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(平4.12.9、裁決事例集No.44 284頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年1月31日に死亡した○○(以下「被相続人」という。)の共同相続人(以下「共同相続人」という。)であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書に課税価格を118,818,000円、納付すべき税額を38,548,400円と記載して平成元年7月29日に申告した。
 その後、請求人は、平成2年4月10日に、課税価格を102,110,000円、納付すべき税額を31,007,800円とする更正の請求を行い、原処分庁は、これに対し平成2年6月4日付で課税価格を102,110,000円、納付すべき税額を31,007,800円とする更正を行った。
 つぎに、請求人は、相続税の修正申告書に課税価格を104,596,000円、納付すべき税額を32,187,000円と記載して平成3年1月9日に修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
 更に、原処分庁は、平成3年2月28日付で課税価格を127,503,000円、納付すべき税額を42,710,200円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の額を1,052,000円とする賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成3年4月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月9日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成3年8月9日に審査請求した。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正について
(イ) 被相続人は、同人が所有する△△市××町1丁目93番3所在の宅地ほか2筆合計599.52平方メートル(以下「本件宅地」という。)を自己の居住の用及び貸家の用に供していた3棟の建物(以下これらを併せて「旧建物」という。)の敷地として使用していたが、本件相続の開始日現在には、旧建物を取り壊して新建物(以下「新建物」という。)を建築中であったところ、原処分庁は、本件宅地の評価を次のとおり行っている。
A 本件宅地につき、新建物の完成後、居住の用に供される新建物の部分に対応する宅地59.92平方メートル部分(以下「居住用部分」という。)については、土地の使用収益に関する権利の目的となっていない宅地(以下「自用地」という。)として評価している。
B 本件宅地のうち、新建物の完成後、A株式会社(以下「A社」という。)に賃貸する新建物の部分に対応する宅地70.63平方メートル部分(以下「A社賃貸部分」という。)については、相続税財産評価に関する基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成3年12月18日付課評2ー4ほかによる改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)26《貸家建付地の評価》に定める貸家の目的に供されている宅地(以下「貸家建付地」という。)として評価している。
C 本件宅地のうち、新建物の完成後、A社賃貸部分以外で賃貸の用に供される新建物の部分に対応する宅地468.97平方メートル部分(以下「賃貸予定部分」という。)については、自用地として評価している。
(ロ) しかしながら、本件宅地について原処分庁が採用した評価方法は、次の理由により誤っている。
A 建替中の貸家に係る敷地の評価について、評価基本通達には何ら規定がないのであるから、その評価に当たっては、実情に応じ、その評価額に影響を及ぼすべきあらゆる事情を考慮すべきである。
 本件宅地のうち居住用部分を除いた部分は、明らかに自用地とは異なり、その処分は制限され、経済的価値は自用地と比べて低い。
B 本件宅地上の旧建物及び新建物は、その一部がいずれも貸家の用に供され、特に、新建物には旧建物の賃借人であるA社が引き続き入居しており、建物の全体の処分が制約されているのであるから、実質的に、建替中の建物のうち居住用の部分を除いた部分は貸家の用に供されると認められ、本件宅地のうち居住用部分を除いた部分は自用地として評価すべきではない。
C 原処分庁は、貸家の用に供されているか否かの判定を、単に相続開始の一時点のみで行っているが、事業の継続性及び評価の安定性の見地から、あまりにも画一的な取扱いである。
D 原処分庁以外の税務署では、次の条件を満たす敷地については、取壊し直前の用途あん分により貸家建付地として評価されている。
(A) 被相続人にとって、当該土地が唯一のものであること。
(B) 当該敷地上の建物の建築については、被相続人が契約し、建築に着手していること。
(C) 当該建物は、相続開始前に屋根を有し、相続税の申告期限までに完成していること。
(D) 当該建物は、完成後、直ちに賃貸の用に供していること。
E 評価基本通達91《建築中の家屋の評価》によれば、建築中の家屋の評価は建築費用原価の100分の70とされており、また、「租税特別措置法(相続税法の特例のうち農地等に係る納税猶予の特例及び延納の特例関係以外)の取扱について」(平成元年5月8日付直資2ー208の国税庁長官通達をいい、以下「措置法通達」という。)69の3ー1《貸し付けられていた建物の敷地が事業用宅地に当たるかどうかの判定》によれば、小規模宅地の評価に当たっては、建築中の建物が現実に居住の用又は事業の用に供されていないにもかかわらず、一定の条件の下に、当該建物の敷地の用に供されている宅地は、居住の用又は事業の用に供されている宅地に当たるとされている。
 これらの規定は、相続開始の一時点のみで評価する場合に生ずる偶発性を排除し、時価の高騰を起因とした相続税の負担の増加を軽減することを配慮したものと考えられる。
 本件宅地のうち居住用部分を除いた部分についても、同様の観点から、自用地として評価すべきではない。
(ハ) 請求人は、本件宅地のうち居住用部分を除いた部分の価額については、貸家建付地に準じた評価を行い、本件宅地の価額を算定して本件修正申告をした。
 これは、前記(ロ)のBで述べたとおり、本来ならば、本件宅地の居住用部分を除いた部分は貸家建付地として評価されるべきであるが、本件の場合、建物が完成していないから通常の貸家建付地とは異なるので当該部分が貸家建付地であるとした場合の価額に旧建物の賃借人に支払った立退料の合計金額2,060,000円及び新建物の賃貸に際し収受した権利金等の合計金額10,729,005円を加算することにより、当該部分の宅地の価額が合理的に算定されることとなる。
 よって、本件宅地の居住用部分を除いた部分の価額は、別表の請求人の計算欄記載のとおり当該宅地の貸家建付地としての価額590,829,624円に既に支払った立退料及び収受した権利金等の合計金額12,789,005円を加算した603,618,629円となり、これに居住用部分の価額83,049,120円を加算した686,667,749円が本件宅地の価額となるから当該価額を越えてなされた本件更正はその全部が取り消されるべきである。
ロ 本件賦課決定について
 以上のとおり、本件更正はその全部が取り消されるべきであるから、これに伴い本件賦課決定もその全部が取り消されるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正について
 請求人は、本件宅地について原処分庁が採用した評価方法は誤っており、本件宅地のうち居住用部分を除いた部分について貸家建付地に準じた評価をすべきであると主張するが、以下のとおり、請求人の主張には理由がない。
(イ) 評価基本通達26においては、貸家建付地の評価上それが自用地であるとした場合の価額から、一定の割合に相当する価額を控除して計算することとしている。
 ところで、本件宅地については、本件相続の開始の時において被相続人が新建物を建設中であったことは認められるが、当該建物はまだ貸し付けられておらず、また、賃貸借の契約も締結されていない。
 したがって、本件相続の開始の時においては、本件宅地のうちA社賃貸部分以外の部分については貸家建付地とは認められないから、当該部分について自用地として評価したものである。
(ロ) 請求人は、原処分庁以外の税務署では、本件のように建物を建替中の敷地については、取壊し直前の建物の用途に基づいて評価していると主張するが、そのような事実はない。
(ハ) 請求人は、小規模宅地の価額の算定に当たっては建築中の建物が現に居住の用又は事業の用に供されていなくても、当該建物の敷地は、一定の条件の下に居住の用又は事業の用に供されている宅地とされることからも、本件宅地の貸付予定部分は自用地として評価すべきではないと主張する。
 しかしながら、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》の規定は、被相続人の事業の用又は居住の用に供されていた宅地のうち面積が200平方メートルまでの部分のいわゆる小規模宅地については、それが相続人の生活の基盤の維持のために不可欠のものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であるところから、所要の措置を講ずる必要があるとの趣旨に基づいて設けられたものである。
 したがって、事業用建物を建築中又は事業用建物を取得後被相続人等が事業の用に供する前に相続が開始した場合において、当該事業用建物の敷地の用に供されている宅地について一定の条件の下に同条に規定する事業用宅地等に該当するものとして取り扱うこととしているものである。
 一方、貸家建付地として評価するか否かは、当該土地に対し、建物の賃借権に基づく支配権があるか否かで判定するものであるから、これと趣旨を異にする措置法通達を引用し、本件宅地について、貸家建付地に準ずる評価をすべきであるとする請求人の主張は失当である。
(ニ) 本件宅地の価額は、本件宅地のうちA社賃貸部分は貸家建付地として、それ以外の部分は自用地として評価し、更に措置法第69条の3第1項第1号の規定を適用して別表の原処分庁の計算欄のとおり644,057,152円と算定したものであり、この価額は本件更正と同額であるから、本件更正は適法である。
ロ 本件賦課決定について
 以上のとおり、更正は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定したものである。

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3 判断

(1)本件更正について

 本件宅地の価額について争いがあるので、以下審理する。
イ 当審判所が、請求人の相続税の修正申告書及び原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 本件宅地の自用地としての1平方メートル当たりの価額は、1,386,000円であること。
(ロ) 旧建物は、A社への賃貸の用に供していた部分、第三者への賃貸の用に供していた部分及び被相続人の居住の用に供していた部分から成ること。
(ハ) 被相続人は、旧建物の賃借人のうちA社を除くB男ほか6名と賃貸借契約の解除に係る合意書を作成しており、当該合意書によれば、返還する敷金の金額及び立退料の支払金額等は次表のとおりであり、旧建物の賃借人との賃貸借契約は、昭和63年3月31日に終了していると認められること。

 

項目
賃借人
賃貸借契約の合意解除の日 明渡しの期限 変換する敷金の額 立退料の支払金額
B男 昭和63年2月28日 昭和63年3月31日
18,000

200,000
(株)○○ 昭和63年2月29日 昭和63年3月31日 32,000 340,000
E男 昭和63年2月28日 昭和63年3月31日 15,000 150,000
F男 昭和63年2月28日 昭和63年3月31日 18,000 400,000
G男 昭和63年2月29日 昭和63年3月31日 20,000 210,000
H女 昭和63年2月28日 昭和63年3月31日 20,000 230,000
I男 昭和63年2月28日 昭和63年3月31日 50,000 530,000

 

(ニ) 昭和63年6月に旧建物の取壊しが完了し、同月に新建物の建築工事に着手していること。
(ホ) 被相続人の配偶者であるC男(以下「C男」という。)は本件宅地の持分2分の1を、被相続人の三男である請求人及び被相続人の次男であるD男(以下「D男」といい、C男及び請求人と併せて「請求人ら」という。)は各自本件宅地の持分4分の1を、相続により取得したこと。
(ヘ) 本件相続の開始日現在においては、被相続人は本件宅地の上に新建物を建築中であって、この時点では新建物の賃貸借契約は締結されておらず、平成元年4月以降に請求人らは、順次新建物の賃借人との賃貸借契約の締結をしていること及びA社を除き、旧建物の賃借人は請求人らと新建物に係る賃貸借契約を締結していないこと。
(ト) 平成元年5月に新建物が完成し、平成元年8月9日に新建物に係る所有権保存の登記がなされていること。
(チ) 新建物は鉄筋コンクリート造コンクリート葺地下1階付6階建、店舗、事務所、共同住宅総床面積1,667.98平方メートルの建物であり、平成元年5月11日に新建物の建築を請け負ったA社から請求人らに引き渡されていること。
(リ) 新建物の地上6階部分132.40平方メートルはC男及び請求人が使用し、地下1階部分196.53平方メートルはA社に賃貸され、その他の部分は第三者に賃貸されていること。
ロ ところで、相続税法第22条《評価の原則》によれば、相続により取得した財産の価額は、その取得の時における時価によると規定されているところ、評価基本通達26に定める貸家建付地とは貸家の目的に供されている宅地をいうから、貸家建付地とは相続開始の時において現に貸付けの用に供されている建物の敷地を指すものと解するのが相当である。
 また、評価基本通達では、貸家建付地は自用地に比べて低額に評価することとされているが、これは、建物の賃借人はその借りている建物の敷地に対して借地権等の権利を有しているわけではないが、借りている建物の利用の範囲内でその敷地に対しても事実上の支配権を有していることから、敷地の所有者にとっては、その分その敷地の経済的な価値がこれらの目的となっていない自用地に比べて低くなっていることを考慮したものと認められる。
 ただし、相続開始の時において、建物を建替中であっても、旧建物の賃借人が引き続いて新建物に入居することとなっており、立退料の支払がない場合等あるいは新築中の建物について、権利金の授受が完了し賃貸借契約が成立している場合には、新建物のうち当該賃借人に賃貸する部分に対応する部分の宅地は、当該賃借人の支配権が及んでいるといえるから、貸家建付地として評価するのが合理的であると認められる。
ハ そこで、これを本件宅地についてみると次のとおりである。
(イ) A社賃貸部分を貸家建付地として評価することに請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所においても相当と認められる。
(ロ) 本件相続の開始の時には、本件宅地上に被相続人は新建物を建築中であり、旧建物に係る賃貸借契約はA社分を除き解除され、新建物の賃貸借契約はA社を除き平成元年4月以降順次締結され、かつ、新建物に係る賃借人は、A社以外に旧建物の賃借人であった者はいないと認められる。
 したがって、本件建物はA社に賃貸する部分以外は貸付けの用に供されておらず、本件建物が当初から主として賃貸の用に供する目的で建築されたものであっても、本件宅地のうち賃貸予定部分は貸家建付地とは認められず、ほかに本件宅地のうち賃貸予定部分の評価に当たり考慮すべき特段の事情も認められない。
(ハ) したがって、原処分庁が、本件宅地のうちA社賃貸部分の価額を貸家建付地として評価したことには合理性があり、本件宅地のうちその他の部分の価額を自用地として評価して、本件宅地の価額を別表の本件宅地の価額の原処分庁の計算欄のとおり810,377,152円と算定したことは相当であり、また、その計算も適正と認められる。
(ニ) 請求人は、本件宅地の評価を貸家建付地に準じた評価によって行うべきであると主張するが、請求人が主張する評価方法は、本件宅地の貸付予定部分を貸家建付地として評価した価額に、被相続人が旧賃借人に対して支払った立退料等を加算して算定するという独自の計算に基づくものであり、当該部分が貸家建付地でないことは前記ハの(ロ)のとおりであるから、その計算には合理性が認められず、本件宅地の評価方法として採用できない。
(ホ) 請求人は、本件宅地のように建替中の建物の敷地の価額は、ほかの課税庁では取壊し直前の建物の用途に基づいて評価算定することに取り扱われていると主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、請求人が主張する事実は認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ヘ) 請求人は、措置法通達69の3ー1の取扱いからみても本件宅地の貸家予定部分については自用地評価をすべきでない旨主張する。
 しかしながら、措置法第69条の3の規定は、被相続人の事業の用又は居住の用に供されていた宅地のうち面積200平方メートルまでの部分のいわゆる小規模宅地等については、それが相続人等の生活の基盤の維持のために不可欠のものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であり、特に事業用土地については、事業が雇用の場であるとともに取引先等と密接に関連している等事業主以外の多くの者が社会的基盤として居住用土地にはない制約を受ける面があること等に配意して、課税価格に算入すべき価額に対して特別の配慮を加えたものであり、これらの規定が本件宅地の評価に当たりその利用状況等についての判断基準となるものではなく、請求人の主張は失当である。
ニ そうすると、請求人の課税価格は127,503,000円となり、この金額は、本件更正の課税価格と同額であるから、本件更正は適法である。

(2) 本件賦課決定について

 以上のとおり、本件更正は適法であり、また、請求人には、修正申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした事実を修正申告の税額の計算の基礎としなかったことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定は適法である。

(3)その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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