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(平7.12.21裁決、裁決事例集No.50 163頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、木材等の伐採、造材、集材、運搬及び売買等を目的に、平成2年8月8日に設立された同族会社であるが、平成4年10月1日から平成5年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年12月20日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(単位 円)
区分確定申告更正処分等
所得金額△1,776,1509,274,150
課税土地譲渡利益金額3,501,00013,526,000
納付すべき税額1,050,3008,370,000
重加算税の額2,558,500

(注)「所得金額」欄の△印は、欠損金額を示す。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年2月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月18日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年6月14日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 原処分のその他の部分については争わない。
イ 本件更正処分について
 請求人は、次表記載の各土地(以下「本件土地」という。)を平成4年9月24日の不動産売買契約書により株式会社F(所在地 P市、以下「F社」という。)に39,660,000円で譲渡した。

(単位 平方メートル)
本件土地の所在地地目地積
P市R町126番2山林561.24
P市R町126番3宅地511.09
P市R町126番5573.27

 これに対し、原処分庁は、譲渡価額を49,660,000円であるとして本件更正処分をした。
 しかしながら、次のとおり本件土地の譲渡価額は39,660,000円であり、原処分庁の認定は根拠のないものである。
(イ)原処分庁が主張している譲渡価額は、F社がその取引銀行であるG銀行W支店(所在地 P市、以下「G銀行」という。)から融資を受けるために価額を水増しして作成された不動産売買契約書に基づいたものである。
(ロ)原処分庁は、F社が本件土地の売買において有限会社H(所在地P市、以下「H社」という。)に支払った仲介手数料は1,550,000円であると認定しているが、1,250,000円が正当であり、差額の300,000円は諸経費として上乗せしたものである。
(ハ)本件土地の売買代金は現金で支払われており、原処分庁が認定した譲渡価額を49,660,000円とする客観的証拠は全く存しない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件土地の取引代金は、請求人の仲介業者である株式会社J(所在地 P市、以下「J社」という。)の事務所において、F社から請求人に対し、平成4年9月24日に5,000,000円、平成4年10月30日に44,660,000円の合計49,660,000円が、いずれも現金で支払われているから譲渡価額は49,660,000円である。
(ロ)本件土地の取引(以下「本件土地取引」という。)において、F社がH社に支払った仲介手数料の額は、譲渡価額49,660,000円で計算した法定報酬としての1,550,000円であり、このことはH社がF社に発行した領収証によっても明らかである。
(ハ)F社のG銀行に対する融資申込みは、本件土地を取得してから相当期間経過後に事務所建築資金として申し込んだものであり、本件土地取引に係るものではないことからみてもF社が本件土地の取得価額を水増しする必要は認められない。
(ニ)また、F社がG銀行に提出した売買契約書には、売買価額は50,200,000円と記載されているが、後日これを実測した結果、公簿より17.3平方メートル(5.4坪)少ないことが判明し、50,200,000円から540,000円(坪100,000円)を控除した49,660,000円で取引したと認められ、この金額が上記(イ)のとおり決済されていることからみても、本件土地の真正な譲渡価額は49,660,000円とみるのが相当である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イで述べたとおり、本件土地の真正な譲渡価額は49,660,000円であるところ、虚偽の譲渡価額39,660,000円を基に法人税の申告をしている請求人の行為は、法人税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装した行為に該当するので、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件土地の譲渡価額について争いがあるので、以下審理する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件土地取引について、売主を請求人、買主をF社、譲渡価額を39,660,000円とする平成4年9月24日付の不動産売買契約書(以下「甲の契約書」という。)があること。
 なお、甲の契約書はすべて活字で作成されていること。
(ロ)同じく本件土地取引について、売主を請求人、買主をF社、譲渡価額を50,200,000円とする平成4年9月24日付の不動産売買契約書(以下「乙の契約書」という。)があること。
ロ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)甲の契約書と乙の契約書の記載内容は、基本的には同一のものとして作成されていると認められるが、次の点について相違が認められること。
A 甲の契約書及び乙の契約書の「特約事項」欄には、(a)本件土地の所有権移転登記は、請求人を省略し、登記簿上、K、Lから直接F社に所有権移転登記すること、(b)地目変更手続は買主によって行う旨の文言が記載されているが、乙の契約書は手書で記載されていること。
B 「不動産の表示」欄は、P市R町126番3の宅地(以下「本件宅地」という。)部分について次のとおり相違が見られること。

所在地地積
 甲の契約書乙の契約書
P市R町126番3511.09平方メートル528.92平方メートル

(ロ)乙の契約書は、F社が融資を受けるためにG銀行に提出した売買契約書の写しであること。
(ハ)本件土地取引に関して請求人がF社あてに発行した領収証には、次のとおり記載されていること。
(a)平成4年9月24日 現金5,000,000円 手付金として
(b)平成4年10月30日 現金34,660,000円 土地代残金として
(ニ)本件土地の買受人側の仲介業者であるH社がF社あてに発行した仲介手数料の領収証には、次のとおり記載されていること。
(a)平成4年9月24日 780,000円 但し、P市R町126ー2、126ー3、126ー5の土地売買手数料として
(b)平成4年10月30日 770,000円 但し、P市R町126ー2、126ー3、126ー5の土地売買手数料として
(ホ)甲の契約書及び乙の契約書の第13条(取引業者の報酬)には、「本件取引を媒介した業者の手数料は、昭和45年12月1日より施行された建設省告示第1552号の報酬表によるものとし、双方とも本契約と同時に半額を支払い、残額は代価全額支払いと同時に支払うものとする。」と記載されていること。
(ヘ)本件土地取引に係る本件土地の測量は、平成4年10月上旬に行われ、これに基づく地積測量図が平成4年10月12日に土地家屋調査士によって作成されており、更に、平成4年10月19日にP土木事務所長に対し既存宅地確認申請書が提出されていること。
(ト)本件土地に係る不動産登記簿謄本によれば、P市R町126番2の山林の所有権は平成4年10月30日に、同所126番5の畑の所有権は平成5年2月23日に、いずれもL(住所 P市)からF社に移転していること。
(チ)同じく本件土地に係る不動産登記簿謄本によれば、P市R町126番3の宅地の所有権は、平成4年10月30日にK(住所 P市)からF社に移転していること。
(リ)本件土地の元所有者であったLは平成4年8月8日に、Kは平成4年8月27日に請求人に各々の所有に係る土地を譲渡したとして、所得税の確定申告をしていること。
(ヌ)本件土地取引に関し、F社を調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 総勘定元帳の土地勘定には、本件土地取引に関し次のとおり記載されていること。
(a)平成4年9月24日 現金5,000,000円 請求人土地手付金
(b)平成4年9月24日 現金780,000円 H社
土地売買手数料
(c)平成4年10月30日 現金34,660,000円 請求人
(d)平成4年10月30日 現金 770,000円 H社
土地売買手数料
(e)平成5年2月1日 長期貸付金10,000,000円
請求人10/30洩れ分(M分)
B 上記Aの(e)10,000,000円は、F社の代表取締役であるM(以下「M」という。)からの借入金により支払ったものであるが、F社からのMに対する長期貸付金と相殺したものであること。
C F社の社員で構成されるF社共栄会(以下「共栄会」という。)のG銀行の普通預金口座から、平成4年10月30日に現金10,000,000円が出金されていること。
 なお、同預金通帳には「土地代」とのメモ書があること。
D Mが所持する本件取引に関するメモ(以下単に「Mメモ」という。)によると、次のことが記載されていること。

E 上記DのMメモの記載内容は、本件土地のうちP市R町126番3の宅地に関するメモで、実測の結果5.4坪減少したので、坪単価100,000円を乗じると、取引価額が540,000円減額となることを計算したものであること。
ハ 請求人の代表者であるN(以下「N」という。)は、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ)甲の契約書及び乙の契約書は同時に作成したものであること。
(ロ)乙の契約書の特約事項欄を記入した者は、売主側の仲介業者であるJ社の代表者T(以下「T」という。)であること。
ニ H社の代表者V(以下「V」という。)が平成7年2月17日付で原処分庁に提出した陳述書及び当審判所に対する答述内容は、次のとおりである。
(イ)本件土地取引は、成約に至るまで約6か月を要したこと。
(ロ)正規の土地仲介料は 1,250,000円であるが、仲介料以外に諸経費として300,000円を追加してF社から受領したこと。
(ハ)売手側の仲介業者はJ社で、買手側の仲介業者はH社であったこと。
ホ Mは、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ)当社がVに対して土地取得の意思がある旨を伝えたのは、平成4年6月か7月であったこと。
(ロ)Vが当社に土地の話を持ってきたのは、平成4年8月ころであったこと。
(ハ)その後、本件土地取得に関する交渉は、坪単価が80,000円から100,000円に値上がりしたことを除いてスムーズに行われたこと。
(ニ)甲の契約書は、Vが持ってきた裏契約の話に乗って作成したものであり、乙の契約書が真正なものであること。
(ホ)乙の契約書は、平成4年9月24日に売買契約成立の証として作成したものであり、同日当該契約に基づき手付金として5,000,000円を支払ったこと。
(ヘ)甲の契約書と乙の契約書の売買価額の差額10,000,000円は、請求人との裏取引の約束があったことから会社から出金できず、また、個人的にも貯蓄がなかったので、共栄会の積立金のMの積立分を引き出して支払ったが、F社としては最終的にMに対する長期貸付金と相殺して正当に処理していること。
(ト)本件土地の取得代金は、(a)手付金5,000,000円は、平成4年9月24日にMが請求人の事務所に現金を持参して支払ったこと、(b)残金44,660,000円は、平成4年10月30日に当社の事務員と二人でJ社の事務室に現金を持参して支払ったこと。
 なお、残金支払に立ち会った者は、N、Mの当事者以外には、T、V及びF社の事務員であったこと。
(チ)甲の契約書は、土地代金の残金を支払った平成4年10月30日に日付をさかのぼって作成したものであること。
(リ)乙の契約書は、写しを1部取った後平成4年10月30日にお互いに破棄したこと。
(ヌ)甲の契約書と乙の契約書の本件宅地の面積が相違するが、乙の契約書の面積はVが平成4年8月に物件説明の際に持ってきた書類に記載されていたものであり、甲の契約書の面積は実測面積であること。
(ル)本件土地の譲渡価額は、乙の契約書に基づく49,660,000円が正当であること。
ヘ 以上の事実及び答述に基づいて判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、原処分庁が主張する本件土地の譲渡価額49,660,000円は、F社がG銀行から融資を受けるために譲渡価額を水増しして作成された乙の契約書に基づいたものであり、甲の契約書に基づく譲渡価額39,660,000円が正当である旨主張するので以下検討する。
A 甲の契約書と乙の契約書は、基本的には同一のものとして作成されたものと認められるところ、上記ロの(イ)のBのとおり、本件宅地の面積の記載に相違が認められる。
 また、上記ロの(ヌ)のDのMメモ及び上記ホの(ヌ)のMの答述によると、本件土地取引は当初見積面積によりH社から物件説明が行われ、最終的には実測面積により精算することを条件に売買契約が交わされていることが認められる。
B 上記ロの(イ)、(ヌ)のD及びEのMメモの事実によれば、乙の契約書の本件宅地の面積が528.92平方メートルと表示されているのは、後日実測によることを前提に作成されたものと認められ、一方甲の契約書の本件宅地の面積が511.09平方メートルと実測後の最終の取引面積になっていること及び上記ホの(ニ)、(ホ)及び(チ)のMの答述を併せ考えると、本件土地の売買契約は、手付金5,000,000円を支払った平成4年9月24日に特約事項及び本件宅地の面積については実測により確定することを中心に話合いが持たれ(そのため、乙の契約の特約事項欄が手書となっている。)、乙の契約書によって行われたものであり、甲の契約書は土地家屋調査士から実測面積の結果を受けた面積に訂正された上、活字によって日付をさかのぼって平成4年9月24日付で作成され、本件土地の売買代金の残額を支払った平成4年10月30日に交わされたものと認められる。
C 本件土地の売買代金の決済は、上記ロの(ヌ)のAのとおりF社から支払われていることが認められ、F社の帳簿処理もMの答述どおり行われていることが認められる。
D 請求人は、F社が本件土地の売買においてH社に支払った仲介手数料は1,250,000円が正当である旨主張し、この点についてVは上記ニの(イ)及び(ロ)のとおり請求人の主張に沿う答述をしているが、本件土地取引に係る仲介手数料は、次の理由から1,550,000円が正当と認められVの答述は信用できず、請求人の主張には理由がない。
(A)上記ロの(ホ)のとおり仲介手数料は、「本契約と同時に半額を支払い、残額は代価残額支払いと同時に支払うものとする。」と双方合意しているが、Vの主張どおり1,250,000円が正当であるとすれば、本契約の平成4年9月24日にはその半額の625,000円が授受されるはずであり、上記ロの(ヌ)のAの事実からみても、上記ニの本件土地取引が成約に至るまで6か月を要したため諸経費として300,000円を追加して受領したとするVの答述は不自然であること。
(B)上記ホの(イ)ないし(ハ)のMの答述によれば、本件土地取引は成約に至るまでさほど期間も要せず、坪単価が80,000円から100,000円に値上がりしたことを除けばスムーズに行われていること。
(C)乙の契約書に基づく50,200,000円に対応する法定手数料1,566,000円の約2分の1の780,000円が本契約と同時の平成4年9月24日に支払われ、実測面積により確定した譲渡価額49,660,000円の法定手数料から780,000円を差し引いた残額770,000円が同年10月30日に精算されていることからみても1,550,000円が正当であると推認される。
(D)上記ロの(ニ)のとおり仲介手数料の領収証のただし書には、「土地売買手数料として」とVが自ら記載していること。
E そうすると、本件土地の売買価額は、上記ロの(ヌ)のD及びEの事実並びに上記ホの(ヌ)の答述を併せ考えると、乙の契約書に記載された売買価額50,200,000円から、同契約書に記載された本件土地の面積と実測面積との差5.4坪に1坪当たりの取引単価100,000円を乗じた額540,000円を差し引いた49,660,000円とみるのが相当である。
F さらに、請求人は、本件土地の売買代金の決済は、すべて現金でなされており原処分庁が認定した譲渡価額を49,660,000円とする客観的証拠がない旨の主張をするが、(a)上記ロの(ヌ)のD及びEのMメモが存在する事実、(b)F社は、前記ロの(ヌ)のAないしCのとおり会社の資金から39,660,000円を、M個人の資金から10,000,000円の合計49,660,000円を支払い、後日M個人の資金から支出された金額を会社に受け入れている事実が認められること、
(C)また、このことは前記ホの(ニ)のとおり、Vから裏契約の話を持ち掛けられ、甲の契約書を作成したとする答述とも合致するので、Mの答述は信用することができること、
(d)上記ロの(ニ)のとおりVが売買手数料を50,200,000円に対応する1,550,000円を2回に分けて受領している事実をもって判断すると、上記AないしDで認定したとおり本件土地の売買代金は49,660,000円であると認められるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
G 以上を総合して判断すると、真正な不動産売買契約書は最終的には実測面積により譲渡価額を決定することを前提に平成4年9月24日に作成された乙の契約書であると認められる。
 よって、乙の契約書に記載された売買価額50,200,000円から実測の結果減額された額540,000円を差し引いた49,660,000円が譲渡価額となるから、当該譲渡価額に基づきなされた本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)で認定したとおり、本件土地の譲渡価額は49,660,000円であり、かつ、請求人は虚偽の契約書(甲の契約書)を作成して、これに基づき法人税の申告をしていることが認められる。このような請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
 したがって、通則法第68条第1項の規定に基づき、これらの事実に係る部分の税額を計算の基礎としてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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