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(平6.3.23、裁決事例集No.47 126頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年分所得税の確定申告書(分離課税用)に分離長期譲渡所得の金額を112,134,981円、納付すべき税額を25,833,500円と記載して、法定申告期限までに申告した。
原処分庁は、これに対し平成3年10月14日付で、分離長期譲渡所得の金額を136,722,988円、納付すべき税額を32,093,000円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を625,000円とする賦課決定処分をした。
請求人は、これらの処分を不服として平成3年11月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成4年2月13日付でいずれも棄却の異議決定をした。
請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成4年3月10日に審査請求をした。
2 主張
(1) 請求人の主張
原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ) 請求人は、平成元年2月7日に夫A(以下「被相続人」という。)が死亡したことにより、他の共同相続人B、C、D、E及びF(これらの共同相続人5名を以下「他の相続人ら」といい、請求人と併せて「請求人ら」という。)とともに、平成2年4月30日付「故A殿遺産分割協議書」(以下「本件遺産分割協議書」という。)及び平成2年7月30日付「遺産分割協議書変更同意書」(以下、本件遺産分割協議書と併せて「本件遺産分割協議書等」という。)を作成し、被相続人の財産をそれぞれ相続した。
(ロ) 請求人らは、平成2年8月10日に相続財産のうち次表の土地及び建物(以下「本件土地建物」という。)を254,200,000円(以下「本件譲渡代金」という。)で譲渡した。
請求人らは、本件遺産分割協議書等に基づき、本件譲渡代金を分配することとし、請求人がその25分の15に相当する152,520,000円から他の相続人らに支払った合計25,000,000円(以下「本件調整金」という。)を差し引いた127,520,000円を、また、他の相続人らは各25分の2に相当する20,336,000円のほか、本件調整金の5分の1に相当する5,000,000円をそれぞれ受け取った。
所在地番 | 家屋番号 | 土地又は建物 | 地目又は種類 | 地積又は床面積 |
---|---|---|---|---|
P市R町三丁目7番29 | 土地 | 宅地 | 29.00 | |
P市R町三丁目7番30 | 土地 | 宅地 | 437.07 | |
P市R町三丁目7番地9 | 7番9の2 | 建物 | 居宅 | 69.38 |
P市R町三丁目7番地9 | 7番9の3 | 建物 | 居宅 | 69.38 |
P市R町三丁目7番地9 | 7番9の4 | 建物 | 居宅 | 34.68 |
(ハ)本件譲渡代金のうち、本件調整金は他の相続人らが取得し、請求人は取得していないのであるから、本件調整金は、換価分割により他の相続人らが相続したとみるべきであるところ、原処分庁は、請求人が本件調整金を代償分割により他の相続人らに支払ったものと認定しており、事実を誤認している。
したがって、本件譲渡代金のうち請求人の譲渡収入金額は、平成2年分所得税の確定申告書に記載したとおり127,520,000円であり、分離長期譲渡所得の金額は112,134,981円である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
(2) 原処分庁の主張
原処分は、次の理由によりいずれも適法である。
イ 本件更正処分について
(イ) 原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人らは、本件遺産分割協議書等を作成していること。
B 本件遺産分割協議書等によれば、被相続人の遺産は、請求人が4分の3を、他の相続人らが各20分の1をそれぞれ相続することを基本として、具体的には次のとおりであること。
(A) 前記(1)のイの(ロ)の表のP市R町三丁目7番29及び同所同番30所在の宅地(以下「本件土地」という。)は、請求人が25分の15を、他の相続人らが各25分の2をそれぞれ相続する。
(B) 請求人は、前記(1)のイの(ロ)の表のP市R町三丁目7番地9に所在する、家屋番号7番9の2、同7番9の3及び同7番9の4の居宅3棟(以下「本件建物」という。)を相続する。
(C) 他の相続人らは、同人らの相続分と実際に相続する土地の面積の差による価額などを調整するため各5,000,000円をそれぞれ相続する。
(D) 本件土地建物を総額254,200,000円(1坪当たり1,800,000円)で譲渡する。
なお、他の相続人らが受け取る上記(C)の金員は、この譲渡代金254,200,000円のうちの請求人の持分に相当する譲渡代金から支出される。
C 本件土地は、平成元年2月7日の相続を原因として平成2年8月31日付で被相続人から請求人には25分の15、他の相続人らには各25分の2が、更に、平成2年8月10日の売買を原因として同年9月12日付で請求人らから本件土地建物の買主であるG(以下「G」という。)及びH(以下、Gと併せて「Gら」という。)にそれぞれ所有権の移転登記がされていること。
D 本件建物は、平成元年2月7日の相続を原因として平成2年8月31日付で被相続人から請求人に、更に、平成2年8月10日の売買を原因として同年9月12日付で請求人からGにそれぞれ所有権の移転登記がされていること。
E 請求人らは、平成2年12月15日に原処分庁に対して相続税の修正申告書を提出しているが、当該修正申告書には次のことが記載されていること。
(A) 請求人は、本件土地の持分25分の15及び本件建物を相続し、代償債務として他の相続人らに本件調整金を支払った。
(B) 他の相続人らは、本件土地の持分各25分の2を相続するほか代償財産として各5,000,000円をそれぞれ取得した。
F 請求人らは、平成2年8月10日に本件土地建物をGらに対し総額254,200,000円で譲渡したとして、平成2年分所得税の確定申告書を法定申告期限までに提出しているが、譲渡所得の金額を計算するに当たっては、本件譲渡代金はすべて本件土地に係るものとして、本件譲渡代金に本件土地の合計面積に占める各人の共有持分割合を乗じて算出した金額をそれぞれの譲渡収入金額としていること。
なお、請求人は、本件譲渡代金に自己の共有持分25分の15を乗じて算出される152,520,000円から他の相続人らに支払った本件調整金を控除した127,520,000円を譲渡収入金額としているが、他の相続人らは、請求人から支払われた各5,000,000円をそれぞれの譲渡収入金額に含めていないこと。
(ロ) 以上の事実を総合して判断すると、請求人が他の相続人らに支払った本件調整金は、請求人らが被相続人の遺産を代償分割の方法により分割したことに伴い請求人が負担することとなった代償債務に替えて支払われたものであると認められるので、請求人の譲渡収入金額から控除することはできない。
(ハ) 分離長期譲渡所得の金額
A 譲渡収入金額
前記(イ)のFの事実によれば、請求人らは本件譲渡代金はすべて本件土地に係る対価であると認識していたと認められるところ、本件土地に対する請求人の所有持分は25分の15であるから、請求人の本件土地建物の譲渡収入金額は、本件譲渡代金に25分の15を乗じた152,520,000円である。
B 取得費の額
本件土地建物の取得費の額は、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第31条の5((長期譲渡所得の概算取得費控除))第1項(以下「概算取得費の額」という。)の規定に基づき計算した7,626,000円と、措置法第39条((相続財産に係る譲渡所得の課税の特例))第1項の規定に基づき計算した取得費の額に加算される相続税額(以下「取得費の額に加算される相続税額」という。)1,653,993円の合計額9,279,993円である。
C 譲渡に要した費用の額
本件土地建物の譲渡に要した費用の額は、請求人が確定申告書に添付して提出した「譲渡内容についてのお尋ね」の譲渡費用の欄に記載した5,517,019円である。
D 分離長期譲渡所得の金額
措置法第31条((長期譲渡所得の課税の特例))第4項に規定する長期譲渡所得の特別控除額(以下「分離長期譲渡所得の特別控除額」という。)は、1,000,000円である。
したがって、請求人の分離長期譲渡所得の金額は次表のとおり136,722,988円となり、この金額は更正処分に係る分離長期譲渡所得の金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。
項目 | 金額 | |
---|---|---|
譲渡収入金額 | 152,520,000 | |
取得費の額 | 9,279,993 | |
譲渡に要した費用の額 | 5,517,019 | |
分離長期譲渡所得の特別控除額 | 1,000,000 | |
分離長期譲渡所得の金額 (−−−) |
136,722,988 |
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認めらないから、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定したものである。
3 判断
本件審査請求の争点は、本件譲渡代金から支払われた本件調整金が、換価分割に伴う支払か、あるいは代償債務の支払であるかにあるので、以下審理する。
(1) 本件更正処分について
イ 次の事実については、請求人と原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ) 平成元年2月7日に、被相続人の死亡に伴い相続が開始したこと。
(ロ) 請求人らは、本件遺産分割協議書等を作成しており、その内容の要旨は次のとおりであること。
A 被相続人の遺産は、請求人が4分の3を、他の相続人らが各20分の1を相続することを基本とする。
B 本件土地は、請求人が25分の15を、他の相続人らが各25分の2をそれぞれ相続する。
C 他の相続人らは、同人らの相続分と実際に相続する土地の面積の差による価額などを調整するため各5,000,000円をそれぞれ相続する。
D 本件土地建物を総額254,200,000円(1坪当たり1,800,000円)で譲渡する。
なお、他の相続人らが受け取る上記Cの金員各5,000,000円は、この譲渡代金254,200,000円のうちの請求人の持分に相当する譲渡代金から支出される。
E 被相続人のその他の財産は、請求人が相続する。
ロ 当審判所に対する請求人の答述及び当審判所が、原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件土地は、平成元年2月7日の相続を原因として平成2年8月31日付で被相続人から請求人には25分の15、他の相続人らには各25分の2が、更に、平成2年8月10日の売買を原因として同年9月12日付で請求人らからGらにそれぞれ所有権の移転登記がされていること。
(ロ) 本件建物は、平成元年2月7日の相続を原因として平成2年8月31日付で被相続人から請求人に、更に、平成2年8月10日の売買を原因として同年9月12日付で請求人からGに所有権の移転登記がされていること。
(ハ) 請求人らは、遺産分割協議が成立したとして、平成2年12月15日に原処分庁に対して次のことを前提とした相続税の修正申告書を提出していること。
A 請求人は、他の相続人らの本件土地の持分の合計25分の10以外の被相続人の遺産のすべてを単独で相続し、代償債務として他の相続人らに本件調整金を支払う。
B 他の相続人らは、本件土地の持分各25分の2を相続するほか代償財産として各5,000,000円をそれぞれ取得する。
(ニ) 請求人らは、平成2年8月10日付で本件土地建物をGらに対し254,200,000円で譲渡する旨の売買契約を締結していること。
(ホ) 他の相続人らの平成2年分所得税の確定申告の内容は、次のとおりであること。
A 他の相続人らは、それぞれ法定申告期限までにそれぞれの納税地の税務署長に本件土地建物の譲渡に係る分離長期譲渡所得の確定申告書を提出している。
B 他の相続人らは、譲渡収入金額を254,200,000円の各25分の2の20,336,000円であるとして申告し、請求人から支払われた本件調整金各5,000,000円を譲渡収入金額に含めていない。
(ヘ) 他の相続人らのうち、Fは、請求人の長女で、請求人と同居しており、申告の時には未成年者であったこと。
(ト) Fの平成2年分所得税の確定申告書には、請求人が親権者として記載されており、同人が申告書の控えも保管していること。
ハ ところで、代償分割とは、遺産の全部又は一部を現物で共同相続人の中の一人又は一部の者に取得させ、その代わりに、取得者に対して他の相続人に代償金を支払うべき債務を負担させる遺産の分割方法である。
これに対して、換価分割とは、共同相続した遺産を直接分割の対象とせず、まずこれを未分割の状態で換価し、その対価として得られる金員を共同相続人間で分割する方法である。
ニ このことを前記イ及びロの各事実に照らして判断すると、請求人は、相続税の修正申告において、本件調整金を他の相続人らに支払う代償分割に基づく債務として、請求人の相続財産の価額から控除して相続税の課税価格を計算していること、他の相続人らは、平成2年分所得税の確定申告において、本件調整金が換価分割の方法によるものであるならば、当該金員を譲渡収入金額に含めて確定申告すべきであるところ、当該金員を譲渡収入金額に含めないで確定申告していること、請求人が確定申告書の作成に関与し、その内容も当然熟知していると思われるFもと同様の申告をしていること、本件遺産分割協議書等を検討すると、前記イの(ロ)のCのとおり本件調整金は、他の相続人らが相続する旨記載されているものの、前記イの(ロ)のBのとおり本件土地について各相続人の持分が定められている上で、別途、他の相続人らは、調整金として各5,000,000円を相続することとなっていること及び前記イの(ロ)のDのなお書きのとおり本件調整金は、本件譲渡代金のうちの請求人の持分に相当する分から支払うこととなっていること、また、前記イの(ロ)のEのとおり被相続人のその他の財産の全部を請求人が相続することとなっていることからみれば、本件調整金は、本件土地以外の全財産を相続した請求人から他の相続人らへの代償分割による代償債務のための支払と認めるべきであり、請求人は、遺産の代償分割により負担した債務である本件調整金を支払うために、本件土地建物の譲渡代金の一部をこの支払に充てたものと認定するのが相当である。
以上のことから、本件調整金相当額を譲渡収入金額から控除できないとした原処分庁の判断は相当である。
ホ 分離長期譲渡所得の金額
(イ) 譲渡収入金額
請求人は、譲渡収入金額を本件土地建物の譲渡代金254,200,000円に請求人の持分25分の15を乗じた152,520,000円から他の相続人らに支払った25,000,000円を控除した127,520,000円である旨主張するが、前記ニで述べたとおり、本件調整金は、代償分割に伴う代償債務の支払であるから、請求人の持分に係る本件土地建物の譲渡収入金額から控除することはできない。
したがって、請求人の譲渡収入金額は152,520,000円となる。
(ロ) 取得費の額
原処分庁は、本件土地建物の取得費の額を概算取得費の額7,626,000円及び取得費の額に加算される相続税額1,653,993円の合計額9,279,993円であると認定しているが、当審判所が調査したところ、概算取得費の額は原処分庁の認定した金額と同額となるが、取得費の額に加算される相続税額は原処分庁の計算に誤りが認められ、これを補正して計算すると1,720,777円となる。
したがって、本件土地建物の取得費の額は、概算取得費の額7,626,000円と取得費の額に加算される相続税の額1,720,777円の合計額9,346,777円となる。
(ハ) 譲渡に要した費用の額
原処分庁は、本件土地建物の譲渡に要した費用の額を5,517,019円であると認定しているので、当審判所が原処分関係資料を調査したところ、当該費用の額には平成2年9月12日付で司法書士Iに対して支払われた登記関係費用342,900円(総額571,500円に請求人の持分25分の15を乗じた金額)が含まれているが、当該費用は相続による所有権の移転登記に係る費用及び抵当権の抹消に係る費用であって、本件土地建物を譲渡するために要した費用には当たらないと解される。
したがって、当該金員342,900円を除いて計算すると本件土地建物の譲渡に要した費用の額は5,174,119円となる。
(ニ) 分離長期譲渡所得の特別控除額
分離長期譲渡所得の特別控除額が1,000,000円であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ホ) 分離長期譲渡所得の金額
以上の結果、請求人の分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなり、この金額は、本件更正処分に係る分離長期譲渡所得の金額を上回るから、本件更正処分は適法である。
項目 | 金額 | |
---|---|---|
譲渡収入金額 | 152,520,000 | |
取得費の額 | 9,346,777 | |
譲渡に要した費用の額 | 5,174,119 | |
分離長期譲渡所得の特別控除額 | 1,000,000 | |
分離長期譲渡所得の金額 (−−−) |
136,999,104 |
(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について
以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3) その他
原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。