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(平6.6.23、裁決事例集No.47 415頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、医薬品小売業を営む同族会社であるが、平成4年8月31日に消費税課税事業者選択届出書を提出した上で、平成4年8月19日から平成4年10月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)分の消費税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これについて、平成5年3月22日付で同表の「更正」及び「賦課決定」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(単位:円)
項目 確定申告 更正 賦課決定
課税標準額 1 0 0 -
消費税額 2 0 0 -
控除対象仕入税額 3 497,352 0 -
控除不足還付税額(32 4 497,352 0 -
差引税額(23 5 - 0 -
納付すべき税額 6 - 497,300 -
過少申告加算税の額 - - 49,000

 請求人は、これらの処分を不服として、平成5年4月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月28日付で異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成5年6月16日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

イ 更正処分について
 本件更正処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
(イ) 消費税法第30条((仕入れに係る消費税額の控除))第1項では、課税仕入れに係る消費税額は、原則として仕入れた日の属する課税期間において仕入税額控除の対象となり、また、同法は固定資産と一般消費財との区分はしていないのであるから、原則として請求人が本件課税期間に仕入れた固定資産等に係る消費税額は、仕入れをした日の属する本件課税期間においてその全額を控除することができる。
(ロ) 消費税法第33条((課税売上割合が著しく変動した場合の調整対象固定資産に関する仕入れに係る消費税額の調整))第1項の規定により、調整対象固定資産については課税仕入れに係る消費税額を比例配分法により計算した場合で、その計算に用いた課税売上割合が、その後3年間の通算課税売上割合と比較して著しく変動したときには、3年を経過する日の属する課税期間(以下「第3年度の課税期間」という。)で控除税額の調整を行うことになっている。
 また、同条同項のかっこ書きによって、課税売上割合が95パーセント以上で課税仕入れに係る消費税額の全額が控除された場合においても、仕入れに係る消費税額を比例配分法により計算した場合は第3年度の課税期間で見直すのであるから、調整対象固定資産の仕入れをした日の属する課税期間の課税売上割合が95パーセント未満であっても、前記(イ)で述べたように課税仕入れに係る消費税額は原則として仕入れた日の属する課税期間に全額を控除できることからすれば、本件課税期間に仕入れた調整対象固定資産に係る消費税額については、まず調整対象固定資産の仕入れをした日の属する課税期間において全額控除して還付を受けた後、第3年度の課税期間に再計算して調整すればよいこととなる。
(ハ) よって、請求人が本件課税期間に仕入れた固定資産等に係る消費税額497,352円は、控除対象仕入税額として本件課税期間において全額控除できることになり、当該金額は控除不足税額として還付されるべきである。
ロ 賦課決定処分について
(イ) 本件賦課決定処分は、本件更正処分の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。
(ロ) 仮に本件更正処分が違法でないとしても、次の理由により本件賦課決定処分は違法・不当である。
A 請求人は、本件確定申告書を提出し、控除不足消費税額の還付を請求したが、原処分庁は、請求人に当該還付金を還付することなく更正処分により納付すべき税額を生じさせ、本件賦課決定処分をしているが、請求人のようにいまだ還付を受けていない者に対しても過少申告加算税を賦課するのは違法である。
B 我が国の消費税法は、原点は付加価値税の理論によっているものであると思われる。
 請求人の場合、本件課税期間においては仮払消費税のみが発生しているが、これは付加価値税の理論でいう前段階の税、いわゆる前払いの消費税である。
 前払いに加算税を賦課する考え方はないので、本件のような特殊な場合にも、消費税が新設される以前からある国税通則法(以下「通則法」という。)第65条((過少申告加算税))の規定をそのまま適用するのは不当である。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ) 本件課税期間の仕入れに係る消費税額の控除は、本件課税期間の資産の譲渡等の対価の額が205,919円、課税資産の譲渡等の対価の額が零円であるから、課税売上割合は零パーセントとなり課税売上割合が95パーセントに満たないことになるので、消費税法第30条第2項の規定により行うこととなる。
(ロ) 課税売上割合が著しく変動した場合の調整対象固定資産に関する仕入れに係る消費税額の調整は、本件のように、調整対象固定資産の仕入れを行い、かつ、比例配分法により仕入れに係る消費税額を計算した場合は、消費税法第33条第1項の規定により第3年度の課税期間で調整を行うこととなる。
 なお、消費税法第33条第1項かっこ書きは、同法第30条第1項の規定により調整対象固定資産に係る課税仕入れ等の税額の全額が控除された場合を規定するものである。
(ハ) したがって、本件課税期間分の課税仕入れに係る消費税額は控除できないことになり、控除不足税額として還付すべき税額はない。
ロ 賦課決定処分について
 前記イのとおり、本件更正処分は違法ではないので、本件賦課決定処分は相当である。
 なお、過少申告加算税は、申告納税額が過少な申告又は還付金の請求が過大な申告に対して課されるものであり、後者の場合、既還付者と未還付者とを問わず賦課されることは通則法第65条の規定により明らかであり、また、本件の場合、同条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しない。
 おって、通則法第65条の規定の適用に当たり消費税法を除外する旨の法令の規定はない。

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3 判断

 請求人は、原処分は違法・不当であるとしてその全部の取消しを求めているので、当審判所において調査・審理したところ、次のとおりである。

(1) 更正処分について

イ 請求人は、消費税法第30条第1項では課税仕入れに係る消費税額は、原則として仕入れた日の属する課税期間において仕入税額控除の対象となるので、本件課税期間の課税仕入れに係る消費税額497,352円は、本件課税期間において全額控除できる旨主張する。
 ところで、消費税法第30条第1項の規定によれば、事業者(同法第9条((小規模事業者に係る納税義務の免除))第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において課税仕入れを行った場合には、その課税期間の課税標準額に対する消費税額から、課税仕入れに係る消費税額を控除するとされている。
 また、消費税法第30条第2項の規定によれば、課税期間における課税売上割合が95パーセントに満たない場合は、事業者の選択により、個別対応方式(同条第2項第1号に規定する方法をいう。)又は比例配分方式(同条第2項第2号に規定する方法をいう。)のいずれかの方法により計算した課税仕入れに係る消費税額を控除するとされている。
 そこで本件についてみると、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成4年10月15日に建物を13,399,029円で、同年10月31日に車両を1,027,185円で取得し、消費税としてそれぞれ401,970円及び30,815円を支払っていること。
(ロ) 前記(イ)の建物及び車両は、消費税法第2条((定義))第1項第16号に規定する調整対象固定資産に該当すること。
(ハ) 請求人は、本件課税期間に貯蔵品、販売費及び一般管理費に係る消費税として64,567円を支払っていること。
(ニ) 請求人は、平成4年8月31日に消費税課税事業者選択届出書を原処分庁に提出していること。
(ホ) 請求人は、平成5年1月4日に資産の譲渡等の対価の額は205,919円、課税資産の譲渡等の対価の額は零円、控除不足還付税額は497,352円及び控除税額の計算方法は一括比例配分方式と記載した本件確定申告書を原処分庁に提出していること。
 以上の事実を基に判断すると、本件課税期間に係る控除対象仕入税額は、前記(ホ)の事実から、本件課税期間の課税売上割合が零パーセントとなり、課税売上割合は95パーセントに満たないので、消費税法第30条第2項の規定を適用して算定することとなり、その税額は零円となる。
ロ 請求人は、調整対象固定資産については消費税法第33条に調整措置が規定されているが、同条第1項のかっこ書きにおいて課税仕入れの税額に係る消費税額の全額が控除された場合においても第3年度の課税期間に見直すこととされており、また、課税仕入れに係る消費税額は原則として仕入れた日の属する課税期間において全額控除できるのであるから、まず全額控除した後、第3年度の課税期間に調整すればよい旨主張する。
 ところで、消費税法第33条第1項の規定によれば、事業者が調整対象固定資産を仕入れた場合には、当該調整対象固定資産の課税仕入れに係る消費税額について、比例配分法により計算した場合(課税売上割合が95パーセント以上で、課税仕入れに係る消費税額が全額控除された場合を含む。)で、その計算に用いた課税売上割合が、以後3年間の通算課税売上割合と比較して著しく増加したときや著しく減少したときは、当該調整対象固定資産を第3年度の課税期間の末日において保有している場合に限って、控除する仕入税額について調整を行うとされている。
 本件の場合、請求人は、前記イの(イ)及び(ロ)のとおり調整対象固定資産の課税仕入れを行い、かつ、当該課税仕入れの税額につき比例配分法により仕入れに係る消費税額を計算しているので、当然に消費税法第33条の規定の適用を受けることになる。
 しかしながら、これは第3年度の課税期間における調整の規定であって、調整対象固定資産を仕入れた日の属する課税期間における調整の規定ではないので、本件課税期間においては、当該調整対象固定資産について控除する仕入税額の調整は行うことができない。
ハ 以上のとおり、原処分庁が行った本件更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(2) 賦課決定処分について

 請求人は、本件賦課決定処分は、本件更正処分の取消しに伴いその全部を取り消すべきである旨、また、仮に本件更正処分が違法ではないとしても、還付請求に基づく還付金をいまだ受け取っていないにもかかわらず、原処分庁が更正処分により納付すべき税額を生じさせ、過少申告加算税を賦課したのは違法である旨主張する。
 ところで、通則法第65条第1項の規定によれば、更正があったときは、同条第4項の規定に該当する場合を除き、その更正により納付すべき税額を基礎として当然に過少申告加算税が課されるものである。
 本件の場合、原処分庁は還付金の請求が過大であるとして更正をしたもので、更正処分は前記(1)のとおり相当であり、また、更正前に確定申告書に係る還付金を還付したか否かは過少申告加算税の賦課に何ら影響を与えるものではなく、更に、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する事実も認められないことから、本件賦課決定処分は相当であり、請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人は、本件のような特殊な場合にも、消費税が新設される以前からある通則法の規定をそのまま適用するのは不当である旨主張するが、通則法は国税についての基本的な事項及び共通事項を定めたものであり、同法の適用に当たり、消費税法を除外する等の規定は何らないことから、請求人の主張には理由がない。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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