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(平4.11.19、裁決事例集No.44 198頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産貸付業を営む者であるが、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分(以下「各年分」という。)の所得税の青色の確定申告書に次表のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
不動産所得の金額 12,883,905 14,800,026 4,725,258
所得控除の額 333,000 333,000 853,000
内訳 老年者控除の額 500,000
上記以外の所得控除の額 333,000 333,000 353,000
課税総所得金額 12,550,000 14,467,000 3,872,000
納付すべき税額 3,375,000 3,886,800 474,400

(注)「課税総所得金額」欄の金額は1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額である。以下同じ。

 

 原処分庁は、これに対し平成3年2月27日付で各年分について次表のとおり更正及び過少加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
更正 不動産所得の金額 21,879,869 23,584,264 16,876,988
所得控除の額 333,000 333,000 353,000
内訳 老年者控除の額 0
上記以外の所得控除の額 333,000 333,000 353,000
課税総所得金額 21,546,000 23,251,000 16,523,000
納付すべき税額 7,750,500 7,725,000 4,709,200
賦課決定 過少申告加算税の額 487,000 383,000 609,500

 

 請求人は、各年分の更正を不服として平成3年3月27日に審査請求をした。
 その後、原処分庁は、平成3年4月24日付で昭和62年分について不動産所得の金額を21,789,869円、課税総所得金額を21,456,000円及び納付すべき税額を7,705,500円とする減額の更正(以下、昭和63年分及び平成元年分の各更正と併せて「本件更正」という。)及び過少申告加算税の額を480,500円とする変更決定をした。
 なお、当審判所は、平成元年分所得税に係る過少申告加算税の賦課決定について、あわせ審理する。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 本件更正は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 管理料減算額
 請求人は、昭和56年12月1日、有限会社A(以下「A社」という。)と、請求人が所有し、その大部分を賃貸の用に供している○○市△△町2丁目23番4号所在の建物(以下「本件建物」という。)の総合管理を委託する総合管理委託契約(以下「本件契約」という。)を締結し、その対価として管理料(以下「本件管理料」という。)を支払い、不動産所得の金額の計算上必要経費の額に算入して確定申告している。
 これに対し、原処分庁は、本件管理料は適正と認められる管理料(以下「適正管理料」という。)に比して異常に高額であり、このことは、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっていると認定し、所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認》の規定を適用して、本件管理料のうち適正管理料を超える部分の額(以下「管理料減算額」という。)を各年分の必要経費の額から減算する更正をした。
 しかしながら、原処分庁が所得税法第157条の規定の適用を受ける高額な管理料と判断して管理料減算額を各年分の必要経費の額から減算したことは、次のとおり違法である。
(イ)所得税法第157条の規定は、過大給与の否認、無利息貸付けの利息の認定及び低価譲渡の否認等に適用されるもので、純経済行為にまで適用できるものではなく、本件管理料の支払に同条を適用したことは同条の拡大解釈である。
(ロ)本件管理料と比較する適正管理料は、どのような法的根拠を持つものなのかが明らかでなく、また、適正管理料の算定根拠も不明確である。
 なお、請求人の場合、管理委託の内容は次のとおりである。
A 24時間管理であること。
B 本件建物の事業用の資金繰りのほか、賃貸しのための募集、契約代行、賃貸料の集金及び値上げ交渉等交渉業務のすべてを含むこと。
C 賃貸業務に関する帳簿作成等会計業務のすべてを含むこと。
D 本件建物の保守業務及び清掃業務を含むこと。
(ハ)前回調査時に本件契約の契約書写し及び契約趣旨説明書は提出済みであり、原処分庁は、その際申告を是認しているにもかかわらず、その後法令の解釈にどのような変更があったかについて説明していない。
(ニ)請求人が高齢であるため、本件契約の下に、事業開始当初よりA社の社長であるB男(以下「B男」という。)が本件建物の賃貸に関する業務に専ら従事しているため、支払管理料は当然高額となる。
 また、B男は請求人の所有する本件建物の事業運営のため、A社の本来の業務は全くできず、本件管理料収入がなければA社の経営が成り立たない。
(ホ)仮に、本件管理料が認められないとしても、原処分庁は、適正管理料の算定に当たり、家賃収入のみを基礎収入金額としているが、更新料、礼金、権利金及び共益費等も含めたところの総収入金額を基礎収入金額とすべきである。
ロ 保証金の償却費の額
 原処分庁が平成元年分の不動産所得の金額の計算に当たり、収入金額に加算した保証金の償却費の額(株式会社C(以下「C社」という。)及びD株式会社(以下「D社」という。)から預かった保証金の合計額8,600,000円の20パーセントに相当する金額)1,720,000円は、賃貸借契約を解除して立ち退いた時に復元費用に充てられるものであるから、費用収益対応の原則に基づきその時点で収入金額に計上すべきもので、それまでの間は預り金とする経理を認めるべきである。
ハ 修繕費減算額
 原処分庁が平成元年分の不動産所得の金額の計算に当たり、同年分の修繕費の額のうちに請求人の居宅部分に係る金額が含まれていると認定し必要経費の額から減算しているが、その減算額(以下「修繕費減算額」という。)1,586,738円は、事業の用に供している5階及び6階の雨漏り防止対策上必要であるという有限会社E(以下「E社」という。)の指導に基づいて行った工事に対して支出した金額(以下「本件修繕費」という。)2,221,700円に事業専用割合0.7142を乗じて算定した金額であり、単に請求人の居宅である7階部分に係る修繕費であるから事業性がないという原処分庁の認定は事実を誤認している。
ニ 不動産所得の金額
 以上の結果、請求人の各年分の不動産所得の金額は請求人が確定申告書に記載したとおり昭和62年分12,883,905円、昭和63年分14,800,026円及び平成元年分4,725,258円であり、原処分庁は、各年分の不動産所得の金額を過大に算定している。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 管理料減算額
(イ) 本件管理料の支払は、次の理由から、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっていると認められるので、本件管理料のうち管理料減算額を所得税法第157条の規定に基づき、不動産所得の金額の計算上、必要経費の額から減算した。
 なお、各年分の管理料減算額は、次表のとおりである。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
本件管理料 1 10,800,000 10,800,000 11,043,000
適正管理料 2 1,894,036 2,015,762 2,198,008
管理料減算額(12) 8,905,964 8,784,238 8,844,992

 

A 本件管理料は、管理委託者と管理会社の関係において法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社の判定の基となる株主等及びその親族に該当しない者(以下「同族関係にない者」という。)がその管理会社に対し支払った管理料と比較して異常に高額となっていること。
 このことは、A社が同条に規定する同族会社に該当し、請求人との関係においても、その判定の基礎となる株主等に該当する者であり、かつ、A社の役員が請求人の親族のみであることから、高額な管理料とすることができたもので、純経済人の行為としては、いかにも不自然、かつ不合理なものであること。
B ところで、所得税法第157条の規定は、同族会社の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、これを容認した場合に、その株主又は社員である居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となるときは、これを通常あるべき行為又は計算に引き直し、その所得金額及び納付すべき税額を計算することができることとしていること。
C その際、所得税の負担を不当に減少させる結果となるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された税額と、通常あるべき行為又は計算に引き直して算出された税額とのかい離によって判断すべきものであるところ、本件管理料は後記(ロ)で算定された適正管理料からみて、次表のとおり、本来納付すべき税額を不当に減少させていると認められること。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
確定申告による納付すべき(還付金の額に相当する)税額 1 1,649,400 1,636,800 △2,090,800
適正管理料に引き直した場合の税額 2 5,979,900 5,475,500 821,600
不当に減少した納付すべき税額(21) 3 4,330,500 3,838,700 2,912,400

(注)△印の金額は、還付金の額に相当する税額を示す。

 

(ロ) 適正管理料は、次のとおり算定した。
A 適正管理料の算定の基となる同業者は、次の条件を満たす者で、その抽出に当たっては業態の同一性及び事業規模の近似性等も考慮した。
(A) 県内に貸ビルを有し、不動産貸付業を営む個人で、貸ビルの管理を委託した管理会社との関係が同族関係にない者に該当するもの。
(B) 青色申告書により確定申告をしている者のうち、貸ビルに係る賃貸料収入が、請求人のそれの0.5倍以上2倍以下の範囲内であるもの。
B 適正管理料は、請求人の賃貸料収入に上記Aに該当した同業者の賃貸料収入に占める管理料の割合(以下「管理料割合」という。)の平均値(以下「適正管理料割合」という。)を乗じて次表のとおり算定した。

 

年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
賃貸料収入 1 28,654,100円 30,086,000円 32,228,849円
適正管理料割合 2 0.0661 0.0670 0.0682
適正管理料(1×2) 1,894,036円 2,015,762円 2,198,008円

 

(ハ) また、本件管理料の取扱いについて、請求人は前回調査時において申告額を是認しているにもかかわらず、その後法令の解釈にどのような変更があったかについて説明をしていない旨主張するが、前回調査時の調査担当職員は、所得税法第157条の規定が適用される場合もあり得る旨を説明しており、同条の規定の解釈について、前回調査時と本件更正時で変わりはない。
 ところで、所得税の更正は、ある年分の課税標準等又は税額等を変更させる行為であるから、過去のある年分につき更正しなかったとしても、そのために本件更正が違法となるものではない。
 加えて、前回調査時において、請求人とA社との間の行為又は計算をすべて認容したものではないことは上記のとおりであって、前回調査の結果により請求人に対し更正をしなかったことが、将来、請求人に対し更正を行わないことを約したものでないことはいうまでもない。
ロ 保証金の償却費の額
 不動産の貸付けをしたことに伴い保証金として収受する金額のうちに、不動産の貸付期間の経過に関係なく返還を要しないこととなっている部分の金額がある場合には、当該貸付けに係る資産の引渡しのあった日の属する年分の当該収入すべき金額が確定しているということができるから、当該年分の収入金額に計上することとされているところ、請求人が平成元年中に収受した保証金については、その賃貸借契約書(以下「契約書」という。)によると次の事実が認められるので、保証金の償却費の額を平成元年分の不動産所得の収入金額に加算した。
(イ) 契約書は、昭和64年1月1日付で作成され、その賃貸借の期間は昭和64年1月1日より平成2年12月31日までとなっていること。
(ロ) 契約書の第4条第6項において、保証金は償却費として20パーセント相当額を差し引いた残額を返還することとされ、保証金の20パーセント相当額は契約当初から返還しないことが確定していること。
(ハ) 契約書の第16条第1項において、原状回復は賃借人がこれを行うこととされ、仮に請求人がこれを行っても、その費用は返還すべき保証金から充当されることになっていること。
 なお、平成元年分の保証金の償却費の額は、次表のとおり算定した。

 

項目 C社 D社
保証金 1 3,600,000円 5,000,000円
償却率 2 0.200 0.200
保証金の償却費の額
(1×2)
720,000円 1,000,000円
合計 1,720,000

 

ハ 修繕費減算額
 平成元年分の不動産所得金額の計算上必要経費に算入している修繕費のうち、修繕費減算額1,586,738円は、請求人の居宅である7階部分に係る工事に対する支出であり、これは業務と関連のない家事上の支出であるから不動産所得の金額の計算上必要経費の額から減算した。
ニ 不動産所得の金額
 以上の結果、請求人の各年分の不動産所得の金額は次表のとおりとなり、これらの金額は、いずれも本件更正に係る不動産所得の金額と同額となるから、本件更正は適法である。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
当初申告額 1 12,883,905 14,800,026 4,725,258
管理料減算額 2 8,905,964 8,784,238 8,844,992
保証金の償却費の額 3 1,720,000
修繕費減算額 4 1,586,738
不動産所得の金額
(1234)
21,789,869 23,584,264 16,876,988

 

 なお、平成元年分の所得控除の額は、合計所得金額が10,000,000円を超えることとなり、請求人は老年者に該当しないこととなるので、請求人が確定申告書に記載した金額から老年者控除の額を差し引いた353,000円となる。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、不動産所得の金額の多寡にあるので、以下審理する。

(1) 本件更正について

イ 管理料減算額
 請求人は、原処分庁が本件管理料に所得税法第157の規定を適用したのは違法である旨主張するので、この点について以下審理する。
(イ) 所得税法第157の規定の趣旨
A 請求人は、所得税法第157の規定の趣旨は、過大給与の否認、無利息貸付けの利息の認定及び低価譲渡の否認等に適用されるもので、純経済行為にまで適用できるものではなく、本件管理料の支払に同条を適用したことは同条の拡大解釈である旨主張する。
 ところで、所得税法第157条の規定の趣旨は、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと特殊な関係にある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず税務署長の認めるところにより、その居住者の所得金額及び納付すべき税額を計算することができるとされている。
 すなわち、同族会社の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その私法上許された形式を濫用し、異常な取引形式を選択した場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地からこれを通常あるべき行為又は計算に引き直し、納付すべき税額を算定しようとするものである。
B 当審判所の調査によれば、A社が法人税法第2条第10号に規定する同族会社であること及び請求人がA社の出資者であり、A社と請求人との関係は所得税法第157条第1項に規定する同族会社とその社員であるから、同条の規定の適用については請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否かによって判断するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 所得税負担の不当減少の有無
A 本件のように、その所有する建物等の管理を同族会社に委託している者が支払った管理料について、所得税法第157条の規定が適用されるか否かは、その管理料の支払が請求人の所得税の負担を不当に減少される結果となると認められるか否かによるものであることは前記(イ)のとおりであり、また、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して算出された税額とのかい離によって判断すべきものと解するのが相当である。
 そうすると、本件の場合、本件管理料の支払が所得税法第157条の規定に基づく行為又は計算の否認の対象となるか否かを判断し、また否認すべきものとした場合における適正管理料を計算するためには、同族関係にない不動産管理会社等に建物の管理を委託している同業者が当該不動産管理会社に支払った管理料の金額の賃貸料収入の金額に対する割合との比準の方法によって、通常であれば支払われるであろう標準的な金額を算出し、これと現実の支払管理料の金額とを比較検討することが、一般の経済取引の着目した合理的な方法であると解される。
B そこで、当審判所が原処分庁の適正管理料の算定方法について、原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められ、比準に用いた同業者(以下「比準同業者」という。)の抽出基準は妥当であり、かつ、抽出過程に恣意が介在した事実も認められないから、原処分庁の適正管理料の算定方法には合理性があると認められる。
(A) 原処分庁は、比準同業者の選定を県内に貸ビルを有し、不動産貸付業を営む個人で、貸ビルの管理を委託した管理会社に同族関係にない者を選定の基礎としたこと。
(B) 原処分庁は、上記(A)の者について、貸ビルの賃貸料収入が、請求人のそれの0.5倍以上2倍以内の範囲にあるなど、請求人と同じく青色申告書により確定申告をしている者で、請求人と事業規模が近似すること及び業態の類似性を考慮して比準同業者(昭和62年分9件、昭和63年分及び平成元年分各8件)を選定したこと。
(C) 原処分庁は、適正管理料割合を上記(B)で選定した比準同業者の賃貸料収入及び支払管理料に基づいて算定し、請求人の賃貸料収入に、その適正管理料割合を乗じて請求人の適正管理料を算定したこと。
C また、請求人は、本件管理料と比較する適正管理料は、1どのような法的根拠を持つのかが明らかでない旨及び2適正管理料の算定根拠が不明確である旨主張するが、原処分に係る更正通知書には、1については、所得税法第157条第1項の規定を根拠とする旨の記載があること、2については、適正管理料の額及びその算出根拠が記載されており、これらの記載事項は請求人が本件更正の内容を理解できると思料される程度の具体的なものであり、相当と認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
D そこで、当審判所が比準同業者について原処分関係資料に基づき調査したところ、請求人の委託管理内容と比準同業者の必要経費の支出から推認される管理内容からみて、原処分庁の選定した比準同業者のうちに、比準同業者として相当でないと認められる者が昭和62年分5件、昭和63年分及び平成元年分各4件含まれているので、これらの者を除き請求人の各年分の適正管理料割合及び適正管理料を計算したところ、各年分の適正管理料割合(以下「改定後の適正管理料割合」という。)はそれぞれ昭和62年分0.0612、昭和63年分0.0613及び平成元年分0.0581となり、各年分の適正管理料は、次表のとおりとなる。

 

年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
賃貸料収入 1 28,654,100円 30,086,000円 32,228,849円
改正後の適正管理料割合 2 0.0612 0.0613 0.0581
適正管理料(1×2) 1,753,631円 1,844,272円 1,872,496円

 

E 上記Dで計算した適正管理料を基に通常あるべき行為又は計算に引き直して算出された税額とのかい離を再計算したところ、次表のとおりとなり、本件契約に基づく行為又は計算は、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果になっていると認められる。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
確定申告による納付すべき(還付金の額に相当する)税額 1 1,649,400 1,636,800 △2,090,800
適正管理料に引き直した場合の税額 2 6,050,400 5,561,000 951,600
不当に減少した納付すべき税額(21) 3 4,401,000 3,924,200 3,042,400

(注)△印の金額は、還付金の額に相当する税額を示す。

 

(ハ) 請求人は、前回調査時に本件契約の契約書写しを及び契約趣旨説明書は提出済みであり、原処分庁は、その際申告を是認しているにもかかわらず、その後法令の解釈にどのような変更があったかについて説明していない旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、契約趣旨説明書は、既往の調査の際、請求人が当時の調査担当職員の「管理料が高額ではないか」との指摘に対する弁明の形式であり、その内容は本件の場合の請求人の主張と同様であることから、原処分庁が主張するように、請求人が契約趣旨説明書を提出した既往の調査の際、その調査担当職員は、本件管理料の取扱いについて、所得税法第157条の規定が適用される場合もあり得る旨を説明していることが認められる。
 更に、請求人が契約趣旨説明書を提出した既往の調査の際、当時の調査担当職員は、契約趣旨説明書及び管理料の取扱いについて検討したが更正をしなかったことは認められるものの、当時の管理料を正当と認めたとする事実は認められない。
 また、所得税法第157条の規定の趣旨は前記(イ)のとおりであるから、請求人が契約趣旨説明書を提出した既往の調査の際、原処分庁が更正しなかったことをもって、同条の規定の解釈が本件更正時とで変わったといえないばかりか、本件更正を違法ということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ) 請求人は、請求人が高齢であるため、本件契約の下に、事業開始当初よりB男を本件建物の賃貸に関する業務に専ら従事させていること及びB男は請求人の所有する本件建物の事業運営のため、A社の本来の業務が全くできず、本件管理料の収入がなければA社の経営が成り立たないことを支払管理料が高額となる理由である旨主張する。
 しかしながら、A社は、ラジオ及び電気器具等の修理販売を目的とする法人であり、本件管理料が同社の売上げの一部であったとしても、B男に支払った役員報酬は同社の役員としての役務の提供の対価であるから、本件契約に基づく行為と直接かかわるものとすることは相当ではなく、かえって支払管理料がこのようなB男及びA社の都合で決められるとするならば、その決められた支払管理料は、請求人にとっても必要経費として適正なものとはいえないこととなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は失当である。
(ホ) 請求人は、適正管理料を算定する基礎収入金額は、更新料、礼金、権利金及び共益費等も含めたところの総収入金額とすべきである旨主張する。
 しかしながら、比準同業者の平均的な管理料割合を用いて請求人の適正管理料割合を算定するに当たり、その算定の基礎に臨時的、一時的収入を含めることは推定精度の維持上相当ではなく、平均的な管理料割合及び適正管理料のいずれの計算においても更新料等の臨時的、一時的収入及び共益費等を含めなかったことは相当と認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
(ヘ) 以上の結果、各年分の管理料減算額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
本件管理料 1 10,800,000 10,800,000 11,043,000
適正管理料 2 1,753,631 1,844,272 1,872,496
管理料減算額(12) 9,046,369 8,955,728 9,170,504

 

ロ 保証金の償却費の額
 請求人は、保証金の償却費の額は、賃貸借契約を解除して立ち退いた時に復元費用に充てられるものであるから、費用収益対応の原則に基づきその時点で収入金額に計上すべきであり、それまでの間は預り金とする経理を認めるべきである旨主張する。
 ところで、収入金額について、所得税法第36条《収入金額》第1項には、その年分の各種所得の金額の計上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年分において収入すべき金額とする旨規定されている。
 そして、同条に規定する収入すべき金額とは、収入すべき権利の確定した金額をいうものと解されており、いわゆる権利確定主義により収入計上時期は、収入すべき権利の確定した時を基準にすべきである。
 これを本件保証金の償却費の額についてみると、不動産の貸付けをしたことに伴い保証金として収受する金額のうち20パーセント相当額については、貸付期間の経過に関係なく返還しないこととなっており、当該貸付けに係る資産の引渡しがあった時に収入すべき権利が確定したと認めるのが相当である。
 原処分庁は、契約書記載の事実に基づき、本件における保証金の償却費の額が保証金を収受した時に収入すべき金額として確定していると認定しているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定は相当と認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ハ 修繕費減算額
 請求人は、原処分庁が認定した平成元年分の修繕費減算額1,586,738円は、本件建物のうち事業の用に供している5階及び6階部分の雨漏り防止対策のための本件修繕費2,221,700円に事業専用割合0.7142を乗じて算定した金額であり、単に請求人の居宅である7階部分に係る修繕費であるから、事業に関連のない家事上の支出であるという原処分庁の認定は、事実を誤認している旨主張するので、本件修繕費の事業関連の有無及び修繕費減算額の適否について、以下審理する。
(イ) 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成元年において、本件建物の雨漏り防止のための7階居宅に係るベランダのサッシ部分1か所に修繕及びその他7階室内部分の改装等をE社に依頼したこと。
B E社は、本件建物の7階居宅に係るベランダのサッシ部分1か所の修繕及びその他7階室内部分の改装等を請け負ったこと。
C 上記Aのベランダのサッシ部分1か所の修繕は、サッシの取付位置が本件建物の雨漏りの原因となっているための工事であり、その他7階室内部分の改装等は本件建物の雨漏りとは無関係の工事であること。
(ロ) 上記(イ)の事実から本件修繕費には事業関連部分があることが認められる。
 また、請求人は、当審判所に対し平成元年分の修繕費に関する証拠書類を提出したので、当審判所が証拠書類を調査し、請求人が算出した本件修繕費の適否について審理したところ、次のとおりである。
A 請求人が提出した証拠書類のうち、本件修繕費に関係する書類は、次表のとおりである。

 

順号 日付 書類名 記載金額
1 平成元年8月22日付 見積書 2,271,700円
2 平成元年9月28日付 領収書 700,000
3 平成元年11月28日付 請求書 3,865,116
4 平成元年11月29日付 領収書 1,521,700
5 平成元年11月29日付 領収書 2,238,300

 

B 上記Aの順号3の請求書に記載されている工事内容は、7階居宅に係る土木工事及び洗面化粧台の取付け等であり、事業に関連する修繕費とは認められないこと。
 なお、当該請求書に対する領収書は、順号4及び5であること。
C 請求人は、上記Aの順号2の700,000円と順号4の1,521,700円の合計額に相当する順号1の2,221,700円が本件修繕費であると主張するが、上記Bのとおり、順号4は、居宅の工事に係る部分の領収書であり、この金額を本件修繕費とすることは認められない。
(ハ) 更に、当審判所が雨漏りの工事を請負ったE社を調査したところ、上記(ロ)のAの順号1の見積書については、請求人の求めに応じ、E社が作成したが、工事は行われなかったことが認められる。
 また、順号2の700,000円に係る見積書、請求書及び領収書の控えが確認され、E社における材料仕入れの状況とも一致することから、この領収書金額を当該工事に係る金額とするのが相当である。
(ニ) 以上の結果、事業関連分となる金額は700,000円であり、これに事業専用割合0.7142を乗じた金額499,940円を平成元年分の修繕費の額とすることが相当と認められるから、修繕費減算額は、原処分庁が認定した1,586,738円から499,940円を差し引いた1,086,798円となる。
ニ 不動産所得の金額
 以上の結果、請求人の各年分の不動産所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
当初申告額 1 12,883,905 14,800,026 4,725,258
管理料減算額 2 9,046,369 8,955,728 9,170,504
保証金の償却費の額 3 1,720,000
修繕費減算額 4 1,086,798
不動産所得の金額
(1234)
21,930,274 23,755,754 16,702,560

 

ホ 課税総所得金額
(イ) 所得控除の額
A 老年者控除の額
 原処分庁は平成元年分の老年者控除の額について、請求人の平成元年分の合計所得金額が10,000,000円を超えることから、所得税法第2条《定義》第30号に規定する老年者に該当しないとして、所得税法第80条《老年者控除》に規定する老年者控除の適用を受けることはできないと認定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
B 上記以外の所得控除の額
 上記以外の所得控除の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
C したがって、請求人の各年分の所得控除の額は、昭和62年分333,000円、昭和63年分333,000円及び平成元年分353,000円となる。
(ロ) 課税総所得金額
 以上の結果、請求人の各年分の課税総所得金額は、次表のとおりとなるところ、昭和62年分及び昭和63年分の金額は本件更正に係る課税総所得金額を上回るから、本件更正は適法であるが、平成元年分の金額は本件更正に係る課税総所得金額に満たないから、平成元年分の本件更正はその一部を取り消すべきである。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
不動産所得の金額 21,930,274 23,755,754 16,702,560
所得控除の額 333,000 333,000 353,000
内訳 老年者控除の額 0
上記以外の所得控除の額 333,000 333,000 353,000
課税総所得金額 21,597,000 23,422,000 16,349,000

 

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 請求人には、各年分の確定申告の税額を計算するに当たり、更正により納付すべき税額のうち一部取消しにより減額される部分以外の税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち当該減額される部分以外の税額を基礎とする部分に係る過少申告加算税の賦課決定は適法である。
 ところで、平成元年分については、過少申告加算税の基礎となる税額は4,160,000円であるから過少申告加算税の額は599,000円となるところ、この金額は、賦課決定に係る金額609,500円に満たないので、賦課決定はその一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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