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(平6.5.31、裁決事例集No.47 340頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、一般区域貨物自動車運送を業とする非同族の同族会社であるが、原処分庁は、平成3年12月27日付で、請求人に対し次表のとおり、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
  処分 納税告知処分 賦課決定処分
年月分 項目 源泉所得税の額 不納付加算税の額
平成2年9月分 864,915 86,000
平成3年5月分 884,885 88,000
合計 1,749,800 174,000

 請求人は、これらの処分を不服として、平成4年2月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月2日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成4年7月3日に審査請求をしたものである。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、源泉所得税の額1,749,800円のうち1,493,900円及び不納付加算税の額174,000円のうち148,000円につき取消しを求める。
イ 源泉所得税の納税告知処分について
 請求人は、請求人の役員A及びB(以下、それぞれ「A」及び「B」といい、これら両人を併せて「本件役員ら」という。)が、常務取締役に選任された際に、次表のとおり使用人部分の退職金を支給したところ、原処分庁は、これらは退職金ではなく、役員賞与であるとして、納税告知処分をした。

(単位:円)
受給者 平成2年9月25日 平成3年5月2日 総支給金額
A 2,500,000 2,564,460 5,064,460
B 2,500,000 2,492,939 4,992,939
合計 5,000,000 5,057,399 10,057,399

 しかしながら、この処分の基因となった本件役員らに支給した退職金(以下「本件金員」という。)10,057,399円のうち7,512,729円は、次のとおり、錯誤によって計算、支給されたものであり、賞与と認定されるべきものではなく、当該錯誤によって計算、支給された部分に係る納税告知処分は違法である。
(イ) 請求人は、本件役員らの使用人部分の退職金の計算に当たって、本件役員らが、部長兼務取締役であった期間(昭和56年6月22日から平成2年6月26日までの間。以下「兼務従事期間」という。)も、請求人の従業員を対象とした就業規則第72条(以下「本件退職給与規定」という。)が適用されるものと錯誤して、本件退職給与規定の適用期間を、入社時の昭和50年11月1日から部長兼務取締役就任時の昭和56年6月22日までとすべきところ、入社時から常務取締役就任時の平成2年6月26日までとした。
 しかし、本件退職給与規定は、従業員のみに適用されるべきものであり、部長兼務取締役といえども役員そのものであるから、本件役員らの兼務従業期間について、本件退職給与規定の適用がないことは明白であり、この適用があるものとして算出、支給した兼務従事期間に係る金額(以下「兼務部分の金額」という。)7,512,729円は、錯誤により支払われたものである。
(ロ) 兼務部分の金額の計算、支給したことが請求人の錯誤によるものであることは、平成2年6月26日に退職した取締役C及び監査役Dについては、「取締役並びに監査役退職慰労金支給規程」(以下、「取締役等退職慰労金支給規程」という。)に基づき株主総会の承認を経て役員退職慰労金を支給しているところ、本件役員らについては、これと異なった手続で支給していることからも明らかである。
 なお、本件役員らに支払われた兼務部分の金額については、請求人の平成3年12月21日付の「退職金の払戻しについて」の通知書により、本件役員らに払戻しを求めたところ、本件役員らも請求人の誤りを認めて、Aが同4年1月28日、Bが同年2月20日に、支給した金額を返還しており、この事実からも錯誤による支払であったことが明らかである。
(ハ) 原処分庁は、請求人には「使用人が役員に昇格したことに伴い支給する退職給与規定」及び「使用人兼務役員が常務取締役に昇格したことに伴い支給する退職給与規定」が存在しないことをもって、錯誤を否定する論拠としているが、これは基本法をゆがめて解釈したものである。請求人の本件退職給与規定及び取締役等退職慰労金支給規程の内容を見れば、原処分庁が挙げるような退職給与規定が存在すること自体が否定されなければならないことである。
(ニ) したがって、本件役員らの賞与とされた本件金員のうち兼務部分の金額7,512,729円については、現実に支給したことにはならないから、同金額に係る源泉所得税の納税告知処分は取り消されるべきである。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記イに記載したとおり、納税告知処分はその一部が取り消されるべきであるから、これに伴い、不納付加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 源泉所得税の納税告知処分について
 請求人は、本件役員らが常務取締役に昇格した際に支払われた退職金の支給には、兼務従事期間も本件退職給与規定の適用期間であるとした錯誤が存在すると主張する。
 しかし、次のことから、本件金員は、使用人兼務役員であった本件役員らが使用人兼務を解除されたことにより、役員としての地位に基づき退職給与の名目で支給された役員賞与であり、その額が本件退職給与規定に準拠して算出されたに過ぎない。
(イ) 請求人の社内規定には、使用人が退職した場合の退職給与規定及び役員が退職した場合の退職慰労金支給規定は存在するが、使用人が役員に昇格したことに伴い支給する退職給与規定又は使用人兼務役員が常務取締役に昇格したことに伴い支給する退職給与規定が存在しないから、本件金員の支給に当たり、規定の適用に錯誤は存在しない。
(ロ) 請求人には、使用人や役員が常務取締役に昇格した際に使用人部分の退職金を支給することを定めた規定がないから、本件役員らに対する正しい支給額を算出すべき計算式は初めから存在せず、支給時点でそれらの根拠が定められたものにほかならないのであって、錯誤の余地がない。
(ハ) 請求人は、本件金員のうち7,512,729円について、本件役員らから返還を受けており現実に支給したことにはならないと主張するが、本件金員は、請求人の平成2年4月1日から同3年3月31日までの事業年度において退職給与として損金経理をされているものであり、返還を受けたことによって本件金員の性格が変わるものではないから、請求人の主張には理由がない。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 請求人には、納税告知処分による源泉所得税を納付しなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第67条((不納付加算税))第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項本文の規定に基づき不納付加算税を賦課決定したのは正当である。

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3 判断

(1) 源泉所得税の納税告知処分について

 本件審査請求の争点は、本件役員らに支払われた本件金員のうち兼務部分の金額7,512,729円について、これを役員賞与であるとしてされた源泉所得税の納税告知処分が違法であるか否かであるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 請求人が提出した資料及び原処分関係資料等について、当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、従業員を対象とした本件退職給与規定と役員を対象とした取締役等退職慰労金支給規程を定めていること。
(ロ) 請求人の取締役総務部長E(以下「E」という。)は、平成2年6月26日の株主総会で退任したC取締役及びD監査役(以下、これら両名を併せて「Cら」という。)に対する退職慰労金並びに本件役員らの常務取締役への昇格に伴う使用人部分に対する退職金を社内規定に基づき支給してよいかとの「退職慰労金支給伺」を同年7月10日付で起案し、同月11日に社内決裁を了していること。
 上記伺いには、Cらについては、報酬(いずれも2万円)に勤務年数(7年又は2年)を乗じ、更に所定係数2.5を乗ずる積算根拠が、本件役員らについては、本人給(262,000円又は258,300円)に倍率(19.33)を乗じる積算根拠が記されていること。
(ハ) 請求人の「第17期定時株主総会議事録」には、同総会が平成2年6月26日に開催され、適法に成立し、第6号議案として、Cらに対する退職慰労金の支給について、「退職慰労金支給規定」に基づき贈呈することを承認、可決した旨が記載されていること。
 なお、上記総会議事録には、本件役員らに対する本件金員の支給については記録されていないこと。
(ニ) 請求人の取締役等退職慰労金支給規程は、役付取締役、非常勤取締役及び非常勤監査役の退職慰労金は「報酬×2.5×勤務年数」の算定方式によるとし、また、常勤取締役の退職慰労金は「(基本給+報酬)×2.5×勤務年数」によるとして、上記の基本給とは委嘱職務に対する給与をいうとしていること。
(ホ) 本件退職給与規定は、従業員の退職金につき、基本給に支給率を乗じて算出するとし、勤続年数ごとの支給率を定めているが、勤続年数10年までの支給率しか存しないこと。
(ヘ) Eは、当審判所の職員に対し、一般の従業員が役員に昇格した場合に従業員期間の退職金を支給すべき旨のいわゆる退職金の打ち切り支給については、本件退職給与規定に明文の定めはないが、本件役員らに対する従業員期間の退職金の支給も、本件退職給与規定から読み取れる旨答述していること。
(ト) Eは、また、本件役員らに適用した支給率を19.33としたのは、請求人と労働組合との協定書によるものである旨答述していること。
(チ) 請求人とF労働組合P地方本部との間において昭和54年4月11日付で締結された協定書(以下「労使協定書」という。)は、勤続年数10年超の場合の退職金の支給率を定めており、請求人の従業員については、同10年超の場合には、この支給率により、退職金の支給を受けていること。
(リ) 労使協定書における支給率(14年18、15年20)に基づき、本件役員らの入社時から常務取締役就任時までの年月数(14年8月)を適用して計算すると、この場合の支給率は19.33となること。
(ヌ) 請求人は、上記(ロ)により決裁された「退職慰労金支給伺」に基づき、Aに5,064,460円、Bに4,992,939円を支給することとし、平成2年9月25日に2,500,000円をそれぞれ支払い、残額については、同3年3月31日に未払金に計上し、同年5月2日、Aに2,564,460円、Bに2,492,939円をそれぞれ支払っていること。
(ル) 請求人は、上記(ロ)により支給した本件金員には、算定方法について錯誤があったとして、平成3年12月21日に「退職金の払戻しについて」の通知書により、Aに対して3,781,210円、Bに対して3,731,519円(いずれも兼務部分の金額)の返還を求めたところ、Aは同4年1月28日に、Bは同年2月20日に、支給された全額をそれぞれ返還したこと。
(ヲ) 請求人は、これに対し、返還を求めた金額以外の金額として、Aには同年1月29日に1,283,250円を、Bには同年2月21日に1,261,420円をそれぞれ返済していること。
(ワ) 請求人には、平成2年6月までに、使用人兼務役員であった者が常務取締役その他の役付取締役に昇格した例はないこと。
(カ) 請求人には、平成2年6月までに、従業員から使用人兼務役員に昇格し、その後退職した例はないこと。
(ヨ) 請求人には、平成2年6月までに、取締役等退職慰労金支給規程により、常勤取締役として退職慰労金の支給をした例はないこと。
ロ 以上の事実からすれば、次のとおりである。
(イ) 上記イの(ロ)前段の「退職慰労金支給伺」にいう「社内規定」とは、Cらについては、上記イの(ロ)後段、(ハ)本文及び(ニ)の各事実から、取締役等退職慰労金支給規程をいい、本件役員らについては、上記イの(ロ)後段、(ハ)なお書き、(ニ)、(ホ)、(ト)、(チ)及び(リ)の各事実から、本件退職給与規定(ただし、労使協定書により補完された内容をいう。以下同じ。)を指すものということができる。
(ロ) 上記(イ)において認定したところ並びにこれに合致する上記イの(ヘ)のEの答述(措信することができる。)及び上記イの(ハ)の事実から判断すれば、請求人は、本件役員らについて、兼務従事期間もなお本件退職給与規定の対象となるものと解し、このような理解に基づいて本件金員を算定、支給したものと認めることが相当である。
(ハ) 原処分庁は、上記2の(2)のイの(イ)及び(ロ)で錯誤は存在しない等と主張するが、原処分庁の指摘する諸事実は、上記(ロ)の理解の存否の判断につき、何ら影響を与えないものといわざるを得ない。
(ニ) 請求人は、兼務部分の金額を計算、支給したことは錯誤によるものと主張し、本件金員のうち兼務部分の金額に相当する額は、それゆえ、本件役員らから返還を受けているから、現実に支給したことにならないと主張し、原処分庁は、上記(ハ)で引用した主張に加え、上記2の(2)のイの(ハ)において、請求人が本件金員の返還を受けたことによって本件金員の性格が変わるものではないと主張する。
 以下、この点に付き検討する。
A 上記(ロ)で認定したとおり、請求人は、本件役員らについて兼務従事期間中もなお本件退職給与規定の対象となるものと解し、本件金員を算定、支給したものであるので、本件退職給与規定が兼務従事期間に適用されるものであるか否かについて、まず、検討する。
(A) 上記イの(ニ)のとおり、取締役等退職慰労金支給規程には、常勤取締役の退職慰労金の算定方法が規定されているが、ここでいう「常勤取締役」が使用人兼務役員を指すものであることは明白である。
(B) なお、現在の社会一般の慣行をみると、一般の従業員が役員に昇格する際に退職金を支給されることは一般にみられるが、使用人兼務役員が役付取締役に昇格する際に退職金等の支給を受けることは一般にみられないところであり、また、一般の従業員の退職金の算定方法と役員の退職慰労金の算定方法とは異なることが一般的であるが、請求人が、あえて一般と異なる方針を有していたと認めるべき証拠、資料はない。
(C) したがって、本件退職給与規定は兼務従事期間には適用されないものであると認められる。
B そうすると、請求人は、本件退職給与規定が兼務従事期間には適用されないにもかかわらず、適用があるものと誤解し、本件役員らに対し、本件金員を支給したものと認めることが相当である。
 なお、上記イの(ワ)、(カ)及び(ヨ)の各事実が認められること並びに上記イの(ル)及び(ヲ)のとおり兼務部分の金額が返還されていることは、この判断に合致するものである。
C 請求人は、本件金員のうち兼務部分の金額の支給は鎖誤によるものであると主張する。
 しかし、本件退職給与規定によれば、同規定による退職金は、特段の法律行為を要せず、支給されるべきものであり、これは、株主総会の議決を経て支給される役員の退職慰労金と異なり、一般の従業員の退職金にあっては、通常の取扱いと合致するものである。
 したがって、本件金員の支給は本件退職給与規定によっているのであるから、その支給が誤解によるものであって、同規定に合致しない場合には、当該部分の支給は、錯誤に該当するか否かを問わず、根拠を有さないものとなると解すべきである。
D 以上のとおりであるから、本件金員のうち兼務部分の金額は、本件役員らに支給されたものとみることはできないので、本件納税告知処分は、兼務部分の金額については違法である。
(ホ) 本件金員のうち兼務部分の金額を除いた金額は、2,544,670円であるが、そのうちAに対して支給された金額は1,283,250円、Bに対して支給された金額は1,261,420円であると認められる(以下、これらの金額をいずれも「最終的支給金額」という。)。
 ところで、請求人は、本件金員の支給を決した時点及び現に支給した各時点においては、本件金員を兼務部分の金額と最終的支給金額とに区分して認識していなかったのであるから、最終的支給金額が平成2年9月分又は同3年5月分のいずれか一方に属するとすることはできないので、A及びBに対する各月における最終的支給金額は、本件金員のこれら両人に対する各月の支給額に比例して算定せざるを得ない。当該金額は別表の1の(1)及び2の(1)のとおりである。
 この金額を基に源泉所得税の額を計算すると、別表1の(2)及び2の(2)のとおり、平成2年9月分は113,800円、同3年5月分は115,000円となる。これらの金額は、いずれも請求人に対する各納税告知処分に係る源泉所得税の額に満たないから、源泉所得税に係る各納税告知処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。
 なお、請求人は源泉所得税の額のうち1,493,900円につき取消しを求めるとしているが、請求人の計算は誤っており、正しい金額は上記のとおりである。

(2) 不納付加算税の賦課決定処分について

イ 平成2年9月分及び同3年5月分の不納付加算税の賦課決定処分については、源泉所得税に係る納税告知処分がいずれもその一部を取り消されることに伴い、その基礎となる税額は、平成2年9月分は113,800円、また同3年5月分は115,000円となる。
 なお、この税額の計算の基礎となった事実については、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
ロ したがって、請求人の不納付加算税の額は、平成2年9月分は11,000円、また同3年5月分は11,000円となり、いずれも各月分の賦課決定処分の額に満たないから、平成2年9月分及び同3年5月分の不納付加算税は、いずれもその一部を取り消すべきである。
 なお、請求人の主張する税額の計算が誤っていることは、上記(1)のロの(ホ)と同様である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠、資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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