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(平6.2.23、裁決事例集No.47 97頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は会社役員であるが、平成3年分の所得税の青色の確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、原処分庁に法定申告期限までに提出した。
 その後、請求人は、次表の「修正申告」欄のとおり記載して、平成5年6月18日に平成3年分所得税の修正申告書を提出した。
 これに対し、原処分庁は、平成5年7月6日付で次表の「更正等」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分
項目
確定申告 修正申告 更正等
総所得金額 69,747,914 69,747,914 76,270,045
内訳 不動産所得の金額 1,345,014 1,345,014 1,345,014
配当所得の金額 0 0 6,522,131
給与所得の金額 68,402,900 68,402,900 68,402,900
納付すべき税額 9,173,900 9,173,900 12,165,800
過少申告加算税の額 - - 299,000

 請求人は、これらの処分を不服として国税通則法第75条((国税に関する処分についての不服申立て))第4項第2号により、異議申立てを経ずに、平成5年8月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ) 配当収入金額について
A 請求人は、昭和62年4月15日にA株式会社の株式(以下「A社株式」という。)及び同年11月12日にB株式会社の株式(以下「B社株式」といい、A社株式とB社株式を併せて、以下「本件株式」という。)を105,300,000円で取得した。
 なお、本件株式の取得代金のうち101,000,000円はC銀行R支店他2行からの借入金を充てたものである。
 請求人は、本件株式の取得後、所有者の名義書換えを失念していたが、平成4年3月25日にA社株式を、また同年3月23日及び3月27日にB社株式の所有者名義を請求人に書き換えた。
 請求人は、本件株式に係る配当金を受領していなかったが、株主たる地位に基づいて得られるべき配当金であることから、A社株式の配当金150,000円及びB社株式の配当金135,000円(以下A社株式の配当金及びB社株式の配当金を併せて、「本件配当金」という。)を配当所得の収入金額に計上し、本件配当金に対応する源泉所得税57,000円を納付すべき税額の計算上控除して申告した。
B これに対し、原処分庁は、本件配当金は平成3年中に受領した事実はないから、本件配当金を配当所得の収入金額に計上することを認めず、また、本件配当金に対応する源泉所得税を納付すべき税額の計算上控除することはできないと認定した。
 しかし、次に述べるとおり、原処分庁の認定は誤りである。
(A) 所得税法第36条((収入金額))第1項の規定によれば、収入金額の収入すべき時期について、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とされており、いわゆる権利確定主義を原則とすることを明らかにしている。
(B) また、配当所得の収入金額の収入すべき時期についても、所得税法基本通達36ー4で「利益の配当については、その支払について当該法人の株主総会その他正当な権限を有する機関の決議があった日」とされている。
(C) 名義書換えを失念していた株式の配当金については、民法上前名義人に対し不当利得返還請求権が認められている。
(ロ) 配当所得の収入金額から控除すべき負債の利子について
A 請求人は、平成3年中に支払った本件株式取得のために要した借入金101,000,000円に係る利子7,543,727円は所得税法第24条((配当所得))第2項に規定する「株式その他配当所得を生ずべき元本を取得するために要した負債の利子」に該当するので配当所得の収入金額から当該支払利子を控除して申告した。
B これに対し、原処分庁は、本件株式の名義書換えをしていない以上、本件株式は配当所得を生ずべき元本には当たらないとして配当所得の収入金額から負債の利子の控除はできないと認定した。
 しかし、次に述べるとおり、原処分庁の認定は誤りである。
(A) 所得税法第24条第2項の規定は、株式その他配当所得を生ずべき元本を取得するために要した負債の利子で、その年中に支払うものがある場合は、当該収入金額から、その合計額を控除するという、いわゆる総体計算主義的な規定になっている。
 また、無配であっても、その負債の利子は、株式その他配当所得を生ずべき元本を取得するために要した負債の利子に含まれると解されている。
(B) 本件株式の名義書換えを失念していたとしても、本件株式を所有しているのは事実である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、同処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ) 配当収入金額について
 請求人は、昭和62年に本件株式を取得しながら平成4年3月に至るまで名義書換えを行っておらず、また、本件株式の名義人に対する配当金の返還請求もしていないことから、平成3年中に本件配当金を受領した事実はない。
 したがって、本件配当金285,000円の収入はないことから申告することはできず、また、本件配当金に対応する源泉所得税57,000円は納付すべき税額の計算上控除することはできない。
(ロ) 配当所得の収入金額から控除すべき負債の利子について
 上記(イ)のとおり、請求人は、昭和62年に本件株式を取得していながら平成4年3月に至るまで本件株式の名義書換えを行っておらず、また、本件株式の名義人に対する配当金の返還請求もしていない事実があることから、少なくとも配当所得を得る目的で本件株式を取得したものとは認められず、更に、その取得から名義書換えに至るまでの期間が5年と長期にわたることから、名義書換えを失念していたとも認められない。
 したがって、本件株式は、所得税法第24条第2項に規定する配当所得を生ずべき元本には当たらないので、本件株式の取得に要した負債の利子は、名義書換えを行っていない以上他の株式の配当収入金額から控除することはできない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 請求人の場合、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課したことは適法である。

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3 判断

 名義書換えを失念した株式の配当収入金額及び配当所得の収入金額から控除すべき負債の利子の額について、争いがあるので以下審理する。

(1) 更正処分について

イ 当審判所が、請求人の提出した証拠資料及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の本件株式の取得経過は次のとおりであること。
A A社株式10,000株は、昭和62年4月15日に54,300,000円で取得した。
B B社株式20株は、同年11月12日に51,000,000円で取得した。
(ロ) 本件株式の所有者名義は、次のとおり書き換えられたこと。
A A社株式は、平成4年3月23日に請求人に書き換えられた。
B B社株式は、同年3月23日及び3月27日に請求人に書き換えられた。
(ハ) 請求人は、本件株式を取得するために、下記の銀行から借入れをしたこと。
A C銀行R支店から50,000,000円。
B D銀行本店から31,000,000円。
C E銀行R支店から20,000,000円。
(ニ) 請求人は、C銀行及びD銀行並びにE銀行からの借入金101,000,000円に係る利子として、平成3年中に7,543,727円を支払っていること。
ロ ところで、配当所得の収入金額の収入すべき時期については、所得税法第36条第3項に規定するものを除き、利益の配当については、その支払について当該法人の株主総会その他正当な権限を有する機関の決議があった日と解されている。
ハ また、株式を取得するために要した負債の利子については、所得税法第24条第2項の規定によれば、株式その他配当所得を生ずべき元本を取得するために要した負債の利子(事業所得又は雑所得の基因となった有価証券を取得するために要した負債の利子を除く。)でその年中に支払うものがある場合は、その収入金額から、その支払う負債の利子の額のうちその年においてその元本を有している期間に対応する部分の金額の合計額を控除することとされている。
 なお、負債の利子は、その負債によって取得した株式の配当収入金額からだけでなく、他の株式の配当収入金額からも控除できるものと解されている。
ニ 上記イないしハの事実等を基に判断すると次のとおりである。
(イ) 配当収入金額について
 原処分庁は、本件株式の名義書換えを行っていないこと及び本件株式の名義人に対し本件株式に係る配当金の返還請求もしていないから、本件配当金は申告することはできないと主張する。
 しかし、所得税法上、配当所得とされる法人からの利益の配当、剰余金の分配は、株主である地位に基づいて受ける分配金と解されている。
 また、この場合における株主とは、単に株主名簿に登載されている名義株主ではなく株式を取得した実質上の株主と解されている。
 これを本件について見ると、請求人は、上記イの(ロ)のとおり本件株式の名義書換えを平成4年3月まで失念していた事実は認められるが、上記イの(イ)のとおり、本件株式を取得した実質上の株主であるから、当然に株主たる地位に基づいて利益の配当を享受できる権利者であるということになる。
 そうすると、配当所得の収入金額の収入すべき時期は、上記ロのとおりであるから、本件株式に係る配当支払決議があった日に請求人の本件株式に係る利益配当を得る権利が確定していることになる。
 なお、名義書換えを失念したことによって、本件株式の配当金を本件株式の発行会社から直接受けられないこと及び本件株式の名義人に対する配当金の返還請求を行っていないことは、実質上の株主である請求人の本件株式に係る利益配当を得る権利が当該配当支払決議のあった日に確定していることに影響を与えるものではない。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。
 よって、請求人が本件配当金を配当収入金額として計上し、本件配当金に対応する源泉所得税を納付すべき税額の計算上控除して申告したことは相当である。
(ロ) 配当所得の収入金額から控除すべき負債の利子について
 原処分庁は、本件株式は名義書換えを行っていない以上「配当所得を生ずべき元本」には当たらないので、本件株式を取得するために要した負債の利子は他の株式の配当収入金額から控除することはできないと主張する。
 しかし、所得税法第24条第2項の規定を本件でみると、「株式を取得するために要した負債の利子」と解するのが相当であるから、株式の名義書換えを行っているか否かではなく、株式を所有しているか否かで判断すべきであると解するのが相当である。
 そうすると、請求人は、上記イの(ロ)のとおり、株主として本件株式を所有している事実があり、また、上記イの(ハ)のとおり、本件株式を取得するために要した資金に係る借入金の利子を支払っている事実も認められるから、請求人が、本件株式を取得するために要した借入金101,000,000円に係る支払利子7,543,727円を配当収入金額から負債の利子として控除したのは相当である。
 したがって原処分庁の主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、本件審査請求については、請求人の主張のとおりと認められるので、更正処分を取り消すのが相当である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、その基礎となった税額の取消しに伴い、その全部を取り消すのが相当である。

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