でなければならないところ、本件株式はG社が所有しており、本件滞納会社は所有していない。
 したがって、本件差押処分は、徴収法第47条第1項の要件を満たさない違法な処分である。
そうすると、本件株式がG社の所有であり、本件滞納会社の所有ではないという事実があったとしても、請求人がかかる事実を違法であると指摘することは、自己の法律上の利益に関係のない違法を主張するものにほかならない。
したがって、本件滞納会社が本件株式を所有していないことは、本件差押処分の違法事由とはならない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(請求人は、本件差押処分に「不服がある者」として、本件差押処分の取消しを求めることができるか否か。)について

通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に「不服がある者」とは、当該処分によって直接自己の権利又は法律上の利益を侵害された者をいうと解されるところ、原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のとおり、本件差押処分によって請求人の権利又は法律上の利益が侵害されていないのであるから、本審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである旨主張する。
 しかしながら、株式が滞納処分により差し押さえられた場合には、株主の地位に基づく剰余金配当請求権等の債権に対しても差押処分の効力が及ぶところ、当該差押処分に係る第三債務者等である株式発行会社は、当該剰余金配当請求権等の本来の債権者である株主に対して債務の履行をしても、その履行をもって差押債権者である国に対抗することができず、その結果、債権の差押処分の場合と同様に、第三債務者等は、本来の債権者である株主に対する債務の履行を禁じられるという義務を課され、直接自己の権利又は法律上の利益を侵害されることになるから、通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に「不服がある者」として、当該差押処分の取消しを求めることができると解するのが相当である。
 したがって、本件差押処分の第三債務者等である請求人は、本件差押処分に「不服がある者」として、本件差押処分の取消しを求めることができるから、本審査請求は適法である。

(2) 争点2(本件滞納会社が本件株式を所有していないことは、本件差押処分の違法事由となるか否か。)について

請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件株式はG社が所有しており、本件滞納会社は所有していないことから、本件差押処分は、徴収法第47条第1項の要件を満たさない違法な処分である旨主張する。
 しかしながら、徴収法第47条第1項の規定に基づいて滞納者の財産を差し押さえる場合に、その財産が滞納者の有するものとして現に存在していることは要件とされていない。また、仮に本件滞納会社が本件株式を所有していなかったとしても、それは結果的に本件差押処分の執行が功を奏しないことになるだけである。
 したがって、本件滞納会社が本件株式を所有していないことは、本件差押処分の違法事由とはならない。

(3) 本件差押処分の適法性について

上記(2)のとおり、本件滞納会社が本件株式を所有していないことは、本件差押処分の違法事由となるものではなく、また、本件差押処分は、上記1の(3)のイ及びハのとおり、徴収法所定の要件を充足している。
 そして、本件差押処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件差押処分は適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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