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(平6.5.30、裁決事例集No.47 389頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 共同審査請求人F(総代)、同B、同C、同D及び同E(以下それぞれ「F」、「B」、「C」、「D」、「E」といい、併せて「請求人ら」という。)は、平成2年2月11日に死亡したA(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税の申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 その後、C、D及びEは、平成3年6月28日付で別表1の「修正申告」欄のとおり記載して、修正申告書を提出した。
 これに対し、原処分庁は、平成3年7月8日付で別表1の「修正申告に係る更正等」欄のとおり、C、D及びEに過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、F及びBの相続税の減額の更正処分をした。
 更に、原処分庁は、平成3年7月9日付で別表1の「原処分」欄のとおりそれぞれ更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。
 請求人らは、原処分を不服として、平成3年9月5日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月17日付で別表1の「異議決定」欄のとおり原処分の一部を取り消す各異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分(異議決定により一部取り消された後のもの。以下同じ。)について、不服があるとして、平成4年1月17日に本件審査請求をした。
 なお、請求人らは、平成4年4月15日にFを総代として選任するとともに、総代選任書を提出し、本件審査請求を共同審査請求とした。

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2 主張

(1) 請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 原処分庁は、平成元年10月25日に被相続人が、税理士のG(以下「G」という。)と締結した株式売買約定書(以下「本件約定書」という。)及び株式売買に関する覚書(以下「本件覚書」という。)に基づき、H株式会社(以下「H社」という。)の株式100,000株(以下「本件株式」という。)を5,000,000円で売買(以下「本件売買」という。)したのは仮装売買であり、本件株式は相続財産に該当するとして本件更正処分を行った。
 しかしながら、本件売買は、次の理由により仮装売買ではなく、したがって本件株式は、相続財産に該当しない。
(イ) 本件売買が被相続人とGとの間で行われたことは、本件約定書のとおり明らかである。
 なお、本件売買はFを除く請求人らに事前に周知されてなく、したがって相続財産には入らない。
(ロ) 本件売買の代金は、I銀行J支店の被相続人名義の普通預金の口座に入金されている。また、同預金は、被相続人の相続財産として申告している。
(ハ) 原処分庁は、本件売買の結果、GがH社の筆頭株主になること及び同人が贈与税の申告を怠っていたことを本件売買が仮装売買と認定した理由に挙げているが、これらは何ら同認定を正当とする理由にはならない。
(ニ) Gは、本件株式取得後の確定申告において、同株式の配当について配当所得の申告をしている。
ロ 過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であるから、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分も違法である。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ) 本件売買は、次のとおり売買の形式は整っていても実体が伴ってなく、本件株式を本件相続に係る相続財産から除外することを意図して、GとFとが行った仮装売買であり、民法第94条((通謀虚偽表示))第1項の規定に該当する無効なものであるから、本件株式は相続人らの相続財産である。
A 被相続人は、本件相続の前年の秋から再入院して治療を受けており、本件売買当時かなり重症であった。
B 本件売買が事実とすれば、Gは、H社の筆頭株主となるが、請求人らと同族関係者でもないGを筆頭株主とする事情が考えられない。
C 本件約定書の内容は、Gに何ら負担を求めるものでない。
 また、被相続人がGに本件株式を5,000,000円で譲渡したのであれば、国税庁長官が定めた相続税財産評価に関する基本通達(以下「評価通達」という。)の定める時価7,500,000円と比較して著しく低額の価額で譲渡したこととなり、Gは贈与税の申告が必要となる。しかし、税理士であるGが、当該申告をしていないことは、同人自身、本件売買が実体のない仮装のものであると認識していたと推認できる。
D Gの答述によると、本件株式について、Gは本件株式の券種、記番号を確認してなく、株券がどのように保管管理されているかについても不知である旨、申し述べている。このことは、Gが本件株式を完全に自己の所有としていないことを明らかにするものである。
E H社は、株主名簿及び株主台帳の整理をしてなく、配当金をFの指示によりGに支払っている。また、自社株式の売買に関して定款上の制約を付していないが、発行済株式の券面に「株式の譲渡については取締役会の承認を要する。」旨の記載があるにもかかわらず、本件売買に関して取締役会を開催していない。このことから本件株式が正当に売買されたものであるとは認められない。
(ロ) なお、本件売買が請求人らには周知されていなかったとの主張は、本件売買が仮装売買でなく相続財産でないとする理由にならない。
(ハ) また、Gが本件株式に係る配当所得の確定申告を行っていることをもって、直ちに本件売買が仮装でないとする理由とはならない。
(ニ) 請求人らの取得財産の価額等について
 以上により、請求人らの相続税の課税価格の計算の基礎となるべき相続財産の価額については、評価通達及び同通達に基づきK国税局長が定めた「平成元年分相続税財産評価基準」(以下「評価基準」という。)に従って評価して計算すると別表2の「原処分庁主張額」欄に記載のとおりとなる。
 そうすると、請求人らの相続税の課税価格、相続税額及び納付すべき税額は、別表2の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、本件更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人らの本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。
 また、Fは、前記イの(イ)のとおり、請求人らの相続税の計算の際の評価額を減少させる意図に基づいて、Gと通謀して、本件約定書及び本件覚書を作成することにより、本件株式を被相続人の相続財産から除外しており、このことは、通則法第68条((重加算税))第1項に規定する、納税者がその国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて、納税申告書を提出していたときに該当する。
 したがって、通則法第68条第1項の規定に基づいて行われたFに対する重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件株式が相続財産であるか否かにあるので、以下検討する。

(1) 本件更正処分について

イ 原処分関係資料、請求人らの答述及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件約定書は、平成元年10月25日に被相続人とGとの間で取り交わされ、契約内容が次表のとおりであること。

売主 被相続人
買主 G
物件 H社の株式
株数 100,000株
単価 50円
金額 5,000,000円
受渡日 平成元年10月25日

(ロ) 本件覚書は、平成元年10月25日にFが立会人となって、被相続人とGとの間で取り交わされていたものであり、その要旨は次のとおりであること。
A 本件売買は、今後、GがH社をはじめとするLグループ各社の税務相談等の面から、Fが行う会社経営を後援することを条件に行ったものであることをお互いに確認し、Fもこれを了承する。
B 本件株式について、被相続人から買い戻したい旨の申出があったときには、Gは直ちにこれに応ずる。この際の売却先は、被相続人又はFが指定する。
C この一連の取引に対しての課税関係、その他問題が生じたときはG、被相続人及びFがお互いに協力してその処理に当たる。
(ハ) Gの答述によると、本件約定書及び本件覚書は、Gが同人の事務所で作成したものに、平成元年10月25日にG、被相続人及びFがそれぞれ所定の箇所に押印し、それをGの事務所職員が公証人役場へ持参して公証人の認証を受けたこと。
(ニ) 被相続人は、相続開始の6年前に腎臓癌のため腎臓一個の摘出手術を受けており、更に、平成元年秋ころから病状が悪化して平成2年1月に入院、同年2月に死亡していること。
(ホ) 被相続人は、昭和62年7月1日に開催されたH社の取締役会で同社の代表取締役から取締役会長に就任し、後任の代表取締役にはFが就任していること。
(ヘ) H社の発行株式総数960,000株のうち、本件相続開始日現在、株券が発行されているのは、500,000株であること。
 なお、被相続人が本件売買の直前において所有していたH社の株式は、149,000株である。
(ト) H社の株式の売買は、定款に取締役会の承認を要する旨の定めはないが、同社の発行済株式の株券には、「当社の株式の譲渡については取締役会の承認を要する。」と記載されていること。
(チ) Gは、Fとの間で平成元年10月25日付の金銭消費貸借契約証書(以下「本件金銭消費貸借契約書」という。)を作成しており、その内容は、同日付でFが5,000,000円をGに無利息で貸し付けるものであり、返済期限の定めもなく、その他一切の条件も付されていないこと。
(リ) Fは、同人が代表者であるM株式会社から、5,000,000円を平成元年10月16日に借り入れ、同額をI銀行N支店のG名義の口座へ平成元年10月24日に振り込んでいること。
(ヌ) Gは、5,000,000円をI銀行J支店の被相続人名義の普通預金口座へ平成元年10月25日に振り込んでいること。
(ル) Gは、本件売買以後も本件株式の引渡しを受けていないこと。
 なお、Gは、H社の筆頭株主となるが、本件売買以後も同社の取締役等の役員に就任してなく、同社の株主総会にも出席していない。
(ヲ) H社の取締役企画室長Oの答述によると、H社の株式の取扱いは、次のとおりであること。
A 株券を発行している株式は、被相続人が株主名簿に相当する株券台帳を作成して管理していたが、昭和61年ころから未整理であり、また、株券を発行していない株式は、名簿等を作成していない。
 なお、株券を発行していない増資した株式については、各株主に増資株数を記載した「増資新株式預り証」を交付している。
B 被相続人名義の株券105,000株(名義は、被相続人の通称名の〇〇となっている。)を同社の事務所で保管しているのは、Fからの指示によるものである。
C H社は、Gから同社の株式を預かっていない。
D 本件株式に係る配当金は、Fの指示によりGに支払っている。
(ワ) H社の法人税の申告書作成等の税務代理は、本件売買当時も又それ以後もG以外の顧問税理士が行っている。しかし、請求人らの本件相続に係る相続税の申告の税務代理は、Gと顧問税理士との共同で行っていること。
(カ) 被相続人は、昭和61年8月8日にFに対しH社(当時は、株式会社△△)の株式55,000株を49,170,000円(1株当たり894円)で譲渡していること。
(ヨ) 請求人らの相続税について、仮に本件株式を相続財産として課税価格に算入すれば、納付すべき相続税の合計額は、355,350,400円となり、また、相続財産でないとすれば、同税額は、226,077,200円(請求人ら主張額のとおり)で、その開差は、129,273,200円と極めて多額であること。
ロ ところで、売買契約が有効に成立するためには、当事者の有効な意思表示の合致が必要であるが、その判定には、単に、売買契約証書が存在するという形式面だけでなく、当該売買に至る経緯、目的物の引渡し、その対価の授受の状況並びに目的物の管理、運用、使用収益の享受の状況等を総合して検討する必要がある。
 そして、売買契約が存在するような外観を呈していても、当事者が相手方と通謀して、内心の意思を秘匿してそれと合致しない効果意思を表示しているような場合には、当該契約は、民法第94条第1項「相手方ト通シテ為シタル虚偽ノ意思表示ハ無効トス」の規定に該当することとなるのでその売買契約は無効となる。
ハ 本件について前記イの認定事実に基づき、本件売買が有効に成立したか否かについて以下検討する。
(イ) まず、本件覚書によると、本件売買の目的は、GがFの行う会社経営を全面的に後援することにあるとされているが、1Fは、当時既にH社の代表取締役に就任しており、特段Gの全面的な後援を受けなければならないとする経営等の状態ではないこと、2Gの税務相談等の面からの後援を目的とするのならば、H社の顧問税理士として就任することが一般的といえるにもかかわらず、本件相続税の申告に他の税理士と共同で関与したほかはGは顧問税理士に就いていないこと、3請求人は、上記の理由以外に本件売買によってGが筆頭株主となることを承知の上で、なお本件株式を譲渡しなければならなかった理由を主張しないこと、4更に、当審判所の調査によっても、他に被相続人において本件株式を譲渡しなければならない経済的事情などは認められないことから、本件売買を通常の経済的合理的に判断すれば、その目的とするところは容易に首肯することができないといわざるを得ない。
(ロ) 更に、本件売買について、その売買の目的物の引渡し、対価の授受及び管理運用の状況等からみると、1Gは、被相続人から買戻しの申出があれば、直ちにこれに応じなければならないこと、2Gは本件株式を取得する資金をFから無利息で借り入れており、事実上Gは何らの負担も負わないものであること、3被相続人名義の発行済株式が105,000株存在していたのであり、そのうちの100,000株の引渡しが可能であったにもかかわらず、Gはその引渡しを受けていないこと、4本件売買に関して取締役会の承認を得ていないことが認められる。
(ハ) また、本件売買は、1株当たり単価50円で取引されているが、前記イの(カ)の認定事実のとおり、本件売買のたかだか3年前に、被相続人とFとの間では、単価894円で取引されている事実からみると、極めて不自然な取引であると認められる。
(ニ) そうすると、1前記のとおり本件売買の目的について、GがFを後援するためとする請求人の主張は認め難いこと、かつ、他にその目的を明らかにする事実が認められない上、2本件売買の取引内容は、異常不自然なもので売買当事者双方にとって通常の経済的効果が認められないこと、3本件売買の形式をとることによって予測される本件相続に伴う多額の相続税を免れ得ることから、本件売買は単に本件株式を一時的にGの所有に移っていたかのように形式・外観を整えるために行われた仮装の取引であるといわざるを得ない。
 すなわち、本件売買は、被相続人の死亡に係る相続税の計算の際の請求人らの負担すべき相続税額を不当に軽減させる目的のため(なお、その間の開差税額は前記(1)のイの(ヨ)のとおり巨額なものとなる。)、被相続人とG間の売買の形式を借りて本件株式の所有権をGに移転したように作出したものであり、一連の経緯を全体的に見るならば、被相続人、F及びFの友人であるGの三者が通謀して行ったものと解せざるを得ず、以上は、民法第94条第1項に規定する通謀虚偽表示に該当し無効となるので、本件株式は、相続財産には含まれないとする請求人らの主張は失当であり、採用することができない。
ニ なお、請求人らは、本件売買が事前にFを除く請求人らに周知されていなかったこと及び本件株式の売買代金が銀行の被相続人名義の口座に入金されており、当該預金を相続財産として申告していることから仮装取引でないと主張するが、Fを除く請求人らへの本件売買の周知の有無及び本件売買に係る金員の入金や相続税の申告の事実は仮装取引から派生した一連の行為であるが、事後的な行為であり、契約の正否の判断に影響を与えるものではない。
 また、請求人らは、Gが本件株式に係る配当を申告していることを取引の事実を示すものであると主張するが、上記と同様にこのことが判断に何ら影響を与えるものではない。
ホ 請求人らの取得財産の価額等
 原処分庁は、本件株式の価額について、評価通達及び評価基準に従って評価しており、当審判所の調査の結果によっても、この評価方法を不相当とする理由は認められない。
 そうすると、請求人らの相続税の課税価格、相続税額及び納付すべき税額は、別表2の「審判所認定額」欄に記載のとおりとなり、本件更正処分の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(2) 過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が相続税の申告の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされたFを除く請求人らに対する過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。
 次に、Fは、本件株式が相続財産であるにもかかわらず、本件約定書、本件覚書及び本件金銭消費貸借契約書の作成に関与し、本件株式がGに帰属するかのごとくF、被相続人及びGの三者で通謀して仮装し、その仮装したところに基づき本件相続開始に係る相続税の申告書を提出したのであり、この行為は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件に該当するため、同条項の規定に基づき行われたFに対する重加算税の賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由はない。

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