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(平4.3.31、裁決事例集No.43 260頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」又は「当組合」という。)は、みかんの生産を業とする農事組合法人であるが、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの事業年度(以下「当事業年度」という。)の法人税確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対して、平成2年12月25日付で次表の「更正等」欄のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分 確定申告 更正等
所得金額 △ 391,213 239,127,362
納付すべき税額 0 64,555,000
過少申告加算税の額 9,657,500

(注)△印は、欠損金額を示す。

 

 請求人は、これらの処分を不服として平成3年2月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成3年5月1日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして平成3年5月31日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

イ 更正について
 更正は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
(イ) 退職金について
A 別表1の「1」欄に記載のA男ほか8名(以下「旧出資者」という。)は、請求人に対する出資持分(以下「本件出資持分」という。)の全部を、平成元年8月8日に同表の「4」欄に記載のB男ほか7名(以下「新出資者」という。)に7,200,000円で譲渡するとともに当組合を退職した。
 これに伴い、請求人は、平成元年9月27日に旧出資者及びその家族等(以下「旧出資者ら」という。)に退職金(以下「本件退職金」という。)232,800,000円を、別表2の「6」欄に記載のとおり支給し、当事業年度の損金の額に算入した。
 これに対し、原処分庁は、本件退職金は本件出資持分の譲渡代金であり新出資者が負担すべきものであるから、法人税法第37条《寄付金の損金不算入》の規定により、請求人から新出資者に対して経済的利益の供与があったとして寄付金の損金不算入額を、請求人の所得金額に加算した。
B しかしながら、更正は、次のとおり事実誤認に基づくものであり、本件退職金は、損金の額に算入すべきである。
(A) 請求人が平成元年8月4日午後1時から開催した臨時総会の議事録(以下「総会議事録1」という。)は、旧出資者が、本件出資持分の譲渡金額として7,200,000円、退職慰労金として232,800,000円を受領したい旨記載したものであって、本件出資持分の譲渡金額は、240,000,000円ではなく7,200,000円である。
(B) 本件退職金は、請求人が平成元年8月4日午後2時から開催した臨時総会の議事録(以下「総会議事録2」という。)の内容の一部を変更訂正した臨時総会の議事録(以下「総会議事録3」という。)に基づき別表2の「6」欄のとおり支給したものであり、C男及びD男の場合は、明らかに本件出資持分に比例していない。
 なお、総会議事録2を総会議事録3に変更訂正したのは、1e女がE男に代わり当組合の柑橘生産作業に従事(以下「出役」という。)し、2D男がC男に代わり出役していたためである。
(C) 平成元年8月8日に締結した覚書(以下「本件覚書」という。)の真意は、1旧出資者は、出資持分の全部を7,200,000円で新出資者に譲渡すること、2新出資者は、総会議事録3で議決された退職慰労金232,800,000円の支払を承認することを新旧出資者が合意したということであって、本件出資持分の譲渡金額が240,000,000円であることを意味するものではない。
 なお、新旧出資者は、本件覚書の真意を充分に了解していたので、あえて正確な文章に訂正しなかったものである。
(D) 本件退職金の支給は、旧出資者らの当組合における勤続年数・貢献度合等を基礎に算定した上で、所定の税金を納付する等合法的になされており、仮に旧出資者が土地を処分し当組合を清算したとしても、当然に退職金の支給があると考えられ、このようなことは通常一般的に行われていることである。
 また、当組合の出資者ではない者に対する本件退職金を、本件出資持分の譲渡代金とする認定は理解できない。
(E) 請求人を清算した場合の新出資者の手取り額は、請求人が以前所有していた土地(P市R町292番地2ほか51筆75,573平方メートル、以下「本件土地」という。)の時価を、仮に新出資者が依頼した株式会社○○の平成元年6月14日付不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)の評価額801,000,000円として、その金額から請求人の負債、法人税等及び新出資者の所得税等を控除して計算すると約190,000,000円となり、また、本件土地の評価額から本件退職金を控除して、上記のように計算すると約130,000,000円となる。
 そうすると、本件出資持分の譲渡金額が240,000,000円であったならば売買は成立しなかったはずである。
(F) 請求人が、有限会社F(以下「F社」という。)に支払った手数料7,200,000円(以下「本件支払手数料」という。)は、土地の譲渡依頼から始まり経営者の交代による当組合の存続までのあっせん・仲介をしたことに対するものであり、単に本件出資持分の譲渡のあっせんに対するものではない。
 また、本件支払手数料は、支払基準がないので、退職金を含め今回動いた金額240,000,000円を不動産取引とみなして算定したものであり、本件出資持分の一括譲渡金額を基礎としたものではない。
(ロ) 支払手数料について
 原処分庁は、請求人が支払った本件支払手数料についても本件退職金の場合と同じ理由で、寄付金の損金不算入額を、請求人の所得金額に加算した。
 しかしながら、F社は、上記(イ)のBの(F)で述べたとおり、土地の譲渡から経営者の交代による当組合の存続までのあっせん・仲介をしたのであるから、本件支払手数料は、依頼者である請求人が負担すべきである。
 したがって、本件支払手数料は、請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入されるべきものであるから、新出資者に対する経済的利益の供与とはならない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記イのとおり、更正は違法であるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定もその一部の取消しを求める。

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(2) 原処分庁の主張

イ 更正について
 更正は、次の理由により適法である。
(イ) 退職金について
 本件退職金は、次のとおり、本件出資持分の譲渡代金であり、新出資者が旧出資者に支払うべきものであるから、当該譲渡代金を請求人が負担したことは、請求人から新出資者に対する経済的利益の供与となり、法人税法第37条第6項に規定する寄付金に該当する。
A 総会議事録1によると、「当組合をB男氏外へ譲渡するにつき、金弐億四千万円にて譲渡したい旨」との記載があることから、旧出資者が、本件出資持分の一括譲渡という形で当組合そのものを新出資者へ譲渡したことは明らかである。
B 総会議事録2によると、本件退職金は、家族単位で計算すると本件出資持分の比と全く同様になっていることから、本件出資持分の譲渡代金であることは明らかである。
 なお、総会議事録3は、総会議事録2により決議された退職慰労金の支払先及び支払金額を手書によって変更するなど不自然であることから、これは本件出資持分譲渡代金の分配方法を単に一部変更したものと認められる。
C 本件覚書によると、譲渡金額は240,000,000円とし、手付けとして7,200,000円を支払い、残代金は、退職慰労金名目にて一括支払う旨記載されており、また、同日付の手付金7,200,000円に係る領収書(以下「本件領収書」という。)のただし書においても「○○組合譲渡手付金として」と記載されていることから、当組合そのものを譲り渡す方法として、本件出資持分を一括譲渡したものと認められる。
 このことから、請求人は、新出資者が負担すべき本件出資持分の譲渡代金を旧出資者らへの退職金として経理したにすぎない。
D 本件退職金は、退職金を算定するのに最も重要な項目である勤続年数が加味されていないため、退職金として支給されたとは認められず、本件覚書にもあるように「退職慰労金名目にて一括支払われたもの」にすぎない。
E 本件鑑定評価書によれば、本件土地の評価額は、801,000,000円であり、請求人が、本件土地の一部(約半分弱)を、平成2年1月26日に365,000,000円で譲渡していることからも本件鑑定評価書の評価額は適正と認められる。
 したがって、本件退職金支給後の資産負債の状況をみても、請求人は相当多額の含み益を有しており、退職金の支払決議をした後の本件出資持分の評価額が240,000,000円であっても不自然ではない。
F 本件支払手数料は、本件退職金を含めて今回動いた240,000,000円を不動産取引とみなして7,200,000円を支払ったものであり、240,000,000円が本件出資持分の一括譲渡金額であることは明らかである。
(ロ) 支払手数料について
 本件支払手数料は、本件覚書が新出資者の買申込みにより締結されたこと、また、請求人の組合長が新出資者であるB男に交代した後に仲介料として損金の額に算入していることから、新出資者が負担すべきものと認められる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記のイのとおり、更正は適法であり、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定も適法である。

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3 判断

(1) 更正について

イ 退職金について
 本件退職金は、本件出資持分の売買代金であるか否かに争いがあるので、以下審理する。
(イ) 次に掲げる事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
A 請求人の総出資口数及び総出資金額は、別表1のとおり48口の7,200,000円であり、1口当たりの出資金額は15万円であること。
 また、旧出資者9名の出資内訳は、別表1のとおり、出資口数8口を有していた者がA男ほか2名(以下「8口出資者ら」という。)出資口数4口を有していた者がG男ほか5名(以下「4口出資者ら」という。)であること。
B 請求人は、平成元年9月27日○○銀行P支店から320,000,000円を借り入れ、同日、そのうちから本件退職金を別表2の「6」欄記載のとおり旧出資者らに支払い、当事業年度の損金の額に算入したこと。
C 本件土地については、次のとおりであること。
(A) 本件鑑定評価書の内容は、次のとおりである。
a 所在地 P市R町292番2ほか51筆
b 種別 宅地見込地
c 地目(公簿) 山林、畑、雑種地、用悪水路、公衆用道路
d 面積(公簿) 75,573平方メートル
e 鑑定評価日 平成元年6月9日
f 鑑定評価額 810,000,000円
(B) 本件土地の簿価は、14,000,000円である。
(C) 請求人は、本件土地の一部を、次のとおり譲渡している。
a 譲渡年月日 平成2年1月26日
b 譲渡金額 365,000,000円
c 譲渡面積 34,484平方メートル
d 譲渡先 有限会社H
D B男は、新出資者の代表として本件出資持分の譲受交渉を行い、平成元年8月8日(登記は同月21日)に請求人の代理理事に就任したこと。
 また、A男は、旧出資者の代表として本件出資持分の譲渡交渉を行い、平成元年9月25日(登記は平成2年1月19日)に請求人の代表理事を辞任したこと。
(ロ) 請求人の関係者の答述及び原処分関係資料に基づき当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
A 総会議事録1について
(A) 平成元年8月4日午後1時から午後1時50分まで、請求人事務所において、当組合譲渡の件を議案として臨時総会が開催されていること。
(B) 上記臨時総会には、組合員(旧出資者)総数9名全員が出席し、理事5名全員が、議案の可決を明確にするためとして、同議事録に記名、押印していること。
(C) 旧出資者は、当組合を新出資者に240,000,000円で譲渡する旨、また、譲渡代金を本件出資持分の譲渡代金として7,200,000円、退職慰労金として232,800,000円受領する旨を決議していること。
B 総会議事録2について
(A) 平成元年8月4日午後2時から午後3時20分まで、請求人事務所において、旧出資者らに対する退職慰労金支払の件を議案として臨時総会が開催されていること。
(B) 上記臨時総会には、組合員(旧出資者)総数9名全員が出席し、理事5名全員が、議案の可決を明確にするためとして、同議事録に記名、押印していること。
(C) 旧出資者らに対する退職金を、別表2の「2」欄のとおり支払う旨を決議していること。
C 総会議事録3について
(A) 総会議事録2と同日、同時刻に同一メンバー、同一場所で開催されたことになっていること。
(B) 総会議事録2のうち退職金の支払先及び支払金額を、後日手書によって追記及び訂正したものであること。
(C) 総会議事録2で決議した旧出資者らに対する退職金を別表2の「6」欄のとおり変更して支払う旨の記載があること。
D 本件覚書について
(A) 旧出資者代表のA男と新出資者代表のB男及びJ女(以下「B男ら」という。)との間で、平成元年8月8日に締結されたものであること。
(B) 第1条には、当組合をB男らに譲渡する旨の記載があること。
(C) 第2条には、第1条の譲渡代金は240,000,000円とし、B男らは本日手付けとして7,200,000円をA男に支払い、残代金決済時において本件出資持分の譲渡代金に充当するものとし、残代金は退職慰労金名目で一括して支払うものとする旨の記載があること。
E 本件領収書について
 旧出資者代表のA男は、新出資者代表のB男ほかあてに、平成元年8月8日付で、7,200,000円を○○組合譲渡手付金として受領した旨を記載した領収書を発行していること。
F 本件出資持分が売買された平成元年8月8日現在の請求人の債務は、36,000,000円であること。
G B男の答述によれば、次のとおりであること。
(A) 本件退職金の算定根拠になる資料は、引き継いでいない。
(B) 請求人は、本件土地の一部を前記(イ)のCの(C)に記載のとおり譲渡した後、更に、残地の一部を次のとおり譲渡している。
a 譲渡年月日 平成3年8月8日
b 譲渡金額 311,525,808円
c 譲渡面積 29,392平方メートル
d 譲渡先 K株式会社
H A男の答述によれば、次のとおりであること。
(A) 旧出資者は、次の経緯で当組合を譲渡することとした。
a 組合員の老齢化並びに柑橘の値下がり及び人件費、肥料の値上がり等により借入金が増大し、経営の継続が困難となったので、8年ぐらい前から本件土地を売ろうとしたが、なかなか売れなかった。
b 平成元年春ころ、F社の○○の紹介で、B男らに当組合を譲渡することになった。
c 最初、当組合を320,000,000円で売りたいと思った。
 その算定根拠は、12名(総出資口数48口について、4口当たり1名の割合で換算した員数)が当組合の発足準備を始めた昭和40年から平成元年までの23年間について、1名当たり年1,000,000円ぐらいとして算出した退職金約280,000,000円に、請求人の借入金残高約40,000,000円を加えたものである。
d しかし、B男と交渉した結果、1名当たり20,000,000円の12名分の240,000,000円で当組合を譲渡することとした。
(B) 本件退職金の算定根拠等は、次のとおりである。
a 本件退職金の算定根拠は、基本的には出資口数4口に対して20,000,000円で、そのうち600,000円が本件出資持分の金額である。
b 8口出資者らは、他の旧出資者らより多く当組合の仕事に従事していたので、退職金の額を多くしたが、その代わり8口出資者らの妻に対する退職金は、その多くした額だけそれぞれ減らした。
c e女に本件退職金を支払ったのは、出資者であるE男に代わって出役していたためである。
d C男及びD男に対する本件退職金支給の経緯は、次のとおりである。
(a) C男は、昭和58年に父のL男が死亡したため、父の本件出資持分を引き継いだ。
(b) D男は、L男(同人死亡後はC男)の代わりに出役していた。
 なお、L男は、昭和55年までD男の出役の手間代わりに農作業を手伝っていたが、C男は手間代わりをしていなかった。
(c) そこで、D男が約半分ぐらい出役したとみて、C男の出資口数4口分相当の退職金の約半分をD男に支払った。
 なお、C男に支払った本件退職金は、L男分の退職金である。
(d) L男が死亡退職したときには、同人に対する退職金について話し合ったことはなかった。
e 旧出資者らは、当組合設立以来、請求人から給与を受け取ったことは一度もない。
(ハ) 以上の事実から判断すると、次のとおりである。
A 本件退職金について
 請求人は、232,800,000円が旧出資者らに対する退職金であると主張するが、次のことから、本件退職金は法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項に規定する損金の額に算入される退職金とは認められない。
(A) 総会議事録2による退職金を家族単位で合計した金額は、別表2の「3」欄のとおりであり、同表の「1」欄の出資口数に比例している。
(B) 総会議事録2を変更訂正した総会議事録3は、次のことから、出資者であるC男及びE男が受領すべき金額について、単に分配方法を変更したにすぎないものと認められる。
a 総会議事録2と同日、同時刻に同一メンバー、同一場所で開催されることはあり得ない。
b 4口出資者のうちC男及びE男についてのみ、総会議事録2で決議した退職金の支払先及び支払金額が、手書により追記及び訂正されており、不自然である。
c 手書で追記及び訂正した部分以外は、総会議事録2の文言と全く同じである。
(C) 本件覚書には、本件出資持分の残代金を退職慰労金名目で支払う旨の記載がある。
(D) 本件退職金は、その金額の算定根拠等が明らかでなく、退職金とするには、次のとおり合理性のないものである。
a 8口出資者らに支給する退職金を増やした金額だけ、その妻らの退職金から減額する根拠及び理由がない。
b 農事組合法人の場合、組合員の妻も他に職業を有していない限り、その程度に差はあっても、当該組合の事業に従事するのが通常であるところ、8口出資者らの妻は、全員一律に15,000,000円の本件退職金が支給されているにもかかわらず、4口出資者らの妻については、夫に代わって出役したというe女を除いて支給が全くないが、その根拠及び理由がない。
c 出役しなかったC男を除く4口出資者らに支給された本件退職金は、8口出資者らより少なく、8口出資者らの妻より多いなど不統一であり、出役を基準に本件退職金を算定したという請求人の主張とは全く整合性がなく、その根拠及び理由もない。
d C男に支給する退職金は、同人が出役していないため支払う理由がなく、また、昭和58年に死亡したL男の退職金とする根拠もない。
(E) 本件退職金は、退職金を算出するに当たり最も重要な基準と認められる勤続年数を加味しているとは認められず、また、旧出資者らの勤務実績を証する資料もない。
 なお、旧出資者らは、請求人から一度も給与を受け取ったことはない。
(F) 関係者の答述によっても、本件退職金は、退職金とする具体的な算定根拠が明らかでなく、かえって、本件出資持分の譲渡代金であることを示唆していると認められる。
B 本件出資持分について
 請求人は、本件出資持分の売買金額が7,200,000円であると主張するが、次のことから、本件出資持分は240,000,000円で売買されたものと認められる。
(A) 旧出資者は、組合員の老齢化及び当組合の業績悪化のため、経営の継続が困難となったことから、8年ぐらい前から本件土地を売りに出していたが、平成元年春にF社の仲介で、当組合をB男らに譲渡した。
(B) 総会議事録1及び本件覚書によると、旧出資者は、当組合を240,000,000円で譲渡すること及びその譲渡代金を本件出資持分として7,200,000円、退職慰労金名目で232,800,000円受領することになっている。
(C) 本件領収書によると、旧出資者は、当組合譲渡の手付金として7,200,000円を受領している。
(D) 旧出資者らが受け取った240,000,000円は、最低出資口数である4口を単位に1名当たりの手取り額20,000,000円を基に、新旧出資者が合意した金額である。
(E) 本件出資持分の価値は、次のとおり本件土地の含み益を有しており、総出資金額の7,200,000円を大きく上回っている。
a 本件出資持分が売買された平成元年8月8日現在の請求人の資産は、主として本件土地であり、前記(イ)のCの(C)のとおり、平成2年1月26日に本件土地の一部を有限会社Hに365,000,000円(1平方メートル当たり10,584円)で譲渡していること、更に、前記(ロ)のGの(B)のとおり、平成3年8月8日に残土地の一部をK株式会社に311,525,808円(1平方メートル当たり10,599円)で譲渡していることから、本件土地についての前記鑑定評価額801,000,000円(1平方メートル当たり10,599円)は、本件土地の時価として適正なものであると認められる。
b 請求人の債務は、前記(ロ)のFのとおり36,000,000円であると認められる。
c ところで、土地等の含み資産を多く所有している法人の出資金等を評価する場合には、それらの含み益を加味した価額(時価)によるのが通常である。
d そうすると、本件出資持分の評価額は、本件土地の時価801,000,000円から債務36,000,000円を控除した金額に他の資産の価額を加えて、少なくとも765,000,000円以上であることが認められる。
 なお、請求人は、本件出資持分の評価額を、当組合を解散、清算した場合における法人税、新出資者の所得税等差引後の手取り額としているが、もともと出資持分の売買は、事業を継続することを前提としてなされるものであるから、解散及び清算を前提として計算すべきものではなく、この点に関する請求人の主張は失当である。
C 以上の結果、本件退職金は、本件出資持分の譲受代金の一部であって、請求人は、新出資者が負担すべき本件出資持分の譲受代金を退職慰労金名目で旧出資者らに支払ったにすぎないと認められる。
 したがって、本件退職金を請求人が負担したことは、請求人から新出資者に対する経済的利益の供与に当たり、このことは、法人税法第37条に規定する寄付金と認めるのが相当である。
ロ 本件支払手数料について
 本件支払手数料は、請求人が負担すべきか否かについて争いがあるので、以下審理する。
(イ) A男の答述及び原処分関係資料に基づき当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
A 本件支払手数料は、平成元年9月27日F社に支払われていること。
B 本件支払手数料7,200,000円は、今回動いた金額240,000,000円の3パーセントに当たること。
C 上記240,000,000円は、前記イのとおり本件出資持分の譲渡金額であること。
(ロ) 以上の事実から判断すると、次のとおりである。
 本件支払手数料は、本件出資持分の売買に係るものであると認められることから、その負担割合はともかく、売買の当事者が負担すべきものであり、請求人が負担すべきものではない。したがって、本件支払手数料を請求人が負担したことは、請求人が売買当事者に対し経済的利益を供与したものであり、このことは、法人税法第37条に規定する寄付金と認めるのが相当であり、新出資者に対する寄付金と認定した原処分は、その結論において正当である。
ハ 以上のことから、本件退職金及び本件支払手数料は、いずれも寄付金に当たるとして、原処分庁が法人税法第37条の規定を適用し損金不算入額を計算した更正は適法であるから、請求人の主張には理由がない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 上記(1)のとおり、更正は適法であり、また、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定は適法である。
(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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