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(平6.5.13、裁決事例集No.47 160頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成元年分の所得税の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年9月7日付で次表の「更正等」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分 確定申告 更正等
給与所得の金額(総所得金額) 1,095,000 1,095,000
分離長期譲渡所得の金額 0 5,064,680
納付すべき税額 △ 57,900 830,700
過少申告加算税の額 - 107,000

(注)「納付すべき税額」の△印は、還付金の額を示す。


 請求人は、これらの処分を不服として平成4年10月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年1月18日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成5年2月16日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、P市R町527番1所在の宅地305.97平方メートル、同所同番地所在の建物366.93平方メートル及び同所526番4所在の鉱泉地3.3平方メートルの持分3分の2(これらを併せて以下「本件物件)という。)を、昭和57年3月9日付の売買契約書に基づきA株式会社S支店(所在地 S市、以下「A社」という。)から40,000,000円で取得し、同年4月2日から、居住の用に供していたが、平成元年6月10日付の売買契約書に基づきB有限会社(所在地 T市、以下「B社」という。)に79,000,000円で譲渡(以下「本件譲渡」という。)した。
 請求人は、本件物件取得のため、昭和57年3月29日にC銀行P支店(以下「C銀行」という。)から20,000,000円を借入れ、平成元年7月17日に完済するまでの間に、その借入金に対する利子(以下「本件利子」という。)を8,077,986円支払った。
 そこで、請求人は、資産の取得のための借入金の利子は所得税法第38条((譲渡所得の金額の計算上控除する取得費))第1項に規定する資産の取得に要した金額に該当するから、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額(以下「本件分離長期譲渡所得の金額」という。)の計算に当たり、本件利子8,077,986円を本件物件の取得に要した金額に算入して申告をしたところ、原処分庁は、本件利子8,077,986円は本件物件の取得に要した金額に該当しないとして更正処分をした。
 しかしながら、本件物件取得との間に相当因果関係がある借入金に係る本件利子8,077,986円を請求人が取得費に算入したのは正当であり、原処分は違法であるから、その更正処分は全部を取り消すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であり取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分も取り消すべきである。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法である。
イ 更正処分について
 請求人は、本件物件取得のため、昭和57年3月29日にC銀行から20,000,000円を借入れ、同日に本件物件を居住の用に供し、その後、平成元年6月10日付の売買契約書に基づいて本件物件をB社へ79,000,000円で譲渡しているが、本件分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり、本件利子8,077,986円を取得費に算入して申告している。
 ところで、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費については、所得税法第38条第1項において、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とすると規定しており、この資産の取得に要した金額には、資産の維持管理に要する費用等の居住者の日常的な生活費ないし家事費に該当するものは含まれないと解される。
 また、居住の用に供する資産を取得するための借入金の利子のうち、当該資産の使用開始の日後当該資産を譲渡する日までの期間に対応する部分の金額は、日常的な生活費ないし家事費に該当するものと認められる。
 そうすると、請求人は本件物件取得資金を借り入れた昭和57年3月29日に本件物件を居住のために使用開始しているから、本件利子8,077,986円は生活費ないし家事費となる。
 したがって、本件利子8,077,986円を本件物件の取得に要した金額と認めることはできないとした更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 更正処分について

 本件分離長期譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費の額について争いがあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件物件を昭和57年3月9日付の売買契約書に基づきA社から購入価額40,000,000円で取得し、代金は、昭和57年3月9日に8,000,000円、同月30日に32,000,000円を支払っていること。
 また、同30日に本件物件の所有権移転登記が請求人名義でされていること。
(ロ) 請求人は、本件物件の取得資金として、20,000,000円をC銀行から昭和57年3月29日に借り入れて、平成元年7月17日に完済していること。
(ハ) 本件物件に係る設備費及び改良費の支出はないこと。
(ニ) 請求人は、本件物件を平成元年6月10日付の売買契約書に基づいてB社へ79,000,000円で譲渡していること。
(ホ) 請求人は、本件物件の譲渡の際に仲介手数料、収入印紙代及び市役所証明料(別表において「譲渡費用」という。)を2,061,200円支払っていること。
(ヘ) 請求人は、本件分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり、租税特別措置法第35条((居住用財産の譲渡所得の特別控除))第1項の規定を適用していること。
ロ 原処分関係資料、請求人提出資料、請求人の答述及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の借入れに係るC銀行の昭和57年3月29日から昭和59年4月25日までの約定利息は、年利率8.9パーセントであったこと。
 また、月々の返済日は、25日であったこと。
(ロ) 本件利子8,077,986円のうち、昭和57年3月29日支払の24,200円は、本件物件取得のための借入れに際し請求人が負担すべき根抵当権設定費用をC銀行へ支払ったものであること。
(ハ) 請求人は、昭和57年3月30日にA社へ電話加入権及び家財道具(以下「電話加入権等」という。)の対価を100,000円支払い、本件物件取得の際に仲介手数料、不動産取得税その他の取得に付随する費用(以下「その他の費用」という。)を1,774,120円支払っていること。
(ニ) 請求人は、本件分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり、上記電話加入権等の額100,000円及びその他の費用の額1,774,120円の合計額1,874,120円を本件物件の取得に要した金額に算入して申告していること。
(ホ) 請求人は、昭和57年4月2日に本件物件所在地(住居表示P市R町2番6号)で住民登録を行っていること。
(ヘ) 請求人は、当審判所に対し、本件物件を居住の用に供していた期間は昭和57年4月2日から平成元年7月20日までであったと答述していること。
ハ 以上の事実に基づき判断すると、次のとおりである。
(イ) 本件利子
 請求人は、本件利子8,077,986円が所得税法第38条第1項に規定する資産の取得に要した金額に該当する旨主張する。
 ところで、所得税法第33条((譲渡所得))第3項は、譲渡所得の金額は、総収入金額から資産の取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。また、同法第38条第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とすると規定しているところ、資産の取得に要した金額には、資産を取得するための対価として支出した購入価額が該当することはいうまでもなく、これのみに限らず、資産の取得のために実質的に欠かせない仲介手数料、不動産取得税等のいわゆる付随費用(以下「付随費用」という。)も該当するが、資産の維持管理に要する費用等の個人の日常的な生活費ないし家事費は該当しないと解するのが相当である。
 更に、居住の用に供する資産を取得するための借入金の利子については、個人が家事上の種々の必要から行う借入金の利子と同様、個人の日常的な生活費ないし家事費にすぎないものと解されることから、当該資産の購入価額を構成するものではなく、また、当該資産を取得するための付随費用に該当するものでもない。
 もっとも、資産を取得するための資金を借り入れた後、当該資産を居住のために使用開始するまでには、ある程度の期間を要することがあり、その期間中は、当該資産を使用することなく利子を支払うことになるのであるから、この場合には、当該資産を居住のために使用開始する日までの期間に対応する利子は、当該資産を取得するための付随費用に該当するものと認められる。
 したがって、居住のために使用する資産を取得するための借入金の利子のうち、その借入れの日から当該資産を居住のために使用開始する日までの期間に対応するものは、資産の取得に要した金額に該当し、当該資産を居住のために使用開始した日後当該資産を譲渡する日までの期間に対応するものは、資産の取得に要した金額に該当しないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、請求人が本件物件を居住のために使用開始した日は、前記イの(イ)及びロの(ホ)のことからすると、昭和57年4月2日であると認めるのが相当であり、本件利子のうち昭和57年4月3日以後の期間に対応する部分の金額は、日常的な生活費ないし家事費にすぎないものと解されることから、本件物件の購入価額を構成するものではなく、また、本件物件を取得するための付随費用でもない。
 したがって、本件利子のうち請求人が居住のために使用開始した日後の期間に対応する部分の金額は、資産の取得に要した金額に該当しない。
 そうすると、請求人が、本件物件取得のため、C銀行から借入れを行った昭和57年3月29日から同年4月2日までの5日間に対応する借入金の利子は、本件物件を取得するための付随費用に該当し、その金額は前記ロの(イ)に基づき計算すると、次の算式のとおり24,383円となる。

算式

(ロ) その他の取得費
A 根抵当権設定費用
 前記ロの(ロ)のとおり、昭和57年3月29日に請求人がC銀行へ支払っている根抵当権設定費用24,200円は、本件物件取得のための借入れに際し通常必要な費用と認められ、本件物件を取得するための付随費用に該当する。
B 電話加入権等
 前記ロの(ハ)のとおり、請求人は、電話加入権等を本件物件の取得に要した金額に算入して申告しているが、電話加入権等の対価100,000円は、本件物件の購入価額を構成するものではなく、また、本件物件を取得するための付随費用でもないことから、本件物件の取得に要した金額に該当しない。
(ハ) 分離長期譲渡所得の金額
 以上に基づき、本件分離長期譲渡所得の金額を計算すると、別表の「審判所認定額」欄のとおり、5,116,097円となり、この金額の範囲内でされた更正処分は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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