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(平6.4.22、裁決事例集No.47 257頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、書籍・雑誌小売業を営む法人(同族会社)であるが、平成元年8月1日から平成2年7月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、次表の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
 これに対し、原処分庁は、平成4年9月28日付で次表の「更正処分等」欄のとおり更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
項目 確定申告 更正処分等
所得金額 75,012,393 202,990,193
納付すべき税額 27,438,200 77,956,600
重加算税の額 - 17,678,500

 請求人は、これらの処分を不服として国税通則法第75条((国税に関する処分についての不服申立て))第4項第1号の規定により、異議申立てを経ず、平成4年11月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分庁は、請求人が譲渡経費として損金の額に算入した企画料127,977,800円(以下「本件企画料」という。)は架空に計上したものであるとして更正処分等を行ったが、原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、平成2年1月11日にA株式会社(以下「A社」という。)との間で締結した土地建物売買契約(以下「本件売買契約」という。)に基づき、P市R町三丁目10番2所在の宅地112.36平方メートル(以下「本件宅地」という。)及び同所ほか3筆の土地に所在する三階建区分建物(以下「本件ビル」という。)のうち請求人の専有部分の1階部分90.65平方メートル、2階部分96.43平方メートル、3階部分99.11平方メートル(以下「建物専有部分」といい、本件宅地と建物専有部分を併せて「本件物件」という。)を815,733,600円で譲渡し益金の額に算入した。
 また、請求人は、この譲渡に伴い有限会社B(以下「B社」という。)へ本件企画料を支払い、損金の額に算入した。
(イ) 本件企画料の支払について
A 請求人を含めた本件ビルの区分所有者は、C株式会社(以下「C社」という。)及びDリースほか数名(以下、C社と併せて「企画グループ」という。)から本件ビルの再開発企画(以下「本件ビル企画」という。)を示されていたが、話合いが不調に終わっていた。その後、請求人は、C社の専務取締役E(以下「E」という。)より本件物件の売却を勧められ、A社へ譲渡することとした。
B 請求人は、本件ビルが制約された物件でもあったことから、3.3平方メートル当たり20,000,000円くらいの売買単価であれば妥当なものと考えていたところ、Eより、本件物件の売買に関して、企画グループでは諸々の活動を行っており、また、多額の費用を負担していることから、仲介手数料のほかに企画グループに対し本件企画料を支払う必要があるので、売買単価を3.3平方メートル当たり24,000,000円としたいとの申し出があった。
 請求人は、本件企画料を支払わないと本件売買契約が破棄されるおそれがあったことから、3.3平方メートル当たり20,000,000円さえ確保できればよいと考え、Eの申し出に合意した。
C 本件売買契約が成立し、登記手続が完了した平成2年1月16日に、請求人の代表取締役F(以下「F」という。)は、Eとの合意に従い、G銀行H支店(以下「G銀行」という。)で額面127,977,800円の自己宛小切手(以下「本件小切手」という。)を発行し、B社に手渡した。また、請求人は、同日午後に「金127,977,800円也」との記載のあるB社発行の領収証(以下「本件領収証」という。)の交付を受けた。
(ロ) 本件企画料の損金算入について
A 上述のとおり、本件企画料の支払は、売買契約書の特約事項及び請求人とEとの合意により取り決められていたものであり、請求人は、当該合意等に基づき本件企画料を支払ったものである。
B 本件企画料の支払は、本件売買契約を成立させるために必要不可欠なものであるから、本件企画料は、法人税法第22条((各事業年度の所得の金額の計算))第3項第2号に規定する販売費として、請求人の本件事業年度の損金の額に算入されるべきものである。
(ハ) 以上のとおり、請求人は、本件企画料を現実に支払ったのであるから、本件企画料を架空に計上したものであるとして損金の額から減算した更正処分は、事実を誤認した違法なものである。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、以下に述べるとおり、適法である。
イ 更正処分について
 本件企画料は、次に述べるとおり、架空に計上されたものであるので損金の額から減算したものである。
(イ) B社の代表取締役I(以下「I」という。)は、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、次のとおり申述している。
A B社が、本件売買契約に関する企画等に関与した事実はない。
B 本件領収証はEから頼まれて発行したもので、その謝礼として現金約5,000,000円を受領した。
C 本件領収証の記載金額は約120,000,000円であったと記憶している。
D B社が、請求人から本件企画料を受け取った事実はない。
E 本件売買契約に関してG銀行へ行ったことはない。
(ロ) A社の代表取締役J(以下「J」という。)は、調査担当職員に対し、次のとおり申述している。
A 本件物件は有限会社K(以下「K社」という。)の仲介により取得した。
B 本件売買契約は単純な取引であり、ビル建設計画や入居者等の企画はなかった。
C 本件売買契約の締結はG銀行で行い、その場に出席したのは、F、J、融資元であるL株式会社○○営業所(以下「L社」という。)のM、K社のN、C社のE、O株式会社(以下「O社」という。)のQの6名であり、Iは来ていなかった。
(ハ) Eが請求人へ提示したとされている本件ビル企画に関する協定書にはB社の名称は記載されていない。
(ニ) 本件ビル企画に係る役務提供の内容等については不明であり、また、Iの風体に関するFの申述もあいまいである。このような支払根拠及び支払先が不明である場合にあって多額の金員を支払うことは通常の取引ではあり得ないことである。
(ホ) 請求人は、平成2年1月16日に、C社に対し、正規の媒介報酬23,104,000円を支払っている。
 以上のとおり、本件企画料はその支払の事実が明らかでなく、架空に計上された経費であるので、本件事業年度の損金の額から減算した更正処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 架空の経費を計上して、所得を過少に申告した行為は、国税通則法第68条((重加算税))第1項に規定する課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装した行為の仮装行為に該当する。
 したがって、同項の規定に基づき重加算税を賦課決定した処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件企画料が架空に計上されたものであるかどうかにあるので、以下審理する。

(1) 更正処分について

 請求人は、本件企画料の支払が本件売買契約成立に必要不可欠のものであり、また、真実支払ったものであるので、損金の額に算入されるべきものである旨主張するので、以下検討する。
イ 当審判所が原処分関係資料及び請求人等を調査したところ、次のとおりである。
(イ) 原処分関係資料によると、次の事実が認められる。
A 本件領収証には、「P市R町再開発に関する企画料等として」との記載があり、発行者はB社となっていること。
B Iは、調査担当職員に対し、Eから頼まれて本件領収証を発行し、現金5,000,000円を謝礼として受領した旨申述していること。
C Jは、調査担当職員に対し、本件売買契約の締結はG銀行で行い、出席者は、F、J、L社のM、K社のN、C社のE、O社のQの6名であった旨申述していること。
(ロ) 当審判所が請求人及びF等を調査したところによると、次の事実が認められる。
A 請求人が所持している土地建物売買契約書には、その第1条に「請求人は、本件物件を代金815,733,600円でA社へ売り渡す」旨の記載があり、媒介者としてC社及びK社が署名押印していること。
B 請求人は、本件物件の譲渡に係る譲渡収入815,733,600円を本件事業年度の益金の額に、また、仲介料23,104,000円及び企画料127,977,800円を本件事業年度の損金の額にそれぞれ算入していること。
C Fは、本件売買契約の経緯及び本件企画料について、次のとおり答述していること。
(A) 本件売買契約について
a 昭和62年ごろに、企画グループから持ち込まれた本件ビル企画が一部の区分所有者の反対により一頓座していたところ、平成元年10月ごろに至ってEより請求人の持分のみを売らないかとの話があり、本件売買契約を締結することとなった。
b Eより、いくらなら売るかとの話があったので、3.3平方メートル当たり20,000,000円、総額で660,000,000円くらい欲しいと伝えた。
 所有関係が複雑な区分建物であり、また、一部の区分所有者が本件ビル企画に反対するなど制約のある物件でもあったことから、相場では売れないと判断し、手取りで3.3平方メートル当たり20,000,000円あれば十分と考えた。
c 売買単価の3.3平方メートル当たり24,000,000円は、請求人の希望手取り額や相場を勘案してEが提示してきたものである。
(B) 本件企画料について
a 本件企画料の支払については、Eから、これまでいろいろと本件ビル企画に関わった企画グループの人に分配するものであると説明され、その説明を聞いた結果、請求人の希望手取り額は確保できると判断したのでその支払に合意し、Eの指示に従ってB社へ支払った。
 なお、企画グループとの折衝はEに任せていたので、どのような人たちが本件ビル企画に関わっていたのかは分からない。Iについても契約会場でEから企画料を代表して受け取る者として紹介されたもので、それまでは全く面識がなかった。
b 平成2年1月16日の朝、Eから連絡を受けてG銀行に行き、E及びIと会し、Iに本件小切手を渡して本社に戻った。
 なお、本件領収証は、同日の午後、仲介料に係る領収証とともにEが請求人の本社へ持参した。
D Eは、本件売買契約の経緯及び本件企画料について、次のとおり答述していること。
(A) 本件売買契約について
a 本件ビルの再開発を目的として本件ビルの敷地の地上げを行うよう某不動産業者から持ちかけられ、C社ほか数社が本件ビル企画に関わった。
 請求人は、Fが町内会の副会長だったこともあって、地域の発展のため本件ビル企画に賛同し、率先して買い申込みに応じたものと思われる。
b その後も他の区分所有者との折衝を続けていたが、買受人の資金繰りや一部の区分所有者の反対があって本件ビル企画は立ち消えとなっていた。しかし、本件物件を買い取ることは既に請求人から応諾を得ていたので、買受人としてA社を紹介し、本件売買契約が成立したものである。
(B) 本件企画料について
a 本件売買契約は仕切売買であり、請求人の希望手取り額と国土利用計画法の指導価格との差額については、企画料として我々に任せてもらうということで請求人から了解を得ていた。企画料の金額は、国土利用計画法の指導価格いかんにより定めることとしていたことから、その算定根拠はない。
 本件ビル企画を進めるに当たって、最終買受人の探索等、様々な経費がかかっているし、請求人は譲渡後もA社が主催した本件ビル企画に係る会合に出席するなどしていたのであるから、請求人が企画グループへ企画料を支払ってもおかしくない。
 なお、請求人に対しては企画料の分配先を明らかにしていない。
b 平成2年1月16日午前、G銀行において、本件小切手がFからIに渡されたが、本件小切手の現金化は、銀行側の都合により同日午後に回された。
 なお、午後の本件小切手の現金化の場にFはいなかった。
c B社は、企画グループを代表して請求人から本件小切手を受け取り、平成2年1月16日午後、本件小切手を現金化し、企画グループへ分配した。
 Eが専務取締役を務める有限会社S(以下「S社」という。)は、企画全体を担当し、最終買受人の探索等でT町やU市に行くなどの活動をしていたので、B社から、企画料として60,000,000円を受領したが、残金がどのように分配されたのか、だれがどのくらい受領したのかは分からない。
 なお、B社は、さる筋から紹介されたものであるが、さる筋の氏名は明らかにできない。
d 本件領収証は、B社が企画グループを代表して発行したものであり、平成2年1月16日午後、Eが請求人へ届けた。
(ハ) 原処分庁に保管されている法人設立関係書類等によると、S社は、昭和63年8月26日に設立された法人(同族会社)であり、また、登記関係書類によると、Eは専務取締役であり、確定申告書にはEが経理責任者として署名押印している。
(ニ) 当審判所がS社を調査したところによると、S社の会計帳簿には、平成2年1月16日にR町企画料として、B社より60,000,000円を受け入れた旨の記載があり、それに基づき法人税確定申告がなされている。
(ホ) 当審判所がG銀行を調査したところによると、次の事実が認められる。
A 平成2年1月11日午前に、A社名義普通預金口座から240,000,000円及び507,755,800円が出金され、240,000,000円については請求人が受領し、507,755,800円については同行のA社名義通知預金に預け入れされていること。
B 通知預金507,755,800円は、平成2年1月16日午前に解約され、そのうち356,674,000円はFが記載した振込依頼書により他行の請求人名義の普通預金口座へ送金され、23,104,000円については、C社名の振込依頼書により他行のC社名義普通預金口座等へ送金されている。また、127,977,800円については、平成2年1月16日午前にF以外の者が記載した自己宛小切手発行依頼書(兼別段預金入金票)により本件小切手が発行され、同日午後にB社の裏書きを経て現金化されていること。
(ヘ) 当審判所が、B社を所轄する税務署に保管されている法人設立関係書類等を調査したところによると、次の事実が認められる。
A B社は、平成元年8月23日に設立された法人(同族会社)であるが、平成元年8月23日から平成2年6月30日までの事業年度について確定申告書を提出していないこと。
B Iは、平成4年10月16日に所轄の税務署長に対し、平成元年8月23日にB社を設立したものの、営業活動は行っていない旨の上申書を提出していること。
ロ 以上の事実に基づき本件企画料について検討すると、次のとおりである。
(イ) 本件企画料の支払の事実について
A G銀行の記録によれば、本件企画料は、平成2年1月16日午前、本件物件の売買代金815,733,600円の中から本件小切手により支出された事実が認められる。
 また、本件小切手は、同日午後、B社の裏書きを経て現金化されている。
B F及びEの答述によれば、本件小切手は、請求人からB社へ渡されたことが認められ、請求人は、その証拠書類として、同日付で発行された本件領収証を保管している。
C Eは、B社が企画グループを代表して受領した本件企画料のうち60,000,000円をS社が受領した旨答述しており、当審判所がS社の会計帳簿を調査したところによってもその事実が認められる。
D ところで、Iは、原処分庁に対し、上記イの(イ)のBのとおり「頼まれて本件領収証を発行した」旨申述しているが、その内容は、本件企画料がB社に帰属するか否かに関するものであって、B社が請求人から本件小切手を一旦渡されたことを否定しているものとは認められない。
 また、Jは、原処分庁に対して、上記イの(イ)のCのとおり「契約締結の場に出席していたのはF、J、M、N、E、Qの6名であった」旨申述しているが、その内容は、本件売買契約の締結に立ち会った者に関するものであって、IがG銀行にいたことを否定しているものとは認められない。
E 本件企画料のS社以外の分配先については、当審判所の調査によっても明らかにすることはできないが、当該金員が後日請求人に還流しているなど本件企画料の支払に関する取引が請求人とB社との間の通謀虚偽表示に基づくものであると認めるに足りる証拠はない。また、請求人がその分配先を明らかにできなかったことについては相当の理由があると認められる。
 以上の結果、本件企画料の一部がS社へ分配されたことは明らかであり、その余の金員について請求人が支払わなかったとする証拠は見当たらず、一連の流れからみて企画グループの他の者に分配されたものと推認されるから、本件企画料は本件小切手により支払われたものと認めるのが相当である。
 なお、原処分庁は、I及びJの申述を根拠として、本件企画料の支払の事実はない旨主張するが、上記Dのとおり、両名の申述は、上記認定を覆すに足りるものではないから、原処分庁の主張は、合理性を欠くものである。
(ロ) 本件企画料の損金算入について
A F及びEの本件売買契約の経緯に関する答述によれば、請求人は、企画グループの一員であったC社から本件物件の買い申込みを受け、本件売買契約の締結に至ったことが認められる。
B ところで、不動産業界にあっては、物件の売主がその譲渡を仲介人に対して委託する際、一定の手取り金額を定め、これに仲介人がある程度の金額を上乗すせることを認める旨の譲渡委任、いわゆる仕切売買の方法による譲渡委任の慣行があるとされている。
C これを本件についてみると、F及びEの答述から、Fは、請求人の手取り額を定め、Eがそれに上乗せすることを承認していたと認められることから、請求人は、C社に対して仕切売買の方法による譲渡委任を行ったものと解するのが相当であり、FとEとの間には、請求人が、当該譲渡委任に基づく報酬として本件企画料を支払う旨の合意があったと認められる。
D 更に、本件企画料が寄付金又は交際費等及び費途不明金に該当するか否かについて検討すると、本件企画料は仕切売買による譲渡委任に基づく報酬として支払われていることから、寄付金又は交際費等には該当せず、また、請求人は本件企画料をB社に支払ったとの認識であり、支払に係る領収証も存在し、それが通謀虚偽表示に基づくものであると認めるに足りる証拠がない以上、本件企画料を費途不明金と認定することはできない。
 以上の結果、本件企画料は、仕切売買の方法による譲渡委任に基づく報酬たる性格を有し、寄付金又は交際費等及び費途不明金にも該当しないことから、請求人の本件事業年度の損金の額に算入するのが相当である。
ハ 以上のとおり、本件企画料は、本件物件の譲渡に係る譲渡経費として請求人の本件事業年度の損金の額に算入するのが相当であるから、本件企画料の支払の事実はないとして、本件事業年度の損金の額から減算した更正処分は事実誤認に基づくものであり、その全部の取消しを免れない。

(2) 重加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い重加算税の賦課決定処分もその根拠を失うこととなり、その全部を取り消すのが相当である。

(3) 原処分のその余の部分について請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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