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(平4.3.4、裁決事例集No.43 346頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年分の贈与税の申告書に、課税価格を6,305,263円、納付すべき税額を1,647,000円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成3年1月7日付で課税価格を9,082,100円、納付すべき税額を2,906,000円とする更正及び過少申告加算税の額を125,000円とする賦課決定をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成3年3月6に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月21日付で棄却の異議決定をし、異議決定書の謄本は同月25日に請求人に送達された。  請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして、平成3年7月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 更正について
 請求人は、平成元年12月22日に父である○○(以下「贈与者」という。)からP市R町47番1の宅地244.62平方メートル(以下「本件土地」という。)の共有持分120分の11(以下「本件贈与土地」という。)の贈与(以下「本件贈与」という。)を受けた。
 請求人は、本件贈与に係る贈与税の申告に際し、本件贈与土地の課税価格を別表の「請求人の主張」欄に記載のとおり、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分(以下併せて「過去3年分」という。)の路線価(相続税財産評価に関する基本通達(以下「評価通達」という。)に定める路線価をいう。以下同じ。)の平均額に基づいて算定した。
 原処分庁は、これに対して、本件贈与土地の課税価格を別表の「原処分庁の主張」欄に記載のとおり、本件贈与がなされた平成元年分の路線価に基づいた路線価方式(評価通達に定める路線価方式をいう。以下同じ。)により算定して更正をした。
 しかしながら、更正は次のとおりで違法である。
(イ) 平成元年3月30日付直資2ー205(例規)、直評6「相続税及び贈与税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」通達(以下「改正相当地代通達」という。)においては、借地権課税における相当地代の額の計算の基礎となる土地の価額は、当該土地に係る相続税評価額の過去3年間の平均額とすることを認めている。
 一方、評価通達においては、贈与により取得した宅地の価額は、取得時点における当該宅地の路線価に基づいて計算すべきものとされている。
 ところで、上記の改正相当地代通達は、相当地代の算定の基礎となる土地の価額について収益還元法に基づいた時価の考え方を採用し、評価通達は、贈与物件の価額について贈与時価のよるべき基準を示しており、両通達とも時価を基本としている。
 したがって、税務上、本来一つであるべき時価に二つの考え方が存在していることになるので、請求人が、改正相当地代通達に定める時価の算定方法を選択して、本件贈与土地の課税価格を過去3年分の路線価の平均額に基づき算定したことも認められるべきである。
(ロ) 第三者間における土地の売買取引の場合は、税務上、当事者が合意した取引価額が多少低くてもそのまま認められるにもかかわらず、親子間の土地の贈与の場合には、当該土地の課税価格の算定に当たり、贈与年分の路線価に基づく路線価方式による評価額しか認められないのは不公平であり、納得できない。
(ハ) また、本件土地上には贈与者の所有する建物があり、更地の場合とは異なるから、本件贈与土地の課税価格は底地価額として計算されるべきである。
 すなわち、税務上、親子間の土地の貸借の場合には、借地権は認められないときがあるが、その場合においても、底地の所有者が様々の民法上の制約を受けていることは事実であり、本件贈与土地の底地価額も更地としての価額よりは低くされるべきものである。
 したがって、更地を基準とした路線価を本件贈与土地の底地価額の計算に適用するためには何らかの調整が必要であるが、明文の規定がない以上、本件贈与土地の課税価格の計算に当たり、便宜的に改正相当地代通達に定める方法に準じて、過去3年分の路線価の平均額に基づくことも認められるべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
(イ) 以上のとおり、更正は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定も違法である。
(ロ) また、本件のように、請求人と原処分庁との見解の相違に端を発した更正についてまで過少申告加算税を賦課するのは酷であり、納得できない。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
(イ) 相続税法22条《評価の原則》によると、相続、遺贈又は贈与(以下「相続等」という。)により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定され、この時価に関する評価方法については、国税庁において評価通達を定め、その評価基準に従って各税務署が統一的に財産評価をしているところであり、この評価基準によらないことが正当と認められるような特別な事情がある場合を除き、評価通達に基づいて評価することが課税の公平を期することとなる。
 そして、本件贈与に係る本件贈与土地の評価においては、この評価基準によらないことが正当と認められるような特別な事情はない。
 したがって、別表の「原処分庁の主張」欄に記載のとおり、平成元年分の路線価に基づいた路線価方式により、本件贈与土地の課税価格を算定して行った更正は適法である。
 また、改正相当地代通達において、相当地代の額の計算の基礎となる自用地の価額を評価通達25《貸宅地の評価》に定める自用地としての価額の過去3年間の平均額としているとしても、この取扱いは相当地代の額を計算する場合に限って認められているものであって、土地自体の評価に適用できるものではない。
(ロ) 一般に、親子のような特殊関係者間の土地の贈与の場合には、第三者間取引の場合のような取引価額は存在しないから、課税の公平を期するため、統一的な評価基準に基づき客観的に土地の価額を評価しているところである。
(ハ) 本件土地上の建物は請求人及びその家族の居住の用に供されているが、当該土地は地上権又は借地権の目的となっていないことから、本件贈与土地の課税価格の計算につき更地を基準とした路線価に基づいた路線価方式を採用したことは適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は適法であり、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項の正当な理由がある場合には該当しないから、同条第1項の規定に基づいて行われた過少申告加算税の賦課決定は適法である。

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3 判断

(1) 更正について

 本件審査請求の争点は、本件贈与土地に係る時価の評価方法ないし評価額にあるので、以下検討する。
イ 請求人の答述、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成元年12月22日に本件贈与を受けたこと。
(ロ) 本件土地上には贈与者の所有する建物があり、当該建物には昭和57年以来、請求人、その妻、長男、長女及び次男の5人が居住していること。
 なお、贈与者は、P市S町3番地に居住していること。
(ハ) 本件贈与直前における本件土地は、請求人と贈与者によって共有され、それぞれの持分は2分の1ずつであったこと。
(ニ) 本件贈与直前及び本件贈与後における本件土地の使用関係については、請求人と贈与者の間に特段の契約はなく、両者間において地代家賃の授受はないこと。
(ホ) 本件土地の贈与年分(平成元年分)の正面路線価は、1平方メートル当たり435,000円であること。
(ヘ) 本件土地は、普通住宅地区(評価通達に定める普通住宅地区をいう。以下同じ。)に位置し、一路線の中央に面しており、実測間口13.0メートル、実測奥行19.2メートルであること。
ロ 以上の認定事実に基づき判断したところ、次のとおりである。
(イ) 請求人は、税務上、本来唯一であるべき土地の時価に改正相当地代通達に基づく時価と評価通達に定める時価の二つがある以上、納税者がこれらを選択適用することが認められるべきである旨主張する。
 ところで、相続税法第22条によれば、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により評価することとされているが、同条に規定する時価とは、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に成立すると認められる価額(以下「市場価額」という。)をいうものと解される。
 また、評価通達における土地の評価の取扱いは、相続等により取得した土地の時価を評価するために、国税庁長官が各種の調査事項に基づいて一般的な事項を定めたものであり、その評価基準は、国税局長が土地の時価事情の類似する地域ごとに、売買実例価額、精通者意見価格等に基づいて、毎年作成していることが認められるので、当該土地の評価の取扱い及びその評価基準(以下「土地評価通達等」という。)は、一体のものとして十分に合理的基礎を有するものと認められる。
 したがって、土地評価通達等に定める評価方法は、具体的適用が正しく行われるならば、贈与により取得した土地の評価方法として妥当性を有するものというべきであり、この方法によって算定された評価額は、特段の事情がない限り、相続税法第22条に規定する時価と解するのが相当である。
 そして、本件贈与土地においては、全資料を検討しても、土地評価通達等に基づいて評価することが不相当と認められるような特段の事情は認められないので、これに基づき、贈与年分の路線価に基づいた路線価方式により本件贈与土地の課税価格を算定したことには、違法性はない。
 ところで、改正相当地代通達は、借地権の設定された土地について、権利金の支払に代え相当の地代を支払うなどの特殊な場合の相続税及び贈与税の取扱いを定めた通達の適用上、「相当の地代」の額を算定するために発遣されたものであり、土地自体を評価するためのものではない。
 したがって、改正相当地代通達と評価通達とはその目的が異なるのであるから、両者を選択適用することはあり得ない。その上、本件贈与土地については、前記イの(ニ)のとおり借地権の設定はなく、地代等の授受もないのであるから、改正相当地代通達を適用する余地がないことは明らかである。
(ロ) 請求人は、第三者間における土地の売買取引と比較して、親子間の土地の贈与が不公平な取扱いを受けている旨主張する。
 一般的に、第三者間の売買取引における土地の譲渡価額は、市場価額に基づいて決定されるものと認められ、売買当事者間の個別事情を考慮しても市場価額から著しくかい離しないのが通常である。
 したがって、譲渡所得を算定するに当たっては、実際の譲渡価額に基づくのが相当である。
 これに対し、土地の贈与においては客観的な取引価額が存在しないため、贈与により取得した土地の課税価格の計算に当たっては、課税の公平の見地から、統一的な評価の基準が必要であるところ、土地評価通達等に定める路線価は、上記(イ)に記載のとおり、相続税法第22条に規定する時価すなわち市場価額の指標として合理的基礎を有するものと認められる。
 したがって、第三者間の売買取引において成立する土地の価額と路線価に基づく路線価方式により算定した土地の課税価格との間にそごはなく、第三者間売買と親子間贈与との間に不公平な取扱いがあるとする請求人の主張は採用できない。
(ハ) 請求人は、本件土地上には贈与者の所有する建物があるから、本件土地は更地ではないにもかかわらず、これについて更地を基準とした路線価をそのまま適用するのは不当である旨主張する。
 ところで、一般に、1使用貸借関係は貸主の一方的意思表示によりいつでも終了させることができ、貸主の承諾なしには使用貸借の目的物を第三者に使用収益させることができないなど、使用貸借に係る土地の使用権は借地権と比較して権利性が極めて弱いこと、2使用貸借契約は親子あるいは夫婦といった特殊な人的関係を背景として成立するものであり、当事者間に利害の対立がなく、使用貸借に係る土地の使用権者に借地権者ほどの強い権利意識がないこと等を勘案すると、使用貸借に係る土地の使用権の経済的利益はこれを零と評価するのが妥当であると認められる。
 したがって、使用貸借関係が存在する土地であっても、その評価上、控除すべき価額が存しないから、更地と同様に評価するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件土地に係る本件贈与直前及び本件贈与後の使用関係は、前記イの(ニ)の事実から使用貸借であると認められるから、原処分庁が本件贈与土地について更地と同様に評価したことは相当であり、請求人の主張は理由がない。
(ニ) なお、前記イの(ヘ)の事実によると、本件土地は、普通住宅地区の一路線の中央に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有する長方形のものであることが認められるので、当審判所において、本件贈与土地の課税価格を評価通達13《路線価方式による評価》の定めにより評価すると、別表の「審判所の認定」欄に記載のとおり9,754,222円となる。
 そうすると、本件贈与土地の課税価格は更正の額を上回ることとなる。
 以上のとおり、更正は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定について

 請求人は、見解の相違による更正であることを理由に過少申告加算税の賦課決定は不当であると主張するが、課税当局と見解を異にすることをもって、直ちに国税通則法第65条第4項の正当な理由があるとはいえず、他に同条項にいう正当な理由の存在を認めるに足りる資料もないので、過少申告加算税の賦課決定は適法であり、全資料を総合しても、これを不相当とする理由は認められない。
(3) 原処分のその余の部分については、当事者間に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 そうすると、本件審査請求は、いずれも理由がないものとして、棄却を免れない。

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