ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.44 >> (平4.11.25、裁決事例集No.44 61頁)

(平4.11.25、裁決事例集No.44 61頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成元年分の所得税の確定申告書に次表のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分
総所得金額 7,561,755
内訳 給与所得の金額 5,949,480
雑所得の金額 1,612,275
分離長期譲渡所得の金額 12,359,778
納付すべき税額 2,073,900

 

 原処分庁は、これに対し平成2年4月27日付で、次表のとおり更正をした。

(単位:円)
区分
年分
項目
平成元年分
更正 総所得金額 7,561,755
内訳 給与所得の金額 5,949,480
雑所得の金額 1,612,275
分離長期譲渡所得の金額 12,359,778
納付すべき税額 2,305,300

 

 更に、原処分庁は、平成2年7月31日付で、次表のとおり再更正(以下「本件再更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分
年分
項目
平成元年分
更正 総所得金額 7,561,755
内訳 給与所得の金額 5,949,480
雑所得の金額 1,612,275
分離長期譲渡所得の金額 54,719,556
納付すべき税額 11,513,300
賦課決定 過少申告加算税 1,225,500

 

 請求人は、本件再更正を不服として平成2年8月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年12月6日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成2年12月13日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 分離長期譲渡所得の金額について
 請求人は、請求人の配偶者であったA女(以下「A女」という。)との調停離婚の成立に伴い、同人に対して○○市××町6丁目151番5所在の宅地9.91平方メートル、同所105番4所在の宅地160.93平方メートル(以下、併せて「本件土地」という。)及び同所105番4所在(家屋番号105番4の2)の木造瓦葺2階建居宅共同住宅延床面積165.25平方メートル(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件財産」という。)を分与し、これら本件財産の2分の1に係る分離長期譲渡所得の金額を平成元年分の所得税の確定申告書に記載して申告したところ、原処分庁は本件財産はそのすべてが請求人の所有するものであり、譲渡所得の計算に誤りがあるとして本件再更正を行った。
 しかしながら、本件財産は不動産登記簿上請求人名義となっているが、真実の所有関係は請求人の特有財産ではなく、次の理由により請求人とA女との共有財産(持分各2分の1)であり、原処分庁は、本件財産の実質的所有関係につき事実誤認をしている。
(イ) 本件土地の借地権については、請求人が昭和26年に権利金60,000円を支払い、地主のB女(以下「B女」という。)から請求人名義で借地したものであるが、この借地権の取得費は、A女手持ちの生計費より支払われ、この生計費の資金源は、昭和23年の婚姻時のA女の持参金100,000円及び昭和23年から昭和26年ころまでの3年間の請求人の給与の蓄積である。
 しかしながら、当時の請求人の給与の低額なことや、A女の実家より請求人宅に対する生活費補助の事情等から、当該借地権の取得費60,000円はA女の持参金100,000円のうちから支払われたというべきである。
(ロ) 昭和26年に、本件土地上に、請求人名義の木造瓦葺平屋建居宅床面積53.71平方メートル(以下「旧建物」という。)を建築し、その建築代金の支払については、住宅金融公庫から請求人名義で260,000円を借り入れ、更に、A女の父から2棟分の建築資材の送付を受け、そのうち1棟分の建築資材を、建築請負代金として現物でそれぞれ支払った。
(ハ) 前記(イ)の本件土地の借地契約の期限が昭和46年に到来し、B女は、本件土地の所有権の買取りを求めてきたことから、請求人は、当該所有権を3,000,000円で取得し、その支払については、請求人の当時の勤務先であるC株式会社(以下「C社」という。)から3,000,000円を借り入れて支払った。
(ニ) 昭和54年に旧建物が旧弊となったことから取り壊し、本件建物を建築した。建築資金の支払については、D株式会社(以下「D社」という。)から16,000,000円を借り入れて支払った。
(ホ) 前記(ハ)のC社より借り入れた3,000,000円については、借入れ以後毎月の給与から一部を割賦返済し、昭和52年4月に同社を定年退職することに伴い、受領した退職金15,000,000円のうちから借入金の残額1,911,244円を同月28日に返済した。
(ヘ) 前記(ニ)のD社から借り入れた16,000,000円については、昭和54年2月から昭和62年5月までにC社健康保険組合からの給与等により一部を割賦返済し、昭和62年5月20日に借入金の残額6,747,329円を前記(ホ)の退職金の残金(E銀行の貸付信託としていたもの)から返済した。
(ト) 請求人は、昭和21年から昭和52年までC社に勤務し、昭和52年以降はC社の関連事業部門に勤務した。その間、A女は専業主婦として育児、家計の維持に当たってきたが、請求人の定年退職を迎えて家産として残ったものは本件財産と若干の預貯金であり、本件財産は請求人名義となっているが、40年に及ぶ夫婦の協働が、わずかながらも家産として残したものと考える。
(チ) 以上のことから、本件財産の所有関係は、請求人とA女との共有財産(持分各2分の1)であり、財産分与による本件財産の譲渡は、請求人の所有する共有持分の2分の1となり、残りの共有持分の2分の1については、真実の所有者であるA女に登記名義の回復処理をしただけで、財産分与による譲渡ではない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件再更正は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 分離長期譲渡所得の金額について
 請求人は、本件財産の実質的所有関係について事実誤認があると主張するが、次のとおり本件財産は請求人の所有であることが明らかであるから、本件財産の全部について譲渡所得の課税の対象とした本件再更正を取り消すべき理由はない。
(イ) 所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する譲渡所得の基因となる資産の譲渡には、民法第768条《財産分与の請求》の規定による財産の分与としての資産の移転も含まれ、財産分与をした者は、その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したことになると解されている。
(ロ) ところで、異議審理庁の担当職員が調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和23年6月14日にA女と婚姻したこと。
B 請求人は、昭和26年に本件土地の借地権を60,000円で取得し、請求人名義で借地契約をしたこと。
C 請求人は、昭和26年に本件土地の上に旧建物を建築し、請求人名義で所有権保存の登記をしたこと。
D 請求人は、昭和46年に本件土地の所有権を3,000,000円で取得し、請求人名義で昭和46年4月28日に所有権移転の登記をしたこと。
 上記所有権の取得資金は、請求人の勤務先であるC社から借り入れ、この借入金は請求人が同社を退職するに当たり支払われた退職金で完済されていること。
E 請求人は、昭和53年9月30日に旧建物を取り壊し、その後、本件建物を建築し、請求人名義で昭和54年2月1日に所有権保存の登記をしたこと。
 本件建物の建築資金16,000,000円は、D社から請求人名義で借り入れ、この借入金は、昭和62年5月20日に完済されていること。
F 請求人は、平成元年3月20日にA女に対し、離婚に伴う財産分与として本件財産を譲渡するとともに、解決金として3,000,000円を支払うことで離婚の調停が成立したこと。
G A女は、請求人と婚姻後、専業主婦として家政の維持に専念していたこと。
(ハ) 上記の事実から判断すると、次のとおりである。
A 本件土地の借地権の取得費は、請求人の手持現金からねん出され、以後、地代も請求人の収入より支払われ、また、本件土地の所有権の取得費及び本件建物の取得費は、それぞれ請求人の借入金により支払われている。この請求人の借入金は、すべて請求人の手持現金及び請求人の退職金により返済されている。
 なお、請求人は、旧建物の取得に際し、A女の父から建築資材の提供を受けたと主張するが、その事実を確認することはできない。また、仮にその事実があったとしても、旧建物の建築に際して請求人は住宅金融公庫から借入れを行っており、更に、旧建物は昭和53年に既に取り壊されている。
B 請求人は、本件財産は40年間に及ぶ婚姻生活における配偶者の寄与、貢献があって取得できたものであるから、その資産の2分の1は配偶者に帰属すると主張するが、本件財産の取得及び維持管理に関し、配偶者の寄与、貢献があったとしても、本件財産は名実ともに請求人が対価を支払って取得したことが明らかであるので、本件財産の全部が請求人の特有財産である。
 したがって、請求人は財産分与を原因として本件財産の全部をA女に譲渡したものと認められるので、原処分庁は、本件財産の全部について譲渡所得の課税の対象としたものである。
(ニ) 以上の結果、請求人の分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなり、当該金額は本件再更正に係る分離長期譲渡所得の金額と同額であるから、本件再更正は適法である。

(単位:円)
項目 金額
譲渡収入金額 1 101,146,480
取得費 2 16,426,924
特別控除額 3 30,000,000
分離長期譲渡所得の金額(123 54,719,556

 

 上記の表の各項目の内容は、次のとおりである。
A 譲渡収入金額は、請求人が原処分庁に提出した「譲渡内容についてのお尋ね」に記載した金額の2倍の金額である。
B 取得費は、請求人が原処分庁に提出した「譲渡内容についてのお尋ね」に記載した金額の2倍の金額である。
C 特別控除額は、租税特別措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》に規定する金額である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件再更正は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定をしたものである。

トップに戻る

3 判断

 本件財産の譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件財産の持分について争いがあるので、以下審理する。

(1) 分離長期譲渡所得の金額について

イ 当審判所が原処分関係資料、請求人から提出された陳述書等を調査したところ、次の事実が認められ、これらの事実については請求人及び原処分庁の双方に争いはない。
(イ) 請求人は、昭和23年6月14日にA女との婚姻の届出をしたこと。
(ロ) 請求人は、昭和26年に本件土地の借地権をB女から60,000円で取得し、請求人名義で借地契約をしたこと。
(ハ) 請求人は、本件土地上に旧建物を建築し、請求人名義で昭和26年5月24日に所有権保存の登記をしたこと。旧建物の建築代金の一部については、住宅金融公庫から請求人名義で260,000円を借り入れて支払ったこと。
(ニ) 請求人は、昭和46年に本件土地の所有権をB女から3,000,000円で取得し、請求人名義で昭和46年4月28日に所有権移転の登記をしたこと。
 本件土地の所有権の取得資金は、請求人の勤務先であるC社から借り入れ、この借入金は、借入れ以後毎月の給与から一部を割賦返済し、残額は昭和52年4月に同社を退職するに当たり支払われた退職金で同月28日に返済されていること。
(ホ) 請求人は、旧建物を取り壊し、その後、本件建物を建築し、請求人名義で昭和54年2月1日に所有権保存の登記をしたこと。
 本件建物の建築資金16,000,000円は、D社から請求人名義で借り入れ、この借入金は、借入れ以後C株式会社健康保険組合からの給与等により一部を割賦返済し、残額は昭和62年5月20日に上記(ニ)の退職金をE銀行で貸付信託で運用したもので返済されていること。
(ヘ) 請求人は、平成元年3月20日にA女との間で、本件財産の譲渡及び解決金3,000,000円を支払うことで離婚の調停が成立し、同日に財産分与及び解決金の支払が行われ、本件財産は、平成元年4月12日に請求人からA女へ財産分与を原因とする所有権移転の登記がなされたこと。
(ト) A女は、請求人と婚姻後調停離婚するまでの間、専業主婦として家政の維持に専念していたこと。
(チ) 請求人は、平成元年分の所得税の確定申告書に、本件財産に係る請求人の持分を2分の1として、次のとおり分離長期譲渡所得の金額を算出し、申告したこと。

(単位:円)
項目 金額
譲渡収入金額 1 50,573,240
取得費 2 8,213,462
特別控除額 3 30,000,000
分離長期譲渡所得の金額(123 12,359,778

 

ロ ところで、請求人は、本件土地の借地権利金60,000円が婚姻時のA女の持参金より支払われたものであり、また、旧建物につきA女の父より建築資材の送付を受けたことをもって、本件財産が請求人とA女との共有財産(持分各2分の1)である旨主張する。
 このため、当審判所が、請求人に対しその主張に関する証拠資料の提出を求めたところ、請求人は証拠資料を提出せず、当審判所の調査によってもその事実は確認できない。
 更に、前記イの(ロ)ないし(ホ)の事実から判断すると、本件土地の借地権の取得費は、請求人の手持現金から支払われたと推認され、また、本件土地の所有権の取得費及び本件建物の取得費は、請求人が借り入れた借入金により支払われており、更に、当該借入金はすべて請求人の給与や退職金により返済されていることから、本件財産は、すべて請求人の特有財産と認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ハ 請求人は、本件財産が40年間に及ぶ婚姻生活における配偶者の寄与、貢献があって取得できたものであるから、その資産の2分の1は配偶者に帰属し、本件財産の所有関係は、請求人とA女との共有財産(持分各2分の1)であると主張する。
 しかしながら、民法第762条《特有財産、帰属不分明財産の夫婦共有の推定》は、夫婦の一方が婚姻中自己の名で得た財産はその特有財産とする旨を定めているから、配偶者の一方の財産取得に対して他方が常に協力するものであるとしても、婚姻中に夫婦が取得した財産が当然に両者の共有財産であると解する余地はない。
 一方、民法第768条は財産分与請求権を規定しており、夫婦相互の協力、寄与に対してはこの権利を行使することにより結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上配慮している。
 したがって、財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に取得した財産が当然には共有財産とならないことを前提とした上で、離婚に際して夫婦間における財産上の不平等を是正するためのものと解される。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ニ 分離長期譲渡所得の金額
 以上の結果、本件財産はすべて請求人の所有と認められるから譲渡収入金額及び取得費について、請求人が原処分庁に提出した「譲渡内容についてのお尋ね」に記載した金額の2倍の金額であるとする原処分庁の認定額は相当と認められる。
 また、特別控除額は租税特別措置法第35条に規定する金額であるが、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定額は相当と認められる。
 したがって、分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなり、当該金額は本件再更正に係る分離長期譲渡所得の金額と同額であるから本件再更正は適法である。

(単位:円)
項目 金額
譲渡収入金額 1 101,146,480
取得費 2 16,426,924
特別控除額 3 30,000,000
分離長期譲渡所得の金額(123 54,719,556

 

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

  以上のとおり、本件再更正は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(3) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る