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(平6.11.18、裁決事例集No.48 489頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、納税者A株式会社(以下「滞納会社」という。)の昭和59年度源泉所得税に係る滞納国税を徴収するため、昭和63年5月9日にB(以下「B」という」)名義のCカントリー倶楽部個人正会員権(以下「本件会員権」という。)の差押え(以下「本件差押処分」という。)をした。
 なお、Cカントリー倶楽部の経営会社は、昭和60年11月13日にDゴルフ株式会社からEゴルフ株式会社(以下「Eゴルフ」という。)に商号変更されている。
 その後、原処分庁は、平成5年3月23日付で、本件会員権の会員証書(以下「本件会員証書」という。)を占有している貸金業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、本件会員証書の引渡命令(以下「本件引渡命令」という。)をした。
 請求人は、平成5年3月23日に本件差押処分について、同年4月9日に本件引渡命令についてそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月8日付でそれぞれ棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年7月2日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件差押処分について
 本件会員権は、次のとおり、請求人に帰属するものであり、本件差押えは違法である。
(イ) 請求人は、Bと昭和61年12月20日付で金銭消費貸借契約を締結し、金員2,500,000円を弁済期日昭和62年12月30日の約定で貸し渡した。その際、担保として本件会員権に譲渡担保権の設定を受け、裏書のある本件会員証書及び別表1記載の各書類の交付を受けた。
 次いで、上記と同様の約定により、昭和62年5月28日に追加金として金員1,500,000円を貸し渡した。
 このように、請求人は、B個人の権利に属していた本件会員権を、本件差押処分前にBとの口頭による譲渡担保設定契約により、適法に譲渡を受けたものである。
(ロ) そもそも、いわゆる預託金制のゴルフ会員権は、会員とゴルフ場との入会契約によって生じるプレー権、年会費支払義務及び預託金返還請求権等を内容とする契約上の地位である。
 本件会員権が滞納会社の財産のごとく滞納会社の帳簿に記載され、あるいは本件会員権の購入資金が滞納会社から出捐されていたとしても、それはあくまでBと滞納会社間の内部上のことであり、法的には本件会員権は、BとEゴルフとの入会契約によってBの権利として生じたものである。
(ハ) 以上のとおり、本件会員権の法律上の権利者でない滞納会社の滞納国税に基づく本件差押処分は違法であり、違法な差押えの排除には民法第467条に規定する指名債権譲渡の対抗要件は不要である。
ロ 本件引渡命令について
 本件引渡命令は、次のとおり、請求人の所有に属する本件会員証書に対するものであり、違法である。
(イ) 本件会員証書は、有効な譲渡担保設定契約により請求人がBから昭和61年12月20日に引渡しを受けたものであって、請求人の所有に属する。このことは、譲渡担保権が対抗要件を欠くことにより本件差押処分に対抗できない場合でも同様であり、当事者間における権利移転は有効である。
(ロ) また、本件会員証書は有価証券ではなく、証拠証券にすぎないとしても、その財産的価値に関係なく権利の客体としては動産であるから、ゴルフ会員権に対する権利とは別に、民法第192条に規定する即時取得の対象となる。
 したがって、請求人が本件会員証書の引渡しを受けた昭和61年12月20日に請求人は本件会員証書を取得している。
(ハ) 仮に譲渡担保権者としての権利が認められないとしても、請求人は、昭和61年12月20日に本件会員証書の引渡しを受けて占有し、貸金の弁済期日(昭和62年12月30日)は到来しているので、民法第295条に規定する留置権の法的効果により、貸金の弁済を受けるまで本件会員証書を引き渡す必要はない。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件差押処分について
 本件会員権は、次のとおり、滞納会社に帰属するものであり、本件差押処分は適法になされている。
(イ) 本件会員権は、B名義となっているが、購入資金の全額が滞納会社から支払われ、かつ、滞納会社の決算報告書に滞納会社の資産として計上されていることから、実質出捐者である滞納会社に帰属するものと認定して本件差押処分を行ったのであり、本件差押処分は、他人の権利に対する差押えには当たらず、適法である。
(ロ) さらに、本件会員権の譲渡をもって請求人が差押債権者たる原処分庁に対抗するためには、昭和63年5月9日に行った本件差押処分前に、民法第467条所定の確定日付がある証書により、譲渡人からゴルフ場経営会社であるEゴルフへの譲渡通知が必要とされているところ、本件会員権の譲渡通知がなされたのは本件差押処分後の平成5年2月19日であり、本件会員権の譲渡は本件差押処分に対抗できない。
ロ 本件引渡命令について
(イ) 本件引渡命令は、前記イの(イ)のとおり適法な本件差押処分に基づき、国税徴収法第73条((電話加入権等の差押の手続及び効力発生の時期))第5項において準用する同法第58条((第三者が占有する動産等の差押手続))第2項の規定により行ったものであり、適法である。
(ロ) 本件会員証書は、有価証券あるいは証券によって表彰される動産ではなく、単なる証拠証券であって財産権を表彰するものではない。したがって、実体的な権利とともにでなければ、本件会員証書だけを取引目的とすることはできず、本件会員証書のみの処分にその流通の確保、保護を図る必要性は認められないことから、民法第192条の即時取得の適用を受けるものではない。
(ハ) 本件会員証書は、上記(ロ)のとおり、単なる証拠証券であり、民法第295条に規定する留置権の対象とはならない。
(ニ) 以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、本件引渡命令は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、滞納会社に帰属するとして行われた本件差押処分及びそれに続く本件引渡命令が適法か否かにあるので、以下検討する。

(1) 本件差押処分について

イ 原処分関係資料及び請求人提出資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、Bと昭和61年12月20日付で金銭消費貸借契約を締結し、金員2,500,000円を弁済期日昭和62年12月30日の約定で貸し渡したこと。
 その際、請求人は、担保として本件会員証書にBの裏書を受け、本件会員証書及び別表1記載の各書類の交付を受けたが、Eゴルフに対し譲渡承認を求めていなかったこと。
(ロ) 原処分庁は、昭和63年5月9日、滞納会社の滞納国税を徴収するため本件差押処分を行い、同日、第三債務者であるゴルフ場経営会社のEゴルフに国税徴収法第73条第1項の規定に基づく差押通知書を送達したこと。
(ハ) 請求人は、Bから貸金の弁済が受けられなかったため、平成5年1月29日、Bの署名押印のある本件会員権の名義書換えに必要な書類の交付を受けたこと。
(ニ) Bを通知人及び譲渡人、請求人を譲受人とするゴルフ会員権譲渡通知書は、平成5年2月19日、書留内容証明郵便物としてF郵便局からEゴルフあて差し出されていること。
(ホ) Cカントリー倶楽部会則によれば、同倶楽部に入会を希望する者は、Eゴルフの取締役会の承認を得た上、同社の定める額の入会金及び登録料を払い込むことにより会員資格を取得し、同倶楽部は入会金を無利息で10年間預かり、その後会員の退会等の一定の事由があるときは、会員の請求により入会金を返還する旨定められていること。
 また、同会則によれば、会員は理事会及びEゴルフ取締役会の承認を得て、その資格を他の者に譲渡することができる旨定められていること。
(ヘ) 本件会員権は、Eゴルフの会員マスターリストによると、次のとおりであること。
 A 会員名:B
 B 入会日:昭和57年6月30日
 C 条件:個人正会員
 D 登録料:1,000,000円
 E 入会金(預り金):3,500,000円
 F 入金内訳:手形4,500,000(最終期日 昭和57年9月25日)
(ト) 本件会員権の購入資金(登録料及び入会金の合計4,500,000円)は、別表2記載のとおり、滞納会社振出しの約束手形で支払われ、Eゴルフがこれを取り立てていること。
(チ) 滞納会社の昭和57年6月1日から昭和58年5月31日までの事業年度(以下「昭和58年5月期」という。)分の法人税確定申告書の添付書類である決算報告書(貸借対照表)(以下「決算報告書」という。)に、会員権8,500,000円が滞納会社の資産として計上されているが、当該会員権には、本件会員権4,500,000円が含まれていること。
(リ) 滞納会社の決算報告書等によれば、滞納会社とBとの間の債権、債務関係は表示されていないこと。
 また、滞納会社は、昭和58年6月1日開始の事業年度以降、法人税に係る申告をしていないこと。
(ヌ) Bは、昭和58年1月8日付で滞納会社の代表取締役に就任(同月13日登記)したが、滞納会社は、昭和59年9月25日、株主総会の決議により解散(同年10月3日登記)し、同人が清算人となっている(同年10月3日登記)こと。
 なお、法人税の清算に係る申告はなされていない。
(ル) Bの答述によれば、滞納会社の昭和58年5月期の決算報告書については、同人も出席した滞納会社の取締役会において承認されたものであり、決算報告書に本件会員権が資産として計上されていたことについて同人は特に異論を唱えていないこと。
(ヲ) 滞納会社の昭和58年5月期の法人税に係る税務調査においては、本件会員権の経理処理を不相当であるとする指摘はなかったこと。
ロ 請求人は、本件会員権は請求人の所有に係るものであり、本件差押処分はその帰属を誤った違法がある旨主張する。
(イ) 預託金制のゴルフ会員権の内容は、一般に、ゴルフ場施設をクラブ規則に従い優先的に利用し得る権利、年会費納入等の義務及び預託した入会金を据置期間経過後退会時に返還請求し得る権利、という権利義務を包括した契約上の地位ないしは債権的法律関係であると解されているところ、前記イの(ホ)によれば、本件会員権は預託金制のゴルフ会員権と認められる。
 そして、預託金制のゴルフ会員権については、名義人すなわちゴルフ倶楽部の理事会あるいはゴルフ場経営会社の取締役会の承認を得て会員たる資格を取得した者に権利が帰属するのが通常であるが、当該会員権は債権的法律関係を包含するので、他に実質上の権利者がいる場合には、当該権利者に帰属する財産と認定して滞納処分を行い得ることは、もとより許されるべきである。
(ロ) 前記イの(ヘ)ないし(チ)及び(ル)の事実によれば、本件会員権の名義人はBであるものの、本件会員権の取得に際して要した登録料及び入会金の全額が滞納会社の資金により支払われていること並びに取締役会の承認を経た滞納会社の決算報告書に本件会員権が資産として記載されていることからすると、滞納会社は本件会員権を自己の財産と認識していたものと認めるのが相当である。
 なお、滞納会社の本件会員権に係る経理処理については、前記イの(ヲ)によっても正当なものであったと認められる。
 また、名義人であるBは、前記イの(ヌ)及び(ル)のとおり、昭和58年1月に滞納会社の代表取締役に就任し、上記取締役会にも出席した上で異議なく滞納会社の決算報告書を承認していたことからすると、同人自身も本件会員権が滞納会社の財産であると認識していたものというべきである。
 ただ、前記イの(リ)及び(ヌ)のとおり、Bと滞納会社との間の債権債務関係及び滞納会社の清算状況が不明であるところ、本件差押処分前に本件会員権が滞納会社の残余財産の分配等としてBに帰属するに至ったことを認定するに足る証拠はなく、当審判所の調査によっても当該事実を認定することができない。
 そうすると、本件会員権は、滞納会社が自己の商業取引により発生した資金を基に、Bの名義を利用して取得したものであり、滞納会社に帰属すると認めるのが相当である。
ハ 請求人は、昭和61年12月20日の譲渡担保権の設定契約により、本件会員権の譲渡を受けた旨主張する。
 ところで、預託金制のゴルフ会員権の譲渡を第三者に対抗するためには、これが指名債権の譲渡を伴うものであることから、民法第467条第2項の規定に準じて、確定日付のある証書による譲渡人からゴルフ場経営会社への通知又はゴルフ場経営会社の承諾が必要であると解されている。
 前記イの(イ)ないし(ニ)の事実によれば、原処分庁がEゴルフに対し、本件差押処分に係る差押通知書を送達したのは昭和63年5月9日であり、Bを通知人とする確定日付のある本件会員権の譲渡通知書がEゴルフへ送達されたのは、早くとも平成5年2月19日であることが認められる。
 そうすると、請求人が第三者に対する対抗要件を備えたのは本件差押処分に遅れたものであることが明らかであるから、請求人は、本件会員権の譲渡を受けたことをもって、差押債権者たる原処分庁に対抗できないものといわざるを得ない。
ニ 以上のとおり、本件差押処分に係る請求人の主張は理由がなく、本件会員権は、滞納会社に帰属する財産であると認めるのが相当であるから、原処分庁が滞納会社の滞納国税を徴収するため本件差押処分をしたことに違法な点は認められない。

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(2) 本件引渡命令について

イ 請求人は、本件会員証書は有効な譲渡担保設定契約により、昭和61年12月20日にBから引渡しを受けているので、請求人の所有に属する旨主張する。
 ところで、預託金制のゴルフ会員権に係る会員証書については、一般に、証書上に指図文句の記載がなく、権利移転には証書の交付だけでなくゴルフ場会社の譲渡承認等一連の手続が必要であること等から、その法的性質は有価証券ではなく単なる証拠証券であると解されているところ、本件会員証書がこれと別格のものであると解すべき点は認められない。
 したがって、本件会員証書自体が本件会員権から分離独立して転々流通することが予定された有価証券とは認められない以上、本件会員証書自体の取得にその保護を図る必要性もないものといわざるを得ない。
 そうすると、請求人が譲渡担保設定契約による本件会員権の譲渡をもって差押債権者たる原処分庁に対抗できない本件においては、本件会員証書自体の所持、占有をもっては何ら権利を取得したとはいえないのであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 請求人は、本件会員証書を民法第192条の規定により即時取得した旨主張するが、本件会員証書自体が独立して取引目的とはされていないことは上記イのとおりであるから、即時取得によりその保護を図る必要性も認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張も採用できない。
ハ 請求人は、民法第295条の留置権に関する規定により、貸金の弁済を受けるまで本件会員証書を引き渡す必要がない旨予備的に主張する。
 ところで、民法第295条第1項本文によれば、他人の物の占有者が「其物ニ関シテ生シタル債権」を有するときにその物を留置することができる旨規定している。
 そして、「其物ニ関シテ生シタル債権」とは、1債権が物自体より発生した場合、2債権が物の返還義務と同一の法律関係又は事実関係より発生した場合であると解されている。
 これを本件についてみると、請求人がBに対して有する貸金債権と証拠証券にすぎない本件会員証書自体との関係は上記1及び2のいずれにも該当しないことから、本件会員証書は留置権の対象とはなり得ないのであり、請求人のこの点に関する主張も採用できない。
ニ 以上のとおり、請求人の各主張はいずれも理由がなく、また、本件引渡命令は、国税徴収法第73条第5項において準用する同法第58条第2項の規定に基づき適法に行われている。

(3) 原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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