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(平4.2.18、裁決事例集No.43 175頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、P宗R派の宗教法人であるが、昭和62年4月1日から昭和63年3月31日まで、昭和63年4月1日から平成元年3月31日まで、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの各事業年度(以下、それぞれ「昭和63年3月期」、「平成元年3月期」、「平成2年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成2年7月17日付で本件各事業年度について、次表のとおり、決定及び無申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分
事業年度
項目
昭和63年3月期 平成元年3月期 平成2年3月期
決定 所得金額 21,210,752 23,247,806 28,353,743
納付すべき税額 5,726,700 6,276,600 7,655,300
賦課決定 無申告加算税の額 858,000 940,500 1,147,500

 

 請求人は、これらの処分の全部の取消しを求めて、平成2年8月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月29日付で、次表のとおり、本件各事業年度とも原処分の一部を取り消す異議決定をした。

(単位:円)
区分
事業年度
項目
昭和63年3月期 平成元年3月期 平成2年3月期
異議決定 所得金額 17,005,234 19,157,160 16,695,394
納付すべき税額 4,591,300 5,172,300 4,507,600
無申告加算税の額 688,500 775,500 675,000

 

 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして平成2年12月27日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分(異議決定により一部取り消された後のもの。以下同じ。)は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 決定について
(イ) 調査手続等について
A 原処分の調査(以下「本件調査」という。)の手続は、次のとおり違法、不当である。
(A) 墨跡の揮ごうに係る収入(以下「墨跡収入」という。)が収益事業に係る収入に該当することについて、従前、通達の発遣、宗教界に対する指導あるいは説明会もなく、また、請求人が無申告であったことに対して、過去に申告のしょうようも行われなかったことなどからみて、原処分庁は、本件調査時まで、墨跡収入を非収益事業に係る収入であると認めておきながら、突然、本件決定をした。
(B) 請求人は、本件調査の際に、本件調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)と数回にわたり面接したが、調査担当職員が請求人に対して行った、請求人の本件各事業年度における墨跡収入(以下「本件墨跡収入」という。)は収益事業に係る収入であるという理由の説明が、当該面接ごとに異なっており、このことは、原処分庁が明確な根拠を有しないまま本件決定をしたことを示している。
B 原処分の異議審理を担当した職員(以下「異議審理担当職員」という。)は、請求人の言い分を十分に聞かず、墨跡の揮ごうの宗教的意義について十分な理解をしないで異議決定をしたものであり、異議審理手続は違法である。
(ロ) 本件墨跡収入について
 請求人は、本件各事業年度において、請求人の宗教活動の一つでもある墨跡収入を得ているところ、原処分庁は、これを法人税法施行令第5条《収益事業の範囲》第1項第10号に規定する請負業に係る収入であると認定した。
 しかしながら、原処分庁の上記認定には、次に述べるとおり法律の解釈適用を誤った違法がある。
A 墨跡の揮ごうは、禅の修得者が禅語を墨跡にしたためて、社会すなわち信者の生活や事業を規制善導したもので、禅宗においては、教義を広めるための宗教活動そのものであり、これは法人税法施行令第5条に掲げるいずれの収益事業にも該当せず、また、本件墨跡収入はすべて信者のために還元使用されている。
 したがって、本件墨跡収入は、法人税法第4条《納税義務者》及び第7条《内国公益法人等の非収益事業所得等の非課税》の規定により、その所得には法人税は課されず、非課税となる。
B 墨跡収入は、禅宗においては、いわば信者等から受領する喜捨金やお賽銭(以下「喜捨金等」という。)と同一の性質のものであって、現行税法上、喜捨金等による収入が非課税である以上、本件墨跡収入についても非課税である。
C 一般的に、墨跡収入を個人から直接受領した場合は非課税とされるのに対し、原処分庁は、請求人が墨跡収入を業者である株式会社A(以下「A社」という。)及びB株式会社(以下「B社」といい、A社と併せて「取引先2社」という。)から受領していることを理由に、請負業と認定している。
 しかし、取引先2社は、いずれもその代表者が請求人の檀徒であり、墨跡を通じて禅の教えを布教するため、請求人に代わって、全国の各個人から小売店等を通じて発注された墨跡の注文を取りまとめて、請求人に取り次いでいるにすぎず、請求人と取引先2社との間に、墨跡の揮ごうの請負という概念は存在しない。
 また、請求人は、あくまで各個人の依頼に基づいて墨跡を揮ごうしているのであって、ことえ墨跡収入を取引先2社から受領したとしても、実質においては、個人から依頼されて揮ごうした場合と何ら変わらないのであるから、両者を区別する合理的理由はなく、いずれの方法によっても非課税とされるべきである。更に、原処分庁の解釈に立てば、相手が個人であるか業者であるかによって課税、非課税が左右されることとなって不合理である。
(ハ) 所得の金額について
 そうすると、本件墨跡収入は、収益事業に係る収入金額ではなく非課税であるから、法人税を課される所得金額は零円である。
ロ 無申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件各事業年度の法人税の各決定は違法であるから、無申告加算税の各賦課決定も違法であり、その全部の取消しを求める。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 決定について
 請求人は、法人税法第2条《定義》第6号に規定する公益法人等であるが、次に述べるとおり、同法第4条第1項により、同法第2条第13号に定める収益事業を営む場合に該当するので、法人税を納付する義務がある
(イ) 調査手続等について
A 本件調査の手続は次のとおりであり、請求人の主張するような違法、不当な点はない。
(A) 原処分庁は、本件調査前と本件調査時とで、墨跡収入に係る取扱いを異にしたわけではなく、本件調査において、本件墨跡収入が無申告であることを発見し、これを放置しておくことは課税の公平を欠くこととなるので、是正しただけである。
(B) 調査担当職員は、本件調査に際し、請求人に対して、調査の過程において把握した資料等に基づいて、本件墨跡収入は収益事業に係る収入に該当する旨の説明を行ったが、その後、本件調査の進行により把握した資料が増え、最終的には、調査途中において説明した理由と異なるものとなったものである。
B 異議審理担当職員は、異議審理の過程において、請求人の代表役員であるC男(以下「C男」という。)及び関与税理士等に対して質問調査を行い、その言い分、釈明等を十分聴取し、慎重かつ適正な審理の上、異議決定を行っており、請求人の主張するような違法、不当な点はない。
(ロ) 本件墨跡収入について
A 公益法人の収益事業課税は、公益法人の公益性にかかわらず、同様の事業を営む一般私企業との競争関係の有無や課税上の公平の維持等の理由により行うものであり、公益法人が、法人税法施行令第5条に規定されている収益事業を営んでいる場合には、たとえその営んでいる事業が当該公益法人の本来の目的たる事業であっても、当該事業から生ずる所得については法人税が課されるものである。
 また、収益事業に係る収入金額のすべてがその公益目的に使われたとしたも、法人税の納税義務を免れるものではない。
B 本件墨跡収入について次の事実が認められる。
(A) 請求人は、取引先2社と、継続して取引していること。
(B) 請求人に対する墨跡の注文は、A社の場合は、同社所有の用紙に「文面、枚数」を記載し、請求人に持参する等の方法で、また、B社の場合は、「こういう文面で、何枚」と、口頭やメモ等による方法で、それぞれ行っていること。
(C) 注文に対する単価は、C男の妻で、請求人から給与を受給しているD女(以下「D女」という。)と取引先2社との間で、あらかじめ注文ごとにそれぞれ決められていること。
(D) 取引に係る収入金は、出来高(品名及び数量)を取引先2社に報告し、完成品と引換えに取引先2社から小切手で受け取っていること。
 上記(A)ないし(D)のとおり、請求人は、その取引実態をみると取引先2社の委託に基づき継続して事業を営んでおり、その収入は墨跡の揮ごうの請負による役務の対価と認められるので、当該事業は法人税法施行令第5条第1項第10号に該当する。したがって、請求人は、当該収益事業から生ずる所得について法人税の確定申告書を提出し、法人税を納付する義務がある。
C ところで、請求人は、本件墨跡収入を喜捨金等による収入と同一視すべき旨主張するが、その墨跡収入が非収益事業に係る収入であるためには、それがあくまでも喜捨金等として、すなわち信者が心から喜んで出した御礼、あるいは寄附から得られた収入をいうのであって、請求人のように墨跡の揮ごうを請け負うことによって得た収入はこれに当たらない。
D また、請求人は、墨跡の揮ごうの対価を出捐する相手が個人か業者かによって、課税関係に差異が生ずるのは不当である旨主張するが、相手いかんによって課税、非課税となるのではなく、当該事業が収益事業に該当するか否かによって課税、非課税に分かれるのである。
(ハ) 所得の金額について
 請求人の本件各事業年度の墨跡収入から生じた所得の金額は、別表の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、昭和63年3月期が17,005,234円、平成元年3月期が19,157,160円、平成2年3月期が16,695,394円となり、これらと同額でした各決定は適法である。
 なお、別表の各項目欄の金額については、次のとおりである。
A 収入金額「1」は、請求人と取引先2社との間における墨跡収入に係る取引金額の合計額であり、その内訳は次表のとおりである。

(単位:円)
事業年度
取引先名
昭和63年3月期 平成元年3月期 平成2年3月期
A社 25,487,500 30,818,300 27,899,600
B社 7,745,100 6,802,600 7,215,000
合計 33,232,600 37,620,900 35,114,600

 

B 給与「2」の額は、C男、D女、及びE女(ただし、E女については、昭和63年3月期及び平成元年3月期のみ)に対する支給額の合計額である。
C 水道光熱費「3」の額は、F銀行S支店の請求人名義の普通預金口座から、自動振替により支払われた金額である。
D みなし寄付金の額「7」は、法人税法第37条《寄付金の損金不算入》第4項により寄付金とみなされる額である。
E 役員賞与の損金不算入額「9」は、前記Bのうち、C男に対する賞与の額で、法人税法第35条《役員賞与等の損金不算入》第1項により損金の額に算入されない金額である。
F 未納事業税「10」の額は、それぞれ前事業年度の所得金額について地方税法の規定により課税され、その事業年度の損金の額に算入される事業税の金額である。
G 寄付金の損金不算入額「11」は、前記Dの金額のうち、法人税法施行令第73条《寄付金の損金算入限度額》第1項第3号ロの規定により損金の額に算入されない金額である。
ロ 無申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件各事業年度の法人税の各決定は適法であるから、本件各事業年度の無申告加算税の各賦課決定も適法であり、これを不相当とする理由はない。

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3 判断

(1) 決定について

 本件審査請求の主たる争点は、1調査手続等の違法、不当の有無並びに2請求人の本件墨跡収入が法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する収益事業(請負業)に係る収入に該当するか否かにあるので、以下これらについて検討する。
イ 調査手続等について
(イ) 請求人は、原処分庁が本件調査時までは請求人の墨跡収入を非収益事業に係る収入と認めていたのにもかかわらず、本件決定を行ったことは違法、不当である旨主張するが、当審判所の調査の結果によっても、原処分庁が請求人の墨跡収入を非収益事業に係る収入であると認めていたことを認定するに足りる証拠はない。また、本件墨跡収入につき客観的事実関係を前提として、これに租税関係の諸規定を適用したならば、決定が必要であることは後記ロのとおりであり、このような場合にあって、租税負担の公平の見地から原処分庁が本件決定をしたことは、当然の責務であったといえるものであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ) また、請求人は、原処分庁が本件墨跡収入を収益事業に係るものとする明確な根拠を有しないまま本件決定を行ったことは違法、不当であると主張するが、原処分関係資料によれば、原処分庁は、異議決定書に記載のとおり、明確な根拠を基にして、本件決定をしていることが認められる。したがって、原処分には、請求人が主張するような違法、不当な点は存しない。
(ハ) 更に、請求人は、異議審理手続の違法、不当を理由として原処分の取消しを求めるが、異議審理手続の違法、不当は、原処分の適否に何ら影響を及ぼすものでなく、請求人の主張は採用できない。
ロ 本件墨跡収入について
(イ) 原処分関係資料、請求人提出資料、請求人及び参考人の各答述並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、P宗R派の宗教法人で、法人税法第2条第6号に規定する公益法人等に該当する法人であること。
B 請求人は、昭和47年ころ、当時請求人の檀徒等であった取引先2社の前代表者らに、寺の復興について相談を持ちかけたところ、前代表者らは、請求人から墨跡を購入することによって財政的援助を行うことを計画したこと。
 それ以後、請求人においては、取引先2社からの注文に基づき、代表役員であるC男が、請求人の建物(庫裏)の一室にて墨跡の揮ごうを行っていること。
C A社は、茶道具の卸売業を営む法人であるが、同社の取引先からの受注あるいは同社自身の営業上の判断に基づき、請求人に対し、注文内容(墨跡の種類、文面及び枚数等)を記載した同社所有の用紙を交付して、墨跡の揮ごうを依頼していること。
 また、A社は、請求人以外にも4、5件の墨跡揮ごう者から墨跡を仕入れ、販売していること。
 なお、上記注文内容を記載した用紙には、墨跡の当初の発注者である個人名等の記載はないこと。
D A社は、請求人に対する墨跡の揮ごうに係る対価の支払については、同社の仕入れに計上し、仕入れた墨跡は、外注により表装加工した上、茶道具とともに同社の取引先に販売しているほか、全国各地で開催されるS県物産展等の催場において販売していること。
E B社は、額・絵画・掛け軸等の美術工芸品の製造及び卸売業を営む法人であるが、主に同社自身の営業上の判断に基づき、請求人に対し、注文内容(墨跡の種類及び枚数等)を口頭又はメモ等により伝え、墨跡の揮ごうを依頼していること。
F B社は、請求人に対する墨跡の揮ごうに係る対価の支払については、同社の仕入れに計上し、仕入れた墨跡は、外注により表装加工した上、他の美術工芸品等とともに、同社の主な取引先である百貨店等に販売し、当該百貨店等は、美術品売場等において、当該墨跡を販売していること。
G 請求人は、前記C及びEの注文を受けた後、その注文内容に応じて墨跡を揮ごうしていること。
H 墨跡の揮ごうの単価については、C男の妻であるD女と取引先2社との間で、あらかじめ種類ごとに決定されていること。
I 完成された墨跡の販売価格は、取引先2社が各自の営業上の判断で独自に決定していること。
J 墨跡の揮ごうに用いる紙・墨・筆・すずり等の材料や道具は、請求人が調達していること。
 なお、B社との取引においては、紙についてのみ同社が同等品を現物支給しているため、その分、墨跡の揮ごうの単価がA社に比べて低くなっていること。
K 請求人が揮ごうした墨跡の数量は、各事業年度ともおよそ8,000ないし10,000点になること。
L 請求人は、本件各事業年度において、取引先2社から、毎月10回以上にわたって、完成した墨跡と引換えに小切手を受領し、それらの小切手の合計金額は、原処分庁主張額と同様、昭和63年3月期が33,232,600円、平成元年3月期が37,620,900円、平成2年3月期が35,114,600円であること。
M 請求人は、上記Lの小切手を受領する際に、A社に対しては、領収証を発行する代わりに、同社所有の「支払先請求人:C男様」と記載された支払明細書(以下「支払明細書」という。)に請求人の印を押印し、B社に対しては、請求人発行の領収証を交付していること。
N 請求人は、前記Lの小切手を、F銀行S支店の請求人名義の普通預金口座及びS銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座にそれぞれ入金していること。
(ロ) ところで、請求人は、本件墨跡収入は、請求人の非収益事業たる宗教活動によるものであって、法人税法に規定する収益事業に係る収入には該当しないと主張するので、以下検討する。
A 法人税法は、同法第4条第1項において、内国法人である公益法人等については、収益事業を営む場合に限り法人税を納付する義務がある旨を規定している。更に、収益事業の意義については、同法第2条第13号において、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいうと規定しており、法人税法施行令第5条は、これを受けて、収益事業の範囲を個別に規定している。
 このように、公益法人等の収益事業から生ずる所得についてのみ法人税を課税するのは、元来、公益法人等は、公益等を目的として設立されたものであって営利を目的とするものではないが、一般私企業と競合する事業を営む場合には、一般私企業に対する課税とのバランス又は課税の公平等を考慮したためである。
 したがって、公益法人等の営む事業が、法人税法施行令第5条で規定されている収益事業のいずれかに該当する場合には、たとえその営む事業が公益法人等の本来の目的とされるものであっても、その事業から生ずる所得については、法人税が課されることになるが、収益事業の範囲は、上述のように専ら税法固有の目的に従って規定されているものであるから、公益法人等の本来の事業が税法上の収益事業に該当したとしても、当該事業の公益性を否定するものではないと解するのが相当である。
 また、たとえ収益事業に係る収入金額のすべてがその公益目的に使われたとしても、法人税の納税義務を免れるものではないと解するのが相当である。
B そこで、本件墨跡収入が、法人税法施行令第5条第1項に規定されている収益事業に係る収入に該当するか否かについて検討したところ、次のとおりである。
(A) 前記(イ)で認定したとおり、1墨跡の揮ごうは、取引先2社の発注に基づき、その注文内容に応じてC男が行っていること、2墨跡の揮ごうの単価は、C男の妻であるD女と取引先2社との間で、あらかじめ種類ごとに定められていること、3請求人は、取引先2社から、毎月10回以上にわたり、完成した墨跡の納入と引換えに、上記2で定められているところの金額を小切手で受領していること、4請求人は、上記の小切手の受領に際して、支払明細書に請求人の印を押印するか又は請求人作成名義の領収証を発行し、受領した小切手を請求人名義の普通預金口座に入金していること及び5請求人が揮ごうした墨跡の数量は各事業年度とも、8,000点以上にのぼり、かつ、収入金額も多額であること等の事実を総合すれば、請求人は、取引先2社との間で合意した請負契約に基づいて、墨跡の揮ごうを請け負っていると認められ、また、当該行為は、一般私企業もなし得るものであるから、その対価を宗教活動に係る収入として収受しているとしても、法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する請負業に該当する。
(B) また、請求人は、墨跡の揮ごうを、建物(庫裏)の一室において、本件各事業年度の全期間を通じて行っていると認められ、このことは、法人税法第2条第13号にいう継続して事業場を設けて営まれる場合に該当する。
C そうすると、原処分庁が本件墨跡収入を請求人の収益事業に係る収入であると認定したことは相当であり、請求人の主張は、採用することができない。
D 請求人は、墨跡収入は喜捨金等による収入と同一の性質のものであるから、本件墨跡収入も非課税である旨主張する。
 しかし、本来、喜捨金等とは、信仰心に基づき反対給付を求めずに支出する無償の財産的給付であるところ、本件墨跡収入は、前記Bで認定したとおり、有償双務契約たる請負契約に係る対価であるから、喜捨金等による収入と同一の性質のものとは認められず、更に、取引先2社においては、その経理処理上、墨跡等を仕入れとして計上していることからみれば、喜捨金等としての性質はうかがわれず、この点に関する請求人の主張は採用できない。
E また、請求人は、あくまで各個人の依頼に基づいて墨跡を揮ごうしているのであって、たとえ墨跡収入を取引先2社から受領したとしても、実質においては、個人から依頼されて揮ごうした場合と何ら変わらず、本件墨跡収入も非課税とされるべきである旨主張する。
 しかしながら、前記(イ)で認定したとおり、1請求人は墨跡を揮ごうするにすぎず、取引先2社において表装加工等を加え、商品としての墨跡を完成していること、2完成された墨跡の販売価格は取引先2社の独自の判断で決定されていること及び3墨跡の多くが百貨店等において不特定多数人に販売されていること等の事実によれば、本件は、特定の個人から依頼されて揮ごうした場合と異なることは明らかであるから、請求人の上記主張には理由がない。
F 更に、請求人は、墨跡の揮ごうの対価を出捐する相手が個人か業者かによって、課税関係に差異が生ずるのは不合理である旨主張するが、前記Aのとおり、本件墨跡収入が課税の対象となるか否かは、相手いかんによるものではなく、当該行為が、専ら収益事業に該当するか否かによるものであることは明らかであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 所得の金額について
 請求人は、墨跡収入はすべて非収益事業たる宗教活動に係るものであって、原処分庁が本件墨跡収入を収益事業に係る収入であると認定したことについて違法である旨を主張するのみで、原処分庁が認定した所得金額等の是非については明確には主張しなかった。
 そこで、当審判所は、原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果に基づき、原処分の当否を検討する。
(イ) 収入金額
 請求人の本件各事業年度の収益事業に係る収入金額は、別表の「審判所認定額」欄に記載のとおり、原処分庁主張額と同様、昭和63年3月期が33,232,600円、平成元年3月期が37,620,900円、平成2年3月期が35,114,600円であることが認められる。
(ロ) 経費の金額
 請求人の本件各事業年度の収益事業に係る経費の金額は、昭和63年3月期が10,617,709円、平成元年3月期が10,119,929円、平成2年3月期が11,128,758円であることが認められ、その内訳は、次のとおりである。
A 給与
 給与の額は、原処分庁主張額と同様、昭和63年3月期が9,520,000円、平成元年3月期が9,080,000円、平成2年3月期が9,940,000円となる。
B 水道光熱費
 水道光熱費の額は、原処分庁主張額と同様、昭和63年3月期が419,409円、平成元年3月期が447,929円、平成2年3月期が440,238円となる。
C 材料費
 墨跡の揮ごうの材料費は、画仙紙等の購入費として、昭和63年3月期においては678,300円、平成元年3月期については592,000円、平成2年3月期については748,520円が認められる。
(ハ) 剰余金の額((イ)ー(ロ))
 請求人の本件各事業年度の収益事業に係る剰余金の額は、昭和63年3月期が22,614,891円、平成元年3月期が27,500,971円、平成2年3月期が23,985,842円となる。
(ニ) みなし寄付金の額
 みなし寄付金の額は、法人税法第37条第4項の規定により、請求人の本件各事業年度における上記(ハ)の剰余金の額と同額となる。
(ホ) 役員賞与の損金不算入額
 請求人が本件各事業年度に支払ったC男に対する賞与の額(原処分庁主張額と同様、昭和63年3月期及び平成元年3月期は各1,000,000円、平成2年3月期は1,100,000円)は、法人税法第35条第1項の規定により損金の額に算入しない。
(ヘ) 未納事業税
 地方税法の規定により課税される事業税の額(平成元年3月期は1,668,600円、平成2年3月期は1,938,800円)は、未納事業税として損金の額に算入する。
(ト) 寄付金の損金不算入額
 前記(ニ)のみなし寄付金の額から、法人税法施行令第73条第1項第3号ロに規定する金額を控除した金額(昭和63年3月期は15,530,424円、平成元年3月期は19,451,260円、平成2年3月期は17,041,730円)は、法人税法第37条第2項の規定により損金の額に算入しない。
(チ) 所得の金額((ハ)ー(ニ)+(ホ)ー(ヘ)+(ト))
 以上のことから、請求人の本件各事業年度の所得の金額は、別表の「審判所認定額」欄に記載のとおり、昭和63年3月期が16,530,424円、平成元年3月期が18,782,660円、平成2年3月期が16,202,930円となる。
 そうすると、請求人の本件各事業年度の所得の金額は、いずれも決定の額を下回ることとなる。

(2) 無申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、本件各事業年度の法人税の各決定は、いずれもその一部の取消しを免れず、これに伴い本件各事業年度の無申告加算額の計算の基礎となる税額が異動することになるから、無申告加算税の各賦課決定もその一部の取消しを免れない。

(3) 原処分のその余の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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