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(平4.8.6、裁決事例集No.44 30頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年6月21日に死亡した○○の相続人であるが、この相続開始に係る相続税の申告書に次表の申告欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、修正申告書に次表の修正申告欄のとおり記載して、平成2年11月27日に修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し平成3年2月4日付で過少申告加算税の額を6,011,000円、重加算税の額を1,354,500円とする賦課決定をした。

 

項目
区分
申告 修正申告
課税価格 2,058,527,000 2,151,407,000
納付すべき税額 1 1,297,068,900 1,361,055,900
納税猶予税額 2 274,195,600 334,311,600
申告期限までに納付すべき税額(12 1,022,873,300 1,026,744,300

 

 請求人は、過少申告加算税の賦課決定を不服として平成3年3月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年6月4日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分についてなお不服があるとして、平成3年7月3日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、本件修正申告に係る納税猶予税額の増加額に対して過少申告加算税の賦課決定をしているが、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項の規定の納付すべき税額の対象額は、申告期限までに納付すべき税額の増加額であるから、納税猶予税額の増加額に対してまで過少申告加算税を賦課する対象とすべきではない。
ロ 納税猶予の対象とした農地は、P市中部農業委員会長から納税猶予に関する適格証明書を交付されており、その内容で所在地、面積が証明されているので、当該農地の評価誤りによって生じた税額は過少申告加算税の賦課の対象とはならない。また、原処分庁は、請求人の申告状況及び経過等請求人の個々の具体的事情を考慮していない。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 相続税の納税猶予について、措置法第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》第1項の特例(以下「本件特例」という。)は、農業を営んでいた個人として政令で定める者(以下「被相続人」という。)の相続人で政令で定める者(以下「農業相続人」という。)が、当該被相続人からの相続又は遺贈によりその農業の用に供されていた農地法第2条《定義》第1項に規定する農地等の取得をした場合には、当該相続に係る相続税法第27条《相続税の申告書》第1項の規定による申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該農地等で当該申告書に本件特例の規定の適用を受けようとする旨の記載のあるもの(以下「特例農地等」という。)に係る納税猶予分の相続税の額については、当該申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税の額に相当する担保を提供した場合に限り、相続税法第33条《納付》の規定にかかわらず、当該農業相続人の死亡の日、又は当該申告書の提出期限の翌日から20年を経過する日のいずれか早い日まで、その納税を猶予する旨定めている。そして、措置法第70条の6第2項において、同一の被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得した者のうちに本件特例の規定の適用を受ける農業相続人がある場合における当該財産の取得により農業相続人が納付すべき相続税の額は、次の(イ)及び(ロ)の金額の合計額とする旨定めている。
(イ) 農業相続人の納税猶予税額(措置法第70条の6第2項第2号イ)
(ロ) 相続税の課税価格の計算上、特例農地等の価額を農業投資価格によって計算した場合の農業相続人の税額、すなわち、申告期限までに納付すべき税額(措置法第70条の6第2項第2号ロ)
 したがって、通則法第65条の規定の納付すべき税額は、措置法第70条の6を適用した場合、前記のとおり本件修正申告に係る申告期限までに納付すべき税額と納税猶予税額の各増加額の合計額になる。
ロ 請求人が主張するその他の理由については、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合には該当しないから、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課したことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、通則法第65条第1項に規定する納付すべき税額の対象額及び同条第4項に規定する正当な理由があるか否かにあるので、以下審理する。
(1) 請求人は、通則法第65条第1項の規定の納付すべき税額の対象額は、申告期限までに納付すべき税額の増加額であるから、納税猶予税額の増加額に対してまで過少申告加算税を賦課する対象とすべきではない旨主張する。
 ところで、通則法第65条第1項は、修正申告書の提出があったときは、その修正申告に基づき増加する納付すべき税額に過少申告加算税を課する旨規定している。
 そして、本件特例の規定の適用を受ける農業相続人の納付すべき税額は、措置法第70条の6第2項第2号の規定により、次に掲げるイ及びロの金額の合計額とされている。
イ 農業相続人の納税猶予税額
 この場合の農業相続人の納税猶予税額とは、特例農地等を通常の相続税評価額による課税価格を基にして計算した相続税法第16条《相続税の総額》に規定する相続税の総額から、特例農地等を措置法第70条の6第5項に規定する農業投資価格(以下「農業投資価格」という。)に置き換えて計算した相続税の総額を控除した金額である。
ロ 農業相続人の申告期限までに納付すべき税額
 この場合の農業相続人の申告期限までに納付すべき税額とは、特例農業地等の通常の相続税評価額を農業投資価格に置き換えた課税価額を基にして計算した当該農業相続人に係る相続税額である。
 そうすると、本件の場合の過少申告加算税を課する税額は、上記イの農業相続人の納税猶予税額と上記ロの農業相続人の申告期限までに納付すべき税額の本件修正申告に基づき増加するそれぞれの税額の合計額となる。
 したがって、申告期限までに納付すべき税額の増加額のみを過少申告加算税を賦課する対象とすべきであるとする請求人の主張には理由がない。
(2) 請求人は、納税猶予の対象とした農地はP市中部農業委員会長から、納税猶予に関する適格証明書を交付されており、その内容から所在地、面積が証明されているので、当該農地の評価誤りによって生じた税額は過少申告加算税の対象とはならない旨主張する。
 通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
 ところで、過少申告加算税は、当初から正当に申告、納税した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するため、適法な申告をしなかった納税者に対し課されるものであり、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解されている。
 なお、この場合の「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告をし、又は更正を受けた場合、若しくは災害又は盗難に関し、申告当時損失とすることを相当としたものが、その後、予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け、又は盗難品の返還を受けたため修正申告をし、又は更正を受けた場合など、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意過失に基づかずして過少申告となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものとされ、こうした納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合を意味するものであるところから、過少申告が納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合には、これに該当しないものと解されている。
 これを本件についてみると、農業委員会の証明書は、単に当該農地が本件特例の規定の対象となるか否かを証明するため、相続税の申告書に添付しなければならないものであって、この証明書が添付されていることによって過少申告であるという客観的事実がなくなるものではなく、また、この証明書が添付されているからといって、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するとは認められない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。
 以上の結果、原処分庁が通則法第65条第1項の規定に基づいてした原処分は適法である。
(3) その他
 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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