ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.50 >> (平7.7.7裁決、裁決事例集No.50 190頁)

(平7.7.7裁決、裁決事例集No.50 190頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、飲食店(バー)を営む同族会社であるが、平成元年6月1日から平成2年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に、欠損金額を1,438,492円、還付すべき税額を3,579円と記載して法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成5年6月29日付で所得金額を35,466,888円、納付すべき税額を13,757,200円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を2,037,500円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成5年8月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成5年11月24日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年12月24日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)更正処分に至る経緯
 請求人は、平成2年2月22日に、F株式会社(以下「本件ビル所有者」という。)が所有するP市R町三丁目12番22号所在のFビル(以下「本件ビル」という。)2階全室(以下「本件貸室」という。)を賃借するため、本件ビルを請求人の前に賃借していたG株式会社(以下「前賃借人」という。)との間で、賃借権並びに造作備品の譲渡に関する契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結し、本件譲渡契約に基づき前賃借人に対し、本件貸室の造作及び備品(以下「本件造作等」という。)の対価として45,000,000円及び前賃借人が本件ビル所有者に支払っていた保証金相当額として26,500,000円の支払をし、平成2年3月9日前賃借人から本件造作等及び本件貸室に係る賃借権の引渡しを受けた。
 その後、請求人は本件造作等の全部を取り壊し又は廃棄し、本件造作の対価として支払った45,000,000円から消費税の額1,310,679円を控除した金額43,689,321円(以下「本件支出」という。)の全額を、本件事業年度において特別損失として損金の額に算入したが、原処分庁は、本件支出は本件貸室を賃借し使用するための支出であり、法人税法施行令(以下「施行令」という。)第14条《繰延資産の範囲》第1項第9号ロに規定する「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ち退き料その他の費用」であるから、繰延資産に該当するとして本件更正処分をした。
(ロ)本件支出が繰延資産に該当するか否か
 本件支出は、次のとおり本件造作等の取得のための支出であり、繰延資産には該当しない。
A (a)本件支出に見合う本件造作等を現実に取得していること、(b)取得した本件造作等は、そのまま使用することができるものであったこと、(c)本件造作等の取壊し又は廃棄と同時に飲食店(バー)用造作を取得したこと、(d)取り壊し又は廃棄した本件造作等の所有権は請求人にあったこと及び(e)本件造作等を取り壊し又は廃棄した本件事業年度にその取得価額に相当する本件支出を損金経理したものであることなどから、本件支出は、本件造作等の取得費として支払ったものというべきものである。
 したがって、法人税法基本通達7‐7‐1《取り壊した建物等の帳簿価額の損金算入》の規定により、本件造作等を取り壊し又は廃棄した本件事業年度において、その取得価額に相当する本件支出を損金の額に算入したものである。
B 原処分庁は、本件支出を本件貸室に係る賃借権すなわち借家権を取得するための費用であると認定し、本件支出が繰延資産に該当すると判断しているものと思われるが、前賃借人の決算書には繰延資産が何ら計上されていないことから、本件ビルは借家権の慣習のあるビルではなく、本件支出が本件貸室に係る借家権を取得するための費用とは考えられない。
 したがって、本件支出は繰延資産に該当しない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 本件更正処分について
(イ)本件支出が繰延資産に該当するか否か
A 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人は、本件貸室を賃借するに当たり、前賃借人との間で平成2年2月22日に本件譲渡契約を締結し、本件貸室に係る賃借権及び麻雀店舗用の本件造作等を前賃借人から取得し、平成2年3月9日に引渡しを受けていること。
(B)請求人は、本件譲渡契約に基づき、本件貸室に係る賃借権及び本件造作等の対価として合計45,000,000円(消費税1,310,679円を含む。)並びに前賃借人が本件ビル所有者に預けた保証金相当額26,500,000円を前賃借人に支払っていること。
(C)請求人は、本件造作等を取得した後すぐに取り壊し、平成2年5月に「クラブH」及び「ショトバー・J」の名称で飲食店舗として開店していること。
(D)請求人は、本件貸室に係る賃借権及び本件造作等の対価として支払った45,000,000円から消費税の額1,310,679円を控除した本件支出43,689,321円を本件事業年度の特別損失(権利金償却勘定)として、損金の額に算入していること。
B 本件支出は、次のとおり繰延資産に該当する。
(A)施行令第14条第1項第9号ロは、「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ち退き料その他の費用」は繰延資産に該当する旨規定している。
 ところで、上記Aの(A)ないし(C)の事実によれば、請求人が取得した本件造作等は麻雀店舗用のものであり、請求人の目的とする飲食店用としては適切でないことから、請求人は、本件造作等を取得した後、直ちに取り壊し又は廃棄したものであり、本件造作等は元来請求人にとって無価値のものと認められるので、本件造作等を取り壊し又は廃棄したからといって、上記Aの(D)のように本件支出の全額を特別損失として損金の額に算入することはできない。
 そうすると、本件支出は、本件貸室を賃借するための支出であるから、施行令第14条第1項第9号ロに規定する資産を賃借し、使用するために支出する費用に当たり、繰延資産に該当する。
(B)請求人は、前賃借人の決算書上に繰延資産が何ら計上されていないことから、本件支出は繰延資産(借家権)に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件支出が繰延資産に該当するか否かの判断は、前賃借人の決算書の繰延資産勘定の有無に左右されるものではない。
(ロ)所得金額の計算の適否
A 繰延資産の償却限度超過額
 上記(イ)のBのとおり本件支出は繰延資産に該当する。
 ただし、法人税法第32条《繰延資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項の規定により、繰延資産はそれに係る支出の効果の及ぶ期間で償却するとされているので、本件事業年度において、繰延資産の全額を一時の損金とすることはできない。
 そこで、施行令第64条《繰延資産の償却限度額》第1項第2号の規定により本件支出に係る繰延資産の償却限度額を計算すると、その償却限度超過額は次表のとおり43,169,211円となる。

(単位 円、月)
支出した年月平成2年3月
支出金額(1)43,689,321
償却期間の月数(2)252
本件事業年度の償却期間の月数(3)3
償却限度額((1)÷(2)×(3))(4)520,110
本件事業年度損金算入額(5)43,689,321
償却限度超過額((5)−(4))43,169,211

 また、繰延資産の償却期間の月数の計算は次表のとおりである。

B 繰越欠損金の当期控除額
 前期から繰り越された青色申告に係る欠損金109,857円を控除する。
C 所得金額
 以上の結果、請求人の本件事業年度の所得金額は次表のとおりとなり、この金額は本件更正処分に係る金額を上回るので、本件更正処分は適法である。

(単位 円)
確定申告に係る所得金額(1)△1,438,492
繰延資産の償却限度超過額(2)43,169,211
繰越欠損金の当期控除額(3)109,857
所得金額((1)+(2)−(3))41,620,862

(注)「確定申告に係る所得金額」欄の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分により、納付すべきこととなる法人税額について、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税を計算すると2,454,500円となり、この金額は、本件賦課決定処分に係る金額を上回るので、本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件支出が繰延資産に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 本件支出が繰延資産に該当するか否か
(イ)当審判所が原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人と前賃借人は、本件ビル所有者の承諾を得て、平成2年2月22日に本件譲渡契約を締結したこと。
B 請求人は、前賃借人に対し、本件事業年度中に、本件譲渡契約に基づき、本件造作等の代金の名目で45,000,000円(消費税1,310,679円を含む。)及び本件貸室に係る保証金相当額として26,500,000円の合計額71,500,000円を支払ったこと。
C 請求人は、平成2年3月9日に本件造作等及び本件貸室に係る賃借権の引渡しを受けたこと。
D 前賃借人は、本件貸室を麻雀店舗として使用していたこと。
E 請求人は、本件貸室の内部造作の全部を前賃借人から取得後直ちに取り壊し、新たに本件貸室に飲食店舗(バー)としての内装工事を施したこと。
F 請求人と本件ビル所有者との間で、平成2年3月9日に本件貸室に係る賃貸借契約が締結されていること。
 また、この賃貸借契約に係る契約書の第17条の(1)によれば、本件ビル所有者の承諾があれば、本件貸室に係る賃借権を第三者に譲渡することも可能であること。
(ロ)請求人の代理人Kは、当審判所に対し次のとおり答述している。
A 前賃借人から譲り受けた麻雀店舗用の造作を取り壊し、新店舗の工事に着手したのは、平成2年3月10日であること。
B 新店舗の工事が完成したのは、平成2年4月末であること。
C 新店舗の営業を開始したのは、平成2年5月7日であること。
D 前賃借人から譲り受けた麻雀店舗用の備品(卓・イス等)は内装工事業者が無償で引き取り廃棄したこと。
(ハ)請求人は、本件支出は本件造作等の取得のための支出であり、繰延資産には該当しない旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
 法人税法第2条《定義》第1項第25号は、繰延資産について「法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるものをいう」と規定し、施行令第14条第1項第9号ロは、「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ち退き料その他の費用」は繰延資産に該当する旨規定している。
 これを本件支出についてみると、上記(イ)の事実及び上記(ロ)の答述によれば、(a)本件貸室は、引渡しを受けた日の翌日から本件造作等の取壊し又は廃棄及び新店舗の改修工事が始まり、請求人が本件造作等を利用した事実はないこと及び(b)前賃借人の営業していた麻雀店と、請求人が新店舗にて営業しようとしていた飲食業(バー)とでは業種が全く異なることから、本件支出は、前賃借人が営業していた麻雀店舗としての本件造作等の利用価値に着目して支出したものではなく、既存の本件造作等を取り壊し又は廃棄し、新たな内部造作を施して飲食業を営業できるという価値に着目しての支払であると認められる。
 そうすると、本件支出は、本件造作等の取得費ではなく、本件貸室を賃借し又は使用するための費用であり、実質的には建物の賃借に際して支払う権利金とその性質を異にするものではなく、いわば本件貸室に係る借家権の取得費用というべきものと認められるから、本件支出は、施行令第14条第1項第9号ロに規定する繰延資産に該当すると判断するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のBのとおり、前賃借人の決算書に繰延資産が何ら計上されていないことから、本件支出は本件貸室に係る借家権の取得のための費用とは考えられず、本件支出は繰延資産に該当しない旨主張する。
 しかしながら、前賃借人が本件貸室を借用する権利についてどのように経理処理していたかは、請求人の経理処理に影響を及ぼすものではないから、前賃借人の決算書に繰延資産勘定の計上がないことをもって本件支出が繰延資産に該当しないということはできない。
 また、上記(ハ)で述べたとおり、本件支出は前賃借人に対して支払ったものではあるが、実質的には建物の賃借に際して家主に支払う権利金とその性質を異にするものではなく、いわば本件貸室に係る借家権の取得のための費用であり繰延資産に該当すると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 所得金額の計算の適否
(イ)繰延資産の償却限度超過額等
 上記イで述べたとおり、本件支出は繰延資産に該当すると認められるのでその償却計算について審理したところ、次のとおりである。
A 繰延資産の償却期間
(A)建物の賃借に際して支払った権利金等(建物の新築に際しその所有者に対して支払った権利金等で当該権利金等の額が当該建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められるものである場合を除く。)
で、契約、慣習等によりその明渡しに際してその権利を借家権として転売できることになっているものである場合の当該権利金等に係る償却期間は、その建物の賃借後の見積残存耐用年数の10分の7に相当する期間によると解される。
(B)上記イの(ハ)で述べたとおり、本件支出は実質的には建物の賃借に際し家主に対して支払う権利金とその性質を異にするものではなく、いわば本件貸室に係る借家権の取得のための費用と認められること、また、上記イの(イ)のFで述べたとおり、請求人と本件ビル所有者との賃貸借契約によれば、請求人は本件貸室に係る賃借権を貸主である本件ビル所有者の承諾を得て第三者に譲渡することも可能であることが認められる。
(C)上記(B)を上記(A)に照らして判断すると、原処分庁の認定した次表の計算による繰延資産の償却期間は相当と認められる。

B 繰延資産の償却限度超過額
 上記Aのとおり原処分庁の認定した繰延資産の償却期間は相当と認められ、原処分庁は、この繰延資産の償却限度超過額を次表のとおり算定しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の算定額は相当と認められる。

(単位 円、月)
支出した年月平成2年3月
支出金額(1)43,689,321
償却期間の月数(2)252
本件事業年度の償却期間の月数(3)3
償却限度額((1)÷(2)×(3))(4)520,110
本件事業年度損金算入額(5)43,689,321
償却限度超過額((5)−(4))43,169,211

(ロ)繰越欠損金の当期控除額
 原処分庁は、繰越欠損金の当期控除額を前期から繰り越された青色申告に係る欠損金に基づき109,857円と算定しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の算定額は相当と認められる。
(ハ)所得金額
 以上の結果、請求人の本件事業年度の所得金額は次表のとおりとなり、この金額は本件更正処分に係る金額を上回るから本件更正処分は適法である。

(単位 円)
確定申告に係る所得金額(1)△1,438,492
繰延資産の償却限度超過額(2)43,169,211
繰越欠損金の当期控除額(3)109,857
所得金額((1)+(2)−(3))41,620,862

(注)「確定申告に係る所得金額」欄の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)のロの(ハ)のとおり相当であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められないから、同条第1項及び第2項の規定により本件賦課決定処分をした原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る