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(平6.3.30、裁決事例集No.47 138頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和63年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に、分離長期譲渡所得の金額を25,411,000円、総所得金額を4,388,386円及び納付すべき税額を2,432,100円と記載して法定申告期限までに申告(以下「本件申告」という。)した。
 その後、請求人は、平成2年2月20日に本件申告について、分離長期譲渡所得の金額を零円、総所得金額を4,388,386円及び還付される税額を108,989円とすべき更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し平成2年5月16日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「原処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として平成2年7月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年10月15日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成2年11月15日に審査請求をした。
 なお、請求人は、平成5年9月16日にP市R町3109番地○○403からS市T町6740番地7に住所を変更したので、原処分庁は、□□税務署長から△△税務署長に変更された。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その取消しを求める。
イ 請求人は、妻であったA(以下「A」という。)との間の◎◎地方裁判所における離婚訴訟(以下「本件離婚訴訟」という。)について、昭和63年8月25日に裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立し離婚したため、請求人名義のU市V町1丁目868番9所在の宅地198.44平方メートル(以下「本件土地」という。)のうち南側半分の99.28平方メートルを分筆して、当該土地(以下「本件分筆土地」という。)をAに財産分与するとの本件和解の条項に基づき、昭和63年12月20日にAへの所有権移転登記を了した。
 そして、請求人は、原処分庁の指導により本件分筆土地をAに譲渡したとして租税特別措置法第31条((長期譲渡所得の課税の特例))(昭和63年法律第109号による改正前のもの。以下「措置法」という。)及び同法第35条((居住用財産の譲渡所得の特別控除))の規定を適用して、分離長期譲渡所得の金額を25,411,000円と算定し本件申告をした。
ロ しかしながら、以下に述べるとおり、本件土地は請求人名義となってはいたものの、その取得資金の出所及び借入金の返済状況等からして、請求人とA(以下「請求人ら」という。)の各2分の1を持分とする共有財産であったものであるから、本件和解では、便宜的に財産分与という表現が使われてはいるが、財産分与をしたものではなく実質は共有財産の分割に当たるものである。
 したがって、請求人には譲渡所得は生じていなかったものであるから、本件申告に係る分離長期譲渡所得の金額の全部について減額されるべきである。
(イ) 本件土地は、建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件土地建物」という。)付の分譲地として昭和31年7月11日にU市から請求人名義で購入し、本件土地建物の所有権を請求人名義で登記したものであるが、その取得資金874,174円は、請求人らを連帯債務者として住宅金融公庫からの借入金540,000円(以下「本件借入金」という。)、Aの母B(以下「B」という。)からの借入金300,000円及び請求人らの共有の手持ち資金等を充てたものである。
(ロ) 請求人らはU市の教職員として共働きの夫婦であり、本件借入金を請求人の給与から天引きの方法で返済していたが、これは単なる返済のための窓口にすぎず、実質は、同程度の給与収入を有していた請求人らが均等に負担して返済したものであり、また、Bからの借入金についても、請求人らが均等に負担して返済したものである。
(ハ) 本件建物は、昭和47年に全面改築し、その所有権を真正なる登記名義の回復により昭和48年9月26日に請求人らの各持分を2分の1とする所有権の一部移転登記をしたが、これは、請求人らがほぼ2分の1の資金を調達して改築したため、登記名義を実態に合わせて請求人らの共有にすれば課税関係は生じないとする××税務署職員の指導に従ったまでである。
 その際に、本件土地を請求人らの共有とする登記をしなかったのは、差し当たり課税関係が生じないと判断したからであり、請求人の単独所有であると自認したものではない。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 異議審理庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人らは、昭和28年9月7日に婚姻したこと。
(ロ) 請求人は、本件土地建物を昭和31年7月11日付の公庫融資住宅分譲契約書(以下「本件分譲契約書」という。)に基づき、U市から874,174円で購入し、同年7月16日に請求人名義で所有権を移転登記したこと。
(ハ) 請求人らは、昭和31年8月23日付の住宅金融公庫との間の債務弁済抵当権設定契約証書(以下「本件債務弁済契約証書」という。)に基づき、住宅金融公庫から本件土地建物の取得資金として本件借入金を連帯して借り入れたこと。
(ニ) 請求人らは、本件建物につき、昭和48年9月26日に真正なる登記名義の回復により、請求人の単独名義から請求人らの各持分2分の1とする所有権の一部を移転登記したこと。
(ホ) Aは、昭和62年3月31日に本件離婚訴訟を提起したが、昭和63年8月25日に本件和解が成立したこと。
(ヘ) 請求人は、本件離婚訴訟に係る答弁書において、本件土地建物の取得資金の大部分が請求人の稼得に基づくものである旨主張していること。
(ト) 第15回口頭弁論調書(和解)(以下「本件和解調書」という。)には、次の旨が記載されていること。
A 請求人らは、本日協議離婚し、請求人らは速やかにその届出をする。
B 請求人は、Aに対して離婚に伴う財産分与として、本件分筆土地の所有権をAへ移転登記をする。
C Aは、本件建物から退去して請求人に明け渡す。
D 請求人は、本件建物の引渡しを受けた後、取り壊して滅失の登記をする。
E Aは、その余の請求を放棄し、当事者双方は、本件和解調書に定める以外、何らの債権債務の無いことを相互に確認する。
(チ) 請求人は、昭和63年12月6日に本件分筆土地を財産分与を原因として所有権をAへ移転登記したこと。
(リ) 本件更正の請求に係る更正の請求書に添付された「宅地譲渡申告適用除外措置申請書」(以下「本件申請書」という。)及び「不動産分与に伴う分離課税納入に対する不服申立て上申書」(以下「本件上申書」という。)と題する資料には、本件分筆土地の所有権をAへ移転したのは、贈与あるいは任意の財産分与ではなく慰謝料に相当するものである旨が記載されていること。
ロ 以上の事実からすると、次のとおりである。
(イ) 本件土地は、昭和31年7月11日に請求人が単独名義でU市から購入し、本件建物と共に所有権が登記されたこと。
(ロ) 本件借入金は、請求人らが連帯債務者となってはいるものの、請求人らが具体的にどのような割合で負担したか明確でないこと。
(ハ) 昭和48年9月26日に本件建物の所有権の2分の1を真正なる登記名義の回復によりAに所有権を移転登記したのは、その名義を名実共に請求人らの共有と表示する意思に基づくものであり、その際、本件土地は請求人名義のまま変更されていないから、請求人らが本件土地について、請求人の単独所有であることを確認したものと認められること。
(ニ) 請求人が、本件土地は請求人らの共有財産である旨を主張し始めたのは、本件更正の請求からであり、それ以前には本件土地建物の取得資金の大部分を請求人が負担した旨主張するなど、その主張には一貫性が認められないこと。
(ホ)本件分筆土地は、本件和解調書において財産分与としてAへ所有権を移転登記することとされており、請求人らは、本件土地が請求人の固有の財産であることを前提として本件和解が成立したものと認められること。
ハ 以上のとおり、本件和解により財産分与として本件分筆土地の所有権をAへ移転登記したことは、請求人らの共有財産の分割ではなく、資産の譲渡に当たり、その譲渡所得の金額は、請求人が提出した確定申告書に記載された金額と同額であるから、原処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件分筆土地に係る所有権の移転登記が共有財産を分割したものか、又は財産分与に当たるかにあるので、以下審理する。

(1)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

イ 本件土地は、昭和31年7月11日に本件建物と共にU市から取得し、昭和31年7月16日に請求人名義で所有権を移転登記したこと。
ロ 請求人らは、昭和31年8月21日に本件土地建物の取得資金の一部として本件借入金を連帯して借り入れしたこと。
ハ 本件建物は、昭和48年9月26日に真正なる登記名義の回復により、所有権の2分の1を請求人からAに移転登記したこと。
ニ 請求人は、昭和61年7月24日にAは同月25日にそれぞれ離婚調停の申立てをしたこと。
ホ 本件離婚調停の申立ては、当事者間で合意する見込みがなく昭和61年10月27日に不成立となったこと。
ヘ Aは、昭和62年3月31日に請求人を被告として、本件離婚訴訟を提起したこと。
ト 本件離婚訴訟は、昭和63年8月25日に本件和解が成立し、請求人らは協議離婚したこと。
チ 請求人は、昭和63年12月20日にAへ本件分筆土地の所有権を移転登記したこと。
リ 請求人は、本件分筆土地を財産分与により譲渡したとして措置法第31条及び同法第35条の規定を適用し、分離長期譲渡所得の金額を25,411,000円とする本件申告をしたこと。

(2) 原処分関係資料、異議審理関係資料及び請求人の提出した資料並びに当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。

イ 戸籍謄本によれば、請求人らは、昭和28年9月7日に婚姻届けを行ったこと。
ロ 本件分譲契約書によれば、その分譲価格は、建物部分482,067円、土地部分371,017円及び共有(道路)部分21,090円の合計874,174円であること。
ハ 本件債務弁済契約証書によれば、本件借入金の毎月の償還額は、元金2,500円と借入金残高に対し年5分5厘の12分の1の利息の合計額とし、その償還期限は、昭和49年8月20日とされていること。
ニ 本件和解調書によれば、請求人らは協議離婚し、離婚に伴う財産分与として、本件分筆土地の所有権をAへ移転することとされていること。
ホ 本件申請書及び本件上申書には、本件分筆土地の所有権をAへ移転したのは、本件離婚訴訟に基づく和解によるものであり、慰謝料に相当するものである旨記載されていること。
ヘ 本件離婚訴訟に係る訴状によれば、Aは、本件土地建物を昭和31年に本件借入金及びAの実家の援助等の資金により取得し、本件借入金を請求人らの収入によって返済したものであるから、請求人らの共有財産である旨主張していること。
ト 本件土地建物には、昭和31年8月28日に債権者を住宅金融公庫、連帯債務者を請求人ら、債権額を540,000円及び返済期限を昭和49年8月20日として抵当権が設定され、当該抵当権は昭和37年12月7日に抹消されていること。
チ 当審判所が住宅金融公庫に照会したところによれば、本件借入金の返済は、借主が銀行、郵便局あるいは住宅金融公庫の窓口で、振替送金か現金払いの方法によって行われていたこと。
リ 当審判所がU市教育庁に照会したところによれば、次のとおりである。
(イ)請求人は、昭和22年6月30日にU市の教員となり、昭和59年3月31日に退職したこと。
(ロ)Aは、昭和25年4月1日にU市の教員となり、現在も引き続き勤務していること。
(ハ)請求人の昭和31年及び32年の年間給与収入は、それぞれ303,034円及び336,412円であり、Aの給与収入も同程度であったこと。

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(3) Aは、当審判所に対し次のとおり答述している。

イ 本件土地建物の取得資金は、本件借入金、Bからの100,000円前後の借入金及び手持預金200,000円を充てたこと。
ロ 本件借入金の返済は、自分が毎月元本2,500円に利息を加えた現金を銀行に持参し、振込送金していたこと。
ハ Bに対する借入金の返済は、どのように行ったか記憶がないこと。
ニ 家族の生活費等は、請求人が本人の収入から必要な金額を先取りした残金と、請求人と同程度の自らの収入を合わせた金額を充てていたが、管理は自分がしていたこと。
ホ 本件土地の所有権を請求人の単独名義にしたのは、当時は男性名義にするのが常識的であったためであること。
ヘ 本件分筆土地は、離婚に伴う慰謝料として受領したものではなく、請求人らが共同で取得した本件土地を清算したものであること。

(4) 以上の事実に基づいて判断すると、次のとおりである。

イ 請求人らはU市の教員として長年勤務し、収入も同程度であり、Aが金銭の管理をしていたことが認められる。
 ところで、本件土地は、請求人名義で本件建物と共に住宅金融公庫の融資によりU市から取得しているところ、その取得資金の一部とした本件借入金については、請求人らが連帯して借り入れをなし、共同で返済する旨が合意されていることが認められ、その返済は、請求人らの収入から、Aが行っていたものとみるのが相当である。
ロ 原処分庁は、本件借入金の融資を受けるに当たり請求人らが連帯債務者となっていることが認められるものの、具体的に請求人らがどのように負担して返済したかについて明確でないから、請求人が本件離婚訴訟において主張するとおり、本件土地建物の取得資金の大部分が請求人の稼得に基づくものである旨主張する。
 しかしながら、請求人らが自己の収入をどのような割合で本件借入金の返済に充てるかについて、格別の合意も見当たらず、当審判所に提出された証拠によっても明らかではないので、本件の場合、上記イのとおり、請求人らの収入から等しく返済したものとみるほかはないから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
ハ 原処分庁は、本件土地は、請求人の単独所有であると認められるから、財産分与により本件分筆土地の所有権をAに移転したことは、請求人からAに譲渡したものである旨主張する。
 しかしながら、本件借入金は、上記ロのとおり、請求人らの収入から等しく返済したものと認められ、また、Bからの借入金の返済についても、請求人らの収入から等しく行われたものとみるのが相当である。
 そうすると、請求人らが共同で返済する旨の合意のもとに本件借入金等を資金として取得した本件土地は、登記上の名義にかかわらず請求人らの間では、共有物との認識であったものと認めるのが相当である。
 ところで、民法第768条((財産分与の請求))第1項は、協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる財産請求権について規定しているところ、当該財産請求権は、離婚に際して当事者の一方から他方に対してなされる財産的給付であり、それは婚姻生活中に夫婦の協力によって取得した財産の分配を中心とするほか離婚後の扶養と離婚に伴う損害賠償を内容としていると解されている。
 本件の場合、本件分筆土地の所有権をAへ移転することとしたのは、本件離婚訴訟に伴う本件和解に基づき行われたものであるところ、同人の答述及び請求人の主張に照らせば、本件分筆土地は、請求人らの共有に係る本件土地を離婚を機会に分割して清算したものとみるのが相当であるから、Aが、離婚後の扶養と離婚に伴う損害賠償に相当する慰謝料等として受領したとする原処分庁の主張は採用できない。なお、原処分庁は、真正なる登記名義の回復によりAに本件建物の2分の1の所有権を移転登記し、本件建物の名義を名実ともに請求人らの共有物としたにもかかわらず、本件土地は、登記が請求人の単独名義のまま変更されていないから、請求人の所有であったことは明らかである旨主張するが、登記変更の有無の事実は、本件土地が請求人らの共有に属するものであるか否かを判断するのにかかわりのないことであり、むしろ、上記イ及びロのとおり、本件土地についても、請求人らの共有に属するものであったとみるのが相当であるから、原処分庁の主張には理由がない。

(5) 以上のとおり、本件分筆土地は、請求人らの共有に属する本件土地を離婚を機会に分割して清算したものとみるのが相当であり、財産分与とみることはできないから、本件分筆土地をAに移転登記したことによる譲渡所得は発生しないというべきである。

 したがって、本件更正の請求には理由があるから、原処分は、全部を取り消すべきである。

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