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(平7.9.21裁決、裁決事例集No.50 56頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、生命保険の外交員であるが、平成2年分の所得税について、青色申告書以外の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年7月9日付で次表の「原処分」欄記載のとおり更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
区分確定申告原処分
総所得金額△41,067206,767
内訳
 事業所得の金額4,262,1814,262,181
 不動産所得の金額△4,303,248△4,055,414
分離短期譲渡所得の金額168,52824,183,666
納付すべき税額△617,0988,374,100
重加算税の額3,146,500

注1 「総所得金額」及び「不動産所得の金額」欄の△印は、損失の金額を示す。
注2 「納付すべき税額」欄の△印は、還付金の額に相当する税額を示す。
 請求人は、上記各処分を不服として平成4年8月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年1月13日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年2月12日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)譲渡所得の金額
A 収入金額
 請求人は、平成2年3月7日にP市R町10番11の土地159.75平方メートル(以下「本件土地」という。)をF株式会社(以下「F社」という。)に売り渡す旨の契約(以下、この契約を「本件契約」という。)を締結し、譲渡したので、本件土地の譲渡価額を103,372,000円として分離短期譲渡所得の金額を計算し、確定申告したところ、原処分庁は、本件契約に基づく本件土地の譲渡価額を126,160,000円と認定して更正処分をした。
 しかし、次のとおり、本件土地の譲渡価額は103,372,000円であるから、これを126,160,000円とした原処分庁の認定は、事実を誤認したものである。
(A)G地所株式会社との本件土地の売買契約について
 請求人は、本件契約の締結に先立ち、平成2年2月27日に有限会社H(以下「H社」という。)の仲介により、本件土地をG地所株式会社(以下「G社」という。)に100,000,000円で売り渡す旨の契約を締結し、同日、その旨を記載した同月29日付の不動産売買契約書を作成し、その際、契約締結に立ち会ったG社の代表取締役J(以下「J」という。)から、手付金として額面20,000,000円の同社振出しの小切手を受領した。
(B)契約解除に伴う違約金20,000,000円について
a 請求人は、本件契約を締結したことから、後記(C)のとおり、G社との本件土地に係る不動産売買契約を解除することとなり、F社は、そのためにG社に対して支払う違約金20,000,000円を負担することとなった。
b 請求人は、平成2年4月17日にG社との本件土地に係る不動産売買契約を解除し、同日、G社から手付金として受領した上記(A)の小切手を同社に返還するとともに、次のとおり、同社に対して違約金20,000,000円を現金で支払った。
(a)10,000,000円は、本件土地の譲渡代金の一部としてF社から平成2年4月13日に受領した同社振出しの小切手を裏書し、K不動産株式会社の従業員であったL(以下「L」という。)に現金化させて持参させ支払った。
(b)10,000,000円は、いつもH社の事務所にいるので同社の従業員であると信じていたM(以下「M」という。)から現金を借りて支払った。
(C)本件契約について
a 請求人は、平成2年3月7日に本件土地の譲渡価額を123,372,000円とする本件契約を締結し、同日、その旨の不動産売買契約書を作成し、その際、契約締結に立ち会ったF社の代表取締役N(以下「N」という。)から、手付金として額面20,000,000円の預金小切手を受領した。
 なお、請求人は、手付金20,000,000円を除いたその他の103,372,000円を、平成2年4月13日及び同月17日の2回にわたり同社から受領した。
b 請求人がF社から受領した123,372,000円のうち20,000,000円は、F社がG社に支払う違約金相当額を請求人が受領したものであり、本件土地の売買代金の一部として請求人に支払われたものではない。
c したがって、本件契約に係る本件土地の譲渡価額は、上記bの20,000,000円を差し引いた103,372,000円であり、事実、平成2年3月7日のうちに、本件土地の売買価格を103,372,000円と記載した、同日付の不動産売買契約書(以下「甲契約書」という。)を作成した。
B 必要経費等の額
 更正処分のうち、分離短期譲渡所得の金額の計算に当たり、収入金額から控除した本件土地の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額(以下、これらの費用を併せて「必要経費等の額」という。)については争わない。
(ロ)不動産所得の金額
 更正処分のうち、不動産所得の金額については争わない。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分はその一部を取り消すべきであるから、これに伴い、重加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)譲渡所得の金額
 分離短期譲渡所得の金額を算定すると、別表1の「(9)」欄記載のとおり24,183,666円となる。
A 収入金額
 本件土地の譲渡価額は、次のとおり、126,160,000円となる。
(A)請求人は、平成2年3月7日に本件土地の譲渡価額を126,160,000円とする旨の本件契約を締結した。このことは、原処分の調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)が、本件契約の仲介業者であるW有限会社(以下「W社」という。)を調査して把握した、売主を請求人、買主をF社、本件土地の売買価格を126,160,000円と記載した平成2年3月7日付の不動産売買契約書の写し(以下「乙契約書の写し」という。)により明らかである。
(B)請求人は、本件土地の譲渡代金126,160,000円をF社から、次のとおり受領していると認められる。
a 手付金
 請求人は、平成2年3月7日にF社から同社振出しの額面金額20,000,000円の小切手(支払銀行:A銀行X支店(以下「A銀行」という。))を、同社の裏書を得て受領した。
 なお、請求人は、この金額のうち15,000,000円をB信用組合Y支店の請求人名義の普通預金口座へ送金し、5,000,000円を現金で受領した。
b 手付金を除くその他の譲渡代金
(a)請求人は、平成2年4月13日にF社から同社振出しの額面金額10,000,000円の小切手(支払銀行:A銀行)を受領した。
 なお、請求人は、この小切手を裏書し、Lへ譲渡した。
(b)請求人は、平成2年4月17日にF社から同社振出しの額面金額93,372,000円の小切手(支払銀行:A銀行)を同社の裏書を得て受領した。
 なお、請求人は、この金額を同行からC銀行P支店(以下「C銀行」という。)の請求人名義の普通預金口座へ送金し、同行からの借入金の返済に充てた。
(c)F社は、A銀行の同社名義の普通預金口座から平成2年3月8日に45,000,000円を引き出し、20,000,000円は同行の同社名義の当座預金口座に入金して上記(B)のaの手付金20,000,000円の原資としており、その他の25,000,000円は、Nが現金で受領しているものであるが、このように、本件土地の譲渡代金126,160,000円のうち上記(B)のa、上記(a)及び(b)で述べた金額の合計123,372,000円がF社から請求人に支払われた時期にNが預金から相当額の現金を引き出している状況を考慮すれば、上記126,160,000円のうち上記123,372,000円を除く2,788,000円も、そのころ、現金払いなど適宜の方法により、同社ないし同人から請求人に支払われたことは優に推測されるところである。
B 必要経費等の額
 必要経費等の額は、次のとおり、101,976,334円となる。
(A)本件土地購入代金、仲介料、登記手数料及び不動産取得税の額は、請求人が平成2年分の確定申告書に添付した「譲渡資産などの内訳書」(以下「譲渡資産内訳書」という。)に記載した額の合計額96,883,200円のとおりである。
(B)借入金利息の額は、借入金額115,000,000円に係る利息2,615,122円のうち、本件土地購入代金に対応する部分の額2,123,923円である。
(C)借入保証料等の額は、請求人が譲渡資産内訳書に記載した額から、預託金100,000円を減算し、印紙代60,000円を加算した額2,969,211円である。
(ロ)不動産所得について
 不動産所得の金額を算定すると、別表2の「(6)」欄記載のとおり損失の金額4,055,414円となる。
A 収入金額
 収入金額は、請求人が平成2年分の確定申告書に添付した「不動産所得の収支内訳書」(以下「不動産所得収支内訳書」という。)に記載した金額6,578,000円のとおりである。
B 必要経費の額
 必要経費の額は、次のとおり、10,633,414円となる。
(A)借入金利子は、請求人が不動産所得収支内訳書に記載した額から、P市S町2丁目4番7所在の貸家(以下「本件貸家」という。)の貸付開始前の利子相当額627,834円を減算した額6,640,664円である。
(B)修繕費は、請求人が不動産所得収支内訳書に記載した額に計上漏れとなっていた給水ポンプ交換工事費380,000円を加算した額400,497円である。
(C)その他の経費は、請求人が不動産所得収支内訳書に記載した額3,592,253円のとおりである。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、請求人は、本件契約に係る本件土地の譲渡価額が126,160,000円であるにもかかわらず、103,372,000円であるとの虚偽内容の契約書を作成して、真実の取引を仮装し、その仮装したところに基づき所得金額を過少に申告したもので、このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した行為に該当するので、重加算税を賦課決定したものである。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 譲渡所得の金額
 本件土地の譲渡価額について争いがあるので、以下審理する。
(イ)収入金額
A 本件契約に関し、平成2年3月7日から同年4月17日までの間に123,372,000円の金員がF社から請求人に対して支払われたことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
B 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)本件契約に関する契約書の写しについて、甲契約書の写しは、請求人が当審判所に提出したものであり、乙契約書の写しは、調査担当職員がW社を調査して把握したものであること。
(B)調査担当職員は、平成3年8月11日にW社を調査して同社の代表取締役D(以下「D」という。)から、乙契約書の写し及び売主を請求人、買主をF社、本件土地の売買代金を126,160,000円、報酬総額(買主から)を3,000,000円と記載した取引台帳の原本の写し(以下「取引台帳の写し」という。)を入手したこと。
(C)本件契約に関し、請求人がいったん作成したとする本件土地の売買価格を123,372,000円と記載した不動産売買契約書については、請求人から提出がなくその契約書の作成の事実が確認できないこと。
(D)請求人がF社から受領した本件土地の譲渡代金の決済状況等については、次のとおりであること。
a 請求人は、平成2年3月7日に本件土地の手付金20,000,000円をF社から同社振出しの小切手(額面金額20,000,000円、支払銀行:A銀行)で受領しており、この金額のうち15,000,000円をB信用組合Y支店の請求人名義の普通預金口座へ送金し、5,000,000円を現金で受領した。
b 請求人は、平成2年4月13日に本件土地の譲渡代金の一部10,000,000円をF社から同社振出しの小切手(額面金額10,000,000円、支払銀行:A銀行)で受領しており、その後、この小切手は、請求人がEから購入した土地代金の一部として当該取引を仲介したLに支払われ、同人は、この小切手をA銀行本店で取立てをして同店の同人名義の普通預金口座に入金した後、さらに、この金額を同店のE名義の普通預金口座に振り込んだ。
c 請求人は、平成2年4月17日に本件土地の譲渡代金の一部93,372,000円をF社から同社振出しの小切手(額面金額93,372,000円、支払銀行:A銀行)に同社の裏書を得て受領しているが、この小切手をA銀行で取立てをして同行からC銀行の請求人名義の普通預金口座へ送金し、同行からの借入金の返済に充てた。
(E)請求人は、売主を請求人、買主をG社、本件土地の売買価格を100,000,000円と記載した平成2年2月29日付の不動産売買契約書の写し(以下「丙契約書の写し」という。)を当審判所に提出したこと。
(F)請求人は、名宛人を請求人とし、次のとおりの内容を記載した、Jの署名のある平成4年11月10日付の「確認書」及び「証明書」(以下、これらを併せて「確認書等」という。)と題する書面を当審判所に提出したこと。
a 確認書
 平成2年4月17日に本件土地の売買契約解除に伴う違約金20,000,000円を受領した。
b 証明書
 本件土地の売買契約解除に伴い返還を受けた手付金はG社が支払った同社振出しの小切手であった。
(G)F社が、原処分庁に提出した平成元年6月1日から平成2年5月31日まで及び平成2年6月1日から平成2年9月30日までの各事業年度(以下、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の確定申告書に添付したそれぞれの「仮払金の内訳書」(以下「仮払金内訳書」という。)には、相手先をG社、関係を土地売買契約不履行の為として期末現在高20,000,000円の、また、本件各事業年度の法人税の確定申告書に添付したそれぞれの「たな卸資産の内訳書」には、本件土地に関して科目を商品、品名をP市R町10‐11、数量を159.75平方メートル、期末現在高103,372,000円の記載があること。
(H)F社は、平成3年5月28日にA銀行において二度目の不渡手形をだして事実上倒産し、それ以後、同社及びNの所在も不明であること。
(I)請求人は、異議申立て以後になってから本件契約を締結する以前に本件土地をG社に売り渡す旨の契約を締結していたとの申し立てをしたこと。
C 請求人及び関係人は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(A)請求人
a 本件土地の売買価格を123,372,000円と記載した契約書は、甲契約書を作成したときに捨ててしまい残っていない。
b 乙契約書は、私自身が内容を確認して署名、押印したものであり、はんこも本物です。
(B)D
a 乙契約書は、平成2年3月7日にW社の事務所で請求人、N、私、私の妻が立ち会い、売主、買主、仲介人のすべてが署名押印して作成し、その写しを当社の控えとした。
b 上記aの後、手付金の授受の段階になりNが本件土地の価格が高いので契約をやめるといい出してもめたので、売買価格を103,372,000円とすることで折り合いをつけ、それぞれが署名押印して甲契約書を作成した。
 しかし、私がその控えをとらなかったので当社には乙契約書の控えだけが残った。
c 乙契約書は、その場で破棄した。
d 本件契約に関し作成した契約書は、甲契約書及び乙契約書の2通であり、これら以外の契約書は作成していない。
e 平成3年8月頃、調査担当職員に乙契約書の写し及びこれに係る取引台帳の写しを渡した。
f 請求人が、本件土地をF社以外の買主に売り渡す旨の契約をしたかどうかは知らないし、G社、Jについても本件契約時には知らなかった。
(C)L
 請求人が裏書してLに現金化させて持参させ、G社に違約金として支払ったと主張するF社振出しの10,000,000円の小切手は、平成2年4月13日に請求人がEからP市S町2丁目4番7の土地及び建物を購入したときに、その代金の一部としてこの取引の仲介をしていた私に支払われたもので、A銀行本店に私名義の普通預金口座をつくり、同口座にこの金額を入金し、さらに、平成2年4月17日に同店のE名義の普通預金口座にこの金額を振り込んだ。
(D)H社の代表取締役であるI(以下「I」という。)
a 請求人を知っているが、本件土地の取引についてはその当時の帳簿がなくわからない。
b G社及びJについては知らない。
(E)M
a 請求人を知っているが、本件土地に関して請求人とG社との売買の仲介をしたことはない。
b 請求人に10,000,000円を貸したことはあるが、本件土地に関してではない。
D 当審判所の調査によれば、関係人は、原処分庁に対して次のとおり申述している。
(A)J
a 請求人が土地を購入したときに仲介をしたことはあるが、請求人から土地を購入したことはない。
b G社が本件土地を購入したということについては知らないし、本件土地に係る契約書についても見たことはない。
c 確認書等については、請求人がQ弁護士の紹介で来たということなので信用して署名したものであり、違約金など受領したことはない。
(B)F社の顧問税理士の事務所の事務員でありF社の会計事務一般を担当していたT
a 本件契約については、F社の事務員であり経理を担当していたUから二重契約であったと聞いているし、借入金額と契約金額が違っていたので聞いたらそのようになっているとのことであった。
b F社は、本件契約のみでなくすべての取引について裏契約をしており、経理上は社長からの借入金勘定で処理していた。
E 以上の各事実、各答述、各申述に基づいて判断すると、次のとおりである。
(A)契約解除に伴う違約金20,000,000円について
 本件契約に関連して平成2年3月7日から同年4月17日までの間に合計123,372,000円がF社から請求人に支払われたことについて、請求人及び原処分庁の双方に争いがないところ、請求人は、123,372,000円のうち20,000,000円は、本件契約を締結したことから、G社との本件土地売渡し契約を解除したことに伴い必要な違約金の一部をF社が負担したものであり、本件土地の譲渡代金として請求人に支払われたものではない旨主張し、さらに、請求人は、G社に対して支払った違約金のうち現金で支払った20,000,000円の原資について、平成2年4月13日にF社から受領した額面10,000,000円の小切手を取り立てた金額とMから借り入れた10,000,000円である旨主張して、当審判所に対し、上記Bの(F)の確認書等を提出したが、F社から受領した上記の小切手10,000,000円について、上記Bの(D)のb及びCの(C)のとおり、請求人からLに裏書譲渡され、同人名義の普通預金口座で取立てされた後、同金額をE名義普通預金口座へ入金していることから、Lが当該小切手の取立てをしてその金員10,000,000円を請求人へ持参できないことは明らかであり、また、Mからの借入金10,000,000円について、上記Cの(E)のとおり、当のMは、本件土地に関して請求人に10,000,000円を貸したことはない旨答述し、かつ、請求人は、当審判所に対し、その裏付けとなる証拠資料を提出せず、当審判所の調査によってもMからの借入金が存在したとする資料もないことから、本件土地の取引に関して借入金は存在しないと認められる。さらに、請求人が本件契約に関してF社から受領した金員の使途等については上記Bの(D)のとおりであり、これらの金員によっては20,000,000円はおろか10,000,000円の支払もできず、そうすると、請求人は、平成2年4月17日にG社に対して契約解除に伴う違約金20,000,000円の支払はできないこととなり、上記Dの(A)のcの、請求人がQ弁護士の紹介で来たということなので信用して確認書等に署名したが違約金は受領していない、とのJの申述と併せ考えると、請求人がG社に違約金を支払った証拠資料として提出した確認書等は採用できない。
 請求人は、上記の他にJに違約金の支払をした旨の主張及び証拠資料の提出をせず、また、当審判所の調査によっても、請求人は他に違約金を支払ったとする資料もない。
 したがって、請求人が本件契約に関連してF社から受領した123,372,000円からは、全く、G社に対する違約金の支払に充てられなかったことが認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、F社が原処分庁に提出した本件各事業年度のそれぞれの仮払金内訳書には、上記Bの(G)のとおり、本件契約に関してG社への違約金をうかがわせる記載が認められるところ、請求人は本件契約に関してF社から123,372,000円を受領したことについて争わず、また、上記で判断したとおり、G社に対して違約金を支払っていないのであるから、その記載は誤りと認めるのが相当である。
(B)G社との本件土地の売買契約について
 請求人は、本件契約を締結する前にG社との間に本件土地を売り渡す旨の契約を締結していた旨主張して、当審判所に対し、丙契約書の写しを提出したが、上記(A)のとおり、請求人は、G社に対して違約金の支払をしておらず、本件土地をG社に売り渡す旨の契約を仲介したとするIも上記Cの(D)のとおり、本件土地の取引についてはわからず、G社及びJについても知らないと答述しており、また、請求人から本件土地を買い受ける旨の契約を締結したとされる当のJも上記Dの(A)のa及びbのとおり、本件土地を請求人から購入したことはない旨申述していること及び上記Bの(I)のとおり、請求人は、異議申立て以降になってから本件土地をG社に売り渡す旨の契約をしていた旨主張していることを併せ考えると、請求人の主張するG社との取引は存在しなかったものと認められ、請求人とG社との間の本件土地の不動産売買契約は、真正に成立したものとは認められない。
 したがって、請求人がG社との間に不動産売買契約を締結した証拠資料として提出した丙契約書の写しは採用できず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(C)本件契約について
 a 本件土地の譲渡価額を103,372,000円とする契約
 請求人は、本件土地の譲渡価額は、126,160,000円ではなく103,372,000円である旨主張して、当審判所に対し、甲契約書の写しを提出するが、上記(A)のとおり、請求人は、G社に対して違約金20,000,000円の支払をしておらず、本件契約に関して本件土地の譲渡代金を少なくとも123,372,000円受領していること及びTの「F社は、常に裏契約をしていた。」との申述を併せ考えると、請求人の主張に添う甲契約書の写しは、虚偽内容の契約書の写しであると認められる。
 したがって、請求人が、本件土地の譲渡価額が103,372,000円である証拠資料として提出した甲契約書の写しは採用できず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、Dは、当審判所に対し、本件契約に係る本件土地の譲渡価額は103,372,000円である旨答述しているが、上記のとおりであることから、この点に関するDの答述は採用できない。
b 本件土地の譲渡価額を123,372,000円とする契約
 請求人は、本件契約に関していったん本件土地の売買価格を123,372,000円と記載した不動産売買契約書を作成した旨申し立てするところ、請求人は、当審判所に対し、その契約書を提出せず、また、本件契約の仲介をしたDは、本件契約に関して作成した契約書は甲契約書と乙契約書の2通のみであり他にはない旨答述していること、さらに、当審判所の調査によっても、その契約書の存在は確認されていないこと及び請求人は、その契約書について、「平成2年3月7日の日に契約書を書き直した時に、その場で捨ててしまったので、残っていません。」と答述してその契約書が真実のものでないことを自認していることから、本件土地の譲渡価額を123,372,000円とする本件契約は、締結されなかったと認められる。
c 本件土地の譲渡価額を126,160,000円とする契約
 請求人は、本件土地の譲渡価額を126,160,000円とした原処分庁の認定は、事実を誤認したものである旨主張するところ、本件契約に関して存在する契約書の写しは甲契約書の写し及び乙契約書の写しの2通であり、Dも本件契約に関して作成した契約書は甲契約書及び乙契約書の2通で他にはない旨答述しているが、上記aのとおり、甲契約書の写しは、虚偽内容の契約書の写しであると認められる。他方、乙契約書の写しは、調査担当職員がW社を調査した際、Dが本件土地の取引台帳の写しとともに任意に調査担当職員に提出したものと認められ、上記Bの(B)のとおり、当該取引台帳の写しにも本件契約に係る本件土地の売買代金は126,160,000円と記載されているところ、Dは、乙契約書について、両当事者の合意に基づき両当事者が署名押印した旨答述し、請求人も、「乙契約書は、私自身が内容を確認して署名、押印したものであり、はんこも本物です。」と答述し、それが自己の意思に基づき作成されたものであることを自認しており、また、請求人は、本件契約に関してF社から本件土地の譲渡代金として少なくとも123,372,000円の金員を受領している。
 そうすると、本件契約に関する不動産売買契約書のうち真正に作成され、かつ、内容が真実のものは、本件土地の売買価格を126,160,000円と記載した乙契約書と認めるのが相当であり、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 したがって、平成2年分の分離短期譲渡所得に係る収入金額を126,160,000円とした原処分は相当である。
(ロ)必要経費等の額
 必要経費等の額101,976,334円については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。
(ハ)譲渡所得の金額
 分離短期譲渡所得の金額は、上記(イ)の収入金額から上記(ロ)の必要経費等の額を控除して算定すると、24,183,666円となる。
ロ 不動産所得
(イ)収入金額
 収入金額6,578,000円については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。
(ロ)必要経費の額
A 借入金利子
(A)所得税法第37条《必要経費》第1項によれば、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定されている。
(B)そして、業務を営んでいる者が当該業務の用に供する資産の取得のために借り入れた資金の利子は、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入することとされている。
(C)原処分庁は、請求人が不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した借入金利子のうち627,834円は、その資金の借入れの日から本件貸家の貸付開始の日までの期間に対応する部分の利子相当額であるから、必要経費に算入することはできないとしているが、業務の用に供する資産の取得のために借り入れた資金に係る利子の取扱いについては、上記(B)のとおりであるところ、本件の場合、原処分関係資料によれば、請求人は不動産所得を生ずべき業務を昭和62年ころから行っていること及び平成2年4月13日の本件貸家の取得も業務の遂行上行われたことが明らかであるので、貸付開始の日までの期間対応を計算するまでもなくそれらの資産の取得のために借り入れたと認められる次表の「借入金額」欄記載の借入金に係る利子は、全額必要経費の額に算入するのが相当である。
 そうすると、借入金利子は8,731,468円となる。

(単位 円)
銀行・支店借入年月日借入金額借入金利子
A銀行昭和62年5月11日45,000,0002,854,837
○○○○支店
Z銀行平成2年3月8日3,000,000246,552
本店
A銀行平成2年4月13日100,000,0005,630,079
○○○○支店
 148,000,0008,731,468

B 修繕費
 原処分庁が必要経費の額に算入したポンプ取り替え工事費380,000円は、原処分関係資料によれば、これに係る工事代金の支払が平成元年に行われていることから、平成2年分の必要経費に算入することはできず、原処分に係る修繕費の額からこの額を控除すると修繕費は20,497円となる。
C その他の経費
 その他の経費は、請求人が不動産所得の収支内訳書に記載した額3,592,253円のとおりである。
したがって、必要経費の額は12,344,218円となる。
(ハ)不動産所得の金額
 平成2年分の不動産所得の金額は、上記(イ)の収入金額から上記(ロ)の必要経費の額を控除して算定すると損失の金額5,766,218円となる。
ハ 総所得金額及び譲渡所得の金額
 以上審理したところによれば、総所得金額は損失の金額となることから所得税法第69条《損益通算》第1項及び租税特別措置法第32条《短期譲渡所得の課税の特例》第1項の規定を適用して分離短期譲渡所得の金額を算定すると、分離短期譲渡所得の金額は22,679,629円となり、更正処分の金額を下回るから、更正処分はその一部を取り消すべきである。

(2)重加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のイで判断したとおり、請求人は、本件土地の譲渡価額が126,160,000円であるにもかかわらず、それが103,372,000円であるとの虚偽内容の契約書を作成し、譲渡所得の金額を過少に申告しており、このことは、国税通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した行為に該当するから、同条の規定に基づいてなされた重加算税の賦課決定処分は適法である。
 しかしながら、上記(1)のとおり、更正処分の一部を取り消すことに伴い、重加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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別表1


(単位 円)
区分更正後の額
必要経費等
 収入金額(1)126,160,000
 本件土地購入代金(2)93,400,000
 仲介料(3)2,000,000
 登記手数料(4)1,098,700
 借入金利息(5)2,123,923
 借入保証料等(6)2,969,211
 不動産取得税(7)384,500
(8)101,976,334
譲渡所得の金額(9)24,183,666
 ((1)−(8))

別表2


(単位 円)
 区分更正後の額
収入金額(1)6,578,000
必要経費
 借入金利子(2)6,640,664
 修繕費(3)400,497
 その他の経費(4)3,592,253
(5)10,633,414
不動産所得の金額(6) 
 ((1)−(5)) △4,055,414