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(平6.5.25、裁決事例集No.47 353頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、プラント工事業を営む同族会社であるが、原処分庁は、平成4年12月25日付で、次表のとおり、平成2年1月分から同年6月分まで及び平成3年1月分から平成4年6月分までの源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
項目
年月分
法定納期限 支払額 納付すべき本税の額 不納付加算税の額
平成
2.1から2.6まで
平成
2.7.10
13,467,848 2,693,569 269,000
3.1から3.6まで 3.7.10 4,100,000 820,000 82,000
3.7から3.12まで 4.1.10 10,800,000 2,160,000 216,000
4.1から4.6まで 4.7.10 1,800,000 360,000 36,000

 請求人は、これらの処分を不服として、平成5年2月25日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月20日付で異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、平成5年6月18日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 納税告知処分について
 請求人は、請求人の代表取締役であるA(以下「A」という。)が、海外におけるプラント工事に従事するために出国していた期間中に同人に支払った役員報酬(以下「本件役員報酬」という。)について、1Aが当該出国していた期間においては非居住者に該当し、かつ、2本件役員報酬は、使用人として常時勤務している役員に対する報酬であることから源泉所得税を徴収しなかった。
 原処分庁は、これに対して、1Aは非居住者に該当するものの、2同人の勤務は、請求人の役員としての勤務であるから本件役員報酬は、所得税法第161条((国内源泉所得))の規定による国内源泉所得に該当するとして納税告知処分をした。
 しかしながら、本件役員報酬は、以下のとおり国内源泉所得に該当しない。
(イ) Aの国外での勤務は、次のとおり使用人として常時勤務している役員の勤務である。
A 請求人は、元請会社との間で、国外における業務契約(以下「本件業務契約」という。)を締結しており、Aは、国外出張と同時に元請会社の現地支店長の支配下に入り、同支店の職員と同じような立場で、元請会社の服務規程を完全に遵守して使用人としての業務に専念しているのであるから、この間は、請求人の代表取締役としての業務執行が入り込む余地はなく、また、現実に代表者としての専権業務の執行は全く行っていない。
 更に、請求人とAとの間には、委任関係が成立しているので、請求人がAに対して、「海外の現場で職務に従事する期間については、全面的に元請会社の指示命令に従って仕事をする」旨を命令しているということであるから、Aが国外で勤務している期間の業務を判断する場合の使用者と使用人の関係は、所得税法施行令第285条((国内に源泉がある給与、報酬又は年金の範囲))の規定によるところの使用人に該当するというべきである。
B 会社役員の業務については、1代表者としての業務と使用人としての業務とを一人で使い分けている場合、2代表者としての業務に専念している場合、3使用人としての業務に専念している場合に区分して判断すべきであるところ、Aは、前述したとおり、本件業務契約に基づいて、元請会社の服務規程を完全に遵守することを義務づけられているから、代表者としての業務が入り込む余地はなく、使用人としての業務に専念しているのみである。
 また、会社役員の業務の内容は、その役員の肩書等の形式的な職務によって判断すべきではなく、実際に従事している職務の実態によって判断すべきであり、Aが、国外で勤務している期間は、国内において同社の代表取締役としての業務は、現実に存在しないのであるから、使用人としての業務に専念している場合に該当するというべきである。
C Aが国外で勤務している間は、国内には給与計算等の記帳事務を担当しているAの妻Bがいるだけであり、その間は、Aには他の事業場を指揮監督する業務は皆無であり、従って同人は国外において使用人としての業務に専念できる状況下にある。
(ロ) そうすると、Aの国外での勤務は、「当該役員としての勤務を行う者が同時にその内国法人の使用人として常時勤務を行う場合の当該役員としての勤務」に該当する。
 なお、原処分庁は、代表取締役あるいは社長はいかなる状況で仕事をしていても、所得税法施行令第285条第1項第1号かっこ書の規定による役員には該当しないことを強調しているが、所得税法第161条及び他の関係条文のどこを探してもこのような文言は見当たらない。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、納税告知処分は違法であり、その全部が取り消されるべきであるから、これに基づく不納付加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 納税告知処分について
 本件役員報酬は、次のとおりAが所得税法施行令第285条第1項第1号かっこ書の規定による役員に該当しないから、国内源泉所得に該当するものとして行った納税告知処分は正当である。
(イ) 請求人は、Aが国外で勤務している間は、元請会社の指揮、監督を受け元請会社に従属する使用人としての業務に従事しているから、所得税法施行令第285条第1項第1号かっこ書の規定による役員に該当する旨主張するが、請求人と元請会社は、それぞれ独立した法人格を有して存在しているものであるから、お互いに契約に基づいて経済活動を遂行する場合においては、一方が指揮、命令、監督し、他方がこれを受動的に受任すべき立場におかれることは当然生じるところであり、このような場合にまで、単に法人の組織が小規模である等の請求人の状況をとらまえて、法人格を超えた従属関係をもって税法の定める法律関係を拡大して解釈すべきではないというべきである。
(ロ) 請求人のように使用人のいない法人にあっては、法人の設立目的のための業務に従事すること自体が、役員本来の業務に当たることになるから、その意味では、使用人としての職務に役員が常時勤務することはあり得ないのであって、仮に、法人の代表者が、元請会社の使用人と同様な現場作業に従事したとしても、それは代表者としての法人の業務に従事しているというものであり、これを使用人としての労働とみることはできないというべきである。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記のとおり、納税告知処分は適法であり、かつ、請求人がこれにより納付すべきことになった源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条((不納付加算税))第1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条同項の規定により行った不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1) 納税告知処分について

 Aの国外における勤務が、所得税法施行令第285条第1項第1号かっこ書の規定に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。
イ 所得税法施行令第285条第1項第1号は、国内源泉所得の範囲を「内国法人の役員としての勤務で国外において行うもの(当該役員としての勤務を行う者が同時にその内国法人の使用人として常時勤務を行う場合の当該役員としての勤務を除く。)」と規定しており、その趣旨は、給与、人的役務の提供に係る報酬等がここにいう国内源泉所得に該当するというためには原則として、その基因となる勤務その他の人的役務の提供が国内において行われることが必要であるが、企業の国際化に伴い、関係会社あるいは工事現場等が国内にとどまらず、国際間にまたがって役員の勤務が行われるようになり、単なる物理的な勤務地だけで役員報酬の国内源泉所得の範囲を判定することを、適当としなくなったことによるものである。
 そして、「内国法人の役員」というように、租税法規が客観的な表象に着目して画一的な規準により定めざるを得なかったのは、膨大な経済活動に係る事柄について、その実態を具体的に調査し、個別的に認定して法律を適用するとなると、技術的・量的に困難であり、更に、各自の主観的事情や立証技術の巧拙によって不公平をもたらすおそれがあることから、税務行政上あるいは租税負担の公平の観点からの判断によるものである。
ロ ところで、本来、法人の事業活動においては、必ずしも使用人が当初から必要であるわけではない。
 すなわち、法人は、株主の委任を受けた役員が設立の目的に沿って会社業務を執行し、代表取締役は、本来、その法人の定款に定める事業目的の遂行に専念すべき者であって、そうすることにより法人が存在する意味が生ずるのであるが、当初は法人の役員のみでそうした業務を執行しているが、法人の役員のみで業務を執行できない程度に業績が拡大したときに至って、はじめて、使用人を雇用しその業務の一部を分担させることとなる結果として、使用者たる役員の業務と使用人の業務が分類されることになるのであり、このことは、まさに小規模法人の場合に当てはまるというべきである。
 そうすると、法人の代表者が他の大規模な法人の使用人と同様な現場作業に従事していたとしても、小規模法人にあっては、それ自体は代表者としての法人の業務執行に従事しているものというべきであり、これを使用人としての労働とみることはできない。
 また、請求人は、元請会社との間で、国外における本件業務契約を締結しており、Aは、国外出張と同時に元請会社の現地支店長の支配下に入り同支店の職員と同じような立場で元請会社の服務規定を完全に遵守して使用人としての業務に専念しているのであるから、この間は請求人の代表取締役としての業務が入り込む余地はなく、また、現実に代表取締役としての専権業務の執行は全く行っていない旨主張するが、たとえAが元請会社の職員と同じような職務に従事したとしても、これは請求人と元請会社の間の業務契約に基づいて役務の提供をしたものであるから、これをもって使用人としての労働とみることはできない。
ハ 以上の結果、Aは、国外勤務の期間中も代表取締役の地位にあっては、その勤務は、所得税法施行令第285条第1項第1号かっこ書の規定による使用人として常時勤務を行う場合の役員としての勤務には該当しないので、請求人の主張には理由がない。

(2) 不納付加算税の賦課決定処分について

 請求人には、当該所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて国税通則法第67条第1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条同項の規定に基づいて不納付加算税を賦課決定した処分は相当である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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