(令和8年2月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、新型コロナウイルス感染症の影響などにより相続税の申告等をその期限までにすることができなかったとして、災害による申告等の期限延長申請をしたところ、原処分庁が、当該申請の却下処分をしたことから、請求人が、原処分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第12条《書類の送達》第1項は、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長が発する書類は、郵便等による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所に送達する旨規定しており、また、同条第2項は、通常の取扱いによる郵便等によって前項に規定する書類を発送した場合には、通常到達すべきであった時に送達があったものと推定する旨規定している。
ロ 通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第3項は、再調査の請求についての決定があった場合において、当該再調査の請求をした者が当該決定を経た後の処分になお不服があるときは、その者は、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨規定している。
ハ 通則法第77条《不服申立期間》第2項は、通則法第75条第3項の規定による審査請求は、通則法第84条《決定の手続等》第10項の規定による再調査決定書の謄本の送達があった日の翌日から起算して1月を経過したときは、することができない旨規定し、そのただし書で、正当な理由があるときは、この限りでない旨規定している。
ニ 通則法第84条第10項は、再調査の請求についての決定は、再調査の請求人に再調査決定書の謄本が送達された時に、その効力を生ずる旨規定している。
ホ 不服審査基本通達(国税庁関係)84−16《再調査決定書謄本の送達方法》注書は、再調査決定書の謄本を郵便等によって送達するときは、配達証明郵便等あるいは書留郵便等によって行うものとする旨定めている。
ヘ 不服審査基本通達(国税庁関係)84−18《再調査の請求人に対する送達》本文は、通則法第84条第10項の規定による再調査の請求人に対する再調査決定書の謄本の送達は、当該再調査の請求が代理人によってされているときにおいても、本人に対してこれを行うものとする旨定め、そのただし書で、再調査の請求人から再調査決定書の謄本の送達先を代理人とする旨の書面の提出があった場合には、原則として当該代理人に対して送達するものとする旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

イ D(以下「本件被相続人」という。)は、令和3年12月○日に死亡し、その相続が開始した。
 請求人は、本件被相続人の妹であり、本件被相続人の唯一の法定相続人である。
ロ 請求人は、令和5年11月6日、原処分庁に対し、上記イの相続に係る相続税の申告書を提出するとともに、相続税の申告及び納付の期限を同日まで延長したい旨記載した「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出した。
 なお、上記の申告書及び申請書には、請求人の住所が、a県b市d町○−○(以下「本件住所」という。)である旨記載されていた。
ハ 原処分庁は、上記ロの期限延長申請に対し、令和6年6月26日付で、その申請を却下する旨の処分(以下「本件却下処分」という。)をした。
 なお、原処分庁は、令和6年6月26日、本件却下処分の通知書を、簡易書留郵便により本件住所に発送したところ、請求人は、同年7月4日、上記通知書をE郵便局の窓口で受け取った。
ニ 請求人は、令和6年9月28日、本件却下処分を不服として再調査の請求(以下「本件再調査請求」という。)をした。
 また、請求人は、令和6年10月25日、再調査審理庁に対し、F弁護士(以下「本件代理人」という。)を受任者として、本件再調査請求に係る税理士法第2条《税理士の業務》に規定する税務代理を委任する旨の税務代理権限証書(以下「本件税務代理権限証書」という。)を提出した。本件税務代理権限証書の「税務代理の対象となる書類の受領に関する事項」欄には、「再調査請求にかかる一切の書類」と記載されていた。
 なお、本件再調査請求に係る再調査の請求書及び本件税務代理権限証書に記載された請求人の住所は、いずれも本件住所であった。
ホ 再調査審理庁は、本件再調査請求に対し、令和7年2月5日付で、本件再調査請求を棄却する旨の再調査決定(以下「本件再調査決定」という。)をし、同月6日、本件再調査決定に係る決定書の謄本(以下「本件謄本」という。)を、特定記録郵便により本件住所に発送した。
 なお、特定記録郵便とは、日本郵便株式会社が提供する郵便サービスの一つであり、同社は、差し出された郵便物の引受けを記録し、その引受けの記録として問合せ番号を記載した受領証を差出人に交付し、当該郵便物を受取人の郵便受箱に配達するが、受取人の受領印の押印又は署名による配達の記録は行わず、問合せ番号から当該郵便物の配達状況を同社のウェブサイト上で確認できるというものである。
ヘ 本件謄本に係る郵便物の配達状況について、日本郵便株式会社のウェブサイトでは、令和7年2月6日午後6時14分にG郵便局が引受け、同月7日午前5時6分にE郵便局に到着し、同日午前11時29分に「お届け先にお届け済み」として本件住所に配達が完了したとされている。
ト 請求人は、令和7年3月10日、本件再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。
 なお、本件審査請求に係る審査請求書には、請求人が本件謄本の送達を受けた年月日が令和7年2月8日であると記載されている。

2 本件審査請求の適法性について

(1) 本件審査請求は、本件謄本の送達があった日の翌日から起算して1月以内にされたものであるか否かについて

イ 検討
(イ) 上記1(3)トのとおり、請求人は令和7年3月10日に本件審査請求をしたところ、上記1(3)ヘのとおり、本件謄本に係る郵便物の配達状況によれば、本件謄本は同年2月7日に本件住所に配達が完了したとされていたことから、仮に、同日が本件謄本の送達があった日であるとすると、本件審査請求は、本件謄本の送達があった日の翌日から起算して1月以内にされたものとはいえず(通則法第77条第2項参照)、同項ただし書の「正当な理由」がない限り不適法なものとなる。他方で、本件審査請求に係る審査請求書に記載のとおり、令和7年2月8日が本件謄本の送達があった日であるとすると、その翌日から起算して1月となる同年3月8日が土曜日であることから、同月10日の経過により不服申立期間が満了することとなるため(通則法第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項参照)、本件審査請求は、送達があった日の翌日から起算して1月以内にされたものといえ、適法なものとなる。
 そこで、本件謄本の送達があった日は、令和7年2月7日と同月8日のいずれであったと認められるかについて、以下検討する。
(ロ) 行政庁がした処分に関する書類の送達は、特別の規定がない限り、民法の意思表示の一般的法理と同様に解するのが相当であるから、通則法第77条第2項における「再調査決定書の謄本の送達があった」というためには、社会通念上、名宛人が当該謄本の内容を了知し得る客観的状態に置かれれば足り、現実にその内容を了知することを必要とするものではないと解される。そして、郵便による送達の場合には、上記謄本が郵便により名宛人の住所に配達されて名宛人がその内容を了知することのできる状態に置かれることをもって足りるというべきである。
(ハ) これを本件についてみると、上記1(3)ヘのとおり、本件謄本は、令和7年2月7日午前11時29分に配達が完了したとされているところ、当審判所の調査の結果によっても、本件謄本が返戻、転送又は誤配送されたことや、上記の配達完了日よりも遅れて配達されたことをうかがわせる事情や証拠は見当たらない。そうすると、本件謄本は、令和7年2月7日に本件住所に配達されて請求人が本件謄本の内容を了知し得る状態に置かれたものと評価できることから、本件謄本は、同日に請求人に送達されたと認めるのが相当である。
 したがって、本件審査請求は、本件謄本の送達があった日の翌日から起算して1月以内にされたものとは認められない。
ロ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、本件税務代理権限証書の記載上、本件再調査請求に係る一切の書類の受領権限が本件代理人にあり、再調査審理庁は書類の受領権限のない請求人に対し本件謄本の送達をしたのであるから、本件謄本の送達が違法であり無効である旨主張する。
 確かに、上記1(3)ニのとおり、本件税務代理権限証書の「税務代理の対象となる書類の受領に関する事項」欄には「再調査請求にかかる一切の書類」と記載されているため、不服審査基本通達(国税庁関係)84−18ただし書(上記1(2)ヘ)からすれば、原則として、本件代理人に対して本件謄本を送達することが再調査審理庁内部の事務処理上の要請であるといえる。しかしながら、再調査の請求人が書類の受領の代理権限を代理人に付与した場合に、それに伴い、再調査の請求人が本来なし得る書類の受領について、その権限が制限されるか、又はその権限を喪失すると解すべき理由はない。したがって、本件でも、請求人は、本件謄本を受領する権限を失わないというべきである。
 よって、請求人の上記主張には理由がない。
(ロ) 請求人は、再調査審理庁が本件謄本を送達するに当たり、本件代理人に対して送達先を確認する義務があるにもかかわらず、これを怠ったのであるから、本件謄本の送達は違法であり無効である旨主張する。
 この点につき、書類の受領を本件代理人に委任する旨の本件税務代理権限証書の記載に反して本件謄本を本件住所に送達するのであれば、再調査審理庁所属の担当職員としては、その旨を本件代理人に連絡するなどの措置を講じることで、当該送達により生じ得る混乱を回避することができたともいえる。しかしながら、再調査審理庁において請求人の主張する上記義務があると解すべき法令等の規定はない。これに加えて、仮に、再調査審理庁が本件代理人に送達先の確認をしなかったことにより不服申立てに支障が生じるような具体的事情があれば、通則法第77条第2項ただし書に規定する「正当な理由」として考慮する余地があることも併せ考慮すると、本件謄本の送達先の確認がされなかったとしても、送達の効力は左右されない。
 よって、請求人の上記主張には理由がない。
(ハ) 請求人は、不服申立期間の制度趣旨が不服申立てを行うか否かの熟慮期間を保障するものであることに鑑みれば、適法な送達とは、再調査の請求人が現実に再調査決定書の謄本の内容を確認し不服申立てを行うか否かを1か月間熟慮することができる書留郵便又は簡易書留郵便により直接受取人に届くことが必要であり、特定記録郵便による本件謄本の送達は、受取人が郵便受箱を確認しない限り郵便物が届いた事実を知ることができず1か月の熟慮期間の保障がされなくなるため、違法であり無効である旨主張する。
 この点、不服審査基本通達(国税庁関係)84−16注書(上記1(2)ホ)からすれば、上記1(3)ホのとおり、再調査審理庁が特定記録郵便により本件謄本を送達したことは、上記通達の定めに沿わない事務処理である。しかしながら、書類の送達について規定した通則法第12条第1項は、郵便による送達について、書類の重要度に応じて郵便物の取扱方法を区別しておらず、また、同条第2項では、通常の取扱いによる郵便によることも許容されている。これらに加え、仮に郵便物の取扱方法を原因として不服申立てに支障が生じるような具体的事情があれば、通則法第77条第2項ただし書に規定する「正当な理由」として考慮する余地があることも併せ考慮すると、書類の送達がいかなる取扱いの郵便物としてなされたかによって、送達の効力が左右されることはないと解される。
 よって、請求人の上記主張には理由がない。

(2) 請求人が不服申立期間内に審査請求をしなかったことについて、通則法第77条第2項ただし書に規定する「正当な理由」があるか否かについて

イ 通則法第77条第2項ただし書に規定する「正当な理由」とは、不服申立人の責めに帰することができない事由により不服申立期間内に不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情がある場合などをいうと解される。
ロ 請求人は、�@本件再調査請求に係る調査において、担当職員に対し、本件住所には月に2、3回郵便物を見に帰る程度で、それ以外は本件被相続人の自宅で生活をしている旨や、本件税務代理権限証書のとおり、書類の受領を含む全ての事務を本件代理人に一任している旨を伝えていたにもかかわらず、本件住所に本件謄本が送達されたこと、�A本件謄本がポストに投かんされるだけの特定記録郵便で郵送されることは予測できず、偶然、請求人が令和7年2月8日に本件住所に行った際に本件謄本を見つけて現実に受領したことから、同日を「送達があった日」と考えたことなどの事情に照らすと、請求人には通則法第77条第2項ただし書に規定する「正当な理由」がある旨主張する。
 しかしながら、上記�@については、請求人の主張を前提としても、請求人は、本件謄本を令和7年2月8日に確認しており、不服申立期間の経過まで十分な時間的余裕があったことからすると、請求人が主張する事情は、請求人の責めに帰することができない事由により不服申立期間内に不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情であるとは認められない。
 また、上記�Aについては、請求人の独自の解釈により不服申立期間の起算日を誤解したものであることに加え、本件謄本の受領後においても本件謄本の配達状況を日本郵便株式会社のウェブサイトで確認すれば本件謄本が本件住所に届いた日を正確に把握することも可能であったことを踏まえると、請求人が主張する事情は、請求人の責めに帰することができない事由により不服申立期間内に不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情であるとは認められない。
ハ 以上のとおり、請求人が主張する各事情を踏まえても、請求人に、通則法第77条第2項に規定する「正当な理由」があるということはできない。

(3) 請求人のその他の主張について

請求人がその他に種々主張する点は、いずれも上記各判断を左右するものではない。

(4) 結論

以上のとおり、本件審査請求は、通則法第77条第2項本文に規定する不服申立期間の経過後にされたものであり、また、請求人が不服申立期間内に審査請求をしなかったことについて、同項ただし書に規定する「正当な理由」があるといえる事情も認められない。
 よって、本件審査請求は、不服申立期間の経過後にされた不適法なものであるから、これを却下することとする。

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