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(平6.10.17、裁決事例集No.48 155頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、地盤改良工事業を営む同族会社であるが、平成2年4月1日から平成3年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、平成3年12月17日に次表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。

(単位:円)
区分
項目
確定申告 修正申告
所得金額 0 323,054
納付すべき税額 0 0
繰越欠損金の当期控除額 786,242 3,056,528
翌期に繰越す欠損金額 2,270,286 0

 これに対し、原処分庁は、平成5年6月29日付で所得金額を10,619,549円、納付すべき税額を3,094,100円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を440,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成5年7月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 原処分庁は、請求人が本件事業年度の法人税の申告において、減価償却資産として計上していた営業権(以下「本件営業権」という。)の額10,296,495円を減価償却費として損金の額に算入したことに対し、本件営業権は投資有価証券として計上すべきであり、当該償却費は損金の額に算入できないとして本件更正処分をした。
 しかしながら、本件営業権は、次に述べるとおり減価償却資産の営業権であるから減価償却費として損金の額に算入できる。
(イ) 請求人は、有限会社G(以下「G社」という。)の代表取締役であるH(以下「H」という。)との間でG社が有していた一般貨物自動車運送事業に係る運輸大臣の許可(いわゆるナンバー権をいい、以下「青ナンバー権」という。)の売買契約が成立したため19,296,495円(以下「本件買取価額」という。)を支払った。
 そして、本件買取価額をその支払時から昭和61年4月1日から昭和62年3月31日までの事業年度(以下「昭和62年3月期」という。)までは投資有価証券として経理処理していた。
(ロ) その後、請求人は、昭和62年4月1日から昭和63年3月31日までの事業年度(以下「昭和63年3月期」という。)の決算において、資本充実の観点からG社の資本金の額である9,000,000円は出資金とし、残額を本件営業権とする過年度決算の修正経理を行った。
(ハ) 請求人が青ナンバー権を取得した当時のG社は、運送用車両はもとより、従業員もなく、事業を行っていなかった。
 したがって、G社で唯一評価できるものは青ナンバー権であり、請求人の支払った対価の対象目的物は、一般貨物自動車運送という事業を営む権利、すなわち、G社の有する青ナンバー権そのものである。
(ニ) 以上のとおり、請求人が取得したのは青ナンバー権であり、このような法令の規定、行政官庁の指導による規制に基づく登録、認可、許可、割当等の権利を取得する場合のその権利が営業権に該当することは明らかであり、請求人が、本件営業権を減価償却資産の営業権として経理したこと及び減価償却費として、損金の額に算入したことは、正当な会計処理である。
(ホ) したがって、本件更正処分は、事実の誤認による違法な処分であるから、その全部を取り消すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ) 原処分庁の調査によれば次の事実が認められる。
A 登記簿謄本によれば、G社は、昭和48年4月2日に設立され、本店所在地、取締役及び事業目的を度々変更しているものの、解散若くは清算又は合併等の事実は発生しておらず、現在まで継続している法人であること。
B 請求人は、昭和59年9月ころ、G社の社員の持分のすべてを本件買取価額で取得し、昭和59年9月26日付で請求人の代表取締役であるI(以下「I」という。)がG社の代表取締役に就任して現在に至っていること。
C 貨物自動車運送事業法第3条(平成元年12月19日号外法律第83号による公布前は、道路運送法第4条をいう。)((一般貨物自動車運送事業の許可))は、一般貨物自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の許可を受けなければならない旨規定し、また、同法第30条(平成元年12月19日号外法律第83号による公布前は、道路運送法第36条をいう。以下同じ。)((事業の譲渡し及び譲受け等))は、一般貨物自動車運送事業の譲渡し及び譲受けは、運輸大臣の認可を受けなければならないと規定しているところ、G社は昭和52年3月29日付で許可を受けており、その後、請求人がG社から青ナンバー権の買い取りに関して運輸大臣の許可を受けた事実はなく、現在もG社が一般貨物自動車運送事業を営み、運送業に係る収益を計上していること。
D 請求人は、配管埋設工事に伴う地盤強化及び水漏れ防止のための薬液注入等の工事を主たる業とする法人であり、運送業に係る収益の計上がないこと。
E 請求人は、G社の社員の持ち分をすべて取得した後、無許可営業を行っていた際の顧客のすべてをG社に移管し、運送用車両もG社に売却しており、請求人が必要とする運送業務もG社に外注していること。
F 請求人は、平成5年2月1日付「営業権償却についての照会」に対し、青ナンバー権の買い取りについては、陸運局の許認可に関する売買であるから契約書は作成されておらず、金額についても話し合いで決めた旨の回答しかしておらず、本件買取価額及び本件営業権の算定根拠が不明であること。
(ロ) 一般的にのれんとも呼ばれる営業権とは、企業が有する超過収益力を意味するとされている。
 この超過収益力の要因としては、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び取引関係の存在並びにこれらの独占性等の多様な条件が考えられ、これらを総合して同種の事業を営む他の企業が上げている通常の収益を上回る企業収益を稼得する場合及び過去の実績を基に将来に期待される収益を見積もることができる場合に、超過収益力、すなわち無形の財産的価値たる営業権の存在が認められるものと解されている。
 また、青ナンバー権等のような法令の規定、行政官庁の指導等による規制に基づく許可等の権利の取得のために支出される費用についても、事業を営む権利を取得するという固有の経済的価値を有すると認められることから、営業権に該当するものと解されている。
 法人税法上、営業権の意義についての規定は存在しないが、商法上及び企業会計上は買い入れた営業権についてのみ資産性を認めていることから、法人が他の企業の営業の全部又は重要な一部を有償で承継取得した場合に発生する営業権を適正に算定した価額で資産計上することは、当然に認められている。
 そして、営業権を減価償却資産に該当する無形固定資産として法人税法施行令(以下「施行令」という。)第13条((減価償却資産の範囲))第8号リに掲げていることから、法人が有償で取得した営業権を自らの事業の用に供した場合においては、同条本文かっこ書及び施行令第48条((減価償却資産の償却の方法))第1項第5号の規定により、当該営業権の取得価額を限度とする減価償却(以下「任意償却」という。)が認められている。
(ハ) ところで、法人が一般貨物自動車運送事業を営むためには、前記(イ)のCで述べたように、運輸大臣の許可を受けなければならないことから、法人が他の者から青ナンバー権を有償で承継取得し、これを自らの事業の用に供している事実があれば、適正な価額で資産計上すること及び法人税法に規定する任意償却をすることも当然認められることになる。
 しかしながら、本件の場合、請求人とは別法人であるG社が運送業を継続して営み、当該事業から生じる収益をG社自身の収益としているのであるから、請求人が営業権を取得して自らの事業に供することにより将来の期待利益たる超過収益力を得ているとは認められない。
 そして、本件買取価額は、自己が営めば違法とされる運送事業部門を何らかの形で継続させるため青ナンバー権を有する企業を自己の支配下に置く必要のあった請求人と、資産として評価できるものは青ナンバー権のみであったG社の前オーナーとの需要と供給の関係から導き出されたG社の社員の持分の実勢価額、すなわち時価であると認められる。
 以上のとおり、請求人は、G社の社員の持分のすべてを取得したことにともないG社の支配権を得ただけであり、結果的に青ナンバー権を支配しているに過ぎないから、本件営業権は、G社の社員の持分の取得の対価として投資有価証券勘定に計上すべきものである。
(ニ) したがって、本件営業権の減価償却費は本件事業年度の損金の額に算入できないとした本件更正処分は、適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には国税通則法(以下「通則法」という。)第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件営業権が施行令第13条第8号リに規定する営業権に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1) 本件更正処分について

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ) G社は、昭和48年4月2日に設立され、本店所在地、取締役及び事業目的を度々変更しているものの、解散若しくは清算又は合併等の事実は発生しておらず、現在まで継続している法人であること。
(ロ) 請求人は、G社から青ナンバー権の買い取りに関して運輸大臣の認可を受けた事実はなく、現在もG社が一般貨物自動車運送事業を営み、運送事業に係る収益を計上していること。
ロ 当審判所が請求人の提出した証拠書類を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) G社の商業登記簿謄本によれば、G社の資本の総額は9,000,000円で、出資1口の金額は10,000円であること。
 また、Iは、昭和59年9月26日付でG社の代表取締役に就任していること。
(ロ) G社の昭和59年10月1日から昭和60年9月30日までの事業年度の法人税の確定申告書控の別表二によれば、G社の出資金額は9,000,000円であり、その全部を請求人が保有していること。
 また、同申告書控に添付された「固定資産の増減内訳書」によれば、G社は、昭和59年10月に11トン貨物自動車他4台を総額14,250,000円で、請求人から購入していること。
ハ 当審判所が原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) G社は、昭和52年3月29日付で一般自動車運送事業を経営することについて、運輸大臣の免許を受けていること。
(ロ) 請求人が原処分庁に提出した平成5年1月13日付の「営業権についての御回答」及び平成5年3月29日付の「営業権償却についての照会に対する御回答」によれば、請求人は、本件営業権について、次のとおり回答していること。
A 請求人は、無許可でトラック運送業を営んでいたところ、昭和57年か昭和58年ころ、陸運局に摘発されたため、新規に許可申請の手続をしようとしたが、新規に運輸大臣の許可を受けることは、ほとんど見込みがないことが判明した。
 その後、K株式会社の営業課員L氏の仲介でG社の青ナンバー権の売買契約が成立し、昭和59年10月ころ、本件買取価額に相当する支払手形60枚をL氏を通じてHに支払った。
B G社の青ナンバー権の買い取りに当たっては、慣例により契約書は作成せず、本件買取価額も話し合いで決まった。
C 請求人は、青ナンバー権を買い取った後、請求人の運送に係る顧客をG社に移管し、その後、請求人は建設業として事業を行っている。
(ハ) 請求人は、本件買取価額について、次のとおり会計処理を行っていること。
A 本件買取価額の支払時から昭和62年3月期まで、本件買取価額を投資有価証券勘定に計上している。
B 昭和63年3月期において、本件買取価額のうちG社の資本金に該当する9,000,000円を投資有価証券勘定に計上し、残額10,296,495円を営業権勘定に計上した。
C 本件事業年度において、本件営業権を減価償却資産として、営業権償却科目で全額損金の額に算入している。
ニ ところで、法人税法上、営業権の定義に係る明文の規定はないが、一般的に営業権とは、当該企業を構成する特有の名声、信用、得意先関係、仕入先関係、営業上の秘けつ、経営組織等が当該企業の下で、有機的に結合された結果、超過収益力を生ずることができる場合に、その企業を構成する物又は権利と別個独立の財産的価値として評価を受くべき事実関係をいうものとされ、これは企業の活動中に創出され、法人の合併とか、他企業の買収のように、営業の全部又は一部の包括的移転の際に実現するものである。
 また、商法第285条の7((のれんの評価))の規定によれば、のれんは、有償取得又は合併による取得の場合に限り、資産として計上することが認められ、更に企業会計原則第3の5のE((資産の貸借対照表価額))においても、営業権は有償で譲り受け又は合併によって取得したものに限り、資産として計上することとされており、施行令第13条第8号リに規定する営業権についても、商法及び企業会計原則の場合と同様に解するのが相当である。
 さらに、繊維工業における織機の登録権利、許可漁業の出漁権及びタクシー業のナンバー権等の法令の規定並びに行政官庁の指導等による規制に基づく登録、認可、許可及び割当等の事実上の権利を取得した場合のその取得のために要した費用も営業権に該当すると解される。
 そして、営業権は、法人税法第2条((定義))第24号及び施行令第13条第8号リの規定により無形固定資産の減価償却資産とされ、法人税法第31条((減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法))第1項、施行令第13条本文かっこ書及び施行令第48条第1項第5号の規定により、法人が取得した営業権を自らの事業の用に供している場合は、任意償却による償却費を損金経理を条件に損金の額に算入できることを認めている。
ホ そこで、前記イないしハの事実を、上記ニに照らし判断すると次のとおりである。
(イ) 貨物自動車運送事業法第30条の規定によれば、一般貨物自動車運送事業を譲り受ける場合は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じないとされているところ、請求人には、前記イの(ロ)のとおり、G社から青ナンバー権の買い取りに関して運輸大臣の認可を受けた事実はなく、現在もG社が一般貨物自動車運送事業の免許を有し、運送事業を営み、その収益を計上している。
 一方、請求人は、前記ハの(ロ)のとおり、運送事業を何らかの形で存続させるため、青ナンバー権を有する企業を請求人の支配下に置く必要があったことが推認され、前記ロのとおり、請求人は、G社の出資金額の全部を保有し、IがG社の代表取締役に就任している。
 そして、請求人は、G社に対して、請求人が所有していた車両を売却し、請求人の運送事業に係る顧客を移管している事実が認められ、請求人が運送事業を営んでいる事実は認められない。
 そうすると、請求人が、青ナンバー権を承継取得して、当該青ナンバー権に係る事業を行っている事実はないから、施行令第13条第8号リに規定されている営業権を取得したとは認められない。
(ロ) 以上のことから、本件営業権は、施行令第13条第8号リに規定する営業権とは認められず、G社の社員の持分の取得の対価とするのが相当であると認められるから、本件買取価額の一部を本件営業権として経理したこと及び減価償却資産の営業権として全額償却し損金の額に算入したことは正当な会計処理であるとする請求人の主張には理由がない。
 したがって、本件営業権の減価償却費は、本件事業年度の損金の額に算入できないとした本件更正処分は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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