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(平4.12.1、裁決事例集No.44 174頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年分所得税の確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対して、平成3年12月6日付で、次表の「更正等」欄のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分 確定申告 更正等
不動産所得の金額 72,315 72,315
分離長期譲渡所得の金額 4,234,900 6,369,755
納付すべき税額 846,800 1,218,400
過少申告加算税の金額 37,000

 

 請求人は、これらの処分を不服として平成3年12月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成4年3月2日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分についてなお不服があるとして、平成4年3月9日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
(イ) 請求人は、昭和49年に実兄A男(以下「A男」という。)から取得した○○市××町16番38所在の宅地91.78平方メートル(売買契約書の表示面積、公簿面積93.01平方メートル、以下「本件土地」という。)を、平成2年10月5日に7,782,900円で××に譲渡(以下「本件譲渡」という。)した。
 そこで、請求人は、本件譲渡による分離長期譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額の計算に当たり、本件土地の取得費(以下「本件取得費」という。)をA男からの取得価額2,524,000円として申告した。
(ロ) これに対し、原処分庁は、請求人は本件土地を贈与により取得したものであるとして、本件譲渡所得の金額を更正した。
 しかしながら、次のとおり、請求人は本件土地を売買により取得したものである。
A 本件土地についてされた、登記義務者をA男、登記権利者を請求人とする昭和49年3月6日受付の所有権移転登記(以下「取得時の登記」という。)の登記原因は、昭和49年3月1日付売買であること。
B 上記取得時の登記に係る登記原因の正当性は、請求人と本件土地の借地人との間の土地明渡等請求訴訟事件(以下「明渡請求訴訟」という。)に関する昭和59年×月×日の最高裁判所判決においても認められている。
(ハ) 原処分庁は、請求人が本件土地をA男から贈与により取得したとする昭和49年分贈与税の申告書が提出されていることをもって、請求人が本件土地を贈与により取得した証拠であるとする。
 しかし、当該申告書は、請求人が当時の原処分庁の担当職員に対し、本件土地の売買に関し、本件土地の登記済権利証書(取得時の登記に係るもの、以下同じ。)、売渡証書及び請求人名義の普通預金通帳(預金残高3,000,000円)を提示して税務手続等を尋ねたところ、同職員から贈与として取り扱われると言われたため提出したもので、これは、原処分庁の誤指導によるものである。
(ニ) 以上のことから、本件譲渡所得に係る本件取得費は、売買による取得価額である2,524,000円とすべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記イのとおり、更正は違法であるから、これに伴ってされた過少申告加算税の賦課決定も違法である。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
(イ) 請求人は、本件土地をA男から売買により取得したと主張するが、代金の支払の事実がないことから、実質的に贈与により取得したものと認められる。
 なお、請求人は、本件土地をA男から昭和49年3月1日に贈与により取得したとして、昭和49年分贈与税の申告書を提出している。
(ロ) ところで、贈与により取得した資産を譲渡した場合は、所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項の規定により、受贈者が引き続きその資産を所有していたものとみなされるため、贈与者の取得時期と取得価額を引き継ぐこととなる。
 また、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第31条の5《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項の規定によれば、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合の長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、当該収入金額の100分の5に相当する金額(ただし、取得に要した金額と改良費の額との合計額が、収入金額の100分の5に相当する金額を超えることが証明された場合は、当該合計金額とする。)とされている。
 そこで、本件についてみると、贈与者であるA男が本件土地を取得したのは、昭和27年12月31日以前であると認められるから、本件取得費の額を本件譲渡に係る収入金額7,782,900円の100分の5に相当する金額389,145円とした更正には何ら違法はない。
(ハ) 請求人が主張する本件取得費2,524,000円は、昭和49年分贈与税の課税価格であって何ら根拠のないものである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は適法であり、請求人には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定は適法である。

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3 判断

(1) 更正について

 本件取得費について争いがあるので、以下審理する。
イ 次に掲げる事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
(イ) 取得時の登記は、昭和49年3月6日受付で、登記原因を昭和49年3月1日の売買、登記義務者をA男、登記権利者を請求人としてなされていること。
(ロ) 本件土地は、A男が昭和20年5月26日に△△から贈与を受け、請求人に贈与するまで引き続き所有していたものであること。
ロ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件土地に係る登記済権利証書に添付された売渡証書によれば、売渡代金は別途契約によるとされているものの、売買契約書など請求人が本件土地を売買により取得したことを示す書類及び売買代金の授受を示す領収書の提出がないこと。
(ロ) 請求人は、本件土地をA男から贈与により取得したとして、昭和50年2月21日に原処分庁に対して、昭和49年分贈与税の申告書を提出していること。
(ハ) 請求人が主張する本件取得費2,524,000円は、誤って算出された上記(ロ)の贈与税の申告に係る課税価格相当額(正当額は2,092,725円と認められるところ、当該申告に係る納付税額を基に昭和50年分贈与税の基礎控除額及び税率を適用して逆算した額である。)であること。
(ニ) 請求人は、当審判所に対して、次のとおり答述していること。
A 本件土地の取得代金をA男に支払ったことはない。
B 昭和49年分贈与税の申告書は、A男が作成し、原処分庁に提出した。
ハ 以上の事実に基づいて判断すると次のとおりである。
(イ) 請求人は、本件土地を昭和49年3月1日にA男から売買により取得した旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、売買契約書や売買代金に係る領収書の提出がなく、かつ、請求人自身当該代金の支払がないことを認めていることに照らせば、本件土地に係る取得時の登記原因が売買となっているとしても、それのみをもって、売買の事実があったと認めることはできず、他に何らかの対価の授受があったことを示す証拠もないこと、前記ロの(ロ)のとおり昭和49年分贈与税の申告書が提出されていることから、請求人は、本件土地をA男から贈与により取得したものと認めるのが相当であり、上記請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、昭和49年分贈与税の申告書の提出は、原処分庁の誤指導によるものであると主張するが、その主張を裏付ける証拠の提出がなく、当審判所の調査によってもその事実は認められないから、この点に関する請求人の主張にも理由がない。
 更に、請求人は、明渡請求訴訟に係る最高裁判所の判決において、請求人が本件土地を売買で取得したことを認めていると主張するが、当該訴訟に係る上告審判決(最高裁判所昭和57年上告事件、昭和59年×月×日判決)及び控訴審判決(○○高等裁判所△△支部昭和51年土地明渡等請求控訴事件、昭和57年×月×日判決)のいずれにおいても、そのように解し得る判示はなく、かえって、同控訴審判決において、その理由「ニ」で「被控訴人(請求人)は、本件土地をA男から贈与を受けてその所有権を取得した事実を認めることができる。」とされていることから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) つぎに、請求人は、本件取得費を2,524,000円である旨主張するので検討する。
A 請求人が主張する本件取得費は、前記ロの(ハ)のとおり、誤って算出された贈与税の課税価格相当額と認められ、売買による取得価額としては全く根拠がない。
 また、贈与により取得した資産を譲渡した場合に、たとえ、当該贈与について贈与税が課されていても、贈与税の課税価格をもって譲渡資産の取得価額とすることは、次に述べるように認められない。
B 贈与により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、所得税法第60条第1項の規定により、譲渡者が当該譲渡物件を引き続き所有していたものとみなされ、贈与者の取得時期及び取得費を引き継ぐこととされている。
 また、措置法第31条の5第1項の規定によれば、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた資産を譲渡した場合における分離長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、当該収入金額の100分の5に相当する金額(ただし、当該金額が取得に要した金額と改良費との合計額に満たないことが証明された場合には、当該合計額)とされている。
C そこで、本件についてみると、請求人は、前記イの(ロ)及び上記(イ)のとおり、A男が昭和20年5月26日から引き続いて所有していた本件土地を同人から贈与により取得したものと認められるところ、本件土地の取得に要した金額と改良費の合計額が本件譲渡に係る収入金額の100分の5相当額を超えることの証明はされていないので、本件取得費は、収入金額に100分の5を乗じて算出することになり、請求人の主張には理由がない。
(ハ) 以上により、本件取得費を争いのない本件譲渡に係る収入金額7,782,900円の100分の5相当額389,145円とした更正は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、更正は適法であり、かつ、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の基礎とされていなかったことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(3) 原処分のその余の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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