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(平6.6.24、裁決事例集No.47 169頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であって、不動産貸付業を営む者であるが、平成元年分、平成2年分及び平成3年分(以下「各年分」という。)の所得税の青色の確定申告書に不動産所得の金額等を次表のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
総所得金額 21,877,574 22,666,203 32,699,090
内訳 不動産所得の金額 14,583,174 15,209,324 22,749,099
給与所得の金額 6,465,000 6,465,000 8,893,000
雑所得の金額 829,400 991,879 1,056,991
納付すべき税額 5,802,100 6,293,100 10,667,000

 原処分庁は、これに対し平成4年12月28日付で各年分について次表のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件更正処分と併せて以下「本件更正処分等」という。)をした。

(単位:円)
区分 項目 年分
平成元年分 平成2年分 平成3年分
更正処分 総所得金額 53,885,835 62,567,337 77,735,667
内訳 不動産所得の金額 46,591,435 55,110,458 67,785,676
給与所得の金額 6,465,000 6,465,000 8,893,000
雑所得の金額 829,400 991,879 1,056,991
納付すべき税額 21,806,100 26,243,600 33,185,000
賦課決定処分 過少申告加算税の額 2,068,000 2,641,000 2,775,000

 請求人は、これらの処分を不服として平成5年2月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年6月11日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年7月12日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ) 更正処分の手続について
 請求人は、株式会社A(以下「A社」という。)及び株式会社B(以下「B社」という。)に対し、請求人が所有するP市R町2丁目7番1号所在の建物(以下「本件建物)という。)を賃貸する賃貸借の契約(以下「本件契約」という。)を締結し、その賃貸料収入を不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入して確定申告をした。
 これに対し、原処分庁は、請求人が負担する管理料の額すなわち、A社が本件建物を第三者に又貸しすることにより得ている賃貸料収入の額から、請求人に賃借料として支払った額を差し引いた額(以下「本件甲管理料相当額」という。)及びB社が本件建物を第三者に又貸しすることにより得ている賃貸料収入(A社の又貸しによる賃貸料収入を含め、以下「又貸し料収入」という。)の額から、請求人に賃借料として支払った額(本件の場合は零円)を差し引いた額(以下「本件乙管理料相当額」という。)は、法人税法第2条((定義))第10号に規定する同族会社(以下「同族会社」という。)以外の不動産管理会社(以下「一般の不動産管理会社」という。)に、管理を委託した場合における管理料の額と比較すると極めて高額となり、本件契約に基づく行為又は計算が、所得税法第157条((同族会社等の行為又は計算の否認))第1項に規定する請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認定して更正処分をした。
 しかしながら、原処分庁が行った更正処分は、次のとおり違法である。
A 原処分庁は、平成4年9月16日の修正申告のしょうよう以来長い間何の連絡をすることもなく、同年12月28日付で本件更正処分等をしたが、民法第1条((基本原則))第2項に規定する信義誠実の原則(以下「信義誠実の原則」という。)を適用し、修正申告のしょうようを図る努力をなすべきであった。
B また、請求人と原処分庁の法解釈が相違していたのであり、かつ、行政指導の下においては、更正処分を調査年分のみとすべきであり、そ及することは、信義誠実の原則に違反する。
(ロ) 所得税負担の不当減少の有無等について
 原処分庁は、本件契約に基づく行為又は計算が、所得税法第157条第1項に規定する、請求人の所得税額を不当に減少させる結果になると認定しているが、次の理由から所得税の負担を不当に減少させているものとは認められないので、原処分の取消しを求める。
A A社は、商法、企業会計原則、法人税法にのっとり決算が組まれ、利益処分も確定し、法人税の確定申告も適正に行っている。
 そのうえ、平成4年に実施されたA社に対する法人税の調査においては経費の一部を否認されたのみで、本件契約に基づく行為又は計算が、所得税法第157条第1項に規定する請求人の所得税額を不当に減少させる結果となるなどの指摘は受けておらず、同一処分庁で請求人に対する所得税の調査(以下「本件調査」という。)とA社に対する法人税の調査とで、家賃収入及び支払家賃の適・不適が異なることは納得できない。
B 請求人の各年分の所得金額は、確定申告書に記載したとおりである。
 本件更正処分等による所得税額は、請求人の実際の所得金額よりも多くなり、可処分所得がマイナスとなるので、納税資金はない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、各年分の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い各年分の過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ) 更正処分の手続について
A 修正申告のしょうようから本件更正処分等までの期間が長いことが、民法第1条第2項に規定する信義誠実の原則に違反するということにはならない。
B 本件更正処分等は、原処分庁の調査に基づいて行われたものであって、単なる行政指導によるものではない。
 また、本件更正処分等は、国税通則法第70条((国税の更正、決定等の期間制限))第1項の規定により行ったものであり、何ら信義誠実の原則に違反するものではない。
(ロ) 所得税負担の不当減少の有無等について
A 所得税法第157条第1項の規定によれば、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと特殊な関係にある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところによりその居住者の所得金額及び所得税額を計算できるとされている。
 すなわち、同族会社が選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長が、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地から、これを通常あるべき行為又は計算に引き直し納税者の所得税額を算定しようとするものである。
 そして、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社のした当該行為又は計算に基づいて算出された税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された税額とのかい離によって判断すべきものと解される。
B ところで、原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A) A社は、同族会社であり、請求人はA社の代表取締役社長であること。
 また、B社も同族会社であり、請求人はB社の代表取締役であるC(以下「C」という。)の親族であること。
(B) 請求人は、本件契約に基づき、本件建物の2階から9階までの部分を一括してA社に賃貸し、その賃貸料として平成元年分及び平成2年分各40,800,000円並びに平成3年分53,760,000円を受領していること。
 また、請求人は、本件契約に基づき、本件建物の1階部分を一括してB社に無償で貸し付けていること。
(C) A社は、本件建物の2階から9階までの部分を株式会社DのS本社に又貸ししているが、その又貸し料収入の額、管理費実費負担額、請求人への賃借料支払額及び本件甲管理料相当額は次表のとおりであること。

(単位:円)
期間
項目
平成元年1月1日
〜12月31日
平成2年1月1日
〜12月31日
平成3年1月1日
〜12月31日
A社の又貸し料収入の額 1 94,850,852 95,415,104 128,863,555
内訳 賃貸料の額 77,090,700 77,090,700 107,402,472
共益費の額 16,025,736 16,025,736 20,700,357
雑収入の額 1,734,416 2,298,668 760,726
管理費実費負担額 2 10,980,200 11,035,200 12,096,580
請求人への賃借料支払額 3 40,800,000 40,800,000 53,760.000
本件甲管理料相当額(123 43,070,652 43,579,904 63,006,975

 また、B社は、本件建物の1階部分にE株式会社(平成2年11月1日より賃借人をF株式会社に変更した。以下同じ。)に又貸しし、その又貸し料収入の額、請求人への賃借料支払額及び本件乙管理料相当額は次表のとおりであること。

(単位:円)
期間
項目
平成元年1月1日
〜12月31日
平成2年1月1日
〜12月31日
平成3年1月1日
〜12月31日
B社の又貸し料収入の額 1 16,536,000 19,229,936 19,968,000
内訳 賃貸料の額 14,352,000 17,045,936 17,784,000
共益費の額 2,184,000 2,184,000 2,184,000
請求人への賃借料支払額 2 - - -
本件乙管理料相当額(12 16,536,000 19,229,936 19,968,000

(D) A社の収入は、本件建物の2階から9階までの部分の又貸しによるものがほとんどであること。
 また、B社の収入は、本件建物の1階部分の又貸しによるものがすべてであり、他の収入はないこと。
C A社及びB社が本件建物について行っている業務内容からすると、本件甲管理料相当額及び本件乙管理料相当額は極めて多額(特に本件乙管理料相当額に至っては全額)であることが認められ、A社及びB社との本件契約は、請求人が同族会社の代表取締役社長あるいは代表取締役の親族という関係にあるが故に可能な行為又は計算であり、純経済人の行為として不自然・不合理なものと認められる。
 そこで、後記(ヘ)の請求人の各年分の総所得金額を基に所得税額を計算すると、次表のとおりとなり、請求人の確定申告による所得税額と比較すると、両者の所得税額には著しいかい離があって、本件契約に基づく行為又は計算を容認した場合には、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
後記(ヘ)の総所得金額を基とした所得金額 1 29,798,600 32,648,100 45,487,500
確定申告した所得税額 2 5,802,100 6,293,100 10,667,000
差額(12 23,996,500 26,355,000 34,820,500

 なお、所得税法第157条第1項を適用するのは、同族会社の存在あるいは法人格を否認するものではなく、また、同族会社の行為又は計算を前提に同条項を適用するものであるから、法人税の調査によって指摘できるものではない。
D 請求人は、本件更正処分等による所得税額は、実際の所得金額よりも多くなり、納税資金はない旨主張するが、更正処分の金額は、所得税法の規定に基づいた正当な金額によっているものであって、請求人の納税資金の多寡によって所得金額が左右されるものではない。
(ハ) 不動産所得の金額
A 総収入金額
 各年分の総収入金額は、次表のとおりである。

(単位:円)
年分
賃借人
平成元年分 平成2年分 平成3年分
本件建物 A社 1 74,080,133 76,115,781 105,403,793
B社 2 14,713,296 17,402,612 18,086,453
小計(12 3 88,793,429 93,518,393 123,490,246
その他の建物 A社 4 960,000 960,000 960,000
C 5 1,800,000 1,800,000 1,800,000
小計(45 6 2,760,000 2,760,000 2,760,000
合計(36 91,553,429 96,278,393 126,250,246

(A) 本件建物に係る各年分の収入金額は、請求人が確定申告書に添付して提出した各年分の所得税青色申告決算書(不動産所得用)(以下「決算書」という。)に記載し、申告した額(A社からのものは平成元年分及び平成2年分各40,800,000円並びに平成3年分53,760,000円であり、また、B社からのものは各年分とも零円となる。)に、後記(C)の表中の5及び10に記載した総収入金額に算入すべき金額を加算した金額である。
(B) その他の建物に係る各年分の収入金額は、請求人が決算書に記載し、申告した額にその他の建物に係る消費税額を加算して、次表のとおり算定した。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
A社 確定申告額 1 960,000 932,040 932,040
消費税額 2 - 27,960 27,960
小計(12 3 960,000 960,000 960,000
C 確定申告額 4 1,800,000 1,747,572 1,800,000
消費税額 5 - 52,428 -
小計(45 6 1,800,000 1,800,000 1,800,000
合計(36 2,760,000 2,760,000 2,760,000

(C) 総収入金額に算入すべき金額は、次表のとおりである。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
A社 賃貸料の額 1 77,090,700 77,090,700 107,402,472
平均管理料割合 2 0.1270 0.1072 0.1058
適正管理料相当額
1×2
3 9,790,519 8,264,123 11,363,182
本件甲管理料相当額
((ロ)のBの(C))
4 43,070,652 43,579,904 63,006,975
総収入金額に算入すべき金額
43
5 33,280,133 35,315,781 51,643,793
B社 賃貸料の額 6 14,352,000 17,045,936 17,784,000
平均管理料割合 7 0.1270 0.1072 0.1058
適正管理料相当額
6×7
8 1,822,704 1,827,324 1,881,547
本件乙管理料相当額
((ロ)のBの(C))
9 16,536,000 19,229,936 19,968,000
総収入金額に算入すべき金額
98
10 14,713,296 17,402,612 18,086,453
総収入金額に算入すべき金額の合計
510
47,993,429 52,718,393 69,730,246

 なお、表中の「平均管理料割合」とは、一般の不動産管理会社に同規模程度の賃貸建物の管理業務を委託している者(以下「比準同業者」という。)が不動産管理会社に支払った管理料の額の賃貸料の額に占める割合の平均値をいう。以下同じ。
B 必要経費の額
(A) 租税公課の額
 租税公課の額は、請求人の決算書の「租税公課」欄の金額に、請求人が、各年において納付した消費税額を加算して、次表のとおり算定した。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
確定申告額 4,994,870 4,818,230 5,176,725
消費税額 - 88,600 117,200
合計 4,994,870 4,906,830 5,293,925

(B) 租税公課以外の必要経費の額
 租税公課以外の必要経費の額は、請求人が各年分の決算書に記載した金額で、平成元年分23,881,956円、平成2年分23,352,058円及び平成3年分28,466,216円である。
C 不動産所得の金額
 以上の結果、請求人の不動産所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
総収入金額 1 91,553,429 96,278,393 126,250,246
必要経費の額 2 28,876,826 28,258,888 33,760,141
青色申告控除額 3 100,000 100,000 100,000
不動産所得の金額(123 62,576,603 67,919,505 92,390,105

(ニ) 給与所得の金額
 給与所得の金額は、請求人が各年分の確定申告書に記載した金額で、平成元年分及び平成2年分各6,465,000円並びに平成3年分8,893,000円である。
(ホ) 雑所得の金額
 請求人が、各年分の所得税の確定申告書に消費税差益分として記載した金額は、各年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入されるから、雑所得の金額は各年分とも零円となる。
(ヘ) 総所得金額
 以上の結果、請求人の各年分の総所得金額は、次表のとおりとなり、これらの金額はいずれも更正処分に係る総所得金額を上回るから、各更正処分は適法である。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
不動産所得の金額 1 62,576,603 67,919,505 92,390,105
給与所得の金額 2 6,465,000 6,465,000 8,893,000
雑所得の金額 3 0 0 0
総所得金額(123 69,041,603 74,384,505 101,283,105

ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、各年分の更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした各年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 更正処分について

 本件更正処分に係る手続の違法性の存否及び本件契約に基づく行為又は計算が、所得税法第157条の規定に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 更正処分の手続について
(イ) 請求人は、原処分庁が修正申告のしょうよう以来長い間何の連絡をすることなく本件更正処分をしたことは、信義誠実の原則に違反する旨主張する。
A 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(A) 平成4年10月7日、C及び請求人の関与税理士が、T税務署にて、原処分庁に対し、不動産所得の申告をするに際し、管理料が賃貸料収入の20パーセント以内でなければならない旨の説明がなかったのは納得できない旨申し立てたこと。
(B) 平成4年10月7日以後、原処分が行われた同年12月28日まで、原処分庁は請求人に対し、調査を終了した旨の連絡をしておらず、また、請求人も同様に原処分庁に対し、本件調査を終了したか否かの確認をしていないこと。
(C) 原処分庁が、本件調査に当たり、請求人に対し、更正処分をしない旨を明言したことは確認できないこと。
B ところで、信義誠実の原則が適用される場合とは、課税庁がその責めに帰すべき理由により、納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づき何らかの行為をし、その信頼に反するその後の課税処分により、重大な不利益を受けた場合であって、かつ、納税者に何ら責めに帰すべき事由がなく、課税の公平、平等を考慮に入れてもなお、納税者の信頼を保護すべき特別の事情がある場合に限って、上記信頼に反する課税庁の処分に信義誠実の原則の法理を適用し得ると解するのが相当である。
C 前記Aの事実をBに照らして判断すると、原処分庁が請求人に対し、調査を終了した旨の公的見解を表示したとは認められず、また、請求人は、調査が終了したか否かの確認をすることができたにもかかわらず、これを行っておらず、一方、本件更正処分が行われた日までの期間が、信義誠実の原則を適用しなければならないほどの期間とは認められないことから、本件更正処分が信義誠実の原則に反し行われたとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 請求人は、請求人と原処分庁との法解釈が相違していたのであり、かつ、行政指導の下においては更正処分を調査年分のみとすべきでそ及することは、信義誠実の原則に違反する旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば本件更正処分は、原処分庁の調査に基づいて行われたものであり、単なる行政指導により行われたものではないことが認められ、また、原処分庁が調査年分を平成3年分と限定したとは認められない。
 更正処分は、国税通則法第70条第1項の規定に基づき、当該国税の法定申告期限から3年を経過するまでの期間において適時なし得るものであるところ、本件更正処分は当該期間内に適法に行われており、前記(イ)のBに照らしてみても、何ら信義誠実の原則に違反するものではなく、違法不当な処分ということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 所得税負担の不当減少の有無等について
(イ) 当審判所が原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。
A A社は、昭和53年5月18日付で設立された同族会社であり、かつ、請求人は、本件調査対象の全年(以下「全年」という。)を通じ同社の株主であり代表取締役であること。
 また、B社は、昭和48年10月25日付で株式会社Gが商号変更した同族会社であり、かつ、請求人は、Cの父親であること。
B 請求人は、全年を通じ本件建物の2階から9階までの部分をA社に、1階部分をB社に、それぞれ一括して貸し付けていること。
C A社は、全年を通じ本件建物の2階から9階までの部分を株式会社DのS本社に又貸しし、A社の売上高は、そのすべてがこの又貸し料収入によるものであること。
 また、B社は、全年を通じ本件建物の1階部分をE株式会社に又貸しし、B社の売上高は、そのすべてがこの又貸し料収入であること。
D A社及びB社の又貸し料収入の額は、次表のとおりであること。

(単位:円)
期間
会社名
平成元年1月1日
〜12月31日
平成2年1月1日
〜12月31日
平成3年1月1日
〜12月31日
A社 94,850,852 95,415,104 128,863,555
B社 16,536,000 19,229,936 19,968,000
合計 111,386,852 114,645,040 148,831,555

E A社が請求人に対して支払う賃借料は、平成元年分及び平成2年分については、昭和63年12月31日に請求人とA社との間で締結した建物賃貸借契約書第3条に定められた月額各3,400,000円、年額各40,800,000円であり、平成3年分については、平成3年1月10日付の確認書の改定事項2に定められた月額4,480,000円、年額53,760,000円であること。
 また、B社が請求人に対して支払う賃借料は零円であること。
 なお、A社の管理費実費負担額は平成元年分10,980,200円、平成2年分11,035,200円及び平成3年分12,096,580円であること。
F 原処分庁は、比準同業者の平均管理料割合を、平成元年分12.70パーセント、平成2年分10.72パーセント及び平成3年分10.58パーセントと認定していること。
(ロ) 前記(イ)のDないしFの事実によれば、次のとおりである。
A 本件甲管理料相当額は、各年分とも株式会社DのS本社がA社に支払った又貸し料収入から、A社が支払った管理費実費負担額及びA社が請求人に支払った賃借料を控除した金額で、平成元年分43,070,652円、平成2年分43,579,904円及び平成3年分63,006,975円となり、本件甲管理料相当額の当該又貸し料収入の額に対する割合(以下「本件甲管理料相当額割合」という。)は、平成元年分45.41パーセント、平成2年分45.67パーセント及び平成3年分48.89パーセントであることが認められる。
B 本件乙管理料相当額は、各年分ともE株式会社がB社に支払った又貸し料収入の額と同額の平成元年分16,536,000円、平成2年分19,229,936円及び平成3年分19,968,000円となり、本件乙管理料相当額の当該又貸し料収入の額に対する割合(以下「本件乙管理料相当額割合」という。)は、各年分とも100パーセントとなる。
(ハ) 本件甲管理料相当額割合及び本件乙管理料相当額割合は、前記(イ)のFの比準同業者の平均管理料割合をはるかに超える異常なものと認められるところ、請求人がA社及びB社との間で締結した本件契約は、請求人とA社及びB社が同族会社とその株主かつ代表取締役社長あるいは代表取締役の親族という関係にあるが故に可能な行為又は計算であり、純経済人としては不合理、不自然なものといわざるをえない。
 なお、本件甲管理料相当額割合及び本件乙管理料相当額割合と比準同業者の平均管理料割合との比較の合理性については、後記(ホ)のAに記載のとおりである。
(ニ) ところで、所得税法第157条第1項の規定によれば、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと特殊な関係にある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の所得金額及び納付すべき税額を計算することができるとされている。
 すなわち、同族会社の選択した行為、計算が実在し、それが私法上有効であっても、その私法上許された形式を濫用し、異常な取引形態を選択した場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地からこれを通常あるべき行為又は計算に引き直し、請求人の納付すべき所得税の額を算定しようとするものである。
 そして、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された税額とのかい離によって判断すべきものと解するのが相当である。
(ホ) そこで、当審判所が、本件契約に基づく行為又は計算が請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっているか否かについて検討したところ、次のとおりである。
A 比準同業者の平均管理料割合との比較の合理性
 原処分庁は、各年分の請求人の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額及び所得税額を算定するに当たり、1A社及びB社が得ている賃貸料の額に平均管理料割合を乗じて計算した額(以下「適正管理料相当額」という。)が、通常であれば支払われるであろう標準的かつ適正な管理料の額であるとし、2本件甲管理料相当額及び本件乙管理料相当額から、適正管理料相当額を控除し、3当該残余の額を、請求人の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入して算定した所得税額と請求人が申告した所得税額とを比較していることが認められるところ、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」か否かの判断を、本件契約に係る行為又は計算に基づいて算出された請求人の税額と、比準同業者の支払った管理料の額に基づく平均管理料割合を適用して算定された請求人の税額とのかい離を求める方法によったことは、前記(ニ)に照らして合理的であり、かつ、比準同業者の選定も後記Bのとおり合理的であると認められる。
B 比準同業者
 原処分庁は、U税務署管内に賃貸建物を有し不動産貸付業を営む個人(各年分5件)を比準同業者として選定しているが、当審判所が調査した結果、当該比準同業者の選定の基準を次のとおりとしていることが認められる。
(A) 賃貸建物の管理を、同族関係にない一般の不動産管理会社に委託していること。
(B) 比準同業者の賃貸建物は、請求人の場合と同様、貸店舗又は貸事務所として利用されていること。
(C) 青色申告決算書又は収支内訳書(不動産所得用)を所轄税務署長に提出していること。
(D) 比準同業者の賃貸建物に係る賃貸料収入の額は、本件建物に係る又貸し料収入の額の0.5倍以上2倍以内の範囲内であること。
 以上の基準により、抽出された比準同業者は、請求人とその業務の内容等が実質的にも類似している者と認められ、その抽出基準は合理的であり、抽出過程においてし意が介在した事実は認められない。
 したがって、比準同業者の選定は合理的であると認められる。
C A社及びB社の賃貸料の額並びに本件甲管理料相当額及び本件乙管理料相当額
 原処分庁は、各年分のA社及びB社の賃貸料の額並びに本件甲管理料相当額及び本件乙管理料相当額を、次表のとおり算定しているところ、当審判所の調査によっても、その計算は適正であることが認められる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
A社 又貸し料収入の額 1 94,850,852 95,415,104 128,863,555
内訳 賃貸料の額 77,090,700 77,090,700 107,402,472
共益費の額 16,025,736 16,025,736 20,700,357
雑収入の額 1,734,416 2,298,668 760,726
管理費実費負担額 2 10,980,200 11,035,200 12,096,580
請求人への賃借料支払額 3 40,800,000 40,800,000 53,760,000
本件甲管理料相当額(123 43,070,652 43,579,904 63,006,975
B社 又貸し料収入の額 4 16,536,000 19,229,936 19,968,000
内訳 賃貸料の額 14,352,000 17,045,936 17,784,000
共益費の額 2,184,000 2,184,000 2,184,000
請求人への賃借料支払額 5 - - -
本件乙管理料相当額
45
16,536,000 19,229,936 19,968,000

D 比準同業者の平均管理料割合及び適性管理料相当額
 原処分庁は、各年分の平均管理料割合を比準同業者の賃貸料収入の額及び支払管理料に基づいて算定し、A社及びB社の賃貸料収入の額に、この平均管理料割合を乗じて請求人の適性管理料相当額を次表のとおり算定しているところ、当審判所の調査によっても、平均管理料割合及び適性管理料相当額の計算は適正であることが認められ、本件甲管理料相当額及び本件乙管理料相当額は、適性管理料相当額に比し著しく過大であることが認められる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
A社 賃貸料の額 1 77,090,700 77,090,700 107,402,472
平均管理料割合 2 0.1270 0.1072 0.1058
適正管理料相当額(1×2 3 9,790,519 8,264,123 11,363,182
本件甲管理料相当額 4 43,070,652 43,579,904 63,006,975
差額(43 5 33,280,133 35,315,781 51,643,793
B社 賃貸料の額 6 14,352,000 17,045,936 17,784,000
平均管理料割合 7 0.1270 0.1072 0.1058
適正管理料相当額(6×7 8 1,822,704 1,827,324 1,881,547
本件乙管理料相当額 9 16,536,000 19,229,936 19,968,000
差額(98 10 14,713,296 17,402,612 18,086,453
合計(510 47,993,429 52,718,393 69,730,246

E 所得税額の比較
 そこで、請求人の各年分の所得税額について、上記Dの比準同業者の平均管理料割合及び適性管理料相当額により算出した後記への総所得金額に基づいて計算した所得税額と請求人が確定申告に記載した所得税額とを比較検討したところ、両者の所得税額は次表のとおりとなり、両者の所得税額には著しいかい離があり、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっていることが認められる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
後記ヘの総所得金額 1 69,041,603 74,384,505 101,283,105
所得控除の額 2 808,160 823,000 823,000
課税総所得金額(12 3 68,233,000 73,561,000 100,460,000
3に対する所得税額 4 30,216,500 32,880,500 46,330,000
源泉徴収税額 5 832,400 728,400 1,371,000
納付すべき所得税額(45 6 29,384,100 32,152,100 44,959,000
確定申告した所得税額 7 5,802,100 6,293,100 10,667,000
差額(67 23,582,000 25,859,000 34,292,000

(注)1 「課税総所得金額」欄は、1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額である。
2 「所得控除の額」欄及び「源泉徴収税額」欄の金額は、請求人が確定申告書に記載した金額である。


(ヘ) 請求人は、A社の法人税の確定申告は、商法、企業会計原則、法人税法にのっとり決算が組まれ利益処分も確定したところで行われ、そのうえ、平成4年に実施されたA社に対する法人税の調査においては経費の一部を否認されたのみで、ほかに指摘されていないことから、同一処分庁で本件調査とA社に対する法人税の調査とで、家賃収入及び支払家賃の適・不適が異なることは納得できない旨主張する。
 しかしながら、所得税法第157条第1項は、同族会社の存在及びその行為を否認するものではなく、同族会社の行為又は計算によって所得税の負担を不当に減少させることとなる場合は、その行為又は計算を通常あるべき行為又は計算に引き直してその居住者の所得税の額を計算するという所得税に関する規定であるから、A社に対する法人税の調査に当たって本件調査の内容を指摘すべき必要性は存在しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ト) 請求人は、請求人の各年分の所得金額は、確定申告書に記載したとおりであるところ、本件更正処分等による所得税額は、請求人の実際の所得金額よりも多くなり、可処分所得がマイナスとなるので、納税資金はない旨主張する。
 しかしながら、当審判所が原処分関係資料を調査したところ、本件更正処分等の金額は、所得税法及び国税通則法の規定に基づいて算出されており、かつ、その計算も適正であることが認められる。
 また、納税資金の有無が所得金額の認定に影響を及ぼすものでもない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 不動産所得の金額
(イ) 総収入金額
A 本件建物に係る収入金額
 原処分庁は、請求人の各年分の本件建物に係る収入金額を、請求人が、決算書に記載し申告した金額に、比準同業者の平均管理料割合を基礎とした総収入金額に算入すべき金額を加算し、算出しているところ、比準同業者の平均管理料割合を基礎として総収入金額に算入すべき金額を算出する方法及び比準同業者の選定方法には、前記ロの(ホ)のA及びBのとおり、いずれも合理性があると認められる。
 したがって、請求人の各年分の本件建物に係る収入金額は、請求人が決算書に記載し申告した額に、比準同業者の平均管理料割合を基礎とした総収入金額に算入すべき金額である前記ロの(ホ)のDの表の「差額」欄の金額を加算すると、次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
A社 確定申告額 1 40,800,000 40,800,000 53,760,000
総収入金額に算入すべき金額 2 33,280,133 35,315,781 51,643,793
小計(12 3 74,080,133 76,115,781 105,403,793
B社 確定申告額 4 0 0 0
総収入金額に算入すべき金額 5 14,713,296 17,402,612 18,086,453
小計(45 6 14,713,296 17,402,612 18,086,453
合計(36 88,793,429 93,518,393 123,490,246

B その他の建物に係る収入金額
 原処分庁は、請求人の各年分のその他の建物に係る収入金額を、請求人が、決算書に記載し申告した金額に、その他の建物に係る消費税額を加算して、次表のとおり算定しているが、当審判所の調査によっても相当と認められる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
A社 確定申告額 1 960,000 932,040 932,040
消費税額 2 - 27,960 27,960
小計(12 3 960,000 960,000 960,000
C 確定申告額 4 1,800,000 1,747,572 1,800,000
消費税額 5 - 52,428 -
小計(45 6 1,800,000 1,800,000 1,800,000
合計(36 2,760,000 2,760,000 2,760,000

C 総収入金額
 以上の結果、請求人の各年分の総収入金額は、次表のとおりである。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
本件建物に係る収入金額 88,793,429 93,518,393 123,490,246
その他の建物に係る収入金額 2,760,000 2,760,000 2,760,000
合計 91,553,429 96,278,393 126,250,246

(ロ) 必要経費の額
A 租税公課の額
 原処分庁は、各年分の請求人の租税公課の額を、請求人の決算書の「租税公課」欄の金額に、請求人が、各年分に納付した消費税額を加算して、次表のとおり算定しているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定額は相当と認められる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
確定申告額 4,994,870 4,818,230 5,176,725
消費税額 - 88,600 117,200
合計 4,994,870 4,906,830 5,293,925

B 租税公課以外の必要経費の額
 租税公課以外の必要経費の額は、請求人が各年分の決算書に記載した金額で、平成元年分23,881,956円、平成2年分23,352,085円及び平成3年分28,466,216円であり、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ハ) 不動産所得の金額
 以上の結果、請求人の各年分の不動産所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
総収入金額 1 91,553,429 96,278,393 126,250,246
必要経費の額 2 28,876,826 28,258,915 33,760,141
内訳 租税公課の額 4,994,870 4,906,830 5,293,925
租税公課以外の必要経費の額 23,881,956 23,352,085 28,466,216
青色申告控除額 3 100,000 100,000 100,000
不動産所得の金額(123 62,576,603 67,919,478 92,390,105

ニ 給与所得の金額
 給与所得の金額は、請求人が各年分の確定申告書に記載した金額で、平成元年分及び平成2年分各6,465,000円並びに平成3年分8,893,000円であり、当審判所の調査によっても相当と認められる。
ホ 雑所得の金額
 原処分庁は、各年分の雑所得の金額を請求人が確定申告書に消費税差益分として記載した金額は各年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入されることから、いずれも零円と認定しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
ヘ 総所得金額
 以上の結果、請求人の各年分の総所得金額は、次表のとおりとなり、これらの金額はいずれも更正処分に係る総所得金額を上回るから、各更正処分は適法である。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分 平成3年分
不動産所得の金額 1 62,576,603 67,919,478 92,390,105
給与所得の金額 2 6,465,000 6,465,000 8,893,000
雑所得の金額 3 0 0 0
総所得金額(123 69,041,603 74,384,478 101,283,105

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、各年分の更正処分は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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