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(平4.7.9、裁決事例集No.44 315頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、地方公務員であるが、平成2年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に、総所得金額8,921,472円(内訳 不動産所得の金額1,701,001円、給与所得の金額7,220,471円)、分離長期譲渡所得の金額から居住用財産の譲渡所得の特別控除額を控除した後の金額(以下「分離課税長期譲渡所得の金額」という。)を220,286,204円、納付すべき税額を37,842,600円と記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成3年11月8日付で総所得金額を8,921,472円(内訳 不動産所得の金額1,701,001円、給与所得の金額7,220,471円)、分離課税長期譲渡所得の金額を220,170,131円、納付すべき税額を53,526,300円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の額を1,568,000円とする賦課決定をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成3年12月9月に異議申立てをしたところ、異議審理庁は異議申立てをした日の翌日から起算して3か月を経過しても異議申立てについての決定をしなかった。そこで、請求人は、平成4年3月19日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

イ 更正について
 本件更正は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
(イ) 請求人は、居住の用に供していた自己所有のP市〇〇町2番36の宅地56.95平方メートル(以下「本件土地a」という。)及び同所2番37の宅地43.83平方メートル(以下「本件土地b」といい、本件土地aと併せて、以下「本件土地」という。)並びに本件土地上の鉄筋コンクリート造陸屋根3階建居宅148.18平方メートル(以下「本件家屋」といい、本件土地と併せて以下「本件土地家屋」という。)を、平成2年3月に譲渡したので、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第31条の4《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》の規定による軽減税率の特例(以下「本件軽減税率の特例」という。)を適用して税額を算定し、平成2年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出したところ、原処分庁は、本件軽減税率の特例の適用要件を具備していないとして、本件更正を行った。
(ロ) しかしながら、本件土地家屋の譲渡は、次に述べるとおり、立法の趣旨等からして、本件軽減税率の特例の適用が認められるべきものである。
A 事実関係は次のとおりである。
(A) 請求人は、昭和37年4月に居住の用に供するため本件土地及び本件土地上の木造瓦葺平屋建居宅42.97平方メートル(以下「旧家屋」という。)を取得し、それ以来居住の用に供してきた。しかし、旧家屋が白蟻災害等のため滅失したので、やむなく本件家屋に建て替えて昭和56年7月に所有権の保存登記をし、それ以後も本件土地家屋を居住の用に供してきたが、平成2年3月に本件家屋を譲渡した。
 したがって、本件土地における居住期間は昭和37年4月から平成2年3月までの29年間、本件家屋の建て替え後の所有期間は昭和56年7月から平成2年3月までの9年間となる。
(B) 旧家屋の登記簿上の所有者は請求人の妻・A女(以下「A女」という。)になっていたが、それは次のような経緯によるものであり、実質的な所有者は請求人であった。
a 旧家屋は、昭和46年6月20日に請求人の父・B男(以下「B男」という。)からA女へ贈与され、同月30日に登記がなされた。
b 本件土地bは、他の数筆の不動産とともに、昭和46年6月20日に請求人からA女へ贈与され、同月30日に登記がなされた。
c 本件土地bに係る前記bの贈与登記は、昭和47年2月7日に錯誤を原因として抹消登記された。
d 前記cの際に、旧家屋についても抹消登記をする予定であったが、贈与者が異なっていたため、後日することとしていたところ、失念してしまった。
e 旧家屋に係る昭和48年から昭和56年までの間の固定資産税及び都市計画税については、A女名義で納付している。
 しかしながら、A女は請求人と結婚後は所得がなかったので、この税金は夫である請求人が納付していたのが事実であるが、金額がきん少であったこともあって、両人ともA女が納付していたという意識は全くなかった。
f 以上の事情から、旧家屋の登記名義が、滅失登記に至るまでの間、A女のままになっていたことについては、現在まで気付かなかった。
B 措置法第31条の4には、次のとおり規定されている。
(A) 同条第1項には、「個人が、その有する土地等又は建物等でその年1月1日において第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第3項に規定する所有期間が10年を超えるものの譲渡には、軽減税率(10パーセント又は15パーセント)を適用する。」旨規定されている。
(B) 同条第2項には、「前項に規定する居住用財産とは、次に掲げる家屋又は土地等をいう。」と規定され、更に、第1号において「個人がその居住の用に供している家屋で日本国内にあるもの」、第2号において「居住の用に供さなくなったもので、その日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡されたもの」、第3号において「前2号に掲げる家屋及びその家屋の敷地の用に供されている土地等」及び第4号において「第1号に掲げる家屋が災害により滅失した場合……災害があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡された土地等」と規定されている。
C 主張の根拠は次のとおりである。
(A) 日本国憲法第25条《生存権、国の社会的使命》第1項には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定されている。
(B) 措置法第31条の4は、土地税制の一環として、キャピタルゲインに対する課税を図るために制定されたもののうち、特に居住用財産に対して課税の軽減を図る趣旨で制定されたものであり、立法の趣旨等は次のとおりである。
a 居住用財産の譲渡は次の居住用財産を取得することが前提となっていることが多く、多大の課税を受けると次の居住用財産の取得が不可能になるために、特に長期所有の居住用財産の譲渡益については課税を軽減して、次の居住用財産の取得を可能にし、国民の生活の権利を保障する趣旨となっている。
b 日本国内の不動産取引等におけるキャピタルゲインは、ほとんどが土地に係るものであり、家屋に係るものは極めて少ないのが実情である。
 したがって、措置法第31の4は、土地のキャピタルゲインに対する課税を趣旨としているといえる。このことは、同条第2項第4号の規定及び租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて通達(以下「措置法通達」という。)31の4ー5《居住用土地等のみの譲渡》に定めるところからもうかがえる。
 なお、措置法第31条の4第2項第3号の規定に基づいて措置法通達31の4ー3《措置法第31条の4第2項第3号に掲げる資産》が定められているが、同様の趣旨から、この通達の定め(注書を含む。)については理解することができる。
c 措置法通達36の2ー6《相続又は遺贈により取得したものとされる建替え後の家屋等の取得時期》は、相続又は遺贈により取得したものとされる建て替え後の家屋等の取得時期について定めている。
 しかしながら、自然災害により滅失あるいは重大な損害を受けた場合などに建て替え又は所有権の登記をなしたときなどや、本件のように自己の所有期間が相当長期間に及ぶ居住用家屋を白蟻被害等のために建て替えた場合等の取得時期については、通達は何も定めていない。
 ところで、措置法通達が、上記のように相続又は遺贈による取得の場合に限ってその取得時期について定めているのは、それ以外の事由によって自己所有の家屋を建て替えた場合には、当然、建て替え前の家屋の所有期間をも含めるということを意味しているからではないのだろうか。
 また、上記の自然災害による滅失や白蟻被害等のために建て替えたような場合の取得時期について、措置法通達36の2ー6を援用することは、法の趣旨を混同したものというべきである。もし税務行政において当然援用されるものと考えているとすれば、税務上与えられた権利を受益するためには、建て替えることを思いとどまり、危険を承知で老朽化した家屋に住み続けなければならないことになる。
(C) したがって、措置法第31条の4第1項の所有期間については、前記Aの(A)の居住の事実等並びに前記(A)及び(B)の立法の趣旨等からして、次のとおり、旧家屋の所有期間をも含めて判断することを主張する。
 なお、本件の場合、前記Aの(B)のとおり、旧家屋の実質所有者は請求人であった。
a 10年超もの長期間にわたって敷地を居住の用に供していながら、災害等のためにその敷地上の家屋を建て替えざるを得なかった場合には、家屋の所有期間は、旧家屋の所有期間をも含めて判断すべきであると考える。
 その理由は、譲渡した土地の上に長期間にわたって自己の家屋を所有して居住してきたという厳然たる事実があるからである。
b 措置法第31条の4の解釈において、居住用財産とは居住用の家屋を除外して考えられないのは当然であるが、その所有期間は、建て替え後の家屋のみにおいて判断すべきではない。
 前記措置法通達36の2ー6においては、あくまでも建て替え後の家屋の所有期間のみをもって判断しているが、建て替え後の家屋を全く新規取得の居住用家屋と位置付け、建て替え後の所有期間のみをもって所有期間とするのは、立法の趣旨及び居住の事実からして当を得たものとはいえず、納税者としては到底納得できない。
(D) 措置法通達31の4ー19《居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合の取扱い》は、居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合においても、一定の要件に合致すれば本件軽滅税率の特例の適用がある旨を定めている。
 ところで、旧家屋の所有者がA女になっていたという登記簿上の形式が動かせないとしても、請求人とA女の場合には、夫婦として旧家屋に居住してきたという事実があるので、上記の通達の趣旨からしても、本件軽減税率の特例の適用が可能である。
(E) また、本件更正は、措置法第31条の4第2項第3号の家屋及びその敷地という言葉の表面的解釈のみによってなされたものと考えられる。
 税法の解釈適用は、国民の素朴な常識を全く無視したものであってはその納得を得ることはできず、税務行政に対する不信感を与えることになりかねない。
 我々納税者の素朴な考え方は、その家屋、土地の上に長期間住んでいたという事実に基づいて、家屋の所有期間は旧家屋の所有期間を通算すべきだということであり、その意味で、本件においても、本件軽減税率の特例の適用が可能だということである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 過少申告加算税の賦課決定は、本件更正の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

イ 更正について
 本件更生は、次の理由により適法である。
(イ) 請求人は、本件家屋の所有期間は旧家屋の所有期間と通算すべきであると主張するが、措置法第31条の4第1項は、「個人が、その有する土地等又は建物等で、その年1月1日において第31条第3項に規定する所有期間が10年を超えるもののうち居住用財産に該当するものの譲渡をした場合…」と規定しており、この10年を超えるかどうかの所有期間の判定について、同法第31条第3項では、「所有期間とは、当該個人がその譲渡をした土地等又は建物等をその取得をした日の翌日から引き続き所有していた期間をいう。」と規定している。
(ロ) 以上のことから、本件家屋の所有期間は、昭和56年7月28日の新築から平成2年3月29日に譲渡するまでの間の8年8か月となり、譲渡をする年の1月1日において10年を超えていないことは明らかである。
 また、所有期間の計算をする場合において、旧家屋の所有期間を通算することにはなっていない。
 したがって、請求人は、本件軽減税率の特例の適用を受けることができない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 前記イで述べたとおり、本件更正は正当であり、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合には該当しないことから、同上第1項に基づいた本件更正により増加する本税に係る過少申告加算税の賦課決定も相当である。

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3 判断

(1) 更正について

 本件土地家屋の所有期間が、本件軽減税率の特例の適用要件に該当するか否かについて争いがあるので、当審判所において調査・審理したところ次のとおりである。
イ 請求人が提出した証拠資料及び原処分関係資料並びに当審判所において調査したところによれば、次の事実等が認められる。
(イ) 本件土地aについて
A 昭和50年3月20日の売買を原因として、昭和55年4月19日に△△から請求人へ所有権移転登記がなされていること。
B 平成元年9月4日の売買を原因として、同日、請求人からC生命保険相互会社(以下「C生命」という。)へ所有権移転登記がなされていること。
(ロ) 本件土地bについて
A 昭和37年4月10日の売買を原因として、昭和39年6月16日に××ほかから請求人へ所有権移転登記がなされていること。
B その後、他の数筆の不動産と共に、昭和46年6月20日の贈与を原因として、同月30日に請求人からA女に所有権移転登記がなされているが、この登記は、錯誤を原因として、昭和47年2月7日に抹消されていること。
C 平成元年9月4日の売買を原因として、同日、請求人からC生命へ所有権移転登記がなされていること。
(ハ) 旧家屋について
A 昭和43年8月30日の申請に基づいて、同年9月7日にB男名義で所有権保存登記がなされていること。
B 昭和46年6月20日の贈与を原因として、同月30日にB男からA女へ所有権移転登記がなされていること。
C 昭和56年3月1日の取壊しを原因として、同年8月5日付のA女の申請に基づいて滅失登記がなされていること。
D 昭和48年から昭和56年度までの固定資産税及び都市計画税の納税通知は、A女に対してなされ、これらの税金は同人名義で納付されていること。
(ニ) 本件家屋について
A 昭和56年7月28日の新築を原因として、同年8月8日に請求人名義で所有権保存登記がなされていること。
B 昭和63年11月2日の売買予約を原因として、同日、C生命を権利者とする所有権移転請求権仮登記がなされていること。
C 平成2年4月23日の取壊しを原因として、同年5月19日に登記簿が閉鎖されていること。
(ホ) 本件家屋における居住状況等について
 平成2年5月15日付P市長発行の住民票写しによれば、請求人は、その家族とともに、昭和56年8月2日から本件家屋に居住していたと認められること。
ロ ところで、本件軽減税率の特例の適用要件のうち「所有期間」について、措置法第31条の4第1項は、「…その年1月1日において第31条第3項に規定する所有期間が10年を超えるもの…」と規定しており、また、措置法第31条第3項は、「…所有期間とは、当該個人がその譲渡をした土地等又は建物等をその取得(建設を含む。)をした日の翌日から引き続き所有していた期間…」と規定している。
 したがって、本件軽減税率の特例の適用は、平成2年分の譲渡については、昭和54年12月31日以前に取得したものを引き続き所有していた場合に該当することになる。
 このため、前記イの事実から判断すると、本件土地についてはこの要件を満たしていることになるが、一方、本件家屋についてはこの要件を満たしていないことになる。
ハ この点について、請求人は、本家家屋は旧家屋が白蟻被害にあったために建て替えたものであるから、このような場合には、旧家屋の所有期間をも含めて本件家屋の所有期間を判断するのが、キャピタルゲインに対する課税の趣旨及び立法の趣旨から正しい法解釈である旨を主張する。
 ところで、土地税制の一環として措置法に規定された譲渡所得に関する規定に限らず、広く譲渡所得の課税の本質がキャピタルゲインに対するものであることは一般的に肯定されているところである。
 しかしながら、譲渡所得に係る税法の各個別の規定の内容が、そのことによって大幅な修正を余儀なくされるということにはならず、各条項はその規定するところに従い、適正に解釈されるべきである。
 したがって、措置法第31条の4第1項の規定に基づいて所有期間について判断すると、前記ロのとおり、あくまでも譲渡をした家屋そのものを取得又は建設した日の翌日から引き続き所有していた期間をもって判断すべきであることは明らかであり、何らかの事情があって家屋を建て替えたとしても、その故をもって、建て替え前の家屋の所有期間をも含めて譲渡をした家屋の所有期間を判断するということにはならないというべきである。
ニ なお、請求人は、措置法通達36の2ー6が、相続又は遺贈により取得したものとされる建て替え後の家屋等の取得時期について、「その取得をした日」は、「当該個人がこれらの資産を実際に取得した日」と定めていることに関して、1それ以外の事由の場合には、当然、建て替え前の家屋の所有期間を含めることを前提としているためである、2原処分庁が所有期間を判断するに当たって、この通達を援用することは誤りである旨を主張する。
 しかしながら、この通達は、本件軽減税率の特例の取扱いに関して定められたものではなく、措置法第36条の2《居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例》の取扱いに関して定められたものであるから、請求人の主張を採用することはできない。
ホ また、請求人は、旧家屋の所有者について、登記簿上はA女になっていたが、実質的な所有者は請求人自身であった旨を主張する。
 しかしながら、請求人が提出した証拠資料等によれば、前記イの(ハ)のAないしDの各認定事実のとおりであるから、旧家屋の所有者はA女であると認められるので、請求人の主張は採用することができない。
ヘ 更に、請求人は、旧家屋の所有者がA女であったという登記簿上の形式が動かせないとしても、措置法通達31の4ー19の趣旨から、本件軽減税率の特例の適用が可能である旨を主張する。
 しかしながら、この通達は、居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合において、その敷地が居住用家屋とともに譲渡された場合の取扱いについて定めたものであり、本件のような建て替え前の家屋の所有者と建て替え後の家屋の敷地の所有者の関係についての取扱いを定めたものではない。
 したがって、請求人のこの主張についても採用することはできない。
 以上のことから、本件土地家屋の所有期間が、本件軽減税率の特例の適用要件に該当しないとした本件更正は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 加算税の賦課決定は、これを不相当とする理由は認められないので、請求人の主張には理由がない。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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