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(平6.6.30、裁決事例集No.47 379頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年1月4日に死亡したA(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、被相続人に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額(以下「課税価格等」という。)を次表の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、本件相続について、国税通則法第23条((更正の請求))第1項の規定及び相続税法第32条((更正の請求の特則))の規定に基づき、それぞれ平成3年4月22日及び同年9月2日に次表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求を行った。
 原処分庁は、これらの更正の請求を認めてそれぞれ平成3年5月28日及び同年9月30日付で課税価格等を次表の「更正の請求」欄のとおりとする更正処分を行った。
 その後、請求人は、平成4年4月17日に課税価格等を次表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告をした。
 原処分庁は、これに対し平成4年8月31日付で過少申告加算税の額を11,235,000円とする賦課決定処分をした。更に、原処分庁は、平成4年8月31日付で、課税価格等を次表の「更正処分」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を1,603,000円とする賦課決定処分(本件更正処分と併せて、以下「本件更正処分等」という。)をした。

(単位:円)
区分 課税価格 納付すべき税額
申告 5,440,783,000 3,725,297,800
更正の請求 国税通則法 5,437,607,000 3,723,337,600
相続税法 5,437,607,000 3,652,752,300
修正申告 5,490,376,000 3,690,298,800
更正処分 5,512,876,000 3,706,436,000

 請求人は、本件更正処分等を不服として平成4年9月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月9日付でいずれも棄却の異議決定をし、異議決定書謄本は、同年12月14日に請求人に送達された。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年1月13日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 被相続人は、同人の子M(以下「M」という。)に対し、平成元年12月20日ごろ、平成元年12月20日振出の額面45,000,000円の小切手(小切手番号39451、振出人C証券総務一部長、支払場所D銀行本店営業部、以下「本件小切手」という。)を交付した。
 原処分庁は、被相続人が本件小切手をMに預けたものとし、本件小切手の額面金額に相当する返還請求権(以下「本件請求権」という。)を請求人及び共同相続人E(この2名を併せて「請求人ら」という。)が被相続人から相続によって取得したと事実を誤認し、本件更正処分等を行った。
 しかしながら、本件小切手は、次に述べるとおり、被相続人がMに贈与したものであり、本件請求権は相続財産に含まれないから本件更正処分はその全部が取り消されるべきである。
(イ) 請求人が取締役であるF株式会社(以下「F社」という。)がP市R町3丁目所在の建物の明渡しをMに求めた訴訟(P地方裁判所平成3年(ワ)第○○○号建物明渡請求事件、以下「建物明渡請求事件」という。)においてMは、本件小切手の授受の趣旨を次のとおり陳述している。
A 被相続人は、以前からMの住宅の確保について心配しており、そのための資金の一部として本件小切手を交付してくれたので受け取ったものであり、本件小切手に相当する金員を被相続人の生前中に返済することは考えておらず、被相続人が近い将来死亡すれば、そのまま返さないで済むと考えていたこと。
B 本件小切手はS町の不動産購入資金などに使っており、あまり残っていないし、返すつもりはないこと。
(ロ) 被相続人は、相続開始時においてMを認知しておらず、後日の紛争の種子となることを避ける意味で存命中に、本件小切手以外にも相当の財産を贈与している経緯等があることからみて、本件小切手をMに贈与したものであることは、容易に理解し得ることである。
(ハ) 前記(イ)の建物明渡訴訟におけるMの陳述、上記(ロ)の被相続人が生前に本件小切手以外の財産もMに贈与していること及び被相続人とMが親子であることからみれば、被相続人が本件小切手をMに贈与したことは明らかである。
(ニ) 原処分庁は、被相続人が本件小切手をMに交付する前に、G株式会社(以下「G社」という。)から、T市U町5丁目8番所在の宅地235.43平方メートル(以下「本件宅地」という。)を紹介され、Mと共に現地を確認し、平成元年10月23日付で、坪当たり2,400,000円で買い取る旨の買付証明書及び国土利用計画法に基づく届出手続に関する委任状(これらの書類を併せて、以下「買付証明書等」という。)をG社に交付したことをもって、本件宅地を購入するため本件小切手をMに預けたものと主張する。
 しかしながら、被相続人が同人の名義で買付証明書等をG社に交付していたとしても、それは、Mが被相続人の社会的地位及び信用度が高いことに着目して、被相続人の名義を借用したものであるから、原処分庁は事実を誤認している。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるからこれに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ) 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 被相続人は、G社から本件宅地を紹介され、平成元年10月22日にMと共に本件宅地の現地確認をし、G社に対し買付証明書等を交付していること。
B Mは原処分庁の調査に際して、本件小切手は被相続人の不動産購入のために預かったものであり、不動産を購入しないうちに被相続人が死亡したので返却しないままになっているが、被相続人から贈与を受ける意思はなく、本件請求権は被相続人に帰属する相続財産であると一貫して申述していること。
 また、Mは、本件小切手について被相続人から贈与されたとする贈与税の申告書を提出していないこと。
C Mは、被相続人に対し、認知を求めて提訴(P地方裁判所平成2年(タ)第△△号認知請求事件、以下「認知請求事件」という。)し、平成3年3月29日付の判決をもって、被相続人の子と認知されたこと。
(ロ) 以上の事実から、被相続人は、本件宅地を取得する意思を持って本件小切手をMに預けたものであり、また、Mは、本件小切手の贈与を受ける意思はなく、本件小切手の授受に関し被相続人とMとの間には、贈与契約は成立していないものと認められる。
(ハ) 請求人は、Mが建物明渡請求事件において、前記(1)のイの(イ)のA及びBの陳述をしたことをもって、本件小切手は、被相続人からMに対して生前に贈与されたものである旨主張するが、Mは本件小切手を「住宅の確保のための資金の一部として受け取った」とし、「被相続人の生前中は返却することは考えておらず」、また、「被相続人が死亡すれば返さなくて済むと考えていた」と陳述しているのであって、生前に贈与されたと述べていないことはもちろん、本件請求権を被相続人の固有の財産ととらえ、被相続人が死亡した場合には、それが相続財産となるとの認識のもとに、M自身が相続により取得すべきものであるとし、請求人らに返却する意思はない旨の陳述をしたとも考えられる(このことは、請求人らとMとが相続財産の争いをしている間柄であることを考慮すると、ことさらである。)から、当該陳述をもって被相続人が本件小切手をMに贈与したことは明白であるということはできない。
 また、社会通念上、親が子に対して住宅を確保してやるといった場合は、安定した生活の本拠地を提供するという意味合いが強く、そのために当該住宅を取得することとその所有権を贈与することとは別の問題であり、仮に、被相続人が生前、Mの住宅の確保について心配し手当てをするために、同人に対して、本件小切手を交付したものであるとしても、交付されたことをもって贈与されたものとは決めつけられないから、請求人の主張を認めることはできない。
(ニ) 仮に、請求人が主張するように後日の紛争の種子となることを避ける意味で被相続人がMに対して、本件小切手以外にも財産を贈与していたとしても、本件小切手について、被相続人とMとの間に贈与契約があったということはできない。
(ホ) 以上のとおりであるから、本件小切手は、被相続人がMに対して贈与したものではなく、Mは、被相続人に返還すべきものであるので、本件請求権は、被相続人に帰属すべき相続財産である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、被相続人が本件小切手をMに贈与したものであるか否かにあるので、以下審理する。

(1) 本件更正処分について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方において争いがなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
(イ) 被相続人は、遺言公正証書(公証人H作成の昭和63年第□□□号)、これの一部変更の遺言公正証書(同昭和63年第×××号)及び遺言公正証書(同平成元年第○×○号、以下これらを併せて「本件遺言公正証書」という。)を作成しているが、本件遺言公正証書によれば、被相続人は、請求人を遺言の執行者と指定し、相続財産を請求人らほか2名に遺贈し、Mが取得する財産はないとしていること。
(ロ) 請求人は、本件遺言公正証書に基づき相続税の申告書をV税務署長に提出していること。
(ハ) Mは、認知請求事件に係る平成3年3月29日付の判決により、被相続人の子として認知されたこと。
ロ 当審判所がM、G社、本件宅地の所有者から売買の仲介を依頼されたI不動産(以下「I不動産」という。)及びF社の元役員J(以下「J」という。)を調査したところによれば、次のとおりである。
(イ) Mは、当審判所に対して、次のとおり答述している。
A 平成元年10月22日の本件宅地の現地確認には被相続人が同行したこと。
B 被相続人がG社に交付した買付証明書等は、本件宅地を他の不動産仲介業者であるK不動産(以下「K不動産」という。)を介して購入することにしたので、10月下旬にG社から返還してもらったこと。
C その後の本件宅地に係る売主等との交渉は、K不動産の従業員が当たり、本件小切手を預かった平成元年12月22日現在も継続していたこと。
D 本件宅地の買付証明書等の返還を受けた以後、被相続人は、不動産業者に対して買付証明書等を交付したことはないこと。
E 被相続人から本件小切手を預かるに当たって、預かり証、領収証など本件小切手が預かり金であるとする書類は作成していないこと。
(ロ) 本件宅地の現地確認に立ち会ったG社の従業員は、当審判所に対して、次のとおり答述している。
A 本件宅地の現地確認には、M夫婦とその子供が同行したが、被相続人は同行しなかったこと。
B 本件宅地の買付証明書等は、平成元年10月下旬ころMに返還していること。
(ハ) I不動産の当時の従業員は、当審判所に対して、次のとおり答述している。
A 平成元年11月20日前後にK不動産の従業員2名が、本件宅地の売買交渉に来たが、当該物件はすでに売約済であるとして断ったこと。
B 本件宅地は、平成元年12月12日付で他の買主との間で売買契約が締結されたこと。
(ニ) Jは、当審判所に対して、平成元年12月22日に被相続人から、Mの妻L(以下「L」という。)に、本件小切手を住宅の取得資金として交付するように言い付けられ、同人に本件小切手を手渡した旨答述している。
ハ 当審判所が原処分関係資料及び本件小切手の交換依頼銀行等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) Mは、平成元年12月22日に本件小切手を銀行に交換依頼し、同日に、同行の同人名義の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)に45,000,000円を入金したこと。
(ロ) Mは、本件預金口座から、次のとおり払い出していること。
A 平成元年12月26日に現金5,000,000円を引き出した。
B 平成元年12月27日に10,000,000円を引き出し、他行の同人名義の普通預金口座に送金した。
C 平成元年12月28日に30,000,000円を引き出し、同日に上記B以外の3行のいずれもM名義の普通預金口座にそれぞれ10,000,000円を送金した。
(ハ) Mは、上記(ロ)のB及びCで述べた金員をいずれもこれらの銀行でM名義の10,000,000円の定期預金としたこと。
ニ 以上の事実を総合して判断すると、次のとおりである。
(イ) 被相続人は、G社に買付証明書等を交付したものの、当該証明書等は発行後7日目ころに同社から返却されていることからすれば、その約2か月後に被相続人が自ら本件宅地を取得するため、本件小切手をMに交付したものと認めることはできない。
 したがって、被相続人から本件小切手を同人の本件宅地の取得費用として預かった旨のMの当審判所に対する答述及び前記2の(2)のイのBの申述には、信ぴょう性がない。
(ロ) Mは、本件小切手を本件預金口座に入金した後、現金で引き出したり、他行へ送金して同人名義の定期預金を設定したりしていることが認められる。
 そうすると、被相続人は、本件小切手をMに預けたものとは認められず、Mは、本件小切手を原資に上記ハの(ロ)及び(ハ)のとおり自己の預金として管理運用していることが認められ、更に被相続人から本件小切手をLに手渡すことを指示されたJは、被相続人は、Mの不動産の購入資金として本件小切手を同人に交付したと答述していることを併せて判断すると、本件小切手は被相続人がMに贈与したものとするのが相当である。
ホ 原処分庁は、1被相続人が買付証明書等を発行していること及び2建物明渡訴訟におけるMの陳述を理由に、被相続人が本件小切手をMに預けたものである旨主張する。
 しかしながら、前記ロの(イ)のB及び(ロ)のBのとおり、買付証明書等は、G社からMに発行後7日目ころに返還され、本件小切手はその約2か月後にMに交付されていること、また、前記ハのとおり、Mが本件小切手を現金化した後、定期預金を設定し、かつ、自己の預金として管理運用していることからすると、Mの本件小切手を被相続人から預かったとする陳述には信ぴょう性が認められない。
 したがって、原処分庁の主張にはいずれも理由がない。
ヘ 以上の結果、本件小切手は、被相続人からMに贈与されたものと認められるので、本件返還請求権を被相続人の相続財産に加算してなされた本件更正処分は、事実を誤認したものであり、その全部を取り消すべきである。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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