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(平6.2.18、裁決事例集No.47 46頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、食品卸売業を営む同族会社であるが、昭和63年5月1日から平成元年4月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について、次表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、平成4年5月18日付で、次表の「更正」欄のとおり更正処分及び「賦課決定」欄のとおり賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分 項目 金額
確定申告 課税標準額 61,738,000
消費税額 1,852,140
控除税額 2,715,946
還付税額 863,806
更正 課税標準額 62,040,000
消費税額 1,861,200
控除税額 1,872,215
還付税額 11,015
賦課決定 重加算税の額 297,500

 請求人は、これらの処分を不服として平成4年7月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成4年10月2日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成4年10月8日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、消費税の適用が開始される以前の平成元年3月に商品30,000,000円を販売した(以下「本件取引」という。)が、消費税の適用が開始された日以後の平成元年4月に当該商品の返品を受けた(以下「本件返品取引」という。)。
 請求人の代表取締役であるA(以下「A」という。)は、本件返品取引に係る消費税の取扱いについて、平成元年4月下旬ころに、P税務署の間税部門の担当職員(以下「相談担当者」という。)に電話で相談したところ、相談担当者から、本件返品取引は、課税仕入れとしての計上が認められる旨の回答があった。
 そこで、請求人は、相談担当者の回答に基づき、本件返品取引に係る対価の額30,000,000円を課税仕入れに係る支払対価の額に加算したところで、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額を算出して本件課税期間の消費税の確定申告書を原処分庁に提出した。
 これに対して、原処分庁は、本件返品取引は課税仕入れに該当しないと認定して更正処分を行った。
 しかしながら、原処分庁が、上記の相談担当者の回答内容を全く無視して行った更正処分は、信義誠実の原則(以下「信義則」という。)の法理に反するものであることから違法である。
 なお、請求人は、本件返品取引が課税仕入れに該当しないこと及び本件課税期間の納付すべき税額の計算内容については争わない。
ロ 賦課決定処分について
 前記イのとおり、更正処分は違法であるから、その取消しに伴い、重加算税の賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。
 仮に、更正処分が違法でないとしても、本件取引及び本件返品取引は、実際に行った取引で架空の取引ではないことから、請求人には仮装隠ぺいの事実はなく、重加算税の賦課決定処分は違法である。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法である。
イ 更正処分について
(イ) Aは、本件返品取引に係る消費税の取扱いについては平成元年3月20日ころ、相談担当者に電話で照会した旨を申述しているが、本件返品取引に係る取引内容を具体的、かつ、詳細に照会を行った事実は認められない。
 また、審査請求において、請求人は、Aが本件返品取引に係る消費税の取扱いを相談担当者に電話で照会したのは平成元年4月下旬ころであった旨訂正しているが、同月下旬に当該照会が行われた事実は認められない。
(ロ) Aは、P税務署への電話による照会の際に、本件返品取引が消費税の還付を受けるための実体のない、いわゆるペーパー取引であることについては知らせてはいない旨を申述している。
 以上により、本件取引及び本件返品取引の内容が消費税の適用が開始される前に販売した商品を消費税の適用が開始された後に返品を受けたものであることを明らかにして、課税仕入れに係る消費税額の控除対象となるかという照会を相談担当者が受けた事実は認められない。
 更に、消費税の確定申告は、納税者自身が自己の判断と責任において、正当な課税標準額や税額等を確定し、法定申告期限内に申告書を提出するものであることから、税務職員に相談の上、申告書を提出したとしても、そのことから直ちにその申告内容が適正であるということにはならない。
 したがって、Aに対する相談担当者の回答内容を全く無視した更正処分は信義則の法理に反する旨の請求人の主張には理由がない。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
(イ) 本件取引及び本件返品取引について調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人から提示された昭和63年5月1日から平成元年4月30日までの事業年度の総勘定元帳、試算表等には本件取引に係る記録が全くされていない。
B 請求人は、原処分庁の請求人に対する消費税の調査(以下「本件調査」という。)に際し、本件取引に係る納品書控及び請求書控等並びに本件返品取引に係る納品書及び請求書等の証拠書類を一切提示していない。
C 本件取引及び本件返品取引に係る30,000,000円の商品を具体的に特定することができない。
D 本件取引及び本件返品取引に係る代金決済は行われておらず、また、当該取引に係る商品の移動もなかった。
E 本件取引に係る商品の買主であるとするB(以下「B」という。)は、Aの長女であり、平成元年3月及び4月当時、請求人の従業員として、請求人の業務に従事しており、B自身では事業を営んでいない。
F 本件課税期間の消費税額の計算の基礎となった計算明細書(以下「本件計算明細書」という。)の課税仕入金額の部分に、B(姓のみ)名義で30,000,000円が加算されている。
G 請求人は、本件返品取引を課税仕入れに加算したところで、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額を算出して、控除不足還付税額を863,806円とした本件課税期間に係る消費税の確定申告書を平成元年10月2日に原処分庁に提出している。
(ロ) Aは、本件取引及び本件返品取引は消費税の還付を受けるために行った、いわゆるペーパー取引であると申述している。
(ハ) 請求人に関与する税理士事務所の担当者であるC(以下「C」という。)は、本件返品取引が請求人の決算書や帳簿書類に記載されていないにもかかわらず、Aから本件返品取引を課税仕入れに係る消費税額の控除の対象とするように強く指示され、本件計算明細書の課税仕入金額の部分に、B(姓のみ)名義で30,000,000円を加算し、本件課税期間の消費税額の計算を行ったと申述している。
(ニ) Bは、次のとおり申述している。
A 本件返品取引に係る納品書及び請求書等一切の書類を発行していない。
B 商品を積極的に販売する意思はなく、営業活動も行わなかった。
C 本件取引及び本件返品取引について、すべてAに任せており、具体的な取引内容については知らない。
(ホ) 前記(イ)ないし(ニ)の事実等を総合して判断すると、本件取引及び本件返品取引は、請求人が不正に消費税額の還付を受けるためにBを利用して行った実体のない架空の取引と認められ、請求人は、本件取引及び本件返品取引があったごとく仮装し、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額を30,000,000円水増ししたところに基づき消費税の確定申告書を提出したものと認められる。
 このような請求人の行為は、国税通則法第68条((重加算税))第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 更正処分について

 更正処分が信義則の法理に違反するか否かに争いがあるので、当審判所において、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 次の事実については、当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ) 請求人から提示された昭和63年5月1日から平成元年4月30日までの事業年度の総勘定元帳及び試算表等には、本件取引及び本件返品取引についての記載がない。
(ロ) 請求人は、本件調査に当たり、本件取引に係る納品書控及び請求書控並びに本件返品取引に係る納品書及び請求書の保存がなく、調査担当職員にこれらの書類を提示していない。
(ハ) 本件計算明細書の課税仕入金額の部分に、仕入先をB(姓のみ)として、30,000,000円が加算されている。
(ニ) 請求人は、本件返品取引を課税仕入れに加算したところで、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額を算出して、控除不足還付税額を863,806円とした本件課税期間に係る消費税の確定申告書を平成元年10月2日に原処分庁に提出している。
(ホ) Bは、Aの長女であり、平成元年3月及び4月当時、請求人の従業員として、請求人の業務に従事しており、B自身では事業を営んでいない。
ロ Aは、本件調査の調査担当職員に次のとおり申述している。
(イ) 消費税の計算明細書に記載されている「B(姓のみ)」とは、当初は卸売市場内の業者であると答えたが、実は、請求人の従業員として勤務している娘のBである。
(ロ) 本件取引及び本件返品取引に係る代金決済はされておらず、また、当該取引に係る商品の移動もなかった。
(ハ) 本件取引及び本件返品取引は、消費税の還付を受けるために行った、いわゆるペーパー取引である。
(ニ) 平成元年3月20日ころに本件返品取引に係る消費税の取扱いを相談担当者に電話照会した。
ハ Bは、異議申立てに係る調査の担当職員に次のとおり申述している。
(イ) 本件返品取引に係る納品書及び請求書等一切の書類を発行していない。
(ロ) 商品を積極的に販売する意思はなく、営業活動も行わなかった。
(ハ) 本件取引及び本件返品取引については、Aに任せており、本件取引に係る商品の明細、数量、単価及び代金の決済方法等その具体的な取引内容については知らない。
ニ 当審判所がP税務署の消費税の相談の記録等を調査したところ、次のとおりである。
(イ) P税務署では、消費税法の施行に当たり、消費税の相談コーナーを設けるなどして、納税者等からの相談及び電話の照会に応じており、その相談及び照会の内容及び回答事績を記録した消費税応答録(以下「応答録」という。)を作成していた。
(ロ) 前記(イ)の平成元年3月分の応答録によれば、照会者名が「砂糖屋の○○」と記載されているAからの照会と推認される電話照会があり、その内容は、平成元年4月の返品の場合、課税対象のものの返品か、あるいは、平成元年3月以前の課税対象となっていないものの返品なのか区別ができないときの消費税の取扱いを示せというものであった。
 この照会に対して相談担当者は、消費税の適用が開始された後の売上げに係る対価の返還のうちに消費税の適用が開始される前のものが含まれていたときは、合理的に区分する必要があり、消費税の適用が開始される以前に販売した商品が返品された場合には、消費税額から控除できない旨を回答をしたことが認められる。
ホ Aは、当審判所に対して、次のとおり答述している。
(イ) 本件返品取引に係る消費税の取扱いについて、平成元年4月下旬ころ、相談担当者に電話照会した。
(ロ) 消費税の確定申告の際、Cから、本件返品取引について、これは返品だから課税仕入れに該当しない旨指導されたが、税務署がいいといっているので、本件返品取引を課税仕入れに加算するようにとCに指示した。
 また、その際、Cに責任は全部私が取るから、指示のとおりにするようにと伝えた。
(ハ) 本件取引及び本件返品取引は、私が行ったことなので、Bは詳細を知らない。
(ニ) 本件取引に係る納品書は焼却処分して提示できないが、納品書には、1商品名は、砂糖、小麦粉及び乾物と記載し、2金額については、30,000,000円と合計のみ記載し、商品の銘柄及び規格並びに商品の数量及び単価は記載しなかった。
ヘ 前記イないしホの事実及び答述等に基づき検討すると、次のとおりである。
(イ) 本件取引及び本件返品取引は、請求人とBとの間における取引とされているが、Bは、当該取引に係る商品の明細及び代金の決済方法等その具体的な取引内容については一切知らず、本件返品取引に係る書類等の作成もしていないこと、また、請求人も当該取引に係る商品の具体的な特定ができないことが認められる。
 更に、Aは、本件取引はいわゆるペーパー取引である旨申述し、納品書は焼却してしまった旨答述しているが、本件取引及び本件返品取引について請求人の帳簿等に一切記載されていないこと並びに代金の決済は行われておらず、当該取引に係る商品の移動も行われていないことを併せ判断すれば、本件取引及び本件返品取引は、Bを利用した架空の取引であると認められる。
(ロ) Aは、Cから指導を受け、本件返品取引は課税仕入れに該当しないとの認識をもちながら、Cに架空の取引である本件返品取引を課税仕入れに加算することを指示し、請求人は、架空の取引である本件返品取引が課税仕入れに該当しないことを十分に知りながら、架空の本件返品取引に係る対価の額30,000,000円を課税仕入れに係る支払対価の額に加算したところで、課税仕入れに係る消費税額を過大に計上して本件課税期間の消費税の確定申告書を提出し、過大に消費税の還付を受けたものと認められる。
(ハ) そうすると、信義則の法理に反する更正処分は違法である旨の請求人の主張は、前記(イ)及び(ロ)の認定のとおり、架空の取引に基づく主張であることから何ら判断するまでもなく、到底採用することはできない。
 また、前記ニの(ロ)のとおり、相談担当者は、請求人に対して、消費税の適用が開始される以前に販売した商品が返品された場合には、消費税額から控除できない旨を回答しており、請求人が主張するような本件返品取引は、課税仕入れとしての計上が認められる旨の回答があった事実も認められない。
 したがって、更正処分は、適法である。

(2) 重加算税の賦課決定処分について

 更正処分は、前記(1)のとおり、適法であり、かつ、請求人は、本件取引及び本件返品取引があったごとく仮装し、架空の本件返品取引に係る対価の額30,000,000円を課税仕入れに係る支払対価の額に加算したところで、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額を過大に算出して本件課税期間の消費税の確定申告書を提出し、過大に消費税の還付を受けたものと認められる。
 この行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、同項の規定に基づいてされた重加算税の賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所によって調査・審理したところによっても不相当とする理由は認められない。

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