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(平6.6.21、裁決事例集No.47 360頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 E株式会社(以下「E社」という。)は、眼鏡製品等の販売業を営む同族法人であるが、原処分庁は、平成○年○月○○日付で、昭和63年12月分ないし平成4年3月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、別紙のとおりの納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下、本件納税告知処分と併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。
 E社は、本件納税告知処分等を不服として、平成○年△月××日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年△月△日付で棄却の異議決定をした。
 ところで、E社は、平成○年×月×日にP地方裁判所において破産宣告を受け、審査請求人(以下「請求人」という。)が破産管財人となった。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成5年△月△△日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件納税告知処分について
 原処分庁は、昭和63年12月15日付で成立したE社と外国法人G(以下「G社」という。)及びH(以下、「H社」といい、G社と併せて「G社ら」という。)との裁判上の和解(以下「本件和解という。)に基づき、E社が、G社らに支払った総額4,000万円の和解金(以下「本件和解金」という。)は、所得税法第161条((国内源泉所得))に規定する国内源泉所得に該当するので、E社に所得税の源泉徴収義務があるとして、本件納税告知処分をしたが、次の理由により、本件和解金は国内源泉所得に該当しない。
(イ) 本件和解金は、本件和解に基づく不正競争防止法(平成5年法律第47号による全部改正前のもの。以下同じ。)上の損害賠償金であり、E社(当時の商号は株式会社D。昭和63年9月20日にE株式会社に商号を変更した。)の行為によりG社らとの間に標章の混同が生じ、G社らに営業上の損害が生じたことを主な理由とする損害賠償金であり、G社らの標章に対する社会的信用がき損されたことに対し金員を支払ったものである。
(ロ) 不正競争防止法は、営業者が他の営業者との関係で不公正な方法により営業活動を行うことを防止することにより正当な営業活動の保護を目的とする法律であり、商標、商品表示、営業表示自体の財産的価値の保護を目的とするものではない。
 したがって、同法における損害(営業上ノ利益ヲ害セラレタ)も、売上減少、顧客喪失、信用き損、商品表示の出所識別機能の低下及び品質保証機能の減少等を指すものと解されるのであって、表示自体の使用権、管理権の侵害とは解され得ない。
(ハ) 不正競争防止法上の損害金額の算定は、その立証が極めて困難であることから、商標法第38条((損害の額の推定等))等の規定を類推適用して、損害の額を推定することが判例及び学説上行われている。
 したがって、本件和解金も商標使用料を基礎に算定しているが、商標使用料は、あくまでも損害賠償額を算定する一つの資料にすぎず、使用料の請求を認めたものではない。
 そうであるからこそ、本件和解金も請求金額の3分の1以下の金員となった。
(ニ) 原処分庁は、本件和解金を使用料又はこれに代る性質を有する金員と認定しているが、当時の状況において、G社がE社に対し「○○○○」表示の使用許諾を行う可能性は皆無であった。
 すなわち、G社が製造、販売する製品1台の平均販売価格は、○○万円を超えており、G社は、超高級品のメーカーである。
 また、H社は、「○○○○」表示のサングラスの製造、販売について、L国のM社(以下「M社」という。)に許諾を与え、同社製のサングラスが昭和53年以降本邦にも輸入され、年間1万〜2万本が高級サングラスとしてデパート等で販売されていた。
 したがって、販売数量では我が国有数の会社であっても、しょせん大衆向け商品を主力とし、会社の規模としても中小企業の域を出ない地方都市所在の会社が「○○○○」表示の使用を許諾される可能性は皆無であったのである。
(ホ) E社が、本件和解に応じたのは、裁判において「○○○○」表示の無断使用により標章の混同が生じていると判定される蓋然性が高くなってきたことに加え、G社らの訴訟関係費用が膨大な金額にのぼってきており、これについては、無断使用したE社に責任があるとの判断からである。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件納税告知処分は違法であるから、その全部を取り消すべきであり、これに伴い、不納付加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 本件和解金は、次のとおり、所得税法第161条第7号イに規定する「工業所有権等」の使用料に該当することから、原処分は適法である。
イ 本件納税告知処分について
(イ) 所得税法第161条第7号イに規定する工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの(以下「工業所有権等」という。)の使用料には、登録されている権利だけでなく、登録されていなくても法令により保護されている権利等の使用料も含まれ、また、使用料として支払われたものばかりでなく、使用料に代わる性質を有する損害賠償金その他これに類するものも含まれると解される。
(ロ) ところで、E社は、昭和○○年○月○○日付で○○○○製品の総輸入代理店であるN株式会社(以下「N社」という。)と「○○○○」の標章の使用に関する商標使用許諾契約を締結したが、その後、G社らからN社に対し、無断でE社に「○○○○」の標章の使用を許可したとして抗議があり、当該契約は同××年×月××日をもって解約された。
 その後もE社が、引き続き「○○○○」の標章を使用して営業していたことから、G社らは、昭和59年8月6日にE社を被告として、P地方裁判所に不正競争行為差止並びに損害賠償請求等訴訟(P地裁昭和59年(ワ)第○○号。以下「本件訴訟」という。)を提起した。
 本件訴訟において、原告G社ら(以下この(2)において「原告ら」という。)が提出した訴状、準備書面及び被告E社(以下この(2)において「被告」という。)代表者の本人尋問並びに本件和解における和解条項によれば、次の事実が認められる。
A 本件訴訟について
(A) 原告らが訴状等において求める請求の趣旨
一 被告は、「○○○○」の標章を一つ又は二つ以上併せて、サングラス、眼鏡枠及びそのケース、包装箱、下げ札、カタログ、ポスター、ディスプレー、雑誌等の広告物(以下「サングラス等」という。)につき使用したり、当該標章を使用したサングラスを販売又は拡布してはならない。
二 被告は、「○○○○」の標章を一つ又は二つ以上併せて、サングラス及び眼鏡枠に係る営業に使用してはならない。
三 被告は、被告の占有する第一項記載の標章を使用したサングラス等から、第一項記載の標章を抹消しなければならない。
四 被告は、原告らに対し、各金1億3,000万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
五 訴訟費用は被告の負担とする。
六 第四項は仮に執行することができる。
(B) 原告らは、訴状において、次のとおり主張している。
 『被告は、サングラス及び眼鏡枠を昭和56年8月28日以降同58年12月末まで、少なくとも98万本を販売した。
 サングラス及び眼鏡枠の平均小売価格は1万2,000円であり、工場出荷価格はその35パーセントと判断されるから、工場総出荷額は36億1,600万円である。
 したがって、被告は、少なくても2億5,312万円の商標使用料を原告らに支払う立場にあった。
 よって、原告らは、各金1億3,000万円の損害賠償請求を求める。』
(C) 原告らは、昭和61年7月18日付準備書面(四)において、次のとおり主張している。
 『本件において、原告らは、サングラス及び眼鏡枠の市場は、原告らの営業行為及び被告の営業行為に限らず、他の多数の営業者が存在していたこと、並びに、原告らは、被告の行為を一切肯認できないが、N社との関係において、被告の昭和56年8月27日以前の行為にはやむを得ない事情があったことにかんがみ、原告らは、「特段の事情」の存在を認め、被告の得た利益総額を原告らの損害額とする考え方は採らず、これによりはるかに低い使用許諾料ないし使用料相当額(以下「使用料相当額」という。)のみを損害額とすることを主張しているのである。
 すなわち、原告らは、他の企業者と同じく、企業の信用と名声の結晶である自己の標章を他人に使用させる場合に、これを無償で、自由に使用させることはあり得ないのである。
 したがって、原告らは、自己の標章の無断使用者である被告に対し、少なくても、標章の使用料相当額は、損害額の最低線として請求できなければならない。
 この使用料の額は、客観的に妥当する額でなければならないが、本件においては、たまたまH社が、現にM社に「×××× △△△△」の使用許諾をし、M社の工場出荷額の7パーセントの使用料を取得している。
 M社は、不正競争業者ではなく、正当な契約に基づく標章の使用者である上、被告は、著名な「××××」のほかシンボルマークまでも使用しているから、その使用料は、7パーセントを下ることはあり得ない。
 言い換えれば、原告らは、被告に対し昭和56年8月28日以降、原告らの標章を使用することをいかなる意味においても認めていないから、この日以降、少なくとも7パーセントの使用料相当額の被害を被っており、これを被告に対し損害額として請求できる立場にあるものといわなければならない。』
(D) 昭和63年4月22日の第18回口頭弁論において、被告代表者Oは、サングラス及び眼鏡枠の販売本数について、次のように供述している。
1 昭和56年9月から同57年10月までのフレーム等の仕入れは163,807個である。
 この中には、下請業者が既に生産を完了して、同57年11月1日の仮処分命令により販売が禁止された以降に納入してきたもの等、引き取りを拒絶することができなかったもの1,573個が含まれている。
2 1のうち、廃棄したもの10,308個、仮処分の執行を受けたもの7,154個、無償提供したもの4,400個、その他5,000個を引いた136,945個が売上げに回ったものである。
 この数量が理論的に販売本数の最大になる。
(E) 本件訴訟においては、被告が「○○○○」表示サングラスの製造、販売を行った事実及び原告らが通常これらの製造、販売に関して使用料を請求している事実については、原告ら、被告双方に争いはなく、本件訴訟の後半部分(13回以降)は、上記(C)及び(D)のとおり、主に被告の「○○○○」表示サングラスの製造、販売本数及び使用料の率について、審理が繰り返されている。
B 本件和解について
 G社らとE社は、裁判所の勧試により、昭和63年12月15日付で本件和解に至ったが、和解条項は次のとおりである。
一の1 被告は、原告らに対し、「○○○○」の標章を一つ又は二つ以上併せて、サングラス等に使用したり、当該標章を使用したサングラスを販売又は拡布しない。
一の2 被告は、原告らに対し、当該標章をサングラス及び眼鏡枠に係る営業に使用しない。
二 被告は、原告らに対し、本件和解金として金5,000万円の支払義務があることを認める。
三 被告は、原告らに対し、前項の金員の内金4,000万円を昭和63年12月から同67年3月まで、毎月末日限り金100万円宛分割して、原告ら訴訟代理人が所属するA特許法律事務所名義のB銀行本店当座預金口座に振込む方法で支払う。
四 被告において、前項の分割金の支払を二回以上(金200万円以上)怠った時は、期限の利益を失い、その場合被告は、原告らに対し、第二項の金員から既払分を控除した残額を即時に支払う。
五 被告が期限の利益を失うことなく第三項の分割金の支払を完了した時は、原告らは、被告に対し、その余の債務を免除する。
六 原告らは、その余の請求を棄却する。
七 −省略−
八 −省略−
九 訴訟費用は各自の負担とする。
(ハ) これらの事実からすると、次に述べるとおり、請求人の主張には理由がない。
A 上記(ロ)のAの(A)の請求の趣旨と同Bの和解条項の内容を対比してみれば明らかなように、和解条項のうち一の1及び2については、被告の行為が不正競争防止法第1条第1項第1号及び第2号に該当するという原告らの主張が認められ、和解条項に盛り込まれたと推認される。
 このことは、「○○○○」の標章は原告らのものであると双方が認識した上で、原告らの許諾を受けることなく被告が行っていた標章の使用を禁止した主旨と解される。
 また、和解条項の二ないし五の和解金については、上述の事実を踏まえた上で、上記(ロ)のAの(B)のとおり、原告らが使用料相当額として請求する各金1億3,000万円の算出根拠とした販売数量について、原告ら及び被告との間に主張の相違があったことから、裁判所を介した話合いの結果、被告主張の販売数量を基礎として、和解条項記載の金額に至ったと推認される。
B 本件訴訟において、原告らは、終始、不正競争防止法に基づく損害賠償金については、上記(ロ)のAの(B)及び(C)のとおり、使用料相当額を損害賠償金として請求する旨主張しており、これ以外の性質を有する金額を請求している事実は認められない。
 このことは、上記(ロ)のAの(E)のとおり、本件訴訟の後半部分が、主に被告の「○○○○」表示サングラスの製造、販売本数及び使用料の率について、審理が繰り返され、双方の争点が損害賠償金の額に絞られてきたことからも認められる。
(ニ) 本件訴訟において、原告らが主張した損害賠償額の計算方法と被告が主張した販売数量を基に、使用料相当額を次のとおり計算したところ4,026万1,830円となり、この金額は、本件和解金の支払額である4,000万円に見合っている。
〔計算式〕
(平均小売価格)  (販売本数)    (標章使用料相当額)
  12,000円×0.35×136,945本×7パーセント=40,261,830円
(ホ) 以上のとおり、1原告らが損害賠償として請求している金額は標章の使用料相当額であること、2使用料相当額の算出について、原告らはM社に使用を許可した時の使用料を援用して、使用料の額として工場出荷価格の7パーセントとしていること、3本件訴訟に係る一件書類からは、本件和解金に使用料の性質以外の性質を有する客観的事実は認められないことからすると、本件和解金は、原告らの標章の使用料に代わる性質を有するものと認められる。
(ヘ) そうすると、上記(イ)で述べたとおり、所得税法第161条第7号イに規定する工業所有権等の使用料には、登録されていなくても法令により保護されている権利等の使用料が含まれ、また、使用料として支払われたものばかりでなく、使用料に代わる性質を有する損害賠償金その他これに類するものも含まれると解すべきことから、本件和解金が所得税法第161条第7号イに規定する工業所有権等の使用料に該当するとした本件納税告知処分は適法である。
(ト) 請求人は、G社が「○○○○」表示の使用許諾を行う可能性は皆無であったと主張しているが、本件和解金は、E社が「○○○○」の標章を使用していた事実に基づき支払ったものであり、G社がE社に当該標章使用に係る権利を許諾するかしないかは、本件和解金の性質に何ら影響を及ぼすものではない。
 すなわち、標章使用に係る権利の許諾の有無にかかわらず、標章使用の事実は存在するのであるから、たとえ標章使用に係る権利を許諾されていなくても、そのことが本件和解金が使用料の性質を持たない支払であることの根拠にはなり得ない。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上述のとおり、本件納税告知処分は適法であり、本件納税告知処分により増加した納付すべき税額のうちに、国税通則法第67条((不納付加算税))第1項に規定する正当な理由に基づく税額がないことから、同条第1項の規定に基づく不納付加算税の賦課決定処分も適法である。

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3 判断

(1) 本件納税告知処分について

 本件和解金が、所得税法第161条に規定する国内源泉所得に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 本件和解金の基本的性格について
(イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の間において争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
A 本件和解は、P地方裁判所においてE社とG社らとの間で昭和63年12月15日付にて成立し、その和解条項において本件和解金の支払が定められていること。
B 本件和解は、昭和59年8月6日G社らが提起した本件訴訟に係る裁判上の和解であること。
C 本件訴訟において、G社らは、不正競争防止法に基づき不正競争行為の差止めを請求するとともに、損害賠償請求をしたこと。
(ロ) 本件和解の和解調書及び当審判所の調査によれば、次の各事実が認められる。
A G社らは、本件訴訟において、不正競争防止法第1条第1項第1号及び第2号並びに同法第1条ノ2第1項により損害賠償請求をしたこと。
B G社らは、本件訴訟において、E社の「××××」及び「○○○○」の標章並びにシンボル・マーク(以下、これらを併せて『「××××」標章等』という。)の使用が不正競争防止法第1条第1項第1号及び第2号に規定する行為に該当すると主張し、また、それによってG社らの営業上の利益が害されていると主張していること。
C 本件和解の和解条項においては、E社はG社らが本件訴訟において差止めを求めた「××××」標章等の使用等をしない旨が定められていること。
D 昭和××年×月×日付でC株式会社の行った「××××」の商標登録出願(N社及びE社が出願の譲渡を受けた。)に対し、G社から登録異議の申立てがされ、特許庁は、昭和△△年△月△△日付で、
1 「××××」の商号はG社の製造、販売に係る製品に使用する商標として当該出願以前から広く知られていること、
2 出願に係る商標を使用すると、需要者は、その出所について誤認、混同をおこすおそれが十分あること
を認め、当該出願に係る商標が商標法第4条第1項第15号の規定に該当する旨の申立てに理由があるものと決定していること。
(ハ) 請求人は、本件和解金につき、上記2の(1)のイの(イ)、(ロ)及び(ハ)のとおり主張するが、不正競争防止法第1条ノ2第1項の規定による損害賠償金は、商品等表示等に係る不正競争行為による一切の損害の賠償であり、その商品等表示等の使用料に相当する額をも含むものであることは、従来の判例法理を明文化したところの平成5年法律第47号(「不正競争防止法」。以下「新法」という。)第4条及び第5条の規定に照らしても、明らかである。
 すなわち、損害賠償金には、「当該侵害に係る商品等表示の使用」(新法第5条第2項第1号)に対し「通常受けるべき金銭の額に相当する金額」(同項柱書)が当然含まれ得るものである。
(ニ) ところで、所得税法第161条第7号イに規定する「工業所有権等」の使用料には、その立法趣旨にかんがみれば、登録されている特許権、商標権等の権利だけではなく、登録されていなくても法令により保護されているこれらに類する権利等の使用料も含まれ、また、使用料として支払われたものばかりでなく、使用料に代る性質を有する損害賠償金その他これに類するものも含まれると解するのが相当である。
(ホ) また、本件和解金の性格について、和解条項は何ら規定していないから、特段の事情が認められない限り、本件訴訟におけるG社らの請求の趣旨原因が、その性格を知る手掛かりになると解される。
 上記(イ)のB及びC並びに(ロ)のA、B及びCの各事実によれば、本件和解金はE社が「××××」標章等を使用したことについての賠償金であると認められる。
 また、上記(ロ)のDの事実によれば、「××××」標章等は法令により保護されている商標権等に類する権利を伴う商品等表示に該当すると認められるから、本件和解金は法令により保護されている商標権等に類する権利を伴う商品等表示を使用したことについての賠償金であると解するのを相当とする。
 なお、上記の特段の事情の存在は認められない。
(ヘ) そうすると、上記(ハ)及び(ニ)に記したところに照らせば、本件和解金のうちに使用料に相当する額、すなわち、「当該侵害に係る商品等表示の使用」に対し「通常受けるべき金銭の額に相当する金額」があれば、当該金額については所得税法第161条に規定する国内源泉所得に該当するというべきこととなる。
ロ 本件和解金の具体的性格について
(イ) 本件訴訟において、G社らは、次のとおり主張している事実が認められる。
A 「自己の標章の無断使用者である被告に対し、少なくとも、標章の使用料相当額は損害額の最低限として請求できなければならない」こと(昭和61年7月18日付準備書面(四))。
B H社が、現にM社に「×××× △△△△」の使用許諾をし、その工場出荷額の7パーセントの使用料を取得していることから、E社については「その使用料は7パーセントを下回ることはあり得ない」、よって、「少なくとも7パーセントの使用料相当額の損害を被っており、これを被告に対し損害額として請求できる立場にある」こと(同準備書面)。
C 「原告らは、被告の行為を一切肯認できないが、N社との関係において、被告の昭和56年8月27日以前の行為にはやむを得ない事情があった」、また、「原告らは、被告に対し昭和56年8月28日以降、原告らの標章を使用することをいかなる意味においても認めていない」こと(同準備書面)。
D E社の「××××」標章を有するサングラス及び眼鏡枠の販売は、昭和56年8月28日以降少なくとも98万本であり、その工場出荷額は36億1,600万円であるから、同社はその7パーセントに当たる2億5,312万円をG社らに支払うべきであり、よって各金1億3,000万円をG社及びH社に支払うべきであること(昭和61年1月17日付準備書面(三))。
(ロ) E社の代表者Oは、第17回口頭弁論期日(昭和63年2月5日)及び第18回口頭弁論期日(同年4月22日)において、昭和56年9月以降の「○○○○」ブランドのサングラス及び眼鏡枠の販売本数は、最大13万6,945個あるいは14万枚足らずである旨供述している事実が認められる。
(ハ) 上記(イ)のCに関し、当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A E社は、眼鏡部分についての上記イの(ロ)のDの商標登録出願の譲渡を受けたN社との間で昭和○○年○月○○日付で「××××」の商標使用に関する商標使用許諾契約を締結し、商標使用料として原価の2パーセントを支払う旨を約したこと。
B G社らからN社に対し、無断でE社に商標の使用を許可したとして抗議があったことから、E社とN社は、昭和××年×月××日をもって上記Aの契約を解約したこと。また、同日付で「在庫品販売に関する確認書」を締結し、E社に同日時点における商品在庫1万8,900ダースについては、同日の後○月間に限りロイヤルティの支払を要しないで販売することができることとしたこと。
(ニ) 本件和解の和解条項は、
1 E社は、G社らに対し、和解金として金5,000万円の支払義務があることを認めること
2 E社は、このうち4,000万円(本件和解金)を昭和63年12月から同67年3月まで、毎月100万円ずつ分割して支払うこと
3 上記2の分割支払が完了したときは、G社らは、E社に対し、その余の債務を免除すること
等を定めていることが認められる(争いがない。)。
(ホ) E社は、昭和63年12月から平成4年3月まで、上記(ニ)の2に従い、各月100万円ずつ計4,000万円の本件和解金を支払ったことが認められる(争いがない。)。
(ヘ) 上記イの(ヘ)に記したところ及び上記(イ)、(ロ)及び(ニ)で認定した事実を総合すれば、本件和解金は、上記(イ)のG社らの主張に上記(ロ)のOの供述等に表れているE社の主張を勘案して、算定されたE社による「××××」標章等を有するサングラス及び眼鏡枠の販売に係る使用料相当額であると判断され、これ以外の金額が含まれているとすべき証拠、資料はない。
 なお、請求人は、本件和解金は、不正競争防止法に基づく営業上の損害が生じたことを主な理由とするものであり、その金額は商標使用料を基礎として算定されているが、商標使用料はあくまでも損害賠償額を算定する一つの資料に過ぎず、本件和解は使用料の請求を認めたものではないと主張する(上記2の(1)のイの(イ)ないし(ハ)。)。
 およそ、標章の混同による営業上の損害としては、1標章の使用料のいっ失による損害、2同一又は類似の標章を使用する類似の商品の販売等の減少による損害及び3標章の混同による信用ないしイメージ等の低下等による損害が考えられる。しかし、上記認定のとおり、本件和解金は上記1に該当すると判断されるが、このほか、上記(イ)のC及び(ハ)のとおり、G社らは昭和56年8月27日までの間のE社による標章の使用につきやむを得ない事情があるとしていることから、G社らに上記3の損害の認識があったとは認められず、G社らが自らサングラス又は眼鏡枠を製造し又は販売している等の事実がないことは明らかであるから、上記2の損害も存しないこととなる。したがって、G社らに生じた損害は上記1の使用料のいっ失による損害のみであると認めることが相当であるから、この点に関する請求人の主張は相当でない。
(ト) 請求人は、上記2の(1)のイの(ハ)の末尾及び(ニ)のとおり主張するが、本件和解金の額がG社らの本件訴訟における請求金額の3分の1以下の金額になっていることは、何ら上記(ヘ)の判断を覆すものではなく、かえって、本件和解金のうちに使用料相当額以外の金額が含まれていないことを裏付けるものというべきである。また、本件和解金は使用料に相当する額なのであるからG社らがE社に標章の使用を許諾する可能性があるか否かは、かかわりのないことというべきである。
 なお、上記2の(1)のイの(ホ)の請求人の主張は、上記イの(ヘ)の判断を裏付けるものである。
ハ 「国内源泉所得」の該当性について
 上記イの(ヘ)並びにロの(ヘ)及び(ト)の判断を総合すれば、本件和解金は、その全額が所得税法第161条第7号イの使用料に相当し、同条の「国内源泉所得」に該当するものというべきであるから、本件納税告知処分は適法である。

(2) 不納付加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件納税告知処分は適法であり、また、本件納税告知処分による税額を納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項に規定する正当な理由は認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた不納付加算税の賦課決定処分は相当である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査、審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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